第32話 ◆・・・ 得た知識の成果 ・・・◆
今日も孤児院の中は雰囲気が荒れている。
少なくとも、アスランはそう感じていた。
カールやシャナ達のグループは嫌がらせを何度も受けたせいで、明らかに神経が尖っている。
それは他も似たり寄ったりで、とにかく居心地は全く良くない。
何と言うか、何処にいても安心出来ない感が顕著だった。
そして、子供たちの今の雰囲気は大人達も当然分かっている。
アスランは自分の仕事もあって、特に関わる時間の多いエストから肌で感じている。
だから、そのエストと他のシスター達が、今は四六時中何処かピリピリしているくらいは、原因も含めて察していた。
孤児院では朝食の前に建物続きの教会で必ず朝の礼拝がある。
夕食の前にも同じ様に礼拝があり、と言っても皆揃って神様に祈りを捧げるだけだから難しくはない。
両手の指を交互に折り重ねるように合掌して、後は黙祷するだけ。
朝の礼拝では今日一日が良いものとなるように祈る。
夕方の礼拝では一日が無事に終わったことの感謝と、良い夢が見られるように祈る。
これは神父様から皆が教えられる。
ところが、それが今では何処か空気が殺伐としている。
原因はあるし、けれど神父様はそれについて『今はまだ仕方ない』と言っていた。
孤児院にはアスランも含めて、数日前まで21人の子供が共同生活していた。
その21人の子供を、3人のシスターと神父様の大人4人で面倒を見ていた。
今は子供の数が58人へ増えたのと、そのために王都の大聖堂から10人のシスターがここに勤めている。
幸いなことに、孤児院は元々100人くらいが生活できる造りだったことで、部屋の数は十分に足りている。
寧ろ、今まで使われずにいた部屋の掃除で、先日は雨空でも大掃除をした。
荷馬車が何台もやって来て、寝具をたくさん運び込んだ。
その受入準備のために、大聖堂から10人のシスターが先にやって来て、そして全員で大掃除をしたあの日の朝。
アスランも含めた子供たちは朝の礼拝の時間。
その時にスレイン神父の口から『今日から此処に新しい家族が増えます』と、続く言葉で37人も子供が増えることを初めて知った。
その子供達が他所の国の子供で、故郷で起きた戦争の影響により着の身着のまま避難してきた事などをアスラン達は聞いている。
その後で、一気に増えた子供達の面倒を見るために大聖堂で働いていたシスターが10人。
今日から此処で生活する事も聞いている。
お昼過ぎまで掛かった大掃除は、大人も子供も汗だくになって、そして綺麗な部屋を幾つも作って歓迎の用意は済ませることが出来た。
夕方よりも少し前。
午前中には荷物を届けた馬車に、今度は大勢の子供が乗ってやって来た。
そして・・・・・・
孤児院の空気はその晩から不穏になった。
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今日も午前中、アスランはいつもと同じように事務室へ入ると、任されている仕事に取り掛かった。
アスランが任されているのは、エストが責任者として受け持っている帳簿の整理。
この日も先にアスランが事務室に入って、そして帳簿を付けるのに必用な伝票などを項目別に仕分けしている所へ、少し後からエストもやって来た。
けれど、ドアと壁越しに聞こえる喧騒は、今日も早速始まった事を告げていた。
子供同士の喧嘩の声と、それを諌めるシスター達の苛立つ声。
アスランは横目にエストを映して、たった数日で酷く疲れ切った表情のエストが、特に心労を抱えていることも分かっていた。
「・・・・分かっていたけど、やっぱり他所の土地から来た人には、シャルフィの水は馴染み難いわよね」
「そうですね。と言っても元から此処で生活している人達だって、この時期の井戸水が酷く不味い事は分かりきっています。あの独特の泥臭さ。僕だって口にしたくない思いはあります」
「そうね。そういう意味では悪い時期に受け入れてしまった。水の事だけではないけど、それでも水の問題も今聞こえる喧嘩の声の原因に関わっている。文化や風習だけが喧嘩の原因じゃないわ」
「水の問題。これはお金があれば片付きます・・・と言っても、綺麗な水や浄水器を買えるだけの予算が此処にはありません。エスト姉が毎日泥臭さを抜くために苦労している事は僕も見ています。だけど、トーマさんの家もメニラ婆ちゃんの家もですが、泥臭さを全部抜き取ることは不可能だって。時期の問題だから梅雨が終わるまでの辛抱って聞きました」
「そうよ。私も此処で育ったからだけどね。梅雨と秋雨の時期だけは仕方ないって思っているわ。だけど、秋雨の時期は梅雨のように長くないし、川の水も直ぐ綺麗になるから。やっぱり梅雨よね」
「まぁ、これがシャルフィの文化というか風習というか。水道事業がもっと進捗すればいつかは期待できるかも知れない。だけど、その前に今は・・・・目の前のこの問題ですね」
「そうね・・・・だけど、大聖堂から手伝いに来てくれたシスターの方達は本当によく頑張っている。戦争で家族を亡くした子供は特にだけど、それでも皆が心に大きな傷を抱えているわ。そのせいで夜になると大声で暴れてしまうほど・・・・戦争など起きなければ・・・・」
アスランは新聞を読むことで、今回の難民保護についてある程度は知っている。
大陸西側で一番大きなヘイムダル帝国と、その北側の独立した海上交易都市ルテニア自治州との間で今月の初め頃から戦争が起きている。
新聞には明確な戦争の原因までは書かれていなかった。
ただ、経済上の問題が引き金になってヘイムダル帝国が一方的に戦争を起こした。
そういう感じに受け止められる記事は、攻め込んだ側のヘイムダル帝国が自治州の街を幾つも襲って、そこで市民を容赦なく殺し尽くした。
そういう記事が一度載っただけで、来週にはまた新聞が届く。
シャルフィの新聞は毎週月曜日に発行される。
アスランは来週の新聞に、この戦争の記事の続報が載ってくれないかと気になっていた。
「僕は今まで他所の国へは行った事がないので分かりませんが、それでも耳に入った声だけで、食事の文化の違い以外にも、考え方の違いとか。それで一つ分かったんです。シルビア様は他所の国と外交という仕事をするときに、きっとこういう部分の問題とも向き合っている。本当に大変で難しい仕事を頑張っているんだって。だから、僕はせめて此処では争いを起こさない側に居ます」
「そうですね。シルビア様の外交という仕事ですが、今回のような事が起きないように、そのために戦争をしてはいけない。そういう外交をしているんです。だから今回の事はシルビア様も・・・・そう思うと、私ももっと頑張らないといけない。そう思っているのですよ」
「エスト姉。頑張ることは大事かもしれませんが、そんなに酷く疲れた顔だと僕だけじゃなくカールやシャナ達も心配してしまいます。だから、休むことも大事です」
「そんなに疲れていませんよ。年寄り扱いしないで下さい」
「確か、エスト姉は今年で17歳になるんでしたね。僕よりは十分年寄りです」
ポカッ☆
軽く小突いた握り拳は然程には痛くもない。
ただし、アスランの瞳が映すエストは、笑みとは別に血管が浮き出ている。
普段のエストなら笑って済ましてくれる程度でも、今回は確実に導火線へ火が付いた。
それくらいは今のアスランにも容易に察することが出来る。
「ア・ス・ラ・ン・・・・・年頃の女性に年齢のことや、年寄り等と言えば。心の広い私以外だと拳骨では済まない事もありますからね。肝に銘じておきましょうか」
「了解です・・・・以後気を付けます」
アスランはこういう時は素直に言うことを聞く。
それが例え理不尽だと抱くことであっても。
此処で拗らせると怒りの炎が周り一帯へ広がってしまう。
これも日頃からエストを見ているアスランが知っていることだった。
現在の孤児院は問題を多く抱えている。
■独特の臭いがする水の問題
※水だけなく、食事全般に悪影響が起きている。
■戦争の影響で、夜になると狂ったように騒ぐ子供が何人もいる問題。
※シスターさん達が昼と夜とで交代しながら働いている。
※闇が怖くて発狂する以外に、火を見ただけで発狂する子供もいる。
■文化の違いなのか、上から目線で当番仕事をあからさまにサボっても謝罪しない子供が多数いる問題。
■避難してきた子供達と、元から此処で生活している子供達との間で喧嘩が絶えない問題。
※食べ物の好き嫌い
※考え方の違い
※弱い者いじめが活発化している。
悪影響は波及しやすい。
子供の人数が一気に増えた孤児院は、特に力の強い男子が全体を仕切ろうとする傾向が顕著になった。
カールやシャナ達のグループも度々嫌がらせを受けた事で、新しくやって来た子供達の一部とは明らかに距離を置いている。
7人だけになっていた苛めグループは、新しくやって来た子供達のグループと特に喧嘩が絶えない。
そして、新しくやって来た子供達の方も幾つかのグループが出来上がると、縄張り争いのような喧嘩も起きている。
ただ、逆に部屋に引きこもって出て来ようとしない子供も数人いる。
数日前には皆で歓迎の雰囲気を作って迎えたはずなのに。
たった数日で雰囲気が悪くなると、それ以前の平穏は何処かへ旅立ってしまった。
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「マイロード。表情が優れませんが、やはり孤児院の事で悩んでおられるのですか」
今は姿を消しているティアリスから、耳元に小さな声で尋ねられたアスランは、ため息を一つ吐き出した所で無言のまま頷いた。
午前中に起きた騒動で、大人たちも子供たちも空気がピリピリしている。
そのせいで昼食の時も今も雰囲気が良くない。
原因の一つは水の問題で、それ以外にも要因はある。
ただ、この時期特有の水の問題について、それは今日の食事の時間にも『臭い』『不味い』と言った不満の声が幾つも聞こえた。
午後の自由時間になった今、雨が降っているので外に出られないアスランは、此処が一番落ち着く図書室に篭っていた。
シャナとカールの二人から誘われたのだが、この日のアスランは思い出した事を頼りに図書室で本を次々開いていた。
何かを探すようにページをパラパラ捲っては、その本に載っていないと分かると直ぐに別の本をまた同じ様に捲る。
そうして既に1時間以上も本を捲る作業に没頭していた。
「マイロード。先程からずっと本をただ捲っているようにしか見えませんが。何か探しているのでしょうか」
「あぁ・・・・うん。ちょっと探しものかな。前にチラッと読んだ本なんだけどさ。汚れた水を綺麗にする・・・・。確かそんな内容が書かれた本があったんだ。それを思い出してさ。だから探している」
「それは、浄水技術の事でしょうか。濾過という方法で水から不純物等を取り除く技術ですが。マイロードはその内容が記された本を探しているのでは」
「そうだけど・・・って。ティアリスは知っているの?」
「なるほど。では少しお待ち下さい」
待つようにと言ったティアリスが一度姿を現すと、何か黙祷のような姿勢で、けれど次の瞬間。
今度は突然歩き出したティアリスが、まるで狙い澄ましたかのように本棚の一角から一冊の分厚い本を引き抜くと、そのままアスランの所へ戻って来た。
「マイロード。この本に浄水技術の記述が載っています」
ティアリスはアスランが使っていた机に本を置いた後で、そして此処でも分かりきった感じでページを捲ると、指さされた箇所には確かに載っていた。
「今のって・・・何か神様にしか出来ない特殊な力みたいなものなの?」
「まぁ、そういう感じの解釈で合っています。その・・・差し出がましい事だったでしょうか」
「ううん。助かったよ。それにティアリスのおかげで探している本が見つかったんだ。ありがとうございます」
「いいえ。私はマイロードの臣下です。御身のお役に立てる事が何よりの幸せです」
既にまた姿を消したティアリスの、声だけで嬉しそうな表情が分かる。
再び今度は視線を本へ戻して、浄水技術に関する記述を読み始めたアスランは、そこに記された濾過装置の仕組みについての記述に視線が留まった。
記述によれば、濾過の仕組みには幾つかの方法がある。
その内の一つについて、アスランは何となく身近なもので代用出来そうだと抱いた。
一先ず、代用出来そうな記述箇所をノートへ写したアスランは、そこから続く記述にまた視線が留まる。
ここまで読んだ部分には、濾過によって水から不純物を取り除いて綺麗にする仕組みが記されていた。
今、アスランが気になった箇所に記された内容。
そこには水に溶け込んだ独特の臭いを浄化する方法が載っていたのである。
「・・・・無いなぁ。臭いの浄化に必用なのが植物という事までは書いてあるのに。肝心の植物のことだけ載っていない・・・・」
記述を何度か読み返して、そして載っていない事がはっきりしたアスランは、けれどやはり諦めきれなかった。
水の問題が解決出来れば、それはエスト姉を少しは楽にできると抱いたアスランに、それまで沈黙を通してきたティアリスから『必用なのは薬草です』と、再び手を差し伸べてきた。
「マイロード。今よりも古い時代ですが、この地の水に含まれる独特の泥臭さを解消したのは薬草です。それも、今でも簡単に手に入るもので解決出来ます」
「薬草?」
「はい。マイロードも大好きだと言ったあの花をつける薬草です」
「それって・・・まさか、カミツレのこと?」
「そうです。カミツレが薬草であることはご存じですか」
「うん。それは知っているよ。図書室の本にも載っていたけど、腹痛を緩和させる薬になるんだよね」
「カミツレの薬効はそれだけではありません。使う箇所によって鎮静剤、鎮痛剤、解毒薬など、一つの薬草で実に多用途に使える万能薬です。そして、水に含まれる独特の泥臭さは土の成分だけなく、目には映らない微生物が働く事で作られています。こちらでも水を一度大釜で沸かして、その湯冷ましを利用していますよね。実はその文化こそが古くから在る方法の名残なのです」
「そうだったんだ・・・・図書室の植物関係の本は全部読んだことがあるけど、カミツレにそんなに効果がある記述は無かったんだ。だから凄く驚いた」
「私の知識がマイロードの役に立つ。私はその事にも喜びを得られます。ですから、どうか私を頼って下さい。私はマイロードのお役に立ちたいのです」
「ありがとう。ティアリスのおかげでちょっと閃いた。濾過装置とカミツレを使った浄水器を作ってみるよ」
本を棚に戻して、それから筆記用具を手に図書室を出たアスランは、ドアに鍵を掛けた後で事務室へ赴いた。
ここの図書室について、神父様から特別に出入りの自由を認められているアスランだったが、条件も課されている。
本がとても高価で貴重なものである以上、それに何かあっては困る理由で、アスランは施錠管理を必ずする事を条件に、出入りの自由を認められている。
事務室へ鍵を戻したアスランは、直ぐ次の行動に移った。
必用な材料について、それもアスランには目処が付いている。
出向いた場所は倉庫。
此処にはゴミ同然に置かれた物もあり、それも壊れたなどの理由で使うことが出来なくなった物を、纏めて後から廃棄処分に回している。
その場所で、アスランはてきぱきと必用な材料を選別していた。
底に小さな穴の空いた水桶は、前に自分が置いただけに直ぐに見つかった。
それ以外に、これも使い古されてゴミになった麻袋を何枚か手に取った後で、今度は孤児院の炊事場へ向かった。
炊事場の窯から手頃な炭を必用な分だけ炭桶に集めたアスランは、他にこれも倉庫からの移動の途中で集めた玉砂利と、移動中にも話を聞いて用途をある程度イメージ出来たカミツレは園芸用のシャベルで根から土ごと持ち込んでいる。
一通りの材料を揃えたアスランは早速取り掛かった。
濾過した水が最後に滴り落ちる箇所の製作は、先ず穴の空いた水桶の加工から始まる。
空いた穴の縁は腐食した箇所を綺麗に削って整えた後で、そこへ麻袋をハサミで切って用意した麻布を栓代わりに詰め込んだ。
最初、ゴミとなった古着を使うつもりだったアスランは、けれど倉庫で異臭を放つ古着は、それだけで使用を諦めさせた。
そうした事情もある中で出来た器の部分は、細かく砕いた炭を底から厚めに敷き詰めた後、蓋をするように麻布を敷く。
底から一段目が出来上がった所で、今度は同じ炭でも粗い状態のものを敷き詰める。
隙間には細かく砕いた炭を使って平らに整えた後、また同じ様に麻布で蓋をする。
最後に蓋の上から玉砂利を敷き詰めて重石代わりにすると、これで濾過装置の部分は完了。
出来上がった濾過装置の部分は、予定通り水桶の底から7割くらいを埋めていた。
次は井戸水独特の臭いを取り除く部分。
図書室でも聞いたし、此処までの移動中や作業中にも聞いたティアリスの持つ知識は、アスランがカミツレに抱く思い入れを一層深くした。
そのティアリスの話を基に、アスランは調理場で取っ手が壊れて使われなくなったザルを手に取ると、濾過装置へ改造した水桶の上の部分。
出来上がった濾過装置の部分を壊さないように、ザルの網目状の金具を押し曲げながら慎重に嵌め込むと、先ずは大枠の型を取った。
大枠の型を取った事で変形したザルは、そこで今度は底を平らにしてまた嵌め込む。
上手く嵌まるまで何度か作業を繰り返したアスランは、まぁまぁ納得できた所で次の作業へ取り掛かった。
アスランが作っていたのは園芸などで使われるプランターのようなもの。
容器の部分をザルで作ったアスランは、内側に此処でも麻袋を加工して作った布を敷く。
これもそうしないと水を流し込んだ時に、網目から水以外に土まで流れてしまう事を考えたアスランなりの工夫は、そこへ洗って綺麗にした玉砂利を敷いて、その上に細かく砕いた炭を混ぜ込んだ土を盛った。
こうして出来上がった土壌部分にカミツレを移植して出来上がったプランターを、最後に濾過装置の上に丁寧に嵌め込む。
プランターと濾過装置の間には、指一本分くらいの隙間を作る。
これもイメージ通りに出来た所で、思い付きから始まった浄化装置の試作品は一先ず完成した。
何故、プランターにしたのか。
ティアリスの話を基に、カミツレの根の部分。
生きた根の部分は特に毒素等を浄化する作用が強く、カミツレが生育している限り極めて強い効果を生み出す。
それによって、カミツレが群生している土地は土壌にも薬効性が染みこんでいる。
カミツレの根が持つ薬効性について。
微生物が作り出す毒素程度なら、極少量のカミツレで浄化し切ってしまえるほど薬効成分が強い。
そのカミツレは繁殖性が強く、苗一株でもあれば後は勝手に増えてくれる。
ただし、適度に間引きをする作業が必用で、そうしないと過密に伴って根が腐ってしまうらしい。
此処まで炊事場を半ば占領して行われたアスランの作業は、その途中からじっと見つめる視線が幾つかあった。
それはアスランも姿を消しているティアリスから小声で聞いていたが、別に気にもしなかった。
ただの工作。
そう。
子供が思い付きと遊び感覚で作ったカミツレの薬効を利用した浄水器の試作品。
ただそれだけ。
そういう訳で、これから実験しないといけないアスランとしては、構わず無視して欲しかった。
にも関わらず、大聖堂から来たシスターの中で一番若いシスターが傍に近づいてきた。
「あの、貴方が今作っていたものは何でしょうか?」
まだ此処に来てから日が浅いシスターは、アスランの名前を憶えていなかった。
けれど、アスランの方はそのシスターの名前を憶えている。
事務室で仕事をしている時にも挨拶だけはしていた。
確か、エスト姉の初等科時代の先輩で、名前はアンジェリーク。
「アンジェリークさん・・・でしたよね。えっとですね。これは図書室の本から得た知識の応用です。試しに作っただけなので実験はこれからなんですが、浄水器のようなものです」
「浄水器というのは、あの浄水器のことでしょうか」
「アンジェリークさんがどの浄水器を指しているのかは分かりません。ですが、僕が試しに作った浄水器みたいなものは、水道事業で耳にする浄水器と近い感じのものです」
何か態とらしい感じで浄水器を尋ねられた。
アンジェリークという人は、多分だけど上から見る感じの人なんだろう。
アスランが暗に警戒心を抱いたアンジェリークは、浄水器だと聞いて今はもう傍を離れていた。
少し離れた所から他のシスターたちと今もこちらを見ていたが、アスランは構わず実験に取り掛かった。
試作品の浄水器を空の水桶に軽く嵌めるように乗せた後、別の水桶に水瓶の水を移して、それを静かに流し込む。
水瓶の水は自分が今朝井戸から汲んできたもので、静かに流し込んでいるのに臭いが立つ。
この独特の泥臭さは、水汲みの当番で慣れたと言っても良い感じは全くしない。
寧ろ、こんな臭い水をエスト姉がまだ飲めるくらいにしている努力を思うと、『文句があるなら生水を飲んでみろ!』そう言いたかった。
水桶一杯分の水を静かに流し込みながら、途中で底の方から滴り落ちる水音が聞こえてくる。
流し込んだ水がある程度落ち切った所で、アスランは浄水器を外して先ずは臭いを確かめた。
「・・・・・ティアリスの言った通りだね。これだけで臭いがこんなに取れるなんて・・・・本当、驚いたよ」
「マイロード。お見事です。この濾過水を一度熱して殺菌すれば、それだけで臭いがもう少し抜けるはずです」
窯にはまだ火種が残っていた事で、アスランはこれも慣れた手つきで火を起こすと、濾過水を移した鍋を火に掛けた。
その後はティアリスから聞いた事と図書室で走り書きのように写した内容を、同じノートの中で改めて書き直す作業に取り掛かった。
そして、鍋の水が良い感じに沸騰してきた頃、流石に子供が一人で炊事場の窯を使っている話題は広まったようで、内容を耳にしたエストが足早に姿を現した。
炊事場へやって来たエストは開口一番、『話を聞いて来てみましたが、やはりアスランでしたか』と、視線が合ったアスランには、エストがどんな話を聞いたのかは別に、ただ、話題の子供には見当が付いていた感じにも映った。
そのエストはアスランの傍に近付いて、そしてアスランが鍋で水を沸かしている。
ただ、此処へ来たのは子供が一人で窯で火を起こしている話題と、その時に耳にした浄水器の事もあった。
「アスラン。アンジェリークさんから聞きましたよ。貴方が浄水器を作って、その実験のために炊事場を占領していると。これはその浄水器を使って作った水を沸かしてるのでしょうか」
「占領した覚えはありませんが・・・・まぁ、そうですよ。前に図書室で読んだ本の中に、浄水技術の事が書かれた本があった事を思い出したんです。それで今日はシャナとカールの誘いを断って探していたんですが、見つけた後で読んでいる内に何となく作れそうな気がしたんです。それで思い切って作ってみました」
「貴方が図書室で熱心に本を読んでいた事は知っています。ですが、そのような専門書があったことは初めて知りました。しかもそれで作るだなんて・・・・」
エストはアスランが井戸から汲んで水瓶に移した水を使う側で、そして朝食作りのために一番最初に触っているから分かる事がある。
今朝はもっとグッと来る泥臭さだった。
それが今は立ち上る湯気にも臭いがそれ程感じられない。
はっきり言って川の水と殆ど差がなかった。
ハッとさせられた後で、しかし、エストは火を使う作業をまだ4歳のアスランにさせる訳にはいかない立場上で代わると、ただ、この時は沸かした鍋を下ろしただけなのだが。
先にテーブルへ鍋敷きを置いて、その上に鍋を乗せた後、そこへアスランが用意したコップにまだ冷めていない湯を流し込んだエストは、何度か息を吹きかけてから静かに口に含んで、そしてアスランが取り組んだ結果に驚きの後から自然な笑みが浮かんだ。
「アスランが作ったという浄水器ですが。貴方は今日、とても素晴らしい偉業を成しました。こんなに臭いが取れるなんて思ってませんでしたよ」
「じゃあ、エスト姉が井戸水で苦労することも無くなりそうですか」
「え・・・・」
「僕は毎朝水を汲む当番なので、だから分かるんです。エスト姉が臭いを取るのに香草を使ったりして手間を掛けているくらいは知っています。それでも、やっぱり臭いが残るから皆が嫌そうな顔をする。何とかしたいなって・・・・それで思い出して、此処にある物で作れそうだったから試しにやってみたんです」
確かにエストはこの時期の水について、特に井戸水独特の臭いには苦労している。
元から暮らす子供達も良い顔はしないし、そして新しく家族になった子供達は更に露骨な嫌悪を見せている。
その事が原因で、食事を粗末にする子供もいる。
特に新しく家族になった子供達が食事を粗末にする光景は顕著で、大人の側がいくら注意しても、その大人達でさえ内心では理解も出来る複雑さを抱いている。
料理を作る際に使う水が臭いことが、結果的に料理そのものを不味くさせてしまう。
この問題は、シャルフィであればどの家庭でも一様に抱えるものでもあった。
故に、エストに何かしらの不手際が在る問題ではなかったが、此処数日の間で責任のような感情が一気に膨らむと、それは胸の内を痛みと苦しみで染めていた。
エストはこの問題で、スレイン神父と周りのシスター達から何度も労われていたが、実はもっと身近な所で見ていた存在が居たことを知る。
しかも、現実に解決しようと取り組んでいた事を知って、それはエストの胸の内をどうしようもなく熱くした。
アスランも自分の苦労を見ていた。
そして、何とかしたい思いで浄水器を作った。
その心遣いだけで、この時のエストは涙が滲むくらい嬉しかった。
救われたとも抱いた感情は、そこへ現実に浄水された水の美味しさが加わると、無意識の内に頬に川を作った。
それくらい嬉しい感情で満たされていた。
アスランが浄水器を作った事と、その後で行われた実験。
この話題は当然、スレイン神父の耳にも届いていた。
エストよりは後で、湯を沸かした鍋がテーブルに置かれた辺りから覗いていたスレイン神父の瞳には、笑みを浮かべて涙を流したエストの心情が痛いほど伝わった。
耳に届いたエストの感想は、浄水の実験が成功した事も察することが出来る。
スレイン神父は自らも炊事場の中へ入ると、まだ熱い湯を吐息で冷ましてから口に含んで、エストの感想と同じ感想を紡いだ。
スレイン神父の感想の後、それまで見守っていた?他のシスター達まで我先に群がった炊事場は、ただ、浄水された湯の感想は皆同じような言葉が並んだ。
しかし、同時にまさかこんな子供が作った手製の浄水器が等という驚きも隠さなかった。
スレイン神父から浄水器の仕組みを尋ねられたアスランは、自分が試作品を作るに当たってノートに書き記した内容と図面を見せながら質問に答えた。
アスランが話す濾過装置と、薬草を使ったプランターを組み合わせた浄水器の仕組みの解説は、それを聞いたスレイン神父を熟考させた。
そこには濾過装置の仕組みよりも、神父自身が知らない薬草学の知識が多く含まれていたからである。
「アスラン。貴方が知り得て応用すらした薬草の知識ですが、此処の図書室にある植物図鑑や書物には無い知識が含まれています。その知識は一体何処で得たのでしょうか」
「僕にはエレンが居ます。そしてエレンとは別の存在からも声を聞くことが出来ます。彼女は、ティアリスはとても色んな事を知っています。それで今回は特に色々と教えて貰いました」
「なるほど・・・・エレンですか。そして、エレンとは別の・・・よく分かりました。アスランのノートですが、此処に記されたカミツレの薬効についての解説部分。これはそのティアリスという方から得た知識ですか」
「はい。その通りです。ティアリスはカミツレがとても素晴らしい万能薬だと教えてくれました。その時に、シャルフィで今も井戸水を沸かす習慣について。これは古い時代から続く文化の名残だと聞きました」
「なるほど。確かに私もアスランと同じ年の頃から既に井戸の水は沸かして飲む習慣で育ちました。私の両親も祖父母もそうでしたよ」
「試しに作った浄水器ですが、鍵はカミツレです。カミツレは使う箇所によって効能が変わります。沸かした湯をポットに移して、そこに花の部分だけを加えて蒸らした後、薬効成分が溶け込んだ湯を飲むことで心を落ち着かせる効果があるそうです。他にも消化不良の改善や、冷え性の予防とか。あとはカミツレから抽出できる油が肌荒れの改善に使えるそうです」
「解毒作用のある薬草として知られているカミツレですが、使う箇所によって効能が様々というのは初耳でした。ですが、実に興味深い話です」
「井戸水の独特の臭いですが、沸かす習慣の由来とカミツレの解毒作用は結び付きがあるんです」
「そうなのですか」
「はい。先ず井戸水の臭いですが、これは目には映らない微生物と、その微生物が作り出す毒素が主な原因です。しかもこの2つは体内に入ると腹痛、発熱、下痢、嘔吐といった症状を引き起こす原因でもあります。子供とお年寄りはそれだけで最悪の場合、死に至ると聞きました」
「確かに、小さな子供や高齢の者達が特に梅雨と秋雨の時期に亡くなる事実はあります。それもアスランが今話した症状から死に至っている事も事実です」
「ですが、この微生物は熱に弱い事が証明されています。井戸水を沸かして飲む習慣は此処が本当の由来です。ティアリスの話では、ずっと昔からシャルフィに在った問題だと聞いています。そして、その時から湯を沸かす事で殺菌消毒する習慣が在ったそうです」
「なるほど・・・・・確かに、湯を沸かして飲む分には臭いはともかく腹痛等は起きた事がありません。そして、臭いの問題を解決したのはカミツレということでしょうか」
「はい。何故湯を沸かす習慣だけが残ったのか。それは昔のシャルフィが今のような栄えた土地ではなかった。そして、カミツレがもっとたくさん咲き誇っていた土地だった事で、水をただ沸かすだけで十分だったと聞きました」
「もう少し詳しく説明できますか」
「はい。これは生薬を用いた薬学らしいのですが、薬草を乾燥させて煎じたりするのではなく、生きている薬草が持つ生命力を利用した薬学があったそうです。カミツレの根の部分。此処には毒素を浄化する力があります。それは生きている根であれば薬効が非常に強く、水に溶け込んだ臭い。この毒素を問題なく浄化するそうです。浄化については生水の段階で臭いがかなり消えることを確認しました。そして、微生物が持つ臭いの方ですが、これは加熱殺菌によって取り除けます」
「今の話ですが、毒素の部分について。これは加熱しても臭いが残る原因は、毒素が完全には消えていない。そういう事でしょうか」
「それはですね。説明が足りませんでした。微生物とその体臭は加熱殺菌で解決します。毒素の内、加熱によって直接死に至る部分のみは排除出来るそうです。ですが、気分を悪くする臭いも直接の死に至らないだけで、やはり毒素なんです。湯冷ましでもそのまま飲むと気分を悪くしたり嘔吐に至る部分がこれに当たります。そして、これは無理に飲み続けると精神を病んだり、食事を受け付けなくなる。そういった負の連鎖を引き起こして、複数の要因が絡んだ結果で死に至る事があります」
「・・・・・それで、カミツレを使う理由が生まれるのですね」
「はい。カミツレの根が持つ強い解毒作用は、この臭いも含めた毒素を浄化します。そして、茎や葉の部分。此処には食欲の促進と消化の促進作用があります。花には心を落ち着かせる薬効と、その効果の作用で安眠を促す効果。そして鎮痛作用もあります。また、根の部分についてですが、土を洗い落とした状態の物を直接口にする方が微生物が原因の腹痛には特に有効です」
「今聞いた知識ですが、ティアリスという方からアスランは学んだのですね」
「はい。ティアリスの知識のおかげで僕は浄水器を作ることが出来ました。あと・・・」
「何でしょうか」
「根の部分を直接口にすると物凄く苦いです。ですが身体に悪い事はないので、ずっと昔のシャルフィでは、悪いことをした子供の躾にも使っていたらしい話も聞きました」
「そうですか。なるほど・・・それはとても意義のある話でしたね」
アスランがスレインに話した内容は、それよりも前にアスラン自身がノートにも書き記している。
アスランは後から更にノートを整理するつもりでいた。
一方で、そのノートを瞳に映したスレインは、特に整理しなくても見やすく纏められた書き方を最初からしている印象を強く抱いた。
それこそ4歳の段階で此処まで完成された技術を持っている。
自身の学生時代と比較しても遜色ない纏められ方に、指導したエストの素質を更に評価していた。
ノートの纏め方も評価したスレインは、ただ、精霊の持つ知識の凄さには畏怖を感じていた。
リーベイア大陸では今でも薬草学に関して、教会総本部の右に出る存在はいない。
スレインも大聖堂に勤めていた時には、この薬草学に特に力を入れて学んできただけに、故にカミツレの事では、知らなかった事実を耳にした驚きは小さくなかった。
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王宮にある執務室で、この日の昼休みの時間。
シルビアは午前の内に届いたスレインからの手紙に目を通して、そして凍りついた。
それは近くで話し相手を務めていたカーラにも分かるほどあからさまだった。
手紙を掴む両手が震えていたこと以外に、シルビアの表情から強い緊張が伺える。
狼狽しているとも受け取れる雰囲気は、それだけでカーラにも何かあったくらいは直ぐに抱かせた。
カーラの思考は先ず差出人がスレインである点だけで、今の震えて凍りついたシルビアの雰囲気とを合わせれば、明らかに悪い報せだと思わせた。
更に紡がれたシルビアの声にも震えが混ざっていた事で、何か予断を許さない事態だと身構えさせた。
「・・・カーラ。申し訳ないのだけど、今直ぐ孤児院へ行って貰えるかしら。このスレイン先生から届いた報せの内容。私は出来るなら直に確かめたいのよ」
「何かあったのですか」
声の感じと雰囲気だけで、カーラは一層の緊張に包まれた。
だが、尋ねた後の返事の内容に、それを聞いたカーラはどっと安堵の息を吐き出していた。
「アスランが・・・・浄水器を作ったらしいのよ。この手紙にはスレイン先生が写しで図面も書いているのだけど、そのスレイン先生も記している通り、特筆すべきは薬草を使っている部分なのよ」
カーラ自身が抱いた不安は一先ず旅立った。
そして、シルビアから手紙を受け取ったカーラは直ぐ内容へ視線を向けて、何故シルビアが凍りついたのかを理解した。
同時に、今度は記された内容で自身が震えている事を自覚していた。
スレインからの手紙は、文面全てに目を通したカーラにも、見て分かるほど驚きの色を滲ませていた。
「精霊とはこのような知識すら持っている・・・・・という事でしょうか」
「そうね・・・だけど、リーザはそうした事を私に話してくれた事がないから。その辺りは私もはっきりとは言えないわ」
「それは単に、シルビア様が尋ねなかっただけでは無いでしょうか」
「だって・・・事細かに説明するタイプじゃ無いじゃない。どちらかと言うと勢い任せなノリとテンションで突っ走る。そういう精霊なのよ」
「まぁ、確かにそうですね。そういう意味ではシルビア様も似ている所がおありかと思いますが。ただ、この薬草学の知識と臭いの原因が微生物等という点は俄には信じ難いです」
「そうよねぇ・・・・だけど。辻褄は合うわよ。生水を飲むと腹痛や発熱。そして下痢を引き起こす。だから私達も子供の時から沸かした後の湯冷ましを口にしているじゃない。それだと臭いはあるけど飲んでも大丈夫だって教えられたわ。そして、この臭いの原因が微生物とその微生物が作った毒という部分・・・・」
「水を使った食事が原因で起きる腹痛などの理由、確かにこの手紙を読む限りでは辻褄が合います。なにより、アスラン様が作ったという浄水器ですが、濾過装置の構造は中等科で習いましたね」
「そういうことよ。そこに私達の知らない知識が使われて作られた浄水器だからこそ。一度直に見ておきたい。手紙の通りの効果が確認できた場合・・・アスランの実績は任命理由にすら使えるわ」
「そうですね。此処までのテスト結果を実績に使う案もですが、何と言うか・・・いきなり驚かせてくれる。そういう部分は良くも悪くも血統かもしれません。最も、アスラン様のは最良に値しますし、その母の方は最悪のケースもありましたね」
「・・・・しっかり皮肉が込められているわねぇ。だけど、私が気になるのはアスランがエレンの他に、ティアリスという精霊とも関わっている部分よ。一体いつ?それが分からないから一概に喜べない不安もあるのよ」
「シルビア様。一人の人間が複数の精霊と関われる。それは有り得るのでしょうか」
「そうね。私はリーザだけだったから。ごめんなさい・・・私にも分からないのよ。だから不安になるの。アスランが私の知らないこの1年で、その間に何か別の存在になってしまっている。考えたくないけど不安になってしまうのよ」
「・・・・・では、その辺りも出来る限り探って来ます」
「ええ。残り半月くらいだけど、ねぇ♪許可してくれるのなら私が行って、そして直に確かめても良いのよ♪」
露骨に声色が変わったシルビアを見れば、そこには瞳を輝かせて今直ぐ飛び出したい・・・・それくらい分かりやすい女王が映っている。
けれど、カーラは敢えて眼鏡のフレームを直す仕草をすると、それを見ていたシルビアは瞬間。
瞳が映す補佐役を前にして、まるで液体窒素すら凍るような冷気に襲われた錯覚に陥った。
「じょ・・冗談よ・・・・あははは・・・・そ・そんなに睨まないで欲しいのだけど。ちゃんと仕事をしながら待ってるわよ・・・・ええ、勿論。こんなに仕事が溜まっているのに、それを置き去りにして会いに行くだなんて・・・だからね。私には仕事がある。だけど、急ぎで確認も必要だし・・・・それで、頼れる貴女にお願いしたいのよ」
目つきを見れば親友が煮え滾っているくらいは分かる。
そして、自分が午前中に駄々を捏ねて、その結果の今という事も理解っている。
シルビアは、もし午前中から精力的に仕事をしていたら・・・・あるいは・・・・
「はぁ~・・・。シルビア様が朝からしっかり勤しんで頂けていたら。今回はシルビア様でないと判別が付かない事案でしたので。ですが・・・・こういう日に限って・・・朝から寝坊するわ。駄々を捏ねて隠れんぼとか・・・・。おかげで今の有様なんですよねぇ」
シルビアは自分が朝からサボったと言われても仕方のない事実を前に、逆に頑張れば良かったと酷く後悔していた。
同時に、身震いする程冷たく怖い目つきで『では、行って来ますので。帰って来た時に完了していない場合は、相応にお付き合い下さい』と、そんなカーラを見送った早々から8倍速で積み上がった仕事を片付け始めるのだった。
次回の9話ですが、内容に傷害行為や流血といった感じで血が流れる等の表現が含まれています。
それも含めて、R15の対象にもなるかと思いましたので、予めここに記載しておきます。




