表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/359

第0話 ◆・・・ 此処から始まる物語 ・・・◆

活動報告も更新しました。

ブックマークを付けてくださった方様。

お陰様で、今月の内に4章へ入るモチベーションでした。

本当にありがとうございました。



「マイロード。雪が止んだとは言え、此処は山奥の高地です。暖も取らずでは身体にも障ります」

「ティアリス。もう少しだけ、此処でこうして星を見ていたいんだ」

「では、せめてアーツでの暖を取るべきかと」

「此処は暗い様で、なのに不思議と気が休まる。静かで・・・けど冷たい。だけど、やっぱり・・・俺は此処に居ると。こんな場所に居心地の良さを得られるんだ」


ティアリスは主の穏やかな声へ。

それ以上は、自身の意見を口にしなかった。



此処はアイゼナル山脈の、その連なりに在る山の一つ。

小高い丘は見晴らしが良く、そして、周囲は茂った木々が囲んでいる。


この場所から一時間程度。

山を下れば、そこには温泉もあるマイセンという郷がある。


人口は五千程だろうか。

斜面を切り拓いて造られた郷は、印象としては長閑(のどか)だった。


だが、この郷の者達は、一致して今も。

シャルフィの王都が滅んだ日から、もう一年以上が過ぎた今でも。


マイセンの郷は、マイロードの素性を隠し続けるために。

郷の者達が皆、協力し合っていた。




一つ、付け足しましょう。

五千人程が、何も無しに一致するなどは、特に情報の秘匿に関して。

此処は不可能です。

ですから、それを可能とするために。

リザイア様はこの土地へ、精神と認識の一部を操る禁術を施しました。


結果、マイセンの郷を囲む一帯では、マイロードを映すことが出来ても。

自然と深くは認識しない様にが、視界から少し離れた程度で、気にも留めなくなる。


私達は、郷の者達の好意へ。

なのに、禁術を使ってまで保険を掛けた。


非難は甘んじて受けましょう。

ですが、今のマイロードではウロボロスと、対立すら出来ないのです。

これが現実である以上。

マイロードがウロボロスと、せめて、対立できる所へ至れるまでは、時を稼ぐのが私達の役目でもあります。



こうして、マイロードは女王を失ってから、一年以上経った今も。

それと、ここまでの日々が平穏だった訳ではありませんが。


日中はマイセンの郷で、領主の姉弟へは家庭教師の様なこともしながら。

私達から見ても。

マイロードは、この郷の者達から好感を持たれる存在には映っています。


-----


この場所が選ばれたのは、それは、偶然です。


ウロボロスによって、シャルフィが滅ぼされたあの日。

ミーミルが行使した緊急避難の魔法は、そこへ直接干渉したのがリザイア様でした。


私達は、干渉したリザイア様が招いた魂の世界(● ● ● ●)と、そう呼べる所で。

先ずは、シャルフィの王都が滅んだ事実と、同時に女王も殺された事を知りました。


私は、まだ幼いマイロードへは、女王の最期を見せなくても。

ですが、リザイア様から見たいかと。

問われたマイロードは、迷うことなく見ると言ったのです。


私達が見たのは、それは、リザイア様の持つ記憶でした。


あの日、女王もマイロードと同じ様に、仕事へと勤しまれていました。

突然の激しく揺れた事へ、反射的に顔を起こした女王は、直後。


外側で起きた大きな爆発が、女王ごと執務室を飲み込んだ。

リザイア様の記憶が見せた光景は、その爆発が、私も予期しなかったくらいの規模でした。


王宮は、マイロードも仕事をしていた騎士団の建物も。

否、王都全域が粉々に砕け散った・・・・と、それだけの爆発力をどうやって。


疑問を抱く私とは別に、マイロードは糸が切れた人形も同然。

力なく崩れると、『あ』しか発せない様な震えた声で、痛々しい等とは軽く言えません。



女王の最期は、あっけないと言えば、そうかも知れません。

一つ言えるのは、ミーミルが居たからこそ。

そして、賢神が権能の一つを行使したからこそ。

私達は、マイロードだけは、守ることが出来たのです。



見てしまった後のマイロードは、両手と両膝を地に着けた様な姿勢で、泣く声も詰まっていました。

ただ一度、マイロードは私を睨んだ・・・・様に思えます。

けれど、視線は直ぐに首ごと下を向くと、肩や背中が震えていました。


きっと、なぜ女王を助けなかったのか。

そう叫びたかったのかも知れません。


リザイア様は、そうなってしまったマイロードへ。


『アスラン。あんたには今から。シルビィとの最後の時間を。それを、あたしが作ってやるさね。だから、しっかりとシルビィの話を聞くんだよ。あんたにとっても、シルビィにとっても。あたしに出来るのは、此処までさね』


呆然と顔を起こしたマイロードは、そして、リザイア様が留めていた女王の魂。

金色のマナ粒子が、濃い密度で塊を成した様に映ったそれは、間もなく女王の姿を作ると、聞き馴染んだ女王の声が。


マイロードは、こうして、女王との最後の時間を得たのです。


そうですね。

魂の世界という所は、私達の聖殿がある世界とは逆・・・でしょうか。

真っ白な世界と、真っ暗な世界。

これで伝われば良いのですが。

後は、魂の世界では、お互い以外の、それ以外の景色などが真っ暗に染まっています。

詳しくは話せない制約があるため、それ以上の詳細は控えさせて頂きます。


マイロードは、此処で女王の魂と。

魂と言っても、これは、ミーミルが普段から作り出している実を伴った幻が、イメージとしては最も近いですね。


女王は、そこで、姉様が制約を解いた後。

マイロードは、女王が真実、実の母親でもある事を知りました。


そこから、何故の部分も。

素性を隠した真相は、ウロボロスの存在も含めて。

つまりは、王位を継ぐ唯一人にのみ明かされた真相もです。


此処を姉様は、自分ではなく、女王の口から伝えさせるのが一番だと判断しました。


そうして姉様は、ただ、母親が嘘を付いていないを証明するために。

自らの記憶を一部。

この時に、マイロードの中にも焼き付けたのです。


全てを知ったマイロードを、母である女王は、語る間はもうずっと腕の中へと抱いていました。

抱いたまま腕の中に在る、泣いているマイロードへ。


もっとこうしたかった。

こういう事もしたかった。


それこそ、母親らしい思いをずっと、マイロードが泣き止んで、再び顔を起こすまで。

子を慈しむ母の優しい声が、語り続けていました。


顔を上げたマイロードは、ですが、私の目にも。

琥珀色の瞳には、赦せない感情が色濃く表れていました。


そんなマイロードの瞳を、表情を見つめる母親は、ですが、紡がれた声には・・・・


『アスラン。私も父様と母様を殺された時には。それで帝国なんか滅んでしまえと。だから・・・』



――― もし母さんの敵を討つって言うのなら。母さんごと王都を滅ぼした奴なのよ。だから、もう徹底的に。とことんやっちゃいなさい♪ と言うか、基本は億倍返しなんだから♪ ―――


私から見るに、女王への印象が崩壊した部分も、在ったのだと思います。

ですから、マイロードが唖然としたくらいは当然でしょう。

なのに、この母親ときたら。


『それとね。ウロボロスなんて得体の知れない強敵も。だから、母さんもご先祖(ユミナ)様から教えて貰った時には、震えたものよ。騎士王の聖戦は、それで世界が滅ぶかも知れない。だけど、滅んでいたら・・・・』



――― ご先祖(ユミナ)様の聖戦はリーベイア大陸の、その大半が悲惨だったと聞いています。それでも、私達のご先祖様が勝ったからこそ。今の世界が在るのです ―――



『母さんは、ご先祖(ユミナ)様から教えて頂きました。ウロボロスは、この時代で何かを起こす可能性が強いと。それで、最悪は暗黒の時代が復活するかも知れない。母さん、それだけは回避して欲しいと思ってるわ・・・・』



――― だから。暗黒時代の復活を止めるために。いいえ、この世界の未来が。そこに母さんも望んだ安寧が得られるのなら ―――



『その為に、アスランが今の世界を。そこで未来の安寧を掴み取るために戦う貴方が。どれ程の土地を焼き、どれ程の犠牲を生み出したとしても・・・・』



――― アスランが背負う罪の全てを。母さんが赦します ―――



シルビア・フォルセティという人物が、それでマイロードには、どう映ったのか。

或いは、どの様に刻まれたのか。


あのような言葉の後で。

当然と続いたマイロードと母親の会話は、聞いていて、中には考えさせられる事もありました。


ですが一つだけ。

私が剣を捧げた唯一の王なのです。

だから、いくら母親でも。

余りふしだらな事を、吹き込まないで頂きたいものです。


女王が姉様の直系だという部分は、忌々しい程に納得させられました。



ただ、別れ際の最後。

母親は、マイロードが尊敬した女王へと戻りました。


『アスラン・エクストラ・テリオン・フォルセティ。私は貴方を誰よりも慈しむ母として。貴方を一番の誇りだと自慢できる女王として。最後の勅を与えます・・・・』




――― 私も生きたリーベイア世界を。どうか守り抜いて下さい。そして、私も望んだ安寧の未来へと繋いで下さい ―――



そこまでを告げた女王の、それまで何も持っていなかった右手が。


『私の意思は、常にアスラン。愛しい貴方と共に在り続けます』


その言葉を紡ぐ間に、女王の右手に集まったマナ粒子にも似た輝きが、女王だけが掲げられたルベライト色の御旗へと。


本来、意思と呼べるものは、映すことも触れることも出来ません。

つまり、意思とは何かしらの有形物ではないのです。

しかし、女王は自らの意思を、簡潔に言えば、物質化したのです。


女王は、自らの御旗をマイロードへ授けた。

否、その意思は共に在り続けると、確かにそう言いました。


ならば。

この御旗は、意思を象ったもので、託された・・・・という解釈も出来る。


ただ、マイロードは、すうっとマナ粒子を立ち昇らせるようにして薄れゆく女王から、ルベライト色の御旗を、両手は柄をしっかりと掴んで受け取った。


『陛下からの勅命謹んで。必ずや果たして見せます』


途端に瞳を滲ませると、涙を堪えられなかったマイロードの。

けれど、強い決意も伝わる宣言へ。



消えつつある女王は、嬉しそうな面持ちが、微笑みながら頷いた。


直後、マイロードは魂の世界から。



-----


あの日からは、4ヶ月も過ぎた世界へと戻ったのです。


-----


マイロードが本来居る筈の世界は、シャルフィの王都が滅ぼされた日より。

4ヶ月が過ぎていました。


そうですね。

神聖暦2087年も、あと数日で終わる。


それだけの時間が過ぎていたのには、ただ、リザイア様はこう言っておられました。


『シルビィだってさぁ。親を殺された後は大変だったんさね。それでも、シルビィは。その時には17だったんよ。だけど、アスランは7歳になったばかりさね。そんでシルビィが、ホントは自分で伝えなきゃいけない事もさね。だから、あたしも禁を破ったんよ』


――― そうでもしなければ。アスランを真っ直ぐ歩かせられるのは。それは母親だから出来るんよ ―――



女王はマイロードへ、確かに自分の口から伝えなければならない事が在った。

これは、ずっと隠してきた素性と、何故の部分。


ですが、マイロードを立ち直らせられたのも。

それで母でもある女王が、4ヶ月を必要とした・・・・と、考えれば。


私は、そこには何の異もありません。

寧ろ、魂となった身で、マイロードを立ち直らせて頂けたのだと。



マイロードへ捧げる、それと同等の感謝を、私は女王へも捧げましょう。


-----


魂の世界から戻ったマイロードですが。

戻った先が、此処だったのです。



ミーミルが使った権能は、マイロードを避難させる際に、遥か遠くへ逃げ延びる。

ですが、行使したミーミルでさえも。

場所を特定させられない欠点の様なものがある・・・とは、聞いた事もあります。


これは後になって、私やミーミルが、だから此の地に来たのだと。

断言は出来ませんが。

マイロードが幼年騎士になった際、あの銀製の騎士章は、二つともが、女王からマイロードへ直接与えられたものでした。


マイセンの郷からは、山道を上った先にある此の地も。

私とミーミルの見解は、マイロードの騎士章が、それで此の地へ転送したのではないか。


白金の騎士章の件も、それもまた女王から直に頂いたものには違いありません。

ですから、これだとは言い切れないのです。



まぁ、マイロードが此の地を気に入ったので。

後は、シャルフィからは事実、遥か彼方の山奥。


避難先としては、一先ず良しと言えるでしょう。


-----


此の地へ転送されて直ぐでした。


そうですね。

あの夜も、今日の様な感じだったと思います。

地面は雪で白く覆われて、周囲の木々は漆黒の影にも見えました。


そうして、大気の澄んだ空には、満天の星・・・・と言えば良いのでしょうか。



マイロードは、この見晴らしの良い丘へ。

母である女王の墓を建てました。

そして、母である女王の想いを一つ叶えたのです。


マイロードが行使した『ユニヴェル・クレアシオン』は、この丘を含めて。

およそ百平方メートル・・・くらいでしょうか。

大地を、カミツレが咲き誇る草原へと作り替えました。



凄いものですよ。

此処だけは、季節に関係なく、カミツレが咲き誇る草原なのですからね。


因みに、女王の墓も。

それもユニヴェル・クレアシオンが、この景色の中に置いたのです。



――― 希望は見晴らしの良い所♪ それで、カミツレの花を植えてね♪ ―――


きっと、女王はマイロードを笑わせたかったのだと思います。

笑わせようと、茶化した様な声で。

自らの墓の希望を、偉そうに語っていましたからね。




『ティアリス。俺は、俺は何から始めれば。輪廻の双竜(ウロボロス)を討つことが出来るのか。それを教えてくれ』


-----


神聖暦2088年は、もうすぐ終わる。


ウロボロスを討つと、あの言葉から始まったこの一年は、過ぎて見ればあっという間でした。

そして、真実、平穏ではありませんでした。



ただ、もうだいぶ以前の内から考えていたのでしょう。

マイロードは、年が明けた後。

春の訪れより先に、マイセンを離れることを決めました。



行き先は、ローランディア王国のゼロム。

そこでマイロードは、メティス王立学院の入学試験へ臨むようです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ