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第8話 ◆・・・ 進級試験 ② ・・・◆


右手を高く上げた後。

間もなく、一番近い所に居た一人の男性教員が傍に来た。


「終わりましたので。退室して良いでしょうか」


教室内の生徒達は、全員が黙々と鉛筆を走らせていた・・・もある。

不正行為への監視もしていた3人の先生方も当然、静かにしていた。


だからね。

俺の声は、ごく普通程度の声が、教室内へ良く響いたよ。


結果。

俺から見える範囲でも、かなりの生徒が無言で、顔だけを起こした。


-----


俺のリングファイルを手に取った男性教員は、中を開いてページを捲っていたが。

やがて納得したのか、ファイルを閉じた後。


「カミーユ・ルベライト。退席を許可する」


先生の声も、普通だと思う。

けど、これだけ静かだとよく響いた。


「カミーユ・ルベライト。教室を出る前に。教卓にある実技試験の受験番号札を、忘れず受け取るようにな」

「分かりました」

「君は午後から始まる実技試験の。3学年では、最初の受験者になる。試験開始の30分前から説明が始まるから。余裕を持って、指定されたグラウンドへ来るように」

「はい」

「では、行ってよろしい」


椅子から立ち上がった俺は、指示された通り。

先ずは教卓へ向かった後。

そこで眼鏡を掛けた女の先生から、実技試験の受験番号札を受け取った。


札と言うか、数字の1が記されたカードだな。


受け取って、そのまま教室を出ようとしたら。

俺のテスト問題と答案が記されたリングファイルを受け取った男性教員から、また呼び止められた。


「カミーユ・ルベライト。君は魔導理論の問題で、出題への不備を指摘した記述があった。魔導器を使わないで魔導を行使できる君には。少し説明を求めたいのだが」


話しかけながら教卓へ歩み寄って来た先生は、何か気になったらしい。

一方で、俺はさっさと此処から出て行きたい。


時間は、有限だからな。


「指摘した通りです。魔法式、或いは詠唱式と呼ばれるものには、駆動と発動の二つが存在します」

「そう言えば。カミーユ・ルベライト。君は随時入学の筆記試験でも。同じ様な解釈を記していたな」

「えぇ、それが理解っていない人間には。魔導を極める事はおろか。魔法を使うための、スタートラインに立つ事も出来ませんよ」


ぐだぐだ説明するのは時間の無駄だしな。

特に俺の時間が減る。


仕方ない。

軽く見せるか。


俺は右手を軽く握って、顔くらいの高さへ。

そうして一言。


「燃え上れ」


声にした途端。

俺の右手は、その握り拳を包み込むようにして。

はっきりと分かる炎を纏った。


因みに、幻の炎だから熱くも無い。


「俺の指摘が理解出来ないというのであれば。別にそれで構いません。ですが、この件で何か言いたいのであれば。せめて、これくらいは出来るを。先ず、示してから言ってください」


これ以上は時間の無駄。

俺の態度も露骨だったし。

教室内は、馬鹿みたいに騒然としたし。

付け足すと、突然の騒々しさへ。

廊下に待機していた職員が何人も来たんだ。



けど、まぁ・・・

俺は、それら全部を完全無視で、教室を出た後。

足は真っ直ぐ大図書館へと向かったよ。



さぁて、今日は少し遅くなったけど。

今から調べものの続きだ。


-----


「寮の部屋以外だと。此処だけが落ち着ける場所なんだけどなぁ」

「ルー君、聞いたよぉ♪ 筆記試験で凄いパフォーマンスをしたんだってね。で、先生方へは喧嘩を売ったらしいって♪ 」

「別に売ってません。ただ、あの時は・・・早く此処へ来たかっただけです」

「そんなに急がなくても。お姉ちゃんの肩もみは逃げないわよ♪ 」

「そういう事を言っていると。その内、胸を小さくできる魔法を編み出した時には。真っ先に実験台にしますからね」

「きゃぁ~怖い♪ ルー君は女の子の胸。大きいのは嫌いなのかしら」

「と言うよりも。そもそも、バストサイズで女性を評価した事も無いし。好き嫌いをした覚えも無いですよ」


校舎を出て、真っ直ぐ大図書館へ来た俺は、こうしてプリムラさんに捕まっている。


ホント、今だけは迷惑だよ。

等と思いながらも、此処では唯一の味方でもあるのだ。


ギブ&テイクもあるしな。


大図書館へ来て直ぐに。

俺の足は、地名に関する歴史の専門書が並んだコーナーへと来ている。


既に毎日此処へ通っている俺は、大図書館の住人と呼ばれるだけあって。

今じゃもう、顔パスもね。

と言うか、『明日も来ます』って言っている俺のことは、入館記録へ、プリムラさんが先に記載しているんだよ。


おかげで、今日も右手に身分証を掲げながらの顔パスの後。

館内へ入った俺は、そうして、未だ読んでいない専門書を先ずは一冊。


ところが。

俺が取ろうと思った本は、身長10メートルなら、普通に取れるかもな。

なので、俺の身長では全く届く訳が無い。


毎度ながら、ここで脚立を取りに行こうとした俺は、そこで後ろから尾行・・・・


まぁ、プリムラさんがね。

彼女は最初から脚立を片手に後ろから来ると、俺の代わりに設置した脚立へ上がって。


うん・・・・今日は光沢のあるピンクでした。


別に覗いた訳じゃない。

脚立の一番上を、両足で跨ぐ様に立ったプリムラさんから、この本で間違いないかを。

それを、尋ねられた時に。


偶然。

全ては偶然の結果です。


それにだ。

昔は、マリューさんのパンツとか。

態々スカートの留め金だけを斬っていた実戦稽古も。

そうして、あれも結果的には見てしまったに過ぎないのだ。


今さら女性のパンツなんてさ。

もう見慣れ切ったね。


-----


「脚立も含めて、自分で出来るので。手伝わなくていいんですよ」

「お姉ちゃんはね。此処の本を管理もする司書でもあるのよ」


俺とプリムラさんは、三階の自習も出来るスペースの一つを、今は二人で使っている。

まぁ、今日は進級試験の日だしな。

飛び級試験さえ合格できれば。

等とを考える俺には、特に関心も無い。

反対に、俺を除く学院の生徒は、今日の試験に必死なのだろう。


もっとも。

それが普通なんだと思うけどな。


「それにね。ルー君が今読んでいる本。大人の私でも、大きくて重いって感じた本なんだから」


確かに、今読んでいる本は、B1サイズくらいはあるだろう。

厚さも15センチはありそうだし。


「それと、此処の本はどれも貴重な本なの。もし破損でもされたら。少なくとも、お姉ちゃんの定年退職までの給料と退職金でも払えません」


うん、そこは今までにも。

何回か聞いた記憶がある。


大図書館の蔵書は、館内の書店で販売されている新聞や週刊誌に小説等と違って。

一般に販売もされなければ、一点物の専門書が殆どを占めているそうだ。


ここで働く司書の中には、本の修復作業や、万が一に備えて複写本を作る仕事へ従事している人達もいる。

あとは、警備員と同じ様な巡回をしながら。

そこで貴重な本を、雑に扱っている生徒や先生を見つけた場合。


プリムラさんの様に司書の資格を持つ人達は、状況によって出入り禁止の措置も取れるらしい。

まぁ、それだけ大図書館に在る本の価値が、他と比較出来ないほど高いって事なんだ。


という訳だから。

プリムラさんは未だ子供の俺が、棚から本を取る際に、落として破損でもされたらと。


ミーミルの作った異世界の方でなら。

ティアリスやミーミルが取って来てくれるからね。

既に指示も出しているしさ。


俺が今、此処に一冊置いているのは。

それで内容にも、しっかり目も通すけど。


表向きのカモフラージュでもあるんだよ。


-----


プリムラさんが隣に居る状況で、しかし、今は異世界。

朝の稽古と違って、この時間は集中して読みたいから。

つまり、エレンも連れて来ない。


けどな。

エレンとレーヴァテインとリザイア様が揃った寮の個室はね。

賑やか過ぎるんだよ。


遮音の魔導器が無かったら。

あっという間に追い出されるだろうな。


-----


時計の針は正午、12時を指している。

今頃は、筆記試験も終わっただろう。


俺は昼食を取るために。

自習スペースへ持ち込んだ本を、一度元の場所へ返して。

そうだね。

この作業も、プリムラさんがしてくれました。


で、もう一度ピンク色をチラ・・・っと。

大きなお尻は、張りがある。

プリプリって感じか。



因みに、故意に覗いたんじゃないからな。


言い訳でしかないが。

本を抱えて脚立に上ったプリムラさんが、棚に収める際に、ちょっとだけバランスを崩したんだ。

で、その時にガタガタ揺れた脚立の足を、俺が両手で掴んで倒れない様に押さえた。


これだって、間違いなく・・・・ギブ&テイクだ。


------


昼食は、大図書館の住人でもある俺の場合。

喫茶スペースを使う事も、故に当然と化している。


頼むのはサンドイッチと紅茶だけどね。


「ルー君。もっと食べないと、大きくなれないぞ♪ 」


俺の昼食が一人前なのに対して。

プリムラさんは軽く三人前を完食した後。

更にデザートのチーズケーキを三個と・・・・・


「それだけ食べてもスタイルが良いのは。胸と尻に集まったからでしょうかね」

「ルー君。それはセクハラだぞぉ♪ でも、お姉ちゃんは優しいから。可愛いルー君のそれは、誉め言葉だと受け取っておきます」

「適度な運動もした方が良いですよ」

「それは大丈夫。相部屋のカチュアがね。あの子ったら室内用の運動器具を。愛読雑誌の通販で、よく注文しているのよ。本人は気に入らないと使わなくなるけど。お姉ちゃんは、それらを効率よく使っているのです」

「なる程。スタイルの良さには、そういう秘密があった訳ですね」

「だけどねぇ・・・ここで働いていると。出会いが全然ってくらい無くなるのよ」

「はぁ・・・・じゃあ、外出許可を得て。市街へ出れば良いんじゃ」


当然と思ったままを返した俺へ。

しかし、プリムラさんは、そうじゃない。

首を何度か横に振った後で。


「あのね。この人良いなぁって部分で。ルックスとか年齢とかよりも。もっと実質的な意味で。パートナーに求めるステータスが跳ね上がっちゃうのよ」

「よく分からないのですが」

「女性は結婚した後で。今度は家庭を持つ中でね。子供を産んで育てる時間が増えて来るのよ。妊娠したら今みたいには働けなくなるし。出産後からは、子供に掛かり切りな毎日が待っているの。特に私なんかは、子供が出来たらだけどね。仕事よりも子供の事や家庭のことを、一番大事にしたいって思っているし。そうなると、今の仕事を辞める日が来ると思うのよね」

「なるほど。何となく分かりました。プリムラさんは結婚後の生活で。そこで子供が出来たら退職も考える。けど、退職した後の生活を考えれば。しっかり稼いでくれる旦那さんが良い。こういう感じでしょうか」

「そうそう。だからねぇ・・・相手の見た目とか年齢よりも。勿論、その人が好きって気持ちも必要よ。それプラスで、資産力とか稼ぎを求めている訳なのよねぇ」

「別にそれなら、そこまで高いステータスじゃなくても。下級公務員くらいで十分なのでは」

「それだと、私が好きに使えるお金が無いのよ。服も欲しいし、旅行もしたいし。買い物だって楽しみたいしね。で、それプラスで家事と育児なわけよ」

「・・・・じゃ、働きましょう」


俺に言えるのは、それだけだよ。

理想どうこう以前の話だ。


「そうよねぇ・・・・だけどね。此処のお給料は、下級公務員よりもずっと多いのにね。お姉ちゃんは何故か貯金が出来るくらい残らないのよ。やっぱり買い物かしら」

「思い当たる所があるなら。そこを切り詰めてはどうでしょうか」

「ルー君。お姉ちゃんにとって、買い物はね。生きる活力を得られる癒しなの」

「・・・・・残念ですが。手の施しようがありません」


俺は、この時に思った事を。

それは、意識して尋ねない事にした。


プリムラさんは、俺から見ても美人で優しいし、スタイルも良い。

今年23歳なら、恋人の一人や、婚約者が居ても。

それも不思議じゃないを思えたよ。


けれど、本人の話を聞いて。

買い物が生き甲斐の様な性格は、寧ろ、これが原因で独り身なのではないだろうかと。


カチュアさんから、二人とも恋人がいない話は聞いている。

と言うか、カチュアさんは、高等科の生徒へ。

気に入った男子には、アプローチもしているんだよ。


まぁ・・・その時にも聞いたけどね。

ここで働く若い女性達は、将来を約束された様な男子生徒を取り合っているそうだ。


ホント、此処の実態って。

色々と世知辛いよなぁ。


-----


プリムラさんの話を聞いた後。

そっち方面へは、ある種の境界線を設けた俺ではあるが。


そんな事よりも。

今は、実技試験の方だ。


試験開始は午後1時30分から。

で、午後1時からは説明が始まる。


俺は余裕を持って、説明が始まる10分前には、一番大きなグラウンドへと到着していた。


と言うか。

一番大きなグラウンドには、初等科から高等科までの全生徒が集まっていた。


付け足しで、殆どが色も違えば、服装も少し異なる魔法使いコスだった。

女子の中には、まだ寒いこの時期に。

マントの内側は、キャミソールとミニスカートにニーソの生徒がかなりいた。

男子の殆どは、ジャケットを脱いだ上からマントだけを着けたって所か。


俺の様な制服姿の生徒は、一握りくらいだろうか。


まぁ、服装のことは、ハートレイ先生からも何も言われていなかったしな。

それに、制服の生徒が俺以外にも居るなら問題ないだろう。


だいたい、背中に金色で校章が大きく刺繍されたマントなんか。



俺は恥ずかしくて、着たくも無いよ。



因みに、初等科の1学年と2学年の生徒達だけは、4列くらいで並んでいたが。

俺も所属する3学年から高等科までは、各学年1列で並んでいる。


まぁ、初等科の3学年からは、1学年当たりの生徒数が、多くても60人を超えないと聞いていたしな。

このグラウンドの広さもある。

1列で十分だろう。


実技試験の説明は、これも午後1時ちょうどから始まった。

お立ち台に上がった魔法使いコスのオッサンが、拡声器を片手にね。


そうそう。

名前は憶えていないけど。

この魔法使いコスのオッサンはね。

それで強烈なインパクトが在ったんだだろう。


顔とコスプレ姿だけで、俺にも思い出せたよ。


-----


進級試験で行われる実技のテスト。

内容は、簡単に言えば決闘だ。


誰と誰が対戦するのかは、そこは各学年を担当する教師たちで決めるらしい。

その上で、決闘の順番は、午前中の筆記試験の後で貰った、受験番号札の数字順。


ただし、各学年の首席から三十席までは、決闘以外の方法で評価されるそうだ。


うん、優秀な奴等だけは、割と安全なテストを受けられる。

まぁ、俺には関係ないけどな。



10分も掛からなかった説明が終わった後。

ここから一斉にと言うか、まぁ、それぞれが試験の場へと向かって動き出した。


殆どが魔法使いコスだからか。

ちょっとした民族大移動って感じだな。


実技試験は、そこで1番大きなトラックを、初等科の1学年と2学年の生徒達が。

最も所属人数の多い二つの学年は、グラウンドを半分ずつ使うらしい。


残る三つの400mトラックの方では、初等科の3学年から7学年で一つ。

中等科と高等科が、それぞれ一つずつを使う。



移動中。

俺は周りの小声を幾つか耳にしていた。


どうやら、3学年から7学年の生徒が使うグラウンドでの決闘は、対戦相手が異なる学年の生徒になる事も、当然とあるらしい。

そのせいか、せめて同じ学年の誰かとか。

下の学年の奴ならラッキーだとか。


強い奴と当たったら、死にたくないから降参しよう・・・とかも耳に入った。


あぁ、なる程ね。

まぁ・・・命は一つしかないからな。


-----


俺も参加する実技試験のグラウンドでは、既に魔導器が30台程。

後は、整備技師だな。

中のクリスタルを交換するのは、技師の仕事も此処では聞いている。


決闘を待つ生徒は、自分が使う属性を、予め申告しておくのだそうだ。

そして、試験の呼び出しを受けた後で。

申告した属性のクリスタルがセットされた魔導器を装備して臨む。


あぁ、そうそう。

グラウンドに到着してから気付いたんだけどな。

死体を収納する袋も、それもちゃんと在ったよ。



試験が始まる1時30分までは、残り10分くらい。

そんな折、グラウンドの一ヶ所で。

突然、男子生徒と女子生徒の喧嘩のような声が響いた。


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