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第3話 ◆・・・ レンズ越しに映るバカ共 ・・・◆

アスランが居なくなった。

何処に行ったのかも分からない。


だからね・・・・・

エレンは今日もアスランを捜しているの。

もう、ずぅ~っとずっと。

それでね。

アスランは生きている。

それだけは分かっているんだよ。


あの日の朝を最後。

その日も、いつもと同じように。

アスランはティアリス(剣神)を相手に無謀を繰り返していたんだよね。


エレンはずっと数えていたよ。

多い日は1日で1000回以上。

バッサリ斬られて虫の息。

そんなアスランを癒したんだもん。


あの日の朝だってそう。

いっぱいアスランを癒した。

だから疲れて・・・・・

というかさ。

見てるだけだから。

段々飽きて来るんだよねぇ~

それで修行が終わった後に『寝て来るねぇ~』って別れた。


どうせ、午前中は話が殆ど出来ないんだもん。

アスランは午前中。

孤児院で働いているんだから。

子供なのに働くなんてね。

他の子供は遊んでるのに。

アスランって変なんだよねぇ~


だけどさ。

アスランから『お仕事中は話し掛けないで』って言われたから。

エレンも話しかけないようにしてる。

それで、エレンは暇になる。

だから、寝る♪

寝て起きるとお昼くらいだし~

丁度良いんだよね♪

で、午後。

午後になるとアスランとい~っぱい話せる。


今日も寝て起きたら。

い~っぱい話が出来るから。

まぁ、アーツの事ばかりだと、つまんないけどさぁ。

それでも、アスランと話せる午後の時間はだ~い好き♪

これが今の当たり前。


なのに・・・・・・

なんで?

なにがあったの?


いつもの様に寝て起きて来たら。

アスランが住んでいた場所が真っ黒な大地になっていた。


-----


アスランとは、エレンから一方的に結んだ繋がりが在る。

だから。

何処に居るのか分からないアスランが。

今も生きている事だけは分かっている。


一生懸命捜した。

なのに、何処にもいない。


そして、自分の声もアスラン以外の人間には聞こえない。

だけど一人だけ。

アスランのお母さんは聞こえる。

でも、アスランのお母さんの所には行けない。

そこにはママが居る。


儀式が終わるまで。

ママには会えない。

会ってはいけない決まりがあるって・・・・・

破ったら。

その瞬間。

エレンは消えてしまう。


そう、パパが言ってた。

パパは他にも『儀式が終わるまでは、他の精霊たちとも関わってはいけない』って。

関われば同じように消えてしまうからって。


アスランを捜しながら。

人間たちの声を聞いて少し分かった。


エレンがいつもの様に寝ている間。

巨大な化け物が現れた。

それで、なんでかアスランが戦った。


はぁっ?って。

最初は冗談だと思ったんだけど。

同じ様な話を幾つも耳にした。


巨大な化け物は倒された・・・・っぽい。

倒したのはアスラン・・・・らしい。

そんな話。

だから、最初は全然信じられなかった。


けどね。

孤児院の在った場所で見つけた、あのマリューとかいう女騎士の後を追いかけて。

エレンはやっとエスト達を見つける事が出来たから。

その時の会話でね。

二人が同じような事を話していた。

エストの事は良く知っている。

それで、嘘じゃなかったって。

やっとエレンも分かった。


アスランは化け物を倒した後からずっと。

行方が分からなくなっていた。


-----


アスランが居てくれないと。

エレンは寂しい・・・・・・

独りは嫌。

エレンはアスランが大好きなんだよ。

初めて会った時からずっと。

今も、い~っぱい大好きなんだよ♪


あのね♪

アスランはねぇ~

お母さんの股の間から這い出て来たんだぞぉ。

なんかね。

こう、ニョキニョキ~って感じだった♪

それで、その時のアスランのお母さん。

変な声を上げて息遣いが不気味だったんだよぉ。

あと、汗だくで凄~く苦しそうだった。

ひっひ、ふぅ~だったかな♪

うん。

ホント、変な声だったねぇ。


それで、股の間の穴が、こ~んなに大きく広がっていて。

でも、ママがエレンにも同じ穴があるって。

『嘘ぉぉぉおお!?』って驚いちゃった♪

で、そんなのエレンには無いって言ったら。

ママは、赤ちゃんを産むときだけおっきく広がる穴だって教えてくれた。

普段、バカばっかりやるママが。

『これがいわゆる生命の神秘ってやつさね』とか、偉そうに言ってたっけ。


あとねぇ。

アスランのお母さんが、とぉ~っても苦しそうだったとき。

見ていたママはゲラゲラ笑ってた。

『シルビィ~なにそれ。チョ~ウケるんですけどぉ♪』とか。

生命の神秘がどうとか偉そうに言う癖に。

面白おかしく笑ってたんだぞぉ。


だけどね。

エレンは思ったんだ。

生命の神秘っていうのを、エレンもやってみたいって。

だって。

凄そうじゃん♪


お母さんの股の穴から出て来たアスランはべとべとしていた。

で、少し臭かったね♪

話し掛けたエレンに向かって、アスランってばさぁ~

ぎゃぁぎゃぁ煩く泣いていたんだよね。


エレンはアスランに『やっほ~。エレンだよぉ』って話し掛けただけなのに。

お湯でじゃぶじゃぶ洗われて。

それから白い布でぐるぐる巻き。

だから、アスランはずっと煩く泣いていたんだよ。

でも・・・・・

アスランからは姿の見えないエレンがツンツンしたら。

あのちっちゃなお手てで握ってくれたんだ。


エレンの指を握って。

その時のアスランから見つめられて。

エレンは精霊だから見えるんだけどね。

アスランの中に在るマナがとぉ~っても綺麗で眩しかったんだよ。


うん♪

ちゃんと思い出せる。

キラキラしてて、本当に眩しかったなぁ~

まぁ、今もそれは変わらないんだけど♡


あの眩しいアスランに一目惚れ♡しちゃったぁ~

一緒に居たママに『エレン。アスランと結婚したい♪』って言っちゃったくらい。


ママはダメって言わなかった。

凄く楽しそうな顔で『じゃあ、早いとこ唾付けるしかないさね♪』って。


それで、エレンは変な儀式を受ける羽目になったんだ。


変な儀式は確かぁ~・・・・・・

『試しの儀』って。

そうパパが言ってたっけ。

パパはエレンの事を、とぉ~っても悲しそうで悔しそうな顔で睨んでいた。

ママとも大喧嘩していたっけ。

でね。

その時にだけどぉ~

バカなママのせいで、エレンのお家は木端微塵に消し飛んだんだよねぇ~


お家を木端微塵にしたママはねぇ、『これが所謂、有名な夫婦喧嘩さね♪』って。

ママの鞭でぐるぐる巻きにされたパパは・・・・・情けない顔で虫の息。

もう、ママの完全勝利だったね。


でも、パパっていつもママに負けるんだよねぇ。

精霊王とかって凄い地位に居るくせに。

なんでか、ママにはいつも負ける。


王様(パパ)よりも強いママ。

ママから『結婚したらママの様に尽くすんだよぉ~』とか。

それって。

エレンがアスランと結婚したら。

ママがパパにしているようにしろって事なのかなぁ~

エレンはアスランより強くて偉くなる?

あんまり興味ないけどね♪


エレンはねぇ~・・・・・

今もアスランの子供を産んでみたいんだよね♪

だって、もう絶対凄そうじゃん♪

エレンの股も。

あんな風におっきく広がるのかな?

って、もう興味津々なんだよねぇ~


後は・・・・・

アスランと一緒にご飯とか。

同じベッドで寝るまで喋るとか。

街っていう所を一緒に歩いたりとか。

エレンは飛べるけど、飛べないアスランと二人で飛行船にも乗ってみたいな♪


だからね・・・・・

エレンは今直ぐ。

アスランに会いたいよ。


-----


今日。

エレンは今日もアスランを捜した。

人間みたいに神様ってものにも、お祈りしてみた。

アスランが居た所に在った教会なんかよりもずっと大きな教会で、だけど・・・・

どう見てもマナが感じられない白い象。

それから木に金箔を貼った十字架。


なんで?

こんなマナが感じられない物に、人間は手を合わせて祈ったりするんだろう?

中には這い蹲って祈っている変なのまでいたし・・・・・・


やっぱり、人間は意味不明だね。


それに比べたら。

アスランがティアリスって呼んでる剣神。

こっちは断然、マナの輝きが半端じゃない。

うん。

ティアリスは本物の神様だって。

何で人間はこんな簡単な事が分からないのかなぁ。


はぁ~・・・・・

理解不能だよ。


だけど、今日もエレンは祈って来た。

エストが子供達を連れてお祈りに行くのを、後ろから付いて行った。

それから。

昨日と同じように空を飛んで捜していたら・・・・・・


真っ黒になった大地の方。

そこへマナが凄い勢いで集まっているのに気付いた。

何かあるって・・・・そう思った。

ママが時々『キュピ~ン』って言うアレ な感じ。

エレンにもキュピ~ンって来た。


エレンのキュピ~ンは当たった♪

服はボロ着じゃなかったけど。

馬子にも衣裳なアスランが居た。


なのに。

なんで!!

ママのマナが・・・・・

エレンはママと関わっちゃ行けないから。


アスランの近くにママのマナを感じる。

姿は見えなかったけど。

もしかしたら。

姿隠しをしているのかも・・・・・


消えたくないから。

だから、今は此処から見ているだけしか出来ない。

アスランはエレンのなのに。

ママなんか。

もう、チョ~大っ嫌い!!

プンプン。


-----


我が子への感情が少し落ち着いた。

ただ、アスランを抱く腕はそのまま。

けれど、シルビアの視線は改めて、我が子から少し離れた所を映していた。


ドレスの様な衣装の上から甲冑を着けている金髪の女性。

二十歳くらいだろうか。

けれど、一瞬でも。

まさか!!と、思わされた。

それくらい、ご先祖様と瓜二つな面立ちだった。


そのご先祖様とよく似た女性よりも少し後ろ。

紅い髪の女性は見るからに露出が多い。

はっきり言って、ビキニ姿。

半裸という表現も決して外れていない。

そう言い切れるほど。

胸当てや肩当も面積が小さかった。

なのに・・・・・

今もただ立っているようで、そこに隙らしい隙が全く見当たらない。

そして、露出している腹筋や太腿を見る限り。

背負っている大剣。

これが飾りでないくらい。

相当な使い手だと直ぐに分かった。


一見、痴女にも見えた紅い髪の女の隣。

初代様の旗を掲げるもう一人の女。

こちらは穏やかな印象にも映る落ち着いた感はしているものの。


男性騎士でさえ恐らく片手では支えられないだろう大きな旗を、それを細い片腕だけで涼し気に掲げられる。

見た目以上に腕力を備えている。

これは間違いなく。

否、絶対!!

猫を被った類だろう。


その者は、ただ隣の紅い髪の女性と比べれば服装には品を感じさせられる。

と言うか。

半裸の痴女と比べれば、普通の服装だけでまともに見えるのは当然と言えばそうだろう。

もっとも。

最初から何か油断のならない感が拭えないのも事実・・・・・

この自分の直感を信じるなら。

恐らく、裏表がある。

決して油断出来ない存在に違いない。


三人を順に映しながら。

しかし、その先でシルビアの表情が強張った。


視線が重なった所で先に微笑まれる。

その微笑みが此処では最も恐ろしい。

等とも背筋が寒くなる中で。


さっきまで王宮の、自分達と執務室に居たユミナ様の使い。


・・・・なんで、あんたが此処に居るのよ!!・・・・


見間違える筈もない。

ところが。

シルビアの瞳はその女官と瓜二つなもう一人。

揃って、此方を今にも突き殺しかねない殺気立った瞳で微笑んでいる。

単に冷たいを通り越した感の寒気。

全身の毛が逆立つ感覚。

親友が向ける微笑み以上に、双子の微笑みが恐ろしく感じられた。


私・・・・

貴女達に何かした?

会った事も無いのに。

もしかして、ご先祖ユミナ様が何か悪口でも言ったの?


脳裏に浮かんだ疑問は、何の回答も示してくれない。

逆に向けられる圧迫感だけで背筋が更に凍えさせられた。


シルビアは今。

我が子を抱きしめられた喜びの絶頂から一転。

闇一色の深潭へ突き落とされたような心境。


そんな折、シルビアはマナ粒子が弾けた様な光景を捉えた。

続いて、『おっ。ちょうど感動の御対面的な所だったみたいさねぇ』と、耳に入った聞き覚えのある馬鹿笑いの声。

間もなく姿を現したのは、見知った精霊だったが。

しかし、その姿に。

シルビアは、それまでを忘れ去ったかのように。

噴き出した気恥ずかしさから思わず叫んでいた。


「ちょ・・・ちょっと!!リーザ。あんた、なんて格好で現れるのよ!!」

「まぁまぁ。そんなに盛り上げなくても良いさね♪けど、どうよ。私ってばさぁ、天才なだけじゃなくてぇ~。プロポーションも完璧なエロエロな美女なんよねぇって♪こうやって両腕を頭の上で組んでさぁ。突き出たおっぱいを揺らして見せたりぃ~。後はぁ~腰をこうやってエロっぽくクネクネして見せちゃったりとか♪男共は私の威光を前にしてぇ~。玉ちゃんバッキバキで悶絶さね♪」


調子のいい口調は相変わらず。

このバカに羞恥心は無いのか!?


今も近衛騎士達へ見せつけるかのように愛想を振りまくリーザへ。

シルビアは同じ女とはどうしても見れなかった。


それは確かにリーザのプロポーションは悪くないわよ。

というか、私よりも婆のくせに。

何で瑞々しいのよ!!


登場して早々。

下着姿の精霊様は、無節操に色気を拡散させた。

結果。

場の空気は、がらりと変わってしまった。


「ねぇ、リーザ。あんた、なんで下着姿(ランジェリー)なのよ。いつもはマリューの服を勝手に着ているくせに」


今もポーズを変えながら男達の反応を楽しんでいる。

そんな契約精霊へ。

シルビアからの怒りを滲ませた声も。

これも相変わらずと言うか、意に介した感が全くない。


「あぁ、コレね。あのねぇ~。あたしも最初は水着を借りるつもりだったのさね。けどねぇ~・・・・はぁ~・・・・。マリューってばさぁ。ダサい競泳水着しか持ってなかったのさね。あれじゃね~・・・・いくら何でもエロさがねぇ。はぁ~・・・・・」


リーザの作ったようには見受けられないどんより顔。

それで、これでもかと言わんばかりな溜息。

改めて聞かなくとも。

これが紛れもない本心なのは今更だった。


「で・・・・だから、下着(ランジェリー)だけって言いたいのかしら」


今も両腕の中に在る我が子へは絶対。

教育上という理由からしても。

特に親として!!

このような破廉恥な姿を見させるわけにはいかない。

自然、シルビアの姿勢はアスランを覆う様に腰を曲げた姿になっていた。


「まさか。だけどね♪聞いて聞いて。あのねぇ~。マリューってばさぁ。普段はエロ気の無い下着しか着けていないくせにぃ~。な・なんと!!こんなエロさ満開の勝負系を持っていたのさね!?ってくらい。あたしゃもう~超絶、感動したんさね。あのマリューが遂に・・・・黒のエロエロランジェリーをね・・・・グスン」


感極まったを演じた最後は嘘泣き。

それくらいも今更だ。

ただ、どうやら下着はマリューが持っている物らしい。

そして。


・・・・・黒に赤のレース。しかもパンツはかなり際どい・・・・・


恐らくはチーキー。

ソングよりは面積があるように見えた。


確かにエロさだけなら。

リーザの言い分も一理ある。

だが。

それを、あの真面目で固いマリューが持っていたなんて。


シルビアはマリューに対して。

もう、完全にしてやられた感だった。


-----


陛下を追いかけて馬を走らせた。

起きた事態への出遅れた感はあるが。

同じ近衛なのに知らせは貰えず。


ただ、午前中は授業があるために、それで役務からは外されている。

だから知らせてくれなかった。

ハンス様の性格なら、それも十分にあり得る。


馬を走らせながら。

マリューの思考は仲間外れにされたのではない。

そう納得出来るだけの根拠を思案していた。


授業を休んでまで馬を走らせたマリューは、他より少し遅れて現地に着いた後。

先に到着していた近衛の先輩騎士達の後ろへ控えるようにして。

ただ、その時になって先輩方も事の詳細は把握していない。

陛下とカーラ様が慌てて出て行ったために。

それが原因で自分達は後を追いかけて来た。

そうした事実を聞き終えたマリューも、此処まではずっと状況を見守っていた。


だが・・・・・

それもリーザが現れた途端。

マリューはリーザの姿に青ざめ絶句した。


アレは見つからないように厳重に隠していた筈。

日頃、リーザ様が勝手に物色する衣装ケースとは別にして隠していたのに。


今年で15歳になるマリューだが。

元々そうした下着を持つつもりは無かった。

そもそも、庶民育ちのマリューは絹を使った高級な下着は無縁。

更にはフリルやレースといった装飾の施された下着等。

それこそ生涯を通して縁のないものでしかなかった。


シルビアに見出されて騎士になって以降。

それでも初等科に通う間のマリューには、なおも無縁だった。

学業は上から数えられる成績でも。

反面で、これまで触れる機会さえ無かった剣術。

此方はもう目も当てられないくらいの所から始まった。

そうした事情も相まって、当時のマリューは勉強と剣術の修行の二つ。

それ以外に気を回せる余裕など皆無だった。


変化の兆し。

マリューが幾分かの余裕を持てるようになったのは、中等科へ通うようになってからである。

幼年騎士になって以降からずっと、自分のために時間を割いて指導してくれたカーラの存在あって、学業の成績は一年次の間に首席を不動にしていた。

剣術の方にも劇的な成長があった。

マリューは、自分を娘同然に育てると両親に約束してくれた女王から。

女王の鍛錬の相手を務める形で、剣の手解きを受け続けた結果。

従騎士が受ける定期考査では、今も回を追うごとに成績が上がっている。


マリューにとって、王宮へ来た当初の不遇と比べれば。

中等科の二年次を迎えた今の生活には、気持ちにゆとりがある。

同時に、自分を認めてくれる同世代が出来た事も余裕を抱ける大きな要素になっていた。


かつて通っていた庶民が通う初等科でそうだったように。

女子同士の他愛無い日常会話は、今になって当たり前のように出来る事が。

この頃のマリューへ、年頃な興味や関心を抱ける余裕さえもたらした。


同性だからこそ出来る遠慮のない好奇心溢れる会話。

そこで感化されたとも、影響を受けたとも言える部分。

マリューと違って友人達は皆、生まれも育ちも上流にある。

故に、友人達の感覚は会話を通してマリューにも変化を与え始めていた。


庶民なら然して気にもしなかった部分。

流行りの服や装飾品で着飾る習慣は、殆どの庶民には無縁だと。

今でもマリューはそう思っている。

ただ、騎士という身分。

それ自体が爵位同等という点は、カーラやシルビアからも身分相応の身形や振る舞いは必要だと言われていた。


マリューは友人達が買っている女性誌を、そうした部分もあって買うようになった。

そして、読み続ける中でマリュー自身。

流行りの服や装飾品を少しは持ちたい。

それまで抱かなかった分野への関心は、此処がきっかけ。


共通の話題が増えた事で、マリューの世界観は広がりを得て行く。

始め、自身は周りと異なって生まれも育ちも庶民だからと遠慮がちだったマリューではあったが。

それを一々気に掛けない友人達の存在。

交わされる会話は、往々にして生まれも育ちも関係ないを教えてくれた。


マリューの休日はそれまで一人、図書館に籠っての勉強が当たり前だった。

今は勉強と外出が半々。

友人達と王都へ買い物に行くくらいには行動の範囲が広がっている。


マリューの変化。

シルビアとカーラは揃って好ましく受け止めていた。

同時に、揃って『マリューはもっと、こう自分を飾っても良い』という認識でも一致している。


ところが・・・・・

此度のリーザの暴挙。

そう。

マリューにとっては暴挙以外の何ものでもない。


リーザが身に付けている下着。

それは仲の良い友人達から意図せず贈られた品。


『マリューのプロポーションなら絶対似合う』


そんな言葉で半ば強引に受け取らされた後。

友人達の前で試着する羽目になった。

そして、鏡に映った自身が淫らな女に見えて、それが言い様の無いくらい。

とにかくもの凄く恥ずかしかった。


友人達は自分を気遣ったのだろう。

自分が下着姿になった時、彼女たちも同じように下着姿になっていた。

胸が大きくて羨ましいとか。

肌が綺麗だとか。

脚の線がそそるとか。


同じ表現でも、男子達の言葉だと汚らわしく感じるそれが。

何故か女子同士だと、恥ずかしくても汚らわしくは感じなかった。


性的な話題。

実はマリューは苦手である。

初等科に通っていた頃、ある時期から急に胸が大きくなった。

その事で、女子も男子も関係なく自分の胸のことを口にしたために。

それこそ、中には傷付くような表現もあった。

目立たないようにするために、当時は学校にいる間。

ずっと猫背のような姿勢でいた事もある。


友人達と衣服を買いに行くようになってからも。

買って来た服の試着会では必ず下着も披露する。

そんな慣習が出来つつあった事で、マリューにとっては苦手な感が拭えていない。


取り分け、あの封印した下着。

自分に贈ってくれた友人達ですら『きっと似合うとは思ってたけどさ。何と言うか、もうね・・・・マリュー・・・・凄くエロいよ』とか。

あの下着を着けた姿の自分を見つめる友達の目付きも雰囲気も。

普段と異なって何か怖かった。


だから。

あの下着は封印した。

捨てようと、何度も考えたけど。

友達が贈ってくれたものだからと、捨てられなかった。

けど、雑誌で良いなと感じたもの。

今は給金の一部で、少しだけ大人っぽい下着を買うようになった。


なのに・・・・・

何故!?

アレをリーザ様が着けているのよ!!


追い打ちの様なリーザの筒抜けな声。

あの下着の持ち主が自分だと露見した瞬間。

マリューの映す世界は音を立てて崩れた。


心が受けたダメージは大き過ぎた。

生気を失ったマリューの瞳は彷徨っていた。

そこへ、今も淫らなポーズを見せつけるかのように。

リーザ様のそれはもう、娼婦の様にしか映らなかった。


自分を見る周りの先輩騎士の視線。

もう・・・・・・耐えられない。

恥ずかしさで死にたかった。

なのに・・・・・


『あっ♪なんだ、マリューも居たのね♪お~い、あんたのこの下着だけどさぁ~。超絶マジヤバじゃん♪今度さぁ、一緒に下着買いに行こうねぇ~♪』


爪先立ちで両腕をいっぱいに伸ばしての此処に居るをアピール。

そんなリーザの振る舞いが。

既に砕けたマリューの尊厳を。

駄目押しの様に踏み躙った。


ブチッと何かが引き千切れた。

ような音が聞こえた気がした。

ただ、そんな事すら今はどうでもいい。

もう、全部が真っ白になっていた。


-----


リーザがマリューを見つけて呼びかけた。

カーラは、そこで初めて。

この場にマリューも来ていた事を知る。

ただ、内心では『この場に居なければ。或いはその方が、マリューにとっては良かったかも知れません』と、同情的な心境にさえなった。


だが。

親友と揃って『バカ』をやらかす傍迷惑な精霊はやり過ぎた。


悲鳴のような奇声を上げながらリーザへ襲い掛かった猛獣。

普段は真面目でしっかり者。

性格に固さはあるが、それも含めて自分は好ましく受け止めている。

どんな仕事でも責任感を持ってしっかりやり遂げようとする姿勢。

自分の知っているマリューとは、それくらい出来た存在だった。


だから。

そういう為人の者がキレた時には手が付けられない。

これも良く理解っている。


猛獣と化したマリューが叫ぶ悲鳴も。

それが聞く者によっては恐怖を抱くくらい憎悪に満ち満ちていても。

けれど、それすらも真面目なマリューを此処まで怒らせた報いでしかない。


カーラの映す視界。

リーザへ一直線に襲い掛かった猛獣。

『一撃必殺』とは、きっとこういう時の表現なのだろう。


鉄籠手の握り拳が下から真っ直ぐ振り上げられる。

それこそ、狙った獲物を逃さない。

そんな表現が相応しい一撃は、リーザの顎を撃ち抜いた。

やや反り返ったような姿勢で高々と宙を舞うリーザ。

どう見ても、既に意識は無さそうだったが。


高々と舞い上がった後。

リーザは頭から落ちて来た。

そこへ、これぞ『とどめの一撃』というのが相応しい。

体勢を整え待ち構えていた猛獣が振り上げた片脚。

それがロープを切ったギロチンの如くリーザへ襲い掛かった。

膝から爪先までを覆う鉄製の靴。

その踵が、落下して来たリーザを確実に仕留めた後。


カーラは、最後に咆哮を上げたマリューへ。

内心で『それで良いんです』と褒め称えた。

同時に、傍にいる聖騎士を態とらしく睨んだ。


「ハンス殿・・・・分かっていますよね」


自分がやるべきことは、今の一言で十分だった。


間もなく、耳に入ったハンスの叱る声。

ハンスがしっかりやってくれなければ。

その時は、奥方へ件の事を報告すればいい。

しかし。

此度もそんな事はしなくて良さそうだった。


男性故に致し方のない点もある。

それは認めよう。

だが、此度はリーザ様が際立って悪い。

ハンスに叱られる者達の処遇・・・・・

雀の涙程度。

それくらいには被害者として汲んでやるが。

後で仕置きの沙汰は下す。

何せ、指揮権は私に在るのだから。


最もな被害者には、今くらいの無礼は見て見ぬ振り。

いくら陛下の契約精霊であっても。

看過出来ぬ部分。

一線を越せばどうなるか。

今回は良い教訓になっただろう。


思案しながら漏れる溜息。

やれやれとした呆れは、首を横に振りながら。

ただ、カーラは引き揚げる頃合いだとも抱いた。


何の連絡も出さずに飛び出して来た。

故に長居はしたくなかった。

目的の存在。

こちらは無事を確認出来た。

連れの者達も含めて、先ずは城へ招く。

丁重に饗しながら。

そこで改めて仔細を聞けば良いだろう。


間もなく正午を迎える空を見上げながら。

カーラは再び思案に身を置いた。

以降の段取りを既に案じていたのだった。

最初に書いた原文では、サブタイトル『エイレーネシア~前編~』だったのですが。

修正した都合?でこうなりました。


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