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第40話 ◆・・・ エリザベートと関わった者達 ・・・◆

手掛かりとなる物証を早馬で報せたグラディエス少年もとい見習い騎士は、同い年の仲間達と本部からの指示を待っていた。

森の中を夜掛けで捜索。

捜索の最中には魔獣との遭遇戦を幾度もした事で、伝令を走らせた時には既に心身の疲労が極地に達していた。

それ故に伝令を送った直後から大半が死んだように休息に入った程、この時のグラディエス達の状況は厳しかった。


真夜中の森林は生息する魔獣が特に活発化する。

そのため、夜間の捜索活動は魔獣との遭遇戦が頻繁に起きていた。

グラディエスの小隊は見習い騎士が5人という編成で、そして同じ区域を他の小隊が4つ。

どの小隊も見習い騎士ばかりだったが、日頃から多少は魔獣と戦ってきたことと、今回の夜間捜索では、早い段階で一時的に一つの隊として纏まる決断をした事で、幸いにも死者は出さずに済んだ。


20人以上が一つに纏まれば、それだけで集団として十分な戦力になった。

真夜中で魔獣が活発化すると言っても、殆どの遭遇戦は魔獣が1体だけで、その1体を圧倒数の味方が駆逐する。

松明を多く照らして常に一塊で行動したことも、結果的に死者を出さなかった点では良い判断と言えた。


本来であれば、夜明けを待って捜索を行うくらいは学んで来た者達だったが、今回は上からの指示で、危険を伴う夜間であっても捜索を行えと命じられていた。


各小隊の隊長については、地理に明るい者達が選抜された経緯もあり、そして、グラディエスの小隊は同じ区域を捜索する他の小隊と合流した後で、その中から一纏りになっている間はグラディエスが隊長を務めた。

途中で交代しながら休息を取り、その時ですら真っ暗闇にしか映らない向こう側から襲撃も受けている。

まだ幼い見習い騎士たちにとって、この時の恐怖は自らの死を過らせた。


それだけ恐怖を抱えて神経もすり減らた捜索活動は、夜が明けた後の午前中になって人が焚火をした痕跡を発見すると、その付近で同じような痕跡が幾つも見つかった。

そして、革製のケースがボロボロになっていた中に収められた学生証を発見したのである。


交代の都合で休息を取っていた仲間の中から一番元気な者に、グラディエス達は伝令の役を頼んで見つかった学生証を託した後、疲労の酷さから一度森を離れて安全なところで休息を取ることにした。

直前まで休憩していた何人かに見張りを頼んで、グラディエス達は草原の大地に死んだように眠りついた。


正午を少し過ぎた処でグラディエスは目を覚ますと、今度は自分が見張り役となってまだ寝ていない仲間を休ませた。

辺り一帯に魔獣の影はなく、それまで見張りをしていた仲間からも此処は魔獣の心配が要らなかったと耳にして、無警戒とはいかなかったが暖かい日差しの中で王宮からの指示を待つこと数時間。

グラディエスにとって、この時間の憩いが数時間後に覆るなどは夢にも思っていなかった。


午後も折り返しの時間になった頃、その時には先に寝ていた仲間たちは全員目を覚まして、そして持ち込んでいた食料と水筒の水で一息着いてた。

そこへ遠くから近づいてくる一団を発見したグラディエス達は、間もなく到着した騎士達から先ずは夜陰の中での捜索について、労いの声を多く掛けられた。


暖かな雰囲気はそれが最後だった。

特にグラディエスに対して、この時の暖かな空気は王宮に設置された捜索本部からの指示書を受け取った後で急変した。


指示書を届けた30代半ばの聖騎士は、中身に目を通して凍り付いたグラディエスが哀れで仕方なかった。

預かった指示書について、聖騎士は内容を把握している。

それこそ直接口頭で騎士団長たちから聞かされた部分は、少なからず憤りを抱いていた。

だが、それが王宮からの命でもある以上、忠誠を誓った自分に拒絶の権利はない。

否、絶対に拒絶してはならないのだ。


王宮と騎士団上層部は、互いの責任を目の前の子供に押し付けた。

まだ10歳の子供をいきなり従騎士へ昇進させた上、騎士の中でも特に優れた者が就く近衛隊への配属と、特別任務。

特別任務等と体裁を繕って、しかも特務隊の隊長という聞いた事もない肩書を与えている。

事が外交問題へ発展した時に備えて、その時に相手を一先ず頷かせられる手段として、そこに使われる生贄が目の前の子供なのだ。


ローランディア王国がこんな浅はかな責任転嫁を見抜けない筈はない。

だが、こと外交上ではこうした処理の仕方で互いの面目を守る慣例もある。

そして、恐らくは少なくない金銭等も動くだろう。


聖騎士の心情は、目の前の子供がそれよりかは年下の息子とも重なった。

だから、出来る事なら何とかしたいと胸を痛めていた。


-----


グラディエスは、自分宛だと告げられて受け取った書簡の中身に先ずは凍り付いた。

だが、凍り付いた心情は、中身を既に知っている増援の騎士達とは全く異なる方向を向いていた。


・・・・昇進!?ってか、近衛隊じゃん♪・・・・

・・・・しかも特務隊の隊長とかマジ、ヤバくねぇ!?・・・・

・・・・けど、これで間違いなく俺様の将来はハーレムルートが決定!!・・・・

・・・・オッシャァァアア!!!!ビバ!脱チェリィィィイイイ!!♪・・・・


事情を知る大人達の大半が哀れだと抱き、そして運が悪かった等とも抱かれたグラディエスの思考は、自身の将来が酒池肉林のハーレムでしかない!!

何の確約すら与えられていないにも拘らず、既に脳内ワールドでは美女の尻に腰をパンパン打ち付けて、そしてこれも美女の喘ぐ声に酔いながら滾る欲望を発射ぁああ!!・・・・的な妄想だけを鮮明に描いていた。


この辺りはグラディエスが同年代の女子たちから露骨に『エロディエス』とか『覗き魔』とか『捲り魔』等と呼ばれている所以であり、とにかくスケベな存在としては超が何個も付くほど有名だった部分が絡んでいる。

しかも、今回の任務では特にその女子たちから『エロ小隊』とさえ揶揄された構成でもあった上、夜間の捜索においては恐怖した身内を励ますために『お前ら!この任務で功績を挙げたら褒美に女とやれるぞ!!俺たちは手柄を挙げて、そして・・・脱!童貞だぁぁあああ!!』等と・・・・・・


10歳という年齢は些か早い見方もあるのだが。

しかし、この年頃になるころには、年上の男子が自慢げに語る知識の他に、これも年上の男子から下賜された女体の神秘的アイテムもあって、中でもグラディエスは使用済みの未洗濯パンツを数多の同志達と共に、こよなく愛することを誓っていた。


男子達の間で使われる隠語で”至宝”と呼ばれる使用済みの脱ぎたてパンツは、学生寮や見習い騎士も含めた騎士たちが生活する宿舎にある大浴場で、それも女子が使用中の時間帯の脱衣所へ忍び込んで手に入れる。


騎士を目指す者達は先ず騎士団へ入団した後で、そこから男子の新人見習い騎士達は、稀に『通過儀礼だからやれ』と命じる事もある先輩が教えた秘密の通路を使って、その先で至宝を入手するという最初の任務を行う。

そして、此処で至宝(脱ぎたてパンツ)を掴み取ることが出来た男子だけが、以後の訓練においては暗に優遇的な扱いを保証された。


先輩達は入団したばかりの男子達へ、この伝統を率先してやりたがるように態とそう仕向ける目論見で、故意に過酷過ぎる訓練を初日から課す。

勿論、これも男子達だけの先輩から後輩へ受け継がれる伝統の一環として、結果、同期入団の女子達の目の前で、男子だけは先輩から散々罵倒された後、罰則名目で課された追加のメニューを倒れるまでやらされる。


こうした先輩達の目論見の中で、新人の男子達は初日から心身ともにボロボロになって部屋へと帰るのだが、相部屋で自分達を出迎えた別の先輩から手当てを受けたり理解ある優しい慰めの言葉を掛けられると、涙が溢れるくらい心が救われた。

だが、この優しい慰めですら先輩達が演じた演目の一つに過ぎず、しかし、心身ともに傷付いた男子達は、この理解ある先輩によって簡単に誘導されるのである。


理解ある先輩から、『自分も入団した最初、地獄としか言えない過酷な訓練で虐められた。だが、虐められずに済む手立てもある・・・・』等と、そこから絶対の秘密だと告げられた新人男子達は、ようやく『初任務』について知る。

この時に教えられた任務の見返り(優遇扱い)の詳細の一つ、『成果次第では他よりも早く従騎士へ昇進出来る』という部分。

掴み取った至宝(脱ぎたてパンツ)を先輩や査定役の正騎士へ納めることで、訓練では虐められず、しかも昇進が早くなる等と教えられた新人の男子達に迷いは無かった。


しかも先輩からはこの初任務について、『毎日やってもOK』だと教えられた新人の男子達は、最初の訓練で罵倒され続けた間、自分達を嘲笑った女子達に少なからず抱いた感情もある。

そこにはもう・・・・罪悪感の文字ではなく、嘲笑った事への制裁の二文字しかなかった。


これが当時、見習い騎士の特に男子達の間で先輩から後輩へ受け継がれ続けた『脱!童貞への神聖な儀式』等という厳かな伝統の実態であり、この伝統的な儀式によって、それまで純真無垢?だった男子ですらエロに強制覚醒させられる。

そして、一度目覚めたエロは、そこからの日々において覚醒した男子達の目の色を変えさせると、鼻息すらも荒くさせた。

ただ、それは同じ訓練に参加する女子の見習い騎士達へ当然のように注がれると、露骨に滾り過ぎた一部の男子はこの女子達の手で粛清されている。


だが、この波瀾万丈な青春を怒涛の如く駆け抜けてこそ。

そこでの実績によって、男子の見習い騎士は晴れて半人前の従騎士へと昇進するのである。

それが長らく続く見習い騎士達の、特に男子限定の伝統だった。


そんな伝統が男子達にはある中で、しかし、それを除いて男女とも見習い騎士である間の下積みの日々は過酷だった。

朝は早くから掃除や午前の訓練の準備などを当然のように課される。

朝食の後で午前中は学校へ通うと、昼食を終えた後の午後からは正騎士達から地獄の虐め的な指導を足腰立たなくなるまで課される。

これは男女とも同じメニューを課されると、誰か一人でもこなせないだけで連帯責任の罰則が下る。

罰則は主に素振り等の追加なのだが、メニューをこなせなかった者について、連続二日出来なかった時には見せしめとして『全裸素振り』が課された。

無論、男女とも一糸纏わぬ姿で素振りを行うこの罰則は、それ故に騎士の道を諦める者が後を絶たない。


この時代の騎士を目指す者達について、実際に従騎士になれる者は見習いの内で4人に1人くらい。

ただし、10人に1人という時期すらある事で、そこにはエロに関係なくしっかりした実力が伴っていなければ昇進させられない部分もあった。


他にも騎士という位が爵位と同等である以上、また、それは叙任された個人にのみ与えられるため、たとえ親が騎士であっても、その子供は必ず騎士になれる保証は与えられていない。

ただ、親である騎士が直々に手解きを行うことで、その子息が騎士を志す場合には概ね15歳前後から従騎士への昇進が暗黙の裡に行われる。

これもまた慣例である。


見習い騎士から従騎士までは騎士団長の権限でこれを行える。

無論、騎士団長以上の存在がこれを行うこともある。

特に出自が貴族の場合、箔付の意味もあって王宮がこれを行うことも慣例となっていた。


庶民と呼ばれる者達にとって、この部分は殆ど実態が知られていない。

ただ、騎士という存在は、それだけで限りなく選ばれた者達というくらいには理解っている。


そうした騎士の世界において、将来は騎士になりたいと志す見習い達の特に男子には、故に、過酷な日々を乗り切るためにはエロが必要だった。

この辺りも慣例的なもので、相部屋の先輩が後輩達へ『女体の素晴らしき世界』を講義する習わしは、転じて後輩をエロの世界へ強烈に誘った。

その時にも過酷な一日の最後に、後輩の見習い男子達は先輩が『最高機密』だと先に誓約書すら書かせた後で導いたとある場所から、人生初の桃源郷を拝んでいる。


先輩に連れられた男子達の瞳は、ここで10代半ばを中心にした女子の集団が、大浴場であられもなく裸体を晒している絶景を焼き付けた。

湯船に浸かる姿も、その淵に腰かけて育った胸の膨らみを互いにあれこれ語り合っている光景も、大人になる過程で生い茂る森林から滴る水滴と伝う太ももの艶めかしい脚線美も・・・・・・

それは紛れもなく『ビバ!!桃源郷!!』だった。


だが、見習い男子達は常に全員が拝める訳ではなかった。

本隊は桃源郷を拝みつつ、しかし同時進行で『任務』を実行する別動隊が動いていたのである。


大浴場からは完全に死角となっている位置で息を潜めて待機していた別動隊は、本隊との間で連絡を交わす伝令役が送るランプを使った発光信号を確認しながら活動していた。

別動隊の任務は伝統に則り『本日の珠玉の逸品』を掴み取る事にある。

そう。

別動隊が狙うのは唯一つ。


それこそが女子達の『先程まで身に付けていた至宝(本日のパンツ)』である。


女子寮への侵入は、それだけで除名処分が待っている。

しかし、時間交代で使われる露天の大浴場は例外だった。

否、表現を明確にするならば、女子が使用中の時間は立ち入りが出来ない規則はある。

しかし、男子達の伝統は大人達も理解っている。

故に、大浴場と隣接する脱衣所の天井裏へ繋がる男子寮からの侵入ルートがあるなどは不問とされていた。


別動隊の任務は極めて重要だった。

事実、彼らの成果は翌日のモチベーションにすら大きく関わる。

否、それだけでなく成果次第では指導役の正騎士から暗に優しく扱って貰えるのだ。

そして、この別動隊の中で、男子達の誰もが認めるエース。

それがグラディエスだった。


グラディエスはこの任務で、日々必ず成果を挙げている。

狙った女子のパンツは逃さない。

実際に傍で見た者達は、グラディエスを『神の手(ゴッドハンド)』と呼ぶほど讃えていた。


男子達の毎晩の営みに欠かせない逸品。

使用済みパンツの捕獲は、別動隊の中でも歴代最強のエースという箔付きのグラディエスが殆ど一人で毎日何枚も掴み取っていた。

それこそ男子達の間で特に人気のある女子からは、グラディエス以外に成功した者がいなかった部分もあってエースと呼ばれている。

これも当然のように取られる側が警戒する事と、その上でグラディエスのエロに対する飽くなき情熱と職人技術が上回る事実。

学校の授業は適当だったグラディエスにとって、授業時間にも行った内職はパンツを吊り上げるための道具の開発から製造と加工にまで至った。


指導教官が根回し済みの正騎士の授業などは、完全に黙認されていた事もある。

また、道具の製造や加工などでは軍資金を提供してくれるスポンサーも少なくなかった。

この場合のスポンサーとは、主に正騎士達である。

そして、こうした事情を背景に、グラディエスだけは訓練中に負傷させないよう正騎士達が上手く手加減していた。


グラディエスの秘密?道具。

ローランディア王国でしか作れない特殊な金属の鋼線と、暗器に使われる透明な糸と針を極秘(正騎士)ルートから仕入れた後で、仕事用に細かな加工を施して完成した道具は、巧みに操るグラディエスの職人芸を最大限に活かした。

その結果、たとえ籠の底にあっても狙われた使用済みパンツは回収される運命にあった。

この時に使われた特殊な鋼線は一定量の熱を通す事で強度を格段に増すと、制服程度の厚みと重さのある衣服すら難なく動かした。

そして、衣服の下に守られる様にして閉じ込められていた至宝(使用済みパンツ)は、職人エロディエスの手(神の手)によって救出されるのである。


グラディエスには、特例的に自らの成果を一番最初に味わう権利が認められている。

他にも毎日複数枚を回収、もとい救出するグラディエスは、欠かさず自分の営み用に1枚はポケットに収める特権すら認められていた。

匂いは勿論、染みの部分を舌で味わうなど・・・・・・

仲間内でパンツ回収のエースとまで謳われるグラディエスだが、この変態的趣向は相部屋で部屋長を務める先輩に洗脳されて開花(覚醒)した。


もっとも、こうした才能?も伝統的な習わしの中で開花したのであり、しかしエロが無ければ過酷な訓練の日々はただの地獄となる。

故に、グラディエスは特に重用された逸材だった。


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グラディエスは指示書通り特務隊隊長として、捜索の指揮については与えられた権限を如何なく振るった。

先ずは森の外に野営の準備と同時進行で指揮所を設置すると、憐れむような視線で何かと手伝ってくれる聖騎士様のおかげもあって、またある程度はという部分から的を絞った捜索活動を行った。


死んだように眠った後で起きてからの時間。

グラディエスは持ち込んでいた地図に焚火跡の位置を書き込んでいた。

そして、学生証を発見した場所の近くにも焚火の跡はあった。


それらを線で繋いだグラディエスは、何か半包囲しているような跡の位置を見つめて、延長線上の未捜索の個所を丸く囲んでいた。


捜索に携わった騎士たちは、それぞれ抱く思いは別にして、これは任務だと割り切った中で、幼い隊長の指示通りに動いた。

幼い隊長は地図の一ヶ所を丸く囲って『ここを最初にくまなく探す。俺の見立てでは此処に何かあるはずだ』と、子供らしい威張り方で、ただし自信も覗かせた。


指示書通り、この幼い隊長には本部が別命を届けるまでの間、強い権限が与えられている。

もっとも・・・・大人たちは本部が別命を出す気が無いことくらいは理解っていた。

例えば死骸の一部等でも見つかれば、それを機に別命を出して捜索を打ち切るのではないか。

あるいは此処で数日間の捜索を行っている間に、何かしら打ち切る理由を作り上げて終わらせる事も考えられる。


思考にハーレム(酒池肉林)でキャッキャウフフな未来図だけしか描いていない隊長と、責任を押し付けられた哀れな子供(生贄)だが、出来る限りは手伝おうと抱く大人たちで構成された特務隊。

だが、大人達はこの後の数時間で、幼い隊長が生贄として殺されずに済む成果を挙げるのである。


その晩の遅くになって届けられた第一報は、その内容によって眠っていた者達を全て叩き起こした。

それこそが、エリザベート女学生の生存の確認と無事の保護という報せだった。


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結論から言えば、グラディエスの読みは寸分違わず当たっていた事になる。

夕焼けの空模様の中で始まった一斉捜索は、魔獣に対して逆に威嚇としか言えないくらい銅鑼を鳴らしたことで、その規模が大き過ぎたのか完全に日が落ちて暗闇に染まっても魔獣が現れるという事が無かった。


大人数となった事で、魔獣の相手を務める部隊とは別に、その内側で捜索に専念出来る部隊が出来たことも効率を良くした。

グラディスが丸く囲った部分は、そこからまた次々と焚火の跡が発見されると、終いには極最近のものではないかという跡が発見されたことで、生存の機運が一気に高まった。

その焚火跡の発見から30分くらいの間、更に着衣らしきものの一部などを含めた物証が次々と見つかった後、遂に着衣がボロボロの半裸状態という姿でエリザベート女学生は発見された。


身元詳細によると、エリザベート女学生は今年22歳という事だったが、発見当時のエリザベート女学生は半裸状態でありながら。

最初に発見した者達が『ゾンビ化した人型魔獣が出たぞぉぉおおお!?』等と騒いだくらい酷い有様だった。


その時の本人の口から捜索対象の名前が出た事で、まぁ・・・・後は野営地に用意された簡易的な入浴施設。

鉄製の大きな缶の下から火を燃やして湯を沸かしただけの風呂だったが、この見た目ゾンビ化した女学生はその湯を濁すくらい汚れを落とし切った後。

そうしてようやく、今度は男達のズボンにテントを張らせる女性らしい肢体を拝ませるに至った。


増援の騎士達が持ち込んでいた着替えの衣服(Tシャツ&トランクス)を借りて着替えたエリザベート女学生は、そこから久しぶりに人間らしい食事に胃を満たした後、此処で初めて自分が数ヶ月もの間ずっと行方不明だった事の他、昨日からずっと捜索されていた事を知った。


第二報として王宮と本部へ届けられた調書は、グラディエスに書簡を渡した聖騎士が纏めている。

調書によって判明した事実はこうである。

エリザベート女学生は届け出の通り、先ずは各地を歩いていた。

その途中で今回の場所にも来ると、ただしそこで突発的な大雨に遭遇した。

突発的な大雨から避難したエリザベート女学生は、この時の避難先となった洞窟の中で、どうせならと暇潰し感覚で奥へ奥へと潜った先に興味も関心も満たす出会いを果たした。


調書は此処で、その内容によって王宮に激震を走らせている。

エリザベート女学生が此の地に留まって数ヶ月もの間ずっと何をしていたのか。


その時のエリザベート女学生の証言によって、また実際に案内された捜索隊は此処で初めて、それまで未発見だった古代遺跡を瞳に映すことになった。

それは、今回の発見によってシャルフィ王国がまた自国内で新たに遺跡を発見した事実に他ならなかったのである。


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エリザベート考古学生は、ローランディアの大学に通っていた時から古代文字に関心を持って特に専攻して学んでいた。

今回の捜索と発見保護の後で、エリザベート考古学生が遺跡の内部で発見した古代文字の書物をずっと解読していたらしい事が判明した。


一時は外交問題にもなり兼ねない危惧を孕んだこの事件は、その部分を全て隠したシャルフィによって、表向きは単に新しい遺跡が発見された事実だけを誇張している。

そして、エリザベート考古学生とシャルフィとの間で交された密約は、エリザベートがこの遺跡を独占的に調査できる権利を認める代わりに、シャルフィの体面を瑣末にも傷付けない事で、双方が満足できる合意が成された。


同時に、生贄にされかけた見習い騎士の少年は、生贄にしようと企てた大人達から称賛を受けていた。

また、この一件では特に幼いながら隊長の任を果たした部分を、これも生贄にしようとした側の手による誇大広告としか言えない称賛の後、従騎士から正騎士見習いへと扱いが変わった。

要するにエリートコースへ配置されたのである。

しかも、褒美について望みを尋ねられたグラディエス正騎士見習いは、その時の一言が原因となって王太子フォルスのお気に入りとなった。


『褒美には、王宮で一番綺麗な女と何時でも何処でも自由に一発やれる権利をください!!』


褒美に何が欲しいかを尋ねられたグラディエスのこの発言は、それを直に聞かされた国王を大いに笑わせた。

ただ、反対に宮廷に勤める女達からは汚らわしいと抱いた視線が、これ以上ないくらい突き刺さった。

そして、王太子フォルスはこんな発言をしたグラディエスを気に入ると、自分の専属としてずっと傍に置くようになった。


国王は条件付きでグラディエスの望みを叶えた。

双方合意の上であれば、人目に付かぬ所で思う存分やるが良い。

ただし、孕ませた際は娶って生涯愛し抜くこと。

そして、妻を娶った際には他所の女へ浮気することを禁ずる。


まぁ、望みを叶えつつ。

ただし、立場上は好き放題やれとも言えない国王にとって、事件の裏側で口裏合わせから生贄として葬ることまでを考えて段取りまで組んだ以上。

それが露見しては当然困る。

だから、条件は付けたが、破った時の罰則は口にしなかった。


つまり・・・・グレーゾーンである。

もっとも、シャルフィの刑法には強姦罪が明記されている。

だが、当然のように合意の上であれば罪は問われない。

国王はその辺りを何気に上手く使って、その上でグラディエスの望みも叶えただけだった。


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この事実は後に、即位した後のシルビアがローランディアの女王からの私的な招きの席でうっかり漏らしてしまうのだが・・・・・・

結論から言えば瑣末にも問題になっていない。

それどころか、ローランディアの女王はこの件を笑い話として特に大笑いしている。


うっかり漏らしたシルビアも、この事実はエリザベート本人の口から聞いている。

無論、グラディエスの事もエリザベートが口を滑らした。

情報の漏洩は、先ず当事者の口から教え子へ。

その教え子が私的な招きの席でうっかり漏らした。

結果、シャルフィがそれまで30年余り最高機密として来た遺跡発見の裏側は、それを知ったローランディアの女王を大笑いさせた。


この時には既にエリザベートも博士と呼ばれる身分であったし、それ以上に『魔導革命の祖』とも『現代魔導の母』とも呼ばれる程になっていた。

その発端となった遺跡の発見の裏側は、故にローランディアの女王を笑わせるほど楽しませた。

そして、このローランディアの女王は真相について『長期の外出に際して、必用な手続きを怠った。この点は我が国も教訓としましょう』等と述べている。


そのことが起因したのかは定かでない。

ただし、ローランディア国内にある学校などの施設では、特に課外活動への届け出に細かな規則が作られた。

この中で外泊の部分が厳しくなったとかで、それは今の時代で青春を謳歌する多くの学生達を泣かせたそうである。


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元々古代語を特に熱心に学んでいたエリザベートは、この事件から独占としか言えない強い調査権を得たことで、それは水を得た魚でもあった。

シャルフィからは遺跡の内部構造を傷付けない等の制約こそ課されたが、それは考古学を専攻する者としての常識でもある。

勿論、非常識さの目立つエリザベートにもその程度の常識は備わっているのだが、既に起こした騒動によって、権利は認めても非常識な行動は許さない。

そうしたシャルフィの姿勢は、特に現場を管理する公務員たちに苦労を掛けたらしい。


事件の後で直ぐ、遺跡の近くには調査班が長期に渡って生活できるよう設備が整えられた。

これは他と同じようにキャンプを設営した形だが、内部の調査が進むに連れて明らかに今よりも格段に進んだ文明の遺跡だということが判明してからは、設備面で特に優遇措置も講じられた。


結果、エリザベートはこの土地に定住したかのように日々ずっと遺跡に潜るようになった。

その生活を何年も続けながら、エリザベートは博士号を取得している。

彼女は殆ど大学へ通うこと無く、ただし、遺跡で得た成果を纏めた論文のみによって特例的に単位を認められた。

勿論、この特例措置は彼女の生存によって命を繋ぎ止めた教授達が、国家の体面も含めて主体的に関わっている。


ただ、遺跡に潜る日々の中で大学すら卒業したエリザベートは、帰国せずにそのまま残る形で調査と研究に没頭し続けた。

そして、十年以上この遺跡に携わったエリザベート博士の下には、類は友を呼んだのか?4人の弟子とも呼べる存在が出来ていた。


一人は遺跡から出てきた機械類を解析する事に熱心な男子学生で、機械工学を専攻するエバンス・アルバート。

アルバートの実家はローランディアのゼロムにあり、両親は共に機械関係の技師をしている。


技術系の両親の下で育ったアルバートは、幼い頃から機械いじりが大好きで、子供の時から発明の才能を見せていた。

もっとも、発明の才能はあるが、アルバートが作った試作品は周囲に度々迷惑を掛けている。


そんなアルバートは高等科の学生時代に遺跡から発見された機械を課外授業で初めて見ると、それからは古代遺跡に眠る機械を直に触りたいと強く抱くようになった。

その衝動は後にアルバートをローランディアではなく、シャルフィの大学へ入学させるに至った。


古代遺跡から出てきた機械を直に触りたい。

しかし、当時はまだ考古学科の学生でなければ遺跡には近付けない壁が立ちはだかると、アルバートは迷うこと無く考古学科へ籍を移して、そしてこんな自分でも研修生として使ってくれそうな教授を探した。

実際、アルバートはそれまで考古学には興味も関心もなく、ただ機械工学だけに熱心な学生だったが、機械ならぬ機会は此処でエリザベートと出会ったことにある。


エリザベートは自分が発見した謎でしか無い機械類について、それを瞳をキラキラさせながら幸せそうに磨いていたアルバートと出会うと、以降は機械類のことをアルバートに完全に任せるようになった。

それはアルバートにとって、才能を開花させた転機だった。

そして、この時からアルバートは考古学科に籍を置いた機械工学専攻の研修生として、エリザベート博士の助手の一人になったのである。


二人目は主にエリザベートの身の回りの世話がメインで採用された女子学生だった。

女子学生の名前はルイセ・テスタロッサ。

父親が歴史関連の仕事をしていた事で、幼い頃から歴史に関心を多く持つようになった経緯はあるものの、大学では最初から考古学科に籍を置いている。


テスタロッサは考古学の中でも、取り分け古代文字を解読して内容を知ることに熱心な生徒で、普段は周囲を誂って遊ぶような女性だったが、解読作業に取り組む時は明らかに別人で、それこそ妥協を許さないくらい真面目でもあった。


エリザベートとテスタロッサは殆どの時間を、常にと言えるくらい共にしている。

どちらも古代文字の解読という分野では方向性が同じであり、そこから歴史関連の文献はテスタロッサが、魔導技術関連はエリザベートが互いの得意分野で取り組んでいる。

そして、殆どの時間を共に過ごすテスタロッサは、生活人としては非常識なエリザベートの身の回りの世話もそつなくこなしていた。


そのテスタロッサを振り向かせたい想いを抱いていたフレディ・ダナンが、後を追うようにしてエリザベート博士の下で働くようになった。


フレディは元々軟派な性格で、知っている者から言わせると『女の話が絶えない』男子学生だった。

容姿も女子ウケが良く、『口説きの天才』等と自画自賛していたフレディは、しかし、テスタロッサにこれ以上ないくらい酷い振られ方を体験すると、絶対振り向かせてやろうという滾る情熱を燃え上がらせた。


これが発端となって、それからはフレディも勉学に励むと、テスタロッサと同じ考古学科の学生になっている。

そして、テスタロッサが同じ古代文字の解読に取り組む他の男子生徒と仲良くする姿に、フレディはガスバーナーを全開で噴射したような嫉妬の炎を燃やすと、此処から古代文字の解読に熱の全部を注ぎ込んだ。


その結果?

テスタロッサがエリザベートの助手として働くようになった後で、フレディも同じ遺跡調査の現場へ赴くと、この時に偶然関わってしまったエリザベートから『あんたは今この瞬間から私の下僕だよ♪』と、そのまま簀巻にされて引き摺られるように遺跡の奥へと姿を消している。


そうなった原因について、フレディは相手がエリザベートだと知らずに、もとい、口説きの射程範囲外の女性には全くの無関心。

それどころか射程範囲外は女としてすら認知していない。

そういう性格が、遺跡の外にある施設で食事中にも文献へ視線を落としていたエリザベートに対して、『なんだ・・・何の文献かと思えば、ただの日記じゃねぇか。まぁ、俺様ならこの程度は苦もなく読めるっつうの』等と口走った結果。

遺跡の奥深くに軟禁?されるようになってしまったという次第である。


なお、余談ではあるが・・・・・

フレディは3日に一度は地上に出られたらしい。

その背景にはテスタロッサが関わっていて、『あんた臭いから身体洗って、着替えして。2時間で戻って来なさい!!』という話がキャンプでは有名だった。


4人目の助手はアルバートの紹介でエリザベートに採用されている。

採用された経緯、そこにも遺跡が関わっている。

遺跡全体の構造にも使われている未知の金属について、エリザベートの専門外ではあったが、そこへアルバートから『金属の調査なら是非、推薦したい男がいる』という事で、採用された人物がジオ・ムスタングだった。


アルバートの後輩で、ゼロムでは特に異なる金属を組み合わせた複合素材について研究を重ねていたムスタングは、籍を置いていたローランディアの大学へ自分宛てに届けられたアルバートからの小包がきっかけとなってシャルフィへ留学すると、そのままエリザベートの助手の一人になった。


ムスタングは遺跡に使われてる金属の性質を調べることにだけ取り組むと、それ以外はさっぱり。

しかし、未知の金属を相手に寝食を忘れるくらい没頭する姿は、これをエリザベート才能だと評価していた。


ムスタングは実に興味のない事には無関心どころか無知ですらあった。

フレディが『ああ・・・・女が欲しい』と隣で嘆いても、関心すら無いムスタングは逆に『この金属はもっと高圧の炉で調べたい』等と会話が全く噛み合わない。


人付き合いも不器用というか、無関心故なのか。

ただし、周りも認めるその才能は間違いなく天才だった。

同時に、唯一の関心事である金属についてだけは口も滑らかで、そこには真面目で誠実な人柄だということが垣間見れる。


この四人が後に『魔導革命の祖』と呼ばれるエリザベート博士の4人の弟子として、それぞれ名を馳せるのである。


2016/02/26 誤字の修正と一部の表現を修正しました。

2016/02/27 一部の表現の修正に合わせて加筆しました。

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