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第4話 ◆・・・ 王立学院 入学試験 ・・・◆


宿に泊まった翌朝。

俺は役所へ赴くと、ゼロムでの滞在許可証を申請した。

一昨日には説明も受けていたが。

その通りと言うか、ただ、許可証は本人を証明するための顔写真の撮影があった。

説明を聞くと、滞在許可証への顔写真の添付は、法律で定められているらしい。


それでも、申請から交付までは、15分くらいだったよ。


俺は、一昨日に応対した人だったらと。

もしそうだったらを考えた俺は、髪色を変えた事もある。

余り面倒くさい事になりそうだったら。

その時には、またミーミルの魔法で、意識と思考を操作して貰う。


とまぁ、そこまで事前の対策を整えて赴いたんだ。


結局だけど。

滞在許可証を問題なく交付して貰えた俺は、その足で空港へと向かったよ。


-----


空港へ到着して、ゼロムまでの搭乗券を買う際には、どう見ても子供一人だしさ。

けど、役所で交付して貰った滞在許可証は、紛れもなく本物だ。


あぁ、そうだね。

未だ言ってなかったけど。

滞在許可証は、ローランディア王国の国章が刻印された革製の手帳のような作りをしているんだ。

大きさ的には、二つ折りの長財布を、一回りくらい小さくした感じだろうか。

見開きページには、俺の名前と生年月日の他。

申請時に撮影した顔写真と、ブルージュの住民登録がされている証明も付されている。


で、この滞在許可証は、別にゼロムじゃなくても。

例えば王都でも構わない。

滞在したい所で、そこに在る役所で提出すれば。

次のページからは、滞在有効期間が記されると、許可した証として押印もされる。

期間の延長申請も同じで、また有効期間が記されると、押印が付く。


手帳の最後のページまで使った後は、新しい滞在許可証が交付されるんだ。



一先ず、ここで話を戻すよ。


空港のカウンターでは、当然の確認もあったよ。

俺が子供で、しかも一人。

何かと疑われるよねぇ・・・・まぁ、これは慣れるしかないな。


それでも。

俺に交付された滞在許可証に不備は無い。

他の人達よりも、それで少し時間を取られたけど。


俺は今日の二便へ乗ることが出来た。



先ずは、王都の空港へ。

そこからゼロムへの便へ乗り換える。

何も無ければ、昼には到着できる予定だ。


-----


うん。

ブルージュの空港では、子供一人だから確認に時間も取られたけど。

王都の空港で、そこからゼロムへ向かう飛行船に乗り換えるまでは、何も無かったね。


先ず、王都の空港へ到着した後。

飛行船を下りた後は、そのまま乗り換え用の通路を歩いて、そうしてゼロム行きの飛行船に搭乗した。

えぇ、これだけです。

歩いた時間が、精々10分くらいでしょうか。



という訳で、俺も搭乗した飛行船は、そのまま離陸した後。

甲板デッキで、景色を見物出来るくらいの余裕もありました。



こうして俺は、予定通り。

正午頃には、ゼロムの空港へと着いたのです。


-----


ゼロムの空港へは着いた。

で、恐らくは此処でまた、多少の時間を取られるだろう。


なにせ、書類に不備は無くとも。

俺は、傍から見れば未だ子供だからな。

しかも一人だし。


魔法が使えるミーミルを同伴も考えたけど。

後日になって、何かしらの嫌疑を掛けられる可能性も考慮すれば。

多少の時間を要しても。

此処はしっかりと潔白を証明して、堂々とゼロムへ滞在すればいい。



等と、またあれこれ考えていた俺は、しかし、ブルージュの役所が交付した書類に不備も無ければ。

子供一人の理由についても。

災害孤児の記載が、故にボッチも仕方なし。


ゼロムの入街管理局、通称は入管だけどな。


そこで男性の係官からは、ゼロムへ滞在する理由は聞かれたよ。


『ゼロムへ来たのは、メティス王立学院の、随時入学試験を受けるためです。入学試験に受かれば、寮生活が出来ると聞きましたので。一応、受かる自信もありますよ』


俺の告げた理由を聞いた係官の男性は、何を思ったのだろうか。

とっても可哀想な子を見つめる様な。

そんな面持ちで肩をしっかり掴まれた後。


『そうか。だが、随時入学の試験はな。実技試験で命を落とす子供も少なくないんだ。坊主、危ないと思ったら直ぐに降参するんだぞ』


なる程ね。

俺は、マイセンの郷に居る間にだけどさ。

メティス王立学院へ入学するための手段についても、ゴッキーを使って調べさせていたんだよ。


だから、推薦と一般入試以外での。

年中いつでも受け付けてくれる随時入学の試験だけは、受験者の大半が、実技試験で死亡している事も。

それを理解(わか)った上で受験するんだよ。


俺は、きっと俺以外にも随時入学を申し込んで。

それで命も落とした子供が幾人もいる。

だから、この係官の男性は、俺にも気を遣ってくれたんだと思う。


『分かりました。その時には直ぐに降参します。命は大事ですからね』



こうして俺は、入管審査も問題なく終えると、早速の様に王立学院を目指した。


-----


王立学院の正門。

その近くに受付の事務所はあった。


来客がいないのか。

俺がインターホンを押した後も、窓口から映した事務所の職員達は、どいつもこいつも退屈そうにしていたよ。


仕事が無いのか?

開いた新聞を顔に被せる様にして、そうやって居眠りに耽る職員も。

あんなのを見たら、俺でも、それくらいを思うよ。


因みに、カーラさんが見たら。

問答無用で懲戒処分だろうね。


窓口で随時入学の申し込みを告げた俺は、半分寝ている様な男性職員から。


「はぁ・・・・まぁ、良いけどさ。だが、坊主の死体を片付けるのは俺らなんだぞ」


見た感じで三十代だとは思う。

だが、着崩したワイシャツは、ボタンも上から四つは外すと、肌着も晒していた。

パッと見で、こんなやる気の無い奴が、室内に何人も映ったんだ。

此処まで職務怠慢な連中なんか、シャルフィにだって居なかったぞ。


「おい、いい加減。真面目に仕事しろ。さもないと全員・・・・このまま感電死させるぞ」


こういう連中は、見ているだけで胸糞悪くなる。

自然と右手は握る様にして、拳を顔の高さで翳した俺は、躊躇うことなく電流を、それもバチバチと音を鳴らす規模で事象干渉して見せた。


事務所の中の空気は、この瞬間から一変したよ。


待つこと三分。

と言っても、申込書に必要事項を記載した程度の時間だ。


その後は、きっと殺されたくないを強く思ったのだろう。

身形も整えると、やたらと(へりくだ)った別の女性職員に案内された俺は、正門の向こう側に在る校舎の方へ招かれた。


正門から内側は、赤レンガを敷き詰めた様な地面と、そこに花壇や庭園の様なスペースも設けてあった。

校舎も、外側から見た感じで、煉瓦造り・・・かな。


まぁ、煉瓦を模した外壁の内側に、鉄筋コンクリートかも知れない。


案内してくれる職員の後ろを歩きながら。

校舎内に入った後は、壁や柱を映して、やっぱり中身はコンクリートかなぁ・・・・等と。


因みに、アルデリアの皇宮やサンスーシ宮殿程じゃないけど。

印象的には、でも、これが近いかな。

荘厳とか、格調高いとか。

まぁ、王立なんて冠があるんだしさ。


みすぼらしいのとは、間違いなく対極な造りだな。


俺が案内された部屋は、教室ではなく個室。

大人5、6人で会議も出来る広さの部屋には、椅子とテーブルがあった。


「ルベライト・・・君には、ですね。今から此処で筆記試験を受けて頂きます。時間は一時間ですが。早く終わりましたら。その時には手を挙げて終了を宣言しても構いません。筆記試験の後で、今度は実技試験が行われます。その際、希望者には遺書を書く時間も用意致します。それと、実技試験の詳細についてですが。これは筆記試験の後で行います」


型通りの説明を聞きながら。

特に質問も無いと、それも伝えた俺は、待つこと数分。


こうして俺の筆記試験は始まった。


-----


結論から言わせて貰おうか。

筆記試験は、ナニこの程度なの?と、言いたくなるくらい簡単だった。


というかね。

出題された問題のミスまで見つけられたよ。

なので、此処は丁寧にミスの指摘と、恐らくはこういう答えに導きたかったのではも・・・・・・


アーツでも、魔法でも、魔導でも。


特定の事象干渉を起こす前段階。

その段階で事象干渉を起こしているマナ粒子発光現象には、何の縛りも無いんだよ。


一応、属性色を伴うマナ粒子発光現象だから。

それが赤い発光色を示せば。

火属性のマナ粒子発光現象で、後は縛りが無い。


此処から先で、例えば、ファイア・アローを唱えれば。

固有名称を唱えて初めて、縛りが生じるんだ。


要するに、駆動と発動をしっかりと理解(わか)ってさえいれば。

そもそも、こんな間違った解釈で問題を作ることも無いだろう・・・・とは思った。


魔法式(詠唱式)= 駆動式+発動式 = 特定の事象干渉


俺は特定の事象干渉とも言うけどさ。

けど、これはファイア・アローを唱えれば、それで炎の矢が実際には現れる。

イメージがしっかりしていれば、何処から見ても炎の矢にしか見えないものが、この世界へ姿を現すんだ。


その事実を踏まえれば、限定された事象干渉を引き起こす・・・・と言っても間違いでは無いと思う。



アーツ、魔法、魔導に関しては、エレンからアーツを教えて貰った日から今もずっと。

そこからミーミルを先生に学ぶ時間も得た所で。


今でも未だ判明していない事が幾つもある。

と言うか、新しい何かを学ぶと、それを機に今までの解釈へ、疑念が生まれるくらいも当たり前。


それでも。

俺はこうして研鑽を積んで来た。

培った部分では、この問題を作った奴よりも、俺の方が理解(わか)っている自負もある。


そもそも、誤った問題では、魔法式を全部一括りに解釈すると、起きる事象干渉も一個しかないと決め付けてある。

ここが気に食わない。


『炎の飛礫(つぶて)、猛る紅蓮と成りて、焼き穿て。ファイアボール』

『灼熱の(やじり)、紅蓮を纏いて、撃ち貫け。ファイア・アロー』


ちゃんと勉強しているなら分かっただろう。


二つの魔法式は、ファイアボール、ファイア・アローの部分が発動式で。

後は文言が違うだけで、駆動式なんだ。


だが、俺から言わせれば、『炎の飛礫(つぶて)、猛る紅蓮と成りて、焼き穿て』・・・・この間に炎の矢を鮮明にイメージした後。

最後に『ファイア・アロー』を唱えれば。

この世界に姿を現すのは、炎を(● ●)纏った矢(● ● ● ●)の方なんだよ。


出題者は、この駆動の部分を理解(わか)っていないんだ。

俺が間違いだと指摘もすれば、正したのも此処なのさ。



ちゃんと伝わるかどうかは、そこへ責任を負う必要も無い。

だいたい、随時入学の試験で、合否を確実に左右しているのは、次の実技試験なんだ。



俺の合格には、実技試験で対戦する誰かを、簡潔に言えば、結果的に死亡させてでも勝てば合格が決まる。



補足を一つ。

発動式に当たる固有名称。

此処は魔導を使う者達の中で、固有名称を唱えずともファイア・アローやファイアボールを、実際に事象干渉させた者達が存在する。


俺なりの考察だと前置きして。

最後の固有名称を唱えずとも出来る者達は、その前の部分。

『焼き穿て』『撃ち貫け』の文言が、発動式の役割を担っていたと至った。


そうして、この考察が真実、その通りだとすれば。

魔導器が、スイッチをオンにした途端に起こすマナ粒子発光現象が。

以前からそう思えた駆動を、完全に満たしたものであるならば。


炎の飛礫(つぶて)、灼熱の(やじり)

この一言(いちごん)だけで、魔導でもファイアボールや、ファイア・アローの事象干渉は起こせる可能性がある。


更に言わせれば、その一言(いちごん)へ確かなイメージを刻むことが出来れば。

どんな言葉でも、出来る可能性がある。


今時点で、ものぐさフリーダムな婆ちゃんが作った欠陥品では不可能だったが。

欠陥を克服した次が生まれれば。

或いは、その時には俺の考えている事が、証明できるかも知れない。


アーツに馴染んだ俺にとっては、魔導器を使った魔導の必要性が、事実、限定されている点もあるが。

ただ、こうして考える都度、やはり気にはなるのだ。


なので、メティス王立学院へ入学した後。

再び検証もしたいと思った時には。

まぁ、その時には暇潰し感覚での取り組みも。

それはそれで、良いかも知れない。


-----


筆記試験は、開始から10分が過ぎたところで。

俺は隅の方で監督をしていた・・・・教員だろうか。


その人物に分かる様に手を挙げた。

指摘も含めて、異世界の方で全部書き終えたからな。


残り時間で居眠りするよりは、終わった事を宣言した方が、印象も悪くはならないだろう。


ただし、輪廻の双竜(ウロボロス)の件を考えれば。

俺が王立学院へ入学した後も、周りと仲の良い関係を作ることは無い。


シャルフィの王都が滅んだ真相には、俺も関わっている。


その点を踏まえて、メティス王立学院では、叡智と呼ばれる大図書館にだけ用がある。

よって、他の人達と関わり合いを持つ必要はない。



既に、二百万人以上を巻き込んだのだ。

これ以上を巻き込むことは、きっと・・・・母さんも望まない筈だと思う。


-----


実技試験は、それは校舎の外にあるグランドでするらしい。

グラウンドは、そうだな。

一周1200メートルのトラックが映っているだけでも。

広さは十分にあるだろう。


なんで、こんなに広いのか。

と言っても、映ったトラックは、グラウンド面積の半分にも及んでいない。


他に400メートルトラックが、三つも隣接しているんだ。


因みに、歩きながら聞いた説明では、魔導を使った実技試験を行う事で。

寧ろ、この程度の広さが無ければ、周りが危険らしい。


一番大きなトラックは、集団での実技戦闘を行うために設けられた。

けど、この説明の最中にも耳にした。


メティス王立学院は、一握りの優秀な者達を生み出すために。

他が生贄にされて構わない所なのだ。


ただ、そうまでして手にしたい叡智とは、真実、それ程の価値が、叡智とやらにはあるのだろうかを。

これでも入試を受ける側だからな。

何か質問は、等と聞かれた所で。

取り敢えずは尋ねてみたよ。


俺の疑問は、けれど、叡智の探求へ対して、そのために命を差し出すことも(いと)わない覚悟が無ければ。

メティス王立学院で学ぶ資格も無い・・・・のだそうだ。


思う事が無い訳ではない。

けれど、それをあれこれと考える前に。



グラウンドには、俺の対戦相手が姿を現した。


-----


対戦相手は、メティス王立学院で、実技を指導する教員の一人だった。

他に、受験する俺の評価もすれば、この対戦への立ち合いもする教員が五名。


絵本にでも出て来そうな魔法使い。

見た目の印象は、まぁ・・・これかな。


対戦相手の男性教員は、とんがり帽子とローブとマント・・・・なのに、マントの内側で魔導器を背負っている。

帽子とマントは濃い紫色で、白いローブ姿。


別にさぁ。

うん、言いたい事もあるけど。

せめて、そういう格好をするのなら・・・・大きな水晶が付いた杖とかね。

無い訳・・・・そういうの。


背格好は中肉中背・・・・うん、何処にでも居そうな三十代のオジサンだ。


俺、アーツは使えるけどね。

絵本でしか見た事の無い魔法使い姿には、全然ってくらい。

うん、憧れなんて無いね。


「ほう、君が今回の命知らずか。念のために聞いておくが。随時入学における実技試験の事は、当然、知っているのだろうね」

「えぇ、それで貴方の命日が今日になった。ホント運が無い人ですね」

「なる程。君はどうやら己の力を過信し過ぎている様だ。だが、これも決まりなのでね。私は君へ、遺書を認める時間を与えなくてはならない」

「そうですか。じゃあ、遺書は書きませんが。代わりに俺の実力を。それを一度で構いませんので、見て頂けませんか。それを見た後で。どうしても殺し合いをしたいと仰るのであれば。・・・・この辺一帯を全て焦土にするつもりで、臨ませて頂きます」


売り言葉に買い言葉。

けど、俺の発言へ。

評価もする側の教員の中から、一人の男性が、それなら一つ見せて貰おう。


その男性は、スーツの上からロングコートを着込んだ服装で、見た感じでも四十代くらいだろうか。

何処にでもいるサラリーマンな印象もそうだけど。

間もなく、魔導器を乗せた台車を押しながら、此方へ近付いて来た。



俺は、ハートレイと名乗った栗色の髪と青い瞳をした教員のおかげで。

どうやら、無駄な殺人もせずに済みそうな機会を得られた。


-----


別にね。

実技試験で、必ずしも殺す必要は無い。

それは最初から在ったんだ。


けどさ。

筆記試験の後から此処へ来るまでの間。

そこで歩きながら聞いた感じでは、命を軽く見過ぎている印象が濃かったんだ。


成績上位者でなければ、お前等は生きる価値も無い・・・・みたいなね。

極端な言い方だけど。

実際、聞いていてそう思えたんだよ。



対戦相手の教員は、尊大な態度には映ったけどさ。

けど、糞ババぁに比べれば。

仲良くダンスも踊れるくらい・・・でもあったかな。

まぁ、踊らないけどな。


ダンスは可愛い女の子とするものだ。

俺はマイセンの郷で、そこで酔っぱらった男達の、口には出来ないダンスも見たからな。


うん、そういう訳だから。

俺は可愛い女の子とだけしか踊らないを、固く決意したよ。


「では、大言を吐いた・・・・ルベライト君だったかな。的を用意したので、一つ見せて貰おうか」


対戦相手とは別の、けれど、俺の実力を見てみたいと言ったハートレイ教員は、魔法使いコスのオッサンと比べれば。

スーツの上からコートを着た服装だけで、常識人にも映ったよ。


しかも、この人には、それで的も用意させたのだから。

今だけは、最低限の礼も尽くそう。


「お手数をお掛けして申し訳ありませんでした。返礼代わりに、俺も貴方を驚かせられる。そういう魔法を披露しましょう」


俺は用意された魔導器を残して、「放電現象に巻き込むとアレなので。少し離れた所から撃ちます」と、周りの反応は完全無視。

的からは距離にして、三十メートルくらい。

教員達からも同じくらい離れた俺は、自分を囲んで縦に走った幾つもの白光。


バチバチと弾ける音にも、それも今は馴染んでいる。

幾重にも走っては、僅かに遅れて届く小さな雷鳴も。


右手は中指と薬指を畳んで、伸ばした親指と人差し指と小指で三角形を作りながら。

的に向けた腕は、真っ直ぐ肩の高さまで上げる。

三角形にも映る指先は、イメージとしては三角錐を構成する残る一点へ。

その一点に起こした稲光を収束させる。


収束させた稲光は、丸く青白い発光体を成した後。

こんな風に過程を一つ一つ進めて放つ『ライトニング』は、修行の時間に、そこで色々と試したい時くらいだろうか。


「穿て、ライトニング」


いつもは指パチなんだぜ。

今回は、聞かせるために、と言っても、聞こえるかは分からないけどな。

それでも、はっきりと声にして唱えた。



爆発時に起きる衝撃波。

あれとよく似た大気振動を、そこへ鼓膜も破れそうな轟音。



ただ、全てが終わった後。

俺の位置から的をも軽く超えた、ずっと向こうまで。

ざっと百メートル以上って所か。


グラウンドの土は、幅にして三メートルくらい。

抉られた地面の深さは、たぶん一メートルはある。

それで焦土を一直線に伸ばした様な跡を残していた。


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