転生直前 選択を間違える。
——僕は、カッコイイ。それに、勉強も出来る。スポーツも得意だし、文武両道と言うのに、僕ほど相応しい人物はそう居ない。そう自負している。
——しかし、そんな僕でも、大きな過ちを犯してしまった。
「——まさか、トラックに撥ねられるなんてッッ!」
「まあ、人生そんなもんですよ。そうそう上手くいかないものですって」
今僕の前に居る女性は、そう言って僕の周りを歩いた。……空中に浮きながら。
女性はゆったりとしたレースの服を着ている。金色の髪を揺らしながらながら、彼女は僕に言った。
「——あ、申し遅れました。私は、貴方がこれから転生する世界の女神です」
「転生? 女神?」
あり得ない。非現実的。まるでファンタジーだ。……しかし、目の前に居る女性は、確かに女神のような姿をしている。……美人だし。
「はい。貴方は転生トラックに撥ねられたんです。よくファンタジーものであるじゃないですか。トラックに轢かれたら、異世界転生してた物語。聞いたことないですか?」
「無いですが?」
……生きていた時に、ファンタジーものは読んだことが無いな。転生とかありえねぇwwとか言ってたからな。
「あ、そうですか……なんかすいません」
「何故謝るのです? ……それで、僕はどうなるんですか」
「あ、はい。えっと、貴方はこれから人間・ゴブリン・スライムのどれかに転生するの——」
「人間で」
「——人間・ゴブリン・スライムのどれかに転生するの——」
「人間で」
「……転生するのか、選んでもらいます」
「人間で」
人間以外の選択肢があるのだろうか? そもそも、人間が人間以外に転生したら、生きていける気がしないんだが。
「——と、普段なら言うのですが——」
「……が?」
……嫌な予感がする。
「貴方と同じように、皆さん人間しか選ばないんですよね。そんなわけで、数年前から人間の選択肢は無くなったんです」
「じゃあ選択肢に入れるなよ!」
変な期待はさせないでほしい。
「そんなわけで、残りの選択肢はゴブリンか——」
「スライムで」
「——ゴブリンか——」
「スライムで」
「……ファンタジーもの読んだこと無いんですよね……?」
「スライムで」
「……もういいです」
人間がダメならスライムだろう。ファンタジーを読んだことが無い僕でも、さすがにゴブリンとスライムは知ってる。
「まあ、答えは分かり切って居たんですけどね。どうしても、形式上は訊かないといけないんです」
「じゃあ」
「貴方にはゴブリンとして転生してもらいます!」
「何でぇええええええええええええええええええええええええええ!!?」
何でとしか言いようがない。スライムって言ったじゃないか! 何でゴブリンになるのォ!!?
「いやぁ、人間に転生できなくなってからスライムを選ぶ人が急増して。なので、今日からゴブリンにしか転生できなくなってしまったんです」
理不尽だ! 何でこの僕がゴブリンなんかに生まれなければいけないんだ!
「……なら、一つ願いを聞いてくれませんか」
「あ、いいですよ。さすがにゴブリンに転生させるのは可哀想だなって声が多かったので、ゴブリンに転生する人は、一つだけなら願いを叶えてあげることになったので」
「それなら——」
「ただし、叶えられる願いを増やして系、またはゴブリンから人間にして系の願いは叶えません」
「……チッ」
「今舌打ちしましたよね? しましたね? 願い、叶えてあげませんよっ」
「すみませんすみません。そうだな……そうだ」
我ながら名案だ。こうしてもらえば、僕の美しさは無くならない!
「では……僕を、イケメンのまま転生させて下さい!」
「……え゛」
「駄目ですか?」
「いや……駄目では無いんですけど……本当に良いんですか?」
「はい」
「イケメンのままってことは、今の顔のままってことですよね……?」
「はい。……それが何か」
「いえ、あの……本当に、本っ当に良いんですね?」
「そう言ってるじゃないですか」
「……分かりました。貴方の願いを叶えましょう。貴方に、幸せが訪れますように」
そう言って、女神様は目を閉じた。
「……あの、ふと思ったのですが」
「強く、生きて下さいね」
「え、ちょ、待って下さ、転生したら——」
転生前の記憶は残るのですか。……と言う僕の声は、眩む世界にかき消された。