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第1話 ◆・・・ 旅立ち ・・・◆


神聖暦2088年8月



先月には8歳になった。

ただ、俺は、もうこの頃には、マイセンの郷を離れよう・・・・・・・


既に、そう思う様になっていた。


-----


マイセンの郷は、長閑(のどか)で居心地の良い所だった。

俺のことは、結果的に俺を保護してくれたディスタード夫妻の存在が、良い意味で一番大きいと思う。


魂の世界から戻った夜。

カミツレに囲まれた母さんの墓を建てて。

それから俺は、夜陰の中を、まぁ・・・ティアリス達が一緒だったしさ。


山道、と言うよりは獣道。

明かりは、ミーミルが魔法で灯したよ。

そうして、足元が照らされる中での下山は、途中で下の方から上って来た二人と。




それが、俺とディスタード夫妻の、再会の瞬間だった。


-----


俺の存在は、後になってリザイア様が禁術を使った・・・・くらいも聞いている。

もっとも。

この件も、それで俺は、ディスタード夫妻や郷の人達へも話していない。


も、と言うのは、俺の中には真実、騎士王ユミナ・フラウの血が流れている。

シャルフィの王族は、ユミナさんの次の王からコルナとコルキナ(コールブランド)が見定めて来た。

勿論、母さんも同じだ。

その事も、俺は母さんからと、後はユミナさんやコルナとコルキナからも。

と言うか、ティアリス達までが嘘ではないと言ったんだ。


だが、俺の中にも流れる、この騎士王の血が、それが原因で母さんも、写真でしか見た事の無い祖父も。

二人は輪廻の双竜(ウロボロス)の手で殺された。


特に母さんは、それと助かったとは言え、俺も。

俺と母さんを殺すために。

輪廻の双竜(ウロボロス)は、シャルフィの王都までも滅ぼした。


 

母さんは、輪廻の双竜(ウロボロス)が、何れ必ず俺の命も奪いに来る。

生まれたばかりの俺を孤児院へ預けたのは、そこで素性も伏せた理由も、何が起きても俺だけは守りたかった・・・・・・・


俺は、自分の本当の母さんと会えたら。

なんで、孤児院へ預けたのかって・・・・・・・

俺は、少なくとも本当の母さんにとっては、要らない子供だったのかも・・・・とかも。



母さんはさ。

俺に会うための時間を作るために。

かなり無茶な働き方もしていた。

聞いていると、自分の身体をもっと大事にして欲しい。




心底そう思えた俺には、母さんを憎むような感情は、何処にも無かったよ。



俺は、母さんから一番に愛されていた。

あぁ、けどね。

その愛し方に、特務隊隊長とか、鎮守府総監とか、騎士団長もだよ。


母さんは俺のことを、遅くても10歳には公にするつもりで。

で、それよりも前。

去年の条約機構の議長選挙。

そこで、議長になったなら・・・・素性のことを話すつもりだった。



役職は間違いなく、拍付けだと思えたね。

あと、色々と回りくどすぎ。


だって、俺はもう、孤児院に居た頃から。

シルビア様を、本当の母さんの様に思っていたんだ。

まぁ、それはカールやシャナ達も同じだったと思うよ。



話が、少し脱線したので戻します。


輪廻の双竜(ウロボロス)は、何れ俺の生存を嗅ぎ付ける筈。

その時に、マイセンの郷に暮らす人達が、それで巻き込まれるのだけは避けようと思った。



だから俺は、この郷で暮らすようになってから。

此処を居心地の良い所だと。

徐々に強く、そう思う胸内は、ただ反対に、いつかは出て行かなければを募らせたんだ。


-----


ホント、マイセンの郷の人達はさ。

皆、良い人達なんだよ。

生活の環境に、そこには不便さもあるから、かな。

新しく家を建てるために、それで皆で先ずは、斜面の土地を切り拓くんだ。


この郷は、その発展へ。

郷に暮らす全員が、協力し合っている。


そうそう。

アゼルさんなんか、この土地の領主なのにさ。

郷の皆から『狩猟三昧のろくでなし』とか『放蕩領主』とかもだね。


実際、アゼルさんは狩猟が大好きで、夜は郷の酒場で皆と楽しい酒盛りを満喫しているよ。

立てないくらい酔っぱらって。

居候の俺は、その時には怖い笑みを隠さないエレナさんと。

今でも迎えに行っているんだ。


ただ、アゼルさんについてはね。

ろくでなしなんて言われている割に、俺から見た印象は、とても好かれている感じだったよ。


まぁ、そんなアゼルさんの代わりにだ。

領主の仕事は、出来過ぎる奥さんのエレナさんが取り纏めている。


マイセンの郷では、エレナさんの方が実質的な統治者で、しかも、郷の皆から凄く慕われているんだ。


エレナさんの事は、俺も去年の獅子旗杯から帰国した後で。

その時のカーラさんから聞いた事がある。


俺も籍を置いていたシャルフィの大学で、当時のエレナさんも、俺と同じ政治学の科へ籍を置いていたそうだ。

カーラさんは、エレナさんのことを、自分よりもずっと優れた宰相になれた筈の人だって。


マイセンの郷を実質的に治めているエレナさんを、俺は一年程度しか見ていない。

けど、カーラさんが自分よりも優れた宰相になれる。

なんて言っていた部分には、俺も分かる気がしたよ。


-----


何処から話そうか。

と言っても、時系列的な説明の方が、分かりやすいんだろうな。


先ず、下山途中で再会したディスタード夫妻だけど。

夫妻は俺の生存を、少し前に突然現れたリザイア様から、居場所も含めて知らされたそうだ。


で、その時のリザイア様からは、母さんが生まれて直ぐの俺へ。

何か時には、何処か遠くへ避難できる。

そんな奇跡の様な何かは無いのかと、相談を受けたリザイア様は、一度だけなら。

効果は一度きりだけの、それと何処に転送されるのかまでは保証も出来ない。


母さんは、それで構わないと。

そうして、リザイア様は赤子の俺へ。

自分にしか施せない一種の加護を授けていた。


結果。

俺と、直前に傍にいたティアリス達だけは此処へ転送された。


ティアリスと行使した本人でもあるミーミルからは、賢神の権能で、それで此処へ転送も聞いたんだけど。

その辺りは正直、どっちでも良いよ。



夫妻が暮らす屋敷へと案内された後で。

俺は二人が、突然現れたリザイア様から、母さんが俺を生んだ時と状況が似ている。

だから、俺の存在は絶対に伏せる様にと。

そういう部分までを告げられて、だから、二人だけで山道を上って来た。



俺は内心、流石、詐欺師リザイアだと思ったね。



その時にだけど。

俺は、シャルフィの王都が滅んだ事実を、新聞の切り抜きなんかでも。

後は、録画された映像でも確認したよ。


あの遺跡へ避難した三百十七人だけが助かった。

それ以外の王都に居なかった人達も、結果的には、巻き込まれなかった人達なんだって。


シャルフィは、その機能をシレジアへと移した。

カーラさんを代表にした政権も、この時から動き出していた。


話せない事もあったけど。

話せる事は話した。




翌朝。

俺は、リオンという名で、エレナさんの知己で、その遠縁という存在になった。


-----


リザイア様の禁術は、それがディスタード夫妻へも勿論、効いている。


結果。

エレナさんは俺のことを、親友のカーラさんへも報せられずにいる。


俺はエレナさんの友人。

仲の良い友人の、その遠縁で、ただ、不幸があって残された俺を、友人から相談を受けたエレナさんが引き取った。

まぁ、そういう感じでね。

だけど、この郷の人達は、エレナさんの事が大好きな連中ばかりだった。


俺は最初、エレナさんが実年齢よりも断然若く映る美人で、しかも優しいから人気があるんだろう。

なんて思っていたのは、一週間くらいで誤りだと至った。

理由は、放蕩領主なアゼルさんだ。

そして、マイセンの郷を実質的に治めているのが、家事も育児も出来て、そこへ領主の仕事が際立って出来る。


ホント、エレナさんを見た目で判断すると。

・・・・うん、人は見た目で判断しちゃいけないよ。



それからの俺は、ディスタード夫妻の屋敷で暮らすようになった。


夫妻は、俺に自由に使っていい部屋をくれた。

ティアリス達も、普段は使わない客人向けの部屋を貰って、普通に暮らすようになった。


ティアリス達は夫妻へ。

自分達は、シルビア様が俺のために置いた者達だと。


俺は亡くなる少し前の、まだ生きていたシルビア様から、実の息子だと聞かされた。

孤児院へ預けた理由なども全部、それをシルビア様から直に聞いている。

そして、素性が割れれば、俺の命も直ぐに狙われる。


幼年騎士になった後で、シルビア様は、俺を守るためだけの警護を。

それがティアリス達だと。


エレナさんとアゼルさんの二人は、この話を、此方が思った以上に信じてくれた。


----


郷の人達から見れば、俺は子爵様の屋敷に居候している、ただの子供にも映る。

まぁ、それも当然だと思うよ。


けれど、エレナさんが俺の事では、息子も同然って・・・・・・


おかげで、俺は郷での生活を、そこで仲間外れにされるような事とは、ホント無縁だったよ。


-----


居候の身分。

そこは俺自身が、一番に弁えている。

否、ディスタード夫妻は、俺を実の息子の様に接してくれているんだ。


ティアリス達のことも、俺が生まれ育った家に仕えていた者達。

という訳で、俺の血筋は他国の貴族くらいも思われた。

それは、まぁ・・・仕方ないかな。


けど、だから俺は余計に意識して、弁える様にしていた。

その結果、と言うか影響かな。


俺はエレンの存在を、郷では絶対に姿を現すなと。

だって、あいつ(エレン)は、夫妻と再会した時には居なかったんだ。


ぶぅぶぅ駄々をこねるエレンには、代わりに、修行と勉強をする異世界の方で。

そこで俺は、エレンと遊ぶ時間を作った。

まぁ、それでも。

エレンは、不満たらたらだったけどな。


エレンの不満は、仕方なく、俺は郷の温泉宿で、時々はエレンと貸し切りの温泉へ入ったよ。


そうだね。

ティアリスやレーヴァテインなんかも一緒だったしさ。


人数も多ければ、多少騒いだ所で、エレンの声が怪しまれる事もなかったね。


-----


屋敷で生活を始めた俺は、アリアとアバンの姉弟。

アリアは俺のことを『アスランお義兄様』

アバンは『アスラン義兄ちゃん』


二人は最初、俺のことをそう呼んだ。

でも、直ぐにエレナさんから、何か言われたんだと思う。


それからは、『リオンお義兄様』と『リオン義兄ちゃん』で、今も呼ばれているよ。


そんな二人の家庭教師をする俺は、しかし、弟妹から慕われる兄の様な存在。

傍からは、そう映るそうだ。


因みに、ミーミルはエレナさんの領主の仕事を、それを頼まれれば手伝いもする。

コルナとコルキナは、家事全般で役に立っていた。


ティアリスとレーヴァテインの二人は、郷周辺の巡回などにも出る時がある。

もっとも、二人は何かしらを理由に出かけた後。

姿を消した状態で、そうして俺の警護に就いている。


ユミナさんは、居たり居なかったり。

と言っても、食事の時間には居るからね。

シャルフィでも自由気ままだったから、俺も深くは詮索しなかったよ。



そうして過ごした居候の日々は、春の訪れから間もなく。




マイセンの郷には、エオス・ラーハルトの名を捨てた。

しかし、それでも第一皇女のユフィーリア・ハーハンスが住み着いた。


-----


獅子皇女。

ユフィーリア・エオス・ラーハルト第一皇女が、何故、エオス・ラーハルトの名を捨てたのか。


真相は、皇帝陛下の勅を伴う緘口令によって迷宮入りした。

けれど、これがそもそも皇帝陛下とユフィーリア皇女との間で。

つまり、余人を交えない場だった事からも。

恐らくは、そこで何かがあった。



俺がアゼルさんから聞いた範囲では、噂の一つも許さない勅があるために。

貴族達は揃って、話題にしない姿勢に徹した。

政府も、それは同じ姿勢で。

報道機関も同じだった。


要するに、エオス・ラーハルトの名を捨てた事は皆が知っている。

だけど、知らない振り。

と言うか、絶対、口にしない。



因みに、これもアゼルさんから聞いた話。

ユフィーリア皇女の話題を口にした何人かは、問答無用で殺されたらしい。

で、その部分だけは噂が一気に流れた。

しかも、死体が発見された事実だけは、新聞の片隅に取り上げられた。


結果。

ユフィーリア皇女の事は、誰も何も言わなくなったそうだ。




名を捨てた理由。

周りの誰も分からないし、知りたいと思っても、それも口にしない。


周囲の空気がそうだったからなのか。

マイセンの郷へやって来たユフィーリア・ハーハンスは、そのまま郷に住み着いた。


-----


住み着いた皇女は最初、温泉宿の一番大きな部屋を使っていた。


その後は、頂上へ至る山道の途中に在る山小屋へ。

ただ、途中の幾つかに設けてある山小屋は、元々、急な天候不良に備えた避難小屋だった。


皇女は、郷に一番近い山小屋へ居を移した。

理由は、それをアゼルさんも教えて貰えなかったらしい。


だけど、アゼルさんは、恐らく世俗から離れた所で。

マイセンの郷は、そういう部分では静かに過ごせる所でもある。

だから、皇女は今を、一人静かに時を過ごしたい・・・のではないか。



結局、皇女の引っ越し前には、大掛かりな改装が、郷を挙げて施された。

そうして避難小屋は、初夏が訪れた頃。

設備の整った小さな屋敷へと様変わりした。


そうだね。

俺も手伝ったけどさ。

うん、一人暮らしにはホント、贅沢な家だったよ。


郷からは、直線距離で50メートルくらい。

皇女の屋敷へは、メイドが二人住み込むと、郷からは食料などが、日に一度は届けられる。


とは言え、猛吹雪の時には、1メートル先もろくに見えない。

50メートルもあれば、余裕で遭難できるらしい。

郷の大人達は、皆一様にそう言ってたよ。


だから、皇女の屋敷には、それを見越して半月分の備蓄が、最初から備わっていた。



補足を一つ。

郷から山頂側だけど。

天候が、とにかく変わりやすいそうだ。


俺、あの時は何事も無く下山できて・・・・運が良かったんだろうな。


-----


俺がマイセンの郷を離れようと思った理由。


輪廻の双竜(ウロボロス)の件は、これに巻き込む訳にはいかないもある。

だが、俺とユフィーリア・ハーハンスの関係は、これが最も身近な問題だったからこそ。

俺はマイセンの郷を、出て行こうと思ったんだ。



ユフィーリア・ハーハンスは、俺の(あずか)り知らない間に。

要するに、俺が知ったのは事が完了した後だ。


あいつは俺を、一方的に養子にした。

それも、帝国の法に基づいて。


そうなった事を知った後。

俺は帝国の法律を、調べもすれば学びもしたよ。

勿論、この時もミーミルに頼んで。

異世界の方で調べ終えた俺は、一つだけ理解(わか)った事がある。



今の俺では、関係を解消することが絶望的に困難だという事だ。



細々とした説明は面倒なので、パッと要点だけを纏めた。

養子縁組に関わる手続きは、養子となる子供が、それで14歳未満であれば、親権者の意思だけで手続きを完了できる。

付け足すと、養子となった側が、これに異を唱える等、関係の解消を行う場合。

18歳以上であれば、親権者の同意を必要としない。

反対に、18歳未満であれば、解消の手続きへ、親権者の同意を必要とする。



何故、こんな事をしたのかと。

今直ぐ、解消手続きをしてくれと。

だが、ユフィーリアは、当然と拒否できる権利を振りかざした。


俺は、俺自身の意思だけで関係を解消するためには、18歳の誕生日まで待たなければならない事が確定した。



ユフィーリア皇女のことは、初めて会った時から好きになれなかった。

それが今回の養子の件を機に、俺はユフィーリアを、殺したいとさえ抱いたよ。


あいつは、俺を養子にした事で。

俺がマイセンの郷で稼いだ金を、それを通帳ごと持って行きやがった。

しかも、俺がマイセンの郷に居る限り。

そこで、俺が得ていた家庭教師などの報酬も。

郷の仕事を手伝って得た報酬も。


ユフィーリアの生活は、それで俺の稼ぎが悪ければ、罵詈雑言もお構いなし。


しかも、質の悪いことに。

あいつは、俺が聖女シルビアの息子だと、最初から分かっていた。


本人の話は、それをディスタード夫妻が、事実だと認めたよ。

三人とも、シルビア様が俺を生んだ場に居たそうだ。


ユフィーリアは、今も素性を伏せると、アスランの名も伏せている俺が、リオンを名乗っている事をいいことに、『戸籍不詳の孤児を引き取った情け深い皇女』面をも、楽しんでいる。


マイセンの郷での日々は、胸糞悪い日々の連続へと転落した。

ほぼ毎日、何かあれば、決まって『お前は、あのクソガキによく似ているからな。憂さを晴らすのには都合がいい』とかなんとか。


獅子旗杯の前にあった園遊会で。

そこで下着姿を晒した事を、ずっと根に持っていたよ。



いっそ、あの時に素っ裸にしてやれば良かった。

心底、そう思ったね。


-----


ユフィーリアを殺そうと。

それは数えるのも馬鹿らしい程に抱いたね。


けど、俺が完全犯罪で殺せたとして。

皇女が死亡した事実がもたらす影響。


ディスタード夫妻は勿論、マイセンの郷に暮らす全員に。

絶対も断言できる。

俺がお世話になった人達へは、良くない影響が降りかかる。


ディスタード夫妻と双子の姉弟は、俺を本当の家族も同然に接してくれた。

マイセンの郷に暮らす人達も、俺は良い人達ばかりで、何も無かったら・・・・此処で一生も良いかも知れない。

そう思えたんだ。



だから、俺はユフィーリアを殺せない。

あいつがした事を、一万回殺しても全く足りないけれど。



そうして、俺はマイセンの郷を出て行こうと決めたんだ。


-----


神聖暦2089年1月


その日は朝から猛吹雪だった。

そんな悪天候の中で、俺は今、母さんの墓の前に立っていた。


アーツを使える俺には、別に天候なんか関係ない。



今日ここへ来たのは、次はしばらく来れないからを、それを母さんへ伝えるためだ。

俺は今日、この吹雪を隠れ蓑にして。

郷を出て行く。



頂いた部屋には、置手紙を残してきた。


母さんを殺した存在が、いつ自分を見つけるかも分からない。

そうなって、もし、マイセンの郷が襲われたら。


この理由で納得は、してくれないかも知れない。

だけど、理解は出来る筈だと・・・夫妻がそう思える側でいて欲しい。



・・・・・ 全ては、マイセンの郷が安寧でいられるために ・・・・・



俺はこれから、しばらくは此処にも来れないと思う。

だけど、母さんの墓のことは、ディスタード夫妻だけは知っている。

と言うよりも、エレナさんがね。

こういう時期や天候でもなければ、エレナさんが月に一度は俺と、必ずってくらい此処へ来ていたんだ。


ただ、墓前での祈るような姿には、何を話しているのかを、そこは聞かない様にしている。


だって、エレナさんは祈るような姿勢で、そうして、いつも涙を流しているんだ。

泣いて赤くなった目を見れば、そんな顔で俺には笑みを向けてくれる。



「母さん。春になれば、またエレナさんが来ると思うけど。俺は勅命のためにも動くよ。だから、次に此処へ。それは分からない。でも、きっと此処へは顔も見せに来るからさ・・・・」


――― じゃあ、行って来ます ―――


-----



猛々しい風によって、荒れた様に吹雪く真冬の空へ。

間もなく、純白の翼を広げた一頭のペガサスが飛び立った。


2018.09.01 誤字の修正を行いました。

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