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第1話 ◆・・・ 幼年騎士を目指す子供 ② ・・・◆


――― シャルフィ王国 ―――


僕も暮らすこの国だけどさ。

神父様から聞いた話だと、シルビア様が定めた制度によって。

僕たちの様な子供は、七歳になる年の四月から王都にある初等科という学校だね。

そこへ僕も七歳になる時には通うことになっているんだって。

それで、その初等科なんだけど。

入学した後は、ここで読み書きや計算といった勉強をするらしいんだ。

あとは、この制度を作ったシルビア様はね。

僕の様な孤児でも、ちゃんと学校へ通える・・・えっと確か権利って言ったかな。

そういうのも制度の中で明記したんだってさ。



孤児院を営むスレイン神父は、生まれたばかりを含む数え年で七歳未満の身寄りのない子供を引き取ると、道徳教育の中で、特に物事の善し悪しを説く時間を多くしている。

道徳教育は、そこで聖書の内容を引用した授業ではあるが。

スレイン神父の指導は聖書だけでなく。

王国の他国よりも優れている制度なども教材として活用していた。



――― 初等科教育 ―――

シャルフィの子供たちは、数えで七歳を迎える年の四月になると初等科学校へ入学する。

初等科の教育期間は、七歳から十三歳までの七年間。

この七年間を子供達はそこで、文字の読み書きや計算などの基礎教育を学びながら過ごす。


初等科の高学年に進級する頃。

通う子供達は、此処から就職する際の職種によって必要な専門の知識と技術を学び始める。

初等科では必修と選択科目の2つが用意されると、特に専門職へは必修の他。

選択科目の中からも、必要な授業を受けなければならない。


初等科を卒業した後。

子供達の大半は、卒業と同時に何かしらの職に就くか家業に携わっている。

それ以外の子供達は、より高度な知識と技術を学ぶために中等科へ進学している。


更には中等科の先。

高等科や最高学府の大学と、その上にある院。

何れも入学するためには試験に合格しなければならない条件が在る。

だが、学ぶ内容はそれだけ高度なものが用意されている。


シャルフィの場合、初等科を卒業した時点で一般的な下働きが出来るくらいにはなっている。

もっとも、近年は最低でも中等科くらいは卒業させたい。

そう抱く親が、我が子を進学させる傾向が右肩上がりだ。

主な理由として、初等科卒よりは中等科卒の方が高収入を得られる実態が挙がっている。


初等科と違い中等科を卒業した者には、下級公務員の受験資格が与えられる。

あくまで一例でしかないが。

公務員試験に合格して採用された場合。

同年代の中では比較的高い収入と安定した生活が約束される。

同様に高等科を卒業した者へは、上級公務員の受験資格が与えられている。

こちらは当然、下級公務員よりも高い収入が得られる仕組みとなっている。


そのため、子を持つ親たちは我が子へ。

自分達より少しでも裕福で幸せな人生を過ごしてもらいたい。

そうした切なる望みを抱く親たちは、だからこそ学校へ通う我が子に対して。

常日頃から特に勉強するよう口煩くもなってしまうのである。


アスランも初等科へ入学すれば当然、文字の読み書きを学ぶ。

ただ、アスランに限って言えば。

それを4歳になる前に習得したのだ。

背景に個人的な理由ではあるが、自発的な部分から始まって習得へと至った。


無論、最初は簡単な文字の読み書きから始まっている。

それでも、アスランが出来るようになったのは未だ3歳の頃。

当時、この事実を目の当たりにした周りの大人達は、小さからず驚かされた。


だが、それから一年と経たず。

最近のアスランはというと、これも習った算数は既に簡単な足し算と引き算を軽く暗算で答えられる段階へ至っている。

大人であれば逆に出来て当然。

それを4歳で極々普通に出来ている事実は、計算に多少の時間を要しても。

アスランは既に、五桁の足し算と引き算も暗算で出来るようになっていた。


学ぶ環境。

アスランの場合、自分の置かれた境遇が結果的にはそうなった。

孤児院の他の子供達が外で楽しく遊んでいる時間。

その輪の中にアスランの姿はない。

原因は、精霊と言葉を交わせる事を、殊更に不気味がられた故である。


ただ、目立って孤立した所でアスランは前向きだった。

アスランが前を向き続けられた根幹。

そこには、間違いなく褒めてくれる大人達の存在があった。


一番若いシスターは手空きの時間。

この時間帯の彼女は、アスランに文字や計算を教える先生でもあった。

神父もアスランが教会の図書室を利用したいと言えば、快く扉の鍵を開けていた。

図書室には多数の蔵書が置かれている。

本は全て高価な品物であるため。

普段はやんちゃな子供達に悪戯されないよう鍵を掛けている。


図書室を利用するアスランは、此処で先ず自分にも読めそうな本を探す。

とは言え、始めは主に子供向けの絵本ばかりだった。


絵本が読めるようになった頃。

アスランは、未だ未だ難読だと理解(わか)っていながら。

それでも、アスランが脇目も振らずに真っ直ぐ向かう先。

そこには自分が一番読みたかった分厚い書籍の並んだ棚があった。


一番読みたい本。

けれど、読むには難しい文字が多く並んでいる。

そんな難読書籍を相手に、アスランは先ず開いたページに記された難しく読めない文字を、全部ノートに書き溜めた。

書き溜めた後で、最初はこれも教えてくれるシスターへ、尋ねて学ぶを繰り返した。

しかし、途中からは借りた辞書を使うことが当たり前となっていた。


文字の勉強は、その殆どが、この作業の繰り返し。

こうした書き取りから始まる勉強も。

学ぶアスランの姿勢は、教える側からすると『貪欲』とも『夢中』とも映った。

それくらい、アスランは熱心な生徒だった。


仲間外れにされた結果で培った実力へ。

孤立した事を、たとえ冗談であっても。

幸いと表現することへは、絶対に良しと言えない。

だが、アスランの知識力は、現在の境遇が無ければ成り立たなかったかも知れない。


神父を含む大人達は時々。

この問題について考えると、決まって複雑な心境にさせられてしまうのが常だった。


ただ、いくら大人達が気を揉んでも。

当の本人は、そんな事すら知らないでいる。


孤立しているアスランに言わせれば、既に今の日常が当たり前。

何せ精霊の声は自分と、後はシルビア様にしか聞こえないのだ。


アスランにとって、シルビア様が同じように聞こえる側に居る事実は、間違いなく救いだった。

一方、シルビア様が居なければ、ここで精霊と言葉を交わせるのは自分だけしかいない。


この事実は覆らない。

だから。

この問題であれこれ考えるなど。

意味も無ければ、現在の状況が答えですらある。


文字を学んでまで逸早く読みたかった本。

そこには、こうも記されていた。



『逆境は、故に器が試される』



虐げられる事を嘆いたり恨んでも、それで良い事は何一つない。

これも本に書いてあった。

辛い事や悲しい事。

苦しい事ばかりでも。

だから人は、己の器を試される。


嫌な事をされて。

だから同じ事でやり返す。

そこに良い未来はやって来ない。


何となく自分の中で、この部分はストンと落ち着いたかのように。

アスランには理解出来た感があった。


難しい文字ばかりでも。

読み進められるようになると、ある時期から一気に読めるようになっていた。

覚えた文字が並んでいる。

一気に読めるようになった頃。

アスランは自分を仲間外れにした周りへ対して。

抱く感情から復讐とか報復とも呼べる思考を、気付かぬ間に自然と捨て去っていた。


どうでも良くなった。

とも、少し違う。

けれど、この物語の主人公。

自分の憧れの主人公へ一層強く魅かれた。

その事が、アスランの心の在り様を大きく変えていた。


今でもアスランは毎日のように、午後は決まって教会の図書室に籠っている。

知りたい事がいっぱいあった。

読みたい本も、その本の続きも。

孤立している事で、今は返って思う存分ここで本を読むことに没頭出来た。


昼食の後から夕方の礼拝の時間まで。

その間ずっと。

アスランは教会の図書室に籠るようになった。


この事は、一方でアスランの方からも他の子供達と、より一層関わらなくなったと言える。

そういう風にすら映った事は、神父とシスター達にも不安を灯した。


だが、この頃のアスランがとにかく本を読むことに没頭していた事実。

図書室を幾度も覗いた事がある神父と若いシスターの二人は、夢中になって本を読むアスランを映して。

互いに抱いた不安が杞憂だったと胸を撫で下ろした。

孤立した問題が解決していない以上、決して円満ではないが。

これも未来への明るい材料になるだろう。

胸の内に抱いたそれを、読むことへ夢中になっているアスランに見たのである。



大人達が時々覗いている。

声を掛けられれば、僕も返事をするようにはしている。

でも、声を掛けられなければ気付きもしないけどね。


本を読むということは、知識が増えるという事へ繋がる。

知識は、それを得た人を豊かにしてくれる。


僕にそう教えてくれたのは、大好きなシルビア様なんだ。


僕もみんなと同じ様にシルビア様を、お母さんだと思っている。

で、そのシルビア様と僕は、僕の四歳の誕生日の前にだけど。

叶えたい夢の事で、それで約束を交わしたんだ。


シルビア様は僕の夢を、僕の頑張り次第で叶えてくれる・・・って。

だから僕は、今もこれからも頑張れる。



ずっと以前には、アスランも孤立している事へ、寂しいと抱くこともあった。

今はそれを感じないくらい。

それくらいアスランは、夢のためにこれも必要な知識を増やす事に没頭出来た。


シルビア様と交わした約束。

アスランは、自分が勉強と剣術の二つをしっかり出来るようになったら。

その時にはシルビア様が『幼年騎士』にしてくれる。


剣術の評価はシルビア様が来た時に見て貰える。

勉強、これは読み書きと計算。

四歳になった後で週に一度。

どれくらい勉強が出来ているのかを知るために。

アスランは、シルビア様が用意したテストを受けていた。


僕がシルビア様と交わしたこの約束だけどさ。

ただ、どうやら神父様は、シルビア様から聞いているみたいなんだ。


『シルビア様から届けられたテスト問題です。この一年間は毎週テストをすると。そう私も聞いています。ですから、アスランも。夢のためにどうか頑張ってください』


最初のテストが始まる前。

僕は神父様の部屋で、用意された机の上にはテスト問題と答案用紙があって・・・・・・・

椅子に座った僕へ、神父様がそう言ったんだ。


テストは、だけど、そんなに難しくなかったよ。

うん。

何方かと言えば、とっても簡単だったね。


終わった後で。

神父様は僕へ、ちゃんと勉強していれば難しくならないって。

だから、これからも勉強を頑張りなさいって。


ちょっと気になったのは、神父様は何か良い事でもあったのかな。

僕の答案用紙を手に取る神父様がね。

それで僕には何か嬉しそうな感じがしたんだ。


でも、勉強を頑張ると。

神父様はいつも褒めてくれるから。

あと、間違っている所は僕が理解(わか)るまで教えてくれるんだ。

神父様も凄く分かり易く教えてくれるからね。

だから、もっと出来るようになろうって。

次も褒めて貰おうって・・・・・


うん。

僕はもっと勉強を頑張ろうって。

いつも思えるんだ。


-----


アスランの今の目標。

それは『幼年騎士』になることだ。


生まれて直ぐ孤児院に預けられたらしいアスランは、だから、両親を知らない。


ただ、今のアスランにとってシャルフィの女王・・・シルビア様が幼年騎士として引き取ってくれる約束は、生きる希望だと言い切れた。


王室付きの幼年騎士になれば、そこから専門の教育を受けられる。

また将来の正式な騎士としての叙任。

ここへの道が開ける。


出自の確かな家柄なら騎士団に見習いとして入ることも可能。

当然、そこから騎士になるための指導が受けられる。

特に親類や家族が騎士の場合。

その下に従卒という形で付きながら騎士を目指す事もできるらしい。


実際に騎士の殆どは、代々の騎士家系くらいを聞いている。

他は家柄的にも貴族や名家ばかりなんだとか。


印象的に、騎士とは、庶民ではない者達しか居ない世界なのだろう。


ましてアスランのような孤児は、制度によって騎士どころか兵士になることすら出来なかった。


ところが、この制度はシルビア様の即位後に転機を迎えたらしい。

アスランが聞いた話では、自分が生まれる前から在った制度が、シルビア様が女王になってからは徐々に転機を迎えたそうだ。


シャルフィ王国では、シルビア様が今も改革を推し進めている。

その中で、以前には騎士になれる条件へ明記された家柄や身分の一文も。

これもシルビア様が撤廃したそうだ。


今では騎士になれる条件の中に、『出自も身分も関係なく。その資格を得るに相応しい者を叙任する』という新たな一文が明記されている。


神父様から聞いた話では、シルビア様はこうした大きな改革を、それを即位後から次々と掲げては徐々にでも施行しているらしい。

改革の多くは、だけど、既得権益を持つ一部からの猛反発を受けているそうだ。

それでも。

シルビア様は、時に大鉈を振るうが如く自らの信念を貫いている。

そういう強い姿勢が、今のシャルフィを良い方へと導いている。



シャルフィ王国における大きな改革の一つ。

女王シルビアは、職業選択を、原則自由にする新制度を断行した。


新制度の施行に当たっての演説で、女王は、『出自や身分に関係なく。誰もが等しく職を選ぶ自由を得られる事が。その者が持つ可能性を広げ。それこそがシャルフィにとって大きな財産となる』と、自信に満ち溢れた声で述べられた。


この宣言を行った後。

それまでの慣習に凝り固まった者達からは当然。

女王へ向けた大きな反発が起きたそうだ。


当時は絶対ではないにせよ。

兵士も親から子へ。

それから孫へという系譜が、当然のようにあったのだとか。

要するに、どの家でも親の職を子が継ぐのが当然のような慣習が存在していた。

子供が違う職に就きたいなどと言えば、これも長子でない限りは認められる習わしが色濃く残っていた。

ただし、その慣習は職業によって常に収入の低い人生を強要される側面もあった。


制度改革を断行する前。

女王シルビアは、布石として教育制度の改革へ着手した。

新たに定められた教育制度は、明記された対象となる国民全てに対し。

当時は大陸全土でも唯一となる初めての『義務教育』が課された。


義務教育とは、対象となる国民全てが必要最低限の教育を受ける制度である。

同時に、この義務教育に関しては、就学費用を実質『無償』と定めた。


シルビアが打ち建てた新制度は、初等科教育を、この義務教育の内に置いたへ過ぎない。

ただ、これは後世に対しても、また大陸全土でさえ初となった制度という意味でも。


国民が初等科教育を無償で受けられる権利を明文化した事実は、他国のそれまでの教育制度へも。

当時は大きな一石を投じたのである。


しかし、この新制度を施行させた女王の意図はまた別に在ったのだ。

女王は自国民に対して。

自らが定めた制度の中で、そこで無償で受けられる初等科教育を、祖国の将来のため。

故に『必修』としたに過ぎない。


更に言えば、この教育制度の改革も。

そこに伴う財源を確保するため。

シルビアは税制度の改革へ大鉈を振るったのだ。


改革以前の税制度は、一言、複雑に過ぎた。

シルビアの改革は、徴収される税金を、基本的に所得税と消費税の二つだけに纏め上げた。

改革前の税制度では、身分や職等によって税金の割合内容が細かく分けられていた。

特に、貴族や名家にとっては、都合の良い控除や還付等も設けられていたのだ。


そんな古くからの税制度へ。

即位後の二年目である。

女王シルビアは、敢然と大鉈を振るった。


広く国民へ演説する場を設けたシルビアは、集まった多くの国民へ向けて宣言した。


『一部の既得権益を貪る者達だけを優遇した古き税制度。私はこれを、誰にとっても等しい形へ改めます』


開口一番の宣言は、それを耳にした多くの聴衆が一瞬。

揃ったように訪れた静寂は、続くシルビアの演説によって。

そこかしこから猛然と歓迎の声ばかりが噴き出すに至った。


内容は、はっきり言って分かり易かった。

今までは身分と職種。

男女の性別も含めて細かく定められていた。

同時に、多くは庶民と呼ばれる国民の殆どが負担を強いられた。


だが、シルビアは年収の2割を一律とした所得税の他。

物品等を購入する際、その購入額の3割を消費税の名目で徴収する。

この二つを、シルビアは演説の中で。

はっきりと伝わる声は、これが国民の納める税金の基本だと明言した。


以前の制度では、よく分からない名称の税金を幾つも取られていた。

比べて新制度の税金は、納める側にとって、非常にシンプルで分かり易く伝わった感が色濃かった。


シルビアの演説は更に、新制度の所得税についても及んだ。

所得税は、その一部が病気などの診療に伴う費用に使われる。

よって、一般的な診療と薬代等は無償化する。


演説の最後は、消費税についても触れていた。

シルビアは演説の中で、初等科教育の予算や身寄りの無い者達が暮らす施設を運営する予算の重要性を説いた。


シルビアが示した新しい税制度は、一部の既得権益を得ている者達を除いて、殆どの国民は歓呼の嵐で応じた。

それだけ大歓迎された背景の一つへ。

これは内容と用途を、女王自ら明確に述べた事が挙げられるだろう。

何より、身分も性別も職種も関係なく皆等しく同じ割合を収める部分には、既得権益を掴んでいる一部は猛反対でも。

絶対的大多数を占める殆どの国民には、旧制度と比べて負担が軽くなった感と、もう一つ。


皆が平等に扱われている。

この平等に対する受け捉え方が、故に歓呼の嵐で迎えられたのである。


こうしてまだ若い女王へ、圧倒数の支持が集まった結果。

シルビアは国民の絶対的な支持を背景にして。

当時は猛烈な反対を、露骨な姿勢で示した存在へ。

つまり、既得権益を貪る一部なのだが。


シルビアの断固とした姿勢は、反発した有力貴族の一部で別の王族を立てる動きが出ると、しかし、察知した宰相と騎士団長の迅速な行動が、以って未遂に終わった。

事件の首謀者は極刑となり、企てに参加した王族と他は、身分の剥奪と財産を全て没収された上で、国外追放に処された。


未遂に終わったこの事件では、結果として幾つもの貴族と、加担した王家の親戚までが家ごと滅ぼされた。

だが、そうして流血も伴った税制度の改革は、同時に時代の節目を呼び込んでいる。



新たな税制度が施行されて後。

実際、国民の意識へ大きな変化が生まれた。

税制度が新しくなった後で、この辺りは新聞などの情報も関わっているのだろう。

庶民と呼ばれる者達には、より多くの所得を求める風潮も起きた。


以前は同じ職種でも。

身分が貴族か庶民だけで、収める税金の額には大きな差が在った。

貴族は優遇され、庶民は多くの負担を強いられた。


新制度では、先ずこれが無くなった。

年収の二割を一律。

庶民と呼ばれる者達にとって。

これは超が付くくらい大きな改革に映った。


ただ、より多くの所得を求めた国民ではあったが。

しかし、高所得を手に出来る職種について。

その多くは、最初から一定水準以上の知識や専門の技術を要するものばかりだった。

応募者達は当然。

水準以上を求められた。


職種によっては、必要な専門知識や技術が求められる。


シルビアは此処で、このタイミングで新しい教育制度を施行した・・・に過ぎない。

望む職種への必要な知識と技術。

それを身に付けるための基礎教育は欠かす事が出来ない。


先に税制度へ着手したのは、改革の後。

国民の所得向上に対する意識へ、火が点くを見越してのもの。

そうして所得を増やしたい意識は、しかし、国民の内にさえ在った教育を軽んじる部分へ。

この軽んじている意識が、現実を前にして、自発的な変革を起こすのを・・・・・・・



祖国を将来の発展へ導きたい女王シルビアは、正にこれを狙っていたのである。



『義務教育』の制度は、税制改革の数ヶ月後に施行された。

また、これに続く形で『職業選択の自由制度』が施行。


まだ若い女王のシルビアが目指す国の形。

女王の演説は、耳を傾ける国民へ。

故国の未来象を、明るい将来を実感させたのである。


『夢や希望を手にするために努力は欠かせません。ですが、身分や出自も関係なく。誰もが等しく機会を得られる時代を。これが私の描くシャルフィの姿。その一端です。思い描くだけでは手にすることは出来ません。けれど、それを掴み取るために。努力を積み重ねた者が報われる社会に。そうして紡がれる未来は、きっと。シャルフィを、今以上に豊かにしてくれると。私は揺るぎない確信を持っています』


王都の広場で演説したシルビアは、即位以前から高い人気が集まっていた。

綺麗な花には視線が集まる。

まぁ、そういう類でも。

人気があるという事もまた、為政者に求められる要素には違いない。


両親でもある先王夫妻を不慮の事故で失ったシルビアは、当時まだ十七歳の少女だった。

同時に、即位直後は高い人気だけが独り歩きしていた面が色濃かった。

何せ当時のシルビアは、高等科へ通う一学生でしかなく。

当然、政治の実力は未知数だったのだ。


即位から未だ二年程度。

税制改革。

教育改革。

職業選択の自由。


他にも、この間に起きた多くの事柄を、強い姿勢で歩んだシルビアへ。

本当の意味で王になったのだと。

そう認めたのは、他でもないシャルフィの国民達である。


2018.4.29 誤字の修正等を行いました。

2020.1.27 表現の修正を行いました。

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