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第8話 ◆・・・ 舞台は再び ・・・◆


傭兵団イグレジアスは千人を軽く超える規模の傭兵団だった。

更に、イグレジアスに所属する傭兵たちの武器などは、ヘイムダル帝国の企業が提供している。

ここで特記すべきは、その企業が開発した小型の導力モーターを搭載した携行式の機銃を含む武装が、従来までの銃火器などと比べて数段は上に在る。


報告書の最後には、イグレジアスは戦い方も装備も含めて、これまでの傭兵とは明らかに異なるが記されていた。


読み終えたアスランの第一声は「・・・・だから、要警戒の相手だとユキナガさんが言っていたんですね」だった。

アスランが代官屋敷で傭兵ギルドから届けられた報告書へ目を通したのは、つい先ほどである。

カズマが情報の照会を頼んだ翌々日の昼頃に代官屋敷を訪れたのは、ギルドの支配人を務めるユキナガ本人だった。


届けに来たユキナガから「調べた故に申し上げますが。そこいらの傭兵等とは明らかに別次元の者達です」という忠告をカズマが受けていた。


代官屋敷の一室では、既に当然の面々が地図を囲んで同じように胡座を組んでいる。

ギルドからの報告書はアスランが最後に目を通した所で、それまで待っていたヨシミツの口が先に開いた。


「私からノブヒデ様にお願いした忍びの件ですが。山道の途中から先へは未だに行けぬ状況の報せが届いています。また、ギルドの方からも同じ内容の報せを受けている所です。何れも山の天気が酷く悪いために、調べが捗っていない様でございます」

「拙者もユキナガからその点は聞いておる。故に先日のマサカゲが敗れた後からは一度として付近の村が襲われておらん部分は合点も行く所じゃ」


胸の辺りで両腕を組むカズマの何度も頷く仕草には、聞いていたマサカゲも無言で、ただしこの中では一番大きく頷いた。


「カズマ殿とマサカゲ殿はノブヒデ様からの討伐の命もございます故に。しかし、現状では山へ踏み入れる状況でもありません」

「ヨシミツ殿。それがしは一応、今も重傷で臥せっている扱い故にな。おかげで外も出歩けぬ」

「そうでしたな。ですが、そういう策を先んじて講じたのはエクセリオン殿です。そして、敵は未だにマサカゲ殿が武者震いを隠せないでいることを知らないでおります」


ヨシミツは伏せている事情。

それで屋敷の外へは今も出歩けないでいるマサカゲが、溜まった鬱憤を娘のキキョウを相手に晴らしている。

屋敷の一角に設けられた道場では、敗北によって父から未熟者と叱られたキキョウが、今朝も二時間は父の竹刀で滅多打ちにされたくらい。

それは、もはや稽古にさえ見えなかった等と・・・・・

反対にカズマから刀の使い方を指南されるアスランの方が、此方は祖父が孫に手解きしている感で見ていて和むものがあった。


「ヨシミツ殿。それがしは先の負け戦を一日でも早く返したいと思っている。だが、師も語ったように此度は機が熟しておらぬ。その証拠に山の天候が全く以って優れぬ」

「それで・・・娘のキキョウ殿を鍛えながら機を待っている・・・ですか」

「当然だ。あの天狗娘もエクセリオン殿が完膚なきまでに負かした故にな。なに、鉄は熱いうちに打てとも云うであろう」

「なるほど。そこは正にその通り。そうして鍛え直されたキキョウ殿は、これで今年の御前武術大会も優勝を狙えるでしょう」

「さてな。久しぶりに手合わせをしたが・・・・・完全に(なまく)らになっておった。あれでは負けて当然だ」


最後は吐き捨てる様なマサカゲの口振りも。

聞いていたヨシミツは、それでも滅多打ちにされたキキョウの痣塗れを思えば同情も出来る。

本題からは脱線している両者の会話も、しかし、腕を組んだ姿勢を崩さないカズマは時折り頷いていた。

もっとも。

そのカズマの視線は今もギルドが届けた報告書を片手に、視線はずっと地図だけを映しているようなアスランだけを見つめている。


「(・・・ユイリン。敵は砦から今も出ていないんだよね・・・)」

「(・・・アスラン様。はい、賊は砦の外には出ていない様です。後は砦の辺りは強い風が雪を吹雪かせています。恐らくは視界も良くはないでしょう・・・)」

「(・・・ゴッキー。そっちからは砦の状況だけど。何か分かった事はあるよな・・・)」

「(・・・盟主。砦には賊だけで五百人以上は居るぞ。しかも、奴らは攫ったとかいう若い女達を好き放題にしておる。実にけしからん事だ・・・)」

「(・・・他には・・・)」

「(・・・うむ。これも我が同胞達が見聞きした限りではだが。敵は先の戦いでかなり消耗しているらしい。水や食料は未だ蓄えもあるようだが。弾薬などの物資は然程に残っておらぬらしいを得た・・・)」

「(・・・つまり、動かない事情には補給を待っている。も含まれるか・・・)」

「(・・・アスラン様。その件に関係あるかは分かりませんが。砦の裏手側。ちょうど山頂を越えた先に人為的に作られた小さな平地が在ります。恐らくは小型の飛行船がここに発着しているものかと・・・)」

「(・・・ユイリン。だとしたらだけど。その先の方に、つまり帝国の方だけどさ。地上に待機している小型の飛行船があるかも含めて調べてくれるかな。もし、そういう飛行船が在るならだけど。ゴッキーに中身を調べさせるよ・・・)」

「(・・・アスラン様。では、もうしばらくお待ちください・・・)」

「(・・・盟主。追加報酬を寄越せば、余も張り切って働くぞ。ではな・・・)」


おい・・・・

追加報酬って。

お前のせいで僕の評価は、特にキキョウさんからはがた落ちなんだけどね!!


「はぁ~・・・・ったく。けど、弾薬が殆ど残っていないなら。仕掛けるのは今かな」

「エクセリオン殿。今の独り言は」


アスランの溜息と一緒に付いて出た独り言も。

じっと見つめていたカズマは聞き逃さなかった。

と言うよりも、地図を中心に四人ともが近くで居座っている以上は、小さな声程度でも耳には入る。


カズマにやや遅れながらもマサカゲとヨシミツの二人から視線を向けられたアスランは、ただ、動じた感も無かった。


「携行式の機関銃やマシンガンのことは、それは先日にも話しましたが。肝心の弾薬が殆ど残っていない報せを受けています。つまり、今なら機銃掃射を従来ほどには心配する必要がありません。それから、イグレジアスが立て籠もる砦ですが。攫われた若い女性が何人もいるようです。酷い仕打ちを受けている報告も受けましたので・・・僕としては、敵の補給が行われる前に仕掛けるのが一番だと考えています」

「そのような情報。それも拙者が聞いたエクセリオン殿だけの忍びが手に入れたのであろうか」

「ええ、そういう事になります。それで、その・・・追加の報酬を頼まれました」


カズマの質問に答えながらも。

最後の方はアスランも歯切れがよくなかった。

しかし、両腕を組んだ姿勢で聞いていたカズマの視線は、そこから横目にマサカゲへ向けられた。


「うむ。優秀な忍びがだ。その程度の報酬で済むのであれば、報酬はそれがしが用立てしよう」

「ヨシミツ殿もマサカゲ殿もですが。またキキョウ殿を泣かせたいのでしょうか」


呆れ顔で苦笑いを隠さないヨシミツは、ただ、言うだけは言っておく。

この後でキキョウに降りかかる災難を思えば、自分くらいは同情してやらねば可哀想だと思っていた。


けれど、程なく討伐の件は、此処から如何にして賊を討つのか。

練られる作戦は、本腰を入れた検討へ移って行った。


-----


夕暮れ時のギルドでは支配人のユキナガが、そろそろ連絡も来るだろう・・・・・

そして、いつ連絡が届いても良いように。

此方から報告書を届けた後は、連絡を受ければ直ぐに赴かせられるよう一人の男をカウンターへ座らせると、酒とつまみを与えて待たせていた。


「ユキナガ。酒の追加じゃ。つまみも頼むぞ」

「分かっております」


そう短く答えたユキナガの仕草は、バーカウンターで今夜の仕込みを続けていた年若いバーテンダーが間もなく濃い飴色の蒸留酒が詰まった工芸品にも映るクリスタル製のボトルを一本と、そして干し肉が盛られた皿を男が座るカウンターへと届けに来た。


「フンッ。ユキナガ・・・こんな上等なウィスキーをボトルで寄越すとは、お主・・・儂に何か面倒な仕事を用意したな」


男はボトルのラベルを見ただけで、値の張る代物なことは分かっている。

軽く一杯ひっかけた後は、それで追加を頼んだに過ぎない。

ところが、運んで来たバーテンダーから恭しく「支配人からのサービスで御座います」等と言われれば勘繰るくらいはするだろう。


「はい。此度はちと面倒な者達を討伐する仕事ですので。ですが、ご依頼人は公国最強を謳われるカズマ様に御座います。前金も含めて、此度のそのウィスキーもまたカズマ様からの差し入れに御座います」

「そうか。サザーランド最強の侍が儂に助力を求めるか・・・して、あっちの方も話は通しているのだろうな」


男の年代はユキナガやカズマと近い。

だが、ユキナガは槍を持たせれば、男がカズマとも張り合えるかも知れないとは抱かされた。

事実、それくらい強い傭兵には違いなかった。


「勿論でございます。成功報酬の特約の方も・・・・しかと話は纏めております。遊郭で一番の美女を用立てられる程には用意して貰っておりますれば」


ユキナガは告げた途端、それで年の近い男の目付きが変わったことも察した。

自分やカズマは歳も歳で、寧ろ、この歳くらいになれば女を抱くことへ旺盛にもならない。

ところが、目の前の歳近い男は全くの正反対に旺盛過ぎて噂まで立っているのだ。


「グラディエス様。特約の件は全く以って問題ございませんが。そのですな・・・・ちと、趣向の方は噂も立っています故」

「なんじゃ。またその話か」


支配人が自分には伺いも立ててくれる。

だが、自分が遊郭で何と呼ばれているのかも分かっている。


「フンッ。乳で挟んだり口でしゃぶらせる程度は遊びに過ぎぬ。第一、遊女の股穴などは使い古しも同然であろう。じゃがな・・・真に女を知る儂から言わせれば。尻穴で喘がせ、悦ばせ、果てさせてこそ。ようやく極めたと言えるのだ。尻穴は中々に良いものじゃぞ」


力説は、そこで不敵な笑みを覗かせた男の口はユキナガへ、お前も一度は試してみろ・・・・・

グラディエスと呼ばれた傭兵は清々しい程に堂々と口にすると、サービスのウィスキーボトルを片手にグラスへと注ぎ込む。

普段はロックかストレートなのだが。

今日の呼び出しは、支配人から夜の出発も考えられると言われている。

そのため、珍しくハイボール仕立てを喉へ流し込んだ。


「まったく。グラディエス様のような趣向。カグツチでは他に聞いたこともありませんな」


両肩を竦めて見せるユキナガの呆れた声へ。

しかし、グラディエスは豪快に笑って返した。

近くでは今も仕込みを続ける年若いバーテンダーが興味を抱いたのか。

尻穴の良さを自慢げに語るグラディエスの話に聞き耳を立てている事へは、しかし、ユキナガも敢て素知らぬふりを通した。


グラディエスがカグツチに流れて来たのは、それも半年くらい前だろう。

聞けば世界中を自由に渡り歩いている。

そして、それぞれの土地で今のように傭兵をしながら。

稼ぎで女を抱く日々がとても楽しいのだとか。


カグツチでは遊郭を寝床にしているような有様で、しかし、時々起きる痴情絡みの喧嘩は有無を言わさない剛腕で鎮める等。

すっかり用心棒の様な存在として気に入られているくらいも知っている。


程よく酒も回った頃から始まったグラディエスの自慢話が盛り上がる頃には、ギルドへ稼ぎに出ていた傭兵たちが一人二人と帰って来た中で。

既にその方面の実力では、崇められる存在なグラディエスの周りは今宵も酒が弾むと一際に賑やかだった。


代官屋敷からの使者がギルドの暖簾をくぐって来たのは、丁度宴も真っ盛りな最中。

ただ、使者の用向きを受けた支配人のユキナガは、そして、グラディエスを直ぐに向かわせたのであった。


-----


「な、何故・・・アスラン。お主が此処に居るのだ」

「グラディエス団長こそ。というか、酒臭いです」


代官屋敷の玄関で、そこでばったり顔を合わせた直後。

ほろ酔いの顔で、しかし、驚きは全く以って隠せないグラディエスとは反対に、酒臭さには目を座らせたアスランが見上げていた。


アスランがグラディエスに団長と付けて呼んだ部分。

尋ねたヨシミツは、そして、自らも知っているカグツチで一番の傭兵が、実はシャルフィの元騎士団長だった事実には驚きもしたが。

しかし、故ならばとも納得した面持ちも見せていた。


玄関先での会話は、それでグラディエスのほろ酔い気分も吹き飛ばされた。

まぁ、アスランが睨んだだけでグラディエスの方がユリナ王妃を、再び思い出したからでもある。


「・・・・そういう訳ですから。グラディエス元団長にはキリキリと働いて貰いますね」

「う、うむ。了解した」

「サボったら・・・・潰しますよ」


グラディエスはこの瞬間も、またユリナ王妃が完全に重なって見えていた。

だから、潰すと言われて思わずアレも縮み上がるくらい強張りが走った。


「仕事はきっちりやり遂げよう。だが、しかし・・・まさか、このような所で後任のお前に会うとはのう」

「ええ、ですが。奥さんのエリザベート博士に何の便りも出さないのは、それもどうかと思いますよ」

「儂とあいつは互いに好きな事しかやらぬでな。あいつも便りなどを欲しがっていない筈だ」

「そうですか・・・ああ、でも・・・確かに。そうかも知れませんね」


言われてみると納得出来てしまう。

籍を置く大学では政治学科に通いながらも。

同時に、エリザベート博士とテスタロッサ博士の二人を専属の教師に学んでもいる。

だからと言うべきか。

エリザベート博士のものぐさでフリーダムな所を見ている生徒としては、日頃から手を焼くテスタロッサ博士には同情も板に着いた。


会話の途中では、そこで可笑しいを隠さないヨシミツからまで「此度はシャルフィの騎士団長殿が二人。応援としては、これ以上ないでしょうな」等と、わざとらしい揶揄も言われたが。

カズマとマサカゲの二人ともが、此処だけは首を縦に大きく納得の頷きも見せている。


夜を彩るカグツチの街は、そこから訪れた夜陰の静けさの中で。

際立って煌びやかな甲冑を着込んだ代官のヨシミツは、松明を掲げる三千の兵を率いてカグツチの北門から街道を北へ進軍を開始した。


ヨシミツは表向き、負傷して今も寝込んでいるマサカゲに代わって指揮を執る事になっている。

けれど、ヨシミツが率いる本隊が出立する数時間前。

未だ夜の賑わいも最中の街からは、先に旅装へ身を包んだカズマたち数十人が悟られぬよう数人単位で東西の街道へと消え去った。


そして、舞台は未だ天候荒れるアイーダ山脈へと移り始めた・・・・・・


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