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第16話 ◆・・・ 正義を振りかざす悪役 ① ・・・◆


状況は今も、外野の連中がクリスティーナさんと、その友達。

それと風紀委員たちに対しても。


反感の強さが、露骨な誹謗中傷さえ通り越した感だった。


何て言えば・・・良いのかな。

俺が休憩もすれば、それから色々と調べものへ時間を費やした所で。



戻って来た本来の世界は、まぁ・・・・こういう状況だったんだ。


はははは・・・・すっかり忘れていたよ。



仕方ない。

先ずは、こいつらを黙らせよう。


俺は一度だけ、右手の指を鳴らした。


-----


初等科の3学年から7学年までの生徒達が集まったグラウンドで。

未だ終わらない騒動は、場の中心に居る者達と、当事者達を囲む者達とが。


たった一人を除く彼ら全員の視線と意識は、頭上に突如現れた、幾重にも渦を巻く巨大な火球へ奪われた。

それこそ途端の恐怖が、声を失わせた一瞬の後。


突然現れた直系100mはあるも思えた火球の大爆発は、腹の底にまで響く爆音だけでなく。

熱を伴った爆風に押し倒された誰も彼もが上げた悲鳴も。


その瞬間は、絶対的な力の前に、僅かな抵抗すらさせて貰えない光景でもあった。


-----


まぁ、黙らせるのが目的だったんだしさ。

もうちょい下で爆発させたら。

火達磨になった奴もいただろうな。



これを行使した俺の視界には、静かになると、既に立っている者が一人も居なかった。


「俺様は、人権と人格権も語った筈だが。それと、被告人クリスティーナと取り巻き共に関しても。付け足しは風紀委員会もだが。俺様が場を囲むしか能の無い貴様らへ許した発言は。痴漢に関しての具体的な証言のみであって。不平不満を通り越した誹謗中傷を叫ぶ事など。許可した覚えはない」


脅す時の声ってさ。

低く冷たく、そこへゆったりと言葉を続けるとかもね。


簡単なようで、結構難しいんだよ。


「にも拘らず。貴様らは無法無秩序に感情を叫んだ。此度の警告が、次もあるとは思うな。そうしてカス以下な脳みそへは、許可なき発言が。以後は連帯しての極刑以外にないを。深くを刻みつけておけ」



映る限り、上半身だけを起こした様な姿勢ばかりが目立つ此処は。

こうして再び、俺の支配下に戻った。


-----


マクガレンの瞳は、校舎の屋上より少し高いくらいの所に突然現れた、今までに見た事も無い巨大な火球を映して。

大爆発の瞬間は、咄嗟に隣のフェリシアを押し倒すと覆い被さっていた。


マクガレン本人に分かっているのは、陛下を守るために押し倒しもすれば。

その上から盾同然に覆い被さった自分の上にも。

イリア大尉とティルダ中尉の二人が覆い被さった事くらい。


今日は朝から気温が低く、実技試験の説明を聞く前から。

外に出れば、吐く息が途端に白くも映る。

内側に二枚程の厚着をしても、とても寒かった。


そんな肌へ、熱いを感じ取った短い時間の後。


『俺様は、人権と人格権も語った筈だが。それと、被告人クリスティーナと取り巻き共に関しても。付け足しは風紀委員会もだが。俺様が場を囲むしか能の無い貴様らへ許した発言は。痴漢に関しての具体的な証言のみであって。不平不満を通り越した誹謗中傷を叫ぶ事など。許可した覚えはない』


カミーユ・ルベライトの声は、低くゆったりとした口調が、この様な脅迫へも凄みを感じさせた。


『にも拘らず。貴様らは無法無秩序に感情を叫んだ。此度の警告が、次もあるとは思うな。そうしてカス以下な脳みそへは、許可なき発言が。以後は連帯しての極刑以外にないを。深くを刻みつけておけ』


雷撃の件は知っていた。

けれど、此処まで恐ろしい力を持っている等は、私の想像すら超えていた。


「セレーヌ。それからイリアにティルダも。貴女たちのおかげで、私は無事です。三人は大丈夫ですか。それと、身体を起こしたいので。申し訳ありませんが」


陛下を押し倒しても、押し潰さない様にが四つん這いの姿勢だった私は、私に折り重なった二人が、先に身体を起こした所で。

背中に在った重みから解放されると、私も直ぐに身体を起こした。


「どうやら、三人とも。先ずは無事だったようですね。安心しました」


陛下の安堵も伝わる声に、私は熱いを感じたくらいで火傷もしていない。

視線を回すと、イリア大尉とティルダ中尉の二人も、負傷はしていないの声が返って来た。


周りでは、しっかり立ち上がった者達が極僅か。

殆どが上体だけしか起こせていない。


と言うよりも。

カミーユ・ルベライトが行使した力の前に、死さえ過った恐怖が畏れとなって、そうさせてしまった感がある。


「陛下。カミーユ・ルベライトの事は」


小声で対処を尋ねようとした私へ。

陛下は右手を軽く握ると、人差し指だけを立てて唇へ。


「セレーヌ。それと二人とも。動いてはなりません。あの子は、この様な力を行使しても。誰一人殺さないくらいには。そういう手加減もしてくれたのですよ。ならば、あの子がどう収めるのか。もう少し見ていましょう」


陛下は私達にしか聞こえない小声で、けれど、未だ事の推移を見守ると。


「ですが陛下。カミーユ・ルベライトは」

「セレーヌ。私は、あの子を信じています。貴女も聞いたなら理解(わか)るでしょう。あの子は、事実、我が国の法律もですが。大陸憲章や国際法にも精通している感があります」

「それは、確かに私も法学を修めた一人ですから。カミーユ・ルベライトの発言には。法律の部分には間違いないを認めもします。それでも」

「ねぇ、セレーヌ。貴女の抱く、それでもの部分。きっと、あの子にも在るからこそ。それで力も示したのではないかと。だって王立学院は、先ず力の強さが求められたでしょう」


陛下の言いたい事が、それを私は分かっている。

同時に、陛下の真意は、力だけの部分が今の王立学院を成してしまった点を。

故に、生徒達の内側から変えて欲しいを待っていた。


今の在り様は間違っていると。


けれど、そうした志を抱く生徒達は、力の壁によって命を落とすか。

後は泣き寝入りか、退学して他所の学校へ移るか。


「セレーヌ。私は、過去に此処で・・・ケイトを殺してしまいました。だから」

「陛下。その事は理解(わか)っています。だからこそ陛下は、私に学院長への就任を。同じ過ちが繰り返されないために。求めたのではありませんか」


あの事件では、王太女だったフェリシア様を支える味方が居なかった。

ケイトが孤立させられた事も。

大切な友人を助けようと行動しながら。

しかし、フェリシア様もまた孤立無援に近い状況だった。


あの時・・・もし、学院長が自分であったなら。

そうして、理事長がフェリシア様だったのであれば。


私達は、ケイトの悲劇を、もう二度と起こさせないために。

いつかまた、ケイトの様な志を堂々と掲げる生徒が出て来た時のために。

だからこうして、今も此処に居る。


「私は、ケイトの尊厳も命も奪った私では変えられない。王権で頭ごなしに変えた所で。それはケイトの理想とした改革とは違うのです。だから、待つしかなかった」

「陛下。それも理解(わか)っています。ただ、あんな事件のあった時代でしたから。私は二度と此処へ戻って来たいと思いませんでした。ですが、陛下の真意を聞いて。その時が来た時にはと。ケイトの様な生徒が現れた時には。今度こそ、二人で守り切ると誓い合ったではありませんか」

「えぇ、その時が。もしかしたら、あの子が。カミーユ・ルベライトが変えてくれるのかも知れない」

「なるほど。ですが、私はまだ不安の方が大きいです」

「そうね。私も、セレーヌの抱く不安は。それは私にもあります」


言葉を交わしながら再び帽子を深くかぶった陛下と、それに習った私達も見つめる先で。



『さてと、法的根拠も示した俺様の正義は。受けた決闘に勝つことで。先ずは貴様らの罪を。以って裁くとしようか』


カミーユ・ルベライトの尊大な声は、そこから恐怖も怯えも隠さないクローフィリア王女達を立たせた後。


『俺は命の重みと尊さを。それを貴様らとは比べられない程に分かっている。よって、決闘はするが。俺は貴様等の誰一人として殺さないを。先ずは言い渡しておく』


陛下も私自身も、この感覚をおかしいと思った。

カミーユ・ルベライトが誰一人殺さないと言った事へ。

そこに何か安心を抱いた感覚には、安堵とは全くの別。


不気味にも感じた、そういう違和感が在ったのです。


-----


私は決闘を申し込んでもいなければ。

あの時のアイス・バレットは、カミーユ・ルベライトへの赦せない感情が、それで撃ってしまった。


だから。

撃った私だけが今さらな事には、納得も出来る。

それに、私の方もカミーユ・ルベライトの態度へは、撃ったことを後悔するような。

そういう感情も湧いてこない。


お婆様がシルビア様を、陰謀で殺した。

私も、もしかしたらを抱いていたお母様の事も。


信じん込んでしまった私も悪いのはそうだけど。

でも、カミーユ・ルベライトは、騙した事を悪びれもしなかった。



けど、カミーユ・ルベライトは、自分の口で嘘だと言ったけど。

なのに。

私は、本当のお母様のこと。

王立学院へ受験した事では、お婆様から王立学院へ行くようにとも言われた。

だけど。

受験する事を選んだのは私自身。


王立学院へ来てからの生活は、嫌な先生もいるけど。

私には、王宮で暮らしてきた時とは違う。

王立学院へ来たからこそ得られた友達が居る。


年に一度しか帰省できない事はそうでも。

そこで、お父様やお母様。

妹のフローラにも会う事は無かったけれど。



カミーユ・ルベライトの言葉を聞いてから。

彼は嘘だと認めもしたけど。


あの態度へ。


私は、彼が認めた嘘の部分が。

それも、もしかしたら嘘なのではを。


嘘が嘘だとしたら。



カミーユ・ルベライトの言葉は、真実を語ったのではないか。

真実を語って、それを嘘だと告げたのだとしたら。


違う。

私は、彼の言葉を真実だと認めたい訳じゃない。


だけど。

彼の言葉は、嘘を付くにしても事実がしっかり入っていた。

私でも分る事実が幾つも含まれた言葉には、最後に嘘だと言っても。


私は・・・・・・・



「おい、いつまで座っているつもりだ。貴様等は被告人なのだぞ。裁いてやるから、さっさと立ち上がれ」


考えれば考える程、私の頭の中はごちゃごちゃしてしまって。

そんな私の耳に入ったカミーユ・ルベライトの声は、とても冷たかった。


「クローフィリア王女と。それからお前等もだ。俺様は暇じゃない。まぁ、そういう訳だからな。貴様等を一度に裁いてやる。分かったら、さっさと立て」


上から目線で、私達を見つめる彼の瞳は、声よりも冷たく感じられた。

確かに今日は寒いけど。

それ以上の冷たさが、彼から睨まれた私には、怖くて堪らない。


立てと促された私の視線は、近くに居る同じ風紀委員を映して。

それから、クリスティーナさん達も映した後。


なんとなくでも、私が最初に立たないといけない。

返って来た視線というか、雰囲気でそう思いました。



立たないといけないのに、立つのが怖い。

彼は殺さないと言ったけど。

あんな嘘を付いた人間が、此処だけは本当だと約束してくれる・・・・のでしょうか。


それでも。

なら、私だけは立たないといけない。


彼にアイス・バレットを撃ったのは私。


風紀委員の仲間達も、クリスティーナさん達も。

さっきの視線は、私のせいで巻き込まれた・・・・・・・



「カミーユ・ルベライト・・・さん。発言を許可して貰っても宜しいでしょうか」


膝が震えて、それくらい怖くて。

でも、私は立ち上がった。


立ち上がって、それから彼に発言の許可を求めた。


「クローフィリア王女。さん付けなど。もう今更であろう。故に好きに呼ぶが良い。自由な発言を許す」


カミーユ・ルベライトは、やはり尊大で傲慢で、上から目線だったけど。

私へ自由な発言を許すと言った。


先ずは話をしないといけない。

何をどう、という所で考えなんか纏まっていないけど。


一つだけ。

私は、私達を囲む生徒達。

彼等を証人にして、カミーユ・ルベライトから、何とか助かるための言質を引き出す。


カミーユ・ルベライトは、法的根拠を盾に、正義は自分に在ると言った。

なら、彼自身の掲げた正義を私も。


許可を得られた私は、深呼吸を一度。

どうやって言質を引き出すかなど、未だちゃんと考えも出来ていない。


それでも。

今は先ず口を開かないと。


「それでは」

「だが、俺様が与えた発言の自由とは、責任を伴う自由であって。無法無秩序な自由とは異なる。その事をしかと肝に銘じて。そうして発言せよ」


私の声を遮った彼の言葉は、だけど、その時のカミーユ・ルベライトを映した私は、瞳が映した光景へ。

思わずは、息を飲み込むくらいゾッとさせられた。



どういう理屈なのか。

それも分からない。

私のアイス・バレットを消した・・・のかも分からないけど。

そう見えた時の、カミーユ・ルベライトを囲んでいた銀色のマナ粒子が。


今は金色へ変わると、神秘的にも映ったそれが、彼へ纏う様にゆったりと漂っていた。


一瞬、その瞬間の私には、カミーユ・ルベライトの、私だけを捉えた様な琥珀色の瞳へ。

あの瞳に、私は、何故か一人の男の子を思い出すと重ねていた。


自分でも、変な事を考えていると思った。

もしここに、私の知っているアスランが居てくれたら。

彼ならきっと、私を助けてくれると思っていた。



シルビア様と同じ綺麗な黒い髪をしたアスランは、琥珀色の瞳が、カミーユ・ルベライトと重なる。

為人は似ても似つかないけど。


だからなのか。

私は此処に、聖剣伝説物語に出て来る騎士王ユミナ・フラウを真似た姿のアスランが居てくれたなら・・・・・・・


「どうした王女。何か言いたい事があって。それで発言の許可を求めたのではないか。責任を伴う発言であれば。自由に表現して述べるがいい」


意識を思い出の中に在るアスランに向けていた私は、その声へハッとはさせられたけど。

不思議な感じ・・・というのは、こういう事なのだろうか。


さっきは冷たく怖いとさえ感じたカミーユ・ルベライトへ。

態度も口調も、きっと変わっていない筈なのに。


何故か、今になって少し普通に話せる。

そんな感じがしていた。


-----


「本当に殺さないと。それは約束して頂けるのでしょうか」


考えなんか纏まっていない。

言質を引き出すなんて考えたくせに。

そこから先の、どうすればの部分が。


普通に話せるかも知れないと抱いた途端。

私は、単刀直入に今思っていることを、そのまま尋ねていた。


「なんだ。そんな事を確認するために。だいぶ勿体付けてくれたものだな」


私の尋ねへ、カミーユ・ルベライトは先ず鼻で笑った。

その態度だけでも、尊大で傲慢な感じしか、しなかったけど。


「良かろう。どうやら王女は、俺様から言質を引き出したいようだ。なに、その程度は然したる事でも無かろう。改めて、俺様の正義は、それをこの決闘にて示す。だが、王女も含む被告人達の。その誰一人としてだ・・・」


――― 此度は被告人達の誰一人。殺さないを約束しよう ―――


私が言質を引き出そうと、それを分かっていた様なカミーユ・ルベライトへは、見透かされた事に面白くないはある。

あるけど、彼は私が先ず欲しかった殺さない約束を、しっかり聞こえる声にしてくれた。


・・・・・ もしかして、本当に殺すつもりなんか無かった ・・・・・


「おい。王女殿下は、自身では気付いていない様だな。そこまで顔に出やすければ。俺様でなくとも気付いて当然だ」

「え!?」

「フッ、どうやら本当に気付いていなかったようだな。それで、もう話も無ければさっさと済ませたいのだが」

「ちょ、ちょっと待ってください!!」


顔に出ていると言われて驚いて。

それも鼻で笑われた後の私は、ついムキになってしまった。


途端に「しまった」を思った私は、けれど、カミーユ・ルベライトは泰然としたまま。


「ならば、さっさと用向きを述べるがいい。さっきも言ったが、無法無秩序な発言でない限りは。自由に表現しての発言を許している」

「あの、その。私の母の事ですが。本当の母がフェリスというのは」


言ってしまった後でなんだけど。

でも、急かされたような感じだったから。

それで何か聞かないとって・・・だからと言って母様のことを尋ねてしまった私へ。


カミーユ・ルベライトは、「なんだ、その様な事か」って、また鼻で笑っていた。


「その事へ答える前に。王女、貴女はこの学院へ入学した後。大図書館をどれくらい利用した事がある」

「それは・・・予習や課題のためになら。そうですね・・・週に一度か二度くらいは」

「なる程な。自身の勉強以外では利用した事は無いか」

「そう・・・ですね。勉強と風紀委員になってからは。風紀委員は忙しい所ですから」


私の返事を聞きながら。

小さく何度かは頷きもしたカミーユ・ルベライトだったけど。


彼は左腕のブレスレットだろうか。

とても綺麗な金属に映ったそれは、宝石だろうか。

でも、その宝石がオレンジ色のライトにも見えた光を、地面へ当てた途端。


「「「「「 !!!!! 」」」」」


周りが驚きの声を上げたのは、私も当然だと思う。

ライトに照らされた地面には、最初に光る輪郭の様なものが映ると、間もなく本やノートが何冊も。

それと・・・・


「サンドイッチ・・・って」


映したままを口にしてしまった私へ。

カミーユ・ルベライトの唇は、「クルツへは、正直に白状したらと約束していたからな」と、私達の見ている前で、食べ物だけはクルツさんへ全部くれてやる。


「ったく。そこまで飢える前に。お前も何か食っておけよな。しっかり食っておけば、今回の事件も起きずに済んだ筈だ」

「ですよね」


カミーユ・ルベライトが、どうやってかは分からない。

でも、彼の目の前に現れた山積みのサンドイッチやチキンナゲット・・・・・・

それらは全部、与えられたクルツさんが。


今、一応・・・実技試験の時間なんですけど。

クルツさんは本当にお腹を空かせていたんだと思う。

あんなに夢中になって、しかも喉を詰まらせても食べることを止めようとしないのは、余ほど空腹だったんだと思えた。


そんなクルツさんを他所に。

カミーユ・ルベライトは、十冊はあるだろう本と、何冊ものノートの様なものを両手に抱えて。

そうして、今度は私の方へ近付いて来た。


「君の知りたい母親のことは、此処に全部記されてある。ついでに、何故フェリスのことをフェリシア様が隠したのか。君が知りたい事は、それが大図書館には最初から在ったんだよ」


私にしか聞こえない程度の声で。

その時の口調は、さっきまでを疑うくらい優しくて、私を映す彼の表情は、何かとても寂しそうに映った。


けれど、カミーユ・ルベライトは、私へ両手に抱えていた本やノートを全部預けた後。

直ぐに背を向けると、クルツさんの方へ歩き出しながら。


「ホント。これじゃあフェリシア様が救われない。不出来過ぎも此処までくると。寧ろ、婆さんには同情してしまうよ」

「えっ?」


たぶん、その声も。

聞こえたのは、私だけだと思う。


ただ、カミーユ・ルベライトは、その後は真っ直ぐクルツさんの方へ行ってしまいました。


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