第7話 ◆・・・ 進級試験 ① ・・・◆
マイロードが調べ探している事を、それは、私やミーミルであれば。
この膨大とも呼べる本の中から、僅かな時間で見つけ出すことが出来ます。
かつて、マイロードが浄水技術の知識を探した時にも。
そこで私が、私の権能と呼べる力で瞬く間に見つけ出した時の様に。
ですが。
此度の件については、私やミーミルが、その権能を使う事を。
姉様とリザイア様。
そして、コールブランドまでもが、反対を顕わにしたのです。
結果。
マイロードは、こうして時間の概念が存在しない世界で。
一冊当たりで、40万字はあるだろう本を、探し始めた日から、多い日で200冊以上。
少ない日でも100冊以上は読んでいます。
ですが。
マイロードは、姉様とリザイア様から指摘された事を、その点には理解もすると納得もしていたようです。
『・・・・なる程ね。言われてみれば、俺もその通りだと思う。まぁ、異世界の方で調べられるだけでも。ぶっちゃけ、反則くらいも理解っているつもりだよ』
自らが誘いもした魔導書の件では、リザイア様も、事実、これもまた大いなる力には違いない。
そこだけはマイロードを外すと。
我等だけの話し合いの場で、はっきりと言いました。
万が一にも。
アレが奴等の手に渡る事があってはならない。
リザイア様は、故に時期尚早であっても。
セントラルアークへ至る鍵だけは、今からマイロードへ与えたのだと。
『まぁ、あれさね。あの遺産に関しては。アスランを鍵の持ち主にはしたさね。だけど、未だ手にするには早過ぎる。心根が未熟なうちは・・・・あんたらも。未熟なあの子が力に飲み込まれるのは。それは良しと言わない筈だと。あたしは思うさね』
空中都市。
私や姉様の時代には、浮遊城と呼んだ空に浮く城があった。
私達は、敵の手に在った浮遊城を攻略するために。
その時の戦いでは、幾万の犠牲などでは全く足りませんでした。
私や姉様は、記憶にある浮遊城。
リザイア様がマイロードへ、与えようとした空中都市とは、事実、あのような物なのかを。
浮遊城に設置された魔導砲は、一撃で都市一つを灰燼に帰すほど。
初めて魔導砲の威力を、目の当たりにした時は、絶大とも思わされたものです。
『うんにゃ。あんたらが見知っている玩具なんかとは。規格からして別ものさね。だいたい、あの玩具は小さな山すら越えられないのに。そんでも浮遊城なんて御大層な呼ばれ方をしていた。魔導砲は、それも大きな都市を木端微塵もやったけどさぁ・・・・』
――― あたしがアスランに預けた物は。玩具とは比べられないさね ―――
リザイア様は、だからこそ。
浮遊城を手にしていた輪廻の双竜へは、絶対に渡せない。
そして、未熟なマイロードが。
浮遊城を遥かに超えた力を手にした後で。
絶大と呼べる力に、心を奪われることも恐れている。
まったく。
エイレーネシア姫が授けたアーツの件でも。
それから習得した錬金術と刻印術式の件でも。
なのに。
自分が一番恐れを抱いているマイロードへ。
こういうのを、矛盾と呼ぶのは、それは私だけでしょうか。
今の私は、こんな事もあったために。
ミーミルの作った異世界で調べものに没頭した後。
作業に飽きを抱いたマイロードへは、気分転換をと。
そうして、良き心根が備わる様にを抱く私は、自身の権能を使って探すと選んだ本を、今でも勧める様にしています。
まぁ、マイロードの好む分野は、それを私が一番理解っている・・・自負もありますからね。
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学年末の3月は、中旬に進級試験がある。
これは、初等科から高等科までの、全学年で定期試験と同様。
一日の間で、午前中の筆記試験、午後はグラウンドで実技試験が行われる。
そして、この進級試験や定期試験に関しては、ハートレイ先生から受験が学院規則でも定められている。
要するに、その日だけは出席して、テストを受けて来るようにと言われたのだ。
うん、まぁ・・・これが規則なら。
仕方ないし、行って来ますよ。
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3月15日は、俺にとって記念すべき初登校の日となった。
因みに、前日にはカチュアさんから3学年の教室の場所を聞いたよ。
だって、俺・・・・校舎の中は、一階にある購買と事務室と教職員室しか分かっていないんだしさ。
尋ねた途端、カチュアさんからボロクソ笑われたけど。
仕方ないじゃん。
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そう言えば、学院の事も・・・・うん、まぁ・・・別に良いんだけどさ。
メティス王立学院を正門から映して。
正門の左手側には、外来の受付もする事務所が、正門を挟んで右手側にも。
こちらは、五十人程が常駐している守衛室があります。
事務所と守衛室ですが。
何方も学院を囲む壁と接合しているので、室内から敷地内への出入りも出来ます。
正門から敷地内へ入ってすぐ。
正面に映る大きな通路を挟んで、左手側には男子学生寮と男性職員寮が。
右手側には庭園と、その奥に女子学生寮と女性職員寮が置かれています。
学生寮と職員寮は、何方も一部を除いて。
後は二人以上で使う相部屋です。
寮の外観も、これは全体の景観と合わせて。
見た目は貴族の屋敷風・・・・でしょうか。
5階建ての寮は、それぞれA棟、B棟、C棟・・・と言う感じで。
俺が使う個室は、A棟にしかありません。
因みに、
寮から市街への外出で、私服での外出許可を得ていれば。
正門へ向かう際の通り路までは、私服での往来が認められています。
そうですね。
正門からの正面通路には、校舎との中間に、時計塔を囲む噴水があるので。
ここを境に、私服姿で校舎側へ踏み入らなければ大丈夫・・・だとは聞いています。
そのため。
学院の女生徒や、女性職員は、庭園を横断して外出するしかないとも聞きました。
とは言え、池もある庭園は、そこに外灯も在れば、大人三人くらいが並んで歩ける。
煉瓦で作られた遊歩道も整備されているんですよ。
少し脱線したので戻します。
時計塔のある噴水の向こう側。
映るメティス王立学院の本校舎には、一つの校舎内に、初等科から高等科までが置かれています。
校舎は一階部分に、理事長室、教職員室、事務室、購買・・・etc.
二階には、初等科の1学年と2学年の教室があります。
同様に以下、三階には、初等科の3学年から7学年。
四階には、中等科の1学年から4学年。
五階には、高等科の1学年から4学年。
六階には、学院生徒会室や風紀委員会本部など。
二階の初等科1学年と2学年については、留年組を含めて。
この学年に、メティス王立学院の初等科から高等科までの。
全生徒の3割以上が籍を置いています。
うん、言って無かったよな。
えぇっとですねぇ。
王立学院の初等科1学年には、留年すること5年以上の生徒も珍しくありません。
これは2学年でも同じです。
死亡以外に自主退学者が最も多い学年で、だから、随時入学の制度もあるのです。
更に付け足すと、3学年からは、留年した生徒が実戦授業で、中等科や高等科の生贄にされることが当然とあります。
そうする事で、落ちこぼれの掃除と、残った優秀な人材への効率の良い指導が出来る。
3学年以降は、1学年当たりの人数が、多くても60人を超えないそうです。
今回、飛び級で此処に俺が入った事で。
恐らく誰かが切り捨てられる。
ハートレイ先生からは、けれど、これがメティス王立学院の。
そこで極一握りの優秀な存在を、毎年の様に輩出できる裏側だと。
思う所は、勿論あるけどな。
だけど、何の実績も無い、序列も付いていない。
そんな俺には、この部分へ、何も出来ないのが現実でもあるんだよ。
と言うか。
俺は今、とにかく忙しいんだ。
やる事が多くて、しかも、未だ着手すら出来ていない事もあるんだ。
学院の慣習どうこうにまでは、まぁ・・・俺は大図書館だけで十分だよ。
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一応、これだけは言って置くよ。
俺は、命を軽んじる王立学院の慣習には、馴染む予定も、染まる予定も全く無い。
だからもある。
俺は王立学院の、それが当然の授業へは、無関心を貫くことと、故に関わる事をしないに徹している。
大義名分としては、まぁ・・・こんなものだろう。
という訳で、じゃあ一先ず。
この胸糞悪い話は置いておこう。
ざっと敷地内にある施設の配置を、まぁ・・・簡単にね。
本校舎の右隣り、庭園の隣に位置する女子寮の位置からだと北側。
補足として、正門を南側にした場合の例えで進めます。
分かり難かったら、ごめんなさい。
そこに在るのが、入学式や卒業式でも使う大講堂。
軽く2千人は収容出来る建物です。
なお、随時入学の生徒には、入学式なんか在りません。
その大講堂の位置から真っ直ぐ北へ向かって。
王立大図書館と研究棟が続きます。
そうして、本校舎の北側には、一番大きなグラウンドと、その北側に、縦に伸びたグラウンドが三つ並列しています。
各グラウンドは、フェンスではありませんが、仕切りが設置されています。
もっとも。
王立学院には、グラウンドは在るけど、運動部がある訳じゃない。
文化部の様なものも在りませんからね。
代わりと言うか、共通の趣味などから生まれたサークルは、それは在るようです。
ただし、活動は学院の外で。
市街にある施設を借りて活動している。
そういったサークルがあるとは聞いています。
俺も知っている初等科や中等科。
後は高等科にも在った部活動のようなものは、たた、王立学院では不要扱いな考え方でした。
そうだね。
こんな部分も、ハートレイ先生から聞きましたよ。
学年と序列。
殆どの生徒が評価されるのは、此処だけです。
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3月15日
始業時間は8時半。
俺はその15分前に、初めて本校舎の3階にある3学年の教室へと入った。
初めて入った教室内は、ただ、シャルフィの大学で通った教室と、そんなに違わないを思った。
上下にスライドする黒板と、その黒板の所だけ一段高い教壇も。
大きな教卓も、まぁ・・・見慣れた感だった。
黒板と対面する側は、階段状の造りで、数人で使える横に長い席と同じ様な椅子が。
ギリギリ行き交うことも出来そうな幅の通路が、両端の他には、中央側にも二ヶ所設けられていた。
黒板には、試験だからだろうか。
誰が何処に座るのかを示したプリントが貼ってあった。
俺の席は、一番上の出入り口の傍。
末席だけに、一番端の位置だったね。
教室内には、パッと見で50人くらい。
先に来ていた生徒達は、我関せずな姿勢で、一様に教科書やらノートやらに視線が突き刺さっていたよ。
俺も自分の席へ着いた所で。
そこで気が付きました。
試験に使う筆記用具は、カンニング対策で、だから試験前に支給される。
これは、ハートレイ先生とカチュアさん。
プリムラさんからも同じ事を言われました。
ですが。
手ぶらで教室に来たのは、一度も教科書を使った事の無い。
鞄の存在さえ忘れていた・・・・俺だけだと思うよ。
おかげで、俺は一人だけ。
先生方が来るまでの時間を、完全に手持ち無沙汰で過ごしたよ。
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午前8時半。
誰だったかは覚えていません。
一応、先生方の誰かの筈です。
名前の分からない、けれど、パッと見で三十代くらいだろう眼鏡を掛けた女の先生を先頭に。
後ろから二人の・・・たぶん、此方も教員だと思います。
二人は何方も中年の男性です。
三人の教員は、それぞれ大きな段ボール箱を一つずつ。
先ずは教卓に置くと、男性教員の二人が、中身のB4サイズかな。
ノートの様なものを取り出して、それを一冊ずつ、生徒の手前に置き始めました。
「今更だけど。合図があるまでは開かない様に。ただし、自分の前に置かれたテスト問題は。先ず、名前が合っているかを確認してください。違っていた場合には、右手を挙げる様に」
女性の教員から指示が出る間も。
二人の男性教員は、一人ずつテスト問題を配っている。
そうして最後。
俺の前にも大きなノートが。
目の前に置かれたテスト問題は、こうして見て初めて、リングファイルになっていたのだと知った。
表紙の中央に、『初等科3年 末席 カミーユ・ルベライト』と、しっかり印字されたテスト問題を見つめていると。
指示を出していた女性教員の口から、「今から筆記用具を配ります。試験時間中に、筆記用具の交換を希望する際には。これも右手を挙げて申し出る様に」と、そこからも幾つかの指示が告げられた後。
指示された内容で、それで理解った事は。
この大きなリングファイルには、全科目の試験問題が、教科ごとに収められている。
色違いの厚紙で仕切ってあるから。
そこで各科目が、分けられているのだろう。
問題用紙と回答用紙が一つになったこのリングファイルには、けれど、計算などで使って構わない白紙のプリントが別に5枚。
追加が欲しい場合には、筆記用具と同じ。
これも右手を挙げて申し出ること。
筆記用具は直ぐに使える鉛筆が10本と、新品の消しゴムが一つ。
下敷きに鉛筆削りと、定規類も揃っていた。
それと、ファイルのリング部分には、封印のされたタグが付いていた。
女性教員の説明を聞きながら。
リングを外す行為は、カンニングと同じ扱い。
その上で、テスト問題の落丁などが在った場合には、先ず右手を挙げて申し出る。
後は先生達の指示に従えばいい。
試験時間は9時開始の12時終了。
その間、我慢できずトイレで席を立つ際には、これも右手を挙げて申し出る。
それから、廊下で待機している教員の監視付きでトイレを済ませる。
マジで。
小ならまだ分かるけどさ。
大の方なら・・・・見られながら排泄して、しかもトイレットペーパーで拭くところもか。
一瞬で、過った想像は、しかし。
続く説明が、まぁ・・・そん事にはならなさそうだ。
トイレを済ませる際には、ジャケットを脱いで、シャツとスラックスやスカートの裏地とポケット等が全部チェックされるらしい。
『じゃあ、最後。早く終えて終了を宣言する場合。まぁ、右手を挙げて申し出る。これも定期試験と同じです』
結局、全部、右手を挙げて・・・じゃねぇかよ。
まぁ、分かり易いから良いけどな。
説明が終わった所で、生徒の殆どがトイレへ向かったよ。
それからしばらくして。
時計の針が9時を示した所で、開始の合図が告げられた。
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リングファイルを開いて・・・・うん、簡単すぎる。
開始早々、俺は意識の中でミーミルを呼ぶと、向こうも分かっていますな感じだった。
途端に異世界へ切り替わった所で。
そう。
俺はこのテストを、さっさと終わらせてだ。
午前中の残り時間を、今日も大図書館で過ごす。
今さら、国語、数学、化学、社会、古文・・・程度の問題なんかさ。
魔導理論の方は、また問題に間違いがあったね。
しかも、随時入学の時に指摘した事を、またこうして見るとはね。
同じ事を二度も、も思ったけど。
どうせならと、もう一度だけ書き記した。
次は無いからな。
時計の針は、9時15分を指した。
開始から間もなく異世界へ赴いた俺は、つまり、この15分弱を使っての見直しも終えると。
と言うかさ。
流石に1分程度で終了を告げると、それでテスト問題を全て埋めた事へは、確実に疑われるだろう。
15分も在れば、このくらいは軽く速記程度で埋められる。
そこへ付け足しと言うか。
出題者へ俺からの一言を、ザーハラム語で書き足した。
これが正しく読める先生がいたら。
その時は、その先生の顔と名前くらいを覚えよう。
十分に時間を使った俺は、当然と右手を肩より上へ伸ばした。