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第26話 ◆・・・ 召喚魔法 ・・・◆


夢の中で見た騎士王の姿。

アスランは、その時の夢を、あの日から毎日、見るようになった。

それこそ、本人が眠ることを楽しみにするほど。

場所は戦場ばかりだったが。

それでも、アスランは構わなかった。


透き通った感を抱く綺麗な双剣が、光の軌跡を走らせる。

アスランの瞳へ、金色の閃光を焼き付けた、騎士王の戦い様は、たとえ、夢であっても。

胸を高鳴らせた。


夢の終わりまで、憶えるようになった頃。

アスランは、戦いの後で、此方に振り返るユミナフラウの、その優しく何処か懐かしいとすら抱かされる面持ちに、今朝も見送られるようにして、目を覚ました。


初め、騎士王の夢は、その殆どが空覚え。

けれど、同じ夢ばかりを、毎晩見るようになってから。

所々鮮明に思い起こせるようにもなると、ぼやけた記憶でも。

夢の最後に振り返る、騎士王の優しい面持ち。


アスランは、騎士王の面持ちが、大好きなシルビア様と似ている・・・・・

そう抱くようにもなった。


そのせいか、今までは寂しいとすら抱かなかった感情へ、最近は変化が起きていた。

今はシルビア様に会いたい・・・が胸の奥で燻ぶる。

シルビア様から頂いた手紙には、アスランの5歳の誕生日に、必ず会いに行く。

手紙の終わりの方に記された、この一文へ。


アスランは、胸の奥にある感情へ、我慢で蓋をするようになっていた。

ただ、反対に誕生日までには、自分が目標とした『魔法騎士』に、もっと近づこう。

否、自分がシルビア様に見せたい姿で、会うのだと・・・・・

明確な程はっきりした感情を、抑えた感情と同じくらいの強さで、抱くようになった。


-----


昼下がりの午後。

僕は、いつもの修行場所で、今は日差しを程よく遮ってくれる。

良い感じな新緑が作り出した、木陰の中にいた。


まぁね。

ついさっきまで、魔法剣技の稽古に、汗を流したんだ。

で、その後は、これも小川まで行って、軽く汗を流した所で。

川の水で絞ったタオルで、サッパリと身体を拭いてから、そうして此処に戻って休憩中。


だけど、今日はね、この休憩時間を使って。

僕は、此処最近は特にそう。

自分もやってみたい、って。

この膨らんだ感情に、どうすれば出来るのか。

それを考えていた。


――― 騎士王の双剣の剣術を、自分も会得したい ―――


騎士王の夢を見るようになってから・・・というもの。

光の太刀筋を残す、双剣の技。


僕の中ではだけど、4歳の誕生日の後で、魔法導力の本と出会った時と同じくらい。

それくらい、今直ぐやってみたいがね。

だから、出来る方法を、こうやって考えるんだ。


う~ん、そうだねぇ。

今までは、魔法騎士(●●●●)が、それが僕の、理想だったんだ。


なんだけど・・・・ね。

毎日見るようになった、騎士王の夢がさ。


それで、魔法騎士から、双剣を使う魔法騎士(●●●●●●●●●)・・・だね。

そういう感じに、変わったんだよ。


後は、そう変わって来るとね。

今までの魔法騎士っていうイメージ。

それも、どうせなら、って感じでね。

僕は、自分がコールブランドを握ったイメージで、そこへ前から在った、魔法騎士のイメージを重ねたんだ。


なんかね。

そういうイメージを作ると、僕が、騎士王になった感じにもなれる。

エレンは馬鹿にしてくれたけど。

でも、想像だけなら。

僕が騎士王でも、良いよね。


聖剣伝説物語を、まだどうにか読み始めていた頃。

物語の主人公は、ただの憧れでしかなかった。

その当時は、既に習った素振りを、それも毎日欠かさずしていたが。

意識の置き所は、振った回数だった。

目標の300回を、とにかく出来るようになろうと、それで頑張っていた。


去年の夏。

エレンから、アーツを教えて貰った後。

剣と魔法が使える騎士が、現実に出来るかもしれないと、初めて抱いた。

そこから、なりたい理想の騎士像が、初めて生まれた。


でも、そこにも間違いなく。

憧れの騎士王の姿は在った。

此処から始まって、近付いたも思える『魔法騎士』は、先日からずっと見るようになった、騎士王の夢。

今は、双剣の剣術を、自分も会得したいへ、強く結びついている。


『魔法騎士』から『双剣を使う魔法騎士』へ。


僕にとってこれは、最初の目標が、一歩先に進んだとも言える。

あと、目標の変化。

そこはきっと、これから先も、あるかも知れない。

だけど、多分ね、それで良いんだと思う。


僕は基礎だって、まだまだ足りていないんだ。

で、それは剣術でも、アーツでも同じことが言える。

付け足しで、身体を鍛えるのだって同じ。

勉強も、もっと頑張らないといけない。


それから、シルビア様から出された課題。

僕は、自分が騎士になるために欠かせない課題を、その課題は、今も答えが出ていない。


・・・・・何を守りたいのか・・・・・


シルビア様を守るだけでは、任命出来ないと言われた。

けど、そのシルビア様は、僕が守りたいものの・・・・その中の一つで良いと言っていた。

守りたいものは、一つじゃなくても良いって。


今の僕は、エスト姉や、カールやシャナ達も守りたい。

エスト姉は僕の先生で、とてもお世話になっている。

それにね。

僕が仲間外れじゃなくなったのは、間違いなく、カールとシャナの二人のおかげだ。

神父様にだって、僕は色々と、良くしてもらっている。

農業の事を教えてくれた、おじさんやおばさんだっている。

エスト姉と通った市場でも、色んな事を教えてくれた人が、いっぱい居るんだ。


まだ子供の僕には、みんなを守るって・・・・それを声にして言える自信がない。

だけど、いつか・・・・・

もっと僕が大人になって、それでシルビア様から、騎士にして貰える日が来るまでには、はっきり言えるようになりたい。


あぁ・・・・なんだ。

僕はもう、守りたいものが、沢山あるじゃないか。

それを声にして、言える自信が無いだけで。

でも・・・だったら、やっぱり。

自信が持てるくらい、それくらい努力すれば良い。


今の答えで、良いのかは分からないけど・・・・・

もっと色んな事が、僕にも出来るようになって。

それでまた、変わるかも知れないけど。

多分・・・・僕の憧れだけは、きっと変わらない。


・・・・・僕は、騎士王のような騎士になりたい!!・・・・・


モヤモヤって、してたものがね。

なんかさ。

そう、今日の休憩時間は、とっても有意義だった。


僕が映す空は、何処までも青く澄み渡っていたよ。

うん、夢で見た、騎士王が立っていた、あの場所。

あの場所の空も、同じくらい澄んでいたと思う。


しっかり考えられたから。

僕の中では、一先ず、はっきりしたよ。


僕は、騎士王に憧れているし、それで、コールブランドじゃなくても。

双剣の技を、今直ぐにでも会得したい。


学び方は、それは未だ、分かっていない。

でも、自分が学びたいと思ったものは、これから先も、それを全部、学べばいいんだ。


だから、まぁ・・・・

僕が、こうして自分なりに、はっきりさせた部分だね。

魔法騎士のイメージは、結局だけど、それが騎士王だったくらいも、気付かされたんだよ。


だって、物語の中ではね。

騎士王は、魔法をたくさん使うし、あと夢の中では、双剣を使う姿も見たんだ。


「・・・・ノートを書き直さないと。双剣を使う魔法騎士じゃなくて。僕が目指すのは、騎士王なんだ。だから目標は『騎士王ユミナフラウ』でいい」


思っていることを、それをこうやって、はっきり口にするとね。

恥ずかしいも、それも少しはあるよ。

だけど、アーツだって、そうだったんだしさ。

きっと、積み重ねれば、現実に出来る。

そういう風にも思えるんだ。

 

双剣の技は、教えてくれそうな人も、知らないからだけど。

でも、取り敢えず、木剣がもう一振りあれば。


うん、それくらいなら。

今からでも出来そうだな。


別にね。

手ごろな棒とかでも。

それなら、孤児院の倉庫に・・・・箒の柄とか。


休息は最後、走り書きのノートを閉じたアスランは、スッと立ち上がった。

思い付いたことを、今は先ず。

前向きな感情は、さっそく試してみようが、駆け足で走らせていた。


-----


「はぁ~・・・これもやっぱりダメかぁ」


この日の午後の時間も既に半ば。

昨日まで試して上手く行かずに、それ以外にも現実の壁。

そう言える問題もあった。

昨夜も夢で見た騎士王の戦う姿を、その時の動きを見よう見まねで、やっていたアスランだったが、問題は剣術だけではなかった。


剣技の方は所詮、見よう見まね程度以上にはなりようがない。

ここはアスランも理解っている。


それよりも、今現在一振りしか持っていない木剣とは別に、もう一振り剣が欲しい。

欲しいのだが、アスランはお金を持っていない。

代わりに、この日もまた空き地などで、手頃な樹の枝が落ちていないか。

午後からずっと、今も探していたのだった。


長さと太さと重さで、丁度いい枝を探して・・・・・

けれど、今の所は見つからず。

寿命を迎えてゴミ置き場に捨ててあった箒の柄も、試しに使ってみたが、柄が乾燥しすぎて軽かった。

それでも握った感じの太さが丁度良かった。

だから、一度は使ってみたのだ。


だが、今度は箒の柄が、極端に長過ぎた。

見よう見まねの稽古中。

そこで振り抜いた時に、樹の幹にぶつけてしまうと、真ん中からボキッと折れてしまった。


まぁ、当然だろう。


挙句、腕から肩まで痺れが走って、今は稽古も一休み。

ただ、アスランは休息を兼ねながら、新たな相棒を探して雑木林を歩いていた。


■双剣の剣術課題■

※稽古時間は作ることが出来る。

■課題

●今使っている木剣とは別に、もう一振り木剣が必要。

※手頃な枝でも試してみたけど、違和感しか無かった。

※違和感の原因。それは枝の重さが一番で、後は握った感触と振った時の感覚が、木剣を握る手と大きく違う。

●木剣

※市場で売っている木剣を見て、実際に触らせて貰った感想は、落ちている手頃な枝とは比べられないの一言に尽きる。

※ただし、木剣はとても高価なものだと初めて知った。

●木剣の価格

※店主さんの話では、使っている木材の種類によって値段が異なるらしいのと、後は同じ材質でも大人用と子供用とで値段が変わることを聞いた。

●木剣以外の問題

※木剣がとても高価で簡単には買えない問題とは別に、双剣を使う剣術を誰から学べば良いのか、という問題がある。

※この辺りを担当している兵士さんたちは、槍だけで剣は使わないらしい。


=今現在の結論=

木剣を買うだけのお金は無い。

双剣の剣術を指導してくれる人も、見つかっていない。

よって、双剣については、今以上の取り組みが困難となっている。


ノートに書き込んだ自分なりの所見は、書かなくても理解り切っている。

逆に書くことで、明確に今は方法が無いのだと突き付けられると、また大きな溜息が漏れた。

今は両足を伸ばして、樹の幹を背もたれに楽な姿勢で空を見上げたアスランの、その口から漏れた「剣がもう一振り欲しいなぁ・・・・」は、姿が見えないだけで、傍にいたエレンには聞こえていた。


「(・・・ん?アスランはさぁ。要するに剣が二つ使いたいって事だよね♪だったら、二つ使えば良いんじゃん♪なんで、そんな事で落ち込んでるのか理解らないんだけど・・・)」

「まぁ、確かにエレンの言う通りだよ。僕は騎士王みたいに双剣を使いたいって思ってる。だけどね・・・・現実には問題がいっぱいあって。それを子供の僕には解決出来ないんだ」

「(・・・問題って、ノートに書いていたこと?・・・)」

「ああ、エスト姉に頼んでさ。それで市場で木剣を売っているお店にも行って来たんだけどね。稽古用の木剣が一振りで6エルもするなんて。それだって売っているので一番安いやつだよ。そんなに数は無かったけど。でも高い事だけは理解った・・・・とてもじゃないけど買えないって」


シャルフィでの通貨単位は二つある。

一つはエルと呼ばれる単位。

もう一つはドルと呼ばれる単位。


1エル=10,000ドル


市場にも通うようになったアスランが、そこでもノートに書き込むようになった物価と比較すると、人参1本がだいたい60ドルくらい。

ジャガイモは1個で30ドル程度。

玉葱は大きい物で1個が60ドルくらい。

豚肉の一番安いのが1キロで1,000ドル程度。

鶏肉の一番安いのは1キロで350ドルくらい。

馬肉や牛肉は高価で、その他に聞いただけで見たことはない魔獣の肉というものがある。

ただ、それに至っては1キロで100エルというものまであるらしい。


アスランは、市場に通うようになってから。

それまでは伝票でしか知らなかった、物価について。

今は、値段が多少変動する理由も知っている。

数字だけの帳簿からは、孤児院が毎月のように金銭面で逼迫している事も理解っている。

これも市場に通うようになって以降。

より実感的な目線で感じるようになっていた。


孤児院で毎月消費される金額は、平均しても月10エルくらい。

内訳を見ると、食費が一番多く、8エル程かかっている。

後は暖炉で使う薪の代金や、食器や衣類を洗うのに必要な洗剤など。

まぁ、冬以外の時期は、燃料に使う薪拾いの当番仕事もある。


他に毎月ではないにしても、掃除や水汲みに必要な桶や箒。

これだって消耗品には違いない。

それらを計上した帳簿の現状。

アスランは、エストがやりくりで苦労している事も理解っている。


だから、木剣をもう一振り欲しい等は、絶対に言えなかった。

そして、エストが今ままで、自分も含めた子供たちに時々与えているおやつの菓子。

この代金の出処も把握している。


エストは自らの給料で、子供たちにお菓子を買っている。

アスランを除いて、この事実を知るのは、スレイン神父くらい。

もっとも、聞かないだけで。

アスランは他のシスターも、この事は知っている・・・・・

知っている筈なのに、その事を暗に知らない振りでいるくらいも感じていた。


多くはない。

どちらかと言えば、少ない給料。

でも、エストはおやつのお菓子を買ってくれる。

事実を知るまでのアスランは、他の子供たちと同じように、おやつを楽しみにして来た。

この事は今、エストから口止めされている。

エストは市場で菓子を選ぶときに、とても楽しそうな表情をしていた。

それを見ているアスランは、だから感謝と罪悪の二つの感情を抱えている。


『アスランはまだ子供なのですから。そんな事で罪悪感を持つ必要はありません。これは私が好きでしていることです。でも、そうですね~。そんなに申し訳ないって思ってくれるのなら。アスランが立派な騎士になった時には。その時に頂く給料で恩返ししてください。約束ですよ♪』


エストは微笑みながら冗談たっぷり。

けれど、アスランは勉強のことでも、エストに大きな感謝の念を持っている。

だから、自分が騎士になって給料を貰えるようになったら。

その時には、必ず返そう。

この時のエストの言葉に、一層強く抱くようになった。


その時の感情もまた、今のアスランの胸の内にあるからこそ。

現状を理解っているから、今使っている木剣以外に、もう一振り欲しいとは絶対に言えない。


そんなアスランからの話を聞いたエレンは、けれど陽気な声が、『それなら、剣をアーツで作れば良いんだよ♪』と、その瞬間。

エレンの声で驚いたような面持ちにすらなったアスランは、しかし、それまでアーツで剣を作るという発想すら抱いていなかった。


「・・・・それって、アーツで剣を作れるってことだよね?」

「(・・・うん。そうだよぉ♪と言うかさぁ~。アーツは自由で無限だって言ってるじゃん。なんで、こんな簡単なことで悩んでいるんだろって。エレンはねぇ~。アスランのそういう頑固な考え方は直して欲しいって。ずっと思ってるんだけどねぇ~・・・)」


声の感じだけで呆れられてる。

それくらい露骨な声色へ。


「エレンはそう言うけどな。アーツで剣が作れるって。そんな事は今まで教えてくれなかっただろ・・・・」

「(・・・だから、自由で無限だって言ってるじゃん。アスランの考え方が硬すぎるのが悪いんだよ。この間やった地面の土を使って壁を作ったアーツ。あれの応用で剣も作れるんだよ♪・・・)」

「あ・・・・うん。今のは凄く理解りやすかった。氷の雨が降ってくるんじゃないかって思えるくらい。滅多にない理解りやすさだったね」


馬鹿にされた感くらいは抱いているアスランからの、皮肉たっぷりな返し言葉にも。

けれど、この精霊もまた鈍感力なのか、「えっへん!!エレンは天才だもんね♪」等と、威張った感の声が即答で返って来た。


「まぁ、エレンからはさ。確かに数え切れないくらいアーツは自由で無限だって言われたからな。あとはイメージもだね・・・要するに僕には想像力とかが足りていない。そういう事だろ」

「(・・・あのね。アスランは子供なのに大人みたいな考え方で。だけど子供らしい憧れも抱えている。とっても変な存在なんだよぉ。だけど、エレンはそんなアスランも大好きだしぃ♪だからね~召喚魔法を教えてあげるから。それで機嫌を直して♪・・・)」

「召喚魔法?」


アスランは初めて聞いた召喚魔法という存在へ。

一瞬で興味も関心も移った。

今さっきエレンから馬鹿にされたことで抱いた面白くない感情も同じ。

既に何処かへ旅立っていた。


エレンは召喚魔法に強い関心を示す、アスランのこういう所も大好きだった。

さっきまでの表情と雰囲気とは既に別人。

今の好奇心に満ちた面持ちのアスランの方が、だ~い好き♡

だからエレンは、召喚魔法がどういうものなのかを話し始めた。


エレンから召喚魔法の事を聞きながら。

アスランは同時に、ノートにも走り書きのようにして書き込んだ。

一先ず聞き終えた所で、今度はノートを整理する。


その作業はエレンからすると、『子供らしくない』感を抱くのだが。

興味津々のアスランとの会話は嫌いじゃない。

寧ろ、稽古に没頭しているアスランから、空気のように扱われるより。

今みたいに必要とされているとか、求められる事の方が、頗る嬉しい気持ちになれる。


それはエレンにとって、幸せを自覚できる部分。

これもまたアスランが成長したからだと思うと、今のアスランとの時間を増やすためには、自分が必要な存在だと思って貰うしか無い。

この感情はエレンの内側で更に大きく、その先もまた見据えている。

と言うより。

エレンは今も、アスラン事では『試しの儀』の最中。

そして、良い方で終わらないと、存在ごと消えてしまう。


自身の存在を賭けた儀式。

だが、エレンの楽天的な性格は、大成功とか非願成就とか・・・・・

これもアスランに一目惚れして始めた以上。

ある意味で、恋愛成就?とも言えるかもしれない。


一方で見えない精霊について。

声の感じで、同い年くらいの明るすぎる喧しいくらいの女の子。

と、いう印象も抱くアスランはというと。

走り書きしたことを自分なりに纏めながら。

そこでも気になったことを尋ねては訂正や追記。

そうして出来上がったノートに、改めて視線を落としていた。


召喚魔法とは、守護精霊や神器を呼び出すことらしい。


■守護精霊=守護獣とも呼べるらしく、召喚した術者を文字通り守ってくれる存在。

※どう守ってくれるのかは、その時々らしい。

※守護精霊の種類は多くて、それで何が召喚されるのかは、エレンにも分からない。


■神器=エレンの説明だと、神様が使う道具ということになる。

※エレンは神器を使ったことが無いらしく、この辺りは分からないらしい。

※ただ神器にも色々あって、エレンはその中には剣もあると言っていた。

※剣について、エレンはこの中に『聖剣』と呼ばれる、凄い武器があることも言っていた。


一番重要なこと。

この召喚魔法を使うためには、魔法式とは異なる『召喚式』が必要。

そして、最も難しい事に、召喚魔法を使える人間は殆どいないらしい。


整理したノートを読み終えた所で、先ず抱いたこと。

疑念は、『基礎も未熟な自分に召喚魔法が使えるのか?』

にも関わらず。

この精霊の先生は、無責任にも『先ずは実践してみると良いよぉ♪』って簡単に、それも気楽に言うのだ。


アーツについて、アスランは魔導器もクリスタルも無しに使える。

今は無詠唱で使う事も、まぁまぁ出来る。

後は魔法陣が使えるくらい。

ただ、詰まる所、そのくらいが今の実力なのだ。


エレンが最も難しいと言った召喚魔法。

でも、それを自分が使えたら・・・・・


アスランは図書室で読んだ本。

物語の中に存在した、ドラゴンのような強い獣を想像して、それはエレンにも、表情だけで伝わったらしい。


「(・・・召喚魔法のコツはねぇ。イメージもだけど。今一番欲しいものを強く想うことだからね♪・・・)」


そう口にした後で、エレンはまだ教えていない召喚式を、アスランへ教えた。


『銀の杯を此処に。杯に注ぐは光の雫。我は杯を捧げ此処に誓う。我は常世の安寧を望む。故に常世総ての善と成り、常世総ての悪を敷く。我の誓約に応えし者よ。汝が安寧を欲するならば、我は汝の王たりて汝が願いを叶えよう。汝が忠誠を我に、我が誓いと命運は汝の御手に。互い違わぬ誓約を交わし、以て汝が王の御旗を掲げよ』


「(・・・ 面倒臭いくらいに長いからねぇ♪ でもちゃ~んと暗記するんだよぉ♪ あと間違えるとぉ・・・何も起きないしぃ。それからねぇ~。応えてくれる相手が居ないと何も出て来ないからね♪うん。ちゃんと教えたぞぉ♪・・・)」


おい・・・・

なんかさ。

それってかなり無責任な教え方じゃないか。


「(・・・そうだ。これも一応先に言っておくけどぉ。エレンは召喚魔法が使えないからさぁ~。成功したら感想も教えてね♪・・・)」


!!・・・・・って、おい!?


「(・・・ほら、ぐちゃぐちゃ考えてないでやってみろぉ~♪合言葉は当たって砕けろ♪だぁ~~!!・・・)」


・・・・・・・もう良いです。

貴女がこういう性格で、それでも今の僕がアーツを学べるのは、そんな貴女のおかげです。

エスト姉の辞書で知りました。

僕はエレンを反面教師にして、そして、立派な騎士になります!!


立ち上がったアスランは、ごちゃごちゃした感情を全部纏めるかのように大きく息を吸い込んだ。

直後、肺が空っぽになるのでは、というくらい吐き出した。

そんな深呼吸を数回。

そうして感情が落ち着くと、自然と頭の中もすっきりしていた。


心と頭が落ち着くと、そうなってから初めて聞いた召喚式の文言。

一言一句は、初めて魔法陣をエレンから教えて貰った時のように。

今は思考の中へも、鮮明に刻印されたかのように焼き付いている。


初めて聞いた詠唱文言は、難しい言葉が多かった。

正直なところ、アスランはその意味を、完全には理解していない。

なのに・・・何故?

この召喚式は、初めて聞いた時から、不思議な感じがした。

懐かしい?と、そう思った瞬間は妙な感じも抱いたが。

自分が感じたそれを、可怪しいと思うのは自然だろう。


だって、初めて聞いたことを、何処かで知っているような感覚。

胸の奥が、今もざわつくと落ち着かないでいる。


落ち着かせようと、深呼吸を繰り返した。

ようやく、落ち着いて来た後で。

落ち着いた今だから、分かることもある。

召喚式もまた、魔法陣とよく似ていたのだ。


理屈は理解らない。

そもそも、エレンから教えられた召喚式とは。

これは、アスランの知っている文字として、焼き付いているわけではなかった。

見たこともない文字のような、と言うよりも模様?

何かの紋章にも見えていた。


瞼を閉じたアスランは、その瞬間から。

既に何かの紋章にしか映っていない。

見た目は、魔法陣とよく似た。

扉の様なものの目の前に立っていた。


アスランは、無意識の内に。

自分の唇は、先ほど教えて貰った召喚式を唱えていた。


「銀の杯を此処に。杯に注ぐは光の雫。我は杯を捧げ此処に誓う。我は常世の安寧を望む。故に常世総ての善と成り、常世総ての悪を敷く。我の誓約に応えし者よ。汝が安寧を欲するならば、我は汝の王たりて汝が願いを叶えよう。汝が忠誠を我に、我が誓いと命運は汝の御手に。互い違わぬ誓約を交わし、以て汝が王の御旗を掲げよ!!」


アスランの自覚のない意識は、淡々と文言を紡いだ。

そして、最後を力強い口調で唱えた。

同じ頃。

こちらは紋章を映していたアスランは、突然真っ白になったその後で。

今は稽古をしていた空き地と、明らかに違う・・・・・

見たことも無い場所に立っていた。


此処には、風が運ぶ音や匂いが無い。

それ以前に、風すら感じられない。

寒さも感じなければ、暑いとも感じない。

立っている所から見える外の景色は、とにかく真っ白。

けれど、明るいのは分かる。


僕が今立っている、この場所。

はっきりとは分からない。

けど、本で見たことのある、神殿のような場所に似ている。


白い床は薄っすらと、透き通った感じ。

うん、僕の姿が映るくらい綺麗な床だから。

きっと高価なものなんだろう。

太くて丸い円柱の柱が何本も立っていて、天井は凄く高い。

それと、こんなに広い部屋は見たことがない。

何と言うか、教会よりもずっと幅広いのは、見ただけで分かる。


アスランは自分が今立っている場所。

そこから辺りを一周するように見渡していた。

同時に、此処がどういう所なのか。

思考は自分が知っているものに置き換えたりしながら・・・・・


やがて、視線が再び正面を映した時。

アスランは奥の方に祭壇があることに気付いた。

すると、足は自然と祭壇へ向かって踏み出していた。


途中の階段を登り終えて、祭壇の正面に立ったアスランの瞳が映したもの。

祭壇の中心には、大きな銀の杯が一つ置かれていた。

一瞬、アスランは召喚式の冒頭部分を思い出した。

間もなく、これがあの銀の杯だということまでは理解った所で。

だが、続く部分の『杯に注ぐ光の雫』とは、一体何なのか。

抱いた疑問は、しかし、そこで一帯に響き渡った厳かな声が。

その声を耳にしたアスランの視線を起こさせた。


『・・・汝の真の想い。汝の真の願い。それ即ち光の雫とならん・・・』


まるで嘘は直ぐにでも見破られる。

本能的に感じ取った部分は、けれど、嘘を付くような理由もない。

声しか聞こえず、相手が何処にいるのかも分からない中で。

視線を見上げるように上へ向けたアスランは、先ず事情から話し始めた。


「僕は剣が欲しくて。それで召喚魔法を教えて貰いました。此処が何処で。そして何故今ここに居るのかは分かりません。僕に話しかけてくれた貴方が。此処の家主さんなのでしょうか」

『我は此処の守護を任されし存在。だが、我が主の聖殿へ。それも人間が訪れたのは随分と久しい。が・・・・先ずは問おう。人の子よ。何故に剣を欲する。その真の理由を述べよ』


アスランは声の主が怒っている?

そんな風にも抱いたが、いきなり挨拶もなしに自分の家へ、知らない他人が入ってきたら警戒だってするはず。

それくらいはあるだろうと考えた後。

声の主は、此処に人間が訪れたのは久しいと言った事を、それはつまり。

相手は人間ではない何かだとも抱いた。

そして、声の主から剣が欲しい理由。

何故に欲しいのかを今は尋ねられている。


「僕は、聖剣伝説物語の。騎士王のような騎士になりたいんです」

『ふむ。ユミナのような騎士になりたい・・・・そういう事か』

「えっと、貴方は。騎士王の事を知っているのですか」

『左様。ユミナの事はよく知っている。得難い存在であった』

「騎士王は僕の憧れです。それで僕も騎士王のような立派な騎士になりたいんです。それから、僕に騎士を目指せる機会を作ってくれた。そのシルビア様を守りたいと思ってます」

『ユミナのような騎士になりたいか。して、そなたはシルビアという者にも。大きな恩を抱いている。故に剣が欲しいか』

「隠すことでもないのですが。僕には今もシルビア様から頂いた稽古用の木剣があります。教えて貰った素振りと型を毎日練習して。それは騎士になるために必要なことだと。そうシルビア様から言われました」

『ふむ。では、それとは別の理由で。剣が欲しいのだな』

「別の理由とも違います。最近からですが、騎士王の夢を見るようになって。その時に見た双剣。対の聖剣コールブランドを使う騎士王の姿に。僕も双剣を使いたいって思ったんです。それでもう一振り剣が欲しかったんです」

『なる程な。フッ・・・して、その想いだけで此処へやって来たか。そなたは、それ程までに剣が欲しい。汝が想いが真実であると、我には理解った。ならば今一度告げよう。汝の想い、汝の願い。それを杯に捧げよ・・・・』


声が遠ざかった後。

それもまた、何となくという感じだったが。

アスランは正面の祭壇に置かれた銀色の杯へ。

今の想いと願いを、教会で祈りを捧げるときの姿勢で・・・・・


途端の眩しい輝きは、自分の胸元から、すっと抜け出る様に浮かび上がった。

輝きは、金色をした光の粒子が、その粒子が集まって一つの塊を成している・・・・ように見えた。


そうしてアスランは、この輝く塊から注がれる。

これも光で作られた様な液体が、銀の杯に注がれる光景は、やがて、杯をいっぱいに満たした頃。

今度は、先程の声とは別の声が一帯に響いた。


『汝の真の想いと願い。其は聖杯を満たした。ならば今一度、汝に問おう。汝は誓えるか。誓えるのであれば、我は汝と盟約を結ぶ。汝の力となりて、汝の御旗と共に征く。此処に誓いを掲げ、我の王たる器量を示せ』

「え・・・・王たる器量って・・・何?それから・・・・誓いというのは。僕が守りたいものの事で良いのかな」

『汝が内に抱く想い。それはユミナのような騎士になること。汝が願いはそのための剣を欲すること。誓いとは常世総ての安寧を望むこと。我は常世総ての安寧を欲する。故に汝が王たる器量を示す意。それは即ち常世総ての安寧のため、善と成りて悪を討つ。その姿勢在る限り。我は汝に不変の忠誠を捧げよう』


なるほどね・・・・・

王様の器量って、召喚式にあった内容のことだったんだ。

誓いのことも召喚式の文言と同じだし。

声の主が何を言っているのか。

何となく分かったよ。


教えてもらったばかりの召喚式の内容を、アスランは未だしっかり把握していなかったこともある。

それを声の主から教えて貰った後では、召喚式の文言がそのまま誓約書にもなっている。

そして、自分が唱えた召喚式。

初めてでも、今こうして応えてくれた存在が居る事までは理解った。


ただし・・・・・

ここでアスランは、自分が意味を知らないままの単語が在ること。

その単語は、声の主へ意味を尋ねても良いのだろうか。


こうして聞こえる、厳かな声の主に対して。

意味が分からない単語の事を聞くのは、不味いのではないか。

そうも感じたアスランは、結果的に長い沈黙状態へ陥ってしまった。


意味の分からない単語は『常世』と『安寧』の二つ。

アスランは此処に辞書があったらと・・・・・

今の雰囲気では尋ね難かった。


『何故、何も答えぬのか。汝は我との間に。違えぬ盟約を交わす意志が無いというのか』

「その・・・・。ごめんなさい。言葉の意味が分からないものがあって、それを尋ねていいのか・・・だから・・・・その・・・・僕は。常世と安寧という言葉の意味が分からないんです」


迷った挙句。

最後にアスランは、思い切って尋ねる選択を選んだ。

理解らないまま何か重大な約束をする。

その事に怖さを感じ取っていた。

後は、答えないまま相手を怒らせたくなかった。

同時に、召喚式の内容を先に調べてから唱えるべきだった・・・・・


『そう怖がる必要はありません。なる程、言葉の意味が理解らなければ。確かに盟約を結ぶことは困難でしょう。常世とは世界のこと。人間も精霊も。更には獣や神すらも存在する世界のことです。安寧とは穏やかで安らかという意味。故に常世の安寧とは。世界が平和であるという意味としても通じます。この説明で理解ったでしょうか』

「はい・・・・。あの、人間と精霊と神様は理解るのですが。獣というのは、人間を襲う魔獣も含まれるのでしょうか」


それまで厳かな声だったことが、尋ね難い印象を抱いたアスランへ。

今は優しい女性の声になって聞こえている。

声の内容に、今度はアスランも直ぐに、また気になったことを尋ねていた。


『そうですね。魔獣と呼ばれる存在にも、言い分はあるでしょう。例えば自分たちの生活の場を。突然襲われたり、脅かされれば。守るために戦うこともある筈です。言葉が通じないからこそ。そこへ考え方の概念すらも違うことで。人間の側には、単に魔獣に襲われた事実だけが残る。という点も理解出来ます』

「それだと、魔獣には最初から人間を襲う意思はない。そういうことでしょうか」

『その解釈の仕方は間違っていません。絶対ではありませんが。魔獣にも好戦的な種族とは別に、温厚な種族もいます。これは人間も同じです』

「なる程、おかげで意味とか繋がりって言えば良いのかな。そういう部分も最初より理解った感じです。常世総て・・・それは人も精霊も。それに神様や魔獣とか。そういった全部が住んでいるこの世界で。僕は、みんなが平和でいられるように良いことをする。それと悪いことをする者には、それを止めさせる・・・・こういう解釈で合っていますか」

『ええ、その答えで十分です』

「僕はシルビア様から。騎士になるためには、守りたい何かを誓いにしないといけない。その事で上手く言えないんですが・・・・まだ、はっきりこれだって言える何かは無いんです。守りたいって思う人も。最初はシルビア様だけだったし。今はエスト姉やカールとシャナも入っているし。お世話になった人は守りたいって思っているし・・・・」

『貴方はまだ子供です。今直ぐ答えを一つにする必要もありません。貴方が本心で守りたいと思うもの総てが。今の貴方の常世総てとも言えるでしょう。ですからその安寧を望むのか望まないのか・・・・ただ、もう答えは決まっている筈です』

「そうだね。意味が理解って、それが繋がって。僕にも貴方が言っていることの意味が理解りました。僕の世界はまだ小さいけれど、でも・・・・目標は騎士王だから。もっともっと頑張って。それでいつか騎士王のように。沢山のものを守れる存在になります」


・・・その意志を以て。私は今此処に剣を捧げます。我は剣神の第三位にて、名をティルフィングと申します。我が不変の忠誠をお受け下さるのであれば、マイロード。御身の名をお聞かせ下さい・・・


「僕の名前はアスラン。今はまだ騎士にもなっていないけど。だけど必ず、誓いを果たせるだけの騎士になってみせる。ティルフィングの忠誠が不変なら。僕がティルフィングにする誓いも絶対に不変だよ」

『承知致しました。マイロード。今この時より、私は御身の臣下の列に加わります』


瞬間。

それまでアスランの立っていた場所が、急速に眩しい光に飲み込まれた。

それこそ、あっという間に視界を真っ白に染め上げてしまうほど。

この時のアスランは、反射的に光を遮るように、片腕を目元に当てながら瞼を閉じていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・


「(・・・ お~い。アッスラ~ン♪ 大丈夫~? ・・・)」


頭の中に響くエレンの騒がしい声。

それで意識が目覚めると、閉じていた瞼も開いた。

映った景色は、見慣れた空き地からの光景。

さっきまで休息を取っていた樹の下で、何故か幹を背もたれに両足を伸ばした楽な姿勢でいる。


「エレンか・・・うん。そうだ。どれくらい時間経ったの」

「(・・・時間?アスランは召喚魔法を唱えて、そのまま直ぐ倒れたんだよ。それで、そこの綺麗なお姉さんが突然現れて、倒れていたアスランを介抱してくれたんだよね。1分も経ってないよ♪・・・)」


!!・・・・1分も経ってないって・・・・


「そんな筈は・・・だって、僕は此処とは違う場所に居て・・・それから確か聖殿って場所だった。後はティルフィングと契約をしたんだ。それが1分も経ってないって・・・」

「(・・・ん?じゃあ、アスランは召喚魔法で応えてくれた相手がいたんだ♪凄い凄~い♪さすがエレンの一番弟子だねぇ~。うんうん♪・・・)」

「なぁ・・・エレン。召喚魔法が魔法陣とか、全く違う場所に行くとかさ・・・・その辺りは何一つ教えてくれなかっただろ」

「(・・・え?召喚魔法って魔法陣なの!?ねぇねぇ、全く違う場所ってどんな所だったの?美味しそうな食べ物とかあった?・・・)」

「ちょっと待て。エレンは知らないの?」

「(・・・言ったじゃん。エレンは召喚魔法が使えないって・・・)」

「あ・・・言ってたな。そうだね・・・召喚魔法だけど魔法陣みたいな紋章でさ。だけど何となく読めるんだ。多分だけど、それが召喚式なんだと思う。それで明るいけど真っ白な世界で、そこにある大きな神殿。それは聖殿とも言うらしいんだけど。エレンが期待した食べ物とかは何もなかったよ。とっても綺麗な場所だった。あと、銀の杯があって・・・細工とか凄いんだ。教会で祝賀行事の時に使う聖杯よりも手の込んだ細工だったし。芸術品ってああいうのを言うのかもとは思ったよ」

「(・・・そっか♪じゃあ、さっきからそこで畏まっているお姉さんはさ。アスランの契約した相手ってこと?・・・)」

「え・・・!?」


会話の最初にも「お姉さん」という表現はあった。

そして、その事を忘れていたアスランは、此処でまたエレンから「お姉さん」と言われてハッとした。


ハッとしたまま視線だけを動かして。

自分の脇に畏まるように片膝を付いたまま。

その姿勢で深々と頭を下げている若い女性を初めて瞳に映した。


「・・・あの、貴女がティルフィングさんでしょうか?」

「はい。我が名はティルフィング。マイロードの臣下にてございます」


恐る恐る尋ねたアスランの問いかけ。

一方のティルフィングは、しっかりした口調で言葉を返した後。

ようやく視線を起こしてアスランを真っ直ぐ見つめている。


「・・・凄く・・・綺麗な人だね・・・・」


アスランのそれは、ティルフィングを映して漏れた素直な感想。

エレンも綺麗と評したティルフィングは、アスランが今まで見たこともない程。

それくらい美しい女性だった。


2015.1.17 本編の加筆修正を行いました。

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