表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/359

第23話 ◆・・・ 新しい剣と騎士王の夢 ① ・・・◆


春の暦は4月の中頃を過ぎた。

そして、日差しは更に、熱を感じられるようになった。

肌が感じる暑さ。

シャルフィに暮らす者達の中には、季節が初夏へ移った感を抱いていた。


アスランも日中の日差しに、今では初夏を、感じるようになっていた。

それは日の出前から始まる早朝稽古の際、最近は肌寒さよりも、暖かさを感じるようになった。


アーツを学び始めた頃と比べて、現在のアスランは、午後の時間までが過密になった。

そうなった事情は、基礎の鍛錬へ、時間を最も多く割いたからである。


――― マナ粒子発光現象の持続時間の延長=体内マナ保有総量が増える ―――


修行の内容は、特に変わらない。

魔法陣を多数使う。

これは無駄を省くための修行になる。

事実、複数の属性を一度に使うためには、単一よりも無駄を省かないといけない。


この修行で欠かせないのは『集中力』

理想は、特に意識しないで出来るようになること。

例えるなら寝起きでも、欠伸をしながらでも出来て当たり前。

それくらいを目指している。

そして、地味でも積み重ねが一番大事。


アスランは実のところ、午後の修行時間は、基礎鍛錬だけで終わってしまうくらい没頭したかった。

けれど、自ら名付けた『魔法剣技』は、魔法習得を秘密にしている。

そのため、午後の自由時間にしか出来ない。


他にも、ずっと以前から継続して来た、体力を付けるための走り込み。

走り込みは今でも、この時間を使っている。


午後の時間は、先ず最初に走り込み。

それから魔法剣技。

最後は空き地で、基礎の鍛錬を日暮れまで行う。


本当は、マナ粒子発光現象を見ていたいから、牧草地でやりたかった。

でも、不審がられないようにも、しないといけない。


まぁ、そうなるとね。

この修行だけは、空き地を使って、不可視化の状態で行うしか無かったんだ。


ただ、僕はね。

課題にした基礎鍛錬は、それで、まだまだ多く時間を使いたい。

で、色々と考えた末なんだけど。

走り込みをね、早朝稽古の前に移すことにしたんだ。


起床後の最初に、走り込みを持って来たことは、結果として、身体をしっかり温めた。

実は、これが続く稽古において、身体へ良い作用を与えていたのだ。


アスランはそれまで、素振りも型稽古も、身体の特に、筋肉や関節などを温めてからした方が良い事を、何一つ知らなかった。

そうして知らないまま、最初に走り込みをするようになって以降。

この方が素振りも型稽古も、身体が思うように動いてくれるを、感覚的に得ている。


この点、しっかりした指導者が携わっていれば、当然ながら、準備運動の必要性は教えている。

もしシルビアが、この事を知っていたら。

大学では、スポーツ医学も学んだシルビアなら必ず。

アスランへ、身体が冷えている状態でする危険性を、しっかり教えていたのは間違いない。


無知のアスランが、真冬の時期にも、早朝稽古で怪我をしなかった理由。

人目を警戒しつつ、焚き火のようにファイア・アローを使って、身体を温めていた。

それによって、怪我をせずに済んだだけ。

もっとも。

アスランは、ファイア・アローを応用した焚き火魔法。

そう呼んでいる。

後に、魔法陣で熱を起こせる事を知ってからは、不可視化状態の魔法陣の中で、身体を常に温めるようになった。

まぁ、凍えないように温かくしていたことが、結果的に怪我の回避へ繋がった。

という次第でもある。


魔法陣の不可視化について。

アスランは最初、魔法陣だけが不可視状態に出来ると、そう思い込んでいた。

けれど、実はマナ粒子発光現象も、不可視化が出来る。

習熟の結果と言えば、そうも言える。

けど、要はコツを掴んだ。

マナ粒子発光現象も、実は意識やイメージで、不可視化が出来る。


マナ粒子発光現象を起こせるようになった頃には、此処までは出来なかった。

今だからこそ、不可視化が出来る所まで、実力が付いただけ。

その証拠に、全力でマナを流し込んだりすると、不可視化が出来ない。

たぶん、自分の意識とかイメージよりも、事象干渉力が、ずっと勝るのだろう。


今でも知り得たことは、ノートへ記す。

既に知っている事でも、そこから新しい発見があれば、書き足すか修正する。

そして、これも今ではお馴染み。

アスランは、自分が出来ない理由を、『未熟者』と纏めるようになった。


アーツはずっと、今もエレンが指導?

・・・・まぁ、一応は事実だし。

もう一つの剣術は、4歳の誕生日まで。

それまではシルビア様が、教えてくれた。

誕生日の後からはずっと、独りで素振りと型稽古を続けている。


アスランは基礎の重要性。

ここを常に意識するために、今では『未熟者』を、よく使う。

ただ、理想から見れば、やっぱり未だ未熟には違いない。


それでも。

指導したシルビアの予測を、無自覚なアスランは、既に軽く超えていたのだ。


『孤児は騎士になれない』


慣習とも言えるこの考え方は、ずっと昔から続いて来た。

騎士になれる者は限られる。

極一握りを除いて。

つまりは、殆どの国民が対象外。

現在の女王が即位するまでは、当然の常識だった。


シルビアはこの常識を、敢然と全否定するが如く覆した。


ただし、騎士という地位は、それだけで爵位でもある。

また、叙任された当人にのみ帰するため。

跡を継いだ子孫が、そのまま騎士になれる、等という事は決してない。


シャルフィでは特に、『騎士』の位について、厳しい原則がある。


『完全実力主義』


文武の何れかに秀でる程度は論外。

文武ともに、基準以上を満たすことが最低限。


他国では、貴族や名家の出の者が、金品で騎士になる事もある。

だが、シャルフィでは、決して認められない。


特に現在。

それまでは『騎士の家系』『貴族』『由緒ある家柄』等といった条件が記された制度を、女王は敢然と撤廃した後。

出自は問わないことを、明確に宣言すると、制度にも明記した。


もっとも、出自は問わずとも実力は問う。

門戸は広くしたが、実力が無ければ、騎士にはなれない。


そして、騎士の叙任を受けられたと言っても。

実は此処から、シャルフィには他国と異なる事情が、また在るのだ。

この事を、アスランは未だ知らない。

反対に、知る側のシルビアは、故に孤児の登用が、如何に大きな反発を招くのかを理解っている。


まぁ、理解った上で。

シルビアは、アスランを引き取ることを、固く決意しているのだが・・・・・

既に心は、絶対権力を振り翳す。

そんな手段までを、手札に織り込んでいるために。

察しているカーラは、やはり、苦労が絶えない。


自分が知らないでいることは勿論。

未だ騎士のしがらみ等からも無縁のアスランは、1日が短いと感じるほど、修行に身を置いていた。


-----


~~~アスランの1日~~~


■午前3時:起床

■午前4時:当番仕事(水汲み)終了(予定)

■午前5時:走り込み鍛錬終了(予定)

■午前7時:素振りと型稽古終了

※今は稽古の後でカールとシャナの勉強を見るため、6時半迄には終わらせる。

■午前8時:礼拝と朝食

※朝食後から昼食までの時間、計算の勉強を兼ねた事務仕事と時々は手伝い。

■12時:昼食

■13時から日没手前まで、午後の修行時間

※今の時期の日没は18時くらい。

※日没までには孤児院へ帰る。

※18時には礼拝とそれから夕食になるので、明るくても17時30過ぎには帰る。

■18時:夕食

※夕食の後から就寝時間まではエスト姉の部屋で勉強。

■22時:就寝(本当は21時には就寝で、神父様が特別に1時間だけ許してくれた)


アスランの1日は、それを当人が自覚していないだけで、実際にはかなり過密なスケジュールと言える。


また、アスランは事務仕事をするようになると、帳簿の整理を、主に務めている。

ただし、この件は任せたエストが、責任者として必ずチェックしている。

他にエストが買い出しに出かける時には、アスランも手伝いとして、市場まで一緒に出掛ける。


買い出しに、アスランを連れて行く。

これもエストが考えた、算数の授業の一つだった。

実際に、市場でアスランに買い物を体験させると、その時の金額を計算させている。

市場で売られる野菜や肉、加工食品などは、行く度に値段が変わっている事が間々ある。

それはアスランに何故?と、関心を抱かせた。


アスランの関心は、売り物の相場が変わること。

どうして行く度に、値段が変わっているのか。

素直な疑問は最初、エストから理由を聞いていた。

ただ、偶然二人の会話を聞いていた店の主人が、その理由を教えるようになると、アスランは知りたがりな子供として、市場でもちょっとした有名人になった。


有名人と言うよりも、大人達から可愛がられているだけ。

エストは此処でも、アスランの『子供らしくない』一面が、少なからず作用したと・・・・・


なにせ、言葉遣いが既に子供じゃない。

大人を相手に、丁寧な言葉遣いが当たり前。

発音も、同じ年頃の他と比べて、しっかりしている。

つまり、相手からすると、理解りやすいし聞きやすい。


先日の買い出し。

アスランはそこで、同じ野菜なのに、値段が二つ付いているものを見つけると、何故二つの値段が付いているのか。

勿論、この時も店の主人は、子供を可愛がるような声で色々と教えていた。

同じ野菜でも、大きさで値段が少し違ってくる。

この時にアスランは、大きさ以外に、重さも関わっている事を学んでいた。


教えて貰ったことは、籠に入れて持ち込んでいたノートへ、ペンを走らせて書き留める。

教えてくれた店の主人へ、最後は『ありがとう』のお礼も忘れない。

これはアスランの当たり前。

ただ、子供がこうやって熱心に勉強する姿が、市場の大人達にも好感を抱かせた。


アスランの言葉遣いと姿勢。

結果的に、市場の大人達から、好印象で憶えられる存在へと結び付いた。


エストは買い出しの最中で、意図して金額の計算を、アスランにさせている。

筆記用具を持って来ているのだから、数字を書き足して計算もできる。


でも・・・・・

アスランは暗算で、正しい金額が出せていた。

私は態と、値段の異なる商品を10個以上・・・・・

それをアスランは、店の主人が、計算機で数字を出すよりも早く。


エストは、これも一種の才能だと抱いた。

アスランはパッと見た程度の時間で、単純な数字くらい記憶できる。

買い出しに連れて行くようになってから気付いた才能に、磨けばもっと光るを、強く感じ取った。


もっとも、今となってはアスランが顔を見せると、店の主人たちが『今日は○○がお得だよ』等と・・・・・

アスランが可愛くて仕方ない。

そういう空気を、エストは肌で感じ取っている。


会計の後で『これはもう売り物にならないから』と、店に出ていない野菜等を頂くことも増えた。

ただ、それだって今日明日くらいなら、十分に美味しく食べられる。


エストはおまけ欲しさに、アスランを連れて行くわけではない。

けれど、市場の大人達が、アスランを可愛がって接していることも分かっている。


孤児院でのアスランは、不気味な存在として、気味悪がられていた時期がある。

ある・・・という過去形と、今の境目。

はっきり此処から、というのは無い。

それでも、周りのアスランへの認識は、良い方へ確かに変わった。


ふと最近、スレイン神父がアスランを、『未来の希望になる』と、口にしたことがあった。

その時の私が意味を尋ねると、可笑しそうに笑いながら。


『そうですね。ですが・・・それは未だ秘密。そういうことにしておきましょう』


あれは確か、アスランが纏めて、私が確認した帳簿を届けた時のこと。

教会の私室で、帳簿の内容へ目を通した後の神父様から、アスランの事を尋ねられた。

市場へ連れて行くようになって、変わった事はあるか・・・・・

そんな内容だったはず。

私は自分の見たままと、感じたままを伝えた。


私の話を聞いた後・・・・・

そう。

その後で、神父様がアスランを、『未来の希望になる』って・・・・・


私には、あの時の神父様の言った意味が、未だ見えて来ない。

でも。

神父様は、とても嬉しそうな表情で笑っていた。


視界は今日も、買い出しで連れて来たアスランを映している。

ただ、アスランはもう独りじゃない。

楽しそうに話しかける大人達がいる。

その輪の中で。

こちらも楽しそうに笑っているアスランが映っていた。


2015.1.15 本編の加筆修正を行いました。

2018.6.08 誤字の修正などを行いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ