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第7話 ◆・・・ 陽ざしの当たる所へ ・・・◆


ハァ・・・・ハァ・・・・


前の休息からどれくらい経っただろう。

僕は汗だくで息も切れ切れ。

対して、指導してくれるティアリス。

ティアリスの呼吸は全く乱れてない。

汗の一つだって流していない。


「マイロード。今朝はこのくらいにしておきましょう」


稽古の終わり。

僕からは終わらせたことが無い。


だって。

僕は未だ一度も。

ティアリスに勝ったことが無いんだから。


それに。

剣術で僕は騎士王から課題を出された。

だから今の稽古。

勝ち負けじゃないことも・・・理解ってる。


それでも。


課題に関係なく。

今朝も完敗だったな・・・・・・


「ティアリスはやっぱり強いね。特に剣だけだと全く歯が立たない・・・でも。絶対やり返すからな」


騎士王からの課題もあるけど。

でも、やっぱり。

僕の目標。

ティアリスから一本取る。

これは変わらない。


王宮に来てからだけど。

稽古でバッサリ斬られなくなった。

何故って、それはティアリスから『マイロード。私はもうマイロードを斬りたくありません』って、言われたから。


あとは・・・・


「ニャッハッハッハ~♪王様っ♪今日もあたしの勝ちだったね♪」


レーヴァテインの僕に見せつけるようなVサイン。

うん。

見せつけなくても分かってるって。


一応、魔法剣技ならレーヴァティンを驚かせたり泣かせるくらいは出来る。

今日もそれで散々。

はっきり言ってティアリスと比べれば雑魚だね。

と、負け惜しみを先に述べて置く。


ただし、純粋な剣技。

剣技だけだと全然歯が立たない。

今度は僕なんか雑魚以下ですってくらい。

軽くあしらわれる。


ここ(王宮)に来て未だ数日だけど。

稽古にはレーヴァテインも加わるようになった。


レーヴァテインのことは、そこにも実は騎士王からの課題が関わっている。


シルビア様に誕生日を祝って貰った翌日。

目を覚ました騎士王から、僕は呼び出された。


その時に騎士王は僕の剣。


『今はまだ純粋な剣技のみを磨きなさい。アスランだけの魔法剣技。ティアから聞いた限り。その力は未熟な貴方ですら剣神と渡り合える武器には違いありません。ですが、剣術の基礎が未熟な今の段階で頼れば。近い内に剣それ自体が伸び悩むでしょう。逆に、基礎が盤石になれば。その時の魔法剣技は神ですら圧倒出来る可能性を持っている。故に、だからこそ。今からの稽古では意識して剣のみを鍛えるように』


騎士王ユミナ・フラウ。

今はユミナって呼んで構わない。

そう言われている。

あと、僕が時々ユミナフラウって言うのを間違っている。

それもあるから。

僕は騎士王を『ユミナさん』と呼ぶようになった。


ユミナさんは、僕の剣がまだまだ伸びる。

奇跡としか言えない超が付くようなまぐれ当たりでも。

自分から一本取ったのだから。

基礎をしっかり積み重ねるようにって・・・・・


ハハ・・・・・

やっぱり根に持っている。


あの言い回しに僕はそう感じ取りました。


ユミナさんの言い方はともかく。

指摘された部分。

この時には姉をこれでもかってくらい躾けた後のティアリスからも。

ユミナさんの言ったことは間違っていない。


僕の一番はいつも。

僕のことを考えてくれる。


『剣技は無論そうですが。ですが並行して魔法剣技も磨きましょう。それから、私以外にレーヴァテインも居ます。私とは異なる剣の使い手とも。これからのマイロードは経験を積むべきです』


僕は未だ子供。

5歳になってまだ一月経っていない。


小さい身体はこれから大きくなる。

で、それまでに基礎を盤石にする。

これもティアリスの考え。


勿論。

僕はティアリスの考え。

早速、実践することにした。


-----


王宮で生活するようになってから数日・・・・・

僕はそこそこ忙しかった。


来た翌日には改めて、シルビア様からハンスさんとマリューさんを紹介されました。

ハンスさんは僕の指南役。

マリューさんは指南役の補佐。

二人も付いた理由。


ハンスさんは近衛騎士としての仕事がある。

それで主に午前中。

僕はハンスさんから騎士の作法なんかを習う。

マリューさんも同じ近衛騎士。

でも、午前中は中等科の授業に出ている。

だから午後。

午後の前半で僕はダンスを習う。


騎士にダンス?

疑問はカーラさんから『騎士ともなれば社交の場に出る機会が増えます。そして、往々にしてダンスのパートナーを求められる機会も当然、あります。これも作法の一つです』って教えられました。


マリューさんには学校から課題も出される。

それが理由で午後の前半だけ。

そういう説明もあった。


午後の後半。

シルビア様は『子供らしく自由にして構いません。友達の所へ遊びに行っても良いですからね』って。

エスト姉や神父様にカールやシャナ達のこと。

ずっと気になっていた。


僕は午後の自由時間。

シルビア様に連れられて皆の所へ行ってきた。


神界のこととかは全部秘密。

シルビア様とカーラさんから秘密にするようにって言われたこともある。

あくまで記憶が無い。

それで、リザイア様のお告げで僕は見つかった。

そういう話になっている。


カールは日焼けしていた。

シャナは少し印象が変わった。

エルトシャンは相変わらず格好いい。

バスキーとゴードンの二人が熱心に勉強している話は、最初は驚いた。


神父様は僕が無事で良かった・・・って。

エスト姉からは会った途端に抱きしめられた後。

皆を心配させた罰。

で、鉄拳を落とされました。


今はまだ避難所で暮らしているらしいけど。

シルビア様の話では、学生寮の隣に空き地がある。

そこへ新しく皆の家を建てる計画だって。

だから、それまではこの避難所で我慢して貰っている。


皆との時間は、あっという間に終わった。

実際には2時間くらい居たらしいけど・・・ずっと会話ばかりで終わった感じ。


帰り際にエスト姉が『此処へは何時でも来て構いません。ですが。アスランは騎士になったのですから。騎士としての勉強や仕事を置き去りにして来たら・・・その時は覚悟するように』って、笑顔で握り拳。


僕が知らなかっただけで、孤児院の子供から幼年騎士が誕生した話題。

この話題は王都でかなり広まっている。

エルトシャンは僕に『俺も騎士を目指す。だから待っていてくれ』って・・・・

カールも騎士になるって言ってたね。

と言うかさ。

孤児院で一緒に暮らして来た男子は、揃って騎士を目指すつもりらしい。


帰り道。

シルビア様が、僕は皆の希望になっている。

孤児でも騎士になれる証。

だから僕の今後の努力。

責任重大だって笑ってた。


・・・・僕の方は全然、笑えないんですけどね・・・・


王宮へ来た翌日は、だいたいこんな感じで一日が過ぎました。


後は今日までの間に制服の採寸を取ったり。

初等科で使う教科書と資料を一式。

カーラさんから手続きとか準備とか。

そういうのが済んだら通って貰うって。


初等科へ通う日が決まるまでの間に。

カーラさんは僕に、少しでも予習するようにって。


まぁ、その事はね。

何というか僕には凄い神様が居るわけでして・・・・・


教科書と資料を貰った後。

カーラさんは僕を王宮の図書館へ案内してくれた。

図書館のことは自主学習などで自由に使って構わない。

此処まで案内してくれたカーラさんが仕事へ戻った所で、ミーミルが待ってましたとばかりに現れた。


『我が君。であれば此処は是非。賢神の私が指導を』


勉強をミーミルに見て貰う。

レーヴァテインが先に僕の指導役なったことも・・・あるんだろうね。

勉強の方は是非、私にって迫られました。


剣術はティアリスとレーヴァテイン。

勉強はミーミル。

アーツはエレンと、時々はリザイア様も。


これを全部。

僕は『時間の概念が存在しない世界』の方で好きなだけやれる。


エレンのアーツは剣の稽古と同じ時間に。

まぁ、これは前からだけどね。


つまり、カーラさんから貰った教科書のことも。

実際には貰った1時間後くらい・・・かな。

内容は全部。

僕の頭の中へ入りました。

ノートもちゃんと作ったしね。


勉強もだけど、図書館の本。

ミーミルが僕の読みたい本を異世界の方で読めるようにしてくれました。


『我が君。此処にはざっと一万冊以上の専門書があるようです』


神様ってホントそういう所は羨ましい。

パッと見ただけで、何処に何が在るのかまで分かる。


勿論、僕はこの図書館に在った『聖剣伝説物語』

教会の図書室にあった聖剣伝説物語とは著者の異なるそれから。

当然、最初に読みました。


それと、これは今もだけど。

僕はミーミルから『古代語』を教えて貰っています。


古代語は僕たちが使っている共通語と違って、廃れた言語とも呼ばれている遺産です。

古代語の種類。

幾つも在るのというのはミーミルの他にも神父様から聞いている。


ただ、ミーミルはこの廃れた言語について。

今の時代で僕たちが日常的に使っている言葉。

その中には超文明時代からの言葉の名残りも在ると話していた。


ちなみに何故、古代語を?

理由は勿論、『エレンと一緒に古代遺跡を探検する』ため。

他に『リーベイア大陸古代遺産管理条約』も絡んでいる。


条約のことは社会科の教科書に載っていました。

でも、教科書には条約の詳細。

その部分が載っていなかったので気になって調べました。

此処がきっかけで、僕はミーミルから古代語を習い始めた。

という流れです。


僕はシルビア様に、騎士になっても古代遺跡の調査もしたい希望。

ずっと気になっていた歴史の中にある空白の部分。

空白の時間に何が在るのかを、僕も調べたい。


『勿論、構いません。騎士の中には剣よりも学問の方に専門を置いている者も居ます。ですから、アスランが考古学に興味を持っているのであれば。私は勿論、応援しますよ』


何方かしか選べないかも知れないという不安。

でも、シルビア様は応援してくれるって。

逆に子供の内から考古学に興味を持っている僕は凄いって褒めていました。


そのシルビア様だけど。

僕は王宮へ来た日からシルビア様の部屋で生活しています。


以前は従騎士になるまでの間、当時は幼年騎士のマリューさんが同じように生活していたんだって。

他にも僕が王宮に不慣れだという理由もある。


けどね・・・・

僕がシルビア様と一緒に暮らす様になってだけど。

シルビア様の部屋。

まぁ、部屋というには広過ぎるんだけど。

カーラさんの勧めで、ティアリス達も一緒に住むようになったんだよね。


シルビア様の部屋は、勿論、王宮の中に在るんだけどさ。

一つの区画を全部。

そういう感じで広い区画に幾つもの部屋がある。


ただ、一番大きなサロン。

此処は既にユミナさんが我が物顔で占領中。

そして、僕が許可したからだけど。

普段はコルナとコルキナが世話をしている。


何で、ユミナさんが此処に?

リザイア様の話だと、僕が使ったユニヴェル・クレアシオンが原因で、ユミナさんが自分に都合よく作った世界。

それを理由は不明でも。

こっち側に移植してしまったんじゃないかって。


で・・・・

ユミナさんの世界は壊れてしまった・・・らしい。

あと、その時に何か大きな力が働いたから。

こっちの世界にユミナさんが来てしまった。

という事になる・・・っぽい。


一応。

この件はリザイア様が調べてくれるんだけど。


『まぁ、あれさね。気長に待ってりゃ何とかなるんじゃね?』


結果。

ユミナさんがサロンを占領するに至った。

という次第です。


それからエレン。

エレンの件も結局だけど。

簡潔に一言。


『呪い』


だね。

僕とエレンの間には『呪い』で繋がった部分が在る。

これも仕組んだのはリザイア様。


だからシルビア様はもの凄くお冠だった。

クーリングオフだとか怒っていたけど・・・・

無理やり切ろうとすれば僕もエレンも消えてしまう。


ホント・・・・

リザイア様って詐欺師だね。

僕は一生。

リザイア様へ無警戒には、なれそうにありません。


-----


「ねぇ、アスラン」


朝食の後で本を読んでいたアスランは、隣に座るシルビアの呼ぶ声に視線を起こした。

今は朝食の後で、もう少しするとシルビア様は政務へ。

アスランも同じ頃から聖騎士ハンスの指導が待っている。


視線を上げたアスランへ。

ただ、シルビアの視線はアスランの読んでいた本へ向けられていた。


「アスランが読んでいる本ですが。それは古代語で書かれた難しい本ではありませんか」


敢て尋ねながら。

しかし、シルビアにはパッと見ただけで字体の異なる本。

それでもしやと抱いた疑問へ。


「はい。これはミーミルから古代文字を習い始めた時に、その時から読む練習用にしている本です」


アスランはカーラから初等科で使う教科書や資料を受け取った日の内に、その時から古代語を既に学んでいる。


「それで神父様からも授業で習いましたが。僕たちが古代文字と呼んでいる遺産には幾つも種類がある。これはミーミルからも習いました。この本はミーミルが僕のためにザーハラム語で書いたものです。今日の授業までに読んで、それから授業で内容を伝えるのが課題です」


ザーハラム語?

そんな言語は聞いたことも無い。

大学ではエリザベート博士から直に学んだシルビアでも、アスランが読んでいる古代語の本。

何が書いてあるのかはさっぱり・・・・・


「その・・・じゃあ。アスランは古代語を読めるようになったのですか」

「ザーハラム語くらいなら普通に読めますよ。でも、僕がしっかり読めるようになりたい言語はユーロピアス語ですけどね」


答えたアスランから見て流石に驚き過ぎ。

というくらい大袈裟なシルビア様のリアクション。

アスランは今現在で習っている範囲。

このくらいはシルビア様だって知っている。

そう当然のように思っていた。


現代共通語の基になった『ジパーニ語』

超文明時代に使われていた『ユーロピアス語』

ユーロピアス語から派生した『イシス語』『エッセン語』『アハートラス語』

この三つは『ザーハラム語』の源流にもなっている。

他にも色々あるんだけど・・・・・


「・・・というわけで。ミーミルから習った事を纏めると、今の時代で古代語と呼ばれる言語。これは昔の共通言語『ザーハラム』の派生で、ジパーニも含めた幾つかの言語が該当します。ですが、ザーハラムがちゃんと読めるのであれば問題はない。ミーミルがそう言っていました」

「・・・・そうなのですか」


単に驚き過ぎ。

と、表現するには引き攣っている。

そうも見受けられるシルビアの表情は、しかし、アスランはここでも自分が学んだ事くらいは知っているだろう・・・・・

シルビア様が驚いているのは自分が子供で、子供が古代語を学んでいる事にだと。


「古代文字のことは最初、図書館に在った本で勉強しようと考えたんです。王宮の図書館には古代語を翻訳した本が何冊もありました。ですが、複写した古代文字とその訳の部分。ミーミルは文字も訳も間違いだらけだって。それで古代語もミーミルが僕に教える流れになったというわけです」


シルビアも無論、王宮の図書館に古代語を訳した書籍が在る。

それくらいは知っている。

と言うよりも、学生だった頃は当然のように利用すらした。

見開いた左のページには複写した古代文字が、右のページにはその訳文。

著者にはエリザベート博士と、教え子のテスタロッサ博士も名を連ねている。


「僕がミーミルから習った内容では、今から約二千前。黎明期の頃に主流になった言語のジパーニが、そこから現在に至る過程で僕たちが使っている共通語に変化しました。同時にザーハラムから派生したジパーニ以外の言語。これが現在の考古学では古代語と呼ばれる遺産になったそうです」


聞いていたシルビア様はずっと驚きっぱなし。

逆にアスランの方が「そんなに驚くような事ですか」って尋ねてしまう程。


ただ、それから間もなく。

シルビアはカーラが迎えに来たので政務へ。

アスランもシルビア様を見送った後。

そのまま向きを変えると反対側の方へ歩き出す。


今日もこれからの午前中。

ハンスの部屋で騎士の作法を習う。


作法がしっかり出来る。

それだけで騎士は見栄え立ちする。

指導してくれるハンスは実際、手本を見るアスランへ格好良い印象を抱かせていた。


-----


飛行船の窓越しに映した超常現象。

としか言えない大規模なマナの事象干渉。

それを瞳に焼き付けた後。

エリザベートとルイセの二人は、超常現象によって予定時刻よりも遅くシャルフィの国際空港へ到着。

そして、二人の足はそこから真っ直ぐ王宮へと向かった。


だが。

興奮ですっかり若返ったエリザベートとルイセを待っていたもの。


『大変申し訳ございません。ですが、勅命により本日の謁見は一切受け付けられません』


応対した近衛騎士の話を纏めると、自分達が空の上で見た現象。

それは間違いなくシャルフィで起きたものらしい。

しかも王都の近郊。

だけに、女王と宰相の二人とも。

それで今は謁見の時間など作れないくらい忙しい状況に置かれている。


応対した女性騎士はまだ中等科へ通う年代。

それだけ若い相手は、エリザベートの暴言に近い苦情にさえ懇切丁寧に受け答えをした。

同伴していたルイセは、師であるエリザベートを叱るように諫めた後。

未だ申し訳ない面持ちで応対してくれる女性騎士へ。


「では、日を改めて謁見を申し込みます」


ルイセはまだ喚いている師匠の首根っこを掴むと、半ば引き摺る様にして王都の中心街へ。

しかし、応対した女性騎士は生真面目な人柄だった。


エリザベートとルイセの二人が宿泊したホテル。

手配は全て女性騎士が行うと、女王との謁見。

これも自分が責任を持って連絡を届ける。


引っ込みがつかないからムスッとした師を他所に。

ルイセの方はマリューと名乗った若い騎士へ。

寧ろ良く出来ている。

逆に手を焼かせる師には呆れ顔だった。


エリザベートとルイセが女王と謁見したのは翌日の夕方。


謁見の用向き。

ルイセは師に届けられたレポートの件。

詳細を裏付けるため、ホリスティア機関で行われている調査の途中経過の報告。


「この報告書を作成した段階では、裏付けの全てを取れていません。ですが、カミツレに含まれる薬効成分に関しては概ね事実か事実である可能性が極めて高い。薬学の専門家を中心に今も調査と研究が続けられています」


女王から受けた依頼。

だが、しかし。

依頼の基となったレポートについて。

エリザベートとルイセの二人は、この時までシャルフィで国家事業となっている水の問題。

そこに携わる専門家が作ったものだと思い込んでいた。


「あたしゃね。シルビアからまさかって思うくらい。まぁ~だけど、あれさね。あのシルビアにこんなレポートは作れない。そこだけは確信を持って言える。で、こんな新発見を一体誰が。いい加減、誰がこんな発見をしたのかを教えて欲しいんだけどね」


同席していたカーラの思わずの笑い。

シルビアはけれど、自身の学生時代。

当時の真相を知られているだけに。


「先生は相変わらず元気そうですね。それと、この件の基になったレポートですが。今、呼びに行かせていますので間もなく来る筈です」


女王という立場が着させた被り物。

昔とは違うを演じながら。


それでも。

目の前の師とこうして会うまでは、その前に別の師とも会っている。

今日は午後の時間だけで二人の師と会った。

そして、二人から揃って含む言われ方もされている。


王宮へ帰って来て早々。

政務としての謁見ではない私的な会談。

そういう形で手配してくれたのはカーラ。


『どうせ会談の後は、そのまま此処に居座る事になるのです。先生の土産話もあるでしょうから会談の流れで夕食へ。その準備も整えておきました』


スレインからは〝やんわり”とでも。

エリザベートからはグサッと突き刺される。


もっとも。

シルビアの方も意図して伏せた部分。

それを明かしたときの反応。

一体何者が魔導革命の祖と呼ばれるエリザベート博士に『新発見』と評される偉業を成したのか。


そう思えば今この時くらい。

師には言いたい放題言わせても良いだろう・・・・・


数分後。

呼び出しを受けたアスランが、女王が客人を迎えている部屋に入って来た。

同時に、エリザベートとルイセの二人はこの瞬間。


二人揃って胸中に抱いた全く同じ印象。

一瞬でもそこに映ったユリナ王妃の面影と雰囲気。


エリザベートは、男の子が名を名乗るよりも先に。


「大きくなったさねぇ。そうかい・・・あのレポートはアスランが。鳶が鷹を生んだとは、こういう時の格言さね」


つい先ほどまで、女王に対しては平然と言いたい放題。

しかし、部屋へ入って来た男の子には声を震わせながら。

深い所から一気に込み上げた感情が頬を伝った。


エリザベートとルイセが知るアスランは5歳になっていた。

当時、命を狙われた聖女を匿いながら。

これも対外的には一切明かさなかった事実。

故に。

今も聖女シルビアは独身で周知されているのだが。


エリザベートはこの件。

真相はシャルフィの騎士団を束ねる夫にさえ話していない。


こうして今、目の前に立っている。

幼いのに、ちゃんと礼儀正しく挨拶も出来る。


エリザベートとルイセの二人は、アスランと交わした挨拶。

それだけで直ぐ察した。

二人とも口にこそしなかったが、女王は未だアスランを我が子だと告げていない。


理由は推し量れる。

何せ、二人とも当時の真相には深く関与しているし、此処に居ないだけで多くの協力者が一致団結したからこそ。

聖女は無事に命を生むことが出来た。


あれから5年。

もう5年が経っていた。


-----


アスランが古代語で書かれた本を読んでいる。

その時の会話はシルビアが政務中。

久しぶりに親友から睨まれる事態を招いていた。


「陛下。手が止まっています」


執務室へ赴いてから未だ1時間。

アスランと寝食を共にするようになってからのシルビアへは苦言の必要が無い・・・・・

少なくとも昨日まではそうだった。


結局。

カーラは午前中の休憩を早めに取った所で。

事情を把握した後の行動は素早かった。


古代語に関して、アスランがシルビアに話した内容。

実際、シルビアから聞く形になったカーラにも驚きはあった。


ただ、この件は専門家に伺う方が早い。

しかも、丁度良い事に暇を持て余しているだろう客人が二人。

どうせ暇なら王都の大学にでも行って講話の一つでもして来れば良いものを。

考古学科の生徒などは、それだけで当日くらいは勤勉になるだろう。


最初、呼び出しに対して唇を尖らせたのはエリザベート。

そんな師の性格を理解っているルイセが一先ず宥めながら。


二人とも古代語の解読では世界で三指に入る。

まぁ、これは周囲がそう評しているだけ。

ここ(王宮)の図書館にも二人の訳した本が在る。


だが。

二人は古代語が幾つも在るくらいこそ常識でも。

現在使われている共通の言語。

これがジパーニとかいう言語の流れを汲んでいる。

更にジパーニ以外の幾つかの言語。

此処が現在の考古学において『古代語』と定義される部分。

ところが。

それすらザーハラムとかいう言語の派生らしい。

そして、ザーハラムがしっかり読めれば、現在の考古学で定義された古代語は読めるようになる等。


内容へエリザベートは、しばし考え込む素振りを見せていた。

一方のルイセは手帳を取り出してページを捲りながら。


「先生。ザーハラムとは、時々出て来るあのザーハラムではないでしょうか」

「あんたもそう思うかさね」


小さく頷く仕草で返した師の表情を見れば、此方の抱いた点くらいは理解している。

古代語の解読。

その作業において意味の分からない単語は今でも多い。

前後の文脈などから推測して、恐らくこういう意味ではないだろうか。


長年携わってもこうした地味な作業は未だに続いている。

そして、ルイセが手帳に纏めている意味不明扱いの単語の一つ。

そこにザーハラムも載っていた。


「先生は以前。ザーハラムは宗教や思想。或いは国家や権力者を指す固有名詞ではないか。そういった解釈を踏まえて訳すと繋がりそうな部分も在ると」

「まぁ、それはあたしよかルイセ。あんたの専門分野絡みだからさねぇ。けど、ザーハラムは言語の名称。そんで、シルビアの息子はあたしらが未だに解読し終えられない幾つもの古代語がザーハラムの派生だと言った。そんな知識を何処から」


呼び出された直後の不機嫌は疑念へ。


「シルビア。あんたの息子は一体何処から、あたしやルイセでさえ知らない知識を手に入れたんさね」

「以前、私が先生に宛てた浄水技術のレポート。それはあの子がティアリスという名の精霊。今は神と呼べる存在から得た知識だそうです。先生も夕食の席では顔も合わせた神と呼べる存在達ですが。その中の一人。アスランはミーミルから今も古代語を学んでいると。今朝そういう話を聞きました」

「あのアーツとかいう魔導のノートも。そうなのかさね」


王宮で過ごした時間。

エリザベートは惰眠を貪っていた・・・わけではない。

寧ろ、さっき呼び出されるまでの間、ずっと没頭していた。


女王から見せられた自分達の常識を覆した数冊のノート。

現代魔導。

アーツ。

魔法式は駆動式と発動式から成り立っている・・・等。


エリザベートは最近になって自ら発見した属性ごとの波長の違い。

公にはまだ公表していない部分も。

それすらノートに収まっている。


思案の深さはエリザベートの表情を、幾分険しいものへ変えていた。

同時に、師が口にした部分はルイセの表情にも思案を色濃く伺わせていた。


そんな二人の険しいとも感じさせる雰囲気へ。

先にカーラから「シルビア様。どうやアスラン様ですが・・・」と、視線を向けた女王へ。


「アスラン様の初等科への入学手続きですが。陛下の意向もあって作法が身に付くまでは据え置くようにしました。ですが、その前に現在の実力を見定めた方が良いように思われます」

「カーラ・・・」


実力の見定め。

意見を述べたカーラにも気になる事があった。


「陛下も私が初等科で使う教材をアスラン様に渡した件は既にご承知のはず。そして、私はアスラン様に入学までの間で少しでも予習をするように伝えました」

「ええ、そのことは勿論。私から貴女へお願いした件でもあります」

「はい。ですが、アスラン様は既に初等科で学ぶ範囲を全て履修し終えている可能性があります。と言うのも、アスラン様は既に履修範囲の全てをノートに纏めているようなのです」

「え!?」


あり得ない。

それくらい見て分かり易い驚きは、けれど、口にしたカーラとて同じ。

だが・・・


「理屈などは私も見当すらつきません。ただ、事実。アスラン様の使う魔導は私達の常識とは明らかに異なります。一度ならずリーザ様へ尋ねもしましたが答えては頂けませんでした。アスラン様はその部分を話そうとしてティルフィング殿達から止められております」

「そうね。カーラはつまり、アスランは私達に秘密にしなければならない部分を持っている。そして、この秘密になっている部分が関わってアーツと呼んでいる魔導や古代語を学んで今に至ってる。そういうことよね」

「その通りです」


アスランが王宮へ来た当日。

女王と宰相の二人は、自ら神だと名乗った三人から納得出来る仔細総てを聞けたわけではない。

最初に関わった剣神。

自ら剣神だと告げたティルフィングは、アスランを鍛えるために神界へ幾度も招いた。

もっとも、それくらいはシルビアとカーラも聞き及んでいる。


ただし、どんな鍛え方を施したのか。

剣神は二人へ『心構えと基礎を。それを今でも継続して行っています』としか答えなかった。

こちらが具体的な事を尋ねても。

神と名乗る者達は揃って『基礎と心構え』以上には答えてくれない。


それでも。

ティルフィングと名乗った剣神は最後。


『マイロードは我らが守ります。たとえ、そのためにシャルフィが滅んだとしても・・・我らはマイロードだけは守らねばなりません』


圧倒されるだけの気迫。

そう表現できるだけの眼差しを向けられて、シルビアとカーラの二人とも。

本心では納得していない。

だが、これ以上は踏み込めない。

少なくとも此度はここまで。

表面的には追及の矛を収めた経緯がある。


王宮へ運ばれたアスランが眠りから覚めるまでの間。

そして、目を覚ました以降のアスランが口止めされた事実。

精霊と神は揃ってアスランへ。


『理の違いを悪戯に語ってはならない』


儀式の際だけ招かれたシルビアは、儀式を終えて戻ったときには数日が過ぎていた。

そして、この時もシルビアは祖先である騎士王から儀式の内容。

詳細を語る事を禁じられている。


故に。

シルビアだけは内心。

アスランが神界で何かしらを行っていることは事実。

けれど、詳細は自分と同じく話せない。


逆に、神界などという場所へ行ったことがない者には理解らない。

これも道理だろう。


自分は継承の儀の時に招かれたのが最初。

そして、宝物殿であれが消えている事実を知った日に再び招かれた。


アスランはそこへ、ティルフィングと関わって以降は毎日。

シルビアはそれまで、我が子が5歳になりさえすれば。

後は万難を排してでも一緒に暮らす。


なのに、現実は確かに一緒には暮らせるようになった。

一緒に居られるようになったのに・・・・・


無意識のうちに、シルビアの口からは溜息だけが何度も漏れていた。


「陛下。アスラン様が仮にです。初等科を履修し終えていれば。寧ろ、それこそ此方には好都合です」

「カーラ・・・」

「思い出してください。5歳で幼年騎士へ任命した後で、アスラン様には実力で示して貰う意図を。私と陛下の間で画策した計画では任命後から3、4年をかけて初等科におけるアスラン様の位置を盤石にする。その上で飛び級を以って中等科への進級。最年少記録を更新した偉業に陛下が傍仕えを命じる計画が一足飛びに叶うかも知れないのです」

「!!」


そうだった・・・・・

今は未だ王宮へ来たばかりだという部分も在る。

そして、幼年騎士であるうちは自分の傍に置いても問題にならない。

此処は既にマリューが前例。

けど、中等科へ上がれば。

つまり、その時には正式に従騎士へ身分が変わるアスランの処遇。


未だ会わせてはいない。

そう。

あんな変態爺の所にだけは、我が子を預けるつもりなど無い。

マリューもそう。

娘同然に可愛がっているマリューは、既に狙われている筈。

父親の遺言が在るから未だ騎士団長にはしているけど。

機会さえあれば。

後は説得も必要だけど。

義兄さんの方が何万倍も騎士団長に相応しい。


「・・・そうでした。アスランの事では色々あり過ぎて。それで少し不安になっていましたが。仮に、カーラの言う通りであれば。その時には文句無く近衛隊へ配属します。そして、母様が義兄様をそうしたように。アスランは私の傍に置きます」


ふふ・・・

そうよ♪

そうしてしまえば、後は私の行くところ全部に連れていける。

それこそ当たり前の親子同然に出歩くことだって♪


アスランが絡むと表情が作れなくなる。

カーラは敢て口にしなかった。

だが。

アスランが絡むと浮き沈みが顕著になる癖。


既に妄想の世界へ出掛けてしまったのか。

此方の呼ぶ声にさえ無反応なピンクボケの女王を他所に。

カーラは、エリザベート博士とテスタロッサ博士の二人へ。

二人が要望したアスランとの面談。

今は作法を習っている時間のため。

それでも。

今日中には時間を作る約束を交わしたのだった。


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