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幕間 前編 ◆・・・ それぞれの今 ・・・◆


新聖暦2085年も最後の月を迎えた。

シャルフィ王国のこの一年は、挙げれば事件は幾つも在ったが。

この月になって振り返る者達は、まぁまぁ平和だった。

そういう声くらいも聞こえて来る。


手首まですっぽり収まる長袖と、足首の少し上程度までを覆う白地コート姿は、暑い時期くらいまでは怪訝な視線を毎日の様に向けられた。

それも今の時期になると、今度は掌を返した様に関心も集めない。

あくまで、服装の方は・・・である。


「エクセリオン様。今日も見回りご苦労様です」


昼休みの後から午後も早々に王都の中央市場を歩く黒髪の少年騎士は、市場に並ぶ露店の一つを切り盛りする壮年の男性店主から自分への声に足を止めると、当然の様に軽く一礼を返した。

巡回は日課の散歩の様なもの。

そういう気楽な感じで歩きながら。

反対に意識は防犯へしっかりと向けられている。

この辺りは鎮守府を預けるバーダント総監代行からも『まぁ、押さえる所を押さえて。後は気楽にやるのが周りを不用意に警戒させないコツ』だと教えられている部分。


「バーダントさんも巡回をしていると思いますが。今日も異常は無いでしょうか」


黒髪の少年騎士の尋ねに、先に声を掛けた店主はわざとらしく両肩を大きく竦めながら。

やれやれと言った感で首を横に振る。


「いやぁ、本当は事件でも起きてくれて。そんでエクセリオン様をお呼びして閃光の如く片が付く所を拝みたいもんですがね。生憎と平穏そのものでさぁ」

「事件が無いのは、それが一番ですよ」


まったく、何を言うのかと思えば・・・・・

内にそうは抱きながらも、少年騎士は笑って返す。

どうやら今日も平和な一日を過ごせそうだ。


そのまま足を止めて会話をした後で、店主に挨拶を済ませた少年騎士は再び、露店が居並ぶ市場の賑わいへ溶け込む様に消え去った。


-----


日課の散歩。

もとい巡回業務の終点は馴染んだ住処。

出入り口の門柱にも、鎮守府の看板が今ではすっかり馴染んでいる。


「これはエクセリオン様。今日もお務めご苦労様であります」


立哨している兵士からの何処か肩に力の入った敬礼にも。

今ではこれも何と言うか。

内心では「慣れだね」等と呟きながら。


「今日も朝から寒い中で、本当にお疲れ様です。交代の時間まで、よろしくお願い致します」

「ハッ。恐縮であります」


返って来る返事の方が肩に力が入っている。

自分は萎縮させない様に声色も意識したのだが。


息を一つ吐いた所で。

黒髪の少年騎士はカチンコチンに固くなって立っている。

そうとしか見えない兵士へ。


「もっと楽にしてくれないと。此処の診療所なんかを利用する人達も近付き難くなります。親しみを持たれる接し方を意識してくださいね」


この兵士は生真面目なんだろう。

そうは思いながらも。

だからと言って、鎮守府の中に設けられた診療所や保養所は、今日も多くの人達が利用している。


真面目が過ぎて誤解される前に。

兵士の横を通り過ぎながら言うだけは言っておく。

こんな事もまた、一応は仕事の内に入るのだ。


発足当時はハリボテ小屋と、手作りの入浴施設くらいだった。

地面は殆どが更地で、サウナも同然の休憩所は誰も使わず。

代わりに地面へ直接大きな日傘を突き挿して涼んでいた頃もある。


今は・・・・・

敷地内は整備が概ね終わっている。

煉瓦を敷き詰めて造られた道と、誰もが利用出来る以上は憩いの場という部分も必要という事で芝生の他。

秋から冬には葉が黄色や紅く染まる樹木が植えられた並木道と花壇も設けられた。


鎮守府は王都の治安を司る要。

整備が概ね終わった以降は常時、三千人の兵士が詰めている。

そして、中央地区の各詰所へは此処から交代で兵士が派遣される仕組みへ移行した。


新しい枠組みは目下の所で試験段階に置かれている。

ただ、こうして運用を根本から変えた都合。

鎮守府には兵士達の宿舎施設は言うまでも無く。

これだけの大人数を置く以上は、衣食住の環境も整える必要がある。

必然して、健全な業務を行う上で必要だと思える施設等は一纏めに設置された。


診療所は、故にその一つ。

保養所は、まぁ・・・おまけの様なもの。

と言うか、大浴場を含めたリラクゼーションルームの名称が『保養所』へ至ったに過ぎない。


兵士が使う大浴場は、これでジャグジーだとかと色々取り付けてしまった結果。

噂を聞いた者達の『自分達も利用したい』と言った声を受けて。

午前10時から午後10時までと時間帯を設けて開放している。


少年騎士の足は煉瓦造りの道を歩きながら。

間もなく視界は目的の施設を映した。


見た目は煉瓦造りで縦長の三階建て施設。

少年騎士の足が一階に在る受付けまで赴くと、磨かれて木目の綺麗なカウンター越しで、此方に気付いた制服姿の若い女性が椅子から飛び上がる勢いで立ち上がった。


「エ、エクセリオン様。い、い、忙しかったとは言え。気付くのが遅れて申し訳ありません」


見上げた先であたふたと慌てている自分よりも十歳以上、年上の女性職員は、入り口から見えた時も何か書類仕事に追われている様には見えていた。

仕事で忙しかったのだから特段、気にすることも無いのに。


「別に気にしなくて構いません。それよりも、今日は何か在って仕事が増えているのでしょうか」

「ええっとですね・・・その」


途端にそわそわと何か言い難いのだろうか。

少年騎士は、自分の背丈より少し高い所に在るカウンターへ身を乗り出そうと床から軽く跳ねた。

身長が全然足りていないのだから仕方がない。

ピョンと跳んでカウンターに肘と腕を乗せると、そのまま上半身をグイッと押し上げた所で。

この女性職員が何を言い難そうにしていたのか。


カウンターの向こう側は、そこから一段下にもう一つのカウンターが置かれた造りになっている。

机ほど奥行きは無いが、事務仕事をするのに困ることも無い。

そして、瞳が映した数十枚は在るだろう書類束。

年末は仕事が増えるくらいを聞いていても。

そこから職員の手元に広げられた数枚へさっと視線を流した所で、もう聞くまでも無かった。


「はは・・・バーダントさんには難しい書類仕事・・・は、させない方が良さそうですね」

「も、申し訳ありません」


必死に何度も謝ってくる女性職員だったが、それを受ける側はやれやれと首を横に振ると、子供らしくない大き過ぎる溜息だけが漏れていた。


「ここから執務室に持って行くのも面倒なので。だから少し場所をお借りしますね。後は僕の職権で処理します。それに・・・この書類を受け取りに来たのも用事の内なので。ただ、まぁ・・・」


・・・・・このままじゃ、カーラさんが怖い顔になるのは間違いないからね・・・・・


間もなく。

黒髪の少年騎士は、そして、カウンターの半分を借りると真新しい紙の上へ。

さっきまで一生懸命直そうと頑張っていた女性職員から筆記用具を借りると、ペン先を走らせ始めた。


読み通り。

とは少し違う。

けど、何と無くな不安は在った。


だから、早めに来て良かった。

そう思いながら誤字と脱字に塗れた。

付け足すと計算が、使う式も含めて全く合っていない。


はっきり言って。

最初から作り直した方が見た目も綺麗に仕上がる。

指先が掴むペンは、真っ白な紙の上を滑る様に走っていた。


-----


場所は王宮に在る騎士団本部。

先王の懐刀と謳われる先代の騎士団長が去った後。

騎士団長が執務を行う部屋は今、王国最年少の騎士が働く場所にはなっている。


なっているのだが・・・・・


目通しして貰わなければ判断も処理も行えない。

そういった類の書類を両腕に抱えて運び込んだ王国最年長の幼年騎士は、先ずは扉越しに参上したことを告げるのだが。

今日も今日とて返事は無し。

もっとも、こんな事は既に日常茶飯事と化している。


本来は初等科教育が必要を理由にして、それで『幼年』の呼称が付く騎士の位。

それを中等科に籍を置く自分は、陛下から卒業まで『幼年騎士』を言い渡された。


騎士団長の机に書類を置いた後。

最年長の幼年騎士は片腕で茶色の前髪を掻き上げた。


「鎮守府の仕事を片付けたら戻ります・・・・か」


机の上に在った書置きを、そのまま声にして読んだ幼年騎士は、命じてくれれば良いものを等と内に呟きながら。


「我らが団長様は、本当に仕事熱心だからな」


そして、最年長の幼年騎士はならばと。

一度は机に置いた書類束へ手を伸ばした。

自分には判断も処理も。

その決定権は無い。

無いが、無造作に積み上げられたままでは目通しも楽ではない筈。

そう思えるからこそ。

せめて、項目別に仕分けしようと手を動かし始めた。


-----


騎士団の屋外訓練場。

そこは冬の寒さなど全く寄せ付けない。

少なくとも、現在は騎士団長代行を担う聖騎士の大きな声が際立って響いていた。


「良いか。素振りは、ただ振るのではない。一つの素振りに足の運びや重心の移動。足もただ動かすのではなく。自分に最も適した歩幅を素振りの中で染み込ませるのだ」


見るからに汗で塗れたハンスの髪は、今日は朝から立っているだけで凍える寒さにも拘わらず白い湯気を立てている。

指導を受ける者達は、その殆どが騎士見習い。

後は先日の実力考査。

そこで良くない成績だった従騎士が、団長命令での強制参加。


しかし、ハンスの指導は以前まで在った悪しき伝統から。

現在の騎士団長が発した命令もあるが、見て分かる程かけ離れていた。


-----


王宮に在る女王と宰相が共に仕事を行う執務室。

今年もまた最後の月を迎えた。

だからと言って、どうということも無い。


「カーラ。この案件だけど、もっと具体案を盛り込んで練り直す様に。見通しの基が曖昧過ぎるわ」


あの日以来は特に執務中の目付きに鋭さを帯びた女王の声へ。

補佐を務める宰相は恭しく「分かりました。担当部署の方に伝えて置きます」と、女王の人差し指と中指に挟まれた書類を受け取ると直ぐ再検討の箱へ移した。


「カーラ。エストの件だけど、まだ迷っている・・・感じなのかしら」


執務の合間に設けられた休憩の時間。

尋ねたシルビアは紅茶で満たされたカップを片手に、もう片方の手は下から添えるようにして覗き込んでいた。


「恐らく、本心では行きたいのだと思います。今日までに何度も話をしましたが。私はエストさん自身も強く行きたい欲求が在るくらいは感じています」


聞いているシルビアは、カップを覗き込んだ様な姿勢で頷いた。


「ですが・・・エストさんにとって最もな気掛かり。子供達のことを想う強い気持ちが、それが本心を抑え込んでいる。私にはそうも見えました」

「やっぱりね・・・」


何度も小さく頷きながら。

見知っている以上に理解っている。


「ねぇ、カーラ。悪いのだけど、後で時間を作ってくれるかしら。エストと直接・・・ちゃんと顔を合わせて話をして来ます。私はエストの・・・・あの()の背中を押してあげたい」


カップを覗き込んでいた視線を、今は真っ直ぐ親友に向けて。

瞳が映した親友は、当然だと。

柔らかい表情で頷いてくれた。


「今日明日・・・という事では無理ですが。来週には午後を丸々使える程度。何処かでそのくらいは空けられる様に調整します」

「ありがとう。じゃあ、今週はその分も頑張らないとね」


カーラはシルビアから先に、自分が付け足そうとした言葉を口にされた。

ただ、今の親友は吹っ切れたかのように勤しんでいる。

ここ数ヶ月で振るった大鉈は、中には振るわれた側から滅多切りだとの批判も上った。

それでも。

シルビアは対立する既得権への威光を強くした。


女王がそういう姿勢を以前よりも明確にしたのは、何も知らない息子の在り様に思う処が在ったから。

まぁ、感化されたとも。

或いは触発されたとも言える。


未だ明かしてはいない。

だけに、息子に見せて来た聖人君子が、真実メッキなどではないを示そうとしている。


おかげで。


・・・・・フフ。今月もエステの代金は安く済みそうね・・・・・


ストレスが溜まらない。

それは実に喜ばしい事だった。


-----


エスト達の避難所生活は、先月末の引っ越しを機に終わりを迎えた。

そして、これが7月の襲撃事件で生まれた避難民の避難所生活の終わりでもあった。


新たな家は、その場所にエストは馴染みが在る。

良くも悪くも思い出が詰まった学生寮のすぐ隣で、完成したばかりの新居は、以前の孤児院と比べれば格段に小さい家には違いない。

それでも。

子供達の部屋もちゃんと足りている。

温かみを感じられる木製のベッドと、そこに敷かれた寝具はどれも新調された物。


私もそうだけど。

子供達が凄く喜んでいた。


台所は導力式のシステムキッチンで、リビングの広さは全員で食事をしても余裕がある。

教会に在る様なものは何一つ備わっていないけれど、此処からなら大聖堂までは歩いて直ぐ。

朝夕の礼拝も問題ない。


私がして来た子供達への授業は、それは隣の学生寮の部屋を使って構わない。

洗濯や入浴も同じ。

その辺りはカーラさんからも聞いている。

だから新しい生活は、本当に恵まれている。


エストは新しい住居の二階にある私室で、今夜もニコラの指導を受けると、ノートへペンを走らせていた。

教員資格のことだけでなく勉強の方はどうしても熱が入った。

自分をここまで熱くしたもの。

負けたくないを、強く思った。


― あっさり追い抜かれた ―


中等科への編入では、それこそ夏休み中の期間を勉強漬けで過ごした。

だけでなく。

マリューの実家を手伝うようになってからも。

夜は欠かさずニコラの指導を受けて来た。


編入してから最初にあった中間試験。

エストはいきなり学年トップの点数を叩き出した。

学校の先生方が伝説の再来とか、伝説は本当だったとか。


真実は、ニコラさんの教え方が上手いからなのだけどね。

でも。

自分でも思った。


・・・・・これなら飛び級だって狙えるかもしれない・・・・・


中間試験のことは、それを私はマリューにも話した。

マリューは王宮の専門学校で、そこの中等科で首席だってことも聞いている。

そのマリューは、とても嬉しいのが分かる。

そんないっぱいの笑みを向けてくれた。


『流石、エスト先輩ですね。編入していきなりだなんて。私なんか地味にコツコツでしたよ』


ちょっとだけ自虐な言い回しだったけど。

マリューは自分のことの様に喜んでくれた。


そう。

この時までは、私も素直に嬉しいで満たされていた。

ただ、その時の会話の流れは、私がマリューにアスランのことを尋ねたところで一変した。


『アスラン君は、いいえ。今はエクセリオンの名前で皆から呼ばれていますが。既に高等科へ籍を置いています』


マリューは復帰した後で知り得たくらいを教えてくれた。

アスランは9月の末に受けた実力考査という試験みたいなもので、学科も実技もとにかく凄い成績を修めたらしい。

マリューから聞く限りでは、凄いでも足りないような成績を修めた事で、シルビア様がエクストラ・テリオンという名を授けた。


これもマリューから聞いたから理解るのだけど。

大きな功績を挙げるとか。

良い意味で凄く高い評価を得る等でないと。

女王陛下から名を授けられる栄誉は貰えないらしい。


『私はカーラ様から教えられたのですが。孤児から騎士が生まれた。これと同等か、それ以上くらいの評価は間違いないそうです』


つまり。

アスランは幼年騎士になったという凄い評価を貰えた後で。

今度は更に同じか、それ以上の高い評価を貰えた。

貰えたと言うよりも。


・・・・・私は、アスランの努力を知っている・・・・・


単純に人数倍は努力した。

こんな表現では軽過ぎる。

それくらい。

アスランは頑張ったのだから。


― アスラン・エクストラ・テリオン ―


アスランの名前がそういう風に変わったくらいは、私も新聞などで知っている。

ただ、マリューも含めて周りは呼び方に困ったそうだ。


私なんか。

今だって『アスラン』って呼び捨てだけどね。

だって、本人がそう呼んで貰った方が気が楽だって。

カールもシャナも、他の子供達もそう。

みんな『アスラン』って呼んでいる。


だけど。

マリューや王宮で働く人達は、私のようには行かないらしい。


今のアスランは、王都の治安を統括する責任者の他。

王国の騎士団を束ねる騎士団長。


・・・・・何で、5歳の子供が騎士団長なのよ・・・・・


当然のツッコミなのだけど。

マリューからは絶対の秘密で裏話も聞いている。


アスランは『マスコット』にされた。

話してくれた時のマリューは、私から見ても酷く申し訳ない。

別にマリューのせいでも、マリューが悪い訳でもないのに。

私が知っているマリューだから。

その性格と為人が、それで強い罪悪感を抱えている様にしか見えなかった。


で、呼び方に困った部分だけど。

最初は『エクストラ・テリオン様』と呼んでいたそうだ。

だけど、呼び難いものは呼び難い。


そこから『エクセリオン様』に変わるまで、たった数日だったらしいのよね。

マリューから聞いているとだけど。

王宮はとても面倒臭いのが当然な世界にも見える。

私の様な女には・・・・まぁ、無理でしょうね。


そんな私だけど。

編入して直ぐに学年トップの成績を修めた実績は、だから私もシルビア様に高く評価して貰えた。


『エストさん。シルビア様から貴女を特待生として、親善交流のあるローランディア王国へ派遣したい。今日は、その話をしに来ました』


中間試験で学年トップの成績を修めた後からしばらく経った頃。

避難所を訪れたカーラさんから。

私は留学の話を貰った。


カーラさんは、私の他に何人もの候補者がいる。

そこまで話してくれた後で。

私が行きたいのであれば。

シルビア様が留学させてくれる。


ただし、私の留学には『教員資格を得るまで帰国出来ない』条件が付けられる。

何故なら。


『エストさんの留学は、一年でも早く教師になれる可能性を持った逸材だからこその部分。それが此度の候補者に選ばれた最もな理由なのです』


カーラさんの説明によると、特待生は選ばれた一人一人に何らかの条件が付けられる。

そして、この条件を満たすまでは留学先で頑張らないといけない。

それが、留学先での学費等は勿論。

勉強だけに専念出来る様に生活費まで工面して貰える待遇に対しての『特待生だけが負う』責務。


その話を頂いた後で、今日までの間。

私は、何度か訪れたカーラさんと話せる機会で特待生の事も、それからローランディア王国の教育制度なんかも尋ねた。


カーラさんは、私が抱いた不安や疑問。

全部、丁寧に答えてくれた。

ローランディア王国が学術に秀でた文化国で、シャルフィの学校よりもずっと優れている。

特に成績が優秀だと直ぐに進級が叶う等。

その為に毎月の様に飛び級試験が受けられる仕組みは、努力次第で一年でも二年でも早く修了出来るらしい。


12歳も離れた弟の様な存在に。

あっさり抜かれた私は・・・だから絶対、負けたくない。

負けたくないから本当は行きたい。


行きたいけれど・・・・・

私は今日まで、未だ返事を返せないでいた。


-----


12月も最初の週を過ぎたその日。

スレインは一人、自分を呼び出した大司祭の所へと赴いていた。

ちょうど昼食を終えたばかりの所へ。

訪れた使者からの用向きを聞いた後で、此処で働くシスター達には出掛ける旨を告げてから出て来た。


「聖賢と謳われる貴方を突然に呼び出したこと。先ずはお詫び致します」

「私の方は特に何かしているという事でもありませんので、どうかお構いなく。顔をお上げください」


大聖堂へ赴いた後は、そこから招かれるまま大司祭の部屋へ通された。

今は二人だけの場で、そして深々と頭を下げる相手へ。

スレインは、そのようにして頂くことは無いを丁重に返した。


大司祭の部屋と言えども、見た目は質素という表現が相応しい。

否、自身も良く見知っている大司祭は、そういうお人柄だからこそ徳を感じるのだ。


「スレイン司祭。貴方を突然のようにお呼びしたのは、教会総本部から是非にと。そういう報せを午前中に受けたからなのです」


スレイン司祭・・・・・

そういう形式がかった呼び方には、つまり、それだけの話が含まれる。

大司祭の穏やかな声にも、スレインは聞きながら直ぐに察した。


「ご存知の事とは思いますが。現在の法皇様は、かなりの高齢であられます」


大司祭の言葉へ、スレインは無言のまま頷いた。


「これは法皇様の御意思という事もありますが。総本部としての意向でもあります。そして、私を含めた大司祭の地位に在る者達の総意でもあります」


大司祭は、そこで一拍の間を置いた。

静かに息を吸い込むと、穏やかに吐き出して後。

今も話の続きを待ってくれている相手へ。

視線を真っ直ぐに重ねた。


「聖賢と謳われし貴方を、私達は次の法皇は余人を以って充てられない意見を揃えました。どうか、この嘆願をお受けして頂きたいのです」


瞼を閉じて熟考したスレインは、それからしばらくしての唇が、即答は出来かねる。

許される限りは考える時間が欲しい。

全く予期しなかった話は、故に最もだと思える丁重な表現を選んで、今の心情を伝えるので精いっぱいだった。


自身の返答へ。

黙している間もずっと待っていてくれた大司祭は、ただ穏やかに頷いてくれた。

そして、春の訪れまでには返事を貰いたい。


大司祭からの労わりを感じられる声へ。

スレインは一言、ありがとうございますを、深く頭を下げて返した。


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