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第48話 ◆・・・ 当事者だけが知る。物語の裏側 ・・・◆

斬られる!!・・・・と、直感した本能とは反対に。

身体は逸早く、その手が握る剣の軌道は迫る剣閃へ対応していた。


キッイン!!


ぶつかり合う金属と金属は、互いの刃先を交えた所から、滑る様に流れてまた距離を取る。

同時に斬り込んだ側の存在が悠々と仁王立ちをしているその先で。

間一髪の所で凌いだ側は、打ち捨てられたかのように地面を転がっていた。


ティアリスから指導を受け始めた頃。

アスランにとって当時から今も閃光にしか映らない神速の軌跡は、やっと少しだけ見えるようになった。


それでも、見えた所で此方の動きが追い付かないから斬られる。

最近のティアリスとの稽古では、かなり手を抜いてくれる剣速を相手にして。

アスランはずっと斬り返しや受け流しの動きを繰り返して来た。


一方で指導するティアリスは、意図してアスランの下半身をとにかく鍛えた。

もっとも、今もそれは継続中であり、そして此処で終わり等と言うこともない。

素振りを中心にして来たアスランの身体つきは、ティアリスから見ると上半身と下半身のバランスが良くなかった。

ただ、アスランに剣を教えたシルビアという人物には非難の感情も全くない。


今もそうだが、アスランは未だ幼い。

出会った当時、アスランはまだ4歳であり、つい最近に5歳を迎えたばかり。

筋肉も骨格も、成長はこれからなのだ。

そうした点を考えれば、見た目様になる程度の素振りは教えても、本格的な指導は数年先で構わない。

今はまだ正しい基礎を遊びのようにして。

剣術を好きになって貰えれば、好きこそものの上手なれという所で自然と上達する。

指導するティアリスは、アスランから聞いた限りで、このシルビアという人物は剣術をそう教えていた感を受け止めていた。


だが、そうした感を受け止めているティアリスは、剣を捧げた主の意向に沿った指導を重ねて来た。

勿論、自身もそうだが何度でも言える。

これが指導とは全く呼べない類であることを。

しかし、そうして理解った事もある。

自分が主と認めた存在は〝諦める″という選択肢を持っていない。

どれだけ打ち負かされても。

万を超す瀕死を経験しても。

そのために、これも万を超す痛みを刻まれても。


・・・・次は絶対やり返す・・・・


その幼い器の何処に?

ティアリスはそう抱かずにいられない。

不屈という言葉は在る。

けれど、それは本来成長する過程で徐々に備えていくものの類。

故に、ティアリスは今もまだ。

幼い主の底を捉えられないでいた。


そして、今は・・・・・・

そうなる経緯が在って複雑な感情を抱くティアリスの視界に映る光景は、剣による一撃を受け止めた主の身体を、更に追い打ちのようにして蹴飛ばしたユミナを映して怒りの感情が沸き上がる。

実戦ならば、確かにそれも理解る。

そうして敵の体勢を崩して仕留めることは、当然だが理に適ったやり方だ。

だが、今のはそうではない。

ティアリスはアスランを蹴飛ばしたユミナの表情に、その表情が映した感情に対して怒っている。

自分の主を見くびったユミナは、思い通りに運べなかった展開へ、それが面白くないから足が出た。

単に付き合いが長いだけでないからこそ理解る心情は、これも手に取る様に理解るティアリスが憤る所以である。


今回はユミナの剣をどうにか受け止めて、それでも体重の軽い主は弾かれた。

弾かれて体勢が崩れた所へ決まった蹴り。

斬り込んだ勢いそのまま、剣が受け止められてなお次の一手へ即繋げられる実力者なら出来て当然。

憤りの感情とは別に、ティアリスの思考は冷静に状況を把握していた。


反対に、ユミナの剣を受け止めながら追撃をまともに喰らった主は思考に隙が生まれたのだろう。

完全にがら空きだった。

否、それ以前の問題かもしれない。

恐らくは、ユミナの一撃を前に斬られると抱いた。

無意識に致命傷を避けようと動いた事とは別に、染み込んだ防御の動きが結果的に一撃を防いだ。

だからこそ、あの時点で次を思考出来なかった主が負けたのは道理だ。

今度はその辺りも含めて鍛えねばならない。


主への今後の指導にまで思考を運べるティアリスは、そこで見て分かるほど着地が悪かったせいで、受け身もろくに取れなかったから間違いなく痛いだろう。

それでも・・・・・・


ティアリスの瞳は、地面を転がった後で呻くような声と共に起き上がった。

未だ一度として弱音を口にせず。

満身創痍なのに、再び剣を構えた主を映して。

今度は嬉しいとか誇らしい感情が滲み出ていた。


-----


・・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・


大きく、そして何度も繰り返される呼吸は今も落ち着かないでいる。

肩を上下に動かしている程。

その呼吸はアスランへ、とにかく酸素の補給を求めていた。


何とか斬られずに済んだ。

騎士王が繰り出した一撃を、自らの剣で受け止められた。

ただ、その一撃はとても重く、受け止めた剣と一緒に自分の身体まで弾き飛ばした。


斬り上げる剣の軌跡は、それまでの間合いから一瞬で懐深くに入られたことで完全に見失っていた。

漠然としたもので何と無く下から来る!!

そうとしか言えない。

勘で下から来る・・・・それでもう間合いから逃れられない。

それが何故か防げて、だけど今はこんな有様になっている。


呼吸を繰り返しながら思考をフル稼働させる。

結果には必ずそうなるだけの原因がある。

これもティアリスから教えられたことの一つで、同時に勝率や生き残る確率を上げる術だから。


強く重い一撃を受け止めて地面から足が離れた感覚はある。

そのまま浮き上がる様な感覚の中で、追撃があった・・・・・

それが剣でない事は確かで、もしも剣だったら確実に死んでいた。

だから肘打ちか何かで、それで自分の身体は後ろに弾き飛ばされた。


思考を巡らせるアスランは、ただ、その部分。

追撃の正体までは視界に捉えられなかったことで特定が出来ないでいる。

それとは別に、全身が痛みを訴える部分は答えが出ていた。

弾き飛ばされてから姿勢を立て直す前に地面に着いた。

着いたというよりも、変な着地のせいでよろけた身体はバランスを完全に失くした。

当然、勢いそのまま叩き付けられた自分は、後はごろごろと地面を転がった。

結果、乱れた呼吸だけなく身体中がとにかく痛い理由には説明がつく。


慣れたとはいっても、打ち身や打撲の痛み以外に蓄積した疲労が被さった。

自力で立てず。

格好悪いと理解っていても剣を杖にして先ずは身体を立たせた。

結果はともかく。

これは自分が望んだことが始まりだから。

だから、いつまでもは寝てられない。

それに・・・・・


・・・・なんかムカついた・・・・


ボロボロの自分と違って、楽しそうに余裕を見せつける騎士王へ。

『必ずやり返す』と抱いたアスランはまた剣を構え直した。


「ふふ♪アスランは良い瞳をしていますね。斬り損ねたので、思わず蹴飛ばしてしまいました♪」


剣の一撃は確かに防いだ。

けれど、正体が特定できずにいた追撃の部分。

それを明かした騎士王に向けるアスランの視線は厳しさを増した。


思わず蹴飛ばした!?

そう告げられて、なのに騎士王の表情は面白がっている・・・・ようにしか映らない。

それがどうにも面白くなかった。


「・・・・・・防げたのは偶然です」


面白くない感情を押さえ付けた。

これで相手がエレンなら怒り大爆発なのだが。

憧れの騎士王がこういう性格だった点。

まさかエレンと重なるとは思ってもみなかったアスランは、憧れと理想を木端微塵にされた感も抱えながら、それでもどうにか堪えている。

何故なら。

自分の希望が叶った結果の一つがこうなった。


望みを叶えて貰った後で、此処までに何度となく同じ言葉を言い聞かせて来た。

それを忘れていない分だけ、今のアスランはまだ冷静さを残していた。


分かり易いくらい怒りを押し殺した声で、そんなアスランを瞳に映すユミナは小さく首を横に振った。

既に何百回。

もしかすると千にも届く回数を重ねたかもしれない。

なのに・・・・・


・・・・ティルフィング。貴女の言う通りでした。そして、一度でも交えると待てなくなるという意味も。それも今は理解る気がします・・・・


ティルフィングがアスランの成長を、それも身体的な部分での成長を待っている。

まだ5歳になったばかりのアスランを、ティルフィングが『十年後のマイロードであれば、私は全てを教えられる』と、零していた。

しかし、ユミナはそれにさえ首を振っている。


起き上がって直ぐに剣を構え直した姿に。

満身創痍の身体で乱れた呼吸を整えようとしているアスランを見つめながら。

ユミナもまた、こうなった発端を思い起こしていた。


-----


「ティルフィング。いいえ、ティア・・・・人間の15歳は、まだ成長の途上にあります。コールブランドを使い熟せるようになるためには更に3年は待つべきです。故に〝選定の儀″は18歳の誕生日を迎えた後に行われる。理解っている筈です」

「ユミナ・・・・」

「シャルフィ王家が、代々そうして継承して来た王となるための試練は、それがコールブランドの意思だという事は勿論ですが、同時にコールブランドが私以外に主を選んでいないことも事実。本来、あれが王位継承の証などではない事は貴女も理解っている筈です」

「では何故、今。それもリザイア様へ・・・・あの御方に取りに行かせたのですか」


時間はアスランからの望みを聞いた後まで遡る。

会談の席からアスランを外した後、ユミナとティルフィングは二人だけとなった室内で、互いの真意を探るような言葉を交わした。


「リザイアを行かせた・・・・それは少し違います。ですが、それも含めてティルフィング。いいえ、私の妹であるティアリス・フラウ。貴女へは話しておきましょう」


つい先程に部屋を出て行ったアスランを見送るために立ち上がっていたティアリスへ、ユミナは再び座る様に促しながら。

そして、今また向き合うようにしてソファーに腰を下ろした妹から突き刺さる視線を前にして。

一度、紅茶の注がれたカップを口に運んだユミナは、一口飲んだところでカップをテーブルへと置く。


「コールブランドの意思。それは貴女と同じで、自らの王を定める所はそうでしょう。ただ、コールブランドが私の死後からニ千年を経てもシャルフィを守って来た部分。この意味も決して一つではありませんし、王位継承の証として自身を故意に介在させた事も。当然、その中の一つに含まれています。コールブランドに認められない者に王位は与えられない。故に代々の王はコールブランドが認めて後継者となった唯一人にのみ、私が残した遺言を口伝して来た」

「騎士王の・・・・姉様の血を絶やしてはならない。生前の姉様が自らを器として女神と精霊王の血を宿した事ですね」


ティアリスは姉がそうしてただ人間ではない存在になってしまった経緯を知っている。

同じようにまた自分も人間ではない存在になった。

姉を王として集った者達もまたそうであり、ミーミルやレーヴァテインもその中の一人。


当時、騎士王である姉が率いた聖騎士達は、勿論その中には騎士団長を務めたティアリスもいた。

後世に『邪教』という表現でのみ残した存在。


返した言葉に、未だ無言でいる姉の瞳を見つめながら。

その覚悟を宿した姉の瞳が、ティアリスの思考を深くへ導く。

やがて、自らの思考が辿り着いた一つの可能性に。


「・・・・まさか、ですが姉様」


ユミナの瞳は、この瞬間の凍り付いた表情を顕わにした妹を映して。

同時に自分と同じ答えに至った事をはっきりと確信した。


「コールブランドがシャルフィに残った理由。私の後継者が現れるその日まで、代々の王には最低限の出来た者を選んで時を待つ役目。また〝剣”を守護する役目・・・・そして」


・・・・輪廻の双竜(ウロボロス)からシャルフィだけは守る役目を担っていたからです・・・・


落ち着いた声で淡々と口にする姉を前に、衣服の内側で鳥肌になっているくらい自覚できる寒気に襲われたティアリスの表情が一層強張った。


「ティア。恐らくウロボロスは・・・・アスランの存在に気付いています。自らの眷属を直接差し向けた辺りで、私はそう確信しました。ですが、此度はアスランを葬ることもシャルフィを滅ぼす目論見も外れたとも思っています。次回は更に用意周到に仕掛けて来る筈です。コールブランドは逸早くそれを察して・・・」

「姉様がリザイア様に取りに行かせた事情は理解りました。そして、何故突然にヴァルバースが顕現したのか。やはり・・・・動き出していたのですね」


自らの思う処を述べながらも、姉の雰囲気がそれを否定しない。

此方の思考を肯定された辺りから、ティアリスには緊張も強張りも既に無かった。

寧ろ、何れ来るであろうそれに備えて。

姉も自分も、あの場で予言に立ち会った騎士達は選んだ。


『常世の安寧のために』


未来のために選択した姉と自分。

同じ想いで選択した皆と共に誓い合ったあの瞬間の光景がふと目に浮かぶ。

懐かしい。

この胸の内側で膨らむ熱が。

自身と、そして姉や仲間達にとっても。

誓という意志を象ったカミツレの紋章は、故に紋章旗を掲げて征くことに身が引き締まる感だった。

あれは本当に誇らしいと、常日頃から誇りを汚すまいと纏う緊張が何処か心地良いとも思えた。


ユミナは強い緊張で固まったような妹が、今は此方を柔らかい眼差しで見つめている。

強張っていた表情も、今は見知っている優しい妹のそれを映しながら。

自然と胸の内で擽られる暖かさが、紡いだ声の感じにも現れていた。


「私達が手にした安寧は、それからの年月の間で今はもう安寧とは呼べないものになってしまった。安寧とは築くことよりも、寧ろ維持する方が殊更難しい。それでも・・・・」


ユミナは思う。

後世を生きる人々の間で、『暗黒時代』という表現が定着した自分達が駆け抜けた時間のことを。

事実、ウロボロスの勢力が強大だった点と、各国が互いの思惑で争っていた事は、それだけでも荒れた時代だと言えよう。

それを終決させた後で、もうそのような時代が再来しないようにと積み重ねた努力は、しかし、平和の中で生まれ育った者達の我欲が小さくない争いを絶えず繰り返している。

それは自分達の駆け抜けた時代よりかは小さな規模でも、ただ、争いが起きる度に嘆きや悲しみが連鎖する事は変わらない。

その嘆きや悲しみが怒りと憎しみに変わり、再び争いを生む。

結果的に巡り巡るのだ。

つまり、それこそがウロボロスが掲げた真理。


・・・・終わりなき負の循環。それは我等ウロボロスが不滅である証・・・・


「負の連鎖を、その終わらない環を断ち切る。私は今もこれからも。だから、アスランにも期待しています」

「姉様の想う処は私も理解ります。ただ、何故。それが今なのか・・・・幼いマイロードにコールブランドを」

「それがコールブランドの意思だからです」


妹に続きを言わせない口調で言葉を挟んだユミナの瞳には、挟まれたティアリスが一瞬でもハッとした表情を浮かばせた。

ただ、直ぐまた厳しい表情となった妹から「まだ早過ぎる」と、穏やかでない声の中に含まれた理解し難い戸惑い。

しかし、ユミナはそれすら当然だろうと受け流すように再びカップを口に運んだ。


こうなるであろうくらいは理解っていたユミナが紅茶を口の中へ運び、そして、ティアリスはそんな姉の態度に怒りを膨らませない。

姉の性格からして、こういう時は意図して気を静めている。

自分が発して部屋を満たした憤りの空気に触発されないように、まるで大事な何かを伝えるためにそうしなければならないように・・・・・


「ティア。ヴァルバースとの戦いの最中にアスランが此処に来た・・・・その時の詳細を貴女は知らない。ですが、見た筈です。紋章旗も、アストライアも」


ユミナはそこで一度だけ口を閉じた後。

続く言葉を今はまだ待っている妹へ。

飲み干して空になったカップをテーブルへ置きながら。


「カリバーンは既にアスランを主と選びました」


室内の空気が一変して凍り付いた。

それくらい自分の告げた最後の一言によって、二人だけの部屋の空気は凍り付くような鋭さで満たされた・・・・くらいはユミナ自身が肌で感じ取っている。

そこへ今度は確かめる様な声で、「鞘から抜いたのですか」と尋ねた妹へ。

カップへ落していた視線を起こすユミナの視界に映った妹は、繰り返すように問い質してきた。


「姉様。マイロードは、カリバーンを鞘から抜いたのですか」

「ええ。いとも簡単に抜きました。貴女なら・・・・この意味も理解る筈です。そして、アスランがそちらへ戻った後です。入れ替わる様にしてリザイアが此処へ来ました」

「・・・・・・その用向きは」

「貴女は感じませんでしたか。アスランの傍にいる精霊の存在を。たとえ姿は見えなくとも、エレンという精霊が傍にいる。そして、この精霊が際立って普通ではないことを」

「マイロードの傍にエレンという名の精霊がいる事は分かっています。そして、確かに普通ではない何かを持っているくらいは感じていましたが・・・・つまり、これもその通りだった。そういう事でしょうか」


マイロードの傍にいる精霊についても何かを知っている。

そして、知っている部分を今はまだ伏せている。

ティアリスのそうした胸中に対して、ユミナはポットから紅茶を注ぎながら。

程なく視線を起こした。


「ティア。今から話す部分ですが、決してアスランには明かさないでください。そうしなければならない理由もあります」

「分かりました」


即答で返したティアリスは、けれど、姉の雰囲気だけで何かしら事情があるくらいは察した。

それも恐らくコールブランドの件とも関連している。

ユミナは妹の返事を受けた後、頷きを挟んで口を開いた。


「精霊界。リザイアが精霊界の王妃であることは、今更尋ねなくても大丈夫ですね」

「はい。それくらいは当然ですが分かっています」

「もう一つ、エイレーネシアという名は憶えていますか」

「精霊王と王妃であるリザイア様のご息女。エイレーネシア姫の事ですね」

「エレンという精霊ですが、本当の名はエイレーネシアです。そして、今は試しの儀の最中・・・・故に、リザイアからは私にも、この事は伏せるように頼まれています」

「エイレーネシア姫がマイロードの傍に・・・・ですが、伏せなければならない事情は分かりました」

「エイレーネシア姫の将来は、既にアスランへ委ねられています。それに、彼女がアスランへ大いなる力の一つを与えた結果。貴女とアスランの出会いは、これも10年は前倒しになってしまった。更に、貴方がアスランを王として選んだことが引き金になってコールブランドも動いた・・・・つまりはそういう事なのです」


姉の口から告げられて、それで自分の中でははっきりした。

確かに優秀な精霊が傍にいる・・・・くらいは感じていたが、それがまさか精霊王の娘だった事は予想すらしていなかった。

ただ、精霊王の娘と言われて、逆に納得だった。

これはエレンという精霊が持つ実力よりも、その名でマイロードから聞いた部分。

マイロードから聞く限りの性格が、見知っている母娘と重なって、つまりはその意味で呆れる様な感と共に納得してしまったのである。


(・・・・なるほど、エイレーネシア姫であれば。真面目なマイロードが苦労するのは道理です・・・・)


「姉様・・・・私の方も線が繋がりました。そして、コールブランドを取りに行かせた部分も含めて。ただ、カリバーンが選んだ以上・・・・」

「貴女の察する通りでしょう。今回、コールブランドの方から私に意思を届けて来ました。直接会いたいとコールブランドが望むなら。私はその意思を妨げられません」

「そうなると、マイロードはこれからがより大変になることも決まったようなものです」


そこで溜息の様な吐息を一つ漏らすティアリスだったが。

妹のそうした姿を見つめるユミナに不安はない。

何故なら・・・・・・


「マイロードは苦労するでしょう。ですが・・・・支え甲斐があります。気分に左右される姉様と違って、マイロードはとても真面目ですからね」

「今はそうかもしれませんが、それと言っておきますが。私の系譜の末裔ですよ。アスランの母親なんか私の末裔らしい性格ですしぃ~。その父親の血さえも含まれたアスランですからね。女たらしな部分は既に貴女も理解っているでしょう♪」


真面目な話し合いは此処まで・・・・・

とでもいう態度で地を曝け出した姉の口調に妹の方はムッとする。


「マイロードは優しい真面目な思い遣りのある御方です。ですから、私が全力でお守りしなくてはならない。特にミーミルの様な〝害虫″は今のマイロードを汚染する危険要素です。ああいった存在を魔性というのに。まったく・・・・なんで、あんな奴をマイロードは」

「そうやって嫉妬する貴女もまた可愛い所がありますね♪」

「ベ・別に!・・・・私が嫉妬など。第一、私はマイロードから1番を頂きましたから」

「ふ~ん・・・・でもぉ~10年後にエッチして貰える約束は交わしたんだしぃ~♡ティアの一途で、それから独占欲が強い所♪お姉さんは誰よりも理解っているんだからね♡」

「な・な・な・な・な・な・なんで!?・・・・姉様がそれを知っているんですか!?」

「え?だって、私はティアがアスランを選んだ時からずっと見守って来たのよ。知ってて当然じゃない♪」

「己・・・・たとえ姉でも・・・・やって良いことと悪いことが」

「妹の秘め事を覗き見するのは姉の特権よ♪」


この後、姉妹が使っていた部屋は、そこで真面目で一途な妹と、そんな妹を天真爛漫に小悪魔要素を自覚している姉との間で破茶滅茶な姉妹喧嘩の火蓋が切って落とされる。

怒り心頭で殴り掛かった妹と、そんな妹を楽しそうに揶揄う姉だったが。

妹の膝蹴りが横顔にクリティカルヒットした所で、この瞬間から姉も本気になっての大喧嘩。

間もなく室内は見るも無残な姿へ変わり果てたのだった。


-----


再び剣を構え直した後、今も呼吸を整えようとしているアスランを映しながら。

ユミナはアスランの望みを叶える前には、久しぶりに妹とも楽しい時間(姉妹喧嘩)を過ごした。

拳を交えた姉妹喧嘩など、生前は日常茶飯事だった。

ただ、互いが今の存在になってからは初めて。

何故なら、妹は自らの聖殿の奥から一度として出て来なかったから。


そんな妹が選んだ王だからこそ・・・・なのかもしれない。

アスランを見つめるユミナの表情は自然、柔らかくなっていた。


「いいえ。そうではありません。頭で考えるよりも先に身体が動くようになった。それくらいには実力が付いている証です。ですが・・・・今のアスランには致命的な弱点があります」


致命的な弱点・・・・・・

蹴飛ばされた事へ面白くないと湧き出た感情も、一転して真面目な声で告げられたことが、聞く側のアスランの心情を静めた。

胸中は別に両者を見つめていたティアリスにも、ここでユミナが指摘した個所。

それは自分も同様に理解っていた。


「まぁ、王様ってば。まだちっちゃいからねぇ♪軽過ぎるのは仕方ないよ」

「レーヴァテイン・・・・来ていたのですか」


姿を現したレーヴァテインへは視線を向ける事もなく。

一方で、レーヴァテインが口にした部分。

そう。

マイロードは未だ幼いが故に、どうしても小さな身体は体重も軽い。

骨格は小さく細い。

当然、筋肉も少ない。

そんな身体では、いくら最適な重心移動が出来た所で、繰り出される一撃の威力に怖さを感じない。

もっとも、そんな身体でも。

マイロードが使う魔法剣技は別次元の脅威なのだが・・・・・


『アスラン。私が直々に剣を教える以上。その間は、アーツを使う事も聖剣を使うことも禁じます』


この約束があるために、マイロードはアーツを使わないでいる。

ユミナの思う処には理解できるが。

だからと言って、私を使う事まで禁じたのは面白くない。

私はマイロードの剣なのだ。

それを・・・・・


思い出す度に沸々と込み上げてくる憤りは、煮え滾った熱湯が今にも爆発するのではと。

今回、そうした気配を全く隠そうとしないティルフィングだから。

とばっちりが怖い等と抱くミーミルは稽古の間は姿さえ見せないでいる。

反対に空気を読む気が無いのか。

レーヴァテインの方は時々こうして現れていた。


「僕の・・・いや、俺の弱点ですか」


自分のことを『僕』から『俺』へと言い直す。

ヴァルバースとの戦いでティアリスから教えられた部分は、途中からまた僕へと表現が戻った後。

此処でまた矯正される様に僕から俺へと、これも騎士王から直すように告げられた。


「ええ。ティアからも一度くらいは言われたかもしれませんが。アスランは子供です。此処でいう所の子供は身体のことですが、背丈も小さいし、体重が軽いという点です。故に、どうしても一撃の重みが感じられない。それが今のアスランの弱点です」

「・・・・ティアリスから、それは言われました。だから俺は、基礎以外にアーツと魔法剣技で補うようにしています」

「そうですね。ただ、私の剣は魔法剣技ではありません。極致に至った剣技です。貴方が私からのご褒美に望んだ『騎士王の剣を教えて欲しい』は、だからこそ。今もこうして叩き込んでいる。どうですか?後たった15年くらいで追い越せそうですか?♪」


アスランは、自分が二十歳くらいまでには騎士王の様な騎士になる。

それは無論。

今も変わらない。

そして、今は目の前のユミナ(現実)よりも〝理想の騎士王″を目指している。

目標を変える気もなければ、自分を信じて待っているティアリスがいる。

ただ、騎士王だと知らずにいた女性に向かって言ってしまった言葉のせいで。

何故か、現実の方からは今もこうして時々は根に持ったような態度も受けていた。


「そうですね。たぶん、確実に背丈は追い越しますから。あと、本物は魔法剣技が使えないなら。使える分は俺が有利です。と言う事ですよね」


プチっ・・・・・・


一瞬、ユミナの纏う空気が逆立った。

刹那、アスランは今度こそ袈裟懸けに意識まで絶たれた。

そして、騎士王ユミナフラウから直々に剣を学びながら。

此処でもアスランは、既に数え切れないほど瀕死を繰り返していたのだった。

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