ネコと指輪⑦
最終話です。
特殊な恋愛描写を含むため閲覧注意です。
「帰ったと思ったら急に電話がかかってきたから吃驚したよ」
彼は事も無げに言う。
「ごめん」
「用事は大丈夫?」
「うん。もう、なくなった」
もう、心配なくなった。
「本当のこと言うとね、さっき基樹くんが知らない女の人といるのを見たとき、すごく動揺したんだ。基樹くんの彼女かと思って。恋愛とか結婚とか、自分にはあんまり関係ないことだと思ってたからさ。もし基樹くんに恋人ができたら、置いて行かれちゃうような気がして……」
いや、そうじゃない。本当は。
「基樹くんのこと……」
「綾」
口に出しかけた言葉は、基樹くんに制されて空気に溶けた。
「今日は、大事な話があるって言ったよな。聞いてくれるか」
彼の真剣な表情に気圧されて、私は黙って頷いた。
「俺も本当のこと言うと、高校生の頃から綾のこと気になってたんだ。当時は自分の気持ちがよく解らなかったけど。偶然再会して、二人で遊んだりするようになって、はっきりと解った」
彼が深く息を吸う。
「俺は、綾のことが好きだ」
彼の言葉は不器用なほどに真っ直ぐで、だから私の心に深く突き刺さった。
「綾に受け取ってほしい。これは俺の気持ちだ」
彼が差し出した小箱には銀色に輝く指輪が入っていた。内側には「M.O. to R.S.」と刻まれている。彼から私への指輪。
「この指輪、私に?」
「私?」
「あ、ごめん。つい仕事中の口調になっちゃった」
「受け取ってくれるか?」
「ありがとう。すごく嬉しい」
彼が私の手を取って薬指にシルバーの指輪をはめてくれた。感極まって目尻に涙が浮かぶ。
「いろいろ大変なこともあるだろうけど、綾と一緒なら乗り越えていけると思えるんだ」
そんなこと、私も。いや――
「うん。俺も、そう思うよ」
薬指に二人の絆が光る限り、何も怖いものなんてない。
俺は胸の前で左手をそっと握りしめた。