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第46話 ◆・・・ 初陣終幕 ・・・◆

アスランが行使した召喚魔法。

それは短い時間でも、城壁の上から見ていた者達を一様に驚かせた。


最初、アスランの足元から白い光の線が幾つも走り出した。

その線は程なく、此方からだと紋章のように映った直後。

線に沿って揺れるカーテンのように光を立ち昇らせた。

白色、あるいは金色に映った光のカーテンの周りで同じ色合いの光を放つ粒子が、もの凄い勢いで密度を増した途端。

アスランはその中に隠されるように姿を消した。


恐らくは1分にも満たなかった筈。

ただ、シルビアはこれが何かしらの魔導を行使した事象干渉の類だと抱いた。

一点だけを捉えた視界は、やがて再びアスランの姿を現した。

光を放つ粒子が空へ舞い上がるようにして、足元から姿を覗かせたアスランは、しかし、シルビアも含めて此処から注視していた者達を驚かせた。


「アスランが変身した!?」


シルビアの驚きは、マリューとカーラも同じ。

二人から見てもアスランの身形は明らかに変わっていた。

ただ、驚くべきことは他にもある。


先に口を開いたカーラからは、「人数が増えています。見た所アスラン君の他に3人・・・ですね。それから、あの旗は・・・」と、シルビアとは反対に落ち着いた声で。

ただ、これも見たままの感想にマリューも続いた。


「カーラ様。あの旗ですが・・・・カミツレ・・・・ではないですか」

「そうですね。鮮やかですが深みのある青。その中に恐らく銀でしょうか。紋は間違いなくカミツレだと私も思います」


シルビア程ではないにせよ。

マリューの驚きは声を震わせている。

自然、カーラとマリューの二人は城壁から身を乗り出した。

それくらいアスランの傍で翻る旗を注意深く見ていた。


もっとも、それは二人に限っていない。

スレインも、他の近衛騎士達もそうだったが、同じくらいシルビアも身を乗り出していた。


此処からでは白いコートを着込んだアスランの背中が映る。

そして、同じように此方へ背中を向けている3人の姿は、うち二人は騎士だろうと身形で分かる。

残る一人はローブともドレスとも見える身形で、大きな旗を掲げていた。


だが、程なく今度は剣を右手に掲げたアスランを遠目でも映したシルビアの表情が一変した。

直後その口が「まさか・・・!!」と、紡ぎながら。

踵を返して走り出したシルビアは、そのまま脇目も振らず階段さえも一気に駆け下りた。

女王の突然の行動に、しかし、少し遅れてマリューが慌てて走り出すと、更に後からカーラや他の近衛騎士達まで走り出した。


アスランが剣を掲げた瞬間。

それだけでシルビアは直感した。

(・・・アスランは、あの子は間違いなく打って出る・・・)


親友(カーラ)のように理路整然と説明は出来ない。

それでも、自分の中に走ったこの強い感覚には確信があった。


城門は今も、外にいる避難民を全て入場させられていなかった。

だが、シルビアは脇目も振らず自分の馬に跨った。

そして、追いかけて来たカーラが口を開くよりも先に、「アスランは仕掛けるつもりです。私は今直ぐ追いかけて、アスランを保護します!」と叫ぶような声で。

そのまま返事も待たず聞かず馬を走らせた。


城門の両端に立つ兵士達は突然、女王の乗った馬が迫った事で咄嗟に声を上げて道を開いた。

いきなり『道を開けろ!!』と大声を上げた兵士達に、未だ順番を待っていた者達も驚いた。

しかし、門の向こう側を映していた一部からも大声で『女王が乗った馬がやって来るぞ!!』等と幾つもの声が続くと、反射的に左右へ避けた中間に出来た一本の道。


馬を駆るシルビアは、視界の先に一筋の道が出来た事を映して一層馬を走らせた。

道を開けるために左右へ避けた民達へ。

シルビアは馬を走らせたまま、『私はアスランを助けに行きます!!』とだけ叫んでいた。


女王が発した鬼気迫るようにも感じた声。

ただ、それを聞いた民達は、中でもアスランを可愛がってきた大人達が真っ先にシルビアへ声援を送った。

女王様。アスランを守ってください!

シルビア様。アスランをお願いします!

俺たちの孤児王を必ず助けてくれ!

アス坊を頼むぞ。陛下!!


口々にアスランを助けて欲しいと声を上げる民達の想い。

それはシルビアだけでなく、後を追いかけたマリューやカーラ達の耳にも届いている。

カーラは胸の内で、改めてアスランが周囲から愛されている・・・・・

耳に届く声には素直に嬉しい感情が湧き出ていた。

きっと、今は鬼気迫った表情の親友(シルビア)も、後からきっと頬を緩ませる。

事が無事に終わった後で、間違いなくそうなる。

確信・・・・と言うよりも、既に決定事項だと分かっていた。


しかし、カーラの思考はそこで直ぐ切り替わった。

視界が映すアスランが造った長城としか言えない防壁が近付くにつれて。

その高さも近付く中で一層高いと抱かさせた。

ただ、視界に映る防壁には門扉らしいものが何処にも見当たらなかった。


カーラが抱いた部分。

先頭を行くシルビアにも、間もなく到着する防壁には門扉が無い。

それをはっきり視認しながら。

逸る感情は既に焦りへ変わっていた。


馬を走らせて城壁の門を通過した時。

アスランはもう防壁の向こう側へ消えていた。

自分の直感は当たっていた。

だからこそ、とにかく急いで追い付かなければ。

脳裏には、左右の何れかへ馬を走らせて端から回る。

だが、それで間に合うのか。

城壁から見渡した長城の長さは単純に数百メートル以上に映っていた。


募る焦りでシルビアの不安は今にも弾けそうだった。

ただ、そんなシルビアの視界に映った防壁が次の瞬間。

直進するシルビアから見た正面の壁。

その一部が突如流れるように変容すると、見て分かるほど大きな両開きの門を現した。

しかも、現れた門は直ぐ真ん中から音を立てて開き始めた。

まるで、シルビア達を誘うかのように。

そして、戦場側へ続く道が示された。


-----


シルビアが動く少し前。

防壁の上でアスランは、ティアリス達にはっきり宣言した。


『此処でヴァルバースを討つ』


短い一言だったが、臣下達は込められた意志の強さを確かに受け取った。


「ティアリス。僕は剣を手に入れた。だから、予定通り仕掛けるよ」

「マイロードの御意のままに」

「レーヴァテイン。早速だけど力を貸して貰うよ」

「任せて♪王様っ♡」


安心感を得られるティアリスの笑み。

その反対側で愛想を振りまく笑みと、後はやっぱりエレンと被るレーヴァテイン。

どちらも剣神だから先に声を掛けたアスランだったが・・・・・・


ミーミルへはどう声を掛ければいいのだろう?


レーヴァテインの隣から自分をじぃ~っと見つめるお姉さん。

そんな賢神を前にして、アスランは掛ける言葉が直ぐに出て来なかった。

決して仲間外れにしたわけではない。

だが、結果的に僅かの間を作ってしまうと、此処でも自分だけ仲間外れにされた!?

アスランの瞳は今にも泣き出しそうなミーミルを映して、「えっと・・・ミーミルはさ。その・・・こういう時は何が出来る神様なのかな?」咄嗟に素直な疑問を尋ねた。


「我が君が気付いておられないだけで、私はもう働いています」

「え・・・・?」

「私は真っ先に我が君の状態を把握しました。その上で今も働いています」


その口調は、なんか、もう完全に拗ねている・・・・・

他にもアスランはミーミルの座った目つきと雰囲気から。

それくらいは察した。

しかし、ミーミルが機嫌を悪くしているくらいは察しても、じゃあ既に働いているという部分。

その部分がアスランには分からない。


またも返す言葉に詰まったアスランへ。

ティアリスは徐に「コホンっ」と咳払いを一つ。

直ぐに視線を向けてくれた主に、一番の臣下は無言で左腕を指さした。


「え?・・・あ・・・腕輪!?」


やっと気付いたらしい主の反応。

勿論、自分は最初から気付いていた。

そして、恐らくはレーヴァテインも気付いている筈。

もっとも、主はさっきまで嗅覚が働かない状態だった。

故に、仕方ないとも抱きながら。

ただ、まぁ・・・・・・

今回は少しミーミルを不憫だと抱いた。


「マイロード。マイロードはさっきまで私を杖代わりにして・・・・どうにか立っていられました。お忘れですか」

「あ・・・・うん。そうだったね」

「マイロードは何故、自力で立てない状態だったのか・・・・お忘れですか」

「それは僕がマナを使い過ぎて、それで枯渇しかかった・・・・!!」


主のハッとしたような仕草。

そう。

主は自力で立っていられないくらい消耗した。

最初は自分を杖代わりに。

その後は背もたれにして立ち続けた。

それくらい疲弊し切った身体で、召喚魔法を行使した後。

何故か今は普通に立っている。

ティアリスは自ら教えずとも、主なら思考を導くだけで至るだろう。

そして、確かに主はようやく気付いてくれたようだった。


「ミーミル。ティアリスは剣だし、まだ見ていないけどレーヴァテインも剣だと思うんだ。それで、僕の左腕にある綺麗な腕輪だけど・・・・これがミーミルなの?」


瞳が映した金でもなく銀でもない。

表面が透き通った感は、何方かと言えばティルフィングとよく似ている。

これも何かの紋様が彫り込まれた腕輪を見つめるアスランに。

旗を掲げるミーミルが頷いた。


「左様でございます・・・・・」

「じゃあ、レーヴァテインの隣にいるのは・・・・姉妹?」


姉妹かと尋ねたアスランにミーミルが返事をするよりも早く、レーヴァテインがプッと噴出した。

ティアリスは笑わなかったが、何処となくレーヴァテインが苦しそうに?笑う様にも理解を示す素振りは見せた。

もっとも、当のミーミルは無言でムスッとしていた。


「我が君・・・・我が君が映す私。これは私が作った私の幻影です。更に言えば、幻でありながら実を伴った特別なものです」

「えっと・・・・・それって・・・・つまり・・・・」

「王様っ♪あれこれ考えずに触ってみなよ♪」


レーヴァテインの手は早かった。

アスランの片腕を即座に掴んで引っ張った。

しかも、その引っ張った片腕の掌を、態とらしくミーミルの胸に沈めた所で「王様のエッチぃ♪」と気恥ずかしそうな笑みまで作った。


この瞬間。

アスランの左手は服越しにミーミルの膨らみの片方を鷲掴みにすると、潜り込んだ指先が伝えた初めての感触に困惑した。

ただ、胸を触られたミーミルの恥ずかしいのが分かる表情とは反対側で、レーヴァテインの悪戯に目つきを鋭くしたティアリスが腰の剣に手を掛けた。


「レーヴァテイン。貴様・・・・マイロードになんと無礼な!」


一歩詰め寄ったティアリスは、雰囲気だけでアスランの背筋をゾクッとさせるだけの圧力がある。

一方、直ぐに離したとはいえ。

ティルフィングに睨まれたレーヴァテインは、即座にアスラン(無敵の盾)の背後に回った。

主を盾にしたレーヴァテインだが、その主の首を挟み込むように大きな胸の谷間を密着させながら。


「王様っ♪ここは気難しいティルフィングから私を守って♡」


扱い的にアスランは巻き込まれた側の筈。

なのに、どうして今は怒ったティアリスの正面へ!?

視線が右往左往するアスランだったが。


ゴンっ☆☆!!


背後から聞こえた鈍い音。

直後レーヴァテインから漏れた悲鳴は、そこでアスランを解放してくれた。


「・・・・ミーミル。その、ごめんなさい」


ちょっと前までティアリスとミーミルから。

絞られたのはレーヴァテインただ一人。

アスランはどう見ても悪戯に使われた被害者待遇。

神速の拳骨が数発。

それでレーヴァテインの頭には、見るからに痛そうな瘤が出来た。


「我が君は悪くありません。ですから、どうぞお気になさらぬように」

「でもさ。孤児院ではエスト姉から、大人の女性の胸を触ったりするのは良くない事だって。だから・・・・」

「そのエストという方の教えも正しいです。ですが、此度の件は我が君が悪戯目的で触れたのではありません。悪戯を実行したレーヴァテイン(馬鹿)の罪です」

「そうかもしれないけど。その・・・・触られて嫌な気分にさせてしまったんだし」

「我が君。私は我が君から求められるのであれば、いつでもそれをお受けいたします。寧ろ、それは私としても喜びなのです。ですから、どうぞ此度の事故はお気になさらないでください」


ミーミルが何を含ませたのか。

未だ幼いアスランは知る由もなかった。

だが、ティルフィングとレーヴァテイン。

この二人は鋭敏に反応した。

故に二人から発せられた針のような殺気を突き刺されながら。

しかし、ミーミルは恭しい(図々しい)態度(思惑)で言質を掴み取った。


「我が君がそうご自身を責められる。私はそれがとても胸を痛める事なのです。ですから、後で私のお願いを一つ叶えて頂きたく。それでこの件は終わりと致しましょう」

「お願いって?そうだね・・・ティアリスはもう1番にするって約束しているし。そこは無理だけど」

「私は”臣下の序列”に等、興味はございません。我が君から末永くご寵愛を頂ければ。え~っとですね♪寵愛というのは軽んじたりせずに”深く愛して頂く”。そういう意味です」

「・・・・それって。結婚したいってこと?」

「将来の我が君がそうしたいとお望みであれば。その時は喜んで。ですが、”臣下を愛する”事の出来る王として。私は我が君にそのような”慈しみのある王”になって頂きたいと願っています」

「僕はティアリスに対して最初から大事にするって決めている。だから、ミーミルもレーヴァテインも。僕を王様って言ってくれる3人とも、僕は一生大事にするよ。誓って違えないから」


「(・・・レーヴァテイン。ミーミルはマイロードを謀った・・・)」

「(・・・そだね♪だけどさぁ。自分の我欲を通しつつ。それでいて私達まで上手く引き込んでいるからさぁ。怒りたいけど怒れない・・・んにゃ”~!!・・・)」

「(・・・ック。流石、賢神という所でしょうか。しかし、故に奴は不用意にマイロードの傍には置けませんね・・・)」

「(・・・だね。ねぇ・・・ここは一つ、ミーミルを監視する。これで組まない・・・)」

「(・・・仕方ありません。ですが、私は貴女も監視します・・・)」

「(・・・はいはい。だけど今は取り敢えずミーミルの監視で手を組む。OK?・・・)」


アスランには全く聞こえない所で。

それこそ神と呼ばれる者同士でしか使えない意思疎通。

勿論、ミーミルには聞こえていたが、付け入る隙を与えない。

それでいて、自分の目論見を未だ幼い主に約束させた。

名よりも実を選ぶ。

賢神とは実に計算高い一面を持っていた。


ティアリスは無言で、一度だけ頷いた。

アスランは背後のティアリスの仕草には気付かず、今は機嫌を良くしてくれたミーミルへ。

さっきからずっと気になっていた事を尋ねていた。


「ねぇ。もう一つ、僕の枯渇しかけていたマナ。それって・・・ミーミルが回復させている?のかな」

「その通りです。我が君が神界へ来られてから。そこで盟約を結んだ後からずっと私はそうして回復に努めて来ました。神装ミーミルが持つ力の一端です」

「そっか・・・ティアリスから言われて。それで気付いたのもあるけど。僕はさっきまで自分では立てないくらい疲れていたんだ。あと、臭いが分からない状態でもあったんだけどね」

「我が君に装着した後から、それも分かっていました。恐らくはユミナ様も。故に我が君を招いた・・・・・消耗したマナだけでなく、精神の状態すら回復する時間を作ったのです」

「そうなの?」

「私の力により、我が君の消耗したマナを普段より格段に速く回復させる事が出来ます。ですが、我が君はマナを多く持つ事が出来るようです。並みの魔導士を千人、それですら足元に遠く及ばない量を一人で持っておられます」

「う~ん・・・・・僕としては”普通”に修行して来ただけなんだけど」

「何故、それ程のマナを持つに至ったのか。目の前の問題を片付けた後で構いません。私にもお聞かせ頂けませんか」

「うん。それは全然構わないよ」


機嫌を良くしている時のミーミルの印象。

普通に綺麗で優しいお姉さん。

だから、やっぱりレーヴァテインと並べると『真面目で優しい綺麗なお姉さんと、多少傍迷惑な明るい綺麗なお姉さん』という比べ方も出来る。

それくらいミーミルが姉で、レーヴァテインは妹っぽいとアスランに抱かせた。


アスランの思考はそこで、ごく自然に鼻で笑わせた。

確かに可笑しかった。

けれど、今の状況と照らして。

また直ぐに元の表情へ戻った。

何故なら、現実に巨大な敵はそこに映っている。

ついで、その下僕獣はまた数を増やし始めた。


「マイロード。バハムートレオですが、数にして約二百くらいでしょう。先にアーツを使ってもう一度減らした所から斬り込む。これが上策かと」

「ティアリスがそう言うなら。じゃあ・・・」


ティアリスの進言は、アスランもそれが良いと素直に抱いた。

しかし、此処でミーミルから「我が君。雑魚は無視して本体を仕留めましょう」と、異なる意見が示された。


「我が君に申し上げます。母体であるヴァルバースを失えば、今も増殖するバハムートレオも滅びます。何故なら下僕獣とは主の生命力を繋いだ分身。故に主を失えば消滅します」

「そうなの!?・・・知らなかった」

「下僕獣を作り出せる魔獣は他にもいますが、中でも神格を頂く獣。つまり、神獣です。神獣の生命力は強大ですので、無限と呼べるくらい下僕獣を作り出せるのです。ですが、その命は本体のもの。下僕獣だけをいくら倒そうと、本体が生き続ける限り此方が消耗するだけです」

「それって、バハムートレオをいくら倒しても。ヴァルバースにはダメージを与えられない・・・って事でも合ってる?」

「本体が分け与えた命ですので、全くの無傷とは思いませんが。神獣であれば限りなく無傷に近いとも考えられます」


さっきまで倒しても倒しても。

直ぐに数を増やして押し寄せる。

無限に生まれてくるバハムートレオには、迎撃が追い付かなくて防壁にもよじ登られた。

だが、ミーミルの言ったことが事実なら。

今もまた増えているバハムートレオは、母体であるヴァルバースを倒せば消滅するという事になる。


「ティアリス。最短距離で、そして一気に決着を付けよう。早く終わらせてしまう事が、避難した人達の不安や恐怖を解消できる・・・・・と思うんだけど。どうかな」


ミーミルの意見も聞いて自分なりに考えた結論。

ただ、1番だと約束したティアリスには尋ねてみた。


「マイロードの御意のままに」


表情も口調も優しかった。

ミーミルの意見を選んだ事で、アスランは少し機嫌が悪くなるくらいは抱いていたが、ティアリスは何処か嬉しそうな感じさえある。

それでも、方針が決まった以上。

後は成し遂げるのみ。


アスランは瞼を閉じて、深く息を吸い込んだ。

それを今度はゆっくりと静かに吐き出しながら瞼を開く。

少し落ち着いた。

直ぐに右手を伸ばし、「ティルフィング」の名を呼ぶように告げたアスランへ。

主の1番の臣下は嬉しそうな微笑みの後。

一瞬の光を放って柄を握らせた。


-----


「ヴァルバースを討つ。だから僕に力を貸して」


ティルフィングを右手に、空へ高く掲げたアスランの声には力があった。


「我が君の御心のままに」

「王様っ♪あ・た・し・も♡どど~ンっと行っちゃうから!」


ティルフィングとミーミルの口調はやっぱり神様な感じがした。

なのに何故。

名前は間違いなく格好良いのに。

レーヴァテインなんて響きだけで格好良すぎる。

はぁ~・・・・・・

胸の内で思いっきり溜息を吐き出した。

どうしてもエレン(バカ精霊)と被さる。


ティルフィングを高く掲げた姿勢で、そんな胸中は、しかし、顔には出さず。

だって、今の僕は王様だから。


否。

顔に出る前にアスランの身体は防壁の上から戦場側へ。

既に空へ高々と跳躍していた。

と言うか。

これもいきなりアスランを脇に抱えたレーヴァテインが口調もノリノリで『んじゃ。行っくよぉ♪ババ~ン!♪』と叫びながら。

騎士王の旗を掲げる幻影の方のミーミルを置き去りにして。

レーヴァテインはアスランを抱えたまま着地した途端。

『オッシャァ!!突貫。だぁぁぁあああ!!』と、猛ダッシュ!!

しかも、その脚はもの凄く速かった。


土煙を上げて爆走?

レーヴァテインは頗る楽しそうな声で『王様ぁ~♪あたしも結構イケるでしょ~♪』と今も駆ける脚を止めようとしない。

勢いそのままヴァルバースに接近しつつ。

しかし、手前に群がるバハムートレオに迫った所で。


『王様っ♪向こうに着いたら。あたしも呼んでねぇぇえええ!!!だぁりゃぁぁああ!!!』


此処まで一方的に抱えられて来たアスランにはエッ?と思う間も無かった。

アストライアごと身体を強く掴まれたまま。

叫ぶレーヴァテインによって力任せに。

ただ一直線にヴァルバース目掛けて。

再び空へ投げつけられていた。


眼下には群がるバハムートレオを映して。

しかし、アスランの身体は弦を引き絞った弓から放たれた矢のように飛翔中。

ただ、直ぐ右手に握るティルフィングから「マイロード。早くレーヴァテインを呼び出して下さい」と、頭の中へ叱る声が響いた。


「(・・・マイロードをこのように扱った件については、後で私が躾けます。ですが、戦術的には理に適っています・・・)」

「そうなの?いきなり抱えられて、それから投げられただけ・・・なんだけど」

「(・・・奴は口調からバカに見られますが。事、戦いに際してはバカではありません・・・)」

「それって、こんな事をしたのも作戦ってこと?」

「(・・・その通りです。最短距離を最速で抜ける。つまり、マイロードがヴァルバースを討ち取るまで。その間の戦闘を全て省く事が出来れば。マイロードは消耗すること無く奴と対決できます・・・)」

「なるほどね。本体が生き続ける限り無限に出て来る下僕獣だから。しかも増殖も早い。それはヴァルバースとの距離を詰めるほど過酷になる・・・・」

「(・・・はい。正にその通りです。今のマイロードの剣技であれば、バハムートレオの群れ程度はどうにでもなりましょう。ですが、ヴァルバースに近付けば近付くほど密度は増します・・・)」

「だから、レーヴァテインは僕をヴァルバースに向かって投げた。距離と戦闘の全てを・・・・意図は理解ったよ。でも、乱暴だね」

「(・・・あの無礼者は・・・私が必ず躾けます・・・)」


頭の中に届くティアリスの声は、怒っているのが良く分かる。

なんとなく、アスランはレーヴァテインが自分をこんな風に扱った事にティアリスが怒っている。

確かにレーヴァテインのやり方は乱暴だと抱いた。

ただ、それでティアリスがレーヴァテインに怒ってくれる事には、妙に嬉しい感情が湧く。


「(・・・マイロード。間もなくヴァルバースの上に着きます・・・)」

「そうだった。レーヴァテイン」


レーヴァテインを呼びながら左の掌を広げたアスランに。

その掌は瞬く間に、しっくりと馴染む感触を掴んでいた。


-----


表面はティルフィングとよく似て透き通ったガラスのような光沢がある。

ただ、その内側で綺麗な紅い光の粒子をびっしり詰め込んだように映った神秘的な金属は、紅く煌く宝石にも見えた。

刀身の長さはティルフィングより少し短い。

ただ、剣の厚みと幅は倍くらいの差がある。


見た目はティルフィングよりもずっと重そうに映った剣は、それでも、主の左手にしっくりと馴染む感触と重さしか与えない。

しかし、頭の中に響く騒々しさはエレンと何ら変わらなかった。


「(・・・ジャジャ~ン!!紅焔の聖剣にして、我が神名はレーヴァテイン。勅命により、ただいま参上!♪・・・)」


頭の中に響くレーヴァテインの騒がしい声。

はっきり言って頭痛とか耳鳴りがする。


「レーヴァテイン。もっと静かに喋って。頭が痛くなる」

「(・・・マイロード。大丈夫ですか。己、レーヴァテイン。貴様はマイロードを敗れさせたいのですか!・・・)」

「(・・・我が君。申し訳ありません。レーヴァテインは私が躾けます・・・)」


もう直ぐヴァルバースの真上に着く。

にも拘らず、この煩さが集中させてくれない。


「そうだ。レーヴァテイン。今はヴァルバースを倒さないといけないから。だけど、終わったら色んな話をしよう。ミーミルもだけど。僕はまだ二人の事を良く知らないでいるんだ」

「(・・・おぉ~♪王様は話せる良い人だねぇ♡ねぇねぇ。あたし食べるの大好きだからさぁ。今の気分的にはお肉だね!♪・・・)」

「分かった。ヴァルバースを倒せたら・・・・確約は出来ないけど。でも、シルビア様に美味しいお肉の入った食事を頼んでみるよ」

「(・・・本当っ!♪やったぁ~。じゃあ、あたしいっぱい頑張るねぇ♪・・・)」


孤児院の財務状況では簡単に贅沢な食材(お肉)は買えない。

まして、孤児の自分には肉を買うお金さえない。

それでも、エスト姉に頼んで野菜スープとかなら・・・・・・


しかし、ふと過った『神様って人間の食べ物を食べられるの?』という思考。

だが、過った所で意識は即座に切り替わった。

アスランの視界には自分が針の筵にした巨大な化け物(ヴァルバース)が、既に此方を捉えている。

そこへ考える間もなく「(・・・マイロード。此処は先に仕掛けるべきです・・・)」と、ティアリスからの声が届く。

直後、アスランはイメージを固めた。


「ライトニング!!」


叫ぶアスランの声よりも前から事象干渉は目に見える形で現れた。

飛翔しているアスランの直ぐ下から、何もない空中に突如出現した緑銀の光を放つ魔法陣。

その魔法陣が回転し始めると、周りで光を放つ無数の粒子が中心の一点を膨らませるように収束した直後。

アスランの叫ぶ声が引き金となって一直線に放たれた。


-----


先頭を行くシルビアが乗った馬の直ぐ後ろに続くカーラは、防壁の門を越えた所で視線を一度、今も上で旗を掲げる人物へと向けた。

一見すると若い女性に映る。

年の頃は恐らく二十代。

綺麗な金色の髪を風になびかせながら。

そして、女性が片手に掲げる大きな旗を映して、カーラの瞳は間違いなくカミツレを紋章にしている事までを把握した。


カーラと同じように旗を掲げる女性へ視線を向ける者も何人かいたが、視線は直ぐに先頭を行く女王へ戻される。

一方で、アスランを追いかけて此処まで馬を走らせたシルビアの瞳は、今も背中を捉えられないアスランを探して視線が動いていた。


此方は馬で追いかけている筈なのに。

見渡す限りアスランは映らない。


ただ、魔獣の焼け焦げた死体は無数に映っている。

この辺りはもう既に住居が居並ぶ場所だった筈。

今はもう見る影もなく焼け野原と化した。

否。

焼け焦げた大地は昨日までの光景が幻だったかのようにさえ映していた。


焦げの混ざった異臭は城壁に立っていた時よりも濃く鼻を触る。

はっきり言って、これだけで呼吸も苦しくなる。

だが、シルビアの瞳はアスランを探しながら。

そこで、生き残ってしかもまた数を増やしている魔獣の群れを映すと、表情が瞬く間に険しくなった。

険しくなったシルビアの瞳は遠目に映った魔獣の群れの先で、既にこの位置からだと山にさえ感じさせる巨大な魔獣も捉えていた。


だが、受けた報せでヴァルバースとも聞いているその巨大な魔獣を視線の先に捉えたシルビアの瞳が見開いた。

馬を走らせるシルビアの瞳が、上空に描き出された緑銀色の光を放つ紋章のようなものを捉えた直後。

放たれた青白くも映った光の槍が一直線にヴァルバースへ突き刺さった。

余りの眩しさに瞳に影が焼き付くほど。

その光の槍を追うように大気を震撼させる轟音が鳴り響いた。


間違いなく雷撃魔導(ライトニング)だと分かる強烈な一撃を捉えたシルビアの視界には、巨大な魔獣が咆哮を上げながら焼かれる様を映しながら。

その一撃に続くような勢いで空から斬りかかったアスランを初めて映した。


アスラン!!


反射的に叫んだその先で。

次の瞬間。

アスランの小さな身体は弾かれると、そのままかなりの高さから墜落。

未だ数百メートルはある距離で、此処からでは到底間に合わない。

それでも、シルビアは馬を全力で走らせた。


視界の先で真っ逆さまに墜落するアスランと、それを待ち構えているかのように群がる魔獣の群れ。

カーラやマリューといった後ろからの声には一度も振り返ることなく。

ただ、アスランを助けるためだけにシルビアは魔獣の群れ外側へと迫った。


-----


・・・・・っ痛~・・・・・

「マイロード。大丈夫ですか」

「ティアリスのおかげで僕は大丈夫だよ。だけど、ごめん。あんなに硬いとは思ってなかったからさ。まだ、右手が痛いけどね」


一気に決着をつけようとした。

ライトニングを先に当てて、そのダメージがある間に急所へ一撃。


アスランが考えた内容は、ティアリスもそれが上策だと賛成してくれた。

勿論、レーヴァテインとミーミルも同じ。

しかし、ティルフィングを突き刺せる間合いに入った後で、即座に繰り出した突きが刺さることは無かった。

切っ先が触れるか否かという所でキラキラした障壁に阻まれた後。

勢いよく弾かれたアスランは姿勢を崩して墜落。


それがどうにか無事の着地になった理由。

落下中、ティルフィングがティアリスに姿を変えると、アスランの身体を抱きながら着地してくれたから。

1番の存在のおかげで、アスランは地面に叩き付けられずに済んだのだが・・・・・

現状、バハムートレオの群が密集した場所に今は立っている。


ただ、バハムートレオの群に囲まれた状況にはあるものの。

ティアリスがアスランを抱えて着地する間に、もう一振りの剣。

レーヴァテインも人の姿へ変わると、即座にバハムートレオを掃討し始めた事で急場は凌いだ。


「ぅりゃぁぁあああ!!王様っ♪私だって活躍するからねぇ!!」


バハムートレオを全く寄せ付けない強さを魅せつけるレーヴァテインは、確かにアスランも素直に格好良いと抱いた。

けれど、やはり言葉遣いがエレンと被る。

それさえなければ完璧だとアスランは此処でも抱きながら。


「さっきのあれ。ティルフィングを突き刺そうとしたら突然現れたキラキラした壁みたいなの。あれは一体・・・・」

「(・・・我が君。あれは対物理障壁です・・・)」

「ミーミル。それって、どういうこと」

「(・・・その名の通りでございます。ですが、此処で言う所の物理の解釈は非常に限定的で、簡単に言えば『あらゆる武器からの干渉を拒絶出来る』という事です・・・)」

「それだと、剣や槍のような武器からの直接的な攻撃は効かない・・・・ってこと」

「(・・・左様です。石ころでも棒切れでも。この原則は適用されます。そして、この原則は聖剣でも勿論、適用されます・・・)」

「だから、ティルフィングを突き刺せなかったんだね」

「(・・・ヴァルバースを倒すには急所への一撃が必要です・・・・が、そこを守る盾。私の知るヴァルバースにはそのようなものは無かったのですが・・・)」

「賢者の神様でも知らない事があった・・・」

「(・・・申し訳ありません。私が知るヴァルバースについて、その戦い方は殆ど間違いなく下僕獣を無限に生み出す数を用いた戦術。要は圧倒的な数で蹂躙する戦い方です・・・)」

「それは実際に体験したよ。他には何かあるの」

「(・・・移動は主に空から。ただ、足腰も強靭ですので駆ければ間違いなく脅威です・・・)」

「じゃあ、最初に手足と翼を奪ったのは正しかったんだね」

「(・・・その通りです。我が君がヴァルバースの手と足。それから翼を奪った事で下僕獣の大群しか手立てがない。これも間違いない事実です・・・)」


急所を狙って仕掛けようにも武器による直接の攻撃は弾かれる。

けれど、倒すにはティルフィングを突き刺す必要がある。


「ちょっと、試してみるか。ティアリス。少しの間、僕を守ってて。上手く行けばティルフィングを突き刺す方法が見つかると思うんだ」

「お任せ下さい。全力でマイロードをお守り致します」


レーヴァテインがいくら無双のように蹴散らした所で、此方を囲む群れの密度は緩む気配が無い。

それでも、アスランはティアリスに自分の守りを頼むと直ぐ行動へ移った。


・・・・ファイア・アロー・・・・

・・・・アイスダガー・・・・

・・・・アースランス・・・・


もう使い慣れたアーツを3つ。

ファイア・アローとアイスダガーは空中から直接、ヴァルバースの急所を狙って。

そして、アースランスは真下から喉を狙った同時発動。

右手の指をパチンっと鳴らした瞬間。

何れもヴァルバース目掛けて襲い掛かった。


「・・・・アースランスとアイスダガーは弾かれるんだ。アーツで作った鋼の槍と氷の刃は武器と同じ扱いなんだね。ファイア・アローは当たったけど・・・・」


使った3つのアーツの内、土から作り上げた鋼の槍と氷の刃の2つは障壁に当たって弾かれた。

一方で矢の形をした炎は障壁を無視して直撃。

しかし、ライトニングと比べて傷を負わせられていないようにも映る。


ただ、直ぐにアスランはアースランスをもう一度発動させた。

指を鳴らした音を引き金に、地面から勢いよく突き出た鋼の槍がさっきと同じ個所を狙って一直線に伸びる最中で。

再びアスランの指がパチンっと鳴った。


グァォォオオオ!!


叫ぶヴァルバースの咆哮が戦場一帯へ轟いた。

だが、咆哮というよりかは悲鳴とも呼べそうな叫びは、遠目から見る側には原因がよく分からなかった。

今も次々と群がるバハムートレオから主を守るように戦っていたティアリスとレーヴァテインですら直ぐには気付かなかった先で、この場では最も近くで主が何を目論んだのかを見届けたミーミルだけが驚きの声を上げた。


「(・・・我が君、今のは!?我が君は一体何を・・・)」


障壁を無視して本体に突き刺さった鋼の槍を映して、ただし、ミーミルには障壁に触れる手前で槍先を炎が包み込んだ。

その結果、最初は障壁に弾かれた槍が素通りしたかのように首へ突き刺さっていた。


「もしかしたらって・・・・。だけど上手くいった。ティアリス!次は確実に突き刺すよ。レーヴァテイン。もう一度僕を上に投げて。狙いはヴァルバースの眉間だ」


主からヴァルバースの急所目掛けて投げろという指示に、レーヴァテインは陽気な声で「任せて♪んじゃぁ、いくよぉぉおお!!」と、即座にアスランを掴んで力任せに投げ付けた。


・・・・来て。ティルフィング・・・・


胸の内で1番の存在を呼ぶアスランの右の掌へ、次の瞬間には馴染んだ感触が伝わる。

ギュッと握った所で「(・・・マイロード。何か策があるのですね・・・)」その声にアスランは「勿論だよ」と、自信を覗かせた。


「ティルフィングの表面をアーツで覆う。そうする事で障壁を突破できる。さっきはそれを試したかったんだ」

「(・・・なるほど、先程のアーツはそのための試しだったのですね。見事です・・・)」


グァォォオオオ!!


地上からほぼ一直線にヴァルバースの急所へ投げられたアスランだったが、その前に突き刺さった槍を首を強引に動かして引き抜いたヴァルバースの口が開いた次の瞬間。


「マイロード。大丈夫ですか!」


左肩に走った痛みに、反射的に添えた右手は赤黒く染まっていた。

アスランにもそれが自分の血だというくらいは分かる。

ヴァルバースに噛み付かれそうになって、それもティアリスが咄嗟に庇ってくれたおかげでこの程度で済んだ。


「大丈夫。右腕は問題ないから。それに、レーヴァテインのおかげで僕ら二人とも今は此処に立っている。ありがとうね。レーヴァテイン」

「王様を守るのは当然だよ♪だ・け・ど。王様っ♪あたしへのご褒美は美味しい食事かぁ~後はねぇ・・・ベッドで気持ちイイコトとか♡」


ッガン☆☆!!


ヴァルバースの鼻先の上だというのに。

レーヴァテインが姿を現したミーミルの豪華にしか見えない杖で殴られた光景。

そのミーミルはレーヴァテインを思いっきり殴った後で直ぐ、今はアスランの負傷した左肩をアーツで治療している。

傷を包み込む青い光の粒子は、それだけでアスランにも治癒アーツ(ヒール)くらいは分かる。

アスランもエレンから治癒アーツは習って、ある程度は使える。

ただ、此処では先にミーミルが手当てをしてくれた。


「我が君。一先ずこれで痛みはもう無いかと思いますが」


言われるまでもなくアスランは左肩を軽く動かしながら「うん。もう大丈夫だよ」と、視線はティアリスを映して直ぐ指を鳴らした。


「マイロード・・・・その、ありがとうございます」

「僕を守ってティアリスが怪我をしたんだ。だけど、ごめん。まだエレンのようには上手く出来なくてさ」

「いいえ。これで十分です」


ティアリスを包み込んだ金色の粒子は、それこそ日頃のアスランがお世話になっている治癒のアーツと同じもの。

エレンが『痛いの痛いの飛んで行けぇ~♪』等と、笑いながら簡単に使っている治癒のアーツは瀕死からでも全快するという優れものなのだが。

習ったアスランは未だ完全には使い熟せていない。

そのため、ティアリスの負傷を完全には治せなかった事を謝るアスランへ。

しかし、ティアリスの方は頗る嬉しそうな笑みを見せていた。


「さっき、ミーミルと話をしていた時だけど。それから今もだね。本当に神様って凄いよね。何時でも何処でも”異世界”を作る事が出来る・・・・じゃなかったら、こんな状況でのんびり手当なんか出来ないよね」

「我が君は気付いていたのですね」

「当然だよ。さっきはレーヴァテインの動きが止まっていた。今は僕らが鼻先に立っているのに、ヴァルバースの反応が全くない・・・・それで気付いたって所さ」


場馴れしたというには早過ぎる。

それでも、今も目の前の主からは落ち着いた気配しか感じられない。

焦りや恐怖。

不安のような気配すら微塵も感じられない。


言葉を交わしたミーミルは、アスランの口調や表情。

雰囲気からも動じていない感を抱くと、やはり普通ではない。

普通の人間の子供が、それも未だ5歳を迎えていない幼子がどうして・・・・・

そんな胸中を抱くミーミルを他所に、アスランの視線はまたヴァルバースへ向けられていた。


「爪は警戒していたんだけどな。だけど、牙の方は無警戒だった。だからティアリスが怪我をしたのは僕の判断ミスだ。本当にゴメン」

「マイロード。貴方を守って受けた傷は決して不名誉なものではありません。寧ろ、私はマイロードを守れた。それも臣下の務めです」

「じゃあ、僕は相応しい王様として。そのためにもティアリスをこんな風には怪我させられないよ。もっともっと・・・・僕は強くなる」


レーヴァテインにはヴァルバースの急所に向かって投げろと言った。

だけど、もっと別の安全な方法は無かったのか?

今までの稽古の中でも、ティアリスから『急いては事を仕損じます』って何度も言われて来た。

戦いには必ず流れがある。

時には流れに逆らう事で、それで良い結果を得る事もあるらしい。

だけど、流れに悪戯に逆らうと返って追い詰められる。

だから流れの中で潮目を見極める事が肝要って。


「マイロード。戦で手傷を負ったくらいは当然あり得る事です。それを一々後悔しては勝てる戦も勝機それ自体を失います。王とは時として味方の屍を踏み越えて、その先にある勝利を手にしなければなりません」

「ティアリス・・・・だけど」

「マイロード。貴方はとても優しい御方です。ですが、その優しさが時として判断を誤る事もあります。まだ幼いマイロードには酷だと理解っていますが、此処は私の負傷を後悔する場ではありません。敵は目の前にいます」


語気を強めたティアリスは、アスランから見ても睨んでいるような視線を真っ直ぐ向けている。

ただ、見透かされた感もあった。


「ティアリス。僕は此処でヴァルバースを仕留める。もう一度確認するけど、狙いは眉間。そこにティルフィングを突き刺すだけで良いんだよね」

「その通りです。奴の眉間に私を突き刺せば、後は私本来の力で奴を内側より焼き尽くします」

「それは神様だけの力みたいなものってこと?」

「はい。レーヴァテインも同じ聖剣ですが、彼女は焔を司る神格です。私は光を宿す聖剣故、相手が闇に属する魔獣であれば威力を発揮します」

「なるほどね・・・・アーツに属性があるように、神様にもそういうのがあるんだ」

「その解釈でも間違いではありません。もっと簡単に言えば相性のようなものかと。今回は私の方が相性が良い・・・それだけです」

「うん。ティアリスが言いたい事は理解ったよ。ねぇ、一つ聞いても良い。今の感じだと、他にも剣神はいるし、それからその剣神にも何かしらの属性が備わっている。そういう感じなのかな」

「マイロード。質問が二つになっています。ですが私やレーヴァテイン以外の剣神の存在について。これはかなり居ます。ただ、属性のようなものを司る神格はそう多くありません。反対に何かしらの属性に連なる神格はそれなりに居ます」

「上下関係があるってこと?」

「まぁ、神格にも序列はありますから。その解釈もあながち間違いではありません」

「そっか・・・神様も色々あるんだね。でも、大勢いるなら・・・・いつか会ってみたいかな」


神様にも属性がある。

そして、人間の社会に出自とか身分といった序列があるように。

神様にも同じようなものがある。

異なる世界にいる筈なのに、何処かしら似ている部分がある。


「人も神様も・・・・後はたぶんだけど、精霊も。異なる所はあるけど似ている所もある。ああ、そうか・・・・だから常世なんだ」


常世総ての安寧。

何となくまた一つ理解出来た感のアスランだったが、浸る時間は無かった。

直ぐにティアリスから「マイロード。決着をつけましょう」と声が掛かった所で、続くようにレーヴァテインからも「王様っ♪サクッと片付けたらご飯だよぉ♪」と笑みが向けられる。


「我が君。手当とマナの回復は十分済ませてあります。後は確実に仕留めるだけです」


左腕には今も腕輪(ミーミル)が付いている。

という事で、目の前にいるミーミルは実態のある幻の方。


「じゃあ、行こうか。ティアリス・・・・ティルフィングの表面にアーツを掛けるけど。大丈夫かな」

「マイロードの魔法剣技を私で使って頂ける。ずっと楽しみにしていました」

「遠慮なしでいくからね」

「もとより遠慮など無用です」


再び両手に剣を握ったアスランがヴァルバースの鼻背の上を駆け出すのに合わせて。

それまで止まっていたように感じた時間も動き出した。

狙う眉間までの距離は僅か。

そして、最初は弾かれたキラキラした障壁が現れた瞬間。

右腕が繰り出すティルフィングの一突きは、その表面が纏った雷によって抵抗を受けること無く障壁をすり抜けた。


穿て!ライトニング!!


刀身を包み込んだ事象干渉よりも僅かに遅れて。

アスランの叫ぶ声は、殆ど同時にティルフィングも眉間に根元まで突き刺した。

直後、ティルフィングを包み込んでいた雷の奔流は解き放たれると、ヴァルバースの口が最期の咆哮を束の間に轟かせた。


短い絶叫の終わり。

その時には、もうヴァルバースの後頭部を内側から突き破った雷の奔流が一直線に空を駆け抜けていた。

遠目からは、あたかも光の槍が巨大な魔獣の頭を貫いた様にさえ映った後。

近くでは聳え立つ山のようにすら映った巨大な魔獣は、全身を包み込んだ金色の焔によって焼かれていく。

同時に群れとなっていたバハムートレオも風船から空気が抜けるように萎むと、そのまま塵と化して消えた。


此処までずっと自らも剣を振るっていたシルビアの視線の先で。

巨大な魔獣は眩しい光にも映る炎に包まれたまま。

程なくアスランも巻き込むようにして完全に消え去った。


次回投稿などについては、活動報告の方に予定を書き込んでいますので。

1話から読んで下さった方。今話から読んで気にかけて下さった方。

活動報告の方にも是非お越しいただければと思います。

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