ネコと指輪③
今日もまた、上司の下らない説教と自慢話に相槌を打つだけの二時間を乗り切った。隔週で職場の飲み会に付き合わされるなんて、本当に勘弁してほしい。せっかくの花の金曜日だというのに、こんなおじさんたちの相手をしていては花も枯れてしまうではないか。どうせなら大森くんと一緒に飲みたかったなあ。なんて、無理な話だけど。せめて早く帰ってシャワーを浴びたい。そしてふかふかのベッドでゆっくり眠りたい。
そんなささやかな願いのもと、そそくさと帰り支度をしていると、おじさん連中が何やら集まっていた。普段ならしつこいくらいに二次会のカラオケに誘ってくるというのに。誰かが酔いつぶれてしまったのだろうか。
放って帰るのも後々気まずいので、一応は心配している体で様子を窺いに行く。どうやら部長が落とし物の鍵を拾ったということらしかった。
可愛らしいネズミのキャラクターのキーホルダーが付いている。形からして家の鍵だろう。ネズミの足元にはA.Sの文字の小さなプレートが嵌められていた。自分の好きな文字のプレートを組み合わせて嵌められる造りのようだ。このアルファベットは持ち主のイニシャルといったところか。
様子を見にきた私に気付いた部長が、思い出したように尋ねてきた。
「そういえば、早乙女くんがこんな感じのキーホルダーを持ってなかったか?」
「似たものは持ってますが、違いますね。イニシャルが付いてるじゃないですか」
「これ早乙女くんのじゃないの? てっきり『これ』からもらったキーホルダーかと思ったんだけど」
部長は指を一本立てて言った。
「アベックでお揃いのグッズを身に着けたりしてさ。二人の決まりごとというか、秘密の共有、みたいなことが好きなんじゃないの? 女の子って」
「知りませんよ、そんなこと。恋人なんていませんから」
部長の無神経な発言にむっとしつつも、表に出さないよう努めて冗談めかした調子で言う。
「そうかあ。秘密を共有するのが仲良くなる秘訣だと思うんだけどなあ」
部長が好きなだけじゃないの、それ。
「この鍵は私がお店の人に渡しておきますよ。あと、そういうの、セクハラになりますからね」
すまんすまんと反省した素振りもなく笑っている部長を尻目に、さっさと帰ろうと靴を履く。背後からオヤジ連中のだみ声がとんだ。
「早乙女くん、カラオケ行こうよー」
「すみません、お先に失礼します」
全く、これだから酔っぱらいは嫌なんだ。
私はレジにいた店員に落とし物の鍵を渡して足早に店を出た。
「秘密の共有、か。それをすれば私も大森くんと……」
なんて、そんなことある訳がない。