第1話 ◆・・・ 二人の再会 ~主の側に在る者達~ ・・・◆
一話で纏められなかった?を含む諸事情(筆者の言い訳)は活動報告へ載せます。
主の隣に立つティアリスは此方へ近付く騎馬の一団。
そこに女王がいるくらいは、視界に映る旗印で直ぐに察した。
今も胸中に、使者の役を買って出たコルナへの懸念は残っているものの。
主が本来いるべき世界へ戻って間もなく、女王も此処へ向かって来た。
故に一先ず。
主の無事の帰還を知らせるという役目。
これについてはコルナも役目を果たした。
此処までずっと不安とも呼べる懸念を抱いていたティアリスだったが。
ようやく安堵を得る事が出来た感は、何もないを装った普段の面持ちへ。
今だけは滲むように表れていた。
息を一つ。
ティアリスは自身の胸の内を主には悟られないように。
静かに吐き出した。
それから間もなく首だけを動かすように視線を背後へ。
そして、此方の意を理解したミーミルの頷きを映す。
無言の内にティアリスも頷く仕草を返した。
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ミーミルは最初、自らは主の後ろへ配された事に小さくない不満があった。
しかも、脳筋馬鹿と同列にされた点は、不満を突き抜けて激しい怒りさえ内包した。
だが、主は『俺が受け取った騎士王の旗だけどさ。俺もこの旗はミーミルに預けておくよ』と、臣下である我が身にも深々と頭を垂れて頼まれた。
あの瞬間、ミーミルはころっと掌を返した。
主は我が身を軽んじてなどいなかった。
罪深いを現したかのような面持ちで深く頭を下げられた。
それくらい我が身は主から大事にされている。
・・・・・我が身は主の寵愛で満たされた・・・・・
作った穏やかな表情の下で膨れ上がった不満も。
今にも内側から仮面を突き破らんばかりに滾った憤りさえも。
賢神は主に悟られる前に。
もう遠い彼方へ影すら残さず追い払った。
主には悟られずに済んだ。
そして、自身は最も相応しい位置を手に入れた。
主の御旗を掲げる旗手の地位。
何より自分は、この場所を主から直々に賜った。
御旗を預かるという大任。
それは主の後ろから威光を掲げる決して欠かせない務め。
単なる露払いとは扱いの格が際立って異なる。
等と・・・・・・・・
自身に好都合だけで彩られた〝妄想″によって。
ミーミルは主の後ろの位置に今は納得している。
付け加えて、盾になるくらいしか能が無い脳筋馬鹿の監視役を兼ねていると思えば。
これもまた主の為となる。
故に、決して自らの格は下がらない。
妄想は何処までも果てしなく。
そして、自身に好都合一色で彩られた。
だが、しかし、故に本当の自分は今も主の左腕に在る。
そう。
主に対して、『私は最も傍近い所に居ります』を恭しくアピール中。
当然、この姿なら不自然には映らない事も計算済み。
だから勿論。
主の御旗を預かっているのは、作り出した幻の方だった。
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賢神ミーミルは、ティルフィングから目配せをされるまでもなく。
視界が近付く騎馬の一団を捉えて、そこに映った女王を示す御旗。
何者かが判明した時点で此方も既に用意していた。
間を置かず、ミーミルは預かっていた御旗を地面に突き刺すようにして真っ直ぐ高々と掲げた。
あの時代より悠久の時を経て。
いま再び『誇りと誓いの象徴』が此の地に風を孕んで翻る。
受けた風に大きく靡く様は、背にした日差しが威光を放っているようにさえ映った。
掲げられた錦の御旗を瞳に映して、アスラン以外は揃って感じ入るものが在った。
レーヴァテインは感涙を誤魔化す様に指で鼻を擦りながら。
満面の笑みは、とても嬉しそうだった。
ミーミルは穏やかな表情をしていたが、しかし此方も嬉しいのだろう。
懐かしむ様な柔らかい笑みを浮かべたまま。
自らが掲げた御旗をじっと見つめていた。
先に二人を順に映したアスランの視線が隣へ動く。
横目に映したティアリスも、何かとても懐かしむ様な雰囲気があった。
「マイロード。かつて私は、この象徴の下へ集った者達と共に新時代を切り拓きました。姉様はその中心。つまり、王ですが。至るまでの道程。それは過酷で苦難の連続でした」
緊張というよりも真剣を抱かさせる眼差し。
アスランはティアリスから向けられた真っ直ぐな視線だけを、ただじっと映していた。
「如何なる苦難にも屈さず。そして、その苦難という壁を越えようとする輝き。可能性や希望の象徴であり、故に慈愛や友情をも表す。女神と精霊王より賜った剣と御旗・・・」
ティアリスは間を置くように沈黙した。
視線は主だけを映して。
程なく今度は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「マイロード。貴方はその二つともを託された。15年後を楽しみにしていますよ」
15年後・・・・・・
そう言われたアスランは一瞬、肩から背中へ強い重圧を感じ取った。
両脚までが見えない何かに縛られた感は、呼吸さえ乱すほどの怖さだけを内に満たした後。
「大丈夫です。マイロードは今でも十分過ぎるくらい。それくらい私が誇りに出来る御方なのです。マイロードと同い年の頃。その当時の悪戯大好きで傍迷惑この上ない姉様ですら知っている私が言うのですよ」
アスランを飲み込んだ恐怖。
しかし、ティアリスの紡ぐ表現が跡形もなく霧散させた。
ああ・・・・
きっと思い出している。
目付きも表情も、怒っているというか呆れている。
「あんな姉様のような方が騎士王と呼ばれたのです。15年後のマイロードが馬鹿姉を遥か彼方に置き去りにするくらい。救いようのない馬鹿でも予測できます」
自分のお姉さんなのに。
今はっきり『馬鹿』って言い切った。
ティアリスが厳しいのは理解っていたけど。
・・・・・うん。僕はティアリスに馬鹿って言われないように頑張ろう・・・・・
首だけを動かす様に視線をカミツレの旗へ向けながら。
アスランは今も風に靡く御旗に対して。
此処に一つ誓いを立てたのだった。
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騎士王から譲渡された旗を映しながら。
ただ、アスランにはティアリス達のような感慨も誇らしさもない。
何方かと言えば、重苦しい。
ヴァルバースとの戦いの時にも幻の方のミーミルが掲げていた。
そして、この時の自分は今のように重苦しいとは感じなかった。
静かに一呼吸したアスランは、あの戦いでは前後に強く印象に残ることがいっぱいあった。
思い返すような思考は最後。
アスランへ『だから感じなかったのかも知れない』と、一つの結論を提示した。
「マイロード。この旗は決して軽くありません。騎士の誓いがそうで在るように、身命を賭した責務を負う。その象徴でもあります。マイロードと私が交わした盟約も同じです。ですが、私はこれを重いとは感じていません。寧ろ身が引き締まる感で己を律されます」
格好良いなぁ・・・・・・
アスランは素直にそう思った。
剣神の第三位。
正義を冠する聖剣ティルフィング。
ティアリスの言葉は、だからこそアスランへ。
道を示すような憧れを与えてくれる。
「カミツレの旗なんかよりも、俺はティアリスのからの期待の方が遥かに重く感じるよ。もう絶対応えないと天罰が下るんじゃないかってね」
「マイロードは既に何度も私を驚かせてくれました。それこそ、私の予想を超えてくれる事が幾度もあったのです。故に私はマイロードの剣として相応しい己へ。更なる研鑽を積む所存です」
「ティアリスがこれ以上凄くなり過ぎたらさ。俺は負けた数を、その差を縮められる機会を更に失くしてしまうじゃないか」
「いいえ、これまでのマイロードは剣術の基礎を無いに等しい所から始められました。故に、そうした経緯を生んだだけです。ですが、姉様に見事勝利した以上。此処からの稽古こそが本番だと私は楽しみにしています」
つまり。
ティアリスの主張を解釈すると。
俺は何万回も死にかけて。
そして、やっと。
基礎くらいは形になった。
そうも言える主張となる。
アスランは自分の事を『実に物覚えの良くない生徒』だと。
それでもティアリスから一本取る。
これもまた瞳が映すカミツレの旗へ。
再び誓ったのだった。
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「そう言えばさ。ヴァルバースを倒してからずっと向こうに居た間だけど。ティアリスとは一度も稽古をしていないんだよな」
「そうですが・・・・それがどうかなさいましたか」
「うん。騎士王の教え方がね・・・・なんかエレンと被ってさ。だからかも知れないんだけど。俺はティアリスから習う方が合っている・・・・そう思ったんだ」
「当然です。マイロードならそう言うだろうと思っていました」
当然だと。
ここでも言い切ったティアリスは、何処か誇らしげである。
「はは。だけど、本物の実戦は綺麗じゃない・・・・だから、ティアリスは態と教えなかった。騎士王と剣を交えて。そこで数え切れないくらいムカついたけど。今は良い勉強になったって思ってる」
「姉様のあれは、いくら何でも悪ふざけが過ぎています」
「目潰しに膝蹴りと肘打ち・・・・」
「揶揄い目的の足払いと裏拳もありましたね。それに髪を掴む等。王とは呼べぬ愚行ばかりです」
「あったなぁ」
「あんなものは全て騎士の戦い方ではありません」
ようやく感慨深いを抱くアスランの隣で、ティアリスは露骨に鼻を鳴らした。
「だけど、生きるか死ぬか。その二つしかない戦いでは当然のように使われるって・・・・今は理解る気がするんだ。それに、そういう手段を得意とする敵との対決もあるって言われたしな」
「極致に至れば、正道だけで邪道を打破できます」
「うん。そう出来るように頑張るよ」
主が態度や口調で、特に自信を意識するようになってからか。
それまでは時に卑屈にも映った謙虚さが丁度良い位置へ戻った。
『主らしい振る舞い方』を指導したのはコールブランド。
対の聖剣コールブランドは王を育てる。
かつては姉がそうだったように。
時を経て、今は幼い主が同じ道を歩み始めた。
自然、そんな風にも抱いたティアリスの表情が柔らかくなる。
懐かしむ感情と、膨らむ期待とが素直に表れた面持ち。
そんなティアリスの微笑みを瞳に映すアスランは、内心でもっと頑張らなければと抱くのだった。
「アスラン様。ただ今戻りました」
パァッと光る粒子を弾けさせた後。
目の前にコルナが姿を現した。
アスランは帰り際になって、コルナだけは何か用事があって少し遅くなる・・・・・・
そういう風には聞いていた。
「おかえり。コルナ」
出迎えの挨拶はアスランの当たり前。
反対に、主が下々に対して一々かように気遣う声を掛ける等。
戸惑うコルナの感覚は、けれど、不快では無かった。
この戸惑いは寧ろ・・・・・
コルナは傍にやって来た妹から「姉様。どうかなさいましたか」と、心配気味に尋ねられた所で小さく首を横に振った。
「コルキナ。いいえ、そうではないのよ。何でもありません」
「そうですか。ですが、頬が少し赤くなっていましたので。体調が優れないのではと」
「先に1時間はこの暑さの中で外に立っていました。それで少し熱に当てられただけです。ですが、心配要りません」
見つめ合うような双子の姉妹の会話は、次の瞬間。
暑い夏の日差しを受けた地面から立ち昇る熱気が、一転して肌に心地良さを感じさせる冷気へ。
突然の事に会話をしていた姉妹が揃って何事かと警戒感を顕にした所で、けれど直ぐに普段の面持ちへと移る。
「やっぱり向こうと違ってこっちは暑いよね」
右手の指をパチンと鳴らした主は青く輝く魔法陣を、姉妹だけでなくティアリスやレーヴァテインとミーミルをも囲んで描いた。
そして、描き出された青く輝く魔法陣から肌触りの良い冷気が立ち昇っている。
更に、今は風まで操って程良い涼風で包み込んでくれた。
「アスラン様。お気遣い痛み入ります」
「アスラン様。姉様へのお心遣い。伏して感謝致します」
ティアリスから姉妹が剣神の第二位で、聖剣コールブランドという事は聞いている。
聞いた限り、本来の姉妹は侍従のような事をしたりはしない。
では何故?
姉妹が侍従のような真似をするのか。
ティアリスは『真意までは分かりません』と首を横に振っていた。
「そんなに畏まらないで。コルナには俺も世話になっているんだし。だからさ。少しは返さないとって思っていたんだ」
「私はアスラン様の従者です。そのように気遣わずとも」
「前にティアリスにも言ったんだけどね。だからコルナにもコルキナにも。感謝もお礼も俺は返すよ。されてばかりだとさ。やっぱり心苦しいんだ」
聞いていたティアリスは内心、主のこういう器量も誇らしく抱けた。
この面々の中では一番長く傍にいるだけに。
他よりも主の為人は理解している。
まだ日の浅いコールブランドは、故に戸惑う所があるのかも知れない。
否・・・・・・・
コールブランドだけは此の地に留まった。
そこで長く人の世を見てきた結果。
醜さもまた見て来た筈。
その醜さを持つ人間と、常に距離を置き続けた時間の長さ。
やや困った面持ちにも見える主の子供らしい笑みを横目に。
けれど、口にした思いは間違いなく本心。
それも偽らない素直な部分。
だからコルナの心は戸惑いを抱いたのだろう。
ティアリスは主から、主の生い立ちを聞いている。
生まれて直ぐに孤児院へ預けられたこと。
主だけが精霊の声を聞けることで、周りから気味悪がられた日々。
自分と出会う数ヶ月前まで。
主はずっと仲間外れが当たり前だった・・・・・・
(・・・・マイロードの優しさ。それは痛みを知っているが故のもの・・・・)
アスランの生い立ちを直接聞いたティアリスは、その時にも絶対傍を離れないと胸の奥へ刻んだ。
今は何ともないように見えても。
けれど、危うい側面は深い所で今も息衝いている。
いつか克服出来る日が来るのだとしても。
ならば尚のこと。
主の傍を離れてはならない。
こうなるを解りきっていた感さえある姉の一言が発端となって現れた主の危うさ。
その後で姉からは特に気に留めて置くようにとも。
だが、ティアリスはそうした事等関係なく。
如何なる時も主の傍に居続ける。
これは剣を捧げた時から既に不変だった。
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馬上で手綱を握るシルビアの視界は、示された場所へと近付く中で、見覚えのある大旗が掲げられるのを捉えた。
吹き抜ける風によって大きく躍動するかのように靡く旗を映して。
間違いなくそこに居る。
逸る心は、駆ける馬足を更に加速させていた。
徐々に近付く視界へ。
今は鮮明に映っている。
縁を金で囲んだ深い蒼の大旗の中心に、銀で描かれたカミツレ。
前に映したときは注視しなかった事で疎覚えだったが。
交差した翼を双剣に見立ててカミツレを下から支えた紋章。
間違いなく建国の祖だけが掲げていた御旗と同じ。
一直線に馬を走らせること間もなく。
シルビアは我が子の見違えた姿を、久しぶりに映す事が出来た。
ただ、シルビアを乗せた馬は、地面から溢れて空へと昇る青い光の粒子を前に脚が止まる。
それが怯えと言うよりかは躊躇いのように感じ取ったシルビアは、安心させるために鬣を撫でた後。
地面に降り立った脚は間も無く前へと踏み出していた。
歩きながら見覚えのある。
と言うよりも、見慣れた事象干渉。
シルビアには、目の前の現象が水属性の魔導の光だと直ぐに理解った。
そして、その青い光の内側から此方を見つめている。
今も自分を真っ直ぐ映しているアスランの方へ。
シルビアの脚は真っ直ぐ近付いていた。
一年前の印象・・・・・
とは既にかけ離れた感も抱きながら。
カーラから『今年で5歳になる子供とは逸脱した所があります』とは聞いていた。
マリューからも『見た目は子供でも中身が別物という印象は受けました』と聞いている。
事件の後から知った事実。
中でもリーザが一方的に言った部分。
たった一年で我が子は、アスランは・・・・・・・・
女王が馬を止めて降り立った後。
後ろから追い掛けて来たカーラも先ずは馬を止めて降り立った。
近衛の騎士達も皆、カーラに倣う様に馬から降り立った。
カーラや近衛の騎士達の視界。
一様に映すのは歩み進む女王と、その先に在る者達。
アスランはシルビア様が自分達から少し離れた所で馬を止めた後。
その馬から降りて此方へ歩き出したのに合わせたかのように。
自然と足が前へ踏み出ていた。
4歳の誕生日を最後。
大事な仕事をたくさんしている事情は知っていた。
神父様とエスト姉。
それに何度か会った事のあるカーラさんからも聞いていたし、新聞でも忙しいを想像するくらいは出来た。
孤児院の他の子供達が会いたいを口にする中で。
事情を知っている自分だけは口にしなかった。
会いたいを口にしない。
会いたいけれど我慢する。
何故?
約束していたから。
一年間ちゃんと頑張ったら・・・・・
最初は会いたいのを我慢して来た。
けど、いつからか『今は未だ会えない』になっていた。
そこには僕なりの目標が在ったから。
このくらい出来るようになってから。
5歳の誕生日までには出来るようになっていたい。
そんな風に考えるのが当たり前になっていた時にはもう。
毎日があっという間だった。
本心は、ずっと会いたいと想っていても。
そのせいか、周りが口にする寂しいとは縁が無かったと思う。
今。
僕の目の前にはシルビア様が映っている。
ずっと会いたくて。
だから本当はもっと嬉しい筈なのに。
なんで・・・・・・
近付くシルビアとの距離は、反対にアスランの心を言い様の無い重苦しさで満たし始めた。
怒られても仕方ない。
不意に、脳裏に浮かんだ。
同時に、一帯を焼け野原へ変えてしまった現実が、映した瞳から深い所へ突き刺さる。
怒られて当然。
褒められるような事なんかじゃない。
無意識の奥底で。
叱られて当然だと、強く抱き込んでしまったアスランへ。
歩きながら自分を真っ直ぐ見ている女王の瞳。
それはアスランの心を、瞬く間に恐怖で染めた。
だから、頭では納得して受け止めているのに。
女王との距離が更に近付くに連れて、呼吸まで苦しくなる。
視線まで逃げるように下を向いていた。
全ては無意識の内に。
アスランの視線は大地だけを映していた。
同時に歩幅まで小さくなっていた。
内側を完全に満たした恐怖によって表情が強張った事すら。
自分では全く気付けていなかった。
アスランに向かって一歩また一歩と近付く中で。
異変は見て分かる程はっきりと表れた。
我が子が何か怯えを抱えている。
言葉を交わさずとも理解る。
それくらい手に取るように伝わった感覚には憶えがあった。
不思議な感覚だった。
子を持つ親になったからか。
自分が幼い時には怖く抱いたそれを。
ただ、父も母も。
自分が良かれと思ってした行動を咎めた事は無かった・・・・・・
記憶が映し出す幸せだった時間の一欠片。
緩やかにも映し出された幻とは反対に、脚は全力で地面を蹴っていた。
会ったら何から話そうか。
ずっと思案していた。
それこそベッドに仰向けになりながら、夢の中にまで持ち込んで。
数え切れないくらいあれこれ考えて来た。
だが、我が子が抱えた杞憂でしかない恐怖が伝わった瞬間。
シルビアの思考を占めていたピンク色は消し飛んだ。
後たった十歩程度の距離にも関わらず。
一気に駆けたその先で。
下を向いて強張っている我が子を腕の中へギュッと抱き寄せた。
一年振りに得られたこの感触。
殆ど同時に頬を伝う安堵の感情。
それまで思案して来た最初にかける言葉が何だったのかさえ。
「おかえりなさい・・・・・大きくなったわね」
本心がそのまま紡がれる。
背中に回した両腕は何度も確かめるように感触を求めた。
そして、会えなかった一年で確かに見違えた我が子だったが。
この馴染んだ感触。
それだけは一年前と何ら変わっていなかった。
親友から聞いていた通り背が伸びていた。
ただ、それ以上に。
我が子を抱きしめられる幸せ。
間もなく耳に届いた我が子からの『ただいま』と続く泣き声によって。
シルビアの方も、二言目を紡ぐことが出来ないくらい感極まっていた。
怒られても仕方ない。
納得もしているし、言い訳もしないって・・・・・決めていた。
でも。
やっぱり。
嫌われるのが怖かった。
シルビア様から抱きしめられた。
・・・・・おかえりなさい・・・・・
怒られるどころか。
抱きしめられて、そう言われた瞬間。
僕の両手はしがみ付くようにシルビア様を掴んでいた。
もう胸がいっぱいになって、訳も解らず瞼から零れた。
「ただいま・・・・~~~!!」
頭の中はぐっちゃぐちゃ。
嬉しいとか。
寂しかったとか。
とにかくごちゃ混ぜになった感情が、もの凄い勢いで瞼から溢れていた。




