おい誰が妹と登校して良いと言ったんだ俺だよ
結構シリアスに行きたいのにいけない…………
「徒歩通めんどくさいから車かおんぶで送ってってよ」
「これから毎日なんだからせっかくだし、慣れといた方がいいだろ? 徒歩通の距離って自覚してるくせに何言ってんだよ。 あと後者は無視で」
「1キロ位しかなくても面倒くさいものは面倒くさいのー」
昨今の若者の平均運動量はぞんざい過ぎる。
そうやって運動を避けるから肉付き体質になるんだ。
これが三次元妹の臨界地点か。
“流石ですお兄様!”とか、“お兄ちゃん弁当作っといたよ♪”とか、“もう、起きないと遅刻しますよ兄さん__”とか限界を突破してほしい。
まあ、三次元でやられても困惑極まりないが………
「そういえば中等部からずっと一緒の友達も居るだろ? 初登校なのに、俺と一緒でよかったのか?」
「ん? 何が?」
「いや、だからこの時間帯だって___」
「へっ? あ、ああ、いいのいいの。どうせ家の近くに居ないから」
「何言ってんだよ? 朝霧ちゃんから昨晩電話掛かってきただろ」
「______えっ?」
「……………………」
「………………………………」
何故か無言になる。
こいつの事だ、ゲームとかに集中していた際に寝ぼけていて忘却に結してしまったのだろう。友達無くすぞ。
朝霧ちゃんとは律奏の中等部からの幼馴染みの親友。一つ歳下な神社の娘で、引っ越した後、春休みの間に何回か来訪している。
「まあ、いいけど。さっきお前が寝てるとき来て、“神社寄るから律ちゃん先向かってて”って言ってたし」
そう言うと愚妹は凍ったかのようにピタッと立ち止まる。
「な!? お兄ちゃん何で言ってくれないの!?」
「え、何だって?」
「だーかーらー! 何で教えてくれなかったの!」
「え、何だって?」
「だーかーらー!」
「え、何だって?」
「リピートうざし…………」
__絶対わざとだ………………
片耳向けていかにも聞こえてませんよ的なポーズをとる。
日頃のブーメランである。
家族と居た二年前から今朝まで、こいつを起こすだけにどれだけ苦労したか。
起こそうとするとブリッジしながら「瀬戸大橋ぃ~!」って叫んで対抗するんだ。あり得ないだろ? あり得ないどころかただの変態だ。
「まあ、結果オーライ♪」
突如、律奏が後ろから抱き付いてくる。さっきとは打って変わってご機嫌なようだ。
「お兄ちゃんと二人っきりで登校出来たし、いっか♪」
「良くはないだろ。後で謝っておけよ」
「わかってるよー。それよりね、お兄ちゃん…………」
「ん?」
「大好きー!」
「なんだやぶさか棒に。」
「えへへ、なんでもなーい♪」
急にどうしたんだこいつは。
今度は何を狙ってるんだ?
この手に引っ掛かると、ソフトクリームやら、たい焼きやらの買い食いを要求される。食い意地の張った奴だ。
___が、悪い気はしないのでそっとしておこう。
緩んだ顔にも気をつけ、再度正面を向く。
とりあえずここで溜まってても時間の無駄なので、学校に向かうとする。
何故か、常時家事以外で家に籠ってぐうたらしているはずの甘えん坊な律奏がこうして学校で爛れず、ちゃんと出来ているのが不思議なのだが、まあそれは、“嬉しい誤算だ”というやつである。
そうした中やっと学校前まで着くことが出来た。
律奏くるりと振り返り笑顔を向けてくる。その姿に少々モヤモヤしつつもほっとする。
「それじゃ俺は先に体育館へ行くから、また後でな」
「うん! んじゃね!」
と言い残しそれぞれの場所へ向かおうとする。すると何処からともなくヒソヒソと声が聞こえてくる。
「あの娘可愛くない?」「めちゃめちゃ美人じゃん」「ホレちまったぜ」「どっかのモデルさん?」「よし俺、この入学式終えたらあの娘に告白するんだっ!」
__などと賛辞しているようだ。
容姿に関して言うならば律奏は相当な美少女の内に入るだろう。他での素行が光ってそんな感じには見えないのだが。
年相応を逸脱した豊満な二つの果実を制服越しに感じられる程の巨乳安産型スタイルに、透き通るように煌めきの絶えない栗色の長髪、そして天使のように思えるほどの天真爛漫な幼さを残す顔立ち。
これほど容姿が良くて何故若干ニート体質なのだ。
だが、妹が誉められて嬉しくない兄は居ないだろう。兄としての立場で言えば、ついついエロい視線の男共を蹂躙しそうな程嬉しく思っている。
サプライズで、より一層あいつの驚嘆する顔が拝められるのが楽しみになってきた兄であった。
『ふふ…………』
そう笑みが零れ、家の方向に向き直す。
実は綿密に企てたある計画があって家に帰らなくてはならないのだ。
♪♪♪~~~~
突然、俺のスマホ着信音である“きっと僕の妹は最高だ”のopが流れ始める。
俺はさっと開き内容を見る。
《今スグ家ニ戻レ》
とだけ書いている。
一瞬不安に思ったが、すぐにそれが杞憂だと気付く。
差出人も不明、メールアドレスも不明。何もかもが謎に包まれている。
が、なんかの間違いメール、もしくはイタズラなのか今のところ何とも言えないが、まあ、真剣に受けとる必要もなかろう。
そう思いポケットにしまったが、
「(だが何だ、この異様な懸念は…………)」
何故かこの件を等閑にしてはならないことを直感的に感じた。
何か、取り返しのつかないことになる危機感を感じた。
俺の勘はよく当たるからな…………
「仕方ない、どうせ一度帰るつもりだったし」
そう言い、来た道を向く。
父兄の集まる中、俺は急いで家に戻ることにした。
To be continued.