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第12話 ◆・・・ 其処に在るコールブランド ・・・◆


・・・・・ユフィが私のために。助力を得るために頭を下げた・・・・・


それは今もシルビアの最も深い所で、僅かにも色褪せない跡を刻んでいた。


再び意識は刻んだ跡へ傾く。

大学の卒業に伴って帰国したユフィが突然、それも女性らしい服装で現れた時は思わず大笑いしてしまった。

シャルフィでのユフィは、それこそ普段から軍服姿で・・・・・

女の子らしい服を着た姿など、はっきり言って一度も見たことが無い。


だから。

女王の私室と外を繋ぐ抜け道。

ユフィはそこを使って・・・あの日の夕方。


その時の私は宰相となったカーラの小言を、これも耳タコで聞かされていた。

それで、これもエレナがきっと長引くからって。

笑いながら、お茶と軽食の用意をしてくるって離れた後。


『ユ・ユフィが・・・お・女の子になっちゃった!?』


悲鳴・・・

と言うか、笑い声。

私とカーラは、エレナのこの可笑しいを隠さない笑い声に揃って駆けた。


その後で女装、もとい年相応に女性らしく着飾った美女のユフィから。


・・・・・シルビア。お前の暗殺を企てる計画を掴んだ・・・・・


服装とか見た目には私も笑ってしまったけど。

それで、笑い者になったユフィの怒りを全く隠そうとしない笑みも覚えている。


だけど、私を暗殺しようとする計画。

それを告げた時の真剣なユフィだって忘れていない。


内密に掴んだ情報を、秘密裏に伝えるため。

公には此処に居ない筈の理由が、だから前髪も瞳を完全に隠すほど下すと、貴族の令嬢にしか見えない姿で此処に現れた。


ユフィは私へ。

それこそ、私の他には精霊のリーザ以外で、今此処に居る三人しか知らない筈の部分。

その事を前提に、既に時間の猶予が無い。


此処から始まった約半月。

全ては突然の報せから始まったこともある。


カーラとユフィは少なくとも、抜かりなく段取りを組んで万全を期す。

この点において互いを良き理解者だと認め合っていた。

そんな二人ともが最初から八方塞がり・・・・・


ふと、机の片隅に立て掛けてある写真立て。

瞳が映した一枚の写真に、それまで記憶に身を置いていたシルビアが小さく微笑んでいた。


「陛下。邪な妄想に浸っていないで手を動かしてください」


容赦ない親友(カーラ)の冷めた声によって。

現実側へ強制召喚された女王は反射的にムッとしながらも。


「陛下は確か。今日も定時で終えられたいのですよね♪」


声色は優しく、それでいて上機嫌。

つまり。

こんな時のカーラは怒っている。


幼馴染みだけあって、これも既に日常茶飯事。

今更な感もある。

しかし、今のシルビアは、絶対とも言えるくらい固く決意している事がある。


・・・・・今日も定時の10分前には終わらせる・・・・・


10分でも早く我が子との時間を得る魂胆。

シルビアの指先は、再びペンを走らせ始めた。


-----


今日は、これも何度目だろうか。

バカ母をこうやって幾度も注意する。


項垂れたいくらいの呆れの感情は、けれど、普段を崩さないよう静かに吐き出しながら。

此方も再び書類へ視線を戻したカーラではあったが。


母親がああなる理由には、此方も心当たりが在る。


はっきり何かある。

昨夜は漠然とだったが。

今朝は政務に赴く前。


支度を整えた所で、アスラン様が私の部屋を訪ねてきた。

思い詰めた・・・と言うよりも。

けれど、真剣な印象は伝わって来た。


用向きは騎士の階級と権限。

無論、私はアスラン様が尋ねた事へしっかりと、それこそ教えるように噛み砕いて話した。


最初はバカ母がまた問題を起こしたのでは・・・と。

既に5歳の子供へ母乳を与えた等とも聞いている以上。

事と次第によっては流石に黙認も出来ない。


だが。

私に騎士の階級と権限の事を尋ねた時の・・・あの瞳。

雰囲気からして、私はユリナ様と直に言葉を交わしていた。

そういった感だけを強く受けた。


アスラン様の琥珀色の瞳は、あれで真剣な雰囲気を伴うと。

似ていると抱く面立ちが重なって。

自然とユリナ様に映ってしまう。


私の理想とする女性像。

そこにユリナ様が在る。

だから・・・今朝のアスラン様との会話。

その時の私は、胸の内を強く握られた感で占められた。


私が今のアスラン様くらいの頃。

その当時の私は、両親が王宮で文官をしていたことで、それで同い年の姫様の遊び相手をさせられていた。


姫の名はシルビア。

鬱陶しいくらい明る過ぎて、行き当たりばったりに騒動を起こす。

このお転婆を軽く突き抜けた存在によって。

私の友達だったエレナまでが毎日のように巻き込まれた。


まぁ、私一人では手に負えない。

だから、友達のエレナを紹介して負担を減らしただけ。


人付き合いが上手くはない私から見ても。

エレナはそんな私でさえ、よく面倒を見てくれる出来た存在。

三人とも同い年なのに。

長女はエレナ。

次女は私。

そして、三女がシルビア。

この三姉妹な構図が不思議と噛み合った。


シルビアは毎日のように私の手を焼かせた。

ところが、何故かエレナの言う事は素直に聞く。


私は何方かと言えば、シルビアの面倒を見るエレナを支える位置。

この位置が一番馴染んだし、それで構わなかった。


エレナは勉強も学年で三番以内が当たり前。

私は一番を多く取っていたが、二番になる時は決まってエレナが一番だった。

付け加えると、家庭的で人当たりも柔らかい。

スタイルも良いし、さりげない気配りが出来る。


・・・・・私が男性だったら絶対。エレナと結婚していただろう・・・・・


そんな私がシルビアと付き合い続けられた理由。

理由と言うか。

今では使命のようになっている部分。

此処には、ユリナ様と交わした約束が在る。


私がシルビアを苦手にしていること。

そうでなくとも人付き合い自体が苦手なことも。

ユリナ様は全部理解っていた。


・・・・・貴女は貴女らしく。それでシルビアには特に厳しく接して構いません。ですが、その事で貴女が何か迷ったり悩む時には。どうか私に。それを話してください・・・・・


中等科へ入学する前。

その頃のシルビアは、公にも姫として立ち振る舞う機会が増えていた。

そして、公の場では『愛らしく映る淑やかな姫』を演じきっていた。


けれど、私的な場でのシルビアは、反抗期の真っ盛り。

スレイン先生も手を焼くくらいで、ユリナ様が日に何度も叱っていた。


ユリナ様とスレイン先生に叱られたシルビアは、私も芳しくない武勇伝くらいを聞いている国王陛下(ちちおや)の所へ頻繁に逃げ込むと立て籠もる。

国王陛下だけは、必ずと言って良いくらいシルビアの味方だった。

そんな父親の背中に隠れるシルビアは、ユリナ様とスレイン先生を宥める父親が一番大好きだと公言していた。


そうした反抗期のシルビアも、これも何故かエレナの言うことだけは素直に聞けている。

はっきり言って不思議でしかない。

ただ、この当時の私は、それでシルビアの事はエレナに任せっきりで良いと思っていた。


後になってエレナがその事で負担を多く抱えていた等と・・・・・

私はユリナ様が教えてくれるまで。

それこそ入学してからの一年近くの間、露程にも理解っていなかった。


エレナは優しいだけでなく責任感も強いから余計にしっかり者に見える。

それで反抗期のシルビアに対しても『自分が何とかしなければならない』感を、一層強く背負い込んでいたらしい。

私はそんなエレナの事も理解ろうとせず、勉強にばかり目が向いていた。

そして、勉強に没頭する私をエレナは・・・だからこそ余計に背負わせてしまった。


ユリナ様は私に『貴女は貴女らしく在って良いのです』と言ってくれた御方でもある。

私とエレナ。

二人の何方もが欠かせない存在だと語ったユリナ様は、誰かがシルビアに厳しく出来なければ取り返しのつかない過ちだってあり得る。

そうなる前に・・・・・


私はユリナ様を理想にしても。

人付き合いの不器用さ。

これだけは・・・どうにも出来なかった。

自分が潔癖だとは言わないが、距離を置きたいとか受け付けられない範囲が広いくらいを認めている。


ユリナ様は、私のそんな部分までを理解ってくれた御方。

そして、その上で『らしく在って良い』と言ってくれた。


私はエレナが大好き。

反対にシルビアには、それでムカつくことが当たり前。


でも。

エレナは、私もシルビアも大好きだって言ってくれる。


だから。

私は大好きなエレナを支えるのだと決意した。

その意味で、シルビアに厳しく臨む。


-----


ふと、気付いた時には手が止まっていた。

カーラは机に置いてある時計へ僅かに視線を向けて、数分程度。

自分が仕事を滞らせていたことを自覚した。


今も向かい側では欲望に忠実なバカ母が、普段の数倍は早くペンを走らせている。

そんな女王へは視線を向けることも無く。

カーラは小さく鼻で笑った後。

止まっていた指先は再び、書類へペンを走らせ始めた。


今日の分は間もなく終えられる。

と言うよりも。

その後で午後の残り時間は、明日のスケジュールを確定させなければならない。

関係各所は此方からの連絡や通達を待っている。


既に上がっている報告に目を通しながら。

指摘ヶ所や指示事項など。

こういった詳細を詰めるのも、宰相としての仕事の内に収まる。


いつもと変わらずペンを走らせた後。

目処が着いた所で再び、カーラの視線は時計の針へ。

時刻は16時を少し過ぎていた。


アスラン様の件では、母親がああなった以上に、自分も棘のように刺さった気掛かり感が拭えないでいる。

だが、それを理由に仕事を滞らせる等は認められない。

少なくとも。

アスラン様が行方知れずとなって母親までが引き籠った時期。

その時でさえ、私は心を鬼にして政務を取り纏めた。


カーラは内心。

この気掛かりとなった部分を、政務が終わった後で此方から尋ねよう。

恐らく王都を歩く中で何かあった。

本人は勉強を理由に気になっただけ等と。

昼食の時の会話も、けれど、あれで母親を気遣っていたくらい。

それを見抜けない私ではない。


今日の仕事には目処が着いたカーラの、だから、思考は気になっている方へ。

そんな折、外側から執務室のドアを叩く音が室内に響いた。


「近衛隊所属。聖騎士ハンスであります。急報に付き至急、陛下へ謁見の許可を求める次第です」


聞えた声の感からも普段と異なって何か慌てている。

名乗った聖騎士の性格からしても、余程の事でない限り。

こうあからさまな声は発しない。


視線を起こしたカーラは、同じように顔を上げたシルビアよりも先に。


「ハンス殿。中へどうぞ」


呼びかけに直ぐ両開きの扉が開いた。

そして、やはり何かあったを隠さない普段と異なる表情のハンスが入室した後。

背後で再び閉まる扉を待たず。


「ハンス殿。して急報とは一体」


普段はこれも扉が完全に閉まってからなのだが。

ハンスの表情と声色。

雰囲気までが何か急いている。


故に待たず尋ねたカーラの問いへ、ハンスは女王の前に数歩。

そこでピタリと立ち止まると略式の敬礼を一度。

本来は片膝をついて、右手を左胸に添えるように頭を下げるのだが。

執務室では立ったままの姿勢で行う略式としている。


「幼年騎士のアスランが、王都で何らかの事件に関わったようです」


室内の空気はこの一言目だけで緊張に染まった。

ただし、カーラは此処でも平静を装いながら「して、事件の詳細は」と、再びハンスへ尋ねながら。

横目に映した女王の強張った表情を、今は無視した。


「私がこの報せを受けたのは5分程前です。そして、報せを届けたのはコルナというメイドであります。私も詳細を尋ねようとしたのですが。その・・・何かの手品でも見たかのようなそれで・・・」

「目の前で忽然と消えたのですね」


ハンスが口籠った部分。

自分は一度見ているから理解る。


「その通りです」

「分かりました。アスラン〝様”が事件に関わったことをコルナがハンス殿へ報せた。詳細は全く分からないのでしょうか」

「これも余りに一方的だったのでありますが。コルナというメイドが申すには、急ぎバーダントという者の所へ行けと。事の仔細は彼の者が把握している。だが、既に血は流されたと・・・最後に、野盗になり下がった騎士の腐敗が主に裁きの剣を握らせたのだ。サボった分のツケが今こうなった事を思い知るがいい。と、そう述べてから消えたのです。故に私は急ぎ此処へ駆けた次第であります」


未だ落ち着けない慌てた感に困惑も混ざっている。

そうも取れるハンスの報告は、しかし、女王が席を立つ理由としては十分過ぎた。


「カーラ。残った仕事は全て後に回します。それから明日の予定を一時、空けてください。私は今直ぐバーダント・・・確か兵士長でしたか。その者が勤める詰所へ赴きます」

「陛下の御意のままに。ですが、私も同行致します」


女王に続き席を立ったカーラの瞳は、再びハンスへ。


「ハンス殿。夜勤を除く近衛騎士で今現在、手空きの者を至急集めてください」

「既にマリューへ招集の指示は出しております。命があれば直ぐにでも出動できます」


何も言わず先に歩き出した女王の直ぐ後に続きながら。

本心はきっと走りたいはず・・・・・

速足で歩く女王の後ろに続いたカーラは振り返るハンスへ「流石です」とだけ。

そのハンスも伴って足早に執務室を出て行った。


-----


その日も普段なら。

この一帯は買い物客などで特に賑わっていた。

中央広場の東側に位置する『商工特区』と呼ばれる地区は大小様々な店が軒を連ねている。


そこは今、警鐘が鳴り響く中心地と化していた。

最初、この商工特区に程近い騎士達が通う中央兵舎の鐘が打ち鳴らされたのは16時を過ぎた頃。


それよりも前。

目撃者達の証言によると、その時から今現在もずっと。

中央兵舎の正門前には『青地のカミツレの旗』が、翻っていたらしい。

これも複数の目撃証言によれば、幼年騎士の制服を着た小さな男の子と、此処の守衛との間で始まった口論。

そこから間もなく、男の子の傍に居た紅い髪の傭兵のような女が、これもいきなり守衛二人を殴り倒しての突入と、それから間もなくしてシーツに包まれた少女を両腕に抱いて現れた後・・・・・


一方で、王宮から馬に跨って駆けたシルビアは最初、カーラが所在を押さえていたバーダント兵士長が勤める詰所へ急行。

ただ、到着して早々。

既に状況が荒事へ発展していたくらいは、現地の慌ただしさが物語っていた。


女王と共に駆け付けた近衛騎士隊。

聖騎士ハンスがバーダント兵士長を呼び出す中で、此処に詰める兵士達は揃って何かしら察した雰囲気だけを醸し出していた。


-----


夜勤との交代までは後二時間くらい・・・・・

既に蒸し風呂と化した詰め所で、バーダントは先の巡回の後。

今はこうして事務仕事に汗を流していた。


この詰所に限ったことではないが。

何処の詰め所も老朽化が酷い。

騎士様ばかりが詰める兵舎の方は、改築と内装も充実している。


「はぁ~・・・ちったぁ、こっちにも予算を回しやがれ。ったくよぉ・・・」


詰め所を任される身分の兵士長は、他の兵士達と同様の現場仕事。

そこへ追加で事務仕事もある。

不満は兵士も兵士長も給金にそれ程の差が無い。

ところが、兵士長になった途端。

任される仕事の量。

これが増えた給金と比較にならないのだ。


バーダントは兵士長になってから。

当時はそれから算数を覚えた。

と言っても、こうして預かる事務仕事を処理できる程度の足し算引き算くらいだが・・・・・

ぶっちゃけ、文字だって兵士長になってからちゃんと覚えたに過ぎない。


簡単な計算と文字は全て、通いの酒場で女将をしているナナイから教えて貰った。

当時は今の様な義務教育が無かった。

学校は金を持っている家庭の子供だけが通えた。

学校へ通えるだけの金が無い家の子供はというと、大聖堂で働く神父の見習い・・・そう呼べる者達が道徳を中心に後は文字や計算くらいを教える日曜教育が在ったくらい。


昔の勉強なんぞはそんなものだった。

だから。

バーダントは今の身分になってから苦労したこともある。


「女王様は良い政治をしている。おかげで、うちの娘はちゃんとした所で勉強が出来るんだからな」


ここいらの地区を束ねる中央の兵舎。

そこに詰める騎士様は揃いも揃って糞みたいな存在には違いない。


「まぁ、あれだ。国を良くするのだってホイホイ上手く行く事なんかじゃないんだしな。ユリナ様が生きておられた時からもだが・・・俺が引退する頃には、今よりもきっと良くはなっている筈だ」


自分が娘と同じ年の頃。

その当時のシャルフィと比べれば、今は住みやすくなった。

貴族とか騎士が当然と威張り散らしていた昔と、それよりは格段に良くなった今。


バーダントは自然、娘が大人になる頃・・・・・

その時には今の女王様がもっと国を良くしてくれるだろう。

なにせ、ユリナ様のような素晴らしい御方の娘なんだから・・・と。


「・・・・そういやぁ・・・あの子供。そうだ・・・アスランはこう似ている所が在ったな」


既に仕事からは意識が遠ざかっていた。

不意に思い出した王妃様と、何となく以上に似て重なるアスランへ。


けれど、意識がそれ以上傾くより先に。

バーダントは詰所に駆け込んできた市民の報せで、そこからは女王が近衛騎士隊を引き連れて現れるまでの間ずっと・・・・・


聖騎士ハンスと名乗る御仁から。

バーダントはハンスの口から告げられて初めて。


「なっ・・・アスランが幼年騎士だと・・・」


だいぶ前の新聞で一度、女王が未だ幼い孤児を幼年騎士にした記事。

しかし、正式なお披露目までは名を伏せた。

確か、そんな内容の記事を・・・・・


昨日の宝飾店で起きた事件。

今さっきまで同じ店で起きた事件が、それで此方は犯人探しと証言集め等で糞忙しいのに。


それでも。

この時のバーダントは不思議と妙な気分に陥っていた。

それは傍目に、何かしら納得し切ったような面持ちだった。


-----


ハンスとバーダントのやり取り。

ここは馬上で、女王と宰相の二人ともが聞き耳を立てていた。


明らかになった一つは、事件それ自体が昨日の内には起きていたこと。

ハンスを通して、バーダントはこの地区の治安を預かるオットーが握り潰した事件の経緯。

その時の暴行同然の仕打ちは、被害を受けた他の兵士達も証言を揃えた。


何より、今は此処へ自分も足を運んだ被害者。

店の品だけでなく娘まで攫われたと。

多量の血痕が付着した衣服を見れば、解る者にはこれが斬った痕跡くらいも容易に察せられる。


サインツの口から出た『ルクメール』という貴族について。

露骨に険しさを顕わにした女王と、レンズ越しに目付きが厳しさを増した宰相の耳にも届いた警鐘の音。


間もなく・・・・・

現地へ到着したシルビアはそこで。

コルナがハンスに告げたサボった分のツケ。


瓦礫同然となった中央兵舎の惨状と、傍で燃えている幼年騎士の制服・・・・・


『・・・それが今のシャルフィの騎士だと言うのなら。私は誓いと誇りを汚したシャルフィの騎士を、私の剣で終わらせるまでです。貴方達にはもう・・・カミツレを掲げる資格すら与えられません』


知っている我が子の声ではない。

口調も明らかに違う。


けれど、シルビアの瞳はマナ粒子にも見える金色の塵。

我が子を纏って吹荒れるそれよりも。


燃える制服を他所に、それとは異なる白地のコート姿で。

コールブランドを両手に躊躇うことなく騎士達と剣を交えると、瞬く間に斬殺したアスランの瞳。


シルビアはそこに、憤りを抱いて泣いている・・・・・

途端に胸の内を占めた罪悪感は、呆然とする自身の隣で指示を出すカーラの厳しい声さえ。

この時は耳に入らないでいた。


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