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第16話 ◆・・・ 教師エストとエレン先生?から学ぶ日々 ⑨ ・・・◆


課題だったファイア・アローが出来る様になった所で、今年も残り僅か。

しかし、アスランの修行は、そんなことも関係なく続いていた。


アーツに『意識とイメージ』が関わっている事までは知り得た。


ファイア・アローは、何ヶ月も掛かってようやく出来る様になった。

直後はアスランも、達成感で満たされていた。

だが、翌日にはもう切り替わった意識が、直ぐに別の課題と向き合っていた。


向き合っている課題とは、『無詠唱アーツ』の、発動の部分である。

この部分はファイア・アローが出来るようになった今でも、直接声にして唱えた時と比較して、明らかに差が付いている。


魔法式の内、アスランは自身が『駆動式』と呼んでいる部分は意識感覚だけで行うと、問題の『発動式』の部分。

発動式だけを直接声にして唱える方法なら、問題なく出来る所には至った。


けれど、駆動から発動までの一連を全てとなると、明らかに弱々しい事象干渉しか起こせないでいる。

原因が何処にあるのか。


新年まで残り数日となったその日も、アスランの描く理想に欠かせない無詠唱アーツは、未だ原因が何処に在るのかを特定できないまま。

しかも、この課題は、そんな中で新たな課題を生み出していた。


駆動から発動までを意識感覚だけで行う。

これが理想とする無詠唱アーツ。


思い付きから始まって、今では発動式さえ出来れば、完成を見れる一つのテーマも。

ところが、ファイア・アローが完成して間もなく。

実は駆動式についても、それから生まれた課題を新たに抱えていた。


ファイア・アローが完成した直後は、出来た喜びで見落としていた。

実際、気付いたのも翌日の午後、その時の修行が始まってからだった。

意識感覚は、駆動時のマナの流れや収束を、今では難無く再現出来るようになった。


アスラン自身が「?」と感じ取ったのも。

それはファイア・アローを、連続して使うことに馴染み始めた後だった。

最初の強い感動が抜けた今になったからこそも言えるのだが、抱いた違和感は、それが何なのか。

ただ、違和感の正体は、然して時間を掛けずに判明した。


ファイア・アローを例えに、1回目の事象干渉力を100とする。

そこから続けて2回目、3回目と回数を重ねる度、2回目には80、3回目は70といった感じで事象干渉力が落ちていく。

最初は声にして唱えたその後で、全部を意識感覚の再現だけで行使したりが混ざっていたこともある。

それもあって気付くのが遅くなった部分はあっても。

現状、連続しての行使では、回数を重ねる毎に、事象干渉の力が弱くなる事までは突き止めた。


事象干渉力が落ちる問題。

この問題の原因について、アスランは意識感覚で駆動式を再現する際に、それと密接するイメージが解決の鍵を握っている。

そこまでは突き止めた。

では何故、そこまで突き止められて解決へ至っていないのか。


問題は、鮮明なイメージを描くことが、一度なら難無く出来る。

一方で連続となると、どうしても難しくなることにあった。

要するに、集中力の持続時間とでも言えそうな部分である。


集中力は、ここも意識感覚だけで駆動式を構築することにも欠かせない。

そこへ更に、鮮明なイメージを構築することにも集中力が要る。


当然、これを連続で行う場合には、必然的に維持し続けなければならない問題が浮上するのは道理だろう。

そして、アスランは維持しようと頑張って、結果、頭が酷く重く感じる倦怠感に襲われていたのだ。


けれど、そんなアスランにアーツを指導するエレンはというと、耳に届く楽しげな声は相変わらず。

アスランが常に一定のレベルで連続発動出来ないでいるアーツを、こちらは遊び感覚で平然とやって見せていた。


『アーツはねぇ。何度も言うけどぉ~。自由で無限なんだからねぇ~。アスランはさぁ~。そこのところがまだ理解っていないんだよねぇ。だからエレンのようにはポンポン出来ないんだよ♪』


うん、理解っているんだ。

この口調は、それがエレンの普通なんだって、僕は理解っているんだ。


馬鹿にされているを抱く声は、そうやって言い聞かせることで、だから堪えられている。


仕方ないんだよ。

だって、神父様から聞いた魔導の事は、それが中等科に行かなければ学ぶことも出来ないんだ。

それが、僕だけはエレンの声を聞けるから。

だから、口調もアレだし、説明だって抽象的過ぎるけどさ。

それでも、エレンのおかげで、僕はアーツを学ぶ事が出来たんだ。


僕のファイア・アローは、魔導器なんか無くても、エレンの様に出来たんだ。

これは間違いない事実だよ。

で、エレンが言っていた事は、それだって間違っていない。

此処も証明されたんだと、そう思えば、今言われた事だって、きっと間違ってはいなんだよ。


指摘された『自由と無限の意味』だね。

僕は先ず、此処をノートに書いた。

それから、この意味には、だから絶対何か在るはずだって。


今日は此処からだね。

いつもの様に思い付いたら、先ずやって見れば良いんだよ。


-----


無詠唱アーツを、完全習得する。

もう一つ、エレンのように連続で出来る様になる。


ペンを走らせるアスランにとって、今はもう、ノートに記すのが当たり前だった。

これも頭の中で、あれこれ考えている内に、考えがごちゃ混ぜになる事を何度も経験した。


経験を基にして、そこから意識して書き記すようにしたことは、本人が自覚していない部分で、今の実力を成す要素へと、間違いなく作用していた。


発動式を意識感覚だけで、直接声にしたのと同じところへ至らせる。

声を発して唱える時と共通しているのは、駆動式の段階で、詳細なイメージを構築することにある。


ファイア・アローを例えにすると、炎の矢を明確にイメージすることは勿論。

威力や飛翔する際の速さまで、これらは全て、イメージが最も作用している。


ただし、イメージ通りの事象干渉が、必ずしも起きるわけではない。

実はもう、そこでイメージ通りにならなかったを、アスランは経験しているのだ。


経験は、物凄い速さで飛翔するファイア・アローをイメージして、発動したファイア・アローが、事実、イメージよりも格段に遅かった。


うん、そうだねぇ。

この時もね、僕は、何で?って部分を、エレンに尋ねたよ。


『そんなのさぁ、アスランが未熟者なだけじゃん♪』


まぁね、こういう相変わらずな返事だったよ。

付け足すと、この時も、エレンは笑っていたんだ。


イメージ通りの事象干渉は、此処からアスランへ、『イメージに見合う実力が不可欠』だと、学ばせた。


まぁ、要するにね、実力が付けば出来るようになるって事なんだよね。


逆にイメージが曖昧だったり、イメージしないままに発動式を唱えると、以前までと同じ、『一瞬だけの炎』を出して終わってしまう。


こういう証明も、僕はね、エレンの様には出来ない原因を探す中で、自分なりに納得出来る所までは解いたんだ。


意識感覚だけで、駆動式を構築する。

此処は一先ず、目処が付いている。


問題は、その先の発動式。

イメージと意識の強弱の他に、恐らく何かがある。


そこまでは突き止めたアスランも、けれど実は、そこからがお手上げに近い状態だった。


-----


課題はもう一つある。

安定した状態での、連続発動だ。


アスランはノートを纏めながら、その作業中、解決の糸口かも知れないが見えていた。


アーツの連続発動。

そのためには、最初の発動の後で、再び駆動式から発動式へ繋げるしか無い。


この点は、アスランが既に試して得た結果から、今現在(●●●)では、そうなっている。


連続発動=駆動>発動>駆動>発動・・・・・ 

この繰り返しが、連続発動の一連の流れになる。


この連続発動について。

実は、直接声にして唱える方が、まだしっかりした事象干渉【発動】を引き起こす。

その事実までは判明している。


それもあって、無詠唱でも何かを満たせば可能なはず。

問題は、満たさなければならない何かの部分。

アスランは、それを考えていた。


僕はさ、ノートにも書いた問題の【何か】だね。

今回もエレンには尋ねているんだ。


『未熟者なんだからぁ~。練習あるのみ♪だねぇ~』


ハハハハ・・・・・・

うん、まぁね、やっぱり、僕の予想は裏切られなかったよ。


とまぁ、ね。

でもさ、エレンに言われた未熟者って所は、僕も、そこは認めているんだよ。


僕は、アーツを、エレンの様には出来ないでいる。

これは事実だよ。

連続発動だって、エレンの様にポンポンは出来ないんだしさ。


だから、未熟者(●●●)の評価は、理解っているよ。


だけど、そうだね。

連続発動の問題は、此処も間違いなくイメージなんだ。

それで、イメージをずっと維持するだ部分は、そこに集中力が欠かせないんだって考えている。


そんな訳で、問題の解決にはさ。

今よりも、もっと集中力を鍛える必要がある、そうも考えたんだ。


開いたノートへ、ペン先が今も走っている。

思考しながらペンを走らせた後。

一先ず纏まった課題解決策は、結論から言えば、『基礎鍛錬を重点的にする』ということになった。


鍛錬は、【意識感覚】だけで、体内を流れるマナを、指先へ収束させる。


僕は最初、その部分だけに限って取り組んだんだ。

だけど、ホント、いきなりだったね。

けど、そのいきなりがね、今の僕が未だ気付いていなかった弱点を教えてくれたんだよ。


アスランが弱点だと抱いた点。

きっかけは、指先へマナを収束させた後で、偶然にも空に映した飛行船へ、視線が流れた程度。

しかし、この時の視線が流れた程度が、指先へ収束させていたマナを、一瞬で拡散させてしまったのだ。


ここは、誰しもがある、ちょっとした気の緩み、そう呼べる所だろう。


だが、それまでに収束させたマナが、一瞬で拡散したことも事実。

アスランにとって、新発見にも思えた事実は、『マナの収束が、此処まで気の緩みを許さない』と、いう事だろう。


ただ、同時にアスランは、自らの集中力。

現在の集中力が、此処まで脆かった、も突き付けられたのである。


そうだねぇ、って、別に落ち込んだりは無かったね。

と言うかさ、寧ろね、集中力なんて実際には目に映らない部分なんだしさ。

でも、このマナを収束させる鍛錬では、発光現象で、集中出来ているかを確かめられる。


なんて言うか、そう、これも僕にとっては、新発見だったんだよ。


以降、アスランは、常に一定の収束状態を維持し続ける。

そういう風には出来ないものかを思案した。


今の連続発動は、2回目以降から干渉力が弱くなる。

この問題は、今時点で、恐らく集中力が僅かでも鈍ったことさえ原因に挙がるだろう。


実際、一瞬で拡散してしまうのだから、そう外れてはいないと思える。

この点も、アスランがノートにペンを走らせながらの思案は、しかし、結論は変わらなかった。


マナの収束から始まって、駆動式へと至る過程は、その何方にも集中力が伴う。


更に駆動式を構築するためには、明確なイメージが必要となる。

つまり、ここでも集中力が欠かせないのだ。


纏めると、全てを意識感覚だけで行う『無詠唱アーツ』とは、必然して集中するための力を多く消耗する事が分かる。

付け足すと、集中力を消耗し過ぎた場合、立っているのも辛いほど、頭が重くなる倦怠感に襲われる。


僕は、実感したことも含めて、それもノートに纏めたんだ。

で、理解った事は、今の僕の実力だと、連続発動は出来なくて当然になった。


でも、その点はさ、素振り稽古を始めた最初の頃の、目標を100回にしていた当時も、そうだったんだよ。

シルビア様から教えられた基礎の素振りは、振り抜く所とは別に、ピタッと止める所もあるんだ。

基礎の素振りも、同じなんだ。

最初は、一振りしただけで、腕の筋肉が痛くなった。

まぁ、それから、木剣に働いた遠心力だね。

遠心力が作用したせいで、僕は腕ごと、身体を引っ張られる感覚もあった事を憶えている。


そこから始まった素振り稽古は、今も毎日欠かしていない。

継続したことが、現在では300回を、軽く超える所まで出来るようになった。

そこへ、走り込んで鍛えられた下半身も、今は良い作用をもたらしている。


実際、今の素振り稽古は、その最後の方になっても、しっかりと地に足がついている感触がある。


走り込みは、以前にエストを心配させた一件の後で、今ではもう日課のように、天気さえ良ければ走るを続けていた。

空き地から王都へ続く道を、最後に長く緩やかな坂を上った先に在る門の手前で折り返す。

何周走るかは、その日その日で違っても、継続したことが、今の下半身を作ったのは間違いない。


浮かび上がった集中力という課題へ。

アスランは課題点を素振り稽古に置き換えて、無詠唱アーツと、その連続発動を、理想とする所へ至らせるためには、やはり、解決の鍵が集中力にある。


集中力は、素振り稽古がそうだったように、鍛錬の継続によって、課題達成にも届く筈。


ノートへ走るペン先は、最後。


『継続は、確かな力になる』


素振り稽古の最初の頃に、これは大好きなシルビア様が、何度も言っていた言葉だ。

今では、より大事だと思えるからこそ。

アスランは意識して、ノートへ太文字で書き記した。


集中力を鍛える方法について、アスランは見つけている。

ファイア・アローが完成する以前、『マナ粒子発光現象』が起こせるようになった頃のノートに、ヒントはあった。


その頃の自分が記したノートには、『マナ粒子発光現象は、少しでも気を緩めてしまうと、直ぐに拡散して消えてしまう』と、書かれていた。


此処で一度、アスランは思い付きを試した。

マナ粒子発光現象を起こした後で、態と気を抜くような欠伸で両腕も伸ばした。

発光現象は、思った通り一瞬で消えてしまった。


アスランは、課題を解決する修行の仕方を得られた。


修行は、『マナ粒子発光現象』を、意識感覚で作り出した後。

維持できる時間を、出来る限り伸ばす。


修行内容としては、事実、単純くらいも思ったが。

発光現象の持続時間が延びる事は、それが、集中力の持続時間が伸びた証明になる。


これとは別に、マナの収束も同じ。

マナを指先へ収束させることも、同じ効果を得られる。


二つの修行方法は、ここで、どうせ鍛錬するなら、マナ粒子発光現象を眺めながらしていたい。

選択理由は勿論。

アスランは、発光しながら立ち昇る粒子を見るのが、アーツの修行では一番大好きだった。


好きという部分で選んだこの修行は、それもアスランへ、また新しい発見をもたらした。


発光しながら立ち昇るマナ粒子を見つめながら、アスランは、意識感覚で、密度を濃くしたり発光の強弱も出来ることに気付いた。

この点は、マナを収束させる時の感覚を強くするのと似ている。

強くすることで、密度は濃くなる。

同じ様に、発光も強くなった。

反対に意識して弱めると、マナ粒子の密度と発光は弱くなる。


アスランは、これらが感覚で出来ることを知り得た。

そして、この修行は、のめり込む様に夢中になっていた。


-----


暦が新しい年を迎えた最初の日。

シャルフィの王都では、新年を祝う行事が行われたらしい。


と言うのもね、僕は、王都の行事には一度も行ったことが無いんだ。

でも、エスト姉からさ、いっぱい人が集まって、とっても賑やかで楽しい祭りのようなイベントだって、くらいを聞いているんだ。


この事をアスランへ教えたことのあるエストは、初等科へ通っていた時から大聖堂で研修を受けていた期間。

その時には、年始に催される祝賀行事へ毎年通っていた。


『そうですね。アスランも初等科に入学すれば、見に行くことが出来ますよ』


僕はさ、王都で行事があるくらいはね。

それは、神父様が買っている新聞で知っているんだ。


まぁ、でも、初等科に入学すれば見に行ける。

教えてくれたエスト姉はね、話している時だけどさ、とっても楽しそうだったんだよ。

あと、見に行くだけじゃなくて、初等科の行事としてイベントに参加する機会もあるらしいんだ。


・・・・・・・ 僕も、早く初等科へ行きたいな ・・・・・・・


王都で、お祭りのような行事が行われた新年最初の日。

賑わう王都からは離れた、けれど、郊外にある教会でも、新年を祝うミサが行われていた。

こちらは勿論、アスランも参加している。

孤児院の他の子供たちと一緒に聖歌を歌った後で、神父様の法話も聞いている。


孤児院で生活する子供たちは、教会の指導によって、聖歌を歌う練習を日頃からしている。

もっとも、此処でも指導役はエストで、そのまま伴奏役も兼ねていた。


エストは教師のような仕事を、今では無期限で課されている。

そして、時間的に兼務が不可能という理由で、修道女としての雑務は、殆ど免除されている。

それでも。

エストは帳簿管理の仕事と、子供たちの歌の指導だけは、自ら率先して行っていた。


帳簿管理の仕事は、これがアスランの、実践的な勉強になるので兼務できる。

歌の練習は、エスト自身、音楽が好きなことにある。

後は子供たちから慕われている事が、一番にあった。


新年を祝う最初のミサだけどね。

僕も含めた子供たちは、この行事の時だけ、実は大聖堂から支給された正装で参加するんだ。

まぁ、白地に金色の十字架模様が刺繍された、ローブみたいな上掛けを羽織るだけなんだけど。

でも、なんか、そういう立派な服を着られるってだけで、特別とか、偉くなった?そんな感じもするんだよ。

それから、この行事の時だけは、王都に在る大聖堂だね。

大聖堂に勤めている聖歌隊の人達が、何人か来てくれるんだ。

で、僕達は、その聖歌隊の人達と一緒に、聖歌を歌うんだよ。


リーベイア大陸における宗教は、アルデリア法皇国にある『教会総本部』が内容を纏めた、複数の神々を等しく信奉する『統一聖教』とされている。


また、教会総本部という組織が出来る以前。

その頃のリーベイア世界では、各地域で古くから伝わる神々を、それぞれに信奉する多数の宗教が存在した歴史もある。

実はこの点についても、『聖剣伝説物語』の中で、統一聖教へ至る経緯が記されているのだ。

それこそ、巻末の方では、騎士王が統治した治世の中で、『教会総本部』の前身組織にも触れている。


後の歴史によって、暗黒時代と呼ばれた時代。

それを終わらせた騎士王の時代を、『黎明期』と区別する今の歴史解釈の中では、暗黒時代に『邪教』と一括りに纏められた宗教組織が存在している。

また、邪教に対して、先頭に立ってこれを掃討した騎士王と、その臣下達へ。


現在の統一聖教の背景には、聖戦に参加した者達へ、加護を与えた全ての神々を等しく敬う。

この意味で『統一宗教組織』が生まれた記録が残っている。


『統一宗教組織』は、騎士王の統治の中で、掃討された邪教の本拠地跡に布教活動の拠点を置くと、そこから後に、『統一聖教』と呼ばれる教えの布教活動を始めている。


実は、こうした部分が、現在のアルデリア法皇国建国の歴史と繋がっているのだ。

故に、アルデリア法皇国には、『教会総本部』の代表職『法皇』とは別に、国家を統治する『国皇』が存在する。


他国とは明らかに異色な点を持つ、そんなアルデリア法皇国だが。

此処にも勿論、騎士王の時代に制定された、政治と宗教を混同させない『政教分離』が、密接に関わった背景が在るのだ。


邪教と示され、聖戦によって討伐された宗教組織は、政治の根深いところまで癒着していた。

否、宗教組織が政治を直接支配して来た、そういう見方も出来る。

暗黒時代を構築した最もな理由は、宗教が政治を支配した結果なのだ。


それだけに。

騎士王の掲げた大義は、故に政教分離を明確に宣言しただけでなく。

苛烈とも言えるくらい、敢然と執行したのだ。


アルデリアでは、国を司る地位に、『王』ではなく『皇』という同じ読みでも異なる字を当てている。

勿論、此処にも理由がある。


法皇:本部を含めた大陸全土に存在する教会、聖堂、大聖堂と、そこに所属する教会職員の全てを統括。

国皇:アルデリア法皇国の最高位であり、その職務は国の統治。


両者には職務に置いて、明確な区切りが在る。

そして、アルデリアの皇都には、『教会総本部』が、大聖堂とは別に存在している。

もっとも、教会地区と呼ばれる所に、教会総本部の建物や施設と大聖堂が在るため、施設によっては、所属の異なる職員が混在して職務に当っている事実も在る。


建国当初、『アルデリア王国』だったそれは、けれど、大陸各地の教会職員や信者からの嘆願によって、『アルデリア法皇国』へと名称が変わった。

一見すると、政教分離の理から逸脱している、という見方もあるこの名称の変更。

ただ、そこには統一宗教の『聖地』という、それこそ、大陸中の信者達の拠り所的な意味合いが背景に在った。


アルデリアは当時、邪教を掃討した直後もあって、特に治安が酷かった。

蔓延する暴行や略奪。

治安の回復が遅れれば、新たな邪教が生まれる懸念さえある。

そうした中、『統一宗教組織』は、現在のアルデリア皇都に本拠地を構えた。

本拠地から今度は、自分達の教えを広める。


数多の難民は、邪教討伐の聖戦が生んでしまった。

生きるためには、奪わなければならない。

それくらい追い詰められた者達を、救済するための活動。

統一宗教組織は、その意味で尽力した歴史がある。


それまでのリーベイア大陸には、多数の宗教が共存して来た。

そして、騎士王の聖戦は、多数の宗教が一つに纏まる道を歩ませた。

上下関係を認めず。

ただ等しく互いを敬う。

邪教の存在が強大過ぎた暗黒時代だった事が、それもあって、『統一宗教組織』を生み出した。


長く続いた聖戦が終結した後。

アルデリアに本拠を置いた統一宗教組織は、『統一宗教』を、終結した此処から大陸全土へ布教する流れを作った。

布教活動の中心を成した信者達の努力が、いつしかアルデリアを、『全ての神々を等しく敬う統一宗教の聖地』として、広く認知させるに至った頃。

大陸中の信者達にとって、アルデリアは特別な場所。

それほど神聖視されるに至った。


名称の変更は、大陸中の信者達からの、望まれた願い。

この願いに、晩年の騎士王は、政治と宗教に明確な境界線を設けた。

その上で、アルデリア王国は以後、名称を法皇国へ改める裁定を下すに至る。


裁定の中で騎士王は、アルデリア国王は以後、『国皇』の名称で、その職務を行うことを命じた。

名称変更の理由は、『王』と『皇』は字体が異なるだけで、職務は全く変わらない。

後は既に、正式名称以外のアルデリアの呼称が複数存在している点。

それらを挙げて、後世のために『アルデリア法皇国』として、一番馴染みやすい名称に纏めた理由は、故に『王』から『皇』へと変えた背景が此処に在る。


こうしてアルデリアは建国後。

最初の数十年の間に、『アルデリア王国』から『アルデリア法皇国』へ。

『アルデリア国王』も、『アルデリア国皇』へ、名称が変わった歴史を持つ特別な国家になった。


また、これも当時の騎士王が下した裁定によって、『統一宗教組織』は、その名称を『統一教会総本部』へ改名すると、そこから統一の文字だけが外された『教会総本部』となって、現在に至っている。


この時の名称改変に当たり、騎士王は『宗教はこれを信奉する人々にとって、その精神に良き意味で拠り所となるものであり、ただし、それを統括する組織は、国家が持つ政治権力に対して。何らの力も得てはならない。故に国家権力と同等か、それ以上と誤認されやすい名称は、これを決して認めない』と、明確に宣言。


当時は騎士王の意思の下、幾つかの改名候補が挙がった。

そこから選ばれた『統一教会総本部』が翌年。

布教する教義の名称を『統一聖教』と定めたのを機に、組織の名称から『統一』を省いて、『教会総本部』へと至った。


アスランが教会の図書室で読んだ歴史関連の書物には、これらの内容が、経緯と合わせて記されている。

そして、スレイン神父は、授業でこの歴史の部分を、何度も教えていた。

だが、初等科に入る前の年頃の子供達が、内容を詳細に把握している。

というのは難しいだろう。

けれど、アスランは、この部分を書物の他。

エストやスレイン神父から直接学んだ。

多くは、分からない事を尋ねた中で学ぶに至ったもの。


ただ、アスラン自身が騎士王へ抱く憧れが、多分に起因していた事は間違いない。

それは本人の口から聞いて知っている、エストとスレイン神父の二人とも。

学びたいアスランに対しては、特に丁寧に教える機会が多かった。


2018.5.21 誤字の修正などを行いました。

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