第5話 ◆・・・ これから始まる学院生活に備えて ・・・◆
神聖暦2089年1月
まぁ、2月までは、残り一週間くらいなんだけどさ。
カミーユ・ルベライトは、試験を受けた当日。
先ずは合格した。
あれだな。
少し脅しを効かせたライトニングが、合格の決め手にはなったんだろう。
魔法使いコスのオッサンなんかさ。
もう、情けないくらい青ざめていたからな。
真の実力者には、魔導器なんて不要なのさ。
-----
今年の誕生日が来れば、それで9歳にはなる。
因みに、生年月日は誤魔化していない。
別に、2080年7月7日生まれが、この世界に俺一人という事も無いだろう。
メティス王立学院へ入学したカミーユ・ルベライトは、当然と初等科の一学年へ籍を置いた。
ですが、ハートレイ先生から『ルベライト君には早速ですが。月末にある飛び級の試験を受けることを勧めます』と、合格後から入学までの説明を聞く最中。
そこで飛び級制度の説明をも受けました。
ただ、その前に先ず、メティス王立学院についてですが。
初等科は1学年から7学年まで。
中等科と高等科は、それぞれ1学年から4学年まで。
高等科を卒業した生徒は、アナハイムへの入学試験を受けられます。
もっとも、高等科での成績が優れた生徒は、試験免除で入学が出来るそうだ。
初等科から高等科までの各学年には、定期試験と学年末に進級試験があります。
まぁ、もう分かると思いますが。
進級試験に合格出来なかった場合。
えぇ、当然ですが留年です。
ですが、進級に関しては、ハートレイ先生から教えて貰った『飛び級試験』が、毎月の月末にあります。
飛び級試験について。
先ず、受験自体は成績に関係なく申し込めます。
もっとも、成績の悪い生徒が合格できた事例は無いそうだ。
だろうね・・・・
ハートレイ先生から聞いた話では、この飛び級試験によって。
王立学院では過去に、1年で3学年も飛び級をした生徒がいるそうですよ。
飛び級試験に合格して、学年が上がったその月に、また飛び級試験へ申し込むことも出来るのだとか。
何気に尋ねた、『じゃあ、1年間で12学年分の進級も。それも出来る制度なのですね』は、ハートレイ先生から不可能ではない返事も聞けました。
という訳で早速、今月末の飛び級試験へ挑んでみようじゃないかと。
とんとん拍子に上がれば、来年の今頃には、高等科に籍を置いている筈でしょう。
-----
入学した当日の内に。
俺は、飛び級試験を勧めたハートレイ先生が、早速用意してくれた申し込み用紙へ。
必要事項を記した申込書は、受け付けたハートレイ先生から受験票を受け取った。
入学したての新入生とは言え、だから、妙に親切も思いましたが。
察してくれたのか。
『魔導器を使わずに、しかも君は雷撃を使って見せました。価値ある逸材として、相応しい待遇がされるのは当然です』
そこから改めて。
俺はハートレイ先生から、メティス王立学院のことを聞いた。
はっきり言って、王立学院の実態の様な部分だったな。
王立学院では、生徒も教師も関係なく、実戦によって認められた実力が、これで序列が付されるそうだ。
ただ、この点も先に。
各学年に所属する生徒達には、定期試験などの成績によって、席次が付される。
首席、次席、三席・・・・・と言う感じだ。
因みに、本日に入学した俺は、自動的に最下位の末席だ。
まぁ、定期試験なんか受けていないし。
そこは納得もするよ。
ここで勧められた月末の飛び級試験。
試験に合格すると、1学年の末席から2学年の末席へと移る。
学年が上がっても、そこで末席も変わらないのだが。
これもハートレイ先生から聞いた話では、上の学年へ確実に進級できる生徒は、その学年の上位30傑まで。
残りは進級試験で、しかし、大半が落とされるのだとか。
なので、後から飛び級試験でやっと進級した事例の方が、王立学院では普通なのだそうだ。
要するに、進級自体に高いハードルが課せられた王立学院では、たとえ末席でも。
それが1学年と2学年では、意味合いに天と地ほどの差がある。
付け足すと、2学年と3学年でも同じだそうだ。
ぶっちゃけ、席次よりも学年で差別された感じかな。
ハートレイ先生の説明だと、同じ首席でも。
1学年と7学年では受けられる待遇に大きな差がある。
1学年の首席と7学年の末席では、7学年の末席の方が優遇される。
『そういう訳ですから。ルベライト君が言った様な。1年間で12学年もの進級を成し遂げた場合には。最も称賛される末席という点も。それこそ王立学院の歴史に刻まれる金字塔ですよ』
ハートレイ先生は、そういう視点からも。
学年首席に拘るよりは、たとえ末席でも、逸早く次の学年へ進級する方が。
此処では高く評価されると話していた。
席次の話はこのくらいにして。
最初に出て来た序列のことを、此処からは説明しようか。
序列とは、個人の戦闘能力の高さによって付される順位と言うか、格付けだな。
ハートレイ先生の話を聞く限りでは、そうとしか言えません。
実戦形式の授業や、学院内で行われる決闘によって。
この序列は頻繁に変わるそうだ。
実戦形式の授業というのは、グラウンドで行われる生徒同士の対戦や、ゼロムの郊外へ赴いての、そこでの獣や魔獣を相手にした実戦が、これに当たる。
因みに、生徒同士の対戦よりも。
魔獣を相手にした実戦の方が、死亡率が桁違いに高いそうだ。
だろうね。
獣もそうだが、魔獣は特に殺意が露骨だよ。
では、何故、その様な実戦が授業に盛り込まれるのか。
王立学院の目指す究極の叡智とは、その叡智を手にするためには、危険極まりない古代遺跡への調査が欠かせない。
だが、古代遺跡の中には、ゴーレムと呼ばれる、マナで動く岩や金属の巨人兵が度々出るのだとか。
他にもゴーレムだけでなく、マナで動くらしい金属製の怪物なども在るそうだ。
こういった存在は、けれど、遺跡内部で何かを守っている防衛装置らしいのだ。
昔の人達は、それくらい進んだ知識と技術を持っていた。
よって、これに勝てない様では、叡智に繋がる古代遺産を、手に入れる事は実質不可能なんだとさ。
うん、なる程そうだったのかと。
聞けば納得な話でもありましたよ。
『私はね。ルベライト君ならと、今からもう期待しています。何故なら、魔導器を使わない魔導の使い手を。それを私は、亡くなられたシャルフィの騎士団長。彼の他には知らなかったのです』
死んだ扱いの俺の話が出た所で。
そこからは、まぁ・・・あれだ。
素性を伏せている本人としては、聞いていて恥ずかしくなる様な持ち上げだったよ。
決闘については、当事者同士で起きた・・・・まぁ、いざこざや喧嘩の様なものだな。
で、それを双方同意の上で、実戦形式の勝負で決着を付ける。
ただし、この決闘は、互いに立会人を用意するか、もしくは複数の第三者が立ち会えば認められる。
反対に、条件を満たさない決闘は、学院規則が定めた私闘行為への処罰が適用される。
あれだね。
衆人環視でなら、最初から問題は無いという事だ。
余談だけど。
ハートレイ先生からは、生徒同士だけでなく、生徒が先生へ決闘を挑んだ事例もよくある。
もっとも、先生へ挑んだ生徒は、その全員が命日を迎えたらしい。
まぁ、決闘を受けたくないときは、申し込まれても断ればいいと言われたよ。
序列とか席次とか。
聞いた最初はごちゃっとした捉え方だったけど。
席次は、定期試験での成績によって示されるもので、此処は他所の学校とも、大して違わない解釈も出来るだろう。
王立学院で重要なのは、寧ろ、学年と序列の方だね。
けど、だからと言って成績が疎かでも困るそうだ。
ハートレイ先生は、そう言って笑っていたよ。
-----
魔導器を使わず、それでライトニングを使って見せたからもある。
制服のための採寸までを終えた後。
学院では事務の仕事をしている女性職員から案内されて、俺は寮の部屋へと赴いた。
案内してくれた方の名前は、カチュアさん。
見た目は二十代・・・かな。
あぁ、本人の口からは『18歳』って聞いたけどね。
でもさ。
ティアリスよりも、そこはパッと見が、上に見えるんだよなぁ。
まぁ、女性の年齢なんか・・・・深くは詮索もしないよ。
長い茶髪は首の付け根くらいの所で、シュシュで留めているだけ。
背も高くてスタイルも良いんじゃないかな。
爽やか美人って感じだと思う。
僕は未だ子供扱いされる側だし。
けど、余りジロジロ見ると失礼なので。
後は色白で、ローランディア王国では珍しくない青い瞳でした。
俺の部屋は、先にハートレイ先生から聞いた件もある。
「まぁ、個室の方が気楽に出来そうだ」
少し前に仕事へ戻ったカチュアさんからは、教科書などは今日中に届ける話も受けている。
制服の方は、明日か明後日になるそうだ。
通学は、制服まで揃ってから。
けど、授業のことも。
それもハートレイ先生から聞いている。
「ある意味、こんな学校も無いだろうな」
別に授業には、出なくても問題ないそうだ。
出席日数とか、別に一度も出席しないまま、飛び級試験を受けることも出来るってさ。
ハートレイ先生へは、その話の時に、『じゃあ、叡智と呼ばれる大図書館で自習生活も出来るのか』とね。
返事は、全く問題なし。
けどね。
釘も刺された。
一度も授業に出席しない生徒が、それで飛び級試験を合格出来る等と。
これも聞いた事が無いそうだ。
王立学院の教師陣は、リーベイア大陸でも、他を寄せ付けない実力者で構成されているんだってさ。
勿論、ハートレイ先生は、自分もその中の一人だと。
誇らしく胸を張っていたね。
因みに、ハートレイ先生の専門は、古代語の解読と古代史だそうだ。
ふ~ん・・・・そうだったんだ。
俺はユーロピアス語もほぼ完ぺきだぜ・・・・とは内に思っているが。
さてと、今は先ずこの自室だな。
室内は、自炊も出来るキッチンと、シャワー付きのバスにトイレもある。
洗面所には、洗濯機も備え付けてあるし、キッチンには冷蔵庫もある。
客間にも使えるリビングルームは、テーブルとソファーが備え付けてある。
大人十人くらいで食事をしたりも出来る広さだ。
もっとも、その為には備え付けのテーブルでは小さ過ぎるかな。
付け足すと、ソファーは1台しかないのだし。
せめて、対面できるように2台は欲しいぞ。
その隣の寝室。
リビングと比べて面積は少ない。
けど、寝室には勉強もできる机と椅子が。
ベッドはセミダブルくらいの大きさで、クローゼットと、他にも一冊も入っていないだけで。
買えば高そうな本棚もある。
窓はリビングと寝室の二か所で、何方もクリーム色のカーテンが付いている。
よく見れば、調理器具や食器類も揃っているしさ。
と言うよりも、室内の備品は、最初から不便を感じないくらい揃っている。
しかも、そのどれもが買えば値の張る代物な感じだった。
最初に想定した、全部を揃えないといけない想定も。
だけど、そこは杞憂だった感じだな。
-----
この部屋で最初にしたこと。
俺はティアリス達を呼び出しても、と言うよりも。
同居しても音が外へ漏れない様に。
範囲を室内に限定した遮音の術式。
これを刻んだ魔導器を、それを先ずは作った。
基本的には、部屋にいる誰かが持っていればいい。
とは言え、それは幻ミーミルで決まったけどな。
どうせ、何人も作れるんだしさ。
その内の一人に預けたくらいでしょう。
それよりも、この魔導器がないと確実に困る事態があるんだ。
懸念と言うか、絶対も言い切れるエレンとレーヴァテインの存在。
二人は、絶対、確実に騒ぐだろうからね。
そういう訳で、これは必須だったんだ。
因みに、寮の部屋へ、無許可で外部の人間を招く行為は禁止されている。
もし、外部の人間を招く際には、事前に許可の申請が必要な他。
産業スパイ対策が絡んでの、厳重なチェックがされるらしい。
ここも、それを説明されたら納得だったかな。
そうそう。
ハートレイ先生から言われたんだけどさ。
俺の服装。
それもアストライアを着込んでいる姿へだ。
まぁ、俺自身にも自覚が無かったよ。
だけど、獅子旗杯で俺が優勝した後から。
ローランディア王国でも、俺の服装を真似る子供が一気に増えたそうだ。
はははは・・・・言われるまで、俺も全然気付かなかったな。
そういう訳で、後から私服を買いに行こう。
外出許可は、カチュアさんに言えば、門限までの許可証を出してくれるそうだしな。
必要なものを考えながら、それでメモ帳に書き込んでいたら。
いつの間にかコルナとコルキナが居て、『主様の生活に必要な全ては。それを揃える事も私と妹の役目です』とかなんとか。
ただ、俺は隔離収納していたジュラルミンケースを、それを一つ取り出した後。
そのままケースを、コルナへ預けた。
「これだけあれば十分に足りると思うけど。じゃあ、この件はコルナとコルキナに任せたよ」
「はい。では早速ですが。私と妹は街への偵察も兼ねて行って来ます」
「あぁ、よろしく頼む」
偵察・・・そうだね。
輪廻の双竜の事は、これを考えればゼロムの街中に痕跡を見つけただけで。
途端に俺は、次を考えなければがある。
「・・・・こうなると。次は召喚もだな」
シャルフィの王都が滅んだ件では、ユミナさんから戦力が少な過ぎるも言われている。
それに、あの当時。
その時点で十分な戦力を持っていたなら。
未然に防げた可能性もあった。
未然に防げたと、そう言われて。
ただし、ユミナさんからは、こうも言われた。
『当時の貴方の実力で。それで盟約を結んでくれる者は、何人かは居たでしょう。ですが、何人か程度を増やした所で。その程度の数では。やはり、防げたとは考え難いでしょうね』
ユミナさんの言った事へは、ティアリス達が頷いた。
十分な戦力、と言うか人数を揃えるためにも。
それこそ俺自身がもっと強くなる必要がある。
強くなる・・・・戦闘能力の事だけじゃない。
ここも、ユミナさんから『王としての器』だと。
俺と盟約を交わしても良い。
そう言ってくれる者達を、どれだけ抱えられるのかは、俺自身の努力次第だってさ。
「やる事がいっぱいあって。そのための拠点に此処を選んで。取り敢えず、今は此処に落ち着いた」
授業に出なくていいのなら。
当分は大図書館へ籠ればいい。
リザイア様が言っていた超文明時代の本には、それで真っ先に読みたいもあるからな。
「大図書館。今直ぐでも行きたいけど」
ここはカチュアさんから聞いた話。
推薦や一般入試の後で、合格した人達の入学式までの期間。
そこで王立学院の側には、教科書から制服までの全部を揃える時間がある。
しかし、俺の様な随時入学の場合には、直ぐに用意できるのが、教科書だけらしい。
カチュアさんは、事実、俺は優遇されている。
寮の、それも個室を当日中に用意した話は、一度も聞いた事が無いそうだ。
俺以外の随時入学で合格を得た者達は、準備が整うまでの時間を、ゼロムの街にある安宿で、数日は待機らしい。
けど、宿泊費は王立学院で払ってくれるのだから。
これでも優遇には違いないそうだ。
何が言いたいのかと言う部分で、じゃあ、話を進めようか。
王立学院の敷地内を歩く際には、実技の授業時間を除いて、制服の着用が絶対となっている。
ただ、学生寮の中であれば、私服でも構わない。
市街等への外出申請をして、学院の外へ出歩く際にも、基本は制服。
ただし、学院の生徒として品位を損なわない範囲であれば、許可を得た上での私服の外出が認められる。
つまり、俺は制服が届くまでの間、自由に動ける範囲が学生寮の中と、許可を得れば市街へ行けるくらい。
カチュアさんには、服がこれ一着しか無いも言ってあるし。
白地のコートなら品位を損なわない範囲と言う部分も、問題は無いを聞いている。
と言うか、カチュアさんからは、明日の朝食後の時間にでもと。
その時に外出許可証を届けに来るから、私服などは市街へ出て揃えて来るといいを言われもした。
ただし、制服が届くまでは、それまでは大図書館へも行けない。
まぁ、早ければ明日って聞いていたしな。
どうせ、大図書館は逃げないんだしさ。
俺も、それまでは他の事をしながら待つよ。