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第38話 ◆・・・ 剣を手に取る覚悟 ・・・◆


・・・・・全ては召喚魔法を初めて使ったあの日から始まった・・・・・


最初はもう一振り剣が欲しいだけだった。

騎士王のように双剣の剣術をやってみたかった事が発端で、その時にエレンから教えて貰った『召喚魔法』を行使した僕は、剣神と呼ばれる神様と盟約を結んだ。


稽古の時以外、神様は僕のことを『マイロード』、つまり我が王と呼ぶ。

そして、僕も神様が人の姿をしている時はティアリスと呼んでいる。


ティアリスの神名は『ティルフィング』

最初に剣神の第三位だと聞いた後で、修行の合間の休憩時間には『正義』の二つ名を持つ聖剣という事も聞いている。


ティアリスの性格は、正義の二つ名を持つだけ在ってとても真面目です。

口調も何となく厳しい感じで、ですがとても優しい神様でもあります。

※気難しい所もありますが、僕はティアリスを尊敬しています。

見た目はエスト姉より少し上で、二十歳くらいだと思います。

※大人の女性に年齢を尋ねることは、エスト姉から鉄拳を落とされも文句は言えないくらい失礼なことだと身を以て学んだので尋ねていません。

髪は金色で三つ編みとお団子?っぽくして纏めています。

※この部分もエスト姉から聞いた知識なので、だけど似合っているので良いと思います。

瞳の色は緑で、白い肌と合わせて美人だと素直に思いました。

当然、僕より背は高いです。

ですが、10年後には身長だけ追い付けそうかなって思っています。

最後に、初めて会った時はいかにも騎士様って感じの甲冑姿でした。


そのティルフィングに剣の修業を頼んで、その時は強くなりたいから王様扱いはしないでいい。

そんな事を言ってしまった結果、毎日が瀕死体験と大怪我体験になりました。


僕は未だティルフィングの王様として相応しいとは思っていません。

それでも、僕は自分が二十歳になるくらい迄には相応しくなれるように頑張ることも約束しています。

残りあと15年くらいですが、少なくとも剣の稽古とアーツの修行だけはこの一月で、それも毎日欠かさず異世界で修行し続けた結果。

そこだけはかなり出来るようになった気がします。


一応、念の為に言っておきますが。

かなり出来るようになった部分は、それ以前の僕の実力と比較してという意味です。

ティアリスを相手に未だに1度も勝てていません。

連敗記録は・・・・・確か・・・・・3万回を超えたっぽいです。

これはエレンから言われました。

その時に『やっぱり1万回以上死んだね♪まぁ、気にせずガンガン行っちゃえ~♪』というような言葉を貰いました。

何と言うか、実に不名誉です。


ただ、相変わらず一刀必殺としか言えないティアリスの剣閃について、超が何個も付くくらい手加減して貰ったことで、何とか型通りの打ち込み稽古は出来るようになりました。


当面の目標:取り敢えず1回勝つ!!


-----


異世界で稽古をするようになってから、僕は素振りをティルフィングでするようになった。

シルビア様から頂いた新しい木剣について、ティアリスからは『この木剣ですが、今のマイロードの体格には不釣り合いな長さと重さです』という感じで、特に重さの部分が今の僕の身体とは合わない事を指摘された。


その時にティアリスから木剣を少し切って短くすれば丁度良くなる・・・・そういう提案もあった。

だけど、僕にとってこの木剣はシルビア様から頂いた大切なもの。

その事を話したら、ティアリスは素振りの時は自分を使うようにと言ってくれた。


ティルフィングは木剣よりも刀身が長い。

そして、幅も厚みも木剣より大きい。

ただ、ティアリスからは、これでも一般的な片手剣のサイズらしいことは聞いている。

片手剣は、片手で扱える剣なのは勿論、柄を両手で握って使っても問題ない。

実戦において片手に盾を装備した状態で扱える剣だから、片手剣という分類に分けられている事までを、僕はティアリスから聞いている。


ティルフィングは剣そのものが美しい。

鍔の部分も細かな細工の施された美術品とか工芸品のような華やかさがあって、刀身はやっぱり見たこともない金属だとしか言えない。

表面は本当に透き通った感じでガラスよりも透明に映るその下に、キラキラ光る結晶が詰まって剣になっている・・・・僕にはそう見えた。


両刃の刀身には何か文字のような紋章が彫られている感じで、ティアリスはそれを自らの神名だと教えてくれた。


このティルフィングを初めて握った時、僕はビックリさせられた。

もっと重い印象で握った僕の手に、ティルフィングはピッタリの重さを感じさせた。

その事で驚く僕に、ただ、ティアリスは『私はマイロードの剣です。故に、今のマイロードに最も適した重さになっているのです』と、そこには直ぐ納得もできた。


僕だけの剣・・・・・

そう言われただけで何かとっても嬉しくなる。

長さは不釣り合いなんだけど・・・・だって、僕の身長と同じくらい。

ただ、重さがピッタリな事で素振りはとてもしやすくなった。

そして、ティルフィングに姿を変えている間、その時はエレンと同じ感じで僕の頭の中にティアリスが話しかけてくれる。

素振りをする僕に対して、踏み込みが甘いとか、腕と肘の使い方がどうとか、背筋をもっと伸ばせとか、重心はもっと腰にとか。

指導は厳しいけど、何と言うかエレンと比べて理解りやすい。

それに何か、こっちの方がちゃんとした指導を受けられている感じで僕は気に入っている。


だから、素振りと型稽古までは、僕はいつも充実した時間を過ごしています。

そう・・・・・ここまでは日々充実しているのですが。

此処から続く実戦稽古は・・・・・慣れたと言っても死ぬ程痛いんです!!

と言うか、エレンが居なければ確実に死んでます。


僕としてはそうならないように、ティアリスから1勝するためにあれこれ試していますが、今の所はまだ勝てていません。

そうして既にエレンの話では3万回は連敗を重ねているようです。

※ちなみに僕は初日のときから数えることを放棄しました。


実戦稽古では僕もティアリスが用意してくれた真剣で戦っています。

どこから用意したのかって?

あんな巨大な塔にしか見えない砂時計を、突然出したりすることが出来るんですよ。

僕は神様だから出来るんだろうと、詮索を放棄しました。

だから、ティアリスが僕の理解らない理で剣を用意したのだって気になりません。


大事なことは僕がこの稽古を通して、そしてティアリスに1勝することです!!

そうなる頃には、多分きっと僕も半人前の騎士くらいにはなれると思ってます。


-----


次は・・・・・絶対・・・に・・・か・・・・つ・・・・・・・・


ティアリスは上段から斬り掛かったアスランの踏み込みに対して、それを上回る速さの踏み込みで懐に飛び込んだ流れのままに剣の柄を鳩尾に叩き込んでいた。

その結果、主は意識を失って今はこうして自分が抱いている。


「・・・・また上達しましたね。最初の時は柄ではなく、それこそ私の剣が一刀に斬り裂いたのですが。良い踏み込みでした」


意識のない主に、今の呟きはきっと聞こえていない。

実力はまだまだでも、主はやはり筋が良いせいか成長が早い。

ただ、惜しむらくは身体がまだ幼子であるということだろう。

技量の割に身体が幼いせいで、その事が不利に働いている部分が大きい。


「マイロードが予てから望んでいた剣技。目が覚めたら始めましょうか」


既に何万回と死に追いやった実戦稽古も、最初と比べて打ち合う時間が長くなっている。

ここ最近はマイロードが気付いていないだけで、それも特に集中しているからなのだが、1時間以上斬り結ぶことが常になっている。

それに、こちらも幼子だと侮っても居られない。

あの魔法剣技は回数を重ねる毎に威力もキレも増している。

しかも、そこに付け加えて物量戦のようなアーツを行使できる。


「マイロードは工夫もですが、私が教えた戦術論をよく活かしています。理解っているのでしょうか・・・・御身はその幼い身形で、剣神である私を楽しませているのです。剣を交えて戦うは我が喜び・・・・ですが、たった一人を相手に万の軍勢とも戦うような緊張を抱かされるなどは露程にも思っていませんでした。将来がもっともっと楽しみになりました」


ティアリスはアスランへの稽古の最初、その時は甲冑を装備せずにしていた。

甲冑を身に付けずとも問題ない。

幼いマイロードの剣では、かすり傷一つ負うことはないと、そう抱いていた。


ところが、マイロードが見せた魔法剣技によって小さくない手傷を負わされたことで、それ以降からは甲冑を装備して稽古に当たっている。


あれは流石に驚かされた。

剣と剣がぶつかった直後、マイロードの剣はそこから真空の刃を撃ち出した。

それが風の属性魔法だということは容易に理解る。

ただ、その真空の刃を至近で撃ちだされた結果、自分は手傷を負わされている。

しかも、それまでの手加減を無意識に解いてマイロードを袈裟懸けに斬ってしまった。

斬ってしまった後で、死に掛けているマイロードをエレンとかいう精霊が治療しているアーツの光だけを見つめながら。

一瞬とはいえ、つい本気になって斬ってしまったこと自覚させられた。


マイロードにアーツを教える精霊は、その姿も声も自分には分からない。

ただ何となく気配で近くにいるくらいは分かるが、自分とは理がまた異なる故に見えず聞こえずとも納得はできる。


ティアリスも今は甲冑を外した姿で腰を下ろすと、意識のない主を膝枕で介抱しつつ、ただ、眠る主の顔もこの時だけは歳相応に子供らしいと抱きながら見つめていた。


ティアリスからすれば、甲冑の着脱は意識一つで何時でも行える。

そして、マイロードを休ませるのに武骨な甲冑姿の状態は相応しくないと思っている。

他に自分の膝枕を気に入ってくれるマイロードが、本当に心地良さそうに眠る仕草は見ていて愛らしく思えた。


そうして、これもいつも通りなティアリスの膝枕でしっかりと休息を取った後のアスランは、また倒れるまでぶっ通しの稽古に臨むのだった。


-----


「ん~~やっぱり今のままだと、どうしても速さが絶対的に足りないんだよなぁ」

「(・・・マイロード。素振りをしながら考え事は剣筋が乱れます・・・)」


目覚めた後でティルフィングを使った素振りの最中、アスランはこの時も指摘された踏み込みから自然に繰り出される一刀を繰り返しながら、思考に身を置いていたことを注意された。

一旦動きを止めたアスランが構えを解いたことで、それまで剣だったティルフィングもティアリスへ姿を変えると、その瞳が映す主の表情が一瞬ハッとしたように見えた。


「何か考えていた事は私にも分かります。素振りに身が入っていませんでしたので。ですが、その様子だと何か閃いたのでしょうか」

「そうだねぇ。ティアリスの剣はさ、僕から見れば速過ぎて閃光にすら見えるんだ。それを当然のように繰り出せる。だけど、今の僕にはそれが真似出来ない」

「当然です。剣技もですが、マイロードの幼い身体では筋力も当然足りません。その事を気にされているのでしょうか」

「うん・・・・それで考えていたんだ。指摘された事は事実だし、だけどさ・・・・一度でもそれが出来たら。それは今の僕にとって必殺技にもなるんじゃないかって」

「そうですね・・・・確かに此処一番でそれが出来れば、特に懐に飛び込んで繰り出せれば・・・・・」

「だよね。さっきもだけど、僕がティアリスの懐にもっと速く飛び込んで、そこからティアリスの剣が届く前に一撃繰り出せたら。その一撃も含めた一連の流れだけを一度でもティアリスのような速さで出来たらって考えていたんだ」

「マイロードの考えていたことは理解りました。そして、恐らくはその事で何か閃いた事がある。違いますか」

「ちょっとね。今から試したいんだけど良いかな」

「分かりました。では相手を務めさせて頂きます」


アスランは剣を構えた姿勢で、それとは少し間合いをとって同じ様に剣を構えたティアリスは、次の瞬間・・・・・・起きた光景を映す驚きに染まった瞳は自らが斬られた痛みの中で、目の前で倒れている主だけを捉えていた。


主の思い付きを試すという部分で、それは確かに油断もしたかもしれない。

それでも、僅かにも動く事の出来なかったティアリスの肢体は、左肩から右の腰にかけて斬られた事で大量の血飛沫を噴き出した。

それはこの稽古が始まって以来、初めてティアリスがエレンから治癒を受けた事でもあった。


ただ、僅かに遅れたティアリスの本能は、そこから主も斬り伏せていた。

そして、自分も主も瀕死の重傷を負うと、今は揃って精霊の癒やしを受けている。


「・・・・これは痛み分けだなぁ。もう少し奥へ踏み込んでいたら勝てたかも知れないけど・・・・だけど、この稽古はもうティアリスでやったりもしない」

「いいえ。あの一撃とそこに繋がる動きを私は捉え切れませんでした。確かに踏み込みが僅かに甘かったことも事実ですが、相手が私でなければ反撃は無かったでしょう」

「そっか・・・・けど、一回で分かったんだ。僕はたとえそれが稽古でも。エレンの治癒が凄くても・・・・ティアリスを斬りたくない」

「マイロード・・・・」

「僕は、人殺しをするために剣を学んでいるんじゃない。僕が守りたいと思ったものを守るために剣もアーツも修行している。だから・・・・」

「ですが、マイロードの守りたいものを脅かす相手が人間であったなら。その時はどうされますか」


人殺しはしたくない。

そう口にしたアスランは、けれどティアリスの指摘に言葉が出なかった。

直ぐには言葉を紡げない主を映して、「マイロード。それはユミナも同じ事を言っていました」と、ハッとしたように視線を起こした主へ。


「ユミナも同じだったのです。自分の剣は、殺めるために在るのではない。そう言っていました。ですが、自らが守ると決めた総てを守るためにユミナは剣を取り、そして戦場を駆けたのです。そうしなければ守りたい総てを守れなかった」

「騎士王は・・・やっぱり同じ人間も斬ったんだよね」

「はい。何千何万と人を斬っています。その屍の上にユミナは立ちました。ですが、それ以上に多くの人間を戦火から守ったことも事実です。大事なことは幾つもありますが、好んで人殺しに剣を振るった事は一度としてありません」

「うん・・・・聖剣伝説物語でも騎士王は戦っていた。さっきティアリスを斬った時まで、僕は生きている人を斬るということが・・・・こんなにも怖いことだったなんて知らなかった」

「だから、もう二度と人は斬りたくない・・・・ですか」

「うん・・・正直、そう思った」

「では、マイロードはもし目の前で大切な人を殺されたら。その相手が人間であったなら。今と同じ言葉で殺さずに置くのですか」

「え・・・・それは・・・・・」

「シルビアという方が、刃を向けた人間から斬られたなら・・・・」

「そんなの!!シルビア様が斬られる前に僕が斬る!!」


ティアリスの言葉に思考が映した映像を、全否定するが如く憤りの感情によって叫んだアスランは、そこで向けられる真っ直ぐな瞳を前に気付かされた。


「マイロード。ユミナも同じ想いで剣を取って戦いました。守れるだけの力があるのに、相手が人間だからと躊躇ったことで後悔したこともあるのです。マイロードには未だそのような後悔はありませんが、ですが・・・先日の一件。あの時にゴードンという男の子がシャナという女の子を斬っていたなら。マイロードはもっと深く後悔したはずです。何故もっと早く助けられなかったのかと・・・・」

「・・・・ティアリスは・・・・厳しいね。だけど・・・・言いたい事は理解ったよ。僕には守るという部分で未だ覚悟が出来ていない」

「騎士とは、守ると誓った総てを守る責任があります。そのために悪となる存在を時に討たねばなりません。それはつまり、剣を取って命を奪うという事でもあります」

「・・・・契約した時にもあったね。僕は常世総ての安寧を望む。その為にはティアリスの言うように、時には悪いことをする存在を討たないといけないんだ。そして、それは同じ人間の時もあるって事だよね」

「その通りです。ですが、マイロードが自ら討てぬとあれば。その時は私が討ちます。今の幼いマイロードに、全てを背負う覚悟を私は求めておりません。それは本来、大人になる中で徐々に備えていく事です。ただ、この事はどうか忘れずに居て下さい」

「・・・・・じゃあ、やっぱり僕はティアリスを斬れない。だってさ・・・・ティアリスは悪い事をしていないんだ。だけど、僕が守りたいって想っている全部。それを脅かす存在とは僕も全力で戦う。それだけははっきりしたよ」

「ふふ・・・・マイロード。マイロードからそう言われますと、私ももう稽古でマイロードを斬れなくなってしまいます。私とて、それが主命に拠る事であっても。やはりマイロードを斬りたいと抱いたことは一度としてありません」


この瞬間。

アスランは自分がそう抱いたように、けれど、ティアリスはその思いを抱きながら何万回も自分を斬った事に気付いて胸が痛くなった。

自分は一度で、もう二度とティアリスを斬りたくないと強く思った。

なのに、ティアリスには何万回もさせている。


「僕はとにかく強くなりたくて、それでティアリスに稽古の時は王様扱いしなくていい。そう言ったことは後悔していない。だけど、こんな思いを抱えて。それを顔にも出さないティアリスはやっぱり凄い存在なんだって思った。言葉ではさ、剣が命を奪える武器だってことも。剣術が殺傷の術を磨いた技だって事もティアリスから何度も聞いているのに・・・・だから、初めてティアリスを斬ってその事をこんな風に実感するなんて・・・・」

「その怖さを忘れないで下さい。安易に剣を取るのではなく、寧ろそうならないようにマイロードには強くなって頂きたいと思います。ですが、剣を取ることになったなら。その時は僅かの迷いも躊躇いも、それが逆に命取りになることも忘れないで頂きたいのです」

「剣を取る覚悟と、そうならないように守る強さか・・・・・。僕の目標は本当に高い所にあるんだって、それが物凄く実感できたよ。なのに、それをこの間まで5歳の誕生日までにとかってさ。逆にあと15年くらいでそこまで行こうって考えもだけど。だけど、ティアリスと約束した以上は目指すし諦めないよ」

「マイロード・・・・・」

「僕が守りたい全部を守るために剣を取った時、それって絶対に負けられないんだ。だから、ティアリスに斬られるのは僕が弱くて、今のままじゃ守り切れずに僕もだけど、僕が守りたい全部も殺されてしまう。そんな事は絶対嫌なんだ。僕はもっと強くなるよ。僕の守りたい世界を守り切れるだけの騎士になって、そして、僕を鍛えてくれるティアリスが誇りにしてくれるような王様にもなる」


およそ4歳の、もう間もなく5歳になるとしても不相応な意志。

ティアリスもまたアスランが子供らしくないとは抱いている。

ただ、主のこういう部分に自分は惹かれて剣を捧げたのだと、そこは素直に納得できた。


そのティアリスの瞳には、身形は確かに幼子でも、抱く志は間違いなく将来を期待させてくれるものだった。


-----


暦が7月を迎えた最初の朝。

その日もいつも通りアスランは当番の仕事を済ませた後で、これも既に慣れ親しんだ?異世界での修行に没頭していた。


先日からティアリスに双剣を扱う剣技を教えて貰っているアスランは、一層過酷となった稽古によって、更に瀕死体験を数千回は積み重ねた。

つまり、連敗記録もそれだけ更新されたということになる。


しかし、過酷な修行であっても双剣の技を学ぶ時間は、指導を受けるアスランの心を満たした。

ただ、実際に指導を受けて理解ったことは、双剣を巧みに操る術が非常に難しいという事実。

最初にティアリスから難易度が極めて高い技ということは聞いていた。

そして、現実には告げられた言葉以上に難しい事を実感させられたのである。


剣一本の時でさえ視野は広く持つことを叩きこまれたアスランも、双剣を自在に使い熟すためには更に広く持つことを要求されている。

それを駆ける足を止めずに、しかも左右の剣は常に交互に使いこなす。

連続して何方か片方だけで斬り結べば、それは即ち双剣が持つ最大の特性を殺してしまう。


会得しようと挑む技は、その性質上、左右の剣を交互に、しかも鋭い動きで繰り出し続けてこそ真価を発揮する。

この双剣の動きと常に連動する足捌きや体捌きといった身のこなしの技は、これもまたアスランへ当然のように高いレベルを要求し続けた。


指導を受けた最初、アスランは身体の動きと剣の動きが全く揃わなかった。

基本的に身のこなしの流れから自然に繰り出される剣技は、それを指導するティアリスから見ても、最初の段階からしてアスランはちぐはぐな動きしか出来ずにいた。


それでも、時間という概念がない異世界は、此処で修行するアスランがどれだけ没頭しても現実には1秒として掛からない事で、現実の1日でアスランは見た目だけは様になる所まで到達している。

そこから今日までの間で、アスランの双剣の剣技は日毎に鋭さを増すと、同時にそれは指導するティアリスを楽しませていた。


-----


キィッン!!


「アスラン。左の剣が遅いです!しかも強引にまた腕だけで繰り出すから剣に威力がない。それでは一向に意味がありません」


左手が握る剣を繰り出した所で、ティアリスは事も無げに躱しながら、ほぼ同時にアスランのがら空きとなった脇腹に蹴りを叩き込んでいた。


・・・・グハァッ!!・・・・


ティアリスの甲冑を装備した足が脇腹を深く抉った衝撃と痛みとで、まともに受けたアスランは足が止まると、そのまま両膝を付くような姿勢で蹲ってしまった。


「(・・・アッスラ~ン♪いま治してあげるねぇ♪痛いの痛いの飛んでいけぇ~♪・・・)」


聞こえるエレンの楽しげな声が、次の瞬間にはアスランを金色の光の粒子で包み込むと、瞬く間に痛みを取り除く。


そう。

こうやって此処まで何万回もエレンに治療を受けている。

もっとも、そのおかげで死なずに済んだと思えば、この口調にも一々憤ることも無くなった。


「マイロード。先程の稽古ですが、まだ私の擬態動作に釣られています。私は故意にマイロードの動きのリズムを狂わせたのですが、此方の目論見通りに釣られたマイロードは、そこから強引に立て直そうとして、結果的に仕留められました」

「うん。理解っている。あの時にティアリスが見せた隙だよね・・・・前にも何度もそうやっていた事も聞いていたけどさ。逆手に取って仕留めてやろうって・・・・」

「なる程。ですが、此度は見事に失敗した。つまり、実戦ならば死んでいます」

「はい。ティアリスの言う通りです。ねぇ、やっぱりさ・・・・相手が態と作った隙を利用して倒すって不可能なのかな」

「いいえ。寧ろ逆です。マイロードの着眼は正しいのですが、それを完遂出来るだけの実力が無いために、逆に死に追いやられた。今以上に実力が身に付けば、やり遂げることも出来るでしょう」


アスラン自身の抱いた疑問は、ティアリスから着眼は間違っていない評価が返って来た事で幾分には救われる。

ただし、そこに明らかな実力不足も指摘されたことで、それはつまり、未熟者の烙印を此処でもまた押されたことになった。


「そう言えば、マイロードの編み出した神速を超えるあの技ですが、あれも未だ完全に会得したとは言えないようですね」

「ああ、えっとねぇ・・・・エレンに言わせると、僕がイメージだけで使った時属性が、今の僕の実力では使い熟せていないんだって。要は未熟者って言われている」

「そうでしたか。ですが、あの技は会得するに値します。完全に自分のものと出来ましたら今の戦い方に幅を与えるだけでなく、突破力すら与えます」

「まだ子供の僕が、本気じゃないティアリスと互角に戦える戦術。形は見えてきたんだけどね・・・・問題は実力が伴っていないから会得したと言えない現状。だけど、課題が見えている分。それは取り組みやすいって事でもあるんだよね」

「そうですね。確かに完全には出来上がっていません。ですが、一度毎に上達もしています。先ほどもですが、私がああして小細工を弄したくらいにはマイロードが私を追い詰めている。そう受け取って頂いて構いません。実力は確かに付いて来ています」


ティアリスがそういう性格なのか、悪戯におだてたりしない事をアスランも理解っている。

指摘する所は厳しく指摘する反面で、考え方とか取り組み方などで正しいと思ったことは評価してくれる。


その後しばらくティアリスと検討を重ねたアスランは、再び実戦稽古へ臨むのだった。


-----


アスランの課題は幾つもあるが、現在のところティアリスに対する必殺とも呼べる技は、完全ではないものの全く出来ないわけでもない。

自身の身体動作を全部速くしようとして、そこに欠かせない時属性のアーツを使い熟せないために上手く行かずにいる。

同じ1秒でも、ただ剣を振るのと、間合いの外から一気に懐深くに飛び込んで一刀に仕留めるのとでは根本的に異なる。


アスランの思い付きは、この一連の動作を1秒にすら満たない刹那の中で完遂するための技。

実際、何度かに一度しか決まらずとも、それを受ける側のティアリスが本気にならないと見切れないと言った以上、だからこそアスランは完全な会得に向けて修行を積み重ねるのである。


しかし、この技を会得するために欠かせない要素。

上位属性の一つで時間を操る時属性を、アスランは未だ習得しきれていない。

先日はイメージだけで行使したアスランも、その後からはエレンの相変わらずな指導のもとで遅々とした試行錯誤に身を置いていた。

そして、ティアリスの指導が理解りやすい事が、此処では逆にストレスだけを溜め込む事にもなると、最後は溜まったストレスを抜くために走り込むという始末。


何故、そのようになったのか。

ストレスでイライラが募ったアスランの感情の爆発は、それを見ていたティアリスの指導?説教?によって、余計な感情が芽生えなくなるまでひたすら走りこまされた。

完全にくたくた状態になって、それから取り組まされる。

そうして、ただ理解り難いから何かしらの試行錯誤へと繋げる。

これもまた先日以降からの当たり前となっていた。


アスランがここまでの間にノートへ記した内容は、時属性のアーツで対象に作用する時間の加速と減速は可能。

もっとも、可能ではあるが難しい。


アスランがノートへ自分なりの解釈で纏めたエレンの指摘は、アスランが自身に作用させた一定時間、その身体動作を神速の領域に勝る所へ至らせる部分について、それを可能に出来るだけのマナのコントロールが出来ていない。

上位属性の難しさは四属性とは比較にならない程難しく、これまでずっと続けて来た無駄を省く鍛錬よりも微細なコントロールを要求されていた。


ただし、そのエレンからアスランは一つだけ評価されたことがある。

魔法式無しで、ただイメージのみによって時属性を使ってみせた事は、エレンから『アーツはねぇ。本来そういう感覚で使って良いものなんだよぉ♪』と、ただその時にアスランは内心で『じゃあ、魔法式って要らないの?』という混乱も抱えている。


この混乱はアスランもノートへ書き残すと、しかし今の所は納得の行く解釈へ繋がっていない。

現代魔導とアーツという部分で生じた違いとも考えたが、それも完全な納得へは繋がらず、そして今現在は先に取り組むべき課題がある。

結果、アスランはこの部分を後回しにして、今は先ず時属性を使い熟す方向で取り組んでいた。


ティアリスとの実戦稽古は確かに最後は何方かが倒される形で、まぁ・・・・それは今の所ずっとアスランが倒されているのだが。

ただし、最近の稽古はアスランが会得しようとしている戦い方に主眼が置かれていた。


ティアリスは身形の幼いアスランが、それでも自分に勝とうと一生懸命に試行錯誤する姿勢も好きだった。

剣神である自分に対して、アスランは恐れることを知らない。

悪く言えば無謀極まりない愚行とも言えるのだが、アスランは自分に出来ることを工夫して、それも回数を重ねる毎に上手くなっている。


今も、物量戦という以外に言い様がない一度に百を超す攻撃アーツを同時に使った包囲戦術に、ティアリスは少なからず本気で躱し続けていた。

四方八方から止めどなく、地面の下からも頭上からも襲い掛かるアーツは、ティアリスをこれ以上ないくらい緊張させた。

ただ、僅かな気の緩みも許されない極限の状況下を、そこでしか感じられない独特の空気が剣神ティルフィングの心を踊らせた。


怖さよりも嬉しさが勝った。

なにせ、それをしたのは我が主で、しかも主はまだ幼い子供なのだ。

将来、主ともし戦場に出ることになれば、たとえ二人であっても万の軍勢を味方に得た感で戦場を駆けることが出来る。


そんな恐ろしくも頼もしい戦い方を、まだ幼い今のうちから会得しつつあるアスランを遠目に映して、今この瞬間も襲い掛かる嵐のような攻撃を躱し続けるティアリスは無意識の内に微笑んでいた。


(・・・ マイロード。貴方の将来が楽しみです。その貴方に剣を捧げられた事を、私は光栄に思います ・・・)


!!・・・

キィッン!

ギュィィィイインン!!!


躱し続けるティアリスの死角から一瞬の隙を突いて先端を突き刺した槍先は、そのまま高速を超えた回転で唸りを上げた。

地面を突き破って襲いかかった茶褐色の槍が鎧を削る金切り音は、そこから飛び散る無数の火花を映した瞳が瞬間。

ティアリス自身へ死を過ぎらせた恐怖が背筋をゾクッと凍り付かせた。


刹那、致命傷を避けようとした本能が身を翻して、ただ先に触れた後から高速を超えた回転の槍先は、鎧の胸当てを左から右へ一直線に抉りながら突き抜けていった。

その瞬間の金属と金属が火花を散らして削り合う音は、甲高い金切り音だけでなく激しい振動を身体に伝えたことで、思考により一層の死を過ぎらせた。


長く感じたようで、しかし、一瞬とも呼べる時間でもあった。

恐らく1秒間に千は回転しただろう超高速の回転で襲い掛かった鋼の槍が、ティアリスの見開いた眼前で眩い火花を撒き散らしながら突き抜けて行った後。

躱し切れなかったティアリスの鎧は、その螺旋痕が物語るように胸当てをごっそりと抉り取られていた。


この瞬間。

たとえ一瞬でも死の恐怖に似た感覚を抱かされたティアリスは、無意識の内に本気になった。

そして、本気のティアリスは神速で間合いを一気に詰めた流れのまま、刹那としか言えない間にアスランを袈裟懸けに斬り裂いていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・


「マイロード・・・・その、も・申し訳ございません」

「別に気にしなくて良いよ。けど・・・・」

「ば・罰なら如何様にでもお受け致します。この身を差し出せと言われるのであれば、無論そう致します」

「じゃあ、それは10年後くらいにしようか。そうじゃなくてさ・・・あの瞬間。ティアリスは本気になったのかなって。それを聞きたかったんだ」

「はい・・・アーツで地面から繰り出された鋼の槍を躱し切れずに、胸当てを見事に抉られました。その瞬間にはもう体が勝手に・・・。ですが、申し訳ございません」

「そっか。僕はほんのちょっとでもティアリスを本気にさせられた。手加減無しの本気のティアリスってさ・・・・・僕は一歩も動けなかった。あの気迫に僕は動くことも出来ずに斬られたんだ」

「マイロード。申し訳ございません」

「ティアリスは謝ることなんかないよ。確かに一歩も動けないくらい凄い気迫だった。だけど、本気のティアリスを僕は知ることも出来たんだ。今はまだ無理だけど、僕はもっと強くなって、そして必ず本気のティアリスと最初から戦えるようになってみせるからね」


今回もエレンの癒しが無ければアスランは死んでいた。

にも関わらずアスランも慣れた?わけではないが特に気にもしていない。

今はそのティアリスの膝枕で仰向けに寝た姿勢で、酷く申し訳ない表情を映しながら。

一方で気になっていた部分には、得た返事で納得することも出来ていた。


あの瞬間・・・・・

ティアリスの雰囲気がガラリと変わったのをはっきりと覚えている。

その後は本当に瞬殺だったことも、自分が全く避けることも出来ずに袈裟懸けに斬られたことも。

今の会話でティアリスを本気にさせられたことを知ったアスランは、寧ろそれが嬉しかった。

死にかけたのに妙な満足感を得ている感じだった。

そして、ティアリスと無自覚に交わした会話が、実は大きな約束を結んでいたなどは露程にも思っていなかった。


「マイロードは強くなっています。その強さで5歳などは到底信じられない程の所にいるのです」

「まだ5歳じゃ無いけどね・・・・でもさぁ、本気のティアリスがとんでもなく強いんだって事は理解ったよ。さっきの実戦稽古だけど、本当はあそこからティアリスに仕掛けさせて、まぁ・・・そこまでは予定通りだったんだ」

「予定通りですか?」


見上げる先に映したティアリスの表情が訝しがったのを映しながら、アスランは一度頷いた。


「うん。今までもアーツで包囲戦はしてただろ。だけど、ティアリスをただ囲んで嵐のように仕掛けた所で勝てないことも僕は理解っている。それこそ何度もやったんだしね。だからアーツの使い方にも工夫したんだ」

「そうですね。最初は全方位から囲まれて、勿論それにも私は驚かされました」

「だけど、それだけじゃ勝てなかった。敗因は魔法陣の展開から撃ち出すまでの時間。3秒くらいかな。だけど、ティアリスが囲みから抜け出すのには十分だった」

「はい。私の神速を以ってすれば十分余裕で切り抜けられます」

「そうだね。だから僕も考えた・・・・ただ囲むんじゃなく包囲網を幾つかのブロックに分けて、それも五段構えにした。そうすることで包囲網を完全に突破される前に撃つことが出来るようになったんだ」

「あれは正に物量戦でした。言うのは簡単ですが、それを実際にやり切ってしまう。マイロードのような魔法の使い手は恐らくこの時代にはいないでしょう」

「どうかな・・・・だけど、物量戦は消耗を強いられる。マナもだけど、空間を把握し続ける事で特に集中力を使うんだ。そこでティアリスに持久戦をされたから僕はまた勝てなかった」

「それでまた考えたのですよね」

「うん。包囲戦は一番有効だと思う。前にティアリスからも教えられたけど、一人を多数で囲んで討つ。これは味方を悪戯に傷付けさせずに勝てる最も常套的な方法だって。だから、今でも基本は包囲戦なんだ。囲み方とかは色々考えているけどね。あと、どうせ躱されるなら此方の思惑通りに躱してもらおうって。これは結構上手く行ったよ」


結構上手く行ったと語る主を映して、しかし、ティアリスの方は視線が僅かに細くなった。

さっきの実戦稽古において、四方八方から止めどなく仕掛けられるアーツを用いた包囲波状戦術とでも呼べる戦い方について、自身が躱した方向は主の狙い通りだった。

そう解釈できる発言に、ただ、続く主の言葉でティアリスにも思い当たる節を抱かせた。


「ティアリスの判断は物凄く早い。だからそれも利用したんだ。魔法陣だけを態と見えるように展開したら、その角度とかだけでティアリスは動いてくれた。位置と向きを調整して右に行かせたりとか。後ろに下がらせたりとかは狙い通りに出来たんだ。そして、予め不可視化の魔法陣を置いた所にティアリスを誘導してアースランスを撃ったんだよね」

「!!・・・・確かに、そう言われるとあの時の流れは・・・・なる程。私は魔法陣の展開されていない所へ次々と移動しながら。ですが、それはマイロードの策だった。そして、あの胸当てを抉り取った一撃へ繋げたのですね・・・・見事です」

「うん。でもね・・・・不可視化したんだよ。しかもそれまでずっとティアリスの注意を見える方の魔法陣と、どうせ躱されるからって威力の殆ど無い見せかけの攻撃に視線を向けさせて・・・・此処までやったのに仕留めきれなかったんだ」

「ふふ・・・・私はあの瞬間に本気にさせられました。ですが、マイロードはもう一つ手を用意していたような含みを持っていましたよね」


・・・・本当はあそこからティアリスに仕掛けさせて、まぁ・・・そこまでは予定通りだったんだ・・・・


「うん。もしも、あの一撃で仕留めきれなかったら。けど、追い詰められた錯覚でも持ってくれたらさ。アーツを使っている間ずっと動いていない僕を狙って突っ込んでくる・・・・その読みも当たっていたんだけど、本気のティアリスの気迫に僕は負けたんだ。全然動けなかったからね」

「マイロードの狙いが理解りました。あそこからマイロードを狙って私が突進して来た時に、恐らくはあの必殺技を繰り出して、その速さを以て私の一撃よりも速く斬る。そういう事でしょうか」

「まぁね。作戦全部は出来なかったけど。相手がティアリスでも思惑通りに運べるやり方もある。それが分かったことが収穫かな。もっと工夫が必用だけど、最後の斬り込みまでを僕の思惑の中で運ぶことが出来れば。そこであの必殺技を使えれば・・・・勝ち方が一つ出来る」


ティアリスにとって主が此処まで戦術を練っていた事は、実感した分と合わせて素直に驚きを受けていた。

もっと工夫すると言った主へは、先ほどの実戦稽古では自分が本気になった事だけが主の予想外な部分。

それはつまり、あの一戦が殆ど主の思惑通りに展開されたことでもある。


そして、主の仕掛けた本命の一撃は、それで仕留められずとも続く手に繋がるように仕掛けられてた。

もっとも、あの一撃が自分を本気にさせてしまったことで、その時の気迫に完全に飲まれた主は斬られた。

だが、その動きですらも主の手の内だった事実は驚嘆に値するだろう。

実際、本気になった自分の気迫にさえ飲まれなければ、主は思惑通り飛び込んで来た自分に必殺技を使えたかも知れない。


相手の思考、それは人柄や性格なども含まれる要素。

主は自分の事をよく見ている。

だからこそ、最後の一手まで読み切れた。

これも主が持っている才能の一端なのだろう。


「・・・前々から思っていましたが、やはりマイロードは末恐ろしいですね」

「そうかな?・・・でも、何万回も負けたらさ。やっぱり勝ちたいって思うよ。このまま負けっぱなしなんて絶対嫌だからね」

「ふふ・・・・~~~~!!・・・すみません。つい笑ってしまいました。ですが、その負けず嫌いな所がマイロードを強くしている。そう改めて納得しました」

「ティアリス。今はまだ出来ないけどさ・・・・勝ち逃げなんかさせないから。必ず強くなって追いつくよ」


主の子供らしい表現かは別に、ティアリスの方は返って来た言葉へ素直に嬉しいと抱くことが出来る。

競うという意味で、いつか主と本気の剣を向け合いたい。

それは剣神としてこれ以上ない至福とも言えよう。


今は幼子でも、この成長の速さで後10年・・・・・・・

ティアリスにとって、それは心が踊らされる未来図に他ならなかった。


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