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第7話 ◆・・・ 幼年騎士を目指す子供 ⑧ ・・・◆


考え込んで、いつの間にか背中を丸めていた。

肩や背筋が凝って訴えた痛みは、ようやく姿勢を起こした所で、アスランの身体は凝りを解そうと、無意識は背筋と両腕を伸ばした。


頭から腰にかけて反る様な姿勢で伸びながら。

此処で初めて。

アスランは、神父様が後ろから見ていたことにも気が付いた。


「今日は魔導の勉強をしていたのですね」


視線の合った神父様から先に、いつもと同じ優しい声で尋ねられたアスランは、素直に頷いた。

頷いた後で、今度は気になったことを、アスランは、神父様ならきっと知っている。


何の確証もなく、そう抱いたアスランからの質問へ、受けるスレインは、一つ一つ丁寧に答えた。


エストから借りている辞書には載っていない言葉の意味。

調べてもよく理解らない用語。

アスランから尋ねられたスレイン神父は、丁寧に一つ一つの言葉の意味を教え始めた。


それによってアスランは、魔導を使うために必要な『魔法式』を、新たに知り得た。

他に挿し絵も載っていない『魔導器』についても。

見た目どういう物なのか。

気になっているアスランの疑問は、スレインがノートへ、見知る魔導器を簡単に書き描いた。


書いて貰った絵を見る限り。

魔導器とは、普段、郵便物を届けてくれる人が使っている横幅のある鞄。

それを背負えるようにした物にも思えた。


神父様も細かい所は良く知らないらしい。

細かい所は、難しい専門知識が要るそうだ。

けれど、見た目。

神父様は、こういう物だったと教えてくれた。


魔導器は、とっても高価な道具らしい。

これも神父様が教えてくれた。

そして、此処に魔導器が無い理由は、とても高価だから、買うこと等できないそうだ。


『そうですね。魔導器を一つ買う事が出来る。それくらいのお金が此処に在れば。魔導器よりも先に、私は子供達みんなに。新しい衣服や多少贅沢な食事。古くなって硬くなったベッドマットも交換したいと。そう思っています』


ああ、なる程・・・・

うん。

それは凄く納得できた。


実感的に納得してしまった部分。

それとは別に。

アスランはもう一つ。

図書室に在った、この魔導の本。

そこには載っていなかった『魔法式』について。

これも神父様へ尋ねた。


『魔法式も含めて、本格的な魔導の授業は中等科からになります。その時にはアスランも、魔導器を使うことが出来ますよ』


今直ぐ知りたい部分。

それは教えて貰えなかった。

それでも、魔法導力。

これはつまり、14歳から17歳までの4年間通う中等科で学ぶことらしい。


あとは初等科でも、最終学年で魔導を習えるそうだ。

けれど、初等科では触りの部分のみ。

神父様の話だと、この本に載っているくらいの事を軽く勉強する。


結局、魔法導力を本格的に学ぶためには、中等科へ進学しなければならない。

そういう事だった。


詰まる所。

今現在は、これ以上の事が学べない。


行き詰まってしまったアスランは、図書室から出て行ったスレイン神父を見送った後。

酷く落ち込んだは、大きな溜息だけが漏れた。


「魔導・・・後10年は長過ぎだよ。僕は今直ぐでも習いたいのに・・・・はぁ~」

「(・・・やっほ~♪ あれ??? アッスラ~ン。どうしたの???・・・)」

「ああ・・・エレンか。ちょっとね・・・・落ち込み中って感じだよ」

「(・・・ここ最近は喧嘩してないよね? 何か嫌がらせでもされたの?・・・)」

「そういうのじゃないよ。魔導をね・・・習いたいんだけどさ。神父様に聞いたら。中等科からなんだって。それって14歳からなんだよ」

「(・・・う~ん・・・。それで落ち込んでるってこと?・・・)」

「図書室の本では学べないんだよ。そういう専門書が此処には無いんだ」

「(・・・アスランは勉強が大好きなんだね~♪ エレンが教えても良いけど。要するに“アーツ”が使いたいんだよね♪・・・)」

「アーツ?」

「(・・・アスランが言ってる魔導ってさぁ。アーツのことでしょ。火を出したり、風を起こしたりするやつ。違うの?・・・)」

「いや、そうだけど・・・って。魔導の事をアーツって言うのは初めて知ったよ」

「(・・・じゃ、エレンがアーツを教えたら。アスランは元気になる?・・・)」

「うん!なるよ。いま直ぐにでも元気になる!」

「(・・・じゃあ、エレンが教えてあげるよ♪ 最近のアスランはさぁ。勉強ばかりでさぁ。話し相手もしてくれなくてさぁ。いっぱい寂しかったんだよねぇ。だからエレンも嬉しいんだよぉ♪・・・)」


神父様の話では、魔導は中等科へ行かないと学べない。

この事を知った時は、確かに酷く落ち込んだ。

なのに、エレンが教えてくれると告げた途端。

アスランの気持ちは、跳ねた様な急上昇。


欲求は、再び火が付いた。

それこそ、今にも弾けそうなほど膨らんだ期待を孕んだ。


アスランは大急ぎで本を棚に戻すと、それからノートと筆記用具も手早く纏めた。

廊下へ出たアスランは、図書室の扉に鍵を掛けて、足は真っ直ぐ事務室へ。

事務室にある自分の道具箱へ勉強道具を戻す。

借りた鍵も此処で戻す。


間もなく、アスランは外へ出た。

午後の自由時間を、半分は過ぎていたが、日差しが高く気温も高い。

たぶん、今の時期は、この時間帯が一番暑いだろう。

それで日が落ちるのも遅いから、自由時間も長くなる。


真夏の午後。

その半ばを過ぎた頃。

外に出たアスランの足は、稽古にも使っている空き地へと駆けた。


此処なら誰にも邪魔をされない。

空き地の更に奥の方へ足を運んだアスランは、そこがエレンと普通に喋っても問題ない事を分かっている。


まぁ、付近に誰も居ないような場所だから。

ということでもある。


着いて直ぐ。

エレンから早速「(・・・じゃあ、やってみせるね♪・・・)」と、アスランの頭の中へ、魔法式を紡ぐ陽気な声が届いた。


・・・・ 我は汝に請い願う。汝、炎の精霊よ。我が欲するは汝の力。大いなる炎。其の力の一欠片を我に授けよ。ファイア・アロー ・・・・


唱えるエレンの声は、直後、何もない所から突然、空へ向かって真っすぐ。

まるで炎を纏った矢にしか映らないものが、勢い良く打ち上がった。


ビュンっと風を切って飛翔する炎の矢。

アスランの視線は、矢のように見えた炎の塊が見えなくなるまでずっと釘付けだった。

それこそ、カチコチに固まったかのように突っ立たまま見届けた。


ただ、アスランは初めて魔導を目にした。

魔導のことを、エレンはアーツと言った。

その違いは分からない。

けれど、聖剣伝説物語の中でも、騎士王や仲間たちは、呪文を唱えて魔法を使っている。


エレンが呪文を唱えた。

呪文とは魔法式を指す。

そして、実際に炎の矢が空へ打ち上がった。

はっきり言って。

もう感動以外なかった。


「(・・・じゃあ、アスランもやってみようか♪・・・)」

「え?」

「(・・・エレンがやったようにアスランもやれば良いんだよ♪・・・)」

「あ・・・うん。分かった。魔法式はエレンのを真似すればいいんだよね」

「(・・・うん。そうだよ♪・・・)」


受けたショックの大きさが、未だ抜け切れていない。

やってみようかと言われて。

それでハッとしたかのように戻って来た自分は、興奮まで加味された胸中が、いつ爆発しても不思議じゃなかった。


アスランは、一度大きく深呼吸した。

それからエレンが唱えた魔法式は、未だ頭の中に残っている文言を、小声でなぞる様に唱えた。


「我は汝に請い願う。汝、炎の精霊よ。我が欲するは汝の力。大いなる炎。其の力の一欠片を我に授けよ。ファイア・アロー」


ボッ!!


目の前で一瞬。

激しく燃え盛る火柱が起こった。


エレンのように炎の矢が飛んだ。

のとは全く異なる。

けれど、事象干渉は、確かに起きた。


初めて使ったアスランの瞳は、驚きで見開きっぱなし。

声も出ないくらい、感情は驚きで埋め尽くされていた。


「・・・出来たのか?」

「(・・・出来たというよりもねぇ。う~ん。初めてだから、これでもいいのかなぁ?・・・)」


やがて漏れ出た自身の問い掛けも。

返って来たエレンの声は、まるで首を傾げた様な感だった。


実際、エレンのようには出来なかった。

けれど、まるっきりの失敗。

という感じでも無さそうだった。


その後。

アスランは何度も魔法式を唱えた。

ただ、結果から言えば。

今日のこの時間。

今は未だ一瞬だけ。

火柱を起こせる程度しか出来なかった。


エレンは『初めてなんだから。これでも良いと思う』と、そう言ってくれた。

アスランも生れて初めて魔導を使った興奮。

それが在るせいか、夢中になって何度も火柱を出した。


やがて、蓄積した疲労感が、興奮を冷まし始めた頃。

アスランは、休憩とばかりに芝生の地面へ。

木の幹を背もたれに日陰へ腰を下ろしたところで、ハッとした様なアスランは、ある事に気付いた。


魔導とは『魔導器』が無ければ使えない。

エレンは魔導のことを、アーツと言っていたけど。

本と神父様から聞いて知った内容。


今頃になって思い出したアスランは、納得した感じでガックリ肩を落とした。


「魔導。エレンはアーツって言ってたけどさ。魔導器が無ければ出来ないんだよな。はぁ~・・・まぁ、それでも。これくらいは出来るんだって分かったよ」


図書室には魔導の本が一冊。

ただし、専門書ではない。

それでも。

神父様からも聞いて、自分の知り得た知識ではそうだった。


アスランの思考は、魔法式だけでは、これが精一杯。

だから、魔導器が無ければ、エレンのようには出来ない。


そう自分なりに納得出来た感のボヤキは、けれど、返って来たエレンの声で、今度は混乱を抱いた。


「(・・・ん?アスランさぁ。何か勘違いしていない?あのねぇ。アーツは魔導器だっけ?あとクリスタルとか。そんなの無しでも出来るんだけどねぇ。エレンは持ってないよ♪・・・)」

「え???・・・・・それって、アーツは魔導器が無ければ使えないのは嘘だってこと?それにクリスタルってなに?」

「(・・・ 魔導器なんか無くても使える人と。魔導器がないと使えない人がいるのは・・・あるかもねぇ。それで、アスランは無しでも使える方だね♪ クリスタルはねぇ。魔力を含んだ石のこと。アスランが読んだ本だと~。魔力結晶石とか魔力鉱石って呼ばれているやつだねぇ♪・・・)」

「そうなんだ・・・でもさ。魔導器と体内マナか魔力鉱石が無いと、魔導は使えないって。図書室の本には書いてあったよ」


アスランが当然と抱いた疑問も、尋ねられたエレンは、楽しげな口調で色々と教えてくれた。


エレンの話によれば、『魔導器』と呼ばれる道具について。

実は、これがかなり大昔に作られた物らしい。

そして、かなり大昔の人間が魔法を幅広く使えるように生み出した道具を、これが『魔導器』なのだという。


更に、この大昔の人間の中にも。

生まれつき、体内マナ【魔力】の少ない者が居た。

そうした人達の日常生活で使う魔力を補う目的が、不自由なく生活できるようにと生まれた道具。

最初の『魔導器』が、これに当たるらしい。

此処がアスランの知り得た【導力】の部分にも重なる。


生まれついての乏しい体内マナ【魔力】を使う『魔法』では、負担が大き過ぎて日常の生活が出来ない。

そこで【魔力】の代替品。

魔力を含んだ特殊な鉱石は、魔導器を使うことで【魔力】を引き出せる。


ありふれた日常の生活へ導く道具。

魔法導力の『導力』の部分。

語源はこういう事らしい。


そこから発展した魔法導力。

『魔導』とは、体内マナと特殊な鉱石の力、その両方を使う技術を指すようになった。


他にも、そのかなり大昔でさえ。

最初から魔導器が存在したわけではないそうだ。

魔導器が作られる以前。

それも魔法式すら無い頃から。

既に『魔法』だけは存在していた。


その頃は、掌にクリスタルを握った状態でアーツを使うのが普通だった。

そう話すエレンの口調は、声の感じが、とても楽しいのが分かる。


けれど、アスランが読んだ本。

それから神父様が教えてくれた魔導の内容とは、根本からが違うようにも思えた。

だから疑問がいっぱい溢れている。


魔導。

エレンはアーツと言ったものについて。

アスランの知りたい欲求は一層膨らんだ。


アスランはエレンのことを、それまでずっと口調の感じで、同い年くらいの元気すぎる女の子。

その程度にイメージしていた。

今日、エレンが魔導についてかなり詳しいことを知って、この認識が少し変わった。


今までは、ただの話し相手。

そんなエレンが、この時を境に。

以降はずっと、アスランへアーツを教える唯一の存在になる。


のだが・・・・・

この時のアスランは、自分が精霊と話が出来る事で魔導を学べる。

それを単純に喜んでいた。


将来は騎士になりたい。

そのために幼年騎士を目指すアスランの修行は、この日この時から。

修行の内容へ、新たに魔導が盛り込まれた。


2018.5.7 誤字の修正などを行いました。

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