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第44話 ◆・・・ 獅子旗杯 閉幕 ~ 皇帝宣言 ~ ・・・◆


結局だけどさ。

死体を生贄にした召喚の儀式。

あれで召喚された真っ黒なドラゴンは、取り逃がした。


最初の一撃は、手応えもあったよ。

けど、それだけだね。


しかも、一回使っただけで。

僕は結構な疲労・・・・と言うか、体内マナを一気に放出した際に起きる反動がだ。


ドンっと使うと、反動もドンっと返って来る。

特に合わせ技を使う時には、これが半端じゃなく大きいんだ。


まぁ、神様の力を使うという事がね。

事実、あれだけの威力なんだし。


そう考えれば。

ここ一番という時でもない限りは、使えない力でもあるんだよ。


で、余力が無い訳じゃないけど。

今はこの反動のせいで、身体が酷く重い感覚・・・かな。


「手負いのまま逃げられたか」

「(・・・マイロード。身体の方は大丈夫ですか。酷く疲れている様に感じますが・・・)」


此処は雲の遥か上で、今はもう何処までも果ての無い。

澄み切った青い世界だけが広がっている。


「一撃にね。僕の今の限界まで注いだからさ。それよりも、ティアリスの方は大丈夫。どこか怪我とか」


言いながら、ハッとしたよ。

エクス・セイバーは、たとえ失敗しても。

僕には身体的な負傷が無い。


だけど、ティアリスの方は違うんだ。

稽古中には、そこでは、いっぱい怪我もさせてしまったんだから。


「(・・・マイロード。心配ありません。私も大丈夫です・・・)」

「だけどさ。そう言って、怪我しているのを。何度も隠していただろ」


そう。

僕のティアリスはね。

どう見ても酷い負傷くらいな状態でだ。

平然と、大丈夫って言うんだよ。


だから、僕は今も右手に握っているティルフィング。

それを直ぐにティアリスの方へ。


呼んだ瞬間。

ユイリンに跨る僕の背中へ、安心できる柔らかな感触が重なって来た。


「マイロード。どうですか。私は何処も負傷していませんよ」


後ろへ振り返って、そこから見える範囲で。

映ったティアリスには、確かに怪我は無さそうだった。


「うん・・・良かった。あんな状況だったからね。どうしても力が入った。なのに今頃になって思い出すなんてさ。はぁ~・・・・ホント、ティアリスが無事で。良かった」


なんか、力が抜けたって感じだね。

つい、ティアリスを背もたれにしてしまった僕へ。


けれど、そんな僕を。

ティアリスの両腕が包み込むようにして。


「私はマイロードから。とても大事に思って頂ける。フフ・・・これも寵愛と言えそうですね」

「平等にって。それも勿論、意識しているよ。だけど、やっぱりティアリスだけは違うんだ。一番最初に盟約を結んだからもあるし」

「マイロード。私はマイロードの一番なのです。そのくらいの特別は。寧ろ、私だけの特別な権利・・・・かと思いますが」

「じゃあ、そういう事で・・・悪い。少しの間で良いから、このまま」

「どうぞ。安心して休んでください」


優しくて、安心できる声を耳にしながら。

僕の意識はね。

ティアリスから抱かれる様にして身を預けたまま。

急に眠くなったというか。


(まぶた)を閉じた途端、スッと落ちた。




だから。

ティアリスの声とは裏腹。

険しいを通り越した瞳が、不気味な模様が在った所を。

とても怖い表情で見つめていたなんて。


僕は全然、気付けていなかったんだ。


-----


リーベイア大陸では、幾つかある大山脈と呼ばれる所の奥地。

そこには、人知れず竜やドラゴンと呼ばれる存在が、(いにしえ)の時代から生きていると伝えられて来た。


魔導革命が起きるより数年前。

当時の写真技術は、そこで恐らくはドラゴンであろう。

そう思わせる写真が、数枚だが撮られている。


一方、教会総本部が管理している古い文献にも。

千年以上も昔の調査報告書だが、そこには、ドラゴンに関した以下の記述が残っている。


体長は小さいもので数メートル。

だが、大きいものとなると、百メートルを超える。


空を飛ぶ種も在れば。

地上しか歩けない種も在る。


性格の温厚な個体も在れば。

反対に獰猛な個体も存在する。


鍛えた鋼の硬さですら、遠く及ばない皮膚や鱗を持ち。

爪と牙は、鍛えた鋼でさえも容易く砕かれる。


人間の言葉を解する知能を持ち。

或いは、人間を遥かに超えた知能すら有しているかも知れない。


竜、またはドラゴンと呼べる種族は、強靭な肉体と、永遠とも呼べる時間を生きる程の強大な生命力を宿している。


ドラゴンの口から吐かれる炎や吹雪は、脅威の一言に尽きる。

大きな街だけでなく。

小国の幾つかを、一晩で滅ぼしたのだ。


だが、ドラゴンは自らの棲み処に近付かない限り。

人の世界へは干渉もしなければ。

先ず、現れる事もしない。


何故なら。

ドラゴンとは、人間の想像などでは及びもしない財宝を守る、唯一の守護獣だからである。


-----


アスランが真っ黒なドラゴンを、追いかけて行った後。


コロッセオは、そこでペガサスに跨ったシャルフィの騎士団長が空高くへ。

羽ばたいた翼が、やがて細く長い雲さえ引く頃になると、混乱の最中で見届けた者達から。


彼等が最初に沸かした驚きの喚声は、そこで生じた波及が、僅かな時間でコロッセオ全体の空気さえも引っ繰り返してしまった。


-----


まさか・・・ねぇ。

下で、そんな沸き立つ空気が出来ていたなんてさ。


目が覚めて、それからユミナさんの連絡があって。

だから、コロッセオへ帰る途中。


ミーミルが僕の旗を掲げているからとか・・・なんとか。

報せてくれたレーヴァテインもね。

あの口調だと、幻ミーミルといつもの様に・・・・じゃれ合っているんだろうな。


僕なんか。

手負いで逃げられたドラゴンの行方。

寧ろ、こっちの方が心配なんだけど。


ホント、危機感が麻痺しているのかなぁ・・・・・・


-----


どれくらい眠っていたのかは分からない。

だって、僕が眠った後で。

ティアリスが異世界を構築したからね。


まぁ、ユイリンに跨って、そこから空中での騎馬戦・・・・で、良いのかな?

相手はミーミルが作った幻の飛竜とかね。

体長二メートルくらいの奴だけど。


だから、ユイリンも異世界は馴染んでいる。

で、その時に分かった事がもう一つ。


異世界の空も、何処までも果てが無かった。

神様、マジ凄い。


普段のユイリンは、姿を消して此方の世界の空に居ることが半分。

後は、自分の世界で過ごしている。

と、そのくらいは聞いている。


ただ、ユイリンは、人前に気安く出る事をしない。

僕のことは認めているけど。

他の人間は下等生物(● ● ● ●)だから、見世物になんか絶対なりたくない。


この辺りはね。

天馬(ペガサス)としての沽券に関わるらしい。


そのせいで、ユイリンの事は、シャルフィでも殆ど知られていないんだ。

シルビア様にカーラさん。

マリューさんとハンスさんに、イザークさんとバーダントさんは知っている。


エルトシャンとカールにも、二人が幼年騎士になった後で。

僕は他の人には秘密だって、そうして紹介したんだ。


ユイリンは、僕が仕えるシルビア様だけは、悪く言ったりしない。

だけど、他はねぇ・・・・・


近付き過ぎたり、触ろうとでもしようものなら。

あぁ、此処はシルビア様も同じだった。

怒るとホント、怖いんだから。


まぁ、こんな感じのユイリンですが。

エレンとティアリスは、僕が一緒に限って乗せても良いそうだ。


人の姿をしたレーヴァテインと、幻ミーミルは駄目で、剣と腕輪なら、仕方ないから乗せてやる。

二人が駄目な理由は、肉欲旺盛と腹黒は嫌いだって。


でだ、その時にね。

プッと笑ったユミナさんとリザイア様へも。


ユイリンは、『ゲスな同類』って、バッサリ言い切ったよ。

二人がこの後どうなったのか。

それもまぁ・・・・似た者同士だったね。


そうそう。

僕がシルビア様から旗を貰った後でだけどさ。


ユイリンの馬装束もね。

まぁ、装束と言っても、首の付け根辺りから紋付の少し幅のある長い布を、一枚掛けているだけなんだけど。


紋は僕の旗と同じで、カミツレに双剣。


最初は騎士王の旗と同じ、青地の馬装束だけでした。

でも、僕が白地の旗を貰った後からは、白地の馬装束になりましたね。


因みに、この馬装束ですが。

馬具と同じで、ユイリンの権能が作り出しています。


なので、洗濯要らずの手入れ要らずなのです。


代わりに注文の多いブラッシングや肌のマッサージなんかは、僕がしています。


それでも。

普通の馬なら手入れの手順と内容は、もっと細かくて多いんだ。


そういう意味では、ユイリンはね。

とても楽な方だと思うよ。


なんかユイリンの紹介になっていたのですが。


じゃあ、最後にもう一つ。



僕は天馬(ユイリン)に乗るのが大好きです。


-----


目が覚めた後で直ぐ、ユミナさんから報せが届いた。

空に上がった僕が、未だ帰って来ない。

真っ黒なドラゴンは、どうなったのか。


ユミナさんの声は最後。

シルビア様が僕の事を、凄く心配している。


僕は、真っ黒なドラゴンには逃げられた。

けど、何処も負傷していないから大丈夫。


ただ、ティアリスから先に聞いていないんですか?

そこだけ、僕はユミナさんの悪戯心を疑ったね。


これから帰ります。

ユミナさんへ、そう伝えた後。


僕を乗せたユイリンは、コロッセオの方へ下り始めた。

背中に感じていたティアリスは、ユイリンが高度を下げる中で、剣に戻ると腰に収まった。


雲を抜けて、帝都を眼下に映しながら。

やっぱり大きい都市だなぁ・・・って。


二百万人以上が暮らすシャルフィの王都でさえ。

僕はとっても大きいって思っていた。


だけど。

三千万人を超える人達が暮らす帝都セントヘイムは、シャルフィの王都なんか比べられない。

桁違いな大きさの都市だと。

そこは素直に思ったよ。


だんだん、コロッセオが近付いて来た。

僕を乗せるユイリンは、翼を広げたまま、ゆったりと風に乗っている様な。

スピードも余り出していないし。


そうだね。

騎馬を軽く、ちょっとだけ早く歩かせている。

でも、馬にとっては散歩くらいの感覚だよ。


そのくらいの早さで、のんびりって訳でもないけど。

ステージの上空へ戻って来た時には、下からの大歓声がね。


ナニ、この盛り上がり?

こっちに向かって手を振っている?


なんか、急に恥ずかしくなって来たよ。


旗を掲げるミーミルの傍で、僕に向かって手を振っているレーヴァテイン。

二人の近くには、シルビア様やフェリシア様が。

神父様もハルムート宰相も、カズマさんの姿もあった。


さらに、皇帝陛下と獅子皇女。

オマケと言うか、カシューさんにイサドラと、アリサと手を繋いでいるミリィ皇女まで。


「ナニ・・・全員でお出迎えなの」


ユイリンがステージの上空を、大きくゆったりと旋回するように飛ぶなか。

僕の視線は、そうして、出迎えなのだろうと思うけど。


「流石に、この状況で下りるって。恥ず・・・・かしいなぁ」

「(・・・マイロード。そう言わずに堂々と下りましょう。マイロードは、称賛されるだけの事を成したのですから・・・)」

「(・・・主様。下等生物達へは勿体無い。私の美しい姿を見せているのです。乗り手である主様には、もっと背筋も伸ばして頂きたいと存じますが・・・)」


ティアリスとユイリンは、何方も嬉しいとか誇らしい感の声で。

反対に、気恥ずかしいのを注意された僕なんか。

そこから意識して胸を張ると、背筋は自然と伸びた。


間もなく。

僕を乗せたユイリンは、ステージ上へ。

ただし、シルビア様達からは離れた所に。


だって、ユイリンは僕以外の人間がね。

ホント、好きじゃないんだしさ。


僕を下ろした後。

ユイリンは再び駆け出すと、景色に溶け込むような感じで透明に。

そのまま消え去った。


途端に、コロッセオの観客席から。

空気が震える程の大歓声が沸き起こった。



こんな経験、初めてだ。

訳も分からず、ゾッとしたよ。


-----


その後からはもう・・・・精神的に疲れるだけの宴?だった。


色々あったけど。

閉会式・・・と言うか式典。


二十万人以上が注目するステージ上で。


だけど僕は、ずっと、晒し者になっていた感だった。


皇帝からは直接、優勝の証である獅子心皇帝の御旗を頂きました。

御旗は、ただ、よく見ると、旗の端の方。

そこには、『神聖暦 2087 アスラン・エクストラ・テリオン』って、金文字の刺繍がされていた。


そうそう。

旗棒も、買えばかなり高そうな高級品だった。

トップの大きい金具飾りなんて、メッキじゃない純金の獅子だったんだぞ。


おかげで、授与された途端。

予想外の重さに一瞬、落とす所だった。


姿を消すと傍に居たティアリスには、ホント、助けて貰ってばかりだね。

 

皇帝からニ十分は聞かされた御褒めの言葉を要約すると、以下の通り。


史上類を見ない最年少の優勝者。

騎士王の再来を思わせた小さな騎士。

世界で唯一人だけの天馬ペガサスに乗る騎士にして、突如、現れたドラゴン退治の英雄・・・・etc



ホント、好き勝手に言ってくれるねぇ



だけど。

皇帝は式典の最後。

そこで、はっきりと宣言した。


それはステージの上からで、同時にコロッセオに集まっていた大勢の人達が耳にしたと思う。


『余は、エクストラ・テリオンと交わした約束。即ち、獅子旗杯を制したならば。その時には叶えようと。よって、ヘイムダル帝国の皇帝である余は。此処に宣言する。ルテニアとの戦争、此れを直ちに停止すると。後は条約機構を仲立ちに。だが、余が皇帝である内は。ルテニアへの侵攻は行わないであろう』



エルトシャンの故郷は、やっと、戦争から解放された。


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