第47話 ◆・・・ いつかの約束を交わして ・・・◆
前回の説明文臭い話ですが、加筆や修正など。
そうした作業の都合、今回は出て来ません。
ただ、前回の説明文臭い設定諸々については、次話以降で『あぁ、なるほど』的な感じで繋がる様に頑張ってみます。
園遊会の開会。
皇帝の挨拶は、そうだね・・・・機嫌は良さそうだったと思う。
まぁ、無礼講と開会を告げた程度だったけど。
午前中の会談とは比べられない、もあるな。
けど、開会も直後から。
僕は、自分を取り囲んだ女の子達。
彼女たちの熱心な挨拶と言うか、自己紹介と言うか。
ただ、そのせいで。
僕は気になっていたケーキを、初っ端から食べ損ねた。
狙っていた黄色いクリームが盛られたカップケーキは、囲まれた僕を面白くなさそうな顔もすると、フンッて鼻を鳴らしたアリサが。
アリサは、そうして僕の席にあった分のカップケーキまでを。
悪魔の笑みで完食しやがった。
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僕が解放されたのは、完全包囲が三十分は続いた頃だろう。
その間、アリサは僕へ見せつける様な。
そんな目付きと、殊更美味しそうな表情で。
僕が目を付けていたケーキは、そして、テーブルの上から絶滅しました。
僕を解放してくれたのは、意外な事に、皇帝だった。
皇帝から呼ばれた途端、僕を包囲していた女の子達は一斉に離れると、揃って深々と頭を下げていたよ。
うん。
この国では皇帝の存在がね。
神聖不可侵も聞いていたから、こんな光景も当たり前なんだろうな。
でだ。
本来なら呼ばれた僕の方から、皇帝の所へ赴かないといけないんだけどさ。
無礼講を告げた皇帝は、自分から僕の方へと近付いて来たんだ。
そのせいか。
僕を完全包囲していた女の子達は、もう震え上がっていたよ。
別にさぁ。
この人、というかオジサン。
皇帝ってくらいで、全然、怖くなんかないよ。
「エクストラ・テリオン。獅子旗杯での武勇は、それは見事であった。だが、其方もまた令嬢達に囲まれる事には不慣れと見えた。しかし、其方であれば以後も。こうした場面は間々あるであろう。早々に慣れるのだな」
皇帝から声を掛けられる間。
僕も立ったままの姿勢で、けれど、右手を左胸へ。
そうして腰から上を、やや深めに倒したまま聞いていた。
「エクストラ・テリオン。今宵の其方が何故、こうして令嬢達から囲まれておるのか。その理由は分かっておるか」
「皇帝陛下に対しましては。ですが、申し訳ありません。何故このような状況に遭っているのか。理由を測りかねています」
ホント、何故こうなっているのか。
シルビア様からも聞いていないし、何も言われていない。
開会前に此処へ来た時も、今夜の会は、獅子旗杯で優勝した僕をお祝いする意味もある。
だから、節度を持って。
後は大いに楽しんでいい。
言われたのは、それくらいだったね。
なので、僕はケーキでも食べながら。
あとは、タキシード姿のカシューさんとか。
軍服の、それも礼装で来たウォーレン大将とかね。
カシューさんには、改めてお礼を。
ウォーレン大将とは、また手合わせの機会があれば。
そういう話が出来たら、まぁ、それで十分だったんだ。
「エクストラ・テリオン。獅子旗杯で他を寄せ付けぬほど、その名声を轟かせた其方はな。だが、先ずは顔を上げ、其方をこうして囲んだ者達を。よく見るがよい」
僕は言われるまま、姿勢を戻すと、僕の後ろで僕以上に深々と頭を下げている。
そんな女の子達へ振り返った。
皇帝陛下は僕が振り返った所で、女の子達へも『皆、面を上げよ。無礼講なのだ。楽にするが良い』とかね。
だけど、皇帝からそう言われた女の子達は、ようやく姿勢を戻すと、顔を上げたんだ。
「エクストラ・テリオン。まぁ、其方とはやや年の離れた者もおるが。それでも、ここにおる令嬢達はな。余が周囲へ十二歳までと告げた故。そうでも言わねば、もっと集まったであろうな」
はっ?
ナニ・・・それって、この状況は皇帝が仕組んだの?
じっと見つめてくれる女の子達の顔を、一通り見た僕は、そこから皇帝へ視線を戻した。
「余の末娘であるミルフィリーネもだが。此処に集まった令嬢たちはな。其方と縁を持ちたい者達ばかりなのだ。故に、後はエクストラ・テリオン。其方の好きにするが良かろう」
縁を持ちたい?
あぁ、けど別に、友達くらいだったら。
普通に『友達になって』とか、それくらいで良いと思うけど。
そんな僕を、間もなく離れて行った皇帝は、でも何か楽しそうには見えたね。
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僕を囲んでいた女の子達。
言われてみると、僕より年上の子も居たけど。
それでも、一番年上で十二歳・・・ね。
全員がドレス姿で、名前は・・・・あの状況じゃ、憶えるなんてムリ。
だけど、此処にいる以上は貴族かな。
あとはシルビア様とフェリシア様に挟まれた席に座る、平民でもアリサの様な令嬢と呼ばれる子くらいだろう。
皇帝が離れた後。
女の子達は、僕を再び囲もうとして。
けど、先にシルビア様の僕を呼ぶ声がね。
なので、女の子達へは丁重に挨拶をした後。
僕は逃れる様に場を離れた。
そして・・・・・
「アスラン。言い忘れていましたが。今夜の園遊会では、そこでダンスがあります。恐らく、貴方だけは最初から最後まで。舞台から離れられないでしょう。今の内に、しっかり食べておいてくださいね」
少しの後。
その間、シルビア様の言葉を理解しようと、胸内で反芻した僕は、即座、席を立つと脚は真っ直ぐ。
僕はシュターデンさんの所へ行くと、用意されたケーキを一ずつ全種類。
間もなく、僕は頼んだシュターデンさんからの指示で。
こうして自分の目の前に置かれたケーキをね。
ダンスの後はきっと疲弊しきっている筈だ。
だから、余力のある内に。
ケーキだけは、しっかり堪能しておこう。
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何個目だったかな。
ケーキばかりを食べていた僕は、またじっと見ている。
そんなアリサの視線へは、だけど、今はケーキだ。
「ねぇ、アスラン。あんたって、ホント。ケーキ大好きよね」
「アルデリアで食べたチーズが濃いケーキも美味しかったけどね。帝国のケーキは食べた感じが軽い割に、味にも深みがある。果肉や果汁を、リキュールやシロップで煮詰めたソースも。このソースはヨーグルトでも美味しいかもな」
「それくらいの感想を、なのに。ねぇ、私には何か無いわけ」
「じゃあ、そうだね・・・・」
食べる手を止めた僕は、そこで未だ僕をじっと・・・睨んでる?
「今のアリサは、ドレスが人を作っている」
僕の言葉は、アリサが『ナニ?』って顔だった。
けど、シルビア様とフェリシア様。
それからカズマさんや神父様に、ハルムート宰相もね。
揃って理解ってくれたのか。
けど、神父様から「アスラン。言葉を少し足した方が。今は良いでしょうね」って。
それでハルムート宰相とカズマさんが、同感だって頷いたよ。
「ドレスが相応しい玉となれるか。まぁ、頑張って磨くんだな」
アリサは更に『ナニ?』って難しい顔になっていた。
意図が全く伝わっていない様だ。
別に、分からなくても良いけどね。
シルビア様は可笑しかったのか。
こういう場なので、堪えた様に笑っていたよ。
で、フェリシア様はね。
なんか、僕を見つめながら。
少し、呆れている。
そんな感もあったけど。
後はシルビア様と同じ様に笑っていた。
そうして、また神父様がね。
やれやれと、溜息と言うかさ。
「なるほど。日頃から努力を惜しまないアスランは、アリサさんと良き友達になったようですね。だから玉に例えて。アリサさんにも素晴らしい女性になれる様にと。それで磨いて欲しいと表現した。アリサさんとは末永く親しい関係でいたい。そう願うアスランなりの好意でしょうね」
はぁっ?
僕はアリサへ、馬子にも衣裳って言えば、ほぼ確実に暴力を振るわれると思ったんだ。
だから、故意に濁した。
ところが、神父様が予想外の表現で、僕までが意表を突かれたよ。
結果。
何を誤解したのか分からないし、理解りたくも無いけど。
アリサは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
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ダンスが始まった後は、終わるまで帰って来れない理由。
それをシルビア様と、フェリシア様が教えてくれた後。
僕の心境は、納得が1割と、残り全部がウンザリです。
「つまり、皇帝陛下が僕に言った縁の意味とは。今の内に許婚の関係を作って置きたい。もしくは、そのための繋がりを作りたいと。はぁ~~・・・僕、七歳になったばかりの子供ですよ」
ホント、ウンザリだ。
で、僕の本心は、フェリシア様が小さく何度も頷いてくれた。
「ですが、アスラン。貴方はそれだけ実績と実力とを伴った有名人でもあります。そこは自覚しないといけませんよ」
「フェリシア様。僕は他国の貴族の慣習については疎いのですが。実際、僕の様な子供にですら。こういった事はよくあるのでしょうか」
「そうですね。貴族の家同士で。生まれて間もない内からの許婚という話も。稀ではありますが、全く無い話でもありません。ですが、アスランくらいの歳であれば。その頃からの許婚なら、此方はよく聞く話でもあります」
「僕、生まれは貴族じゃ無いんですが」
「貴方は、実力も在れば。実績さえも打ち立てました。獅子旗杯を七歳で優勝するなど。過去の記録を紐解いた所で。前例は在りません。目を付けられて当然でしょう」
「はぁ・・・・ろくに知りもしない女の子と。それも今日初めて会った様な子との結婚なんて。はぁ~~~」
「ですが、そう言えば。アスランはその事で。皇帝陛下から末娘がどうとか。そうも言われていたのですよね」
あっ!?
そう言えば、そんな事も・・・・言われていたような気がする。
「シルビアさん。アスランは今からもう大変そうですね」
「フェリシア様。ですが、選ぶのはアスランですよ」
「シルビアさんはそうでも。此処に居るハルムート宰相とカズマ殿の二人は。帰国後の報告が大変そうですね」
「「はははは・・・・」」
「ですが、先ずはアスラン。今夜のダンスは、その意味でも。最初のパートナーには神経を使った方が良いと思いますよ」
フェリシア様が含ませた部分。
まぁ、そこはね。
アルデリアで、ラフォリア皇女から申し込まれた件とも。
・・・・・間違いなく重なる部分ですよねぇ・・・・・
今回は僕がラフォリア皇女の立場で。
だから、政治的な部分とかも全部含めてだ。
ダンスで誰を、最初のパートナーにするのか。
最重要なのは此処。
ぶっちゃけ、二番目以降はどうとでもなる。
逆に言えば、それだけ一番目の相手が最も重要視されるんだけど。
「フェリシア様。今さらですけど」
「何を尋ねたいのかは分かります。ですが、踊らないで済ませる。これは不可避です。付け足すと、悪戯に逃げる様な無礼を働けば。シルビアさんも大迷惑ですし。それこそ、シャルフィの今後の外交にさえ。良くない汚点が付き纏います」
僕が懸念した部分。
そこは、まぁ・・・フェリシア様の説明で、とどめを刺された感もある。
・・・・・だけど。そうなると、無難な相手が必要なんだよなぁ・・・・・
「アスラン。貴方はとても幸運ですよ。私やシルビアさんが此処へ来た初日からずっと。そう、ずっと居たでは在りませんか。獅子旗杯では貴方を応援もすれば。傍にも居たでしょう」
「・・・・そうですね」
えぇ、僕だってもう分かっていますよ。
この状況で無難に逃れるための鍵くらい。
僕はパンプキン・プリンセスをダンスに誘う事で。
少なくともこの場を凌げる。
こうなると、アリサが貴族じゃない事には、感謝もしないといけない・・・・んだろうね。
「ですからアスラン。貴方はその意味でも。得難いお友達を大事にするのですよ。無下にしたり、邪険にしてはいけませんからね」
フェリシア様は、とっても優しい口調で。
そうして、僕は暗に叱られました。
でだ。
シルビア様が、そんなフェリシア様へ対しては、何故か苦笑いだったね。
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今夜の園遊会は設けられたテーブル等の配置が、最初から中央でダンスが行われることを想定したものだった。
会が始まってから一時間。
少し前から楽団が準備を始めると、それから直ぐに序曲・・・シンフォニアが流れ出した。
付け足すとね。
一番手は、獅子旗杯を優勝した僕と、僕の申し込みを受けてくれた女性になる。
念のため、シュターデンさんにも確認したけど。
そこは間違いなかった。
こうして、複雑な心境を抱える僕と。
そんな事も分からないまま。
けれど、『アンタは私の騎士なのよ』とね。
僕が他に無難な選択肢を持てず。
故に、申し込んだ相手は、当然だと鼻も鳴らしたよ。
僕と、僕の片腕に手を添えたアリサの二人が、周囲の視線に晒されながら中央へ。
そこまで流れたシンフォニアは間もなく、一曲目が奏でられ始めた。
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簡潔に述べます。
ダンスパートナーの申し込みを、当然だと受けもしたアリサですが。
はははは・・・・
彼女はステップを一つしか知りませんでした。
短い一曲目は無難に踊れたのですが。
二曲目は、一曲目よりも曲調に強弱があったせいか。
仕方ない。
こういう時のリードの仕方を、それも習っている僕は、ステップを完全なオリジナルへと。
えぇ、それこそ。
もう、アドリブのオリジナルのフリーダムですよ。
まぁ、ユミナさんの剣技を真似たくらいなので。
この程度は、今に至って得意な分野の一つですね。
曲調にだけ乗せながら。
僕はそこで、アリサの腰をグイっと抱き寄せながら。
しばらくは僕がアリサをぐいぐい引っ張った。
そうして、曲調の変わり目。
此処で僕はアリサの身体を離すと、同時に空の属性を駆動させた。
僕とアリサの身体は、二人を囲んで地面から立ち上った金色のマナ粒子の中で。
驚く外野の喚声は、敢て気にもせず。
僕はアリサの両足をフワッと浮かせながら。
突然の事に、此方も驚きを隠さないアリサをね。
アリサの片手を放さない僕が、自分を軸にして反時計回りにクルっと一回転。
あれだね。
僕はアリサを一回、振り回したんだ。
そこからはもう、オーランドでエレンとやった事が一番近いかな。
芝生の上を、それこそもう滑る様な動きには、足跡代わりに残った金色の軌跡。
一曲目より長かった二曲目は、けれど、終わった直後の喝采な拍手へ。
無事に挨拶まで辿り着いた僕の方は、内心でホッと一安心。
だって、僕がやらなかったら。
あの曲に合わせられるステップを知らないアリサが、それでどんな恥を晒すのか。
ふとアリサの方を見たら。
なんかね。
夢でも見ている様な感じ。
ぼうっとしながら、けど、まぁまぁ笑顔だったと思う。
敢て、変と付けないのは、僕なりの配慮だぞ。
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シルビア様の言った通りだった。
アリサと二人、一旦場を離れた所で。
そこからは次々と他の人達もダンスの舞台へと。
僕は一瞬、このまま後は見物でも。
はい、無理でした。
未だ夢から帰って来ないアリサだけは、シルビア様とフェリシア様の間の席へ落ち着いたけど。
僕は逆に、集まった一人一人とだ。
それを、十人くらいと踊った所で。
踊る前にもう一度、そこで挨拶もしたからか。
印象に残った女の子は三人。
僕よりも二つだったかな。
年上の二人は、話し方も接し方も丁寧で上品も感じたのが、キリカ・ランドール。
もう一人は、言葉遣いからして男の子っぽい。
けど、そのせいで変に緊張もしなくて済んだ。
名前はリーリン・マーセナス。
それから、三人目。
彼女は、誕生日こそ未だだけど。
それでも、僕と同い年なその子は、アイナ・シベリウス・アルハザード。
『其方と私の兄弟子であるラルフ殿の試合は。それと、ユフィーリア皇女を相手にしたアレもだ。だが、私はな。ウォーレン様との真っ向勝負。あれで殊更に胸が熱くなった。私も、あのような試合がして見たいとな。実際に試合をした其方からは。故に、感想の一つも聞きたかったのだ』
ちょうど、ゆったりな曲だった事もある。
僕はアイナと踊りながら。
ウォーレン大将と、真っ向勝負をした時の印象を。
真っ直ぐで堂々としていた。
剣技以上に、人としての姿勢へ尊敬出来る・・・とか。
何というか。
会話が合うのかな。
話していて、とても楽しかった。
アイナもね。
僕から見た感じで、真っ直ぐな性格なんだなって。
『私はな。未だ子供でもある。それ故、許婚などとの思惑も無い。そんな事よりも。先ずは私も、自分の剣を磨きたい。そうして将来は貴公の様な男子と。剣を交えながら切磋琢磨出来れば。恐らく、私はそういう付き合いの中で。私の伴侶と出会える。そうであったなら、私としては重畳だろう』
同じ同い年でも。
アイナは、アリサよりもずっと、精神面が大人に感じたよ。
と言うか、素直に格好良いも思えたね。
踊った後で、僕とアイナは『いつか剣の試合をしよう』と、そういう約束も。
自然と交わしていたよ。
まぁ、歩きながらね。
そんな約束も交わした所で。
先に踊ったリーリンからも、『その約束。私ともして欲しい』って。
なので、僕は将来。
アイナとリーリンの二人とは、互いに真っ向勝負で。
そういう剣の試合をしよう。
不思議な事に、僕は二人の事がね。
それと、リーリンの幼馴染のキリカさんもか。
三人に対しては、好意的な意味で、記憶に残ったよ。
他の女の子たちは、残念ながら。
はっきり言って僕の精神疲労を、増やすだけの存在でしかなかった。
十何人目かと踊り終えた後。
僕は、小休止とばかりに一度、席を外した。
直後。
ティアリスが作った異世界で。
一番安心できるティアリスの膝枕で。
僕の意識は完全に落ちました。
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ダンスは未だ未だ続きそうですが。
一先ず復活した後、こっち側に戻った僕は、そこでカシューさんに捕まりました。
否、けど助かったね。
カシューさんはラルフさんを連れて、そこにはイサドラも来ると、なんかホッとしたよ。
「よぉ、有名人。獅子旗杯も優勝して、ドラゴン退治もだろ。園遊会が始まった途端から選り取り見取りなモテモテ状態じゃねぇか」
「そうやって、僕の苦労を高みで見物していたと」
「でだ。誰と誰に手を付けるのか。そこはもう決めてあるんだろ」
このオッサンは、アリサの事では改めての感謝も伝えようと思っていたのに。
「カシューさんがタキシード姿だなんて。馬子にも衣裳ですね」
「フンッ、俺様から滲み出る貫禄の前にはな。タキシードなんざ霞んでしまうんだよ」
そういう返しかよ。
「そう言えば。獅子旗杯では僕の優勝に賭けていましたよね。儲けの半分は僕のものですよね♪ 」
「なわけ、ねぇだろうが。だいたい、お前こそな。ガキのくせに一生遊んで暮らせる賞金を手にしただろうが」
あぁ、まぁね。
優勝賞金の十億バリスは、けど、それもヒルメラークさんからIBS(シレジア国際銀行)の通帳を受け取った時にね。
金額を纏めて送金しておいたって。
どうせ通貨なんか持って帰れないし。
否、別に持って帰っても良いんだけどさ。
シャルフィじゃ両替しないと使えないんだよ。
他にも、大金過ぎて、現実味が全然なんだよね。
「そうですねぇ。十兆飛んで十億バリスの通帳が出来ましたよ。機甲師団の一つくらいは作れるんじゃないですか」
後半は完全な冗談だったけど。
「そうだな。私の第八機甲師団。その全兵装を金額に置き換えれば。それでもニ千五百億バリスと言った所であろうな」
背後からの突然の声は、その前から近付く気配で分かっていたけど。
僕は、もう一度会いたかったウォーレン大将の方へ振り返ると、自然と頭も下げることが出来た。
「ウォーレン大将とは是非、もう一度会いたいと思っていました。ですから、お会い出来て嬉しく思います」
「エクストラ・テリオン殿。そう言葉を作らずとも良い。だが、私も貴公とは会いたいと思っていた」
ユミナさんと、コルナにコルキナからは叱られたけど。
でも、やっぱりこの人とは・・・・・・・
「ウォーレン大将。何年先になるかは分かりません。もしかすると十年は先かも知れませんが」
僕がその先を声にする前に。
ウォーレン大将は、もう分かっている様な顔で、穏やかに笑っていた。
「そうだな、その時までには。私も成長した貴公と張り合えるように。己とこの剣を鍛えておこう」
僕は、その時には。
純粋に剣技だけでの真っ向勝負を、最後までやりたい。
ウォーレン大将から差し伸べられた手を握りながら。
それだけを強く思いました。
園遊会は、その最後。
僕は、カシューさんにも、やっぱり改めて。
アリサの事では、ちゃんと頭も下げました。
助けて貰ったことは事実だし、騎士として礼を欠く訳にはいかない・・・もある。
けどさ。
そんな建前とかじゃないんだよ。
助けて貰った事への感謝。
それを、言葉でも伝えられる人間で在りたい。
ただ、それだけなのさ。
神父様やエスト姉。
シルビア様やハンスさん。
マリューさんやバーダントさん。
僕は、見習える人達のおかげで、それも在るから今の僕なんだ。
もっとも。
そんな僕の感謝へ。
「そうだな。今度会った時には、女でも紹介してくれれば良いさ。お前の所には何となくだが。良い女が群がるんじゃねぇかとな。そんな訳で。まぁ、これからもよろしくしてやるよ」
僕は内心で、前言撤回を宣言しました。
さぁ、明日は帰国だ。