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第5話 ◆・・・ 前哨戦 ・・・◆


――― ヨシミツから調査の許可を得た後 ―――


カズマは自らの用向きと合わせてカグツチの街を歩くアスランの案内役を買って出ると、そして、今は街の中心からやや西に在る大きな宿にも映る建物の暖簾をくぐっていた。


「エクセリオン殿。此処がヨシミツ殿も話されていた傭兵たちが集まっているギルドと申す所だ」

「何と言うか。此処だけはシャルフィでも見知っている酒場と、雰囲気も造りもよく似ていますね」


建物の外側はアヅチでもカグツチでも見慣れた造りをしている。

それが、傭兵の二文字を一文字ずつ分けると、それぞれを円で囲んだ紋が施された紫の暖簾をくぐった所で、建物の内部はアスランがシャルフィで見慣れた酒場と殆ど変わらない造りをしていた。


靴を履いたまま歩ける床は燻された色合いの板で敷き詰められると、木製の丸や四角のテーブルの他に椅子が幾つもある中で、バーカウンターとは別のカウンターの奥に一人。

カズマと年の近い感の男性は、灰色の髪をオールバックで整えると、上着は白のシャツに紺のネクタイと深みのある赤いカマーベスト。

ただ、ベストの左胸にはギルドの支配人を表す桜の花びらに虎模様を彫った純金のプレートを着けている。


カズマは支配人を目に留めると、真っ直ぐ向かい合う側のカウンター越しへ足を運んだ。


「これはこれはカズマ様。随分と久しくお会いしておりませんでしたが。ご健勝で在られましたでしょうか」


支配人の穏やかな声に、声を掛けられたカズマは当然と頷いた。


「ユキナガ。そう堅苦しい挨拶は無用で構わん。其方と拙者は幼少からの付き合いであろう」

「ハハ・・・分かりました。ですが、此度は堅苦しくなる必要もある件を持って来たのではありませんか」


カズマの隣でアスランが映すのは、互いに馴染んでいるを伺わせる口調と、今もこうして向け合う笑みからも、空気が和んでいるのは間違いない。

それでも。

ユキナガという人物は此処に訪れたカズマのことを、既に察しているようだった。


「カズマ様。恐らくは私もギルドの支配人として。此度はそういう用向きの件ではないでしょうか」

「そうだな。今更ではあるが、別に隠す必要も無い故。其方の方も察しているのであろう」

「なるほど。先日に代官のヨシミツ殿から頂いた依頼の件。それと関わりのある用向き・・・・で、宜しいでしょうか」


空気は今も和んでいるし、二人の会話も穏やかに聞こえる。

もっとも、そこへ互いの腹の内を探る感が混ざっているのは、これも間違いない。


「ユキナガ。ヨシミツ殿からの依頼の件だがな。屋敷で聞いた限りでは、どうも山の天気が悪いとかで調べが捗っていないを聞いて来た」

「それは間違いなく事実です。ただ、山賊の件では・・・・どうもただの山賊・・・等ではない。私の方でも気になっていたので、今回は特に信を置ける者達だけを向かわせております」

「そうか。其方がそう言うのであれば間違いはあるまい」


何かしら得心のいった感で頷きを繰り返したカズマは、ただし、用向きはそれだけでもない。

同様に、そんな雰囲気をユキナガも感じ取っているようだった。


「カズマ様は傭兵を・・・・それも、少数でも手練れを所望しているのではありませんか」


伺いながら瞳はじっと探る様なユキナガは、ほんの小さな頷きだけを返された所で、ゆっくりと大きく頷いた。


「一人だけ。いま此処に居る傭兵たちの中では間違いなく。桁違いな実力を持つ槍の使い手がおります。ただ、ちと女癖は悪うございますが」

「構わぬ。して、いくらで頼める」

「ギルドに傭兵を頼む際の代金は、それは仕事の内容により額も変わりますが。同じ仕事であれば、額も常に同じで御座います。ですが、その者は金の他に特約として若い女を所望します故。ですが、まぁ・・・此方は遊女でも良いそうです」

「分かった。では、その遊女を充てる分も含めて代金は用立てよう」

「では、ご依頼の傭兵は何方へ向かわせましょうか」

「まだ支度が整っていない故にな。改めて使いを出す故、その時には代官屋敷の方に来るよう頼む」

「依頼の件。確かに承りました」


会話が一段落した後。

ユキナガはカウンターの下に設けられた引き出しから数枚で一つになった用紙を取り出すと、その一番上の紙にペンを走らせ始めた。

やがて、ユキナガはペンを止めると、今度はやや大きめの丸い印鑑を、取り出した用紙の全部に押した所で一番上の一枚を剥がすように捲った。


「お待たせしました。此方が依頼人側の控えになります。まぁ、これも今更ではありますが。契約が完了するまでは失くさないようお願いします」

「うむ。この控えは拙者からヨシミツ殿に預けておく故。請求の類も代官屋敷の方へ頼む」

「分かっております」


カズマの用向きが終わるまで。

その間のアスランは隣に立つと、聞き耳だけを立てながら。

瞳は建物の中を上に下にと動かしていた。


・・・・・バーダントさんやハンスさんは、こういう場所で時々はお酒を飲んでいるんだよね・・・・・


未だ子供のアスランは、昼はともかく夜の酒場には入ったことが無い。

興味はあるが、シルビア様が許可してくれなかった。


大きな建物で、名前からして大勢の傭兵と呼ばれる人たちが居るものだと思っていた部分。

それは今もこうして三人だけで、後は階段の上の方も人の気配が無い。

程なく。

アスランはカズマの用向きが終わったこともある。

初めて訪れた傭兵ギルドを、今回は後にした。


-----


「(・・・盟主。余の臣であり同胞(はらから)共の報せによれば。この街中に三人の密偵が潜んでいることが判明した・・・)」

「(・・・ゴッキー。その三人は一箇所に纏まっているの・・・)」

「(・・・盟主よ。そ奴等は今、二人と一人に分かれている。二人の方は酒場の方に入って行ったが。残る一人の方は街の外へ向かっているようだな・・・)」

「(・・・じゃあ、酒場に入って行った二人の方は一先ず監視だけでいい。それで街の外へ向かっている一人は追跡するように。もしかすると、街の外にも連絡役が居るのかも知れないし。その時はティアリスとレーヴァテインの二人で確実に取り押さえる・・・)」

「(・・・盟主よ。余の働きへの対価。それを忘れるでないぞ・・・)」


対価と言われて。

けれど、あのゴッキーが欲しがるものくらいも分かっている。

とは言え。

その対価を快く提供してくれそうな知り合い等。

それこそ皆無だった。


「・・・・はぁ~~~~~」

「ん? エクセリオン殿。今のは何か思い詰めた様な溜息に見えたが」


ゴッキーとのやり取りに、それで分かっていても出てしまう溜息は、傭兵ギルドを出て今は街中の散策をしていたアスランの口から盛大に漏れていた。

そして、この故の大き過ぎる溜息は、隣を歩きながら今も街を案内してくれるカズマを訝しがらせた所で、ハッとしたアスランは反射的に首を横に振っていた。


「僕もヨシミツさんから許可を頂きましたので。それで、早速なのですが・・・敵の密偵を見つけました」


時間帯は夕暮れ時で、シャルフィの王都もそうだったが。

カグツチの街も同じように、この時間帯は賑わうらしい。

往来の中を歩きながらそこで鼻を擽る何かの肉を焼いた様な香ばしい匂いは、そこに少し焦げの混ざった感が食欲をそそらせる。

匂いだけで美味そうだと抱くアスランは、ただ、代官屋敷を出る直前には既に仕事を与えたゴッキーからの報告を、傭兵ギルドから出て程なくの所で受けていたのだった。


アスランが意図して抑えた声は、告げた内容に思わず足を止めたカズマも、しかし、直ぐに察した感は無言で頷いた。


「ティアリス。レーヴァテインと街の外へ向かっている方の追跡と・・・・後は分かるよね」

「マイロードの御意のままに。少し外しますが、何かあれば直ぐに呼んでください」

「任せたよ」


アスランが先にティアリスへ含んだ指示を出した所で、受ける側の方は意図を理解っている。

間を置かず一礼したティアリスが走って行くのを見送った後。

これも何かあるくらいを察して待っていたカズマに視線を戻したアスランの口は、殺した感の声が「じゃあ、僕らは街に居残っている方を捕まえに行きましょうか」と、再び今度は自分がカズマを案内するかのように前に出て歩き始めた。


「相手は二人で、その二人は今ですが・・・・此処からだと少し歩きます。でも、酒場に入って何か注文しているようなので。まぁ、今も監視してますし、だからゆっくり歩いても十分間に合いますよ」


カズマは前を歩き始めたアスランの斜め後ろを歩きながら。

けれど、一体いつという疑問は、それで視線が左右へ動くと、周囲の気配まで探る様な警戒感へ。


「カズマさん。忍びと同じです。だから僕も詳しくは話せません。ですが、実際に捕まえる事が出来れば。それで証明も出来ると思っています」

「なるほど。エクセリオン殿の方にも忍びの様な存在が居るのじゃな」

「そうですね。ですが、きっと間違いなく。忍びの方が格好良いと思います。僕のは、そうですね・・・・」


言葉を返しながら少し間を置いたアスランの口は、そして誰が聞いても分かる呆れた声が「僕の方のは、どうしようもないくらいな女の敵ですからね」と、振り返った表情に。

これも露骨な苦笑いの面持ちは、映したカズマにも意図せず間を置かせてしまった。


「う、うむ・・・・その、なんじゃ。エクセリオン殿も実に苦労されているのじゃな」

「ええ、ホント。あいつのせいで僕は余計な苦労ばかりが増えましたよ」


カズマは殆ど即答で返って来た声からもそう。

もっとも、それ以前からの会話も通じて、やはり何処か奇妙な感覚を抱いていたが、何と無くその奇妙な部分の答えを理解った気になった。


相手は、こうして見ると何処にでもいる様な子供なのだ。

身に着けている白地のコートには品を感じるが、今もこうして映る街の子供達と同じような姿であれば。

きっと間違いなく何ら変わりのない子供の一人に映るだろう。


それなのに・・・だ。

こうして言葉を交わすと、故に奇妙に抱いた。


・・・・・エクセリオン殿は、これで聞く限りは未だ7歳になっておらなんだ・・・・・


数え年なら7歳でも。

生まれ月では未だ6歳。

それでいて、剣の腕前は間違いなくサザーランドでも指折りに違いない。


・・・・・ノブヒデ様がその腕前を我がことの様に自慢もする娘のユキナ様との試合は、故にエクセリオン殿の全く底が見えない実力の方に驚かされたのだ・・・・・


だが、実力の凄さは剣のみでない。

指を鳴らしただけで神々しい光を伴う魔導も使える。

はっきり言って、魔導の方は、それこそあのように神々しくも映る魔導などを見たことが無い。

そこへ更に凄みを抱かせたのは、言葉遣い以上に洞察の深さを見て取れたからである。


・・・・・我が国には神童という表現もあるが。こうして見ても場数を踏んだ練達だけが至れる独特の落ち着きが見られる辺り。エクセリオン殿は神童すら悠然と凌駕するであろう・・・・・


密偵の話が出た所から今も前を歩くアスランの後ろを映しながら。

自分なりにはそれで納得もしたカズマは、ただ、底が見えない所へ。

漠然とでも行く末を見てみたい。

僅か数日でも、それは孫の成長を見届けたいにも似た感情を、この時に初めて抱いたのである。


-----


「(・・・盟主。その先に、吞兵衛と書かれた暖簾を下げている酒場がある。二人組は既に酒を何度も頼んで顔も赤くしているぞ・・・)」


アスランは前を歩きながら初めての街中でも、それこそ目的地へ向けて真っ直ぐ歩いていた。

道を案内する声は、こうして今も頭の中へ届く。

そして、言われた通りの酒場を視界に留めた所で、アスランの歩く足が止まった。


「カズマさん。さっきの話ですが、あそこの吞兵衛と書かれた暖簾の店がそうです」

「うむ。して、奴らは未だ店の中に居るのか」

「ええ、顔が赤くなるくらいには注文を繰り返して飲んでいるようです」

「つまり、向こうは此方に気付いておらぬな」

「その通りですね。どうも普通に食事を楽しんでいる。そういう感じだと思います」

「ならば、今直ぐの取り押さえは返って目立つであろうな」

「僕も同意見です。だから、どうせなら・・・・まともに歩けなくなるくらい酔っぱらって出て来た所で捕まえる。どうでしょうか」


最後に伺いを立てたアスランへ。

カズマは同意とばかりに、けれど、まるで可愛い孫でも見つめる様な面持ちで頷いた。


敵の密偵が未だ自分達に気付いていない。

アスランはカズマの誘いで吞兵衛酒場から通りを挟んで真正面に在る飯屋へ入ると、今も監視をしているゴッキーからの連絡を待つ間。

その時間はサザーランドならでは食事へ。

やや早めの夕食はカズマの勧める地鶏の串焼きを何本も頬張ると、子供らしい満面の笑みで満たされていた。


完全に日が落ちると、カグツチの街は、そこから夜の顔を映し出していた。

導力を使った照明は、それくらいカグツチでも当然と普及はしている。

小さな球の照明は、それ以前まで蝋燭の灯りを包んでいた提灯(ちょうちん)の内側で灯ると、今はこれが当然となっている。

店の格子窓から街中のそこかしこに灯る提灯を映したアスランは、カズマからこれがサザーランドの夜を照らす明りくらいを聞くと、形も此処から見える丸い物や卵型の様な物だけでなく。

長い筒状の提灯なども在るというのを聞いている。

また、店先に吊るして使う以外に、提灯は携行して使う事が出来る等。

シャルフィでは見ることも無かった提灯は、これもアスランの興味をそそるものだった。


アスランとカズマが吞兵衛酒場の向かい側にある店を出たのは、日も落ちてから二時間くらい経った頃。

その間にも、アスランだけにしか聞こえない声は、そして、ティアリスとレーヴァテインの方は街の外へ出たもう一人。

居残った二人とは行動を別にした一人が仲間と合流した所で、他に仲間がいないを確認すると瞬殺とも言える速さで捕縛を済ませた報せも既に受けている。

捕縛した者達はレーヴァテインが預かると、ティアリスは姿を消した状態で酒場にいる酔いも回った二人を近くで監視していた。


足元がふらつくなるまで飲んだ二人が酒場を出た所で、先ずは行き先を追うようにしてティアリスが監視を続ける最中に、アスランとカズマは間を置いて悠々と店を後にした。


「(・・・マイロード。連中は全く此方に気付いていません。何時でも捕まえられます・・・)」

「(・・・そうだね。ゴッキーの言う通りなら他に仲間は居ない筈だけど。念のために確実を喫したいかな・・・)」

「(・・・分かりました。私もマイロードの考えに賛成です・・・)」


アスランとカズマは、特に急ぐことも無く。

ただ、ゆっくりでも脚は二人組の行き先を追っている。


「僕の方では今も追っている二人以外に仲間は居ないそうですが。念のため、二人が何処へ行くのか。そして、本当に二人だけのなのか。そこまで確かめてから捕まえる予定です」

「なるほど、念には念をだな。拙者もそれが良いと思う」


アスランはゴッキーの実力を、その部分は信頼も出来る。

ただ、如何なる時も保険を掛ける事を忘れない。

この部分は、それこそ要職に就いて以降。

ティアリスから実地を通して学んだ『備えあれば憂いなし』が、そうさせていた。


けれど、今回に限っては、その点は何の問題も無かった。

酔っぱらった二人組は街中に在る宿の一つへ入ると、そのまま借りている部屋に着いた途端から寝息を立てていた。

酒臭さを充満させたまま寝入る二人組は、そして、目が覚めた時には代官屋敷の牢獄の中だった。

同時に、先に捕縛されると気を失って運び込まれた他の仲間達もそう。

一様に厳重な監視下に置かれると、完全に拘束されていたのである。


ブラムが動向を探るために送った密偵は、当のブラムも知らない所で全員が捕まったのだった。


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