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第6話 ◆・・・ そして始まる幼年騎士の時間 ・・・◆


そこは見た感じで図書室を連想させた。

けれど、アスランの知っている教会の図書室。

此処とは比べ物にならない。

視線を真っ直ぐ上に向けても。

本がびっしり収まった書棚の一番上。

それが何処なのかも分からない。

書棚は延々と何処までも・・・・・・


「どうぞ。此方へ」


耳に届いた女の声。

反射的に振り向いた先。

ずっと向こう側。

今立っている所はランプの灯りが一つ。

それで薄暗い。

だけど、此処からでも向こう側は明るく見えた。


「見た目は異なりますが。此処もアスラン様が知っている神界と何ら変わりありません。私はアスラン様と話がしたくてお招きしました」


再びの声は最初と同じ。

やはり女性の声。

そして、この声を何処かで聞いた様な・・・・・


たぶん、警戒の必要は無さそう。

言っている事もそうなら。

今は神界に居る。

自分を招いた女性は恐らく神様。

何か用事があって僕を招いた。


声はずっと向こう側の明るい部屋の方から。

そこへ向かって一歩踏み出した。

途端に薄暗かった空間は、ランプが等間隔に灯って辺りを照らした。


ここは広い円筒状の部屋のような場所。

床は石畳で、壁伝いに置かれた書棚が囲んでいる。

天井は見えないままだったが。


アスランの足は、真っ直ぐ声の方へ歩き出していた。


広い円筒状の図書室?を抜けた後。

石畳の通路を歩きながら。

前に読んだことのある冒険物語に出て来た洞窟と似ている。

そう思うと少し、胸がわくわくした。


「本来であれば、私から王であらせられるアスラン様へ出向く所。無礼の段は何卒、ご容赦を頂きたく」


明りの灯った室内へ足を踏み入れた直後。

自分を呼んだ相手は片膝をついた姿勢で。

そのまま深々と頭を下げて待っていた。


印象はミーミルに似ているかも。

深みのある緑色の髪。

ふと、見知っている草原の・・・何処か安心出来る感。

そんな風に抱けた。


「えっと。初めまして。僕はアスランです。お招き頂きありがとうございます」


別に招待状を貰っていた訳でもない。

寧ろ、気が付いたら此処に居た。

だから、誘拐?の表現でも通る・・・かな。


けれど、アスランは感じ取った雰囲気。

それだけで相手を、礼を尽くすに足る存在。

だから、先ずはちゃんと挨拶を返した。


「我が名はメイティス。ティルフィングのような剣に秀でた才はありません。寧ろ、剣を扱うよりも本を読むことを好みます。そして此処は神界に在る私の書館。薄暗く華やかではありませんが。この方が私は落ち着くのです」


顔を上げたメイティスは、優しい印象を強く抱かせた。

立ち上がって今はもう仕草で案内してくれる。


小さくても木目が綺麗な丸テーブル。

アスランはメイティスに促されるまま。

向かい合う椅子へ腰を下ろした。


パチパチと薪が燃える音。

何となく孤児院の暖炉を思い出した。

そして、この部屋の雰囲気。

飾り気は無い。

何方かと言えば孤児院と同じで、みすぼらしくも映る。

けど、居心地は良い。


メイティスの瞳は髪と同じ色。

肌は色白で、濃いピンク色の口紅をしているのだろうか。

でも、綺麗だから良いかな。


服装はカーラさんに似ている感じ。

これで、眼鏡も掛けたら・・・・・

うん。

きっと似合うかも。


「あの、メイティスさん。僕は何故ここに招かれたのですか」


そう。

先ずはここを尋ねないと。


「アスラン様は『大いなる力』の一端。一端なれど、理に干渉できる力を持っておられます。ですから、過って使う前に。その力を今後どうされたいのか。直接お会いして聞きたかったのです」


真っ直ぐ見つめられると何かこう・・・・・

やっぱり、カーラさんと似ている。


でも、大いなる力?

理に干渉できる力って?

それを僕が過って使う前に?


「あの・・・大いなる力って何ですか」


分からない事は素直に聞く。

目の前の神様は、分からない事を尋ねても大丈夫そう。


僕の質問。

メイティスさんは少し驚いた表情だった。


なに?

そんなことも知らないの?


バカにしてはいないけど。

でも、素直に驚いた。

そういう感じ。


「アスラン様はアーツを会得されました。未だ極みへは程遠いようですが。ですが、それは既に大いなる力の一端を手にされたのと同じでございます。故に、私は聞かねばなりません。御身はその力。如何様に使うつもりなのかを」

「僕は中等科に入らないと学べない魔導。それを学びたくて。だからエレンからアーツを習ったんだ。でも、アーツと魔導は異なる。それは理解っているつもりだよ。だけど、大いなる力だっけ。そういうものだったなんてのはメイティスさんに言われるまで知らなかったんだ」

「なるほど、そうでございましたか。確かにエイレーネシア姫の性格であれば・・・・しっかり説明する等という事は先ず。有り得なさそうですね」


あっ・・・・

メイティスさんが項垂れた。

エレンのことも知っている感じだったし。

この項垂れは、きっと納得したんだろうな。


「あの・・・僕はアーツで悪い事をしたい。そんな使い方はしません。だけど、ティアリス達に誓ったんです。常世の安寧を守るって。アーツがその大いなる力とかいう凄いものでも。僕は誓いを破るようなことは絶対にしません」

「・・・・私にもその事は誓えますか。アスラン様は既に世界さえ滅ぼせる。それくらい恐ろしい力を手にしておられます」


世界を滅ぼせるって・・・・・

エレンの奴。

僕にはそんな事を一言も言ってないぞ。

と言うか。

僕なんかよりもエレンの存在の方が恐ろしいじゃないか。

だって、エレンは気分屋だからね。

うん。

やっぱり、エレンの方が遥かに危ないよ。


「それでメイティスさんが安心出来るなら。僕はアーツのこと。メイティスさんにも誓うよ。この力は常世の安寧。そのために使うって。世界を滅ぼしたりなんかしないから」


・・・・・王であらせられるアスラン様の誓い。代わりに私の忠誠を捧げます・・・・・


普通に言葉を交わせていたのに。

今だけ一瞬。

頭の中へ響いた。


「アスラン様。これにて私とアスラン様の間には盟約が結ばれました。同時に盟約とは反故にすれば存在が消滅します。故に、アスラン様には常世の安寧を。そのために生涯を捧げて頂きます」

「盟約って・・・ティアリスもミーミルもレーヴァテインもだけどさ。破ったら死んでしまうみたいな事は何も言っていなかったな」

「存在の消滅。それは単に死ぬのとは異なります。アスラン様がこの世界に存在していた事実の総てが消滅。つまり、誰の記憶にも残らないまま消えてしまう事です」

「やっぱり、神様と交わす約束って恐ろしい内容が含まれていたんだね」


うん。

僕はまた一つ勉強したよ。


無意識の内に何度も頷きを繰り返しながら・・・・・

アスランはハッとした。

そう。

なぜ今まで気付かなかったのだろう。

メイティスの声。

此処で聞く前に・・・・・


「ユニヴェル・クレアシオン」


独り言のように呟いた声へ。

聞いていたメイティスさんが、嬉しいのが分かる表情で微笑んだ。


「アスラン様が気付いてくれて。私は今、とても幸せです」


-----


自分の剣を教えるために。

それでここしばらくずっと賑やかだった。

ユミナはアスランを見送った後。

再び静けさを取り戻したこの世界で唯独り。


「・・・それにしても、ずっと独りが当たり前だったからでしょうね」


紅茶を口に運びながら。

この部屋もそう。

さっきまで妹や仲間達が煩く感じるくらい。

でも、賑やかな空気は楽しかった。


「アスランの剣はまだまだ伸びます。そして、ティアならきっと・・・本物の騎士の王へ育てられます」


あの時代。

戦後世界の裏側。

私はずっと戦い続けて来た。


人々が平和になったと歓喜に溢れる中で。

私はずっと裏側で戦って来た。


・・・・・妹を玉座に座らせて、真実を表には出させなかった・・・・・


「ウロボロス。あの者達は強大です・・・・それが本気になれば、今のシャルフィなど」


敵の強さが分かるからこそ。

今のアスランの実力。

あの程度では相手にもならない。


だが。

ユミナにも疑念はある。


「アスランの存在に気付いている・・・であれば、何故。奴らなら間を置かず次の一手。既に何かしらの行動を起こしてもおかしくない筈・・・」


ヴァルバースが討たれた後から。

今の所は動きの気配が無い。

もっとも、此方の気付かない所で何かしらは起こしている筈。

だとしても。

その気配を感じ取れない。


「ティアも、コールブランドも気にはしている筈。そして、いざとなれば。アスランだけでも逃がせます・・・・」


募った不安を吐き出すように。

それで漏れた溜息・・・・・


ところが、この直後。

激震を伴った自分だけの世界の揺れ。

前触れ無しの異常事態は、ユミナが立ち上がるより先に。


ユミナ自身。

何が起きたのかを把握できないまま。

強過ぎる力の奔流に飲み込まれるようにして。

意識は最後。

自分が作った自分だけの世界。

それが崩壊する様を映しながら。

間もなく途絶えた。


「此処・・・は」


記憶の最後。

何がどうなったのかは分からない。

ただ、抗うことさえ出来ず。

自分の世界は・・・・・


「姉様。気が付いたようですね」

「この声は・・・ティア?」


自分の屋敷。

その天井とは異なる。

けれど、柔らかいこの感触はベッドの上。

瞳は彷徨うような動きでも。

ユミナは自分のおかれた現状。

少しでも状況の把握を・・・・・


「姉様。ここはシャルフィの王宮。その中の一室です」


節々が上げる悲鳴。

感覚で、打ち身や打撲の酷いもの程度。

楽ではないが身体くらいは起こせる。


「姉様。まだ無理をしてはいけません」

「いいえ、これくらいは何とも・・・・っ痛」


無理にでも身体を起こそうとして。

それで走った激痛と、漏れた呻くような声。

ただ、背中から添えられた妹の腕へ。

寄り添う妹の温もりは、これも懐かしい・・・・・


「何故、姉様があの場に現れたのか。それも酷い怪我で気を失ったままうつ伏せに。向こうで何かあったのですね」


尋問。

ではないにせよ。

耳元でこう厳しい口調で尋ねられると。

これが妹の性格だと理解っていても。

気が滅入る。


束の間に感じた懐かしいは、風のように吹き抜けてしまった。

けれど、ユミナの意識は一先ず安心・・・・

しても良いだろう。

本能的にそう抱いた後は直ぐ。

今度こそ眠るように堕ちて行った。


-----


夏の日差しは午後の半ばを過ぎても。

まだ高い所で照り輝いていた。


あれから直ぐ。

シルビアは意識の無いアスランを抱えるようにして馬へ跨ると、急ぎ王宮へ戻った。


そして・・・・・

賓客向けの応接用の部屋。

シルビアとカーラは、この部屋へ招いた者達から。

アスランとの関係は勿論。

なぜ、アスランが自分達の常識ではあり得ない力を持つに至ったのか。


「一先ず、アスラン様がアーツと呼ばれる魔導。それについてはリーザ殿の息女が教えられた。そして、教えられたアーツでアスラン様はティルフィング殿達と関わられた。大まかにではありますが。この解釈でよろしいでしょうか」


今もシルビアの隣に座るカーラから尋ねられて。

けれど、この部分はティルフィングも「その通りです」と、頷いた。


「我らの内で最初にマイロードへ忠誠を誓ったのは私です。ミーミルとレーヴァテインの二人は、マイロードがヴァルバースと戦っている最中に忠誠を誓っています。それからコルナとコルキナですが。二人が仕え始めたのはヴァルバースとの戦いの後という流れです」


既に一度は話している。

それでも、此処までの会話が一区切りついた今。

一度整理するという意味で。

ティルフィングは自らの言葉へ頷く二人から。

此方側が伝えた内容。

この部分の理解は得られた。

そういう感を得ていた。


案内された客室。

贅沢を極めた・・・等には程遠い。

しかし、最低限。

賓客などをもてなす程度に必要な品位も損ねない。

室内の印象は姉が王だった頃と比べて。

然程、変わっていなかった。


間に卓を挟んで一方の長椅子には女王と宰相が。

もう一方の長椅子には、自分の他。

今はレーヴァテインとミーミルが同席している。


別室で眠ったままの姉。

そして、意識の戻らない主。

二人のことは、コルナとコルキナ(コールブランド)が見ている。

それともう一人。

此方も意識の無いエイレーネシア姫。

主と姉と同じ部屋で、姫にはリザイア様が付いている。


『そうねぇ。バカ娘はマナが空っぽになって意識が無い。だけど、アスランは見た感じだと意識だけ。うん・・・意識だけが此処とは別の所に行っている。たぶん・・・あんたらと同じ誰かに。常世の王様候補に興味を持った誰かに呼ばれたんじゃないかしら。一応、あたしが面倒見ているから大丈夫♪』


この時のリザイア様の見立てを他所に。

意識の無い主にだけ、女王は『私が看病します』等と・・・・・

やや平静を欠いた態度も露わにしたが。


『酸っぱい女。一度しか言わないから黙ってお聞き。主様とユミナ様。二人の看護は私と妹で十分です。いつまでも油を売っていないで、さっさと仕事に戻りなさい』


あの時、コルナは露骨に殺気立った。

そして、姉と同様な妹。

そもそも、シャルフィの王位は『コールブランドによって選ばれる』のだが。


しかし、コールブランドに此処まで蔑まれる・・・・・

だが、それくらい現在の王は問題を起こしたのだろう。


ティルフィングはアスランと関わる以前。

つまり、即位後からの精力的な女王の方は全く知らないでいる。

否、主であるアスランから聞いた範囲程度。

それくらいしか女王を知らない。


故に、此処での対話中。

ティルフィングは主が語る聖人君子にしか聞こえない女王と、コールブランドが蔑む女王。

両極端な印象を持つ目の前の女王を。

これからは近くで見定めよう・・・・・

そう胸の内に今も秘めていた。


ふと、ティルフィングは自分と視線の重なった女王。

此処までにも何度か重なった途端、僅かでも逸れた相手の視線へ。

やはり、何か警戒されている感を直ぐ抱いた。


「シャルフィの女王よ。貴女は私に特に警戒感を抱いている。そう見受けられましたが」


間髪を入れず。

此度は見逃さない。

ただ、少なくともティルフィングにとって、女王とはこれが初対面。

おおよそ予測もつくが。

しかし、であれば誤解されている。

原因は姉の性格だろうが。

ならば尚のこと。

この誤解だけは解かねばならない。


「女王は我が姉と何かしらあったように見受けられます。ですが、それは姉とであって。故に私ではありません」


ああ・・・・

やはり、そうでしたか。

答えずとも表情で理解りました。


「女王よ。マイロードは貴女を特に尊敬しておられます。ですから私も。貴女へは敬意を持って接します。ですが、もし。マイロードの尊敬を裏切るようなときには・・・その時には相応の覚悟をして頂きます」


威圧を態と含ませた此方の振る舞い。

当然、この件は隣の宰相が叱責するだろうことも予想した。

だが、自分が仕えている主。

目の前にいるシャルフィの女王ではない。


「ティルフィング殿。陛下はアスラン様から向けられる尊敬の念。それを裏切る等と決してあり得ません。寧ろ、アスラン様に会いに行く。その一念で昼夜問わずの働き方さえ厭いませんでした。その点だけは、宰相である私が保証致します」

「分かりました」


此処までの対話中、その殆どは宰相との会話ばかり。

女王の方は何処か心此処に在らずで、殆ど口を開かずにいる。


それでも、相手側の知りたかった部分。

此処に一先ずの区切りも付けられた対話の時間は、もう終わるだろう・・・・・


場の空気からティルフィングはこの後。

そこへ思案を向けようとして。

ただ、先に部屋のドアをノックする音が届いた。


ノックの後で入室して来たのはコルキナ。

コルキナはそのまま視線をティルフィングへ。


「主様が目を覚まされました」


殆ど口も開かず心此処に在らずだった女王は、この直後。

勢いよく立ち上がって駆ける様に部屋を出て行った。


ティルフィングは気付いた。

女王は確かに心此処に在らずだった。

けれど、それは強過ぎる感情を必死で押さえ付けていただけ。

マイロードを想う情の深さ。

あの涙に・・・偽りは無い。


先に駆けて行った女王を追うようにして。

ティルフィングも今は急ぎ部屋を後にした。


-----


騎士王の屋敷・・・・とは違う。

だけど、この身体が沈む様な感を得られるふわふわ。

孤児院のベッドなんかとは比べられない。


だけど・・・・


「にへぇ♡・・・」


目が覚めた直後。

アスランは自分を抱き枕にまだ寝ている。

涎まで垂らしながら今も夢を見ているんだろう。

裸じゃないエレンの抱き着く腕と脚を外しながら。


「おっ♪やっと目が覚めたかね。うちの娘なんかマナを使い切ったもんだからさぁ~。だけど、あんたが付けている神装。ミーミルの効果を分けて貰うのには、娘の身体をこうやってくっ付けないといけなかったんさね♪」


ん?

どういうこと?

だって、僕は今まで神界に・・・・


「リザイア様。あの・・・」

「ああ、あんたさぁ。禁忌を使った後で意識不明だったんよ。そんで、恐らくはあんたが使った禁忌。『ユニヴェル・クレアシオン』がバカ娘のマナを空っ欠にしたんさね。んで、うちのバカ娘はマナ枯渇で今もお寝んね中ってわけ」

「あ、なるほど・・・」

「だからさぁ~。悪いんだけど、うちの娘がもう少し回復するまで。手だけでも繋いでおいて欲しいんよ。なんだかんだで、あんたがマナ枯渇に至らずに済んだのは娘のおかげなんだしぃ♪あっ♪だけど一発で回復させる方法もあるんよね♡」


露骨に声色が変わった。

それだけで、アスランの無意識は警戒レベルをグンっと引き上げた。


さっと辺りへ視線を流して。

此処が何処かの部屋で、自分はエレンとベッドの上。

目の前には服を着たリザイア様と・・・その後ろに無表情のコルナがいる。


立派な部屋と高そうなベッド。

花瓶とかも孤児院のとは違う。

どう見ても高級な品物。

カーテンもだし、床に敷かれた絨毯も・・・・


・・・・いったい、此処は何処なんだろう?・・・・


思考を働かせるアスランを他所に。

この精霊様は相変わらず。


「あのさぁ♪うちの娘ってば未だ膜付きなんよねぇ♡まぁ、あたしとしては寝ている間に一発♪でも良いんだけどさぁ♪」

「あの・・・何の話ですか」

「うんうん♪あれさね。娘の初体験を寝ている間には、ちぃ~っとばっかし可哀想でもあるしね。だからアスラン。あたしが許すから・・・口に突っ込んで飲ませてやりな♪」


なに、そのグッジョブは・・・・・

リザイア様がこういう性格なのは今更だけど。


膜付きって?

寝ている間に?

口にってなにを?


「リザイア様。主様には未だ早過ぎます。と言うか、これ以上の悪ふざけは蹴飛ばします」

「まぁまぁ♪コルちゃんてばさぁ。ホントは自分だってして貰いたいくせに♪」


あっ・・・・

リザイア様が蹴飛ばされた。

それにしても。

リザイア様ってホント学習しないよね。


「コルナ。きっとリザイア様が全部悪いんだろうけどさ。でもね。スカートで思いっきり蹴飛ばすと見えるからさ。気を付けようね」

「はい。主様。以後は気を付けます」


コルナは相変わらず。

無表情というか。

でも、感情が全く分からない。

ということも無い。


それよりも。

リザイア様ってホント情けないくらい気を失うよね。

お尻を突き出すような姿勢で白眼向いているし。


上半身を起こした姿勢で、そして今はエレンと手を繋いだまま。

聞いた通りなら。

エレンは僕の使ったアーツで、代わりにマナを使い切った。

代わりになった理由は分からないけど。

でも。

マナの枯渇は一度体験してるからね。

だから、手を繋ぐだけでミーミルの効果を分けられるなら。

それくらいはしてあげても良い。


なんだかんだで。

エレンはやっぱり友達だからね。


どんな夢を見ているのだろうか。

今も時々、『にへぇ♪』って変な笑い方。

そんなエレンを見ていたら。


今度は部屋のドアが勢いよく開いた。


-----


此処までを簡単に整理すると。

僕は真っ黒にしてしまった土地。

そこを今度は騎士王の世界そっくりな大草原に変えてしまった。

リザイア様の話で、その時の僕が使ったアーツ。

『ユニヴェル・クレアシオン』は万物の創造とかいう禁忌らしい。


禁忌って。

メイティスさんはそこの所、何一つ説明しなかったな。

優しくて良い人だと思ってたけどさ。

まぁ、これは今度会ったらちゃんと言おう。


で・・・禁忌を使った後。

僕とエレンは意識を失くしていた。

エレンはマナの枯渇。

僕は意識だけが神界へ。

それから何故?

僕が創り出した大草原に騎士王が倒れていた。

で、三人揃って王宮に運ばれた後。

シルビア様の部屋の一つで寝ていたらしい。


本来は時間の概念が存在しない神界。

けど、今回も時間は進んでいた。

ああ、でも。

ティアリスからの『肉体が此方にあるために時間が過ぎた』という説明には納得。

まぁ、精神だけでも行けるという事を今回は学んだ。

ここはそれで良し。


神界で僕がメイティスと会っている間。

ティアリス達は、シルビア様とカーラさんの二人と話し合いをしていたらしい。

僕がアーツを学んだ時期とか。

ティアリス達といつ頃から関わっているのか・・・とか。

ヴァルバースを倒した後で神界での修行のことも。

そこで僕が騎士王から一本取ったという話。

何故か、シルビア様が凄く驚いていたって。

まぁ、ティアリスが自分のことのように誇らしげに話ていたからだけど。

この部分はレーヴァテインが楽し気に教えてくれた。


そして、僕は今。

シルビア様が用意してくれた夕食の席に招かれている。

料理はどれも、初めて見るものばかり。

はっきりって、こんな豪華な食事・・・・・


シルビア様は『ちゃんと誕生日のお祝いをしたかったんです』って。


「あの、シルビア様。その、僕のお願いを聞いて貰って本当にありがとうございます」

「いいえ。アスランに夕食の希望を尋ねたのは私です。それにしても、お肉をいっぱい食べたいなんて。そういう所は、聞いていて何か安心しましたよ」


シルビア様は僕を叱ったりしなかった。

叱られても仕方ないくらい・・・・・

だけど、叱らなかった。

それよりも強く抱きしめられて。

たくさん泣かせてしまった。


叱られなかった事より。

僕はシルビア様をもう泣かせたりしたくない。

あんな風に胸が重くなるのは・・・・・


「アスラン。事情は聞きました。貴方が課題だけでは騎士になれない・・・・それは孤児だからだと。そう強く抱えていた事を私は何一つ知らずにいました。ですから、悪いのは私です。そこまで追い込ませてしまって。本当にごめんなさい」


僕に謝るシルビア様は、まだ少し目が赤い。

あんなにたくさん泣いたんだから・・・・・

なのに、今はこうして笑ってくれる。


こういう時。

ティアリスとカーラさんは場を上手く運ぶ事が出来る。

シルビア様も僕も、どう続けていいのか言葉が出なくなって。

だけど、二人が上手く運んでくれた。


それに・・・・・


「王様っ♪あたしとの約束。ちゃんと覚えていてくれてありがとうね♪」


レーヴァティンは骨付きの大きなお肉。

それを両手に掴んで豪快に頬張っている。

隣でミーミルが呆れ顔なのもお構いなし。

でも。

こういう場ではレーヴァテインの豪快さが雰囲気を明るくしてくれた。


ティアリスは作法を良く心得ている。

コルナが『主様も見習うと良いでしょう』と言ってたくらい。

僕の隣の席は片方がティアリス。

もう片方はエレン。

エレンは目が覚めてから煩いくらい相変わらず。

今は隣にリザイア様が座ったから少し大人しくなったけど。

聞いた限り。

エレンは儀式の間ずっと。

両親は勿論、他の精霊達とさえ関わることが出来なかった。


エレンも独りぼっちだったんだ・・・・・

そう思ったら。

僕はエレンとずっと友達でいよう。

何となくでも。

そう強く思うことが出来た。


騎士王様は未だ眠っている。

ティアリスは『姉様なら大丈夫です』って、全く心配していなさそう。

コルナからは『ユミナ様の傍には妹が付いています。ですから問題ありません』って、それよりも。

僕は皆に誕生日を祝って貰っているのだから。

主賓らしく振る舞うことも覚えてください。


こういう場でも、コルナは僕に色々教えてくれる頼りになる存在。

僕がどう食べて良いのか分からない見た目が凄い料理にも。

傍にいるコルナが丁寧に教えてくれる。


王様の振る舞い方を教えてくれる先生。

コールブランドは本当に頼りになる。


そんな僕と向かい合う正面にはシルビア様。

そのシルビア様の隣にはカーラさんが。


孤児院の皆が今はどうしているのか。

あの事件で避難した人達のこと。

気になっていた事はカーラさんが教えてくれた。


カールやシャナ達は元気にしている。

エスト姉は本当の教師になるために中等科へ通い始めた。

避難した人達のことも色々と聞けた。


大きな丸テーブルには今も料理がいっぱい。

シルビア様は食べたい料理のお代わりもして良いって。

だけど、僕は目の前の料理だけでも多過ぎる。

反対にレーヴァテインは肉料理だけ。

ミーミルの呆れ顔もお構いなしに何度も頼んでいた。


食事の席で改めて。

シルビア様から僕の叙任式。

幼年騎士になったのだから叙任式がある。

日取りはまだ未定だけど、近い内に執り行う。


それとは別に。

カーラさんから叙任式と関係なく。

僕は既に騎士になっている。

任命はヴァルバースが現れた前日。

行方不明だった間も僕は騎士・・・・という事になっているそうだ。


「アスラン君の叙任式ですが。来月、つまり8月に行う方向で調整を始めました。今月も残り僅かですが・・・・明日から早速。アスラン君には騎士の作法やダンスなども学んで頂きます。それから、準備が整い次第。これも専門学校の騎士科。初等クラスへ通って頂く事になります」


何かこう・・・・・

そういうのは未だないけど。

シルビア様とカーラさん。

二人からはっきり。

僕は騎士になった事を告げられた。


「マイロード。おめでとうございます」


ティアリスの誇らしげな表情。

見ているだけで。

僕はもっと頑張ろう・・・・・

それだけは強く実感できた。


5話の後で間が開きましたが、幼年騎士編(仮)を進めていく予定です。

また、一区切り?かは分かりませんが。

0章の幾つかの話で、今回の様な直し作業をする予定(未定)です。

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