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第13話 ◆・・・ 故に、推定無罪の原則が在る ③ ・・・◆


場の中心に立つ彼は一人、自分の嘘で騙された私達を、可笑しかったのでしょう。

何処までも馬鹿にした笑いは、ですが、私を満たしたもの。

それは、赦さない感情だけでした。


カミーユ・ルベライトを殺してやる!!

私を満たした殺意は、アイス・バレットを躊躇わず・・・・・・・




「嘘・・・えっ・・・!?」


思わずの声は、私の目の前で起きている現象へ。

あんな現象を、私は今まで見た事がありません。


私が行使したアイス・バレットは、撃った氷塊が、直後。

カミーユ・ルベライトを囲んでゆったり立ち昇ると、空へ向かって渦を巻く様な。

そうも映った綺麗に輝く銀色のマナ粒子の中へ、すうっと溶け込むようにして消えたのです。



「良いぜ、クローフィリア。お前からの決闘(● ●)の申し出( ● ● ● ●)。受けてやる」


初めて見た銀色のマナ粒子も。

そこへ触れた氷塊が、溶けた様に消えた事も。


絶対赦さないが、掌返しな驚きで満たされた私へ。

身体は背中からゾクッと震えていた。


私が映したカミーユ・ルベライトは、私のことなど眼中に無い。

風紀委員を務める程、実力を持っている私を、なのに、全く恐れてもいない。


一瞬。

私が映したカミーユ・ルベライトが。

私を見つめながら、鼻で笑ったのです。


途端、鼻で笑われた私の首筋を、今日は昼になっても吐く息が白く染まるほど寒いのに汗が流れました。


ですが。

私を鼻で笑ったカミーユ・ルベライトは、間もなく。


「けどな。俺とお前じゃ、最初から勝負にならない。雑魚にもなれない脆弱なお前が。俺様に挑むなんざ。一千万年早いんだよ。付け足しで、そもそもの原因だ。俺は風紀(● ●)委員会(● ● ●)の。条約機構が定めたルールすら踏み躙った件へ。故に介入したに過ぎない」


私を雑魚以下だと。

脆弱な私では、自分とは最初から勝負にならない。

自分を様付けで呼称したカミーユ・ルベライトの態度には、それが、酷く高圧的にしか思えませんでした。


しかも、彼は私から決闘を申し込まれて、それを受けたと。


はっきり言って、そんな事をした覚えはない。


それこそ、入学後から一度も授業へ出ていないくせに。

入学した後はずっと、大図書館にしか行っていない。

だから、大図書館の住人と呼ばれる彼は、これ以上、何をしたいのですか。


「この決闘は先ず、条約機構に批准した国家でありながら。かつ議長職にある国家の。その議長たるフェリシア・フォン・ルミエール女王が。彼女が理事長を務める王立学院内で起きた大不祥事。条約機構のルールと、所管する国際司法裁判所に置いての。そこで正式裁判に持ち込めば。事実、極刑をも当てられる行為を働いた風紀委員会へ対する。故に、此方は。法的根拠を以って・・・・」


カミーユ・ルベライトは、一度言葉を切った後。

肩を動かして、視線を左右へと振りました。


「この決闘は、条約機構が定めた推定無罪の原則の犯して。そこで未遂となった殺人を犯した。被告人クリスティーナを含む女子達と。被告側の主張のみを採用し、以って殺人を自己正当化した風紀委員会とを裁く。綱紀粛正を示すための決闘であることを。此処に宣言して置く」


上から目線で、傲慢にも映る態度なのに。


なのに。

この瞬間のカミーユ・ルベライトからは、私も恐れを抱いたお婆様の。

女王フェリシア・フォン・ルミエールが纏う威圧感とよく似た・・・・・・


「この状況を囲む諸君らは見ていた筈だ。事の発端は、此処に居るクルツが。そちらのクリスティーナへ痴漢行為を行ったと。そこで、この件に介入した風紀委員会だが。条約機構が定めた人格と人権に関するルールでは。有罪が確定した後であっても。当該の人物へ対する暴力行為等の、全てが禁じられている。にも拘らず。風紀委員会は、その時には横たわって動くことも出来ないクルツに対して。明らかな暴行を犯した」


場の空気は、既にカミーユ・ルベライトが握っていた。

場を支配できる程の圧迫な空気と、それを纏う彼の言葉が。

私や周りへ、抗うことを許さない。


本当に、この時のカミーユ・ルベライトには、玉座に座るお婆様が、そこに居るのではを。

今、彼の唇から紡がれる言葉には、最初とは明らかに異なる。


――― 絶対的な支配者 ―――


それくらいお婆様と重なったカミーユ・ルベライトの、抗えない力を感じさせる声は、私も見ていた事実を。


「だが、先に俺から。条約機構が定めた法を犯した風紀委員会と。その風紀委員会の犯した行為へ、当然と受け入れた貴様ら全員にだ。一つ言い渡して置く。クルツに掛けられた痴漢の件は。風紀委員会の宣言した、被害者側の複数人の証言だけでは。法が定めた立証責任を、何一つ果たしていない。風紀委員会の主張と行為は、身勝手極まりない違法行為の自己正当化であって。以って本件で裁かれるべき対象には、被告人達と、風紀委員会の他。監督不行き届きが明白な、つまり、学院理事長も含まれる事だ」


「「「「「 !!!!! 」」」」」


「当然だろう。学院理事長は、この王立学院の最高位。学院内で起きた条約機構も黙れない大事件へ。何を以って、理事長だけは無関係でいられると。貴様らは、だから雑魚以下なのだ。同様に風紀委員会は。自分達の起こした不祥事が。だから理事長さえも、巻き込むことへ至らなかった。その証拠こそが。倒れて動くことも出来なくなったクルツへ対する暴行であり。彼の頭を踏み付けた後。顔を蹴るという蹂躙行為として示された」


カミーユ・ルベライトは、自らの主張の正当性へ。

その部分に、条約機構が定めたとかいう法を持ち出している。


正しいのは自分。

罪を問われるべきは、クリスティーナさん達や、私たち風紀委員会。

そうしてまたも、お婆様まで巻き込んだ。


まるで、場を支配した彼の演じる、大掛かりな劇にも映った舞台と。

そこで紡がれる、支配者カミーユ・ルベライトの主張も。


けれど、彼の声には、周りを囲む生徒の一人が、「おい。そこまで言うなら法律を。何の法で何条なのかも示せ!! 」の声が上がった途端。

続いた幾つもの同じ声から、瞬く間に拡がった強い反感と非難の大合唱。



なのに、周囲から一斉に、これだけの強い反感も買えば。

当然と非難を浴びたカミーユ・ルベライトは、不気味に思える程、泰然としていたのです。


「大陸憲章、第48条。憲章が掲げる平和への理念に賛同し、以って憲章へ批准した国家と、及び自治州は。憲章が定めた犯罪に関する規定。刑が確定するまでは保障される推定無罪の原則を絶対として、総会の場で加盟各国、並びに各自治州と教会総本部への誓約を行う。また、誓約に伴って。これを厳守するための国内法等を必ず整えると共に。推定無罪の原則を犯した場合の、死刑を適用する厳罰を刑法に定めた後。条約機構へ提出し、必要な審査手続きを経て、正式承認を受けなければならない。なお、審査手続き等の期間中にある場合には。その期間に限り。条約機構が設けた国際法が適用される」


あれだけの嘘を口にしたカミーユ・ルベライトには、反感も非難の大合唱も当然。

私には、彼に対する強い否定と、罵詈雑言にも思えた声へ。


それを全て黙らせたのは、やはり、お婆様と重なる迫力だからなのか。


叫ぶでもなく。

怒鳴ってもいない。


カミーユ・ルベライトの声は、ただ、よく通った淡々とした声が。

それだけで、周りを再び沈黙させたのです。


彼の紡ぐ言葉へ声を失い、そうして、呆然と聞いてしまったのが、私を含む全員でした。


「ローランディア王国 刑法、第249条。容疑者へ対する推定無罪の原則。同条第1項。如何なる罪状であっても。その罪が然るべき裁判によって刑を確定するまでは。容疑者を推定無罪として扱う。及び、人権並びに人格を、必ず保障しなければならない。同条第2項。先の1項に関して、これを犯した場合。同法第155条、重犯罪に対する無期刑あるいは死刑。同条第2項、推定無罪の原則を犯した場合と。3項の人権並びに人格の保障を犯した場合を適用し。以って、無期刑ないし極刑を適用する」


私もそうだし、周りでも、カミーユ・ルベライトの声を、遮る音は一つも無くて。

よく通った声は、だけど、淡々と述べるカミーユ・ルベライトは、まるで全ての法律を記憶しているのでしょうか。


此処は今、カミーユ・ルベライトが、再び支配した感になりました。


「同法第89条、罪状への立証責任。1項、如何なる犯罪事案に関しても、それが犯罪である事を立証する責任は、これを犯罪だと主張した側が行うものであり。この立証責任を満たせず、かつ不当に果たさない場合には。同法第90条、不法行為罪の内。1項、冤罪の処罰を以って。4年以上の懲役、或いは5年の禁固刑に処するが適用される」


私には、カミーユ・ルベライトの主張へ。

言ったことが真実、全て正しかったのだとしても。

法律の事など、そこまで細かく勉強していない私には、だから判断も出来ません。


と言うよりも。

この場に居る誰でも良いのです。

誰か、法律に詳しい方はいませんか。


辺りを見回す私には、私と同じ様に、周りへ首を動かす人達ばかりが。


「一応な。誰か一人くらいは言って来る。こんな事は想定の内に在るんだ。だが、そんな事と関係なくだ。俺は、大図書館の住人様だぞ。王立学院へ入って。大図書館へ通った当日の内にだ。ローランディア王国の法律くらい。一言一句を全部、頭の中に刻んであるんだよ。条約機構のことも、国際法のことも。その上でもう一つ」


――― 王立学院は、ローランディア王国の法によって。治外法権を与えられて等いない ―――



その瞬間は、カミーユ・ルベライトが私達を。

それも周りを囲んだ人達までを含めて。


彼の厳しく断罪した感の声が、私には強く叱った時の、恐ろしいとさえ抱いたお婆様と、重なってしか見えませんでした。


-----


「なぁ・・・この中で。治外法権の意味を分からないって奴はいるのか」


厳しく叱った声の後で、途端に呆れた声で尋ねてくるカミーユ・ルベライトへ。

私の無意識は、つい、杖を握ったままの右手を挙げてしまいました。


「お前さぁ。いくら何でも、この国の王女様が。なんで、この程度を知らないんだよ」

「だって、授業でも法律なんて。初等科では、そこまで習っていません」


彼の呆れた声には、その口調と態度だと思います。


先程には、お婆様を感じさせたくせに。


今はまた、もう馬鹿にされっぱなしな感しかなくて。

そこには、どうしても面白くない感情も。


「治外法権。簡単に言えば、法律が適用されない。これで理解(わか)らないなら。少なくとも俺には、手の施しようがない」

「そこまで馬鹿にしなくても。つまり、王立学院はローランディアの法も。それと条約機構の法も適用される。そういう事ですよね!! 」


ついカッとなってしまった私だけど。

あんなに上から目線で、お前は馬鹿だと呆れ顔もしているんです。

そういう失礼な態度には、怒っても当然じゃないですか。


「ヒステリックな馬鹿でも。その程度には理解したか。じゃあ、もう理解(わか)るだろ。王立学院で、お前らが当然とクルツにした事は。例え風紀委員会の絶対権限だろうと。或いは学院の無責任な規則が認めた事だと言ってもだ。最高法規に当たる条約機構の法を、故に超えることは出来ないくらいをな」

「クルツさんの件は。ですが、痴漢を受けたと。その事は、彼女達の証言で」

「俺から見れば被告人達でしかないが。彼女達の証言に。そこに毛ほどにも嘘が混ざっていないと。風紀委員会は、それを立証してから吠えるのだな」

「だから」

「分かっていないな。被告人のクリスティーナと、彼女と親しい人間なら。いくらでも口裏合わせが出来るだろう。寧ろ、彼女達の主張が正しいと立証するならば。立証責任を満たすためにも。現場に居合わせた第三者の証言こそが。公正中立の観点から見ても、最も欠かせず必要な証拠だと。至れないお前は、やはり馬鹿だと認めているだろ」

「な・・・」

「それとも、風紀委員会の持つ殺人したい放題やりたい放題な権限とやらは。冤罪したい放題やりたい放題な倫理観だと。まぁ、あれだ。これなら、貴様ら風紀委員会は。身勝手な思い込みと、無責任な憶測で好き放題に出来るからな。さぞ都合が良いだろう」

「・・・・そんな事は」

「じゃあ、此処で周りの外野ども。貴様らの中には、クルツがクリスティーナへ痴漢をしたと。彼女のどの部分に。どの様にして。どれくらい痴漢したのか。詳細に証言できる者がいるなら。声にして言って見ろ」


カミーユ・ルベライトとは、今日が初対面だけど。

もう関わりたくも無い。

なに、この人。


「たかが痴漢くらいで。カミーユ・ルベライト。貴方は何故。痴漢程度の罪で、事を此処まで大きくするのですか!! 」


――― 風紀委員としても、甚だ迷惑です ―――


私は彼の態度へ、どうしても我慢できず、怒りをぶつけました。

そうして、彼の仕掛けた罠へ嵌められた感に陥ったのです。


「たかが痴漢くらいで、だと。おい・・・貴様は、自分が吠えた、たかが痴漢くらいで。それで確かな証拠も揃えず、一人の命を奪おうと。命の重みと尊さを。それを理解(わか)れない貴様みたいな奴等が裁く側に居るから。この学院は落ちるところまで落ちたんだろうが。恥を知れ!! 」


この時の私は、自分が深く考えずに言ってしまった事で。

すかさず叱りつけたカミーユ・ルベライトには、またも厳しく叱るときのお婆様が・・・・・・・


しかも、此処で周りから。


『俺はクルツの近くに居た。それで、ふらふらしてたクルツが倒れる時に。前を歩いていた女子達にぶつかったのを見ている。だけど、ぶつかっただけで。クルツは痴漢はしていない』


『俺も見ていたぞ。あんな変な倒れ方で。クルツの肩がぶつかったのは事実でも。だいたい、痴漢するなら。もっと上手いやり方なんて他にあるだろうが』


『大図書館の住人。俺は貴様の様な奴が心底大嫌いだ。けどな。此処の風紀委員は、女子の味方しかしない糞みたいな奴等なんだ。そんな糞でしかない風紀委員の横暴から。クルツを守った事だけ。俺は評価してやる』


周りから一つ二つ上がった声は、途端に、堰を切った様な声が溢れました。

私たち風紀委員へも、納得できる証拠を示せとか。

被害者のクリスティーナさんへ。

周りからの、具体的にどう痴漢されたのかを説明しろ等の声には、酷く傷付く様な罵声も混ざりました。

更に、そうした声は、クリスティーナさんの友達へも浴びせられると。

怒っているのが分かる声は、濡れ衣を着せたお前等こそ死ねと叫ぶのです。



カミーユ・ルベライトは、さっきは自分が、これだけの非難や罵声を浴びても泰然としていた。


けれど。

私達は、彼の様に泰然となんか出来る訳が無い。


クリスティーナさんは、名指しで浴びせられる酷い言葉の数々に、途中から両手で顔を覆うと、小さくなって泣いている。

その友達も、さっきから肩を寄せ合って怯えている。

私を除く風紀委員も、今は一ヶ所に固まると、でも、みんな恐怖に怯えた様な顔をしている。


最初は、クリスティーナさんが受けた痴漢の事件だった筈。

なのに。

今は私達の方が、犯罪者の様な扱いで責められている。


私は、風紀委員の仕事に対して。

今まで一度も、無責任な事をしたつもりはありません。


でも、風紀委員が嫌われている事は、何となく感じていました。

ただ、ここまで強い怒りと憎しみを、ぶつけられる存在だった事には。



私達を囲む周りからの、一向に収まる気配の無い非難の声を受けるまで。

そこまでだとは、分かっていませんでした。


-----


現在の状況は、外野で俺達を囲む連中からの非難もあるが。

既に言ったもの勝ちな、そんな状況まで構築しようとしている。


奴等の感情は、誹謗中傷に罵詈雑言と・・・・取って付けた様な憂さ晴らしもか。

けどさ。

聞いていると、この王立学院の風紀委員会って。

心底嫌われている組織なんだと。


既に犯した風紀委員達もだが。

風紀委員を憎んでいるこいつらもまた、俺が掲げた人権や人格権は、完全無視もいい所だな。


ただ、まぁ・・・概ね、予定通り。


お前は大嫌いだと。

てめぇは最低のクソ野郎だって。


俺に向けた、まぁ、そういう声もな。

全部、大筋で予定通りに運べたと思えば。


俺の知っているクローフィリア王女は、真面目で責任感もある。

そういう印象が残っている部分は、だから、使えるかも知れない。


揶揄(からか)われて怒った時のマリューさんが、そうだったように。


もしかすると。

クローフィリア王女を、冷静でいられなくしたところで。

故意に暴発させれば。

きっと、本心でボロが出る。


あれだ、別にそうじゃ無くても。

その時にはまたその時で、風紀委員の誰かか、クリスティーナ本人でも良いし。

あとは、クリスティーナの友達なのか取り巻きなのか。

とにかく、挑発して引っ掛けさせる対象はいたんだよ。



しかし、まぁ・・・・ホント、チョロかったな。


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