第8話 ◆・・・ 教師エストとエレン先生?から学ぶ日々 ① ・・・◆
暦は9月へ移った。
シャルフィの気候は、この時期くらいから、気温差が顕著になる。
昼の時間帯の、汗ばむ様な夏の暑さは、相変わらずだが。
夕方と朝方の時間帯は、空気が涼しく過ごしやすくなる。
ただし、日が沈んだ後からの夜間はまた違う。
取り分け深夜は、昼間の暑さが、嘘のようにさえ感じる肌寒さもある。
過ぎ行く今年の夏。
シャルフィは、秋の季節を迎え始めていた。
エレンからアーツを習い始めて、一ヶ月余り。
今となっては、アスランの一日の時間割にも、新たな変化が生まれていた。
日々の当番仕事と、日課の剣術修行。
その後から礼拝を挟んで、朝食までは、これまでと同じ。
変わったのは、神父様が授業をしてくれる日と、手伝いやミサの日以外は、自由に過ごせた午前の時間。
午前中はミサの日を除いて、事務室で勉強という時間割が、当たり前になった。
しかも、習った計算を実践する形で、アスランは帳簿を付け始めた。
勉強は他に、エストの仕事を手伝う時もある。
けれど、朝食の後から事務室で帳簿を付ける勉強時間。
此処には、教える側の経験に基いた部分があった。
教える側の経験を多分に含んだ指導は、問題集を解くのとはまた違う。
ある意味、生きた授業とも言えた。
アスランが足し算と引き算を覚えた頃。
それはつまり、4歳の誕生日を迎える前になるのだが。
教えるエストの方は、自身の経験から。
日常的に数字と触れる時間を多くした方が、より習熟し易いのではないか、を考えていた。
そうしたエストの考えが、今の勉強方法を生み出した。
暦が9月に入る前。
エストは、相談に賛成してくれたスレイン神父の後押しもあって、今の取り組みを実行に移した。
アスランは今日も朝食の後。
他の子供達から外れると、一人だけ事務室へ移動する。
そして、これも決まってエストの隣の席へと座る。
元々、ここには机が二つしかないので、自然とそうなるのだが。
アスランは、朝食の後片付けで遅れてやって来るエストより先に事務室へ入ると、先ずは帳簿の中身をノートへ書き写す。
だいたい写し終える頃には、後片付けが終わったエストもやって来る。
最近は、これも当たり前の様になっていた。
此処から、アスランは書き写した数字を前にして、それを足し算と引き算で計算しながら、写しの帳簿を纏める。
最後は、計算が合っているかも含めて、エストに帳簿の写しを見て貰う。
これが、今の勉強の一つになっていた。
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金庫の鍵と金銭の直接管理は、スレイン神父がしている。
ただし、収支には全て、領収書などを含む書類が作られる。
ここで記載された金額数字は、それを帳簿に纏めながら整理する。
こうした事務仕事は全て、今はエストが任されていた。
事務仕事は元々、エストの先輩に当たる、二人の修道女が分担していた。
そこへ修道女になって帰って来たエストが、今は引き受けている。
という流れでもある。
当時の新米修道女へ。
二人の先輩は、一人前になるために経験を積んで貰う。
そういう理由で、何かと仕事を与えた。
子供達の当番仕事の管理。
炊事。
洗濯。
掃除。
事務。
買い出し。
その他諸々。
ぶっちゃけ、体の良い押し付けである。
エストが帰って来るまで。
それまでは、二人の修道女が分担していた雑務全般も。
今ではすっかり、エスト一人に任せている節がある。
けれど、全部を露骨にやらせてしまうと、スレイン神父から『では、二人は何の仕事を受け持っているのですか』と、尋ねられる。
神父は温厚な為人をしているが、耄碌とは未だ無縁。
それこそ、神父が日頃から人手が欲しい所へは、率先して手伝う性分だけに。
こうして温和に尋ねられる行為には、先輩修道女の二人ともが、それで怖さを抱くときがある。
二人の先輩修道女。
何れも年配のため、負担の大きい力仕事を避けている。
もとい、力仕事をエストが率先して担った結果。
比較的楽な掃除や洗い物など。
後は礼拝堂に出て、訪れた人達の応接を、二人は主に受け持っていた。
事務仕事も、何方かと言えば楽な方に入る。
ただ、エストは計算ごとを、自らの勉強になる理由で、率先して受け持っていた。
毎日異なる数字だから、飽きない。
エストは帳簿を整理する仕事を、だから自主学習の時間のように、楽しく過ごして来た。
毎月の給金から、算数の問題集を買うことも出来る。
だが、問題集の内容は、何度か繰り返すと答えまで暗記できてしまう。
そうなると面白みがない。
孤児院と教会の帳簿は、必然的に数字が毎日変化する。
他に、問題集と違って、此方は職責が伴う。
つまり、仕事であることが、良い意味で緊張感を与えてくれる。
スレイン神父は、エストのこうした姿勢を、とても好ましく抱いている。
そして、これまでの帳簿の数字が、正確に纏められている実績を、高く評価もしている。
故に、今回のアスランの指導についてもそう。
帳簿を用いた勉強方法を、自身へ相談して来たエストの考えには、賛成を伝えると、思う様に取り組んで構わない。
スレインは意識して、エストの背中を押したのである。
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エストに対するスレイン神父の信頼は、一言で、全幅も言い切れた。
こうして始まった新たな取り組みは、ただ、最初は実践するアスランが、午前中を全部使っても。
帳簿を、半分も纏められない日が続いた。
もっとも。
エストからすれば、当然の予想範囲内。
理解っているからこそ。
取り組むアスランを、エストは絶対、焦らせなかった。
そもそもの目的が違う。
帳簿を纏めるのが勉強。
ではなく。
写した内容で、足し算と引き算。
この二つの習熟度を上げるのが狙い。
だから。
帳簿は出来る所までで構わない。
そのために。
アスランには、写しで取り組ませている。
アスランには正しい計算と、そこから至る正しい答え。
それだけを身に付けさせる。
午前中の勉強を、エストは午後の時間までさせよう。
等とは考えなかった。
午後の時間。
それはまた別。
第一、無理やり強いた勉強は身に付かない。
そんな事は、自分が一番理解っている。
エストはアスランへ。
口にしなかったが、勉強も遊びと変わらない。
そういう感覚で、楽しく取り組んで貰えたなら。
未だ4歳のアスランには、十分以上だと抱いていた。
反面。
そうしたエストの思惑は、受ける側のアスランも、楽しく取り組んでいた。
午後の時間は、エレンとの修行に打ち込んでも。
夕食後の時間は、また取り掛かる。
夜の勉強時間中、その時には帳簿の写しも、アスランは纏め終える事が出来た。
アスランが纏めた帳簿の写し。
ノートへ目を通すエストは、計算の仕方に誤りがないか。
正しい計算でも答えを間違っていないか。
そして、何れも問題ない事を確認した後は、しっかり褒めることを忘れなかった。
褒められると、次も頑張ろう。
そう抱く部分も経験済み。
エストのこうした気配りは、指導を受けるアスランへ、確かな作用を与えていた。
エストはアスランに、算数を教えた最初から一貫して、『計算を疎かにして答えを間違うくらいなら。正しい答えのために。計算には時間を掛けて良い』と、常々口にして来た。
正しい計算が身に付けば。
早さは後から追いつくと理解っている。
算数を学び始めたアスランに大事なのは、正しい基礎を、しっかり身に付けさせること。
エストのこういった考え方が軸となって、そこから至った指導方法は、だからこそ。
スレイン神父は、安心して任せることが出来たのである。
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毎週行われるテストについて。
これは、前回のテストで判明した課題の克服が半分を占めると、後はテスト範囲にもなった問題集からが半分を占める構成だった。
因みに、問題集に載っていた問題が、そのまま出題等と、それは絶対にない。
けれど、問題集へ、きちんと取り組んでさえいれば、少し引っ掛けた問題でも、正答へ辿り着ける。
単純に計算。
ではない部分。
テストの問題文は、正しく読み解く力を求められた。
その点を、エストは作り手の凄さも含めて、後は自分も解いてみたい欲求さえ強く抱いた。
エストは、アスランが受けるテスト問題を、初めて見た時から気付いていた。
算数のテストにしては、問題文の要所で引っ掛けを伏せている。
一見すると見落としそうな箇所で、決して流すように読んではいけない罠があった。
だから、作り手の実力は、それがとても高いを実感した。
後になって、エストはこれがシルビア様の手製だと知ってから、より強く尊敬の念を抱いている。
以前には何度か、市販の問題集を買った事もあるエストは、毎週アスランに届けられる手作りの問題集を、最初から自分も解いてみたいが、今でもある。
はっきり言って、此方の方が遥かに解く面白みがあった。
それこそ、今でも教える時間の中で、ついつい自分も解く方に熱が入ってしまうくらい。
解けたときの達成感、市販の問題集とは比べられなかった。
それでも。
一度解いてしまった問題集は、繰り返すと、やはり暗記してしまう。
これも事実。
だから、これだけでは、アスランのためにならない。
自身の実体験を含めて。
そこから同じ計算方法でも、常に数字が異なる勉強方法を取り入れた。
こうしたエストの思惑も。
しかし、アスランの成長は、指導するエストの予測を超えていた。
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アスランが帳簿整理を、計算の勉強にし始めてから、しばらく経った頃。
最初は、夜の勉強時間で答え合わせの日々も。
そこから、エストが夕食後の片付けの後で、直ぐに行える日々へと移り変わった。
エストは、徐々に成果が表れ始めたと、喜びのような手応えを掴んでいた。
ところが、最近になってから突然。
自分よりは時間が掛かっても、アスランも午前中の内に、帳簿を終わらせた日が出たのである。
まさか!?、という衝撃は小さくなかった。
ただ、内心ではもう一つ。
『飽きた』のでは、という思考が過った。
最初から無理強いはしていない。
エストも初等科へ通っていた時には、時々は勉強よりも他へ興味が移った。
そういう時期も経験している。
その当時のエストは、これもシルビアから、『勉強ばかりだと息が苦しくなる。それに、子供のうちはいっぱい遊んで良いのです』と一端、勉強を離れて遊んだ思い出もある。
思い返すと、誕生日の後からはずっと・・・・・
アスランは午前中から、本格的な勉強の日々を過ごして来た感がある。
午後の時間は、図書室に籠ったりと別の事で過ごしているようだったが。
夕食後からは、また勉強している。
アスランの1日当たりの勉強時間。
そこでエストは、既に初等科の1日の授業時間数を、軽く超えていた事へ気付いた。
初等科の授業は、午前中で終わる。
8時から昼の12時までで、1日に四科目。
対してアスランの方は、朝食後からの午前中だけで、時間は匹敵している。
更に夕食の後から数時間。
午後も図書室で自習している時さえある。
思考は間もなく、此処に至ったからこそ。
エストは『飽きた』所で、これは仕方ない。
自然、納得した感で受け入れられた。
それに、ずっと計算を主体にした勉強ばかりが続いていた。
それも考えれば、飽きても不思議じゃない。
寧ろ、別の教科を、合間に入れなかった自分のミス。
胸中は『指導力不足』で、謝罪に近い自責の念だけが膨らんだ。
ただ、それでも。
午前もあと少しの時間帯になって、アスランから『終わりました』と、ノートを受け取ったエストは、これもいつも通り、先ずは内容へ視線を落とした。
『飽きた』と、抱いた思考。
直ぐに、それは間違いだと気付かされた。
アスランから終わりを告げられる1時間以上前。
エストは今日の分の帳簿整理を、既に終わらせている。
だから、見た瞬間。
自身の考え違いに気付かされた。
パッと見ただけで、答えが合っている。
そういう感触を得ながらも。
エストは答え合わせを始めた。
そして、此処で確かに答えが合っている、結果以上に驚かされた部分。
エストの瞳は、アスランが使うノートの余白だけを。
そこに消しゴムを使った痕跡のある『6・3=18』『9・3=3』を、はっきりと捉えていた。
この勉強方法を取り入れてから。
その最初と比べて、アスランの計算に要する時間が、今では相当早くなっている。
これは間違いなく事実だった。
付け加えるなら。
此処最近は夕食後の時間。
特に、自分が片付けから離れる前に、アスランは終わらせて待っていた。
エストも毎日続けていれば、アスランが来年には、自分と同じ位の速さで出来るようになる。
かも知れない・・・くらいは抱いた事がある。
実際、アスランはミスが少ない。
そして、計算は正しいのに最後の答え。
そこで躓く程度。
まぁ、そういう時は、見て分かるくらい勉強疲れを起こしている。
きっと、あれこれ考えて、集中し続けた結果。
脳が疲れ切ったんだろう。
ボケ~っとした表情を見れば、何か可笑しくもなった。
と言うか。
4歳の子供が、初等科の授業内容に、此処まで没頭出来る。
素直に凄い事だと思えた。
だから。
疲労回復に、甘い飴の一つもあげたくなっていた。
これはアスランにとっての遊び疲れ。
エストは、そんな風にも思える部分で。
けれど、初等科時代の友達。
一時期、住み込みでお世話になったパン屋の女の子も。
あの子も、今のアスランくらい。
本当に、勉強へ夢中になっていた。
彼女の成績は良かった。
そして、アスランのこういう部分は、非常によくに似ている。
つまり。
アスランも、彼女の様になれるかも知れない。
午前中の時間も、あと少し。
エストは、アスランのノートをチェックしながら。
浮かぶ当時の思い出へ、それはしかし、余白に残された筆跡によって、間もなく意味を理解したエストをハッとさせた。
エストは初等科で、算数を学んでいる。
当然、計算に使う記号も習った。
習った後で、今は極普通に使い慣れている。
足し算が『+』
引き算は『-』
今はもうパッと見ただけで、簡単なものは即、数字が出てくる。
エストが驚いたのは、まだ教えてない掛け算と割り算。
それをアスランが習得していた事実。
教えていないから、掛け算と割り算で使う『記号』を知らないだけ。
しかし、ノートの別のページ。
付箋が貼られたそのページには、アスランが独学で至った、九九の一覧らしきものを書き込んだ表が載っていた。
驚きは此処で、確信へと至った。
金額を纏める収支の帳簿とは別に、孤児院と教会で使われる日用品などの個数計算。
在庫の一覧等は、別の帳簿で纏めている。
勿論、エストは、これもアスランの勉強に使っていた。
確認を含んだアスランとの会話。
エストはアスランが、無自覚に掛け算と割り算を習得した事を理解した。
そして、ならばと掛け算と割り算で使われる記号を、せっかくの機会だと教えた。
裏に何も印刷されていないチラシを一枚。
エストはそこに、簡単な掛け算と割り算の問題を幾つか書き込んだ後。
アスランへ渡して解かせてみた。
九九の一覧を、独学で作った今のアスランなら、絶対に出来る。
そう抱いたエストの予想は、当たりを示す結果で現れた。
この瞬間、エストはアスランが既に、初歩の簡単な掛け算と割り算くらいは解ける。
そのレベルへ達した事を把握した。
『エスト姉のように、もっと早く計算が出来るようになりたくて。それで午後の時間も、計算の勉強をしていたんです。その時に2+2+2=6という問題を見て。2が3つあると6になる。それで気になって他の数字でも同じ様にやってみたら。15は5が3つで出来るとか。法則のようなものを感じてノートに書いたら。やっぱり法則のようになっている事が理解りました。あと、6を3個に分けようとすると1個は2になる。表を作ったら、そういうのも分かった感じで。それで今は暗記出来るようにしています』
まだ4歳になったばかりのアスランが示した実力。
それはエストとスレイン神父へ。
一種の才能だと抱かせる嬉しい驚きをもたらした。
ただ、二人が共有している認識もある。
これが才能だとしても。
そこには未だ未だ伸びしろが在る。
例えるならば、10年に一人の逸材なのかも知れない。
アスランは文字を学び始めてから、未だ一年に及んでいない。
にも拘らず、当人は今も没頭するくらい、夢中になって取り組んでいる。
自覚のないアスランには伏せたまま。
エストとスレイン神父の二人は、互いにアスランは『天才』の素質を持っている。
見立ても一致した。
しかし、それを二人が当人へ伝える事は、一度も無かった。
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指導するエストの予想を超えて培われたアスランの実力。
それはテストを重ねるごとに、エストとスレイン神父の二人へ。
やはり『天才』の素質を持っている。
そう強く抱かせた。
9月になって以降も。
そこで先週に行われたテストの結果。
午前中に届いた郵便物は、早速の様にアスランが、神父の私室へ呼び出されていた。
先週のテスト問題。
足し算と引き算の問題は、既に5桁が当たり前。
加えて足し算と引き算を、組み合わせた問題も出ていた。
そこへ掛け算と割り算の問題も含まれたテストの結果。
アスランは、二桁の掛け算と割り算の問題が、完全には解けなかった。
そこ以外は全問正解。
指導したエストは、今回も手応えを掴んでいた。
しかし、反面でエストは、テストの問題に、強い不満ともとれる疑問を抱いていた。
二桁の掛け算と割り算。
これは最近から少しずつ教え始めたばかり。
テスト範囲は、先に問題集が届けられていたが、そこからも少し外れていた。
そうした中で、アスランはテストに出された問題の内。
この二桁の問題も、全て出来なかった訳ではない。
割り算の正答に、小数点以下が含まれる問題。
掛け算の方は、一方に小数点の付いた問題の解き方が分からなかった。
つまり、小数点の解き方だけが、出来なかった事になる。
ただ、この部分。
エストは、テスト以前には教えてすらいない。
問題集の範囲外だった事が、教えていない理由の一つ。
後はこれまでの復習と、取り組み始めた二桁の計算。
二桁の計算は、未だ初歩の簡単なものばかりを、繰り返す段階でしかなかったのだ。
そうした事情が、エストは、テスト問題が要求したレベルへ。
強く抱いた疑念は、自らの考えを苦情のよう記した手紙をシルビア様宛てに、先日の内に出していた。
手紙には、現在のアスランへ指導している範囲を書いてある。
それから過去のテストで、指摘された課題に取り組む重要度などを綴った。
まして、4歳で初等科の3年生レベルの算数に取り組み始めたアスランへ。
対して、今回のテストの難度は、未だ教えていない部分を盛り込む等。
これはいくら何でも、非常識に過ぎる。
ただ悪戯に難しい算数問題をテストに盛り込むのではなく。
本人自身。
今の習熟度を知るための手段として、テストを活用している。
故にテストが持つ意味。
本来は此処ではないのか。
エストは初等科に通っていた折にも、時々はシルビアと会っている。
学生寮には、孤児院から入学した子供達と、怖いと恐れられる指導教官が共に生活している。
そこへ時々やって来るシルビアの存在は、子供達の誰にとっても楽しみだった。
同じ合同自習の時間でも。
シルビアが居る時は、時間の経つのを忘れるくらい、宿題や予習などへ取り組むことが出来た。
それでいて皆の理解らないところ。
この部分は、シルビアが黒板を使って、特別な授業をしてくれた。
その時のシルビアは子供たちへ。
悪戯に難しい問題を解かせようとはしなかった。
誰にでも解ける問題から始めて、そして少しずつ難しい問題へ取り組ませながら。
いつも子供達の習熟度を確認していた。
シルビアの特別授業。
エストはそこで、シルビアから『上の学年の子供が下の学年の子供の勉強を見ることにも。実は見る側の習熟度を深める良い機会になる』と、教えられた部分。
今でも薫陶と呼べるほど、大事にしている。
だからこそ。
エストはアスランへ用意されたテストに憤りも抱いた。
範囲にも無かった。
それで未だ教えていない内容。
何故、いきなりテスト問題に載せたのか。
今回の事は、どうしても納得できなかった。
憤りを抱きつつ。
けれど、シルビア様はもしかすると、アスランが今現在、どの段階まで学んでいるのか。
その部分を、正しく把握していないだけ、かも知れない。
そう思うことが出来た理由。
此処には、エストが知るシルビアの人柄が、深く関わっていた。
今も孤児院へ来る時間を作れない程、それくらい忙しいシルビア様だからこそ。
後は、これまでのテストの結果が良かったから。
それで、たぶん出来るだろう。
そういう風には、思ったのかも知れない。
だから。
シルビア様に、悪意は無かった。
憤った後で、冷静になろうと努めた。
それくらい、エストもシルビアを信頼している。
女王としての重責。
新聞では、幾度も外交で他国へ赴いている。
記事を読んで、実に忙しい。
それくらいは伺えた。
テストの内容に憤った翌日。
感情を整理し終えたエストは、一見すると抗議文。
そうも見て取れる手紙の中で。
自分が把握しているアスランの実力。
指導内容と、自分なりの考え方。
勉強に夢中になっているアスランへ、飽きさせないを意識した、今後の指導の進め方まで。
資格を持っていない本人は、故に、何ら意識していなかった。
だが、この時のエストの在り様。
それは間違いなく、『教師』そのものだった。
2018.5.7 誤字の修正などを行いました。




