第13話 ◆・・・ ローランディア王国 ・・・◆
新聖暦2087年4月の初め。
シャルフィの女王は先月に引き続き今度は隣国のローランディア王国を訪問した。
警護は、此度もアスランが任命された。
シャルフィを昼頃に発った航空艦は、約二時間を経てローランディア王国の王都ヴィネツィーラに設けられた国際空港へと着陸。
女王とアスランは迎えの馬車に乗り込むと、そのまま高台にある王宮へと招かれた。
――― ローランディア王国 ―――
僕が事前に予習したローランディア王国のことですが。
特徴としては先ず、王国中央に国土の二割以上の面積を占める巨大なローレライ湖があります。
ローレライ湖の事は、旅行雑誌などでも当然と載っているくらい有名です。
そして、地図で見るローレライ湖を囲む様に地方都市と町や村が置かれたローランディア王国では、湖沿いに街道が敷かれています。
そうですね。
これも地図で見ると、街道は湖に沿って大きな環状をしている事が理解ります。
ローランディア王国での主な移動手段は、街道を行く陸路と湖の上を定期の船などが行き交う水上航路。
この二つは昔から今もずっと続いています。
そこへ現在は国外を結ぶ空路以外に、国内の諸都市を結ぶ空路もあるのです。
王都ヴィネツィーラは、ローレライ湖の南側に浮かぶ巨大都市として雑誌や資料に載っています。
毎月発行される旅行雑誌とかだと、一年に一度は必ず表紙に載る。
それくらい有名な所なんですよ。
歴史では五百年以上も昔になりますが。
当時からローレライ湖に浮かぶ孤島は、それが王侯貴族の避暑地だったそうです。
そこから人が多く移り住む様になって、都市開発が続けられた結果。
二百年程前に王都が孤島へ移ると、当時の女王陛下が名を授けてヴィネツィーラと呼ばれる様になりました。
島の大きさは東西だけで五キロ以上。
南北も三キロ程度はあります。
それでも、ローレライ湖全体から見ると小さな島程度です。
まぁ、湖の面積がシャルフィの国土面積といい勝負な大きさなので、と言う表現だと理解るかと思います。
ローランディア王国は、学業を始めとして多岐に及ぶ研究が盛んな国家です。
政治や経済もそうですが。
次代を育成する教育の分野が盛んな事でも知られています。
だから、エスト姉はローランディア王国へ留学したんです。
暮らしている人達を見た印象ですが。
服装はシャルフィの人達と変わった感じがありません。
サザーランドが特徴的だったと言えば、そこはそうなのかも知れませんが。
街並みの印象もシャルフィとそう変わらない感じを受けました。
とは言え。
湖に浮かぶ王都ヴィネツィーラは、水上の交通だけでなく。
水上輸送も当然と行われるために大きな港湾施設があることも特徴です。
ただ、資料を見る限りでは、ローレライ湖の沿岸に在る諸都市は何れも港と空港を設けている。
これだけでローランディア王国は、高い富力を持っている事が伺えます。
僕は未だ行ったこともありませんが。
ゼロムという大きな街は、ローランディア王国が世界に誇る先進技術の研究が盛んな工業都市だそうです。
魔導の技術研究もその一つ。
そして、魔導に欠かせない魔力鉱石。
魔力結晶石とも言いますが、これの純度が際立って高い鉱山が街の近くに在る事で。
今のゼロムは、それも在るから大きく発展したくらいは資料に載っていました。
後は、王都の南側から湖の上に掛けられた長い橋も有名というか。
雑誌では観光名所にもなっているようです。
王都ヴィネツィーラの南から伸びた橋は、全長が五百メートルを超す長く大きな橋です。
長い橋は所々に半円状の突き出た箇所が在ると、そこではベンチが置かれて休憩や景色を眺める際の憩いの場の様な造りをしています。
旅行雑誌には釣りのスポットとして、この橋が載っていました。
橋の一方は王都ヴィネツィーラの南端と繋がっていますが。
もう一方の端は、そこに陸路から王都への関所が設けられています。
まぁ、不審者の侵入を防ぐ意味とかはね。
そんなのは何処に行っても当然かなぁって思いました。
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前を歩くシルビア様は、何度も来たことがあるから慣れている。
直ぐ後ろを歩く僕は、初めて訪れた街並みの印象へ。
パッと見た印象はシャルフィと似ている感じでも。
王都全体を見下ろせる高台に建てられた立派なお城だけは明らかに違って見えた。
シャルフィにある大聖堂と同じゴシック建築で造られたお城は、それでも、旅行雑誌の写真で見た時から凄いって思っていた。
見た目、城門は、その高さだけでも30メートルは軽くあると思う。
その上の城壁も含めると50メートルはあるかも知れない。
ただ、王都から馬車で来る途中。
その時にも見ながら思ったんだ。
・・・・・此処まで大きく造る理由って何なの・・・・・
別に馬車程度の高さが通れるくらいでも良さそうなのに。
まぁ、城門がこれだけ大きいと、それだけで凄く威圧感はあるね。
大きな石を積み上げて造られた城壁と、ローランディア王国の国章が描かれた分厚い金属製の城門を通った先。
シャルフィの大聖堂とも同じ造りのお城は、通路も天井がとにかく高かった。
壁画がずらりと並んでいる所は似ているし、でも、シャンデリアが幾つも釣り下がっている所は大聖堂とは違うと思えた。
大理石の床に敷かれた赤い絨毯が道を作っている王宮は、僕の視線が上も下も右も左もを向く中で、案内されるシルビア様は階段を二階から三階へ。
三階から広いルーフバルコニーへ出ると、僕の視線は遠くにローレライ湖を映せる景色の良さへ奪われた。
「アスランは此処に来るのは初めてでしたね。王都を囲むローレライ湖も映せる景色は、それは時間帯や季節に天候をも合わせると、千差万別の景色を見せてくれます。私も此処から映す景色は、とても気に入っていますよ」
「何かこうグッと引き寄せられる。そういう感じで、でも、とても綺麗な景色です」
景色に持って行かれた僕の呆然な感想も、それを聞いたシルビア様は何処か楽しそうな声で「女王に許可を頂いた後なら。後は自由に見て来て構いませんよ」と、立ち止まったことで待っていた案内役を、再び先へ歩かせ始めた。
僕はシルビア様にやや遅れて歩き始めた。
けど、それも姿を消した状態のティアリスから促されて、慌てて後を追いかけた・・・の方が近い。
うん。
もっと見ていたかったのは本心だけど。
だけど、僕は遊びで此処に来たんじゃない。
今はちゃんと警護の仕事をしないとね。
白くも映る透き通った髪は、混ざる紫色が鮮やかなグラデーションをも見せていた。
シルビア様を迎えたのは、やや深みのある緑色のドレス姿をした見た目からはそう思えない齢五十も半ばの女性。
フェリシア・フォン・ルミエールで知られるローランディア王国の女王は、私的な場で使うサロンへ招いたシルビアを映すと、アスランからは品を抱かせる笑みを見せながら椅子から立ち上がって、そして歩み寄って来た。
「訪問の話は伺っていました。それで今日は会えるのをずっと心待ちにしていましたのよ」
「女王陛下もお元気そうで何よりです。また、こうしてお招き頂き本当にありがとうございます」
二人が親密そうに映るのは、それはカーラさんからも聞いている特に仲の良い関係だから。
直ぐにローランディアの女王様がシルビア様へ、「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう」等と柔らかい声を掛ける辺り。
アスランも予ねて聞いてた仲の良い関係は、事実そうなのだと抱いた。
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「ここから見える景色は、これも帰ったらシャナにも教えてあげたいな」
アスランはフェリシア女王から『自由に見学して構わない』許可を頂いた後で、今はこうしてルーフバルコニーへ戻ると、夕焼け色に染まった王都の街並みとローレライ湖を映しながら。
こうして見つめる景色を帰国後にはシャナにも教えてあげよう・・・・・・
シルビア様は今頃も未だ、フェリシア女王と二人で外交の話をしているはず。
その間はアスランへ王宮内を自由に見て回って構わない。
何となくでも。
アスランはフェリシア女王が自分を何処か懐かしいような眼差しで見つめるそれには、ただ、その部分は自身が勝手にそう思ったに過ぎない。
孤児の自分は、今日初めてフェリシア女王に拝謁したのだ。
つまり、逆もまたその通り。
「きっと、此処からこうして映した景色がさ。それで、僕にそう思わせたんだよ」
今日は天気も良いせいか湖のずっと先の方もよく見える。
南側から真っ直ぐ伸びている長い橋は、その先でお城の城壁をも伺わせる様な城塞も映せると、此処からでもあれくらい大きいと近くでならもっと大きく映る筈。
「そう言えば、エスト姉が住んでいる所は確か・・・・」
手紙を何度も交わしたから憶えている。
王都ヴィネツィーラからだと湖を挟んで北側にあるコフィという名の地方都市。
そこに在る学校へ通うエスト姉は、今もニコラさんと二人でアパートを借りて暮らしている。
学校の授業が終わると、そこからはニコラさんを教師にしての勉強で日々を送っているらしい。
そんな内容の手紙も貰った。
僕が毎週必ず送る手紙は、今は届くのを楽しみにしているって返事もあった。
「・・・・エスト姉。元気にしていれば良いんだけどね」
何と無くな呟きへ。
「アスラン。貴方が仕事をサボって景色に浸るなんて。良い御身分になりましたね」
「っへ?」
ズゴンッ!!
聞き覚えのある声に間の抜けたアスランの思わずな返事は、振り返る間もなく頭部を襲った激しい痛みが反射的に目を強く閉じさせた。
「っ痛~~」
「まったく。久しぶりに会えると楽しみにしていたのに。それを貴方はこうしてサボって居るだなんて。お仕置きの一発くらいは当然です。猛省しなさい」
この間違いなく懐かしいを抱ける声と激痛。
涙で視界も滲んだ僕の両目は、けれど、滲んでも誰なのかを直ぐに分かった。
「エスト姉。言っておきますがサボってません。ちゃんとシルビア様とフェリシア女王様から許可を貰って此処に居たんです」
「嘘つきは・・・・針万本ですよ」
「それを言うなら針千本です。勝手に桁を増やさないでください。ったく、恐ろしい」
目元に残る涙を袖で拭いながら。
そこで映したエスト姉は、服装もそうだし。
孤児院で暮らしていた時から見知っているのとは違う髪型も。
だから、なんというかこう・・・・・・
「暴力的じゃなければ。間違いなく美人なお姉さんですね」
ズゴォンッ!!
僕の含ませた言い回しは、こうして返事代わりの鉄拳が再び炸裂した。
・・・・・ああ、やっぱり。着飾ってもエスト姉の本性は、変わらないんだね・・・・・・
痛いのに懐かしい。
僕はとっても複雑だった。
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ローランディアの女王様が私的なサロンで主催した夕食の席は、そこにエスト姉とニコラさんの姿も在った。
僕はシルビア様の警護なので、ところが、この夕食の席へは賓客も同然な待遇で招かれた。
ローランディアの女王様は、夕食の席を楽しいものにしたいと。
それで無礼講になった夕食の席は、僕が勝手に誤解して拳を振り上げたエスト姉の暴力振りをシルビア様へ話した所で、けれど、シルビア様は可笑しそうに笑っただけ。
お咎めなんて一言も無かったね。
ああ、理不尽だ・・・・・
エスト姉の鉄拳は半端じゃなく痛いんです。
と言うか、僕じゃなかったら死んでいたかもね。
うん。
あれはマジで凶器だよ。
夕食の席は、そこでの会話中にエスト姉の今の状況なんかも聞けました。
ぶっちゃけ、エスト姉は何処に行ってもエスト姉だね。
ニコラさんの報告にも聞こえる話は、同年代の男性から誘われたエスト姉が有無を言わさず拳で黙らせた。
「という事もありましたので。私としては真面目に勉強へ勤しむのはそれとしても。もう少し羽を伸ばしても良いと思うんですよね」
「エスト。貴方が教員資格を得るまでは帰国出来ない。これは確かにそうなのですが。だからと言ってナンパの誘いくらいを拳で片付ける。そこは年頃の女の子でなくとも物騒過ぎると思います。ですが、そういう所もエストの魅力なのは違いありません」
「つまり、シルビア様はエスト姉の暴力は魅力だと・・・・あれですね。美女の毛皮を被った野獣だけに相手の男性は知らずに近付くべきではない・・・そうも言える魅力ですね」
今日はもう既に二発。
あの恐怖の代名詞を、無実の罪で喰らった僕のやり場のない憤りは、だからこのくらいは当然。
向かい側に座るエスト姉の怖いを隠さない笑みも。
僕は当然とエスト姉だけを態と視界に入れない様にして見ないようにしている。
「エスト。アスランにも悪気はないんですよ。本当はエストに会えるかも知れない。私は近くで見て来ましたので、それくらい楽しみにしていたんです」
「少し口が悪くなりましたね」
「フフフ♪ そんなの当然じゃない。この子だってこれから反抗期を迎えるのよ。貴女の反抗期を見て来た私から言えば、アスランは未だ大人し過ぎる方ですよ」
「それは・・・・でも、私は苛めだけはしませんでしたよ」
「まぁ、そうでしたね♪」
エスト姉の反抗期って・・・・・なんか想像しただけで物騒を通り越すんだけどさ。
踏み込むと藪蛇になりそうだから聞かないのが一番だね。
招かれたエスト姉とニコラさんは、それで今夜は王宮の客間に泊まるらしい。
僕はシルビア様が泊まる部屋に警護も在るので一緒だけど。
そのシルビア様が二部屋も借りるのは勿体無い。
結果、僕等は全員で一部屋を借りる事になりました。
せめて。
ベッドは人数分・・・欲しいです。
だって、身の危険があるじゃないですか。
僕の拭えない不安は、けれど、部屋に着いた所で人数分のベッドを映した途端。
大きな溜息を思わず吐き出すくらい。
僕は今夜、安心して寝れそうです。




