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アブソナリティー  作者: 春ウララ
始まりのマチ
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「悪人会議」

「悪人会議」

 

 

 





悪い子はいねえかぁ。


悪い子たちは会議中だよ。

 

 

 

 

 

 6月14日の放課後。

 

 生徒会室。

 左手に巻いた腕時計で時間を確認する。

 17:00 ・・・30秒前。

 

 タッタッタッ・・・

 

 ガラッ!

 

 「1番のりー!」

 

 立て付けのあまり良くないドアをガラリと開けて千荼夏ちたかが駆け込んでくる。

 昨日、蹴破ったそのドアは気の良い用務員さんが直してくれたらしい。

 それでも、そんなに力一杯開けられたらまた壊れてしまうだろう。

 17:00 ジャスト。

 生徒会室の鍵は会長である僕が、名ばかりの顧問の先生より預かっているので、ドアが抵抗なく開くということは1番のりではないのだが、

 

 「じゃない! でも2番のりですねー。」

 

 購買で買ったカフェラテを片手に書類に目を通す僕を見て、がっかりと言った風にパイプ椅子に腰かける千荼夏。

 

 「廊下は走っちゃダメだぞ千荼夏。」

 

 「走ってないですー。勤務初日なんで、気合いいれてるのポーズですー。」

 

 アヒル口でブーブーと小言を漏らす千荼夏。

 魅力的な口許である。思わず吸い付きたくなる。

 

 「あ、なんか。邪なこと考えてますね。」

 

 「そ、そ、そ。そんなことないです。」

 

 僕は棒読みで返した。

 

 「いいんですかー、真矢さんに言いつけちゃいますよー。」

 

 「それは、一向に構わないが。」

 

 「え!?」

 

 「え?」

 

 「いや、だから。え!?」

 

 「・・・え?」

 

 何を驚いてる。

 

 「いやぁー、謀略ですね。謀られてしまいましたね千荼夏。」

 

 千荼夏のペースに戸惑いを覚えるが、

 千荼夏は、パイプを吸うようにカバンの中から取り出したパックのレモンティー用のストローを口に加える。

 探偵ポワロかな?

 いや、ポワロにパイプを吸うシーンがあるのか見てないのでわからないが、

 謀られたと言って推理するごとく、なんとなしに探偵のポーズをとったのかと思ったが、

 世代的にはコナン?

 いや、コナンくんは高校生探偵だ、パイプは吸えない。

 じゃあ、シャーロックホームズか。

 ホームズも、ワトソンもパイプを吸っていたか?

 もしかしたら近年公開された映画ではなく、もっと昔のシャーロックホームズの映画、ドラマ、原作ではそういうシーンがあるのかもしれない。

 わからない、千荼夏は、何を思い、思い返しパイプを吸う仕草をしたのか。

 

 待てよ。

 これは、全て僕の独りよがりの想像じゃないか。

 謀るという言葉とストローを加える動作から洞察し、連想したにすぎないではないか。

 単純に千荼夏は、喉が渇いてパックのレモンティーを飲もうとストローを加えただけではないだろうか。

 

 尋ねればわかること。

 だが、何も考えなしに尋ねるという行動に移すのは僕の流儀に反する。

 たとえ、千荼夏が、感覚的に生き、脊髄反射で話している動物にしてもだ。

 動物?

 話す動物と直感で例えてしまったが、これは上手い例えではないか。

 千荼夏という人間=動物は、直接的意味で肉食動物に近いカテゴリーに分類される。

 言葉を解する肉食動物が今だ世界で発見されていない以上、話す肉食動物という例えは千荼夏以外に当てはまらない。

 

 いやいや、待てよ、正義修司まさよししゅうじ

 脱線しているぞ。

 千荼夏が話す肉食動物か、どうか、なんて今議論する場面ではないだろう。

 結局、彼女は何故わざわざストローを加えて、謀られたと言ったのか?

 

 そうだ、おかしいだろう普通に。

 パックジュースを飲むのなら、先にパックジュースを取り出すのが正しい手順ではないか。

 パックジュース?

 レモンティーはジュースか?

 パックジュースとは、例えばサンキストなどの果汁100%のジュースや・・・

 まてまて、また脱線しそうになった。

 

 ここはとりあえず、レモンティーをパックジュースと位置付けよう。

 千荼夏は、パックジュースを開けている。

 

 いや、レモンティーを開けている。

 ストローを刺した。

 これ以上、先伸ばしにしては駄目だ。

 ストローを口から離した時点で突っ込む時期を逸してしまった感もあるが、まだ間に合う。

 最初の直感を信じてみよう。

 

 「探偵ポワロの真似か?」

 

 そうだ、人間。直感が7割あっているというではないか、

 残りの3割だとしても、それは十分議論が尽くされた答えが出るに違いない。

 

 「工藤優作です。」

 

 探偵じゃない! 推理小説家だ!

 しかも、コナンの父親だ!

 コナンまでは、行き着いたのに!

 盲点だった。

 少年漫画で、喫煙シーンなどあるわけがない。

 そもそも、探偵と独断して物事を考えてしまった以上。コナンからは、工藤新一と服部平次しか、僕は連想出来なかったであろう。

 

 負けた。

 完敗だよ、高千千荼夏。

 

 「工藤優作ってパイプ吸っていたか?」

 

 「あの髭なら、吸うんじゃないですか?」

 

 負けた!

 千荼夏は、馬鹿だった!

 話す肉食獣の思考回路はまだまだ調査を深めなければならない。

 

 「むー、なんかまた邪なこと、考えてる気がするー。」

 

 「いや、君を理解出来なかった僕の全面降伏だよ。」

 

 「はい? 何言ってるんですか?」

 

 小首をかしげて、パックのレモンティーを飲む千荼夏。

 うん、やはりパックのレモンティーが1番しっくり来る。

 

 「それよりも、ですよ! 会長さん! 千荼夏ちたかを嵌めましたね!」

 

 「・・・? 何のことだ?」

 

 「ふふふ・・・わかってますよ、女子高生探偵・工藤千荼夏くどうちたかは、全てまるっとお見通しですよ!」

 

 それは、売れない女性マジシャンだ。と突っこみたかったが、それよりも。

 嵌めた?

 

 「いや、何をだ?」

 

 「ふむ、では聞くがいいです! 千荼夏の推理を!

 この完璧な密室トリックの種明かしを!」

 

 「・・・どうぞ。」

 

 「まず、正義修司まさよししゅうじ容疑者は、生徒会の会議を放課後行うと、千荼夏に、だけ。伝えたのです。」

 

 「ふんふん。」

 

 「そして、真矢さんも来ると偽って二人きりの状況をつくり・・・」

 

 「あら、二人とも早いのね。」

 

 

 真矢は、濡れた髪をタオルで拭きながら生徒会室へと入ってきた。

 推理ショーを頓挫させられた千荼夏は仕方なくパックのレモンティーをすする。

 

 「遅かったじゃないですか。綺麗好きですね。」

 

 「蒸し暑いったらないのよ、まだ水無月だっていうのに。」

 

 「水無月なのに、随分水浸しですね。」

 

 「人間の7割は水分よ。水のない日和なんて存在しないんだけれどね。ただ旧暦の人間が日照りの大い月だし、水無しの月だねって上手いこと言ったという語源かしら。

 それで二人でどんなハレンチな非行をしてたの? お姉さんはそれが気になってシャワータイムを打ち切って、濡髪のまま急いで来たのよ。」

 

 タオルを頭に巻いて鉄山真矢かねやままやは、僕と千荼夏の間に腰かけた。

 

 「それ! それを私は見抜いたんですよ! 正義会長はその権限を悪行活用して、千荼夏を拐かそうとしていたんでふ!」

 

 パックのレモンティーを飲みながら千荼夏は語尾を噛んだ。

 

 「それは、それは穏やかな話じゃないわね修司くん。」

 

 「真矢さんと上手くいったからって、千荼夏もスナック感覚で食べちゃおうなんて・・・」

 

 「食べちゃうって・・・」

 

 千荼夏はミーハー女子だ。

 まぁ、年頃の男女があんな状況でベットルームで夜を過ごしたなら誤解するのも無理はないが。

 もっとも僕は追い出されたんだが。

 

 「・・・ふふ。」

 

 鉄山真矢!

 意味深に微笑んで、スルーしやがった。

 あくまでも、僕を攻めたいらしい。

 

 「誤解を解いてはくれないんですね。」

 

 「その方が面白いでしょ?」

 

 「いい性格ですね、真矢さん。」

 

 「性格は契約に含まれていないでしょ。」

 

 「契約! 愛人契約ですか!? 正義ハーレム計画の第1攻略ヒロインの真矢さんを愛人ポジションに置く辺り、のちの攻略も見据えての選択ですか・・・ヤりますね。」

 

 「ヤりますねじゃない、やをヤにするな。しかも何だ正義ハーレムって、字面を見たら更にその凶悪さが増すな。」

 

 「ハーレムは悪ではないですよ、夢ですよ。」

 

 「ギャルゲーかよ。」

 

 「ポケモンから18禁PCゲームまで、千荼夏は偏見なくゲームを愛しています!」

 

 エロゲーをするのを仄めかしたり、この娘はゲーム娘なのか。

 コナン好きだから、BL好きなのかもしれないと偏見もやや持つが。

 酷い偏見だな我ながら。

 

 「あら、じゃあマリオRPGの話をしましょうか、千荼夏ちゃん。」

 

 真矢さんが、また際どいところを攻めるな。

 その世代のマリオはゆとり世代にはわからないだろう。

 痛烈無比な攻撃タイプだな、しかし、しっかり自分の身も守りつつ攻めるスパルタ兵か。

 ゴブリン突撃部隊と絶対防御将軍の長所を兼ね揃えているのか、真矢恐ろしい子だな。

 

 「ペーパーですか?」

 

 お、食いついた。だがそれじゃない。

 それも名作マリオだが、それじゃない。

 

 「いえ、スーファミよ。」

 

 スーファミなんて、女子高生の口から聴けただけで何か今日は満足した気になるな。

 

 「スーファミ?」

 

 「あら、なに知らないの? ゲームオタクを自称したのにスーファミ知らないの? 任天堂はGCからしか知らないっていうの?」

 

 「GC?」

 

 ゲームキューブか、そろそろ突っ込もうかな。

 

 「あらあらあらあら、何? Wiiから? とんだゲーム好きね。

 マリオワールドも、マリオコレクションも、星のカービィスーパーデラックスも、果てはマリオカートも? レインボーロードのショートカットも知らないって? 嘘でしょう、嘘よね?

 ひまんパタコウラも、星に願いをも。

 今あなたが語っているすべての根幹をあなたは、理解していないの? なんということでしょう、みなさん、聞きましたか? 認められますか?

 このゲーム偽愛者を。」

 

 うん、そろそろかな。

 千荼夏も心なしか挑発されて髪を逆立てている気がする。

 肉食獣だから、たてがみをかな。

 

 「偽愛・・・ぎゃ、逆に聞きますけど真矢さん・・・」

 

 パックのレモンティーを握り締め千荼夏は立ち上がる。

 

 「千荼夏だって! スーファミの、ドンキーコングとか、パンチファイトとかやったことありますから!」

 

 「パンチアウト!! ね。それは、ファミリーコンピュータよ。」

 

 「お前の方がゲーム大好きかよ!」

 

  ああ、スッキリした。

 千荼夏は膝から崩れ落ち、なにやらブツブツ呟いている。

 

 「まあ、私もどうぶつの森でやった程度なんだけどね。」

 

 「まだ続けるんですね・・・ああ、僕もやりましたよ。キング・ヒッポの倒し方がわからなくて、ワザップ見ましたね。」

 

 「ワザップ。懐かしい響きね。それよりも私はマリオRPGについて広げていきたいんだけれど、まずは小手調べでピーチの×××の話からしましょうか。」

 

 コア過ぎる、千荼夏には申し訳ないが僕も真矢さん同様レトロ物が好きなのだ。話を続けたい。

 

 「小手調べが、胴調べですよ、面調べですよ。朝飯前でそれなら、お夜食にはキノケロ水道からドゥカティの炭鉱へのショートカットの話でもするんですか? 小手調べの小手は剣道の小手とは関係ないって突っこみは無しでお願いします。」

 

 「博識ね、お姉さん嬉しいわ。」

 

 その世代の話にワクワクする気持ちはとてもあるが、

 おや、千荼夏の様子がおかしいので、

 とりあえず置いといて、閑話休題。

 

 「うう・・・」

 

 「おい、千荼夏。大丈夫か。気にするな、君は君の生きたいように生きろ、良いじゃないかエロゲが主戦上のゲームオタクでも。僕は"ねぇちゃんとしようよ"が好きだぞ。」

 

 何で同級生の女子にエロゲの話でフォローしなきゃいけないんだよ。

 

 「そうですか、そうですね。正義会長は要ねえさんが好きだから、真矢さんに味方しちゃうだけですもんね。」

 

 おい、抉るなよ僕の心を。

 間違がってないけど。

 

 「味方したってわけじゃない、単に僕もその世代のゲームが好きなだけだ。時のオカリナが好きで姫川アキラ推しみたいなものだ。」

 

 僕はまた高揚する気持ちに流されて、余計なネタを放り投げると、真矢さんが直ぐに食いつく。

 

 「あの漫画、水の神殿のカット具合が私は嫌いだけどね、その癖、炎の神殿のヴァルバジアに変な因縁つけちゃうしね。」

 

 「僕、本当に貴方を好きになりそうです。」

 

 世代と守備範囲が随分噛み合うなぁ。

 生き別れの姉なんじゃないか。

 氷の弁護士なんじゃないか。

 

 「年増。」

 

 「え?」

 

 和気あいあいとした放課後の教室が、

 僕と真矢さんのコアなラリーによるものだが。

 千荼夏の呟きに真矢さんの表情が凍りつく。

 氷上にいるかのように、部屋の気温が下がる。

 それは、言っちゃダメだ。

 真矢さんに言っていいことと、ダメなことがある。

 見た目と雰囲気で、真矢さんは実年齢よりも大人びているが、本人もそれたぶん気にしていると僕は思う。

 張り付けたような笑顔が怖い、冷たい。

 

 「何て? 今なんか言ったかしら千荼夏ちゃん?」

 

 笑みを絶やさず、真矢は自分の学生カバンに手を差し込む。

 ほうら、不味い。

 彼女のカバンは普通の生徒より数十キロ重いんだ。

 それが何を意味するか千荼夏もよくわかっているはずだが、

 確信犯的に千荼夏は更に言葉を吐く。

 

 「ああ、聞こえませんでしたか? ごめんなさい、真矢先輩。

 耳が遠いんですね。」

 

 千荼夏は、椅子を引き腰を落とす。

 戦闘体勢だ。

 

 「ちょっと、二人とも。」

 

 「そうね、最近ドンパチし過ぎたから、ちょっと耳がキーンってしちゃのよね、でも私、あの感覚好きなのよね。」

 

 「ドンパチ何て、今時の女子高生は使いませんよ。」

 

 今も昔も使わないよ。

 

 「だから、偶然このカバンにチャカが入っていたとしたら、私は何故か今無性にイライラしてるから、あのキーンを味わいたくなっちゃったしても、それは仕方のないことよね、ねぇ修司くん?」

 

 ここで、僕に振るのか!

 チャカって、言ったか。怖いよ、ヤクザ映画も好きなのか。

 レトロでドSか、この人! 濃いな!

 

 「あ、う、ん・・・そうですね。」

 

 タモリさんへの受け答えばりに棒読みで僕は答える。

 

 「ねぇ、正義会長。正義会長がいくら年上に欲情して庇い立てしてもですよ。流石に、ふふふ。そのオバサンは守備範囲外じゃないですかー?」

 

 間延びするように千荼夏が妖艷に笑みを蓄え、地雷を踏み抜いた!

 

 「ぶち殺す。」

 

 キックオフ。

 蹴られたのは、サッカーボールではなく生徒会備品の長机だが。

 僕はカフェラテを手に持ち教室の端に飛び退く。

 ああ、不味い。

 カニバリズムも不味いが銃声は流石に誤魔化しきれない。

 見誤ったか。

 ハンターと牝獅子を狭い教室で同じ組織にまとめるというのがそもそも無理難題だったのか。

 自分の自慰行為に自己快楽のために、現代社会不適合因子を求め、纏め。

 昨日はまだ良かった。

 僕が卒倒したから、二人が対立する構造を組ませなかった。

 組ませなかっただけ。

 まあ、元を辿ればこれも下らない言い合いの、結果だが。

 

 こうなることは、必然のように。

 右腕に巻いた腕時計を確認する。

 17:13

 13分でこうなるか。

 三日天下。

 解散選挙を行う必要もない。

 あの父親に頭を下げて揉み消せる事案でもなしに・・・

 

 さて、そうこうするうちに走馬灯のように頭を駆け巡っていく思考が鉄の咆哮で途切れ・・・ないな。

 あれ、時計の秒針は変わらず時を刻み続けるのに。

 火蓋が切って落とされない。

 

 僕は恐る恐る二人を見上げる。

 見上げた二人はある一点を見つめて固まっている。

 生徒会のドアの方。

 相変わらず、気持ち悪いくらい完璧なタイミングでその男は現れた。

 

 「おや、僕って本当にタイミングがいいなぁ。今まで入りをトチったことはないが、まさに場を転換するための登場かな。」

 

 石火矢順平入ってくる。

 場転。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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