「正義家の人々 涙香」
「正義家の人々 涙香」
どうにか、なりそうだ。
「どうにかなりそうです!」
夜道に声が反響する。
どうにか、なってるよ。
どうにか、なってしまいそうです。
どうにか、なりました。
どうにか、なるんだよな。
「・・・お疲れ様でした、お休み。」
え、え、え、え?
それだけですか?!
ブツリと電話を切られたと表現するが、実際やる人はいない。
やられた側からすれば酷く不快なモノだからである。
しかし、それも状況と心境によっては話も変わる。
鉄の女、鉄山真矢が僕にするとなると至って自然ともいえよう。
いや、普通に傷つくけど。
初めて、妹と姉と母を除く異性に電話を掛けたというのに、
ファーストコールは二言で切られる。
時間にして5秒弱。
スマホの時計は23:12。
連絡が遅れたことに機嫌を損ねてしまったのかと、再度ダイヤルを回す。ダイヤルなんか回さずにタッチ1つで電話をかけれる時代だが。
10年前はガラパゴスケータイ。
その10年前はポケットベル。
今から10年後はどうなることやら。
サイエンティックな妄想は楽しい。
僕の予想ではホログラム時計が主流になると、想像する。
通話がくるとタッチ1つで腕時計型の電話から通話相手がホログラムで出現し、それと会話ができるというものだ。
今でも時計型の携帯連絡機があるし、ホログラム技術も3DSなどの子供向けゲームに浸透するほどだ。
テレビ電話ならぬホログラム電話というわけだ。
ボタンひとつで、通話相手と顔を合わせて会話が出来るのだ、便利であろう。
しかし、同時にいま起きている、ながらスマホ問題を増長させるものでもあるか。
ながらホログラムとは更に問題になりかねない。
公の場で使うのは厳しいだろう、ましてや歩きながらやトイレをしながら、など使えるわけがない。
いやマナーとして歩きながらも、トイレ中も通話するのはよろしくないのだが。
本来五感の1つである聴力を割いて通話という行為をしている。
ホログラム電話となると更に視力をも割かなければならない。
車にひかれる危険性も倍増。ひく危険性も倍増。
現実的ではないか。
無難に、ハンズフリーイヤホンマイクを更に進化させた物が流行りそうだ。
一人、夜道を自転車を押しながら帰路につく僕。
取り留めのない妄想をしたのは先の名残りというか、心残りか。
ほんとに僕のためだけに来ていた、正義雪姫を駅まで自転車で送った帰り道。
弁護士を後ろに乗せて、二人乗りで交通法を堂々と破りながら、その道中も根掘り葉掘りと、学校での出来事や、気になる人は出来たのかとか、鉄山真矢との昨夜の出来事の話しになると、僕の黙秘権を行使させぬと、執拗に右手の包帯箇所にデコピンをかましてきて、
そうこうと、久々にゆっくりと姉弟が話に花を咲かせた。
まだまだ話し足りない。
雪姫姉ちゃんが、帰ってくるのは本当に希だ。
いつ休んで、いつ仕事をしてるのか。
プライベートもパブリックも謎多き姉であり、
こちらから取れる連絡手段はラインのみ。
だいたい父や妹と一悶着あれば、見計らって向こうから電話をかけてくることはあるが、
「今度はいつ帰ってくる?」
終電間際の疲れきった人達が行き交う改札で、そう尋ねた。
隠せてないと思うが、僕は雪姫姉ちゃんが大好きだ。
四六時中会いたいと思うし、
結婚しようと言われたら、婚姻届を走って役所に貰いにいく程度に好きだ。
いや肉親を異性として見るなんて気持ち悪いことではなくて、
家族だからと雪姫姉ちゃんは言うが、無償で僕を助けてくれる人は彼女しかいない。
もし彼氏など連れて帰ってこようものなら、命"いらず"の彼氏気取りを、妹の、涙香共々、たぶん父、正勝も、遠く異国を渡り歩く母と家族一丸で、
2度と陽の目を浴びれぬ程に精神的に社会的に、あらゆる痛みと苦痛を与えるだろう。法の許す限り・・・。
何とも仲の良い家族だな。
だから、千荼夏の両親のことを生理的に受け付けなかったのかもしれない。
家族観の違い。
何度も、くどい程言うが僕は父が嫌いだ。
嫌いということにしておくが、1番納得いくのだ。
だが、それも真矢さんや、雪姫姉ちゃんに言わせれば、言い訳なのだろうか。
思春期の言葉に出来ない反骨心からの当て付けなのかもしれない。
迷惑をかけていると、思うが、
親と子なんだ。
大人になるまで多目にみてほしい。
「んー・・・日曜日かな。」
「4日後の?」
「うん、曜日の頭に修飾語をつけなければ、だいたい次に回ってくる日のことを指すんだよ修司。」
「やったー。」
駅の改札前で人目もあるので、出来る限り言葉に抑揚をつけず棒読みで、控えめに、両手を突きあげて、3回跳ねる程度に抑えたが、
人目がなければ、抱きついていた。
さっきの今でなに突然デレてるんだと突っ込まないで欲しい。
肉体的にも、睡眠生理的にも、余裕がなかったのだ。
今は、充分に養分を吸収したので少しナチュラルハイなだけだ。
「眠眠打破の準備をしておくんだね。」
「強を用意しておくよ、でもまた直ぐに来るなんて珍しいじゃないか。いや、就職して独り暮らしを始めた独り身の24歳の姉ちゃんが週に2度も実家に帰ることが変だなとは思わないんだよ。
まず実家を独りで出たことが変だと思ってるんだ。僕と涙香を捨てて。」
「独りを推すのも年齢も余計だ。
いつまでも私が居座るわけにはいかないさ、修司よ。
甘々姉妹ハーレム物語の主人公に収まっちゃ終わりだよ、精神的にも社会的にも。
なーに、日曜日になればわかるよ。」
そうして、後ろ髪を引かれながら僕は雪姫姉ちゃんと別れて、
冒頭の真矢さんへの電話へと繋がるわけだが、
「ごめんごめん、テンションがウザかったから切っただけよ、落ち着いた?」
開口一番痛いところをつかれた。
「夜分にすいませんでした。言い訳を、良い訳を言わせてください。久々に家族で話せて目が冴えたんです。」
「そうね、修司くんって人と話すことないものね。」
「いま、してることは会話じゃないんですか?」
「続けたいなら合わせてよ、私はもう眠りたいの。千荼夏ちゃんと一緒に。」
「今から向かいます。」
「・・・6月とはいえ、外で寝ると風邪をひくわよ。」
「僕だけ仲間外れですか?」
「まず性転換してきなさい。」
何やら誤解されたようだ。
誤解を招く言い方をしたのも悪いのだろうが、
ま、いいか。
「千荼夏と二人で、その、平気なんですか?」
あの娘の隣で安らかに眠ることなんて出来ないわ。
そう言った彼女だ。
それに今の千荼夏には、鉄山真矢を襲う、衝動も理由もあると思うんだが、
「大丈夫、もう襲われたから。」
「はい?」
何を仰有る。
「痛いわね、噛みつかれるのって。」
「噛まれたんですか?」
「噛ませたのよ、親の仇のおしゃぶりを。」
「どうしてそんな・・・。」
僕のいない間に何があったんだ。
「真矢さん、もしかして千荼夏を。」
「撃ってないわよ、殴っただけ。」
「・・・やっぱり向かいます。」
「来たら、千荼夏ちゃんを殺すわよ。」
「何ですか、その脅し文句は。」
「いいから、私に任せなさいよ。
只でさえ、救われっぱなしなのだから、
私を信じなさい。
全部に関わろうとしないでよ。修司くんの補佐を契約された私を少しは頼りなさい。
大好きな家族たちとじゃれて夜分に元気溌剌な男の子もお休みの時間よ。
興奮して眠れないのなら、私を"使う"ことを許可します。」
「使うって・・・。」
"そういう"高ぶりではないんですけど。
しかし、家主に拒否されたなら強引に訪れるわけにはいかない。
僕が行ってどうこうなるものではないのだろうし。
「貴方は十分働いてくれたわ。役割分担ね、千荼夏ちゃんのメンタルケアは私の仕事よ。」
「・・・わかりました。お願いします真矢副会長。」
まだ発足前だが、言い慣れとこう。
これからのために。
これからを造るために。
「大丈夫、優しくするから。私は経験豊富よ。」
「千荼夏に何するつもりですか!?」
やっぱり行っちゃダメですか。見てるだけでいいですから。
「また、明日。学校でね修司くん。」
また明日か。
今日の解決も済んでないのに、当たり前のように明日は来る。
そうやって、蓄積された未解決がいずれボディーブローのようにジワジワと効いてくることだろう。
それでも成果はあった。
二人の仲間を、協力的関係者を得た。
千荼夏はどう転んでくれるかわからないが、そこは真矢さんテクニックに期待するとしよう。
残り二人の目処も、その攻略法も、その為に交わす契約も。
色々と計画を組むが、
先ずは宿題をこなさねば。
正義正勝から恩情と引き換えに与えられた条件。
「連続放火犯を止めろ。」
言われた瞬間、目が点になった。
どうして?
どうして、警察庁のトップともあろう方が僕なんかに捜査の協力をさせる?
僕の力が、"数字"が見えることがバレたのか?
「止めろと言ったんだ、あの"馬鹿"を。これ以上続けられれば看過できない。」
数拍ののち、僕は父に軽く頭をさげて、書斎を出た。
止めろ。放火、"アイツ"か・・・。
そういう話しか。
正に恩情というわけだ。
僕にしか出来ない事だ。父には、まだ、手出しし辛い事だ。
繋がったよ、雪姫姉ちゃんの言うように正義正勝は、己の正義を貫く男だ。
未成年の犯罪者であろうと、父が護る正義の中で暮らす者だ。
人間として、いや人間にしてやらねばならない。人間に墜としてやらねばならない。
調べてわかったことだが、近所で3件の放火事件が立て続けに起きている。
不幸中の幸いか、アイツが意図的にしていることか、死者は出ていないが、
負傷者も、勿論理不尽な炎によって大事なモノを失った被害者も出ている。
一連の事件として本格的に捜査を進められようとする所で、
僕に協力をさせるとは、
"アイツ"を止めろと言うとは・・・。
わかったよ、正義正勝。
そこまで言われれば、我が正義家の遠縁でもある、あの歪な完璧人間の衝動を"止める"。
僕はもう一人じゃない。
小さい頃から1度もどんなことでも、勝てなかった"あの男"を僕たちが止める。
「お休みなさい、また明日。」
明日、また。
「お休みさん。」
僕たちで、真矢さんと千荼夏と3人で。
石火矢順平の破壊衝動を"止める"。
そうして、僕は部屋に戻り眠りについた。
・・・つきたかった。
いい感じに決意を固めて収めようとした。
日を跨いで翌日に、戦いに備えて酷使した頭と身体を休めたかった
のに・・・。
「おかえりー、夜遊びは程々にねー。お兄ちゃん。」
僕は自室のベットで眠るのが常だ。
自分の部屋があり、そこには眠るためのベットがあるのだから、それ以外の寝床を作る必要もない。
その唯一で、不可欠で、安心できる場所に。
涙香が寝そべっていた。
僕のベットの上に。
寝間着姿で、漫画雑誌を眺めながら、そのど真ん中に、我が物顔で、
「最近のジャンプって微妙だよねー。私はワンピースと、ブリーチ、ナルト、ボーボボ、武装錬金、イチゴ100%、アイシールト、ミスフルが凌ぎを削った時代のジャンプ世代でしょー。バトルにしろラブコメにしろ、スポーツにしろ、ギャグにしろ今はパンチ力が足りないと思うんだよねー。」
「・・・何してる?」
何してる、妹よ。
今は平日の夜11:37。
そんな時間に、何でお前は兄の部屋のベットの上で少年ジャンプを読んでいるんだ?
「ムヒョとロージを忘れるな。それに当時お前はまだ幼稚園児だぞ。世代と位置づけるには若すぎやしないか?」
「それをいうなら、ディグレを忘れちゃダメじゃん。」
「園児がディグレを見るな。お前が今現在進行形で行っている悪魔じみた行いはレベル3だよ。」
「タイトルは『暇な妹に奉仕する兄』だね。」
「いや、『兄の安眠を邪魔する妹』だ。部屋に帰れ。」
「お兄ちゃん臭い。」
「なっん・・・だと・・・。」
確かに今日はいつもより汗をかいた。
スンスンと鼻をならし脇を嗅げば確かに臭う・・・。
「ブリーチを真似るより、お兄ちゃんはブリーチされてきた方がいいよ。」
「漂白されるほどなのか!?」
「足臭い! これ以上寄らないで!」
「じゃあ、お前が出ていけ!」
「私はね、お兄ちゃん。一人の妹として、そして日本女性の鏡として、お兄ちゃんに忠告してあげているんだよ。
男性の臭いのキツさを女性がどれだけ気にしているか。」
CMみたいなこと言うな。
「話をすり替えるな、僕は疲れてるんだ、お前が陣取るそこを強く求めているんだよ。」
「寝る前にシャワー浴びた方がいいよ。」
「朝浴びるからいい。」
「朝シャンは禿げるよ。」
「兄の毛根を舐めるなよ。」
「毛根なんて家族のでも舐めたくないですー。」
「確かに臭い。僕は臭いし、シャワーを浴びた方がいいのかもしれない。だが! だからといってお前が僕のベットを占領するのは、果たしていいことなのだろうか? いやよくない!」
「倒置法を使ってまで、このベットに倒れこみたいというんなら、尚更退けないね。お兄ちゃんはシャワーを浴びる前に寝かせることを許す妹が、朝シャンという若ハゲ促進行為を行わせることを許すことなど出来ようか? いや出来ない!」
「いいから退きなさい。」
「断る。」
断固として譲らぬか。
くそ、もういっそ一緒に寝てしまおうか。
いやそうしてしまえば本末転倒だ。
もう一戦、バトルを繰り広げては休むことなどできない。
このバトルは妹とイヤらしい事をするという比喩表現ではなく。古代ローマのコロッセオで行われていた戦いという意味だ。
僕は枕を盾に、妹はリビングから刺身包丁を躊躇なく持ってくるだろう。
そういう妹だ。
正義涙香は、正義家の末っ子らしい妹だ。
今年、有名私立高校に入学し、そこでもトップの成績を取り、"猫かぶり"も巧く人を引き寄せる妹だ。
口八丁、八方美人。我論と絶対王政。
兄である僕に焚き付けるような振舞いをする僕以上に子供な女の子。
そんな女の子だから、そんな妹だから兄には容赦しない。
負けないために平気で武器を取る。
暇だからと平気で時間を割かせる。
僕が姉に甘える分、こいつを甘やかすのもそれまた必然か。
仕方ないか・・・。
言葉で勝つのは難しくなってしまった。
のせられてしまったのだ。
さっき、雪姫姉ちゃんに指摘されただろう。
涙香は自分のペースを、自分の王国制度を相手に押し付ける暴君だと。
ならば、そのペースを崩すほかあるまい。
出来る限り迅速に、そして肉体を酷使せぬ方法で。
僕の権利を護るために。
「・・・シャワー浴び終わるまでだぞ。」
「はいはーい、行ってらー。」
とりあえずこうするしかないか。
涙香の理論武装を1つずつ潰していくしか。
僕はシャワーを、浴びに浴室へと向かう。
スタート!
・・・20分後!
「よし! 早く出て・・・何してる?」
手際よく、かつ、まだ臭うなどと物言いをされないように身体の隅々を洗いきり、
パンツ一丁で濡髪のまま自室のドアを開くと、
涙香は、DVDを観ていた。
僕のベットの上で。
一瞬、僕のベット下の"宝物庫"から探りだされたRなDVDかと身構えたが、そうではないらしい。
「遅いよ、お兄ちゃん。」
「ほんとに遅いよ。おやすみ涙香。」
「なに、24時間周期で1日を過ごしてるみたいなこといってんの。」
「お前は何時間周期で1日を、送っているんだ。」
テレビを観るとまだ予告を流れてるだけのようだ。
つまり、映画だ。
1~2時間はかかるのは必然だ!
「約束しただろ、涙香・・・。」
「キラーコンドームって知ってる?」
とんだマイナー映画を観ようとしているのか、兄の睡眠を阻害してまで。
「知ってる、見た。だから見ない。一人で部屋で見ろ。」
「えー、女の子一人で見て何が面白いの?」
「僕と見てアレを面白がる妹は嫌だ。」
「あーあ。無駄になっちゃった。じゃあお兄ちゃん。2800円。」
「買ったのかよ! しかも高い!」
コイツの謎の行動力は何なんだ?
普段は節制して、貯めてるくせに。
しかし、僕と見るために買ったとなると、またしてもピンチだ。
僕は家族であり、妹である少女が、兄との時間を楽しむために自腹を切った行いを無下に出来るほど鬼畜ではない。
間が悪いんだよ、涙香。
いやその間の悪さも、チョイスの酷さもお前の特質か。
仕方ないか。
「わかったよ・・・一緒に観てやるよ。」
「はい、言質取りましたー。観終わるまでは、寝ちゃダメだからね。さあさあ、そこに座るがよい。」
「わかった、わかった。姫様に付き合います。」
変に芝居がかった口振で着席を許可される。
部屋主をカーペットの上に、女王はベットの上で。
1本観るくらいならいいか・・・。
と、僕が愛用のガラステーブルの前に腰かけると、
見慣れぬタイトルのDVDケースが2つ置かれていることに、気づいた。
『ムカデ人間』 『ムカデ人間2』。
まさか・・・。
ウソだろ・・・。
プラス2本だと・・・。
しかも、また際物のタイトルを!
言質取りましたって、そういうことか!
「合わせて2800円だったんだよー。お得でしょ。」
僕がギリギリとゼンマイ仕掛けのオモチャのように振り向くと、
涙香は、ベットに寝そべりながら再生ボタンを押していた。
「本気か?」
「本気と書いてマジだよ。お兄ちゃん。ウェンズデーナイトフィーバーしようよ。」
「ジョン・トラボルタは踊らないよ・・・。」
3本。
日が変わって6月15日(木)。
午前0時5分開始。
1本二時間かかるとして、単純計算で終了予定時刻。
明朝6時。
「涙香ぁ・・・。」
「ダメダメ、男に二言は無しだよ。」
「今日は1本だけ・・・。」
「ダーメ、あんまり聞き分け悪いと昨日の夜順平くんを身代わりにしたこと、お父さんに言うから。」
「・・・!。」
ラストウェポンまで使いやがった。
正義家の当主は勿論、学生の無断外泊など許さない。
昨日、順平を挟んで実家に連絡をつけるようにと千荼夏に言ったのは、
そういう事情を知ってるからだ。
順平に今日は帰れないと連絡をいれると、自動的に行われる工作だ。
順平には昨夜11時頃に、僕の家に涙香の協力の元、僕のふりをして帰宅してもらい、父が寝静まったあと、順平がコッソリ出ていき、涙香が何事もなかったように内鍵を閉めるという。
父と滅多に顔を合わせることのない僕だからこそ使える策だ。
僕が、順平と涙香を利用する偽装工作だ。
今までも何度か、バイトで朝帰りになるときに利用したが、
それをタネに脅すとは。
ぐぅの音も出せない。
今後も利用したい工作なので、ここで涙香に手を切られてはならない。
覚えていろ、涙香!
お前の弱味もいずれ突いてやるからな!
勿論、そんな隙をおくびも見せぬ妹だが・・・。
「コーヒー淹れてくるよ。」
「よろしくー。」
諦めよう、やりたくないが、千荼夏の勧め通り、明日は保健室を利用させて貰おう。
トボトボと敗走兵の心積りで僕は、1階へと階段を下りていった。
長い長い、1日はこうして終息した。