幕間 後編 ◆・・・魔導革命の光と闇・・・◆
前回の投稿の後で、突然のアクセス数の伸びに驚かされました。
それまでの総アクセス数にダブルスコア以上とか・・・・イッタイナニガオキタノ
ですが、ブックマークに登録してくれた方も多く。
そして、頂いたコメントは励みになりました。
原文を直す作業中・・・・書き始めの頃の自分が如何に凡才以下だったのかを痛感しております。
念のため、今でも凡才以下ですが(苦笑
故に誤字や脱字も含めて、これからも丁寧に作っていくつもりです。
予定通り、今話を以って次章へ移ります。
新聖暦2044年
シャルフィ王国で当時22歳のエリザベート女学生が偶然にも発見した旧時代の遺産。
これは後から正式な調査を経て、一万年は昔の遺産である事が結論付けられた。
そして、公式の場で発表された最初の調査報告は大陸全土を震撼させた。
第一発見者はエリザベート女学生。
当時、彼女は籍を置いていたローランディア王国の大学から、専攻する考古学の博士号を得るため、シャルフィ王国の大学へ留学していた。
留学期間中、偶然発見した古代遺跡の中で、エリザベート女学生は見つけた古代の文献から『魔法導力』の存在を初めて知った。
また、魔法導力を記した文献とは別に、同じ遺跡からこの時に保存状態が特に良かった魔導器も見つかっている。
エリザベートは自分が最初に発見したこの事実。
『魔法導力』に関して学界からの横槍を受けたくない。
それくらい強く心を奪われた魔法導力の存在は、彼女自身へ初めて独占欲を抱かせた。
それまでのエリザベートは、彼女を知る周囲の者達の証言において『没頭すると不衛生になる』という存在だった。
清潔感があって気立てや愛想の良い目鼻立ちも整った美女・・・・等の枠からは大いに逸脱。
見た目の肌色は健康的でも、そばかすの目立つ頬とインテリ感を醸すような四角い眼鏡が地味に映る。
控えめなのか性格は大人しく、そして背丈や肉付きは成人女性の平均値くらい。
ただ、研究者を装う白衣は常に大きいサイズを着用していたため、白衣の裾がスニーカーの靴紐に触れている。
肩から背中へ少し掛かる程度には長い深みのある茶色の髪も、彼女はいつも二つに分けてゴムで留めているだけだった。
エリザベートには周囲がイメージするような『女性らしさ』は欠片程にも無く。
しかし、興味と関心を刺激される事にのみ彼女は寝食を忘れるほど情熱を注ぐ。
そして、熱を注いでいる間は入浴はおろか着替えさえしない彼女は、そのため着衣が汚れて臭っても全く気にしていない。
これが『没頭すると不衛生になる』所以。
普段から存在感が薄く、陰で黙々と何かしている。
けれど、地味な仕事でも真面目に取り組む姿勢は、脚光こそ浴びないだけで、現場を監督する教授達からは高く評価されていた。
そのエリザベートは出会った『魔法導力』へ生涯を賭けても良い・・・・・・
それくらい強く。
それこそ人生で初めての感情は、この分野の研究を自身が満たされるまで独り占めしたい等と抱いた。
一方、この遺跡発見は真相においてシャルフィ王宮が秘匿しなければならない部分もあった。
非公式の会談の席において、互いの思惑は利益の一致に至る。
結果、エリザベートは魔法導力の調査研究を独占出来る特権を得た。
勿論、それを認めたシャルフィ王宮側も真相を隠し通せた。
エリザベートは実を取り。
シャルフィ王宮は名誉と尊厳を守り切った。
当時は未だ一学生でしかない身分の彼女は、こうして魔法導力の研究を独占したのである。
非公式の会談から数日後。
シャルフィ王宮は公式の場で『新たな遺跡の発見』を表明。
各国から学識者や報道関係者が集まった席上、主催したシャルフィ王宮は『熱心な学生が偶然にも発見した』事実を。
誇張にも感じさせるほど興奮気味に。
それも計算し切った演出でエリザベートを褒め称えた。
また、この公式の場でシャルフィ王宮は『第一発見者には相応の権利が認められる』と、未だ学生でしかないエリザベートへ公に特権を認める声明も出した。
これが勿論、非公式の会談で作られた筋書きだった事は、当事者達だけの真相だったのである。
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遺跡の発見をシャルフィ王宮が公式発表してから3ヶ月の後。
この遺跡は古代時代において何かしらの工場だったのでは?
要請に応じて派遣した調査団が提出した報告書によって、アナハイムから現時点での仮説が発表された。
遺跡から発見された資料は勿論。
遺跡自体の構造や、運び出して個別に調査された機械類。
ただし、古い時代の遺産であるために調査には必然して時間が要る。
それでも、現在も未だ調査中でありながら。
一先ず、こうした仮説が発表された背景。
そこには少なからず『世界情勢』が関わっていた。
遺跡の調査はアナハイムとエリザベート女学生。
そして、シャルフィ王国において考古学を専門とする学識者のみで行われていた。
世界各国はシャルフィ王国で発見された古代時代の遺跡の事は勿論だったが、特に『魔法導力』については際立って大きな関心を寄せていた。
作家が創作する小説や絵本にしか存在しない『魔法』が、現実に存在していたかも知れない。
もし、これが真に存在しているのなら。
冒険譚や英雄譚のような小説や絵本等で用いられることの多い『魔法』。
各国の権力者達の想像力も此処から膨らむと、この『魔法導力』に関してシャルフィとローランディアだけが独占する事には危機感を抱いた。
現場で活動する調査団やエリザベートの知らない所で。
強大国を中心にした諸外国から、シャルフィとローランディアは情報の開示を求める圧力を受け始めた。
ただ、当時は魔法導力が存在していた事を記す文献と、保存状態の良い魔導器が見つかっただけで、実際に魔法が発現した等という結果までは得られていない。
本格的な調査さえ始まったばかりのこの時期に。
故に、現段階での調査報告書を纏めたアナハイムは、『我々が古代と位置付けた時代において、何がしかの工場であった可能性が大きい』という仮説を、これも各国の代表者たちが集まった公式の場で発表するに至った。
魔法導力に関しても、文献の存在と保存状態の良い魔導器は在ると改めて認めつつ。
しかし、文献の解読には時間が要る点と、はたして皆がイメージしているような魔法なのかどうかという疑問。
将来的には文献に記された魔法導力の実証もしたいと述べたアナハイムからも。
ただ、それも解読作業が進まなければ、これもいつ頃出来るという予測さえ現時点では立てられない。
来訪した諸外国の政治家の中には煙に巻かれたとも抱いた一部から、魔導を独占しようとしているのでは等との声も上がったなか。
ただし、同じ考古学に身を置く学識者達は古代文字の解読が難しい事実。
これは何処でも同じであり、故にアナハイムの見解には一定の理解を示した。
そして、アナハイムの公式発表。
これがもし、アナハイムでなければ。
間違いなく要らぬ疑いを露骨に掛けられただろう。
他の追随を許さないほど叡智を結集したアナハイムの持つ権威だからこそ。
また、此処との繋がりを絶たれる計り知れない損失を考えれば。
アナハイムは会見中、以降も定期的に調査の報告書を公開する事を明言した。
その発言が此処に来て先手を打たれた周囲の本心を、今だけは伏せさせた。
つまり、表面上は今後の調査報告を待つ。
一つしかない選択を苦々しい思いで飲まされた。
という事でもあった。
これを機に、強大国は揃って旧時代の遺産に関する国際条約の制定に着手し始める。
後の『リーベイア大陸古代遺産管理条約』が生まれた背景は此処からであった。
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新聖暦2046年
調査から約二年経った頃。
エリザベートは、文献で得た知識を基にして。
初めて魔法導力の再現実験を成功させた。
視認できる『マナ粒子発光現象』の発現。
この時の実験に使われたオリジナルの魔導器は遺跡から発見された後。
当初、その取扱いを軽軽しくは出来ない事情によって保存処置が取られた。
しかし、魔導に関する文献の解読が進むにつれて状況が変わると、エリザベートは魔導器そのものに直接触れるようになり始めた。
魔導器を稼働させるための手順を含めた知識。
エリザベートは文献の解読によって得た知識を実践へ移しながら。
遂に稼働実験を成功させたのである。
魔導器が稼働したことで大気中にキラキラ光る粒子が現れる。
文献に記された内容と同じ現象を実際に瞳に映して。
エリザベートと実験に立ち会った者達は一様に驚きの、それこそ歓喜の声で沸いた。
この時は未だ小説や絵本等に在るような魔法では無かったものの。
革命的な発見という事実は覆らない。
逆に、文献に記されたマナ粒子発光現象を再現させたことが、他に記された内容の真実味を強く帯びさせた。
現代に魔法が実在するかも知れない確かな手掛かりを証明した功績。
これを以ってエリザベートは正式に博士号を授与された。
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博士の称号はアナハイムから授与された。
無論、此処にも複雑に絡み合った思惑が伏せられている。
エリザベートはシャルフィ王宮から特権を与えられた身分。
しかし、エリザベートの国籍はなおローランディア王国にある。
そして、ローランディア王国の大学からの留学によって今現在もシャルフィに身を置いているに過ぎない。
此処ではローランディア王国とシャルフィ王国の間で、それこそ魔導という価値ある財産の所有を巡る対立が水面下で起きていた。
だが・・・・・
先んじて身柄を押さえようとしたローランディア王国は、意外な事実の発覚によって断念せざるを得ない窮地に追い込まれる。
『エリザベートは既にシャルフィ王国の男性と婚姻関係にあった』
魔導の存在を示した実験の後で、直ちに身柄を押さえようと動いたローランディア王国は、その時になってエリザベートが既に結婚している事実を初めて知る。
相手は10歳は年下の男性で、それも未だ12歳。
故に、一度は破棄させようともしたローランディア王国は、しかし、既にエリザベートが夫の子を妊娠している・・・・・・
当時は未だ国際結婚に関する統一された規定が明確には無かった。
後に、これはアルデリア法皇国が議長を務めた議案の中で。
そこで男女ともに18歳以上であれば、互いの意思だけで婚姻が成立する条約も制定された。
国際結婚は夫婦の何れかの国籍へ籍を同じくする。
又は、結婚を機に第三国へ新たに籍を置く事も出来る。
この条約は、中でも国によって成人とされる年齢に違いがある事情を踏まえて、国際結婚はその平均を取って18歳と定められた。
エリザベートの婚姻も、実は此処でも少なからず関わっているのだが。
シャルフィ王国が、これも特例措置で認めた婚姻であった事実。
特例措置の内容がエリザベートの妊娠と、本人が産む意思を示したことに依るもの。
ローランディア王国は、そのためエリザベートの国籍が既にシャルフィへ移った事を把握しておらず。
けれど、このままでは引き下がれない。
派遣したアナハイムの調査団から届けられる報告で、魔法導力が現在の常識を覆す可能性。
それも極めて大きいという内容を示す報告書は、故に策を講ずる必要性を促した。
シャルフィ王国とローランディア王国とは長く友好的な関係にある。
交流事業もその一つ。
関係は極めて良好であり、荒立てずとも魔導の恩恵を受けられやすい立場に今も立っている。
ローランディア王宮は、ここでアナハイムから上がった提案。
アナハイムから『エリザベートの学籍をアナハイムの籍に移して、そしてアナハイムの認めた博士とする』内容へ。
即座に行動に移したローランディア王宮は、当のエリザベート本人が二つ返事で受けた後。
その数日後には公の場で表明するほど事態を早期に決着させている。
ローランディア王国でエリザベートが通っていた大学は、アナハイムから見れば足下にすら及ばない格付けでしかなかった。
それでも、シャルフィへ留学してからの実績は目覚ましいものがある。
これまでの世界常識すら覆す。
それくらい脅威に捉えられた研究分野を独占しているエリザベートは、故にアナハイムから引き抜かれた。
所属の学籍は、高度な政治的判断によって。
エリザベートが留学先で遺跡を発見した日付けまで遡った。
これにより、シャルフィ王宮が明言した『第一発見者には相応の権利が認められる』という部分。
エリザベートは婚姻によって国籍をシャルフィへ移したが、なお学籍はローランディア王国のアナハイムに置いている。
政治にはこれも無関心としか言えないくらい関心を示さないエリザベートも、アナハイムは深く考えることなく。
それこそ即答で受けている。
こうして、ローランディア王国は魔法導力を独占研究している逸材を手元に置くことが叶ったのだった。
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『アナハイム史上、最も若い博士の誕生』
続く表現も新聞社によっては『博士号の最年少記録樹立』等と・・・・・
それくらい世間を騒がせたエリザベート博士の誕生は、真相とも呼べる背景は何一つ明るみなっていない。
公式発表したアナハイムの会見では、『文献に記された魔法導力の存在を現代に示した俊英』という表現が使われている。
故に集まった報道関係者達は、エリザベート博士の偉業を一面に飾る形で。
以降も取材を基に『エリザベート博士の歩み』特集を載せたほど。
しかし、悲しいかな。
この時の報道各社はエリザベート博士の表現に、『美人』や『美女』はおろか。
『才色兼備』ですら使う事を躊躇った。
当時の撮影技術では、エリザベートを意図的に良く映す事が出来なかったのである。
代わりに用いられたのが『魔導研究の第一人者』や『新時代の旗頭』等。
凡そ実務的な表現ばかりが用いられたのにも。
こうした背景が在ったのである。
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幅広く世間を賑わせた事も。
そのために一部が表現に苦心した事さえ知らない。
この当時のエリザベート博士は、文献の解読で得た知識を更に増やしていた。
旺盛な研究熱は、その頂上を未だ知らず。
故に他は全くの無関心。
つまり、本人自身は何一つ変わっていなかった・・・・という事である。
この頃、エリザベート博士は稼動実験に至るまでに得た魔導器のデータも用いて、自らの内側で膨らみつつあった構想へ本格的に着手していた。
『現代版の魔導器を創る』
遺跡から見つかったオリジナルとは別に。
自分が生きている今の時代でも。
自分達の手によってオリジナルと同じものか。
更にはそれ以上を作り出す。
それを成してこそ。
博士になったエリザベートだが。
彼女は言葉だけの『革命』には僅かの煌きも感じていなかった。
だが、本当の革命とは『時代に大きな変化を与える何か』だと胸の内には置いていた。
更に、もし本当に革命が起きるのなら。
見る側ではなく。
立ち会う者でもなく。
自らが携わりたい。
エリザベートは口にこそしなかったが。
これもまた本心で・・・・だからこそ。
出会った魔法導力のことでは、今も邪魔をされたくない独占欲を強く抱いていた。
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新聖暦2047年
エリザベートの内に在った『現代版の魔導器を創る』構想。
まだ女学生の頃から文献の解読を進める過程で『この時代の材料でも出来るのではないか?』と、そう抱いた所から構想は生れ出た。
オリジナル魔導器を使った実験が成功した事で、この時に使ったオリジナルを調査解析して得たデータは、それが殆ど全て移植されたと言っても過言では無かった。
ただ、オリジナルに使われた金属は勿論、その仕組みを解析する作業は困難を極めている。
現代には無い、もとい失われた技術が多分に含まれた魔導器は、それ自体が未知の領域によって作られた遺品だった。
失敗ばかりを繰り返した道程。
それでも、オリジナルを使った実験の翌年。
新聖暦2047年には、遂に『マナ粒子発光現象』を生み出せる試作品へ辿り着いた。
この段階では、オリジナルに使われた素材や材質の復元は出来なかったものの。
代用出来る材料と蓄積したデータによって、一先ず『現代版の魔導器』を世に生み出したのである。
歴史に記された『魔導革命』
その黎明は正にこの時期だった。
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『魔導革命』について。
その起源を何処に定めるのか。
実は、はっきり此処だと定めた説は存在しない。
だが、魔法導力の文献が発見された新聖暦2044年を革命の起源とする主張。
一方で、オリジナル魔導器を用いて『マナ粒子発光現象』を確認した2046年を起源とする主張も。
更には、2047年の現代版の魔導器を使って確認された『マナ粒子発光現象』からが起源だとする主張も。
何れの主張にも一定の理解が示されたなか。
この起源については『エリザベートが博士号を得た時期』という事で落ち着いている。
無論、彼女の偉大な功績を讃えて・・・・というのが最たる理由だった。
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新聖暦2049年
この当時には『革命の先駆者』等と呼ばれるようになったエリザベートは、同年に『量産型魔法導力器』の実用化を成した。
後に『第一世代型』とも呼ばれるこの魔導器は、生み出したエリザベート博士によって『ニューエイジ(新時代)』と名付けられた。
遺跡から見つかったオリジナル魔導器と、ニューエイジの違い。
オリジナルが設置型の四角い箱型なのに対して、ニューエイジは大人が背中に背負うランドセル程度のサイズ。
大きさの比較はオリジナルを100として、ニューエイジは25に満たない。
重量もオリジナルを100として、ニューエイジは20程度と、サイズダウンしている。
この点、発表会の記者会談でエリザベート博士は『どうせ使うなら持ち運べる方が便利だから』と、集まった記者達の期待を見事に裏切った?名言を残した。
もっと、こう博士らしく知識に富んだ表現を期待した記者達は、しかし、確かにその通りだと。
天才でもあり、けれど感覚は自分達と近しいのかもしれない。
ニューエイジはローランディア王国の工業都市ゼロムで、此処で生産から輸出までが行われた。
此処にはアナハイム(大学)と下部組織のメティス(初等科~高等科)がある。
そして、アナハイムやメティスと密接しているZCF(ゼロム・セントラル・ファクトリー)がニューエイジの生産に携わった。
ニューエイジ。
現代に生まれた魔導器は、しかし、この時点では生産に欠かせない知識も技術もアナハイムが機密情報として開示しなかった。
それでも生産が追い付かない程の受注過多になった背景。
エリザベート博士が解読した魔導の文献。
此処にはマナ粒子発光現象の先にある記述が、当然含まれていた。
それまで、作家が描く小説や絵本にのみ存在した『魔法』は、現実においても確かに存在したのである。
オリジナルを使って確認された『マナ粒子発光現象』は、そこから魔法の存在に関しても文献の解読作業が進められている。
解読によって『魔法式』と呼ばれる術式が在った事実。
魔導を行使するためには『魔力結晶石』か『魔力鉱石』と呼ばれる特殊な鉱物が欠かせない事実。
此処で知り得た特殊な鉱物は、しかし、それ自体は直ぐに特定へ至った。
見つかったオリジナルの魔導器の一つを解体調査する過程で、そこに収められていた綺麗な鉱物。
調査した結果。
この鉱物は現在でも装飾品等に使われる宝石と材質が同じという事が判明した。
魔導器を使った魔法の実証実験。
新聖暦2048年に行われたこの実験は、全世界へ魔法が存在する事を発信した。
絵本等で、そこで登場する魔法使いが杖の先から火を生み出す・・・・・
多くの人々が似たようなイメージを抱く魔法は、事実。
この実験によって証明されたのである。
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新聖暦2050年
この年は前年から続く好景気にあった。
先ずニューエイジによって、シャルフィとローランディア王国の財政は潤った。
中でも、ローランディア王国のゼロムでは稀に見る受注過多の好景気に見舞われている。
魔導器を構成する部品は、受注した小さな個人経営の工場さえ連日休み無しの繁忙状態へ変えた。
生産ラインの増設で施設が新たに造られるなど。
職を求めてゼロムへやって来る労働者も増えた。
また、鉄鉱石を含む鉱物資源の取引レートは、ニューエイジの登場によって特に金や銅の取引価格が高騰。
ただ、半面で宝石資源の取引レートは余り変動していない。
更に此処からの数年間。
導力革命によって産業にまで革命の波が押し寄せた。
それまで培ってきた魔導技術は、単に量産型魔導器を作っただけでは終わらなかった。
『技術の応用』である。
応用が出来る程度に下地の出来上がった魔導技術がもたらしたもの。
身近な所では照明器具が油を用いたランプや蝋燭の灯りから、導力製の照明器具へ移り変わった。
薄い特殊なガラス管の中に充満させたマナ粒子を閉じ込めた『魔導管』と呼ばれる製品は、専用の照明器具を稼動させることで暗闇さえ明るく照らし出す光を灯した。
同じように料理をする際に使う竈も、それもまた稼働させることで火を生み出す導力式のコンロが台頭している。
更に冷蔵庫やエアコン等は魔導技術が無ければ世に出なかっただろう。
人々の暮らしは新技術によって大きく変わり始めた。
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ニューエイジが世に出た後。
魔導器の研究は先に日常の生活を大きく変える変革から。
その間も進められた研究によって、それまで使われていた石炭燃料等のエネルギー資源にも変革をもたらした。
文献の解読が更に進み。
下地の技術は今も進歩の只中にある。
そして、より効率を求めた技術研究と開発が顕著になった2050年代は、経済の発展を支える産業が、取り分け工業技術が目覚ましく進歩した年代だった。
ニューエイジを生み出した以降も続くアナハイムの研究は、ある一定の水準に達したことで機密扱いの情報を全てではないにせよ。
此処で安全面に関わる情報が開示された。
既に輸出したニューエイジは、それを輸入した側が調査解析を当然の様に行っていた。
同時に、複製品を生み出すために国家プロジェクトが立ち上がるなど。
強大国では数年遅れでも、自国の技術産業を追い付かせようと躍起になっていた。
そして、この躍起になって行き過ぎた研究が事故を招く。
実験中に魔導器が暴走。
そして、暴走した魔導器は当時の手榴弾を軽く凌駕する規模で爆発。
結果、多数の研究者が悪戯に命を落としたのである。
そうした事故の情報が幾つも挙がり出した頃。
輸出に際して魔導器の解体を禁止した項目が平然と破られている事実は、それまでのアナハイムが敢て知らぬ立場を取っていた。
勝手に解体して事故を起こしている。
契約違反を理由に、アナハイムは態度を硬化した。
しかし、痛ましい事故が絶えない事で若い研究者達が多数死亡した・・・・・
改めて契約条項の履行を条件に、アナハイムは安全に関わる情報のみを開示した。
安全面の情報が開示された後。
事故が皆無になった訳ではないが、それでも犠牲者は確かに減った。
もっとも、犠牲者の殆ど全てが強大国で生まれている。
これもまた事実だった。
強大国は、それこそ多額の予算を用いて技術の蓄積を急いだ。
若い研究者を実験台にする事も厭わず。
大事のための小事だと・・・・・
新聖暦2053年
強大国の一つは犠牲の上に独自技術の魔導器を遂に生み出した。
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他所では事故も起きている最中。
アナハイムとZCFは『導力機関』と呼称した新技術を世に生み出した。
それまで、アナハイムが開発して実用化された自動車や海上輸送に使う大型の船舶は、全て『蒸気機関』を搭載していた。
勿論、この技術も分類的には新しい方に入る。
だが、主燃料である石炭の消費量に比して稼働率は高くない。
また、燃費の割に出力は小さい等。
広く普及させるには技術的な部分も含めて課題が山積だった。
そこへ来ての『導力機関』は、既に蓄積したデータや技術。
大きな出力を生むには、此方もある程度は大型化も必要ではあったが。
同じサイズで比べると、導力機関は蒸気機関の1000倍を超えた事で直ぐに取って代わられたのである。
新聖暦2053年
アナハイムとZCFは、世界で初めて空へ進出した。
試作の飛行船は、これもエリザベート博士が解読した魔導文献が関わっている。
導力機関についてもエリザベート博士が関わった。
初めて空へ上がった飛行船は、大型の導力機関によって浮上した後。
別の小型導力機関が回転翼を回して推進力を得る仕組み。
飛行というよりも、ゆったりと空を泳いだ感じだった。
実はエリザベートが独占する形で調査していた遺跡。
此処では魔導だけでなく、他にも幾つかの新技術へ繋がる遺産が眠っていた。
その一つが物体を浮遊させる技術。
同時に、それを用いた『航空艦』に関する文献は、此方はアナハイムの調査隊が中心になって解読に当たっていた。
新聖暦2057年
世界で初めて空へ進出した飛行船から4年。
アナハイムとZCFは文献に記された『航空艦』を完成させる。
そして、試験飛行を幾度か経た後。
翌年には正式に就航となった。
ローランディア王国はこれによって世界初の『空軍』を編成したのである。
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新聖暦2085年
約40年前から始まった魔導革命。
そこから発展した技術は人が空へ赴く時代さえ到来させた。
2060年代は既に飛行船が空を行き交う時代であり、ローランディア王国のZCF製の旅客船(飛行船)が少ないながら定期便として就航していた。
当時、シャルフィ王国はローランディア王国との間で逸早く国際線を結ぶ条約を締結。
それによってシャルフィの王都には飛行船が発着する空港が造られると、1日2往復でローランディア王国から飛行船がやって来る・・・・・・
シャルフィの空港へ着陸するために、速度を落として接近してくる飛行船は、見上げた空に映った大きな船体だけで初めて見た者達を驚かせた。
現在は大国の何れもが独自技術で『飛行船』や『航空艦』を所有している。
飛行船も航空艦も空を行く艦船ではある。
此処で主に民間で使われる旅客船類が『飛行船』と呼称されると、当然ながら武装はしていない。
反対に空での戦闘等を想定して武器を搭載した艦船を『航空艦』と呼称する。
空軍を所有する国は航空艦もそれなりに保有していた。
アスランが暮らすシャルフィ王国は、規模こそ小さいものの。
それでも最新鋭の航空艦を揃えた空軍を保有。
空での戦闘行動を想定した航空艦。
その性能の優劣は現在の所、『高度』と『速さ』になる。
高性能な武装も勿論、必要ではある。
ただし、現在も主兵装が榴弾のため。
速度や高度で相手の航空艦が上の場合には特にだが、いくら榴弾でも命中率は愕然と落ちる。
『榴弾』
弾丸の内部構造に炸薬を仕込んで、着弾時や信管の定めたタイミングで炸裂する。
炸裂によって弾殻が破砕。
破砕に伴って広範囲に飛散すると、これが周囲の対象へ突き刺さる。
直撃は無論だが、至近で炸裂された場合でも船体はかなりの損害を被る。
一方で、船速で上回れば先ず当たらない。
また、射程の他に射角にも限度があるため。
高度で差を付ければ、それだけ有利になれる。
故に、航空艦の優劣は今も『高度』と『速さ』だった。
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シャルフィ王国とローランディア王国は、航空産業でも条約を締結している。
背景には勿論、此処でもエリザベート博士が関わっていた。
そして、優れた艦船を建造するために欠かすことの出来ない導力機関の技術と、限界まで重量を抑えるための金属の研究は、今も両国が共同で進めていた。
特に、航空艦に求められる導力機関技術は、国家の最高機密に分類されるほど厳しく管理された。
他に軽量で高強度の材質は、確かにこれも重要ではある。
しかし、エンジンがより高性能であれば、多少重くとも強度のある金属が使える。
軽量金属は複合か合成によって作られる。
けれど、榴弾の直撃にも耐えられる強度には未だ届いていない。
両国はこの分野で識者同士が議論を積み上げた。
そして、今現在は金属の研究も継続するが、エンジンを特に優れた物に出来れば必然して問題の解決に繋がる。
識者同士の議論によって、予算はエンジン開発へ比重が傾いた。
今日現在、シャルフィ王国が保有する飛行船と航空艦。
その全てはローランディア王国のZCFにある造船所で建造されている。
特に航空艦に搭載された導力エンジンは、その性能において他国。
此処では特に東西の大国と比して数段上の数値を出していた。
民間で今も使われている飛行船。
シルビアが即位する以前から、この飛行船は就航している。
そして、当時は未だ船体の大きさに比例したエンジンが搭載されていた。
しかし、一昨年にシャルフィ王国が本格的に導入した最新鋭の中型巡航艦。
船体の大きさは全長108リーシェ、全幅43リーシェ、全高35リーシェ。
※1リーシェ=100センチリーシェ
※1000リーシェ=1キロリーシェ
外観の形状は海に浮かぶ船とも似ているが、細部は航空艦のため異なる。
推進部分は船体の後方、姿勢をコントロールする部分は船底を主に。
船首側には主武装を配置すると、船体の側面に補助兵装や補助機関等が備えられている。
船体の形状や装備面の配置箇所は他の航空艦と大きく変わらないものの。
故に最もな違いはエンジンになる。
ZCFが開発した最新型のエンジン。
従来の小型航空艦に搭載されるサイズで、しかし性能は大きく上がっていた。
この新型の航空艦は、その一番艦がシャルフィへ納入された後。
ローランディア王国でも今は二番艦が就航。
この最新鋭の航空艦は、今もぶっちぎりで世界最速を誇る。
搭載されたエンジンについても、これは各国の共通課題だった出力とサイズが比例する課題。
それをシャルフィとローランディアは共同で解決に至らせた。
課題の解決には、エリザベート博士と教え子の一人。
この時には博士となっていたアルバートが特に関わっている。
新型エンジンの主な研究と開発は、ローランディアが世界に誇る工業都市ゼロムで行われた。
中でも特に最高の施設とスタッフが揃うZCF。
現在は最高責任者を務めるアルバートと、師であるエリザベート博士の連携が世に生み出した小型で高性能なエンジン。
東西の大国がそれぞれに持つエンジン技術を彼方へ置き去りにした性能差。
それまで物量で遥かに劣るシャルフィとローランディアは、これによって実力を伴った第三勢力として存在感を一層示した。
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今年5歳になったアスランが新聞と現地から避難して来たエルトシャン達から聞いた範囲でしか知らないルテニアが侵攻された事件。
エルトシャン達も知らず、そしてシャルフィで発刊される新聞にも載っていない。
当然、アスランも知らない真相。
そこには帝国が横暴としか言えない暴挙に打って出ても欲したものが在った。
帝国と国境を接するルテニア自治州。
その国境線から自治州側へ3キロリーシェ入ったとある地区で、戦争の発端となった古代遺跡が見つかったのである。
新しい古代遺跡が見つかったのは偶然だった。
しかし、この辺りはそれ以前から帝国と自治州との間で、長く国境線を巡る争いが続いていた。
帝国が主張する国境線は、この辺りが帝国の国土として含まれている。
逆に自治州側の主張でもこの辺りは自領内に入っている。
この問題はルテニア自治州から正式に『リーベイア大陸国際条約機構』へ提訴された。
『大陸条約会議』を前身に、その名称が現在は『リーベイア大陸国際条約機構』となった会議の場において。
『大陸憲章』を最高法規と定め批准している各国は、その会議上で提訴された内容を審議の場へ移した。
最初は不参加だったヘイムダル帝国は、その後のノディオンからの進言を受け入れた皇帝の決断によって、第三回の会議から参加している。
審議の最中、ヘイムダルとルテニアの双方の代表者は揃って熱が入り過ぎた。
条約機構において、国際問題を仲裁する裁判所等を管轄するアルデリア法皇国の裁判官から幾度と諫められた後も言い争う事を止めず。
だが、武力行使を臭わせる物言いをしたヘイムダルの代表は、審議に参加した他国の代表から揃って厳しい叱責を受けることにもなった。
判決は双方が争っている地区の取り扱いにおいて。
何れにも属さない中立地帯とする判決を示した。
長らく争っただけに定住する者が居なかった事もある。
中立地帯の監視は複数の第三国から監視団を常駐。
一先ず今後10年の間は何れにも属させない内容は、ヘイムダル帝国側が即座に猛反発した。
ただ、反対にルテニア自治州は判決を受け入れる姿勢を表明。
両者の姿勢は此処から既に分かれていたのである。
アスランが4歳の誕生日を迎える年の4月。
この時の国際会議において判決が下された事案は、アルデリアとレナリアから最初の監視団が派遣された。
任期は半年で、以降は交代制の持ち回りとなった。
同年の8月、帝国内部において判決を不当だと主張する声は、この頃から特に周辺国にも警戒感を抱かせた。
帝国のこうした声は年が明けた以降も続き、中立地帯を預かる監視団からの報告を受け取った各国は外交努力に力を入れ始めた。
新聖暦2085年3月
複数の特使と共にヘイムダルを訪れたノディオンの代表は、皇城近くのサンスーシへ招かれる形で皇帝と会談を持った。
ノディオンから赴いたオルガ長老は、先に帝国の主張にも理解を示した。
ただ、問題を悪戯に武力で解決しようなどは許されない。
対話によって双方が落としどころを見出すことが肝要だと・・・・・・
招いた皇帝は、自身の名誉にかけて帝国から仕掛ける事はしないと約束した。
国境線を巡る争いも、実はルテニアだけではない。
他にも同様の問題を抱える帝国は、しかし、自国内には過激な勢力が存在する事も把握している。
「既に国土は十分な広さを得ているのだ。余は別に些末な諍いに興味は無い。帝国に害しないのであれば、その程度の僅かばかりの土地くらい要らぬであろう」
皇帝自らがこう述べた事で、問題は終息を迎える気運が高まるかに思えた。
だが・・・・・・
それから僅か二ヶ月余り。
中立地帯に駐留していた監視団の一人が非番を利用した散策の中で、そこで偶然にも古代遺跡を発見した。
現在は既に国際条約機構によって成立した『リーベイア大陸古代遺産管理条約』に基づいて。
旧時代の遺産はこれを最初に発見した国家、あるいは組織や団体、もしくは個人が所有権を得る。
解釈によれば、遺跡を発見しても。
中へ入って見つかった遺産の扱い。
これは一番最初に見つけた者が所有権を得るとされている。
何故、このような解釈が適用されるのか。
要は、国内国外を問わず遺跡を発見した場合に、一番最初に発見したのであれば成果を独り占めにして構わない。
自国で他国の誰かにそれをされれば、それは勿論腹立たしい。
だが、この適用を認めれば・・・・・
似たり寄ったりな思惑が絡んだ結果。
多数決によって可決成立した。
という次第である。
そして、この時の発見の報せが『帝国が本来得ていた利権を害した』という怒りに結び付くのは必然。
同じような主張はルテニアからも上った。
ただ、此処から逸早く実力行使に打って出たのは帝国。
国境付近に置いていた戦力を即座に動かした後、間もなく機甲師団も続くように中立地帯へと進軍。
条約機構が派遣している監視団にも構わずの発砲は、数十名の死者を生んだ後。
『ヘイムダル帝国は、自国の当然の権益を侵す全てに対して、苛烈で断固たる姿勢を貫く』
それから7月を迎えた今になっても。
ルテニア自治州内で続く戦火は、なお終わりを見ないままだった。
初レビューを読んで。
嬉しいよりも楽しかったです。
なるほど・・・・そういう見方もあるか・・・・など
次章からは歳の近い人達との関わりも・・・・
そして、やはり主人公は〇〇だったと。
展開速度は・・・・逆に上げない方が良いのかなぁ・・・とか考えてます。




