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第3話 ◆・・・ 幼年騎士を目指す子供 ④ ・・・◆


4歳の誕生日を迎える少し前。

アスランは、いつもの様に孤児院を訪れたシルビアから、誕生日プレゼントの希望を尋ねられた。


孤児院の子供達は皆、自分の誕生日を待ち遠しく思っている。

理由は誕生日のプレゼントだ。

それも、シルビア様から貰えるプレゼントが一番楽しみなのは皆同じ。

衣服を希望した子供には勿論、衣服が贈られる。

玩具を希望した子供へは、これも希望通り玩具が贈られた。


そして、シルビアは4歳を迎えるアスランへ。

他の子供達と同じように希望を尋ねた。


文字が読めるようになっていたアスランには叶えたい夢が在った。

神父様が買っている新聞を読んで知ったこともある。

それも関わっての ――― 夢 ―――

尋ねられたアスランは、真っ直ぐシルビアだけを映しながら『僕は騎士になりたいです』と、本心を告白した。


いつものシルビアであれば、尋ねたプレゼントの希望へ。

満面の笑みで『任せなさい♪』とか『じゃあ、楽しみにしていてね♪』という上向きな返事ができた。


仲間外れにされているアスランが、そのせいで大人である自分へも中々本心を言ってくれない。

この事は自分に限らず、神父もエストや他のシスターも同じ。

嫌われないように。

それで無自覚に良い子を演じる。


聞いたシルビアは、アスランの本心へ。

それが、ずしりと重く響いた。

本当は、間を置くつもりなどなかった。

だが・・・・・

結果的にシルビアは、アスランの本心に対して。

満面の笑みで即答する事が出来なかった。


アスランは真っ直ぐ自分を見つめている。

その瞳は綺麗な琥珀色。

だから余計に、雰囲気が重なって映っていた。


間もなく4歳を迎えるアスランをじっと見つめたまま。

ただ、シルビアの内心には、アスランが初等科へ通う年齢になった折には尋ねよう。

そう強く決めていた事がある。


アスランを立派な騎士へ育てたい。

この想いはシルビアの胸の奥で、生後間もないアスランを孤児院へ預けた時からずっとあった。


現在の『幼年騎士』の制度なら。

初等科へ通う年齢に達したアスランが、『騎士になりたい』と望むのであれば叶えるつもりだった。

その時には、あらゆる万難を排してでも。

それこそ、王権。

絶対権力を振り翳すことになっても。

シルビアには、アスランを騎士へ育てる覚悟が在った。


また、そうなった時にはアスランへ。

シルビアはもう一つ。

本人の出生の経緯を、それもまた明かすつもりでいた。


アスランの出生。

他所の土地で生まれたアスランには、本人は勿論。

託した神父にも伏せている事実がある。

迂闊には明かせない。

否、幼いアスランを危険に晒せない事情が、故に明かせない最もな理由となっている。


仮に、騎士へ育てるために引き取っても。

きっと直ぐには明かせないだろう。

ただ、自分の傍でアスランが成長していく中で。

出生の経緯と事実。

それを話す時が必ず来る事は理解っている。


何故、アスランが『精霊』と言葉を交わせるのか。

これも出生の経緯に深く関わっている。

だからこそ。

その時は必ず訪れる。

既に決定事項だった。


『騎士になりたい』


シルビアが今日までずっと秘めていた想い。

それは結果的に。

本人から先になりたい意思を示された。


重なる雰囲気が見せた幻。

一番深い所へ、ずしりと伝わった重み。


シルビアは笑みも作れず、即答も出来なかった。

けれど、噴き出す様に溢れた感情。

それは理性の堤防を、今にも決壊させるくらい強く押し寄せていた。


嬉しいと言える感情。

胸いっぱいに占めて弾けそうだった。


・・・・・3歳の誕生日に子供の頃の私が使っていた木剣を与えた事には、特にこのような思惑は無かったのにね。でも、どうせならと素振りを教えたのが影響したのかしら。この子の意志は、紛れも無く本物・・・・・


胸中の呟きに、滾々と湧き出る温かな情は、表情にも自然と現れた。

まるで子を慈しむ母の様な柔らかさで。

それくらい優しい面持ちが満ち満ちていた。


本心は迷うことなく『じゃあ、プレゼントは騎士の叙任ね♪』等と、それこそ軽く言いたかった。

それが出来たらきっと・・・・・

決壊を瀬戸際で防いだ堤防(理性)

シルビアは忍耐を総動員して堪え切った後。


「アスランの希望はちゃんと聞きました。ですが、これはとても難しい事でもあります。だから・・・少しだけ返事に時間を貰えませんか。でも、決して悪いようにはしません。私を信じてください」


アスランを傷付けたくない。

瓜二つとも思える琥珀色の瞳を、絶対に曇らせたくない。

言葉を選んで紡いだシルビアへ。


本当に素直な子だった。

雰囲気がぱぁっと花開いた様に明るくなった。

そして、見て分かるくらい嬉しいのが分かる表情で『分かりました』って笑ってくれた。


-----


この日、城へ帰った後のシルビアは、ずっと心此処に在らずだった。

用意された夕食にも、今日は殆ど手が付かなかった。

否、食した事さえ記憶にないくらい。

シルビアの意識は彼方へと赴いていた。


夜が更けても、熟考する意識が睡魔を寄せ付けなかった。

身体はベッドへ仰向けの姿勢で楽にしていたが。

意識は今もアスランの希望を叶えようと、僅かにも離れないでいる。


無意識のまま、シルビアの真剣は表情を怖くも映させていた。


もう直ぐ、アスランは4歳になる。

そこで今も続けている素振りの方は、年齢を考えれば筋は申し分ない。

実際、これまでに任命した他の幼年騎士と比べても。

そのうち一人は10歳位で初めて剣術を始めた前例もある。

その者を基準にすることは難しくとも。

前例がある事実と、現在の筋の良い素振りとを考慮すれば・・・・・・


体力面。

成長すれば自然に追い付くのは間違いない。

それでも、4歳だからと言って甘くはして貰えないだろう。

でも。

義兄さんを指南役に出来れば・・・・・


体格や体力は、事実、不利だろう。

けれど、4歳のアスランが、既に初等科で十分通じる読み書きが出来る事実は、間違いなく好材料に出来る。

フフ♪

こればかりは絶対、皆を驚かせられるわ♪


上向きになった思考が、瞬く間にピンク色へ変わりゆく。

だが、長くは続かなかった。

現実問題。

そこまで優しくない。


仮に今、アスランを『幼年騎士』へ任命したとして。

伏せた事情、その出自は両親のいない孤児。

改革は確かに進めている。

そこで大鉈を振るっての粛清も多々行った。

自分が即位する前から残っていた家柄と、親類縁者の身分や地位で優遇された環境。

その慣習の大部分は排除出来た。

それでも。

未だに撲滅へは至ってない。


昔よりは格段に風通しが良くなった。

でも、これから4歳になるアスランを置くのは怖い。

かなり減ったと言っても。

悪しき伝統や慣習は今も残っている。

だから。

任命した所できっと・・・・・

あの子を今の騎士団へは置くことが出来ない。


・・・・・素直で可愛い私のアスランが汚されるわ!!・・・・・


思案だけで表情が怒り一色へ染まった。

直後、ガス抜きの様な強い『フ~!!』の吐息が室内を満たした。


方向がずれた思考を一度リセット。

間もなく、シルビアは再び熟考の中へ身を置いた。


約束した。

以上に、アスランの信頼を裏切る結果。

これだけは絶対に避ける。


そのためには、アスランを幼年騎士へ任命するに当たって先ず。

どうしても説得して味方にしなければならない相手が居る。


ただ、こういう時のその相手は、正に天敵としか言えない。

難攻不落と言っても過言じゃない相手でもある。

しかし、味方に出来れば。

これに勝るものはないを言い切れる。


今もこうして考えているのは、そんな彼女を味方に付けるための説得だからこそ。

そこでは、あやふやな事は一切言えない。

論理的かつ正しい評価に基いた説得でなければ。

間違いなく門前払いにされるのが落ち。


そう何度も言い聞かせながら。

シルビアは的を絞って思案した。


これまで任命して来た幼年騎士は、概ね10歳くらいからの子供。

男女は関係ない。

身分や出自で任命した事も一切ない。

だが、4歳で任命ともなれば。

恐らく彼女も此処は確実に突くだろう。

同時に、この部分を解決出来る何かしらが得られなければ。

4歳での任命。

絶対と言い切れるくらい難しくなる。


此処で仮にだが。

何かしら周りを認めさせるだけの結果を用意出来たとして。

例えば、4歳とは思えないくらいの学力。

これを軸に説得できないだろうか。


今のアスランなら、同年代の貴族の子供達と比べても。

学力では引けを取らない筈。

もし、これで彼女を味方に出来れば・・・・・・

周囲の反発は全て。

いざとなれば王権を行使してでも黙らせられる。


「・・・あの子は、アスランは騎士になるために生まれてきたのよ。だから・・・そのための障害も反発も。私が全部受け止めて。そして、アスランを私が立派な騎士に育てるのよ」


シルビアの使うベッドは、高貴な身分を思わせる天蓋が備わっていた。

ただ、今宵のシルビアは、仰向けの姿勢になったところで天蓋など映していなかった。


映るのは騎士になりたいと告げたアスランの真剣な表情だけ。

瞼を閉じると鮮明に映し出されるアスランへ。

シルビアの胸内は、再び熱いものが膨れ上がっていた。


ドクン、ドクンっと力強く脈打つ胸の内側で。

思考は自らが尋ねなくとも。

アスランが自身の意思によって騎士を志した事へ。


シルビアは伏せている事と合わせながら。

これもストンとしっくり収まった感の納得が、表情は幾分、柔らかくなっていた。


翌日。

シルビアは政務の合間の休憩時間へ移った直後。

ここで幼馴染の親友へ。

学生時代も共に過ごした後は、補佐役となって支えてくれるカーラにだけ。

アスランの事で自らの胸の内を相談した。


間もなく4歳を迎えるアスランから昨日、騎士になりたいとはっきり告げられたこと。

それで昨夜は夜遅くまでずっと現実目線で考えた。

今から話す自身の考え。

その後でカーラの率直な意見を聞きたい。


相談を受けたカーラは、シルビアと同い年の女性。

背丈はシルビアと大差なく、見た目も一言で言えば、スレンダーな美人だろう。

耳掛けに纏めたショートカットの栗色の髪は、ただ髪型は学生の頃から変えてもいない。

シャルフィでは珍しくも無い髪と同じ色の瞳に、健康的な肌艶と。


まぁ、そこは本人が、健康や美容への拘りもあることが起因しているのだろう。


カーラは補佐役ということもあるが、一貫して服装は白いブラウスに紺の棒ネクタイと、同じ色のスラックス姿を通している。

また、立場を崩さず、それでいて動き易いソフトレザーの革靴を愛用している。

ただ、カーラは生来の吊り上がった目尻を気にしていた。

そして、目尻がきつくも映る印象が理由で、度の入っていない眼鏡を学生時代から掛けていた。


パッと見のカーラは、何かにつけて落ち着きのある知性的な印象が濃かった。

事実、学生時代の彼女は非常に優秀な成績を修めている。

取り分け討論の場での理屈を通す論調には定評があった。

と言うか。

一切の矛盾と妥協を許さない論調をされた相手からは、二度と討論したくない相手として名を挙げられるくらい恐れられた。


彼女の眼鏡を直す仕草は、不意にそれをされただけで当事者達が凍り付く。

女王の右腕を務める補佐役を、周囲は『口では勝たせてくれない』と、多分過ぎる恐れを込めて評した。


カーラは真剣な表情で語るシルビアの考えへ。

途中で腰を折ることなく最後まで黙して聞いた。

しかし、その内容には、既に険しい表情を顕にしていた。


シルビアの持論。

途中、聞き手のカーラが抱いた懸念は、その先でシルビアも熟考したのが伺えた。

同時に、アスランを幼年騎士にしたいシルビアの胸の内に在る葛藤。

逸る感情の見え隠れ。

この部分は自身ともう一人。

此処には居ないもう一人の幼馴染にしか理解らないだろう。


カーラもアスランが7歳。

つまり、初等科へ入学する年齢であれば異存無かった。

それどころか、周囲の大反発を受けて苦境に立たされるだろうシルビアを、自分が擁護する事で押し通す腹積もりだった。


ところが、当のアスランは7歳どころか。

間もなく4歳を迎える。

はっきり言って、此方は全くの想定外だった。

その時のために今日まで緻密にして来た下準備とてそう。

まさか、予定を3年前倒しにする等。

青天の霹靂でしかない驚きの後で、だから表情が険しくなった。


計画表では残り2年ほど。

この期間で、より任命し易い状況を構築する筈だった。

故に最初、考えを聞きながら『私は反対です』と、即座に伝えるつもりでいた。


だが、カーラはその返答を躊躇った。

現実問題として、状況も万全とは言い難い。

未だ排除に至っていない反発勢力には力がある。

それらが徘徊する王宮へ。

出自も孤児の幼い男の子を招くのは、返って身の危険が増すのではないかという危惧もそう。

懸念も不安も。

此処は、どう転んでも拭えなかった。


そこまで思案出来て。

なのに躊躇った理由。

最たるものは、シルビアから聞いたアスランの学力に在る。

これがカーラの予想を軽く超えていた。


躊躇いはそれだけカーラが熟考したからである。

そして、間もなく4歳を迎えるアスランの存在。

カーラは『非常に優秀』の評価を付した。


自身の返答を緊張で金縛りにあったかのような感で待つシルビアへ。

カーラは静かに息を吐いた後。


『私は今直ぐの任命。これには反対です』


二人だけの室内を満たす張り詰めていた空気。

そこで限界まで張ったものが。

この瞬間、プツっと切れた。


2018.5.1 誤字などの修正を行いました。


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