第45話 ◆・・・ 継承 ・・・◆
「ふぅん・・・やっと来たわね。待ちくたびれたわよ。王様っ♪」
「こら。レーヴァテイン!我らが王となられる御方へその口調。無礼千万です」
「え~♪そういうミーミルだってさぁ♪王様が来るのをずっと待っていたじゃない♡」
以前と同じ聖殿へ立っているアスランの目の前で、そこに映った二人の美女・・・・・
恐らくは神様だと思う存在は、しかし、ティルフィングの時とは異なって最初から人の姿で現れていただけでなく、何か楽しそうにじゃれ合っていた。
アスランから見て、腰に掛かるほど長い綺麗な紅い髪と同じ色の瞳をしている若い女性は、ティアリスとは少し異なる感じの甲冑姿で、肌の露出が多い。
ただ、アスランはレーヴァテインという響きの良い名前には、内心で格好良い印象だけを受けていた。
それだけに、レーヴァテインが格好良いと抱いたアスランにとって残念な事は、このレーヴァテインの口調の感じがエレンと重なるところ。
そこさえなければ間違いなく、一から十まで『格好良い』で纏められた。
そのレーヴァテインを半ば本気で叱っているようで、しかし、屁理屈の多さに振り回されている感もあるもう一人の神様。
此方も見た目は若い女性で、ティアリスと同じ金色の髪は肩に掛かるくらい。
その綺麗な髪を自然に下しているだけで、何というか良く似合っているとアスランは素直にそう思った。
声の感じは真面目なお姉さんのようでもあるし、後は身に付けているローブのような衣装が落ち着いた感の印象もある。
レーヴァテインからはミーミルと呼ばれているお姉さんのように見える神様は、確かに口調と言葉遣いからも真面目でしっかり者の印象があった。
逆にレーヴァテインがエレンと重なる事で、アスランはミーミルが余計にそう見えている。
そのミーミルは、よく見ると瞳の色が左右で異なっていた。
右の瞳は澄んだ青色で、左の瞳は鮮やかな紅色。
そして、二人とも肌はティアリスと同じ感じで色白だった事が、アスランの思考に『神様って皆、色白なの?』と、初めて抱かせた。
もっとも、初対面なのにアスランは自分から挨拶をするタイミングすら与えられないまま、二人の熱の入ったじゃれ合いをしばらく見続ける事になった。
そして、此処での二人の会話を聞きながら。
アスランはレーヴァテインについてはやっぱりエレンと似ている感を抱くと、ミーミルの方は優しい知的なお姉さんのようにも見えていた。
要するに、賢いお姉さんと手を焼かせるくらい明るい妹の仲睦まじい?光景だった。
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「我が君の御前で、誠に申し訳ございませんでした」
謝罪の言葉を紡ぎながら、今こうして片膝をついた姿勢で恭しく頭を下げているのはミーミル。
その隣では、立った姿勢でこちらを見つめながら愛想を振りまいている?
「やっほぉっ♪王様♡う~ん・・・こうしてじっくり見ると、中々将来が楽しみな美男子君だね♪大きくなったらさ。お姉さんが色々気持ちイイ事を教えてあげるよ♪」
ついさっき此方から声を掛けるまでの間。
その間ずっと、二人はアスランの存在を空気にしてじゃれ合った。
それこそ、空気にされていたアスランから先に「あの・・・二人は此処の神様でしょうか?」と、尋ねられるまで。
そこでハッとした二人は、ようやく思い出したように此方を見てくれた後からこうなっていた。
「レーヴァテイン!なんてはしたない言葉を使うのですか!?我が君を・・・その・・・」
「ふ~~ん。ミーミルは一体・ナ・ニ・を。想像したのかしら♡キャぁ~ミーミルのエッチぃ♪」
ガンっ!!☆☆
何処から取り出した!?
と、思わず声にしそうになったアスランの目の前で。
確かに何も無い空間を掴んだミーミルの手が次の瞬間には見た目が凄い杖を引っ張り出すと、そのまま力いっぱいレーヴァテインを叩きのめしていた。
けれど、凄く恥ずかしかった?
頬を真っ赤に染め上げ、瞳はレーヴァテインをキッと睨みつけるミーミルとは別に。
普通の人間なら頭が砕けているとも抱いたアスランの視線の先では、叩かれて涙目になりながら。
しかし、全く悪びれた様子の無いレーヴァテインも頗る不満顔でミーミルを睨んでいた。
「ちょっと。いきなり叩くなんて酷いじゃない!」
「まだ幼い我が君を破廉恥に染めようとした貴女が悪いのです!!」
「破廉恥ってね。私、そんな言葉を使った覚えはないのですけど♪」
「だ・・・だから!・・・その・・・・」
「はぁ~ったく。ミーミルは妄想ムッツリさんよね♡そんなだとぉ~・・・・大きくなった王様にベッドへ誘って貰えないわよ♪」
!!ガンっ☆☆
なんかこう、真面目なミーミルを揶揄って痛い反撃に遭う。
この二人はそういう関係なのだろうか?
神様について、知っている相手がティルフィングだけのアスランには、このやり取りで一概に皆がティルフィングのような厳しさと優しさを備えた格好良い神様ということではない・・・・・
今も再び目の前でじゃれ合うミーミルとレーヴァテインを映して、アスランは特にそう思うのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・
「えっと、二人の話を纏めると、ミーミルは賢者のような神様で、レーヴァテインはティルフィングと同じ剣神なんだね。ただ、剣神でもレーヴァテインにはティルフィングのような序列が付いていない。反対に賢者の神様は一人だけ・・・って解釈で合ってる?」
「はい。我が君の言う通りです」
「まぁね。だいたい序列が付くのは堅苦しい奴だけだよ♪」
ついさっき終わった?終わらせた?
それまでずっと、こっちを完全な空気にしてくれた二人のじゃれ合い。
ただ、途中からはアスランもその場に腰を下ろすと、後は楽な姿勢で眺めていた。
いつ終わるんだろうと眺めていた所で、先に此方の視線に気付いたミーミルが力任せに終わらせた・・・・という事になるのかな?
慌ててるのが良く分かる。
そんな感じにしか見えないミーミルが此処でまた杖を振り上げて。
レーヴァテインを床に叩き付けるくらいの力で殴った。
そして、当然のようにレーヴァテインもまた怒ったんだけど。
放っておくとまた自分を空気にしてじゃれ合うのだろうし。
仕方ない。
本当、ティアリスが1番だなって。
うん。
僕の1番は言われるまでもなくティアリスだよ。
溜息を吐き出すくらいそう思えた僕の仲裁によって。
殴られてカチンと来たレーヴァテインには、適当なお世辞文句で。
それで機嫌を良くしてくれた辺り、何というか。
やっぱりエレンが被る。
感じはバカだけど中身は凄い。
きっとこれは共通しているだろう。
お世辞文句を並べて機嫌を取ったレーヴァテインと、そして、恐らくはこっちの手口を察してくれたミーミルが極自然を装って会話に溶け込んでくれた。
それでようやく、アスランは二人がどんな神様なのかを聞くことが出来た。
此処からの会話の中で、二人がティアリスと異なって何故最初から姿を見せているのか?
アスランの疑問に二人からの返事は、揃って『最初から仕えるつもりだった』という。
そういう訳で、契約云々の過程をすっ飛ばしてずっと此処で待っていたという事も聞いている。
付け足すなら、この聖殿はティルフィングのもの。
二人にはそれぞれ別に聖殿があるらしい。
ただ、ティルフィングの聖殿だけは少し特殊らしく、ミーミルの説明ではアスランが此処に来る事が出来たのもそのせいだとか。
そういう何かしらの事情が絡んで、だから最初から此処で待っていたという事らしい。
「でも、ティルフィングと同じような感じを考えていたから。そういう意味ではなんか神様って言っても色々居るんだって思ったよ」
「ティルフィングはとても真面目で礼儀正しいので、それと比べてレーヴァテイン等はもっとこう神たる自覚をですね・・・・」
「え”~!あんな堅物の何処が良いのよ。もっと砕けた感じにならないと息苦しいって分からないかなぁ」
「そうかな・・・・僕はティルフィングをとても尊敬しているよ。真面目で厳しくて、でも優しい所だってあるんだ。僕はそんなティルフィングから誇って貰える王様になるって決めている」
「我が君はティルフィングの事を気に入っておられるようですね」
「大好きだよ。だから、先ずは1回勝つ」
アスランがティルフィングに鍛えられている事実。
この部分はミーミルとレーヴァテインも把握していた。
態々こちら側の世界で修行している事もだが、ただ、それによって目の前の幼い王様は恐ろしく力を付けている。
およそ普通の人間の5歳とは次元の違う存在と化している事も既に理解っていた。
「我が君。我が君が此処へ来られた目的は分かっています。神獣ヴァルバースを倒す。そのために剣が欲しい事も既に分かっていました」
「そっか。まぁ、僕のような人間と異なって神様なんだしね。じゃあ、力を貸してくれるの?」
「勿論にございます。我が君は既にティルフィングと盟約を結んでおります故、我らもまた安寧を欲する者として、我が君の臣下の列に加えて頂きたいと待っていました」
「王様♪あたしはこういう感じだから。だから堅物のティルフィングと比べたら軽く見られても仕方ないって分かってる。だけど、あたしもティルフィングに負けないくらい一途だからさ。それだけは信じて♪」
確かにレーヴァテインの印象はエレンと重なる。
それだけで無責任なイメージもあったアスランは、ただ、此処で前屈みになった姿勢で大きな胸の谷間を覗かせる仕草にだけ、ため息が漏れた。
「ティアリスから聞いている。互いに違えないと約束した盟約には強い力が働いているって。だからじゃないけど、僕はティアリスの王様として相応しい存在になるって決めているんだ。具体的には二十歳までに騎士王のような騎士になる。二人は、ティアリスと同じように待っててくれる?」
「勿論にございます」
「当然、待ってるよぉ♪」
「じゃあ、僕は二人とも盟約を交わすよ。そして、今の僕はまだこの世界の全部を知らないでいるけど。それでも守りたい全部の安寧のために頑張る」
「我が君はまだ幼い身です。故にこれからの成長に期待しています」
「ふふ♪王様っ♪真面目に頑張るのも良いけど・・・気持ち良い事も覚えようね♡」
!!ガンっ☆☆
あっ・・・・・
また叩かれた。
だけど、なんでレーヴァテインは学習しないんだろ。
内心でそう抱くアスランの視線の先で、つい今さっき盟約を結んだレーヴァテインが、此方も盟約を結んだミーミルが顔を真っ赤に染めながら力いっぱい叩いていた。
そしてアスランは、今の光景を今後は自分のいる側の世界でも見るのかと想像して、そこでは間違いなくティアリスも説教めいた何かを言うだろうと抱くのだった。
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一面に見渡した景色を前にして、アスランは自然に「ここは・・・・」そう呟いていた。
大草原・・・・とも言えそうなほど緑で敷き詰められた中に、見慣れた花がそこかしこで咲いている。
心地良く吹いた風に乗って鼻を触る甘さを含んだ清涼の香りは、間違いなくカミツレだった。
大草原と何処までも果ての無い澄んだ青い空を映しながら、アスランは暖かい日差しの熱を肌で感じると、それだけで自然な笑みが浮かんでいた。
レーヴァテインとミーミルの二人と盟約を結んだ後で、元の世界へ戻る筈だったアスランは、これも前と同じで眩い光の中に飲み込まれた。
だから、本当は元の世界に戻っている筈だった。
しかし、瞳が映したこの景色は全く違う場所だと先ずは抱かせた。
召喚魔法を行使する前、アスランは自らが築いた長城のような防壁の上に居た。
そこからアーツを使ってバハムートレオの大群を相手に戦っていた。
大群を一度に倒そうとインフェルノを唱えて、戦場は焼け野原の大地と化した。
だから・・・・・
此処は自分が戦っていた元の世界とは異なる。
それくらいは直ぐに分かった。
「此処も神界なのかな・・・・」
アスランが何の確証も無しに呟いた独り言。
その独り言へ、背後から女性の声で「そうですね。神界と言えばそうなるのかも知れません」と、反射的に振り返ったアスランの瞳が映したのは、ティアリスとそっくりな女性だった。
当然、アスランは思わず「ティアリス?」と尋ねてしまうのだが、そっくりな女性は静かに首を横に振ると、今度は優しい笑みを向けてくれた。
「私は貴方の知っているティルフィングではありません。ですが、私達は面立ちが似ている。それは事実です」
ティアリスにそっくりな女性は、鮮やかな赤と白地のドレスにも映る衣装の上から白いコートに身を包んで、ただ、スカートの中は脹脛まで包み込んだ革製の靴を履く脚が見えた。
そして、美術品とか工芸品とも言えるくらい綺麗な装飾が際立つ鞘に納められた剣を、真っ直ぐ芝生の大地に突き立てた姿勢で此方を見ている。
アスランは騎士甲冑を着けていないときのティアリスと、今もこちらを見つめている女性が雰囲気的にも似ている。
そう抱いたアスランの視線を前にして、女性はクスッと微笑んだ。
「まだこうして会ったばかりですが、私も貴方も互いの名すら名乗っていません。ですから貴方が私を観察するのも致し方ないでしょう。ただ、妙齢の女性をそうやって観察する事は、時として失礼な事でもあります。今後は気を付けましょうね♪」
「えっ・・・・あ・・・・その・・・ごめんなさい」
目の前の女性から「気を付けましょうね」と言われた瞬間。
アスランは訳が分からないまま引き込まれた?
しかし、そういう感覚になっていたアスランも、言われた言葉の意味が後から追いついて、今度は反射的に謝っていた。
「ティルフィングが鍛えた結果。貴方は考えるのではなく空気を感じ取って観察してしまった・・・・敵、又はそうではない存在か。武器は目の前の片手剣だけか、あるいは他にも何か持っているのか。後は年齢的に若いとかも観察しましたよね♪」
「・・・・・・ご・ごめんなさい」
「別に謝る事はありません。実際、こうして鞘に納められていると言っても、私がティルフィングと同等の強さを持っている。もし、そうであれば油断は全く出来ないでしょう。そして、私の脚を一瞬視線に捉えた貴方はこう思った筈です。『今直ぐにでも戦う事が出来る』相手だと。ですが・・・・女性のスカートの内側へ安易に視線を向けるのは良くない事ですよ♪」
「本当に・・・その、ごめんなさい」
アスランには謝罪する以外の選択肢が浮かんで来なかった。
何より、自分が抱いていた事を此処まで言い当てられると、それだけで何かもう敵わない存在にも見えていた。
「私の名はユミナ。少なくともティルフィング達からは、今までずっとそう呼んで貰っています」
「あ・・・僕は、アスランです。ティアリスと契約してからは剣を教えて貰っています」
「そのようですね。ただ、ティルフィングは真面目で固い所があるでしょう。ですが、彼女に指導して貰えれば、そして彼女を見習う事も。それは何方にしても良き手本となります」
「はい。僕はティアリスをとても尊敬しています。だから、僕はティアリスに誇って貰える王様に必ずなる。そう決めているんです」
アスランにはユミナと名乗った女性が、信用しても大丈夫だと感じ取れた。
ティルフィングの事を良き手本だと言ってくれたユミナという女性は、アスランにそれだけで何か嬉しい感情を灯すと、同時に自分自身の素直な想いを返していた。
「アスラン。ティルフィングは貴方を選びました。実はその時から、私も貴方を見て来たのです。貴方には間違いなく資質があります」
「資質?」
「それが何の資質であるのか。私からは教えられません。いえ、この資質については・・・そうですね。誰かから教えられる類ではありません。反対に貴方の今後の努力・・・修行や勉強だけでなく、生きていく中で体験した事や経験した事なども。いま話した”類”の中に収まります。そういうものなのです」
「他人からは教えられないけど、僕の今後の生き方で形になっていく・・・・」
「やはり、貴方は聡いですね。ティルフィングとの過酷な稽古も見て来ましたが、故になのかも知れません。持って生まれた才能と言えば聞こえは良いのですが、しかし、どれほど素晴らしい才能でも磨く努力を怠れば錆付き朽ち果てます」
「えっと・・・・要は努力を怠るなって事ですよね」
「はい。良い返答です♪」
自分の答えに楽しいのが分かる口調で今も笑みを見せるユミナに、アスランはふとここで思い出した疑問を尋ねた。
「あの・・・ここもティアリスが居た神界と同じなら。時間の概念が無い世界で合っていますか?その、僕は元の世界で今はヴァルバースを相手に戦っている最中なんです。それで、剣をもう一振り手に入れられたら勝てるかも知れないと考えて召喚魔法を使ったんです。だから、その・・・」
「安心してください。此処での時間は刹那にすらなりません。それに、まだ子供の貴方が神の眷属を相手に勝とうと挑んでいる。私は、貴方はもう十分に役目を果たした。そう思っています」
「十分に役目を果たした・・・。本当に?」
「はい。先ず、貴方はまだ4歳です。その幼さで脅威から避難する民達を守り切った。事実、貴方が築いた城壁のような壁もあって、民達は無事に避難する事が出来ました。後はもうシャルフィを守る大人達に託しても良いのではないでしょうか」
「それは・・・・」
「ヴァルバース相手に最初、ティルフィングは民達が避難する時間を作るための戦いを求めた筈です」
「はい。その通りです」
「その民達が無事に避難出来た今、幼い貴方が一番危険な所で戦いを続ける理由は無くなったはず。違いますか」
ユミナから言われた事について、アスランはその通りだと抱く気持ちとは別に、何か違う・・・・・
もやもやしたこの感情が示すものは何なのか。
思考に身を置いたアスランは、そんな自分をじっと見つめているユミナの前で、ただ納得出来る答えを求めた。
もやもやした感情の中には、その中に悔しい感情が入っている。
じゃあ、自分は何が悔しいのか?
トーマおじさんの畑が滅茶苦茶になった。
メニラ婆ちゃんの畑だって滅茶苦茶になった。
他にも此処に住んでいる人達の畑や家なんかも全部。
牛や馬もだけど、その全部が滅茶苦茶にされた。
その事は勿論、悔しかった。
ただ、悔しい感情はそれだけでなかった。
思考に身を置いて、一つずつしっかり分けたからこそ分かった事もある。
・・・・僕は騎士になったのに、守り切れなかったんだ・・・・
騎士は守るために在る。
それを一番最初に教えてくれたのは、大好きなシルビア様。
そして、自分が生活して来た場所は、此処も間違いなくシルビア様が大事にして来た場所だった筈。
シルビア様を守りたい。
これは最初から自分の中に在った。
だけど、シルビア様は『私一人を守る。それだけでは騎士に任命出来ない』って。
・・・・私は、アスランの守りたいものの中に。その中の一つで良いのです・・・・
僕が守りたいもの。
ティアリスと盟約を結んだ時に誓った。
常世の安寧を望む。
常世というのは世界の事だと教えて貰った。
安寧とは平和であると教えて貰った。
安寧については後から神父様にも聞いている。
確か、世の中が穏やかで安定しているという意味で、これが平和という言葉に繋がる。
さっきまで、僕が生活して来た場所は安寧だった筈。
今は、ヴァルバースのせいで滅茶苦茶にされた。
その時に僕は皆が避難出来る時間を作るために、そのために戦った。
だけど・・・・・
教会も孤児院もだし、トーマさんの家もメニラ婆ちゃんの家も・・・・・
市場だって滅茶苦茶になった。
僕の知っている世界は、僕が生活して来た世界は壊されたんだ。
つまり、守り切れなかった。
「・・・・そっか。ちゃんと考えたら。僕は、僕が守りたいって思っていた場所を滅茶苦茶にされて悔しかったんだ。だから・・・・僕は、ヴァルバースを倒さないといけない。違う・・・・絶対倒す。これ以上、僕の守りたいものを滅茶苦茶になんかさせない!!」
思考に身を置いて、やや下を向いていたアスランの視線が上がった。
ずっとアスランを見つめていたユミナの瞳には、はっきりと強い意志を宿した眼差しだけが映った。
琥珀の瞳の奥で煌くように燃えている。
まだ幼い子供の内側に、煌くほどの熱い意志が既に備わっていた。
「アスラン。一時の感情にのみ、身を任せて剣を取ってはなりません。剣を取る理由をしっかり持っていなくては、その剣に正義は宿らないのです。ただ倒したいではなく、王であれば当然ながら大義を示さねばなりません」
自分の言葉に一度、しっかり頷いてくれた幼い男の子へ。
ユミナは自ら歩み寄って、そして持っていた剣を鞘ごとアスランへ渡すと嬉しそうな表情で微笑んだ。
アスランは自分の両手に託されるように乗せられた剣をまじまじと見つめながら、聖剣伝説物語にも出て来た宝剣とは、きっとこういうものなんだろうと先に抱いた。
それくらい、両手に掴んでいる剣の鍔と鞘は美しかった。
「今の貴方には、その剣を持つ資格がある筈です」
「え・・・・」
「ただし、鞘から抜くことが出来れば・・・・という事になります」
思わせ振りに告げられたアスランは、ただ、鞘を掴む左手とは別に柄を掴んだ右手は次の瞬間。
「・・・・刀身の形は少し違うけど、綺麗なガラスの内側にキラキラした金属が詰まっている。うん・・・ティルフィングとよく似ている感じだね」
思わせ振りな言い回しに、鞘から抜けない剣なのかと抱いたアスランは、しかし、柄を掴んだ右手はスッと剣を抜く事が出来た。
そして、抜いた剣は今もキラキラ光る粒子をびっしりと詰め込んだ外側を、これも透明なガラスでコーティングした感じでティルフィングと本当に良く似ていた。
「どうやら、私の見立ても間違っていなかったようです。その剣はこの瞬間からアスランだけの剣です」
「僕だけの・・・・なんかティルフィングに同じ事を言われたから。そういう所も似ているんだね」
「そうですね。ですが、この剣はアスランの成長に合わせて強くもなれば、努力を怠る事で錆付きもします。また、心根が映し出される剣でもあります」
「それって、僕が悪い大人になったら・・・・この剣も悪い剣になるってこと?」
「ふふ・・・・剣がアスランを悪い存在だと抱けば、その時は消えて無くなるでしょう。逆に、良い存在だと認められれば。この剣はアスランの生涯の友にもなる存在です」
「ティルフィングと同じで、意思を持っている・・・・人の姿になったりはしていないけど、そういう感じなのかな」
「そうですね。そして、今は剣に認められた。後はこれからのアスラン次第です」
自分次第だと言われた所で、アスランには自分の進む道が既に在る。
一度、剣を鞘に収めた後で「僕の目標は決まっています」と、視線を真っ直ぐユミナへ向けた。
「ティアリスと約束しました。僕は騎士王のような騎士になる。そして、ティアリスに誇って貰える王様にもなる。これは絶対違えないって誓った約束です」
アスランの宣言とも受け取れる発言を聞いていたユミナは、ただ、騎士王の部分には思わずクスッと笑ってしまった。
しかし、直ぐに表情を正すと『ミーミル。姿を見せて貰えませんか』と、途端に何も無い空間から光の粒子が一瞬パァッと噴き出した。
「ユミナ様。お久しぶりに御座います」
片膝をついて畏まった姿勢で姿を現したミーミルへ。
ユミナは懐かしむような面持ちを見せた後、直ぐに自らの意思を告げた。
「ミーミル。貴女へ予ねて預けておいた私の旗ですが。今この時を以って、アスランへ譲渡します」
「宜しいのですか」
「既にティルフィングが、新たな主を選びました。貴女とレーヴァテインも同じように選びましたね。私の剣もまた、アスランを選びました。故に志を示す旗を譲渡するのです」
「ユミナ様の想い。必ずや受け継がれる筈です」
「幼いアスランにはこれから先、試練が幾つもあるでしょう。支えるだけでなく、時には導き手になってあげてください。それが私から友である貴方達への頼みです」
「御意にございます」
片膝をついた姿勢のまま顔だけを上げて言葉を交わすミーミルとの会話の後。
ユミナは肩から掛けていたコートを外して、それを今度はアスランの背中から包み込むように両肩へ掛けながら。
その行為に視線の動くアスランへ「これは騎士となった貴方への餞別です」と、そのまま両腕を背中に回すようにして抱き寄せた。
「このアストライアは正義を示す騎士の証でもあります。そして、アスラン・・・私も常世の安寧を望んでいます。貴方が未だ知らないこのリーベイア世界。その総ての安寧をどうか紡いでください」
「・・・あの、今の僕はまだ修行中なので。ですが、ティルフィングとは二十歳になるまでには騎士王のような騎士になるって約束しているので・・・その」
「ふふ・・・・今直ぐ等とは私も求めていません。それから、別に二十歳でなくとも構いません。そうですね・・・・生涯を賭してそう在り続けてください」
ユミナの両腕の中で、アスランは即答できずにいた。
何かこう、人生を完全に縛った?
一瞬でもそう過った思考は、しかし、これも見透かされた感の声が耳元に囁かれた。
「騎士王を目指す。それは騎士としての最高の位を目指すという事でしょう。私は、貴方がたった15年程度でなれるとは思っていません。それに、騎士王になったとして、そこが終わりではありません。そういう意味です♪」
「じゃあ、僕はやっぱり二十歳までにはそうなれるように頑張ります。その先は今の僕には分かりませんが、その頃までには今よりも成長した僕が何か見つけている筈だと思うので。だから・・・・今の僕では全部を約束することは出来ません」
!!~~~
今も背中からアスランを抱きしめていたユミナは、返された言葉で可笑しそうに笑っていた。
上手く躱されたとも受け取れる返答には、これが子供の返答だろうかと。
それでまた可笑しくなって笑ってしまうと、感情が落ち着くまでには少し時間が必要だった。
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「まったく。アスランは実に子供らしくない子供ですね♪ですが・・・・そういう所も貴方の為人なのでしょうし、ただ、今のうちはもっと子供らしく無邪気とか無責任でも良いと思いますよ」
「う~ん・・・・それって、どうなんだろ。エスト姉が聞いたら鉄拳ドリルが降って来そうだし。無邪気は良いのかも知れないけど、無責任はきっと間違いなく鉄拳ドリルだと思うよ」
「なるほど・・・・どうやら、アスランはそういう責任感のある大人から学んでいるみたいですね」
「そうだね。エスト姉って本当に凄いんだ。だから、僕も見習う所は見習って、帳簿の整理は責任感が無いと任されないって聞いた事もあるし。後は僕も騎士になれば、もっと無責任では居られないって思ってる。そんな事でティアリスに怒られるのも嫌だしね」
一頻り笑った後もユミナはアスランと言葉を交わしていた。
そこで、アスランが剣神であるティルフィングに対して、散々負けたから先ずは1回勝つ事を当面の目標にしている。
此処でユミナはまた可笑しくて大笑いしてしまった。
しかし、それは馬鹿にしたというものではなく、寧ろ感心していた笑いでもあった。
もっと子供らしい在り方でも今は構わないだろう。
会話をしていたユミナもだが、二人の会話を見つめていたミーミルも同じように抱いた。
しかし、その会話もアスランが「僕はもう戻らないと。ティアリスが待っているんだ」と告げた所で、察したユミナも頷いた。
「アスラン。貴方は本当に子供らしくない所があります。ですが、やはりそういう所も含めて、ティルフィングは選んだのでしょう。それに、貴方は聡いですが素直でもあります。立派な騎士になってください」
「ティルフィングが僕を王様にして良かった。そうずっと思って貰えるように頑張ります」
アスランが返事をした直後、途端にそれまでの世界が真っ白に染まった。
そして、直ぐに今度は耳に馴染んだ声が『マイロード。待っていました』と、アスランは背中から身体を支えられるような感触で瞼を開いた。
映った景色は紛れもなく元の世界だと分かった。
そして、アスランはこの時になって酷い焼けた異臭が漂っている事に気付いた。
「こんなに酷い臭いだったのか・・・・」
「マイロード。マイロードが気付かなかっただけで、目の前の戦場はずっとこのような臭いでした」
呟きに即答で返って来た声は、同時に視線を声の方へ動かして、そこに今は姿を現している甲冑姿のティアリスを映していた。
「こんなに酷い臭いにも気付かなかった。それって、僕が正気じゃ無かったって事でもあるんだよね」
「その通りです。マイロードの状態はかなり微妙な均衡の中で、それでも此処までは善戦した言えます」
「そっか。実戦は初めてだったし・・・・それで相手が神獣だから余計だったのかも知れない」
今も風に乗って鼻孔を触る焼けた異臭は、焼け野原の大地と化した戦場から王都へ向かって流れる風が運んでいる。
アスランの視線は此処で初めて王都の方へ向けられると、その瞳が映した城壁の上に翻るシャルフィ王家の紋章旗の傍で、此方を見ているシルビアの姿も捉えた。
遠目ではっきりとは見えなかった。
それに、女王の姿を見るのはアスランも一年振り。
そして、今度は確かに自分の名を呼ぶシルビアの声を、これも一年振りに耳にした。
「マイロード。実はマイロードが召喚魔法を使う以前から、城壁の上には王家の旗が翻り、そして女王の姿が在りました。本来であれば逸早くその事を報せる所だったのですが、あの時のマイロードは平静でいるようで、しかし、現に臭いすら感じ取れないほどの状況だったのです」
「不安定な状態だった。そういう事だよね」
「そうです。ですが、召喚魔法によって神界へ赴いた事で、そこでマイロードは完全に自分を取り戻した。五感が正常に戻った事がその証拠です」
「うん・・・・今はさ。この酷い臭いもだけど、シルビア様が後ろにいた事も、そして僕を呼んでいる事も分かった。さっきまでその事にも気付かなかった僕は、自分ではいつも通りで居たようで、実際にはかなり不味い状況だった・・・・」
臭いは最悪だったが、不思議とアスランは怖さを全く感じていなかった。
怖くない事が実は五感の不調かと抱いたアスランへ、ティアリスは「私よりも強くない相手です。普段通りのマイロードなら怖さを抱くこと自体、先ずありません」と、その言い回しが此処では少しだけアスランを子供らしく笑わせた。
「ただいま、ティアリス。あと、ずっと守ってくれてありがとうね」
「いいえ。私がマイロードをお守りするのは、それは当然の事です」
「でも、僕は守ってくれた相手に感謝も言えない王様にはなりたくない。だから、ティアリスにはちゃんと感謝を伝えておきたいんだ」
「マイロード・・・・ご安心下さい。これから先も、私がマイロードをお守り致します」
二人だけの会話は此処まで。
アスランからの感謝の気持ちに、それを受け取るティアリスの嬉しそうな表情が次の瞬間、こめかみをピクッと痙攣させた。
「王様っ♪本当はもう少し”生暖かく”見守っていようとしたんだけどねぇ・・・・ティルフィングだけを特別扱いは不満だぞぉ。ぶぅぶぅ♪」
いつの間にか此方も姿を現したレーヴァテインの隣で、何か言いたそうな面持ちでムスッとしていたミーミルまで。
それはどう見てもあからさまに不満だと。
「我が君。私は我が君から空気のように扱われると、それだけで寂しく思います。さっきも私を空気みたいにしていましたし・・・・そんなに私は存在感が薄いのでしょうか」
「あ・・・・・それって、僕がユミナって人と話をしていた時の事・・・だよね」
「そうです。私・・・・ずっと我が君に無視されて。本っ当に悲しかったんです」
「ごめん。今度から気を付けるよ・・・・ねぇ、ミーミルが掴んでいるその旗って・・・」
ムスッとした表情で涙目になっていたミーミルへ謝りながら。
ただ、その時にアスランはミーミルが掴んでいた大きな旗に視線が留まった。
綺麗な蒼地の旗は金で縁を囲むと、中央に施された銀色の紋章は見間違えるはずのないカミツレ。
シャルフィ王家の紋章とも似ているカミツレを、下から交差した翼を双剣に見立てて支えた紋章旗。
旗を掲げるミーミルが、「我が君がユミナ様より頂いた・・・今この時より我が君の御旗でございます」と、そこでアスランは今の自分が見覚えのある白いコートを身に纏っている事にも気付いた。
アストライアと言われたコートに身を包んで、そして腰から背後にかけて程良い重さを感じさせる剣も、その全部が神界でユミナというティアリスによく似た・・・・・
ハッとしたアスランが「ユミナって・・・・まさか!あのユミナフラウ!?」と流石に驚いた感の声を発した時には、既にミーミルとレーヴァテインの二人が可笑しそうに笑っていた。
ただ、反対側の隣では何か呆れた感の溜息を洩らしたティアリスが、「マイロード。今頃気付いたのですか」と、こちらは完全に目が座っている。
「だって・・・まさか、ユミナって言ってたけどさ。だからって・・・・あの騎士王ユミナフラウだなんて思わなかったんだよ」
「マイロード・・・・その言い訳は見苦しいです」
「まぁ、王様のこういう所も可愛いよね♪」
「我が君。空気扱いもですが、普通は気付いても良いと思います」
本物の騎士王と会っていた。
しかも、長々と会話までして来た上に、剣とコートと旗を貰った。
それだけでアスランの驚きは自身を凍り付かると、口をパクパク。
そのアスランが盟約を結んだ3人の神様の反応は三者三様だった。
ティルフィングは何処となく呆れた感じで、反対にレーヴァテインは可愛いと笑った。
神界で騎士王と会談していた最中、途中から来ていたミーミルはアスランから空気扱いされたことをまだ根に持っている。
その証拠に今も表情はムスッとしたまま、視線が座っていた。
アスランが行使した二度目の召喚は、こうして新たな神様が二人。
法衣のようなドレスを着ている真面目なお姉さん?に見えるのがミーミル。
ティアリスと比べて露出の多い甲冑を着ているのと、特に口調の感じがエレンと被るレーヴァテイン。
二人増えた所で、アスランの中では『一番神様らしいのは、やっぱりティアリスだな』等と此処でも序列一位は剣神ティルフィング。
真面目なお師匠様の一位を脅かす要素は微塵も無かった。
しかも、今回は聖剣伝説物語の主人公とも会っていた!?
騎士王ユミナフラウがティアリスとそっくりさん!?
だけど、本当によく似ている・・・・・・スタイルまで同じ。
でも、性格はなんとなくティアリスの方がしっかり者に感じた。
そして、今頃になって気付いたユミナフラウから。
アスランは宝剣とユミナフラウが着ていたコートと、大英雄の旗まで貰ってる。
何というか、終わってみれば一度目より成果は大きかったのかも知れない。
ただし、その事を口にすれば。
きっと、否、絶対確実にティアリスの機嫌を損なうこと間違いなし。
なので、この部分は胸の奥底に留めておこう。
固く決意したかのような面差しで、しかし、素直な感想は胸に秘めた。
そんなアスランの身形は、さっきまでのボロ着姿ではなく。
今はこうしてアストライアを身に纏ったことが、孤児のアスランを見た目だけは騎士様っぽく演出してしまった。
大変身?したアスランは、そんな風に見られたとも気付かずに、まぁ・・・・これも毎度ながら無自覚な本人が臣下達へ『どうでも良いけど、今はヴァルバースを倒す。皆の言いたい事は倒した後で聞くから手伝って』等と。
やや?命令口調で吐き出した感情に、ティアリスが真っ先に恭しく畏まる。
その後で続くように、レーヴァテインとミーミルまで同じように畏まった。
畏まった3人へ向けた視線は、けれど直ぐに向きを変えた。
そして、今度は倒すと決意したヴァルバースだけを捉えていた。
リアルが忙しいため、投稿までに要する日数が増えています。
年度末から年度初めにかけて、勤め先の事情もろもろです。
次回の投稿について、活動報告の方に日程の目途を記載していますので。
ブックマークを付けてくださった方様。
1話から読んで下さった方様。
もし、次回も読んでみたいと思ってくださいましたら。
活動報告の方もチラッとお寄り頂ければと思います。




