第3話 ◆・・・ 要衝の街へ ・・・◆
見渡す限り、昼の空は灰色に染まると一帯の景色は木々もまた雪で覆われている。
そこへ今は吹き降ろしの風が強く流れると、然程ではない降る雪までが吹雪いているように映っていた。
視線を上げれば山頂も近くに映せるこの場所で、最初の造りは山肌に寒さを凌ぐための横穴を幾つも掘った程度。
そこから二月と掛からない間で、今は立派な砦へと姿を変えた。
出入り口の周囲は石を積んで基礎を作ると、太い丸太を組んで柵を設けている。
今は柵の他に見張り台も設けた事で、外観は間違いなく堅牢な砦に映った。
最初に居住していた洞窟は、今は外に丸太を材料に建てた家と、丸太と厚い板とを使って作り上げた二階建ての建物を幾つか構えた事もある。
洞窟は物資の保管庫も同然の役割へ変わっていた。
そして、この砦は今、一度は自分達の仲間をやりたい放題に殺してくれた憎き存在。
サザーランド大公国では公王の右腕と呼ばれるマサカゲを、今度は傷を負わせてやり返した勝利で大いに盛り上がっていた。
食事も酒も大盤振る舞いで、そこへ攫って来た若い女で欲望を満たす。
先日の勝利は、それから三日を迎えても祭り同然の賑わいだった。
配下が今日も酒と飯と女とで充足している最中。
砦の奥に設けられた一際しっかりした建物の中では、五百人を超える配下を束ねる存在が、およそ大抵の者達が印象する山賊とは掛け離れた感で、今も机の上に在る書類へペンを走らせていた。
「先ずは狙い通りに敵の将を負傷させた。今回はそれで良い」
何処かの国の正規軍の将校が着る様な整った上下共に濃い緑色の制服も、それこそ頑丈な作りをした黒のブーツもそう。
今は椅子に座っていても、その姿でさえ屈強な感を抱かせると、引き締まった顔立ちには精悍さがある。
そんな見た目は三十代くらいの男の呟きは、一度ペンを止めた所で、しかし、間もなく別の紙を手に取ると再びペンを走らせ始めた。
「此方は五百程度だ。それで八倍はある敵と戦って指揮官を負傷させたのだから十分な成果だろう。味方の犠牲が二十名程度で、対して向こうは確認できた分だけでも三百は死んだのだ。否、それ以上に火計を逃れた所で負傷者は少なくない筈・・・・・」
まぁ、今直ぐの再戦は無いだろう。
その間に此方は戦力の増強も欲しいが、最優先は先の作戦行動で著しく消耗した物資の補給。
水や食料は未だ十分でも。
消耗した武器弾薬は今直ぐにでも欲しい。
それで余計に今は考えなければならない事が多く在る。
男は日頃から伸ばし過ぎない程度に整えてある緑の髪を、それを煮詰まった思考をごみ箱にでも捨てるかのように両手でぐしゃぐしゃにした後。
そのまま椅子の背もたれへ体重をかけながら背筋を伸ばすと、両腕も今はいっぱいに伸ばした。
大きな伸びをした後で、男は机の上に置いてある呼び鈴を片手に鳴らした。
凛と響く鈴の音は、そこへ程なく扉を叩く音と声が返って来た所で、男は扉向こうの相手へ中に入るよう告げると、そして、入って来た見た目は同じような制服姿の未だ若い青年へ。
今さっき仕上げたばかりの書類を預けて下がらせた。
制服姿の青年が敬礼の後で出て行ったのと入れ替わるようにして、今度は見た目からして山賊を抱かせる身形をした同い年でも自分より身体の大きな男が中へ入って来ると、呼びもしないのに入って来たその男へ。
だが、男がかけた最初の声は穏やかだった。
「ブラム。お前は相変わらずだな。ついでに変装もよく似合っている。それで、兵達の士気はどうだ」
「お頭の大盤振る舞いのおかげで、頗る高い士気を保っていますぜ」
「そうか。それと俺の呼び方は、今は役作りもあるから構わんが。だが、他では改めろよ」
「分かっていますぜ。いいや・・・了解であります。ヴェンデル団長」
ヴェンデル団長。
そう呼ばれた緑髪の男は、此方もブラムと呼んだ同じ髪色の男に鼻で笑うと、その口からは長く付き合いのある腐れ縁のような感の声が続いた。
「奴らが此方を未だ山賊と思い込んで侮っている内にだ。その間に山脈の麓一帯を勢力下に置く。依頼元からは今週中に補給を受けられる連絡も届いた。補給と準備が整い次第、次の作戦行動へ移る」
「じゃあ、向いている奴を何人か偵察に行かせるぞ」
「ああ、それから・・・連中の動向を出来る限りは知っておきたい。マサカゲは当分出て来れないだろうが。あの虎も同然な公王のことだ。何かしらを仕掛けて来るのは間違いないだろう」
「分かっている。だから、向いている奴を行かせるんだ」
お前の考えている事くらいは見通している・・・・・
そうも言いたげなブラムの不敵な笑みを映して、ヴェンデルもまた再び鼻で笑った。
大食漢ゆえに大きな身体つきにもなったブラムを見送った後。
しかし、ヴェンデルは何か耳の後ろがピリッと痺れる感触に胸騒ぎを抱いた。
こういう感じの時は過去にもあったが。
それはいつも必ずと言って良いくらい悪い事が起きる。
思考は何か嫌な感が拭えない。
ただ、ヴェンデルは不安を全部吐き出す様に息を吐いた後。
椅子から立ち上がると壁に掛けていた大剣を手に取って、そのまま部屋も出ると外へ向かって歩き出した。
今の心境では簡単な仕事でも躓きかねない。
そうならない為にも。
「軽く素振りでもして汗を流すか」
事後処理のためにさっきまでは事務仕事に掛かり切りだった。
戦場を渡り歩いて鍛え抜いた身体も、事務ばかりでは鈍ってしまう。
ヴェンデルはこれも丁度いい気分転換になる。
余計なことを考えられなくなるくらい。
それくらいやれば不安も消えるだろう。
歩く足は程なく、雪が染めた白色の地面へ踏み出した。
-----
「マイロード。一人で馬に乗るのも、今はだいぶ慣れて来たようですね」
「ティアリスのようには操れないけどね。こうしてただ乗って歩かせる程度は、後はまぁ、軽くなら走らせられるくらいも出来るようになったくらいだよ」
「いいえ。それだけでも十分に立派です」
こうして今も馬を並べているティアリスとの会話も、けれど、この辺りは未だ目的地からは程遠いから出来る部分もある。
公都アヅチを発ったのが二日前。
今日の昼くらいには街道の要衝に当たるカグツチという街へ着く予定で、それも今の所は予定通りらしい。
「エクセリオン殿。貴殿はまだ6歳の身で大人が乗る馬をしっかりと歩かせられておるのだ。馬という生き物は不安を抱き易い。それだけに乗り手は自信を持って手綱を握らねば馬も安心は出来ぬのだ。そういう意味でも貴殿は立派に乗れておる。もっと己に自信を持たれるが良かろう」
アスランが乗る馬の右隣りは、ティアリスの跨る馬が並んで歩いている。
反対に、左隣りは道案内も兼ねて公王がアスランへ付けたカズマという名の侍が跨る馬が並んで歩いている。
三人の後ろにはレーヴァテインの跨る馬と、幻のミーミルが跨る馬が続いている。
つい先ほどまでは馬を走らせると、休息を挟んで今は馬を歩かせていた。
カズマという侍のことは、当人からも今年で五十になるくらいは聞いている。
その当人の口からは、公王からも聞いていた御武流と云う武術の正統後継者だという部分も道中の間、アスラン達はより詳しく聞いている。
とは言え、そのカズマ本人は「なに、全ては日々の精進故です」と、口調は至ってゆったりと穏やか。
白髪も多少は目立つ藍色の髪は、首の後ろで紅い紐で束ねると、長さは腰に届くくらい。
男性にしては小柄な方で、一見すると温和な面持ちに華奢にも映る身体つきも、しかし、ティアリスの見立ては隙らしい隙が全く無い。
普通に歩いているそれだけでも、アスランはティアリスから動きに無駄がないくらいも聞いていた。
『剣を交えずとも。彼の御仁の力量は十分に伺えます』
ティアリスがそう口にした事は、アスランにもカズマという侍がただ強い・・・・ではないくらいを漠然とでも感じ取らせていた。
そのカズマはというと、浅く染めたえんじ色の着物は上に羽織と呼ばれる同じ色の上着を着込むと、袴は灰色。
昔は足袋という靴下と草履を履くのが当たり前だったらしいが、カズマはお気に入りの靴を履いている。
聞けば、レナリア自治州に本店を置くシュヴァル・クリールという靴専門のメーカーを贔屓にしているらしい。
それも一般向けの商品とは異なってオーダーメイドの靴を何足も持っているのだとか。
「実は足の形というものも、それこそ一人一人が異なる故に。自分の足の形を正確に測って作られた靴というものは、それだけで足に一番馴染む。今では草履等は履けぬ様になりました」
袴を軽く持ち上げて愛用の靴を目立たせたカズマは、確かに公都を行き交う周りが履いていた草履とは明らかに違って見えた。
そのせいか、靴についてはシャルフィと似た感が何処か親しみも感じられる。
ただ、アスランは今まで服の方は知っていても、靴にオーダーメイドが在ることを知らないでいた。
そういう意味では、楽しそうに話すカズマの影響もあってか少しだけ興味を抱いたのである。
靴に拘りのあるカズマは、しかし、腰には刀を挿している。
当人も侍であるのは今更で、それと今回は単に道案内・・・等ではない。
カズマは、それこそ公王の懐刀は、負傷したマサカゲに代わって現地の兵を指揮するために赴いている道中に在る。
寧ろ、色々あってシルビアから山賊討伐を命じられたアスランの方が、地理に明るいカズマに付いて来ている方が正しかった。
-----
山賊の襲撃によって廃墟と化した宿場町より南側。
公都アヅチからは北に位置すると、ちょうど中間の位置に在るのが、カグツチと呼ばれる大きな街だった。
要衝とも言われるこの街は、街の外周を基礎に石を積むと上に塀を建てた壁で完全に囲んでいるだけでなく。
幅広く地面を深く掘ると、そこへ近隣の河川や湖から水を引いて作った水堀が街全体を囲んでいる造りが堅牢な印象を与える事で、だからそういう意味合いの言い方もされる。
しかし、正しくは東西南北の街道が交わっているからこその要衝なのである。
カグツチから北へ向かう街道はアイーダ山脈へと伸びるだけでなく。
そこから先の山々を縫うように走る険しい街道を越えれば、ヘイムダル帝国へと通じている。
東へ向かう街道はローランディア王国へと繋がると、西はアトーレ自治州やレナリア自治州へと繋がっている。
交通の要衝は、交易の要衝でもある。
公都に比べれば街の規模は小さくとも、それでも80万人が暮らす大きな街には違いない。
また、盛んな交易は此処だからこそ一番に入るものも多い。
アスラン達の一行が水堀の上に掛けられた長い橋を渡ってカグツチの南門をくぐったのは、公都アヅチを発ってから二日後の昼を迎えた頃だった。
サザーランド大公国には目立った山が多くない。
国土の北側に連なるアイーダ山脈が最もな山々で、中央から南端にかけては起伏こそあっても広大な平野が占めている。
しかし、この広大な平野には大小を合わせて数多の森林地帯がある上に、この森林を住処にしたギランバッファローの群れや俊敏で獰猛な虎も縄張りを作って生息している。
更に、その他の魔獣なども含めると森林と森林の間を縫うようにして走る街道の往来は、定期の乗合馬車と言えども必然して護衛の傭兵を多く雇うのが当然だった。
カズマはこのカグツチで先ず、負傷して戦線を離れたマサカゲの所へ赴いた。
そして、アスラン達もまたこれに同行した。
山賊の情報は、それを直に交えた者の口から聞いて置きたかったこともある。
後はまぁ・・・・不慣れな土地で、それから今の不穏な空気の中では、変に目立つ行動をしない方が良い。
現在のカグツチには最前線から運ばれた負傷兵が、取り分け重傷者だけでも千人を超えると今も病院や医療所の床に伏せっている。
それ以外の軽傷者とを合わせると、全体では三千に達する負傷者が今も治療を受けていた。
そこへ来ての指揮官の負傷は、山賊との戦いでの惨敗がもたらした影響が、それで水堀の外側で突貫作業も同然な柵の構築を今も急いでいる辺り。
カグツチを覆う空気が強い不安に満ちているのは明らかだった。
故に、誤解を招くような行動は特に慎むべきだと。
それはアスラン達が街へ入る前にカズマから受けた忠言でもあった。
「・・・・かように敗走するなど。ノブヒデ様に合わせる顔がございませぬ」
「いや。こうして直に仔細を聞く限り、敵は其方を侮っていなかった。寧ろ、其方の実力を恐れておる。故に幾つもの策を弄したのだ」
敗戦の責任を一身に背負った感は、顔にも表れている。
カズマは負傷したマサカゲを見舞う中で、今し方まで経緯を聞いていた。
場所は代官屋敷の中に在る客間の一室。
現在はヨシミツという名の侍が代官を任されると、仕事と私生活とをこの屋敷で送っている。
そして、先の戦いで負傷したマサカゲは此処で、ヨシミツが手配した医師たちから治療を施されていた。
マサカゲのことは、カズマに紹介される形でアスランも挨拶を済ませている。
酷い火傷を負ったせいで顔の左半分は今も包帯を巻いていると、白の寝間着は胸元や袖の先から映る胸や腕も包帯が巻かれているくらいで負傷が軽くないを伺わせていた。
軽々に悔しかった筈だ等とは言えない。
話の途中、マサカゲは幾度も声を震わせると、俯いたまま背中も布団を掴む両手も震えていた。
複雑に混ざり合って行き場の無い感情を、だから顔を見られないようにしていたくらい。
傍近い所で話を聞いていたカズマは、それも理解るからこそ。
今もこうして気遣う言葉をかけていた。
ただ、カズマの後ろで耳を傾けていたアスランには、話す声の感で凄く悔しかったのは間違いない他に、こうなった経緯の部分。
尋ねるカズマ越しに聞いた内容からは、相手が思っている以上に用意周到な印象を先ずは抱いた。
他にも、山賊にしては装備が整っている。
規模は聞く限りで四百人程でも。
にも拘らず、引き金を引けば嵐のように銃弾を放てる銃火器を、これも話を聞く限りでは全員が持っているらしい。
全ての戦闘が夜間だったために不確かな点は多く在るが、マサカゲが率いた兵達の中には、山賊が自分達へ投げつけた拳くらいの大きさの石みたいな塊が突然、大爆発した。
更には、山賊が暗闇の空に小さな太陽を幾つも灯したなど。
太陽のようなものは、空からゆらゆらと落ちて行ったが。
その間に照らされた此方は、当然と一方的な攻撃に晒された。
しきりに感情を静めようと深呼吸を挟みながら話すマサカゲの口からは、自らが率いた兵達からそういう証言が幾つもある。
そして、じっとして耳を傾けるアスランが、徒党を組んだ山賊にしては用意周到と感じる最もな部分。
装備も戦い方もそうだが、山賊にしては練度が高過ぎる。
シャルフィには山賊と呼ぶような存在は殆ど居ないが、王都でも近郊の開拓地区でも泥棒はそれなりに居るし、そういう者達が幾人かで徒党を組んで悪事を働くくらいは見知っている。
というか、要職に就いて以降の時々は、そういう輩の逮捕に自ら陣頭へ立っていた。
もっとも、この点はこれも騎士王から場数を踏むようにという指示があったからでもある。
そうやって積んだ経験と、その過程でさえ特にティアリスから学んだこともある。
幼年騎士になって以降から培った部分は、故に今のアスランへ。
山賊の件ではカグツチを出る前に、それより先に実態を出来る限り正しく知る必要があるを抱かせていた。
-----
「なんと・・・これが、魔導の力とな」
直に体験したマサカゲの驚き一色の声と面持ちも、それを傍で見届けたカズマの見開いた瞳もだが。
反対に指を鳴らしただけの方は、この程度は大した事でも無い。
「どうですか。もう痛い所は無いと思いますけど」
「うむ。医者が処方してくれた痛み止めですら殆ど効き目を感じられなかったが・・・しかし、この金色の輝き。ヨシミツ殿が手配してくれた魔導を使う医者のそれは見知っている青い輝きなのだが。しかし、それと比べてエクセリオン殿のは神々しいだけでなく傷を瞬く間に癒えさせた。いやはや、凄いものだと実感しておるところだ」
なんてことは無い感のアスランの声も。
その凄さへ無自覚な当人より、直に受けた側と見届けた側の二人ともが信じ難い顔を今も見せている。
マサカゲとカズマの二人とも魔導の存在くらいは知っている。
サザーランド大公国でも特に高価な魔導器をそれなりには買い揃えると、今も魔導を使える者達の育成は推し進めている。
しかし、二人ともが揃って驚いたのは魔導器を使わずに、ただ指を鳴らしただけ。
それだけで今は大怪我をしたマサカゲ自身、負傷が完全に癒えている事を、だから信じられない感の驚きを隠せないでいる。
アスランはカズマとマサカゲの話が一段落するの待って、最中から抱いた疑念も今は脇へ置くと、これも受けた勅命に含まれる負傷者の治癒に当たっただけに過ぎない。
マサカゲの負傷を完全に癒した所で、アスランは他の負傷者達が治療を受けている病院などへ赴くために。
然して間を置かず席を外すための挨拶も済ませると、直ぐに立ち上がって部屋を後にした。
アスランは確かにシルビア様から山賊討伐の命を受けると、今はこのカグツチの街まで赴いた。
ただ、シルビア様から受けた命は他にもある。
先の戦いで負傷した兵達の件では、現地の医者達が猫の手も借りたい程に追われている有様だと。
この事を知ったシルビアは当然と公王へ、アスランの派遣を申し出た後。
御所では実際に実力も披露したアスランは、それもあって公王からも助力を求められた経緯がある。
まぁ・・・・・・
治癒の実力は、そこには証明するために特段の問題も無かった。
ところが、剣の実力の方では、相手の方から今にも突き刺されかねないくらい睨まれる羽目に遭っている。
何と言うか。
騎士団で日常的に行われる試合稽古は、そこでアスランがティアリスやレーヴァテインから課された枷とでも言える部分。
相手との実力差を埋める理由でアスランにだけ課された枷は、手加減をする際の癖にまでなってしまったらしく。
その癖が公王自ら審判を務めた御前試合でも出てしまった結果。
立ち会ったカズマと公王を、その癖が大いに笑わせると楽しませた反面で、当然と相手はアスランを睨んだ。
それもこれ以上ない恥ずかしさを顕わにした表情で目に涙まで溜めると、だから、突き刺しかねないくらいきつく睨んでいたのだった。
ただ、この件に関しては、公王もカズマもアスランの実力を認めてくれた。
故に、此度の山賊討伐の件。
アスランは公王からも実力を認められると、そして、カズマと並んで此処まで来たという次第でもあった。
代官が付けてくれた案内役の侍と共にアスランが赴いた病院と医療所は、そこで目にした神々しい現象を見た者達の声が、当日の内に街中へと広まる事態へ至った。
病院と医療所には、何方にも治癒の魔導を扱える者達が何人かは居たのだが。
その者達が使う治癒の青い光と異なって、アスランは軽く指を鳴らしただけで金色の繭が負傷者達を包み込むと、瞬く間に全快へ至らせた事で、それで噂に尾鰭を幾つも付ける騒ぎにまで発展してしまった。
『生き神様』
屋敷を出てからの1時間程度の間で、再び戻った時には既にそういう声が幾つも聞こえていたくらい。
そして、ここで尾鰭の付いた噂は、ブラムがカグツチへ送り込んだ間諜たちの耳にも届いていた。




