第43話 ◆・・・ 突然の脅威は、そして ・・・◆
たぶん、前回の投稿の後だったと思います。
ブックマーク、評価を付けてくださった方様へ。
この場を借りて、ありがとうございます。本当、嬉しくなれました。
これを励みに、少しでも上手く伝わる様に頑張って行きます。
巨大で真っ黒なドラゴンの、四つの口が一斉に上げた咆哮。
ゾッとさせられる咆哮は、蹲るか、近くに居る誰かへ。
思わず、しがみ付いてしまう程に震撼させられた。
獅子旗杯の優勝者を一目見よう。
そんな思いを抱いて集った二十万人以上は、しかし、この肌に触れてくるような咆哮へ、それこそ一瞬で平常心を奪われた。
だけでなく。
観客達の殆どが恐怖に慌てふためくと、更には生存本能が引き起こした酷い錯乱が。
そうして、彼等の一部は、自らが生き延びるために。
他者への無差別は、暴言を伴う暴力にさえ至ったのだ。
その様な者達までが、瞬く間に溢れ出した最中。
それは一般客達の席だけでなく。
コロッセオに設けられた貴族だけが利用できる席でも、状況は既に似たり寄ったりだった。
今はこの場から、逸早く何処でもいい安全な所を求めて。
そこで我先を争う貴族たちが走り出すなか。
獅子旗杯の決勝リーグは、初日から今日まで観戦していた二人の女の子も。
決勝戦が終わった直後から起きた一連は、突如、空へ現れた巨大な四つ首のドラゴンを映して。
最初の咆哮だけで、揃って悲鳴も上げてしまうと、そのまま互いに抱き合う様にして震え上がった。
同い年で親しい間柄の二人は、家同士の付き合いもある。
通う初等科は違っても。
二人は夏休みを利用して、今年も一緒に獅子旗杯を見に来ていた。
「リーリンちゃん・・・・あれ」
反射的に抱き合っていたリーリンは、背中にまで掛かる長い栗色の髪と、色白だから際立つ赤い瞳の幼馴染の声で、それまで閉じていた目を開いた。
「・・・キリカ、ちゃん? 」
やや身体を離す様にして上体を起こしたリーリンの瞳は、振舞い方も服装も、男勝りな自分とは全くの正反対。
そんなキリカの、何かを見つめているような横顔を、今は未だ漠然と映していた。
「リーリンちゃん。あそこだけ。風が・・・とってもキラキラしているの。金色の風なんて、私・・・・初めて見た」
同じ貴族の生まれでも。
上品な育ちも感じるキリカと違って。
リーリンの方は七歳になった折、そこからはセルナーク流の剣術を習い始めた事もある。
さらさらと透き通った感もある茶色の髪は、伸ばすと剣術修行の邪魔になる。
だから今も、首を隠さない程度の長さにしかしていない。
あとは優しい感のあるキリカの瞳に比べて、ちょっと鋭いも思う青い瞳も。
父からは、気が強いのだからと。
寧ろ、それくらいが良いとも言われた。
ただ、今年もまた仲の良いキリカを誘うと、獅子旗杯を観戦していたリーリンも。
そこでようやく視線が、キリカが向けている方向へ。
「えっ・・・ホントだ。でも、金色のキラキラした風なんて。私も、初めて見た」
「ねぇ、リーリンちゃん。あのキラキラの風だけど。ほら、あそこにいる。優勝したシャルフィ王国の騎士団長のところ」
「確か、エクストラ・テリオンだったな。それでこのキラキラ光る風は、あいつの所へ・・・まるで集まっている様に見える」
「だよね。私もね・・・それは思ったの。でも、何をする気なのかしら」
周りでは空に現れた真っ黒なドラゴンのせいで、悲鳴や怒鳴るような声も響いている。
リーリンとキリカの二人も。
ほんの少し前までは、震え上がると途端に心細くなって。
反射的に抱き合っていたのだ。
だが。
二人が見つめていたそれは、再びドラゴンの咆哮が轟いた直後。
『エクス・セイバァァァアアア!!!!!!』
その男の子の叫ぶような声は、此処から決して近くはないのに。
はっきりと伝わった、『絶対に負けられない』な感覚。
リーリンとキリカの二人とも。
視線は、前に踏み込んで振り下ろした剣から放たれた。
剣から伸びた光が、空へ向かって一直線に走ると、そこに居た真っ黒なドラゴンへ突き刺さったのを見つめながら。
「・・・綺麗」と、見惚れた様な視線を向けるキリカの隣で。
リーリンの方は、憧れさえ抱く騎士王の必殺技を現実に映したような錯覚が、胸をいっぱいにした興奮さえ。
そんな二人が見つめる先で、まるで黄金色の焔に包まれると、悲鳴のような絶叫も繰り返しながら。
全身を光る焔で燃やされたドラゴンが、更に高い空へ向かって大きな翼を羽ばたかせると、ぐるりと背中を向けて飛んで行くのを。
今度は、その男の子が跨るペガサスが、追う様に空高くへ。
純白の翼を力強く羽ばたかせながら、一気に駆け上がって行った。
何か呆然と見送った様な二人だったが。
少しの後で、今度は揃って叫ぶような驚きの声を上げていた。
何故なら。
物語や絵本にしか出て来ない空想の天馬が、現に存在していたのだから。
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一撃必殺が出来るとまでは・・・・まぁ、思っていなかったよ。
だけど、手を抜いて勝てるとも。
それも思わなかったよ。
出来る全力で放った、この一撃。
僕とティルフィングのエクス・セイバーは、真っ黒なドラゴンに突き刺さった後で。
僕にしか聞こえないティアリスの声が。
いつもの余裕さえ感じられる声がだ。
はっきり勝てると、言ったよ。
そうそう、このエクス・セイバーはね。
まぁ、これも僕の思い付きから始まって。
今でこそ、こんな風にも出来る様になったんだ。
確かに思い付きには違いない・・・と言うか。
そうだね。
僕が大好きな聖剣伝説物語にはさ。
作者の想像とか願望とかで作られた騎士王が、空一面を覆った闇をね。
そうして光を失った真っ暗闇の世界で。
騎士王は仲間達も絶望を抱いた中で一人だけ。
絶対に諦めない意思を光に変えると、カリバーンに纏わせて。
真っ暗な世界の中で、そこだけが眩しい程の輝きを灯すと、奇跡の代名詞を叫んだんだ。
絶望の闇へ、希望の光を。
空を覆う闇を、エクスカリバーの輝く刃は、それすら貫いて斬り裂いた。
世界は、こうして光を取り戻した。
まぁ、物語ではさ。
世界を暗黒に染めようとした敵は、だけど、騎士王のエクスカリバーに阻まれた。
作品によっては、漆黒のドラゴンを暗黒の化身として描いている本もあるね。
とまぁ、そんな風にも描かれているんだよ。
エクス・セイバーの発端は此処なんだ。
それに、僕は僕自身が未熟だから使えないもあった。
ティルフィングの本当の力。
それを殆ど使えないのは、未熟な僕が原因で。
あとはティアリスとの盟約が、今も不完全だから・・・もそうだけど。
けど、盟約の方はねぇ。
だってさ。
流石にね。
僕も、あれから学校とか、イザークさんやハンスさん。
他にも聞いた人は、それなりに居る。
要するに、色々と勉強したって事さ。
で、盟約を完全にするためには、ティアリスとの間で、実感できる深い接触が必要だと分かった。
だけどこれ、一言でいえば性交渉なんだよ。
それで、この答えに行き着いた時だけどさ。
ユミナさんと詐欺師リザイアの二人。
揃って、やっと理解ったかって・・・・もう、ゲラゲラ大爆笑でしたね。
・・・・話を戻そうか。
僕は、そんな事をしなくても、どうにかしてティルフィングの力を引き出せないか。
その時には、ティアリスにも色々と尋ねた。
そうやって考えた事や思った事を、すり合わせた先で。
僕の魔法剣技なら、一時的にでも出来るんじゃないかって。
ティルフィングが持つ本当の力を、僕の魔法剣技で、一時的に引き出す。
此処から先は、あっという間に纏まった。
一時的にでも出来る可能性があるなら。
それはもう、これしかない結論だったね。
僕だけの必殺技。
やっぱりさぁ、必殺技って・・・憧れるよね。
僕がティルフィングでしか使えない。
そういう必殺技を編み出したい。
ただ、盟約のことでは、ティアリスからも。
ずっと不完全なままは好ましくないって。
だけど、ティアリスはね。
僕が未だ子供だから。
大人になるまで待っている・・・ってさ。
そんな事もあった後の僕の考えは、助言も対案も出してくれたティアリスがね。
ホント、とっても嬉しそうな顔だったのを憶えている。
こうして、僕とティアリスの合わせ技は、そこから会得へ向けた稽古に入ったんだ。
あぁ、そうだ。
ティルフィングの持つ力と、僕の魔法剣技との合わせ技だけどね。
この合わせ技は稽古の途中、レーヴァテインでも出来る事が分かったんだ。
だけどね。
レーヴァテインはさ。
ティアリスの様に器用じゃないんだよ。
なので、今の僕とレーヴァテインの合わせ技は、十回やって十回とも失敗することの方がねぇ・・・・・・・
百回やれば、上手く行くことが一回か二回・・・かな。
付け足すと、レーヴァテインとの合わせ技は、失敗する度に・・・・僕だけエレン先生の治癒が要る。
えっ?
いつ頃に思いついたのか?って。
それは・・・確か、ローランディアから帰って来た後くらいだったと思う。
で、いつもの様に異世界の方で、あれこれ考えたんだ。
最初の稽古も、その時だったね。
あとはもう毎日の稽古で、その時には色々と改良とかも考えながらだったね。
因みに、ティルフィングの力を、引き出そうとすればするほど。
僕の体内マナも、比例して大きく持っていかれるんだ。
ただねぇ・・・・
簡潔に言えば、僕の技量・・・と言うか実力の限界。
それを僅かにでも超すと、ティアリスに酷い大怪我をさせてしまうんだ。
レーヴァテインとは真逆の結果になる。
他にも、お互いの同調が絶対もある。
マナの波長とも言えるけど、その時の意思の波長?も同調させないといけないんだよ。
これが合わせ技の一番難しいところで、究極に難しいも言えるね。
実際、レーヴァテインとの失敗が多いのは、この部分だろうって。
そこはね。
ユミナさんとリザイア様が真顔で言っていたよ。
反対に、ティアリスとの失敗が、僕にはマナの消耗くらいしか影響がない点だけど。
これは、僕とティアリスの、そもそもの波長が近いからだろうって。
で、ティアリスの僕を傷付けたくない意思が、だから、そうなった。
今は失敗もしなくなったエクス・セイバーは、僕とティアリスの波長が近いのと、そこで関係が親密だからもあるらしい。
完全にこれだとは、そこまでは分かっていないけど。
だからね。
最初、こうじゃないかって。
ユミナさんとリザイア様の意見が出た時はさ。
レーヴァテインが、これ以上無いくらい落ち込んでしまったんだ。
今のレーヴァテインが、以前よりも僕を玩具・・・と言うか。
べったりなことをするのは、まぁ、僕の方もね。
それに慣れるというか。
お互いをもっと良く理解し合えば、成功率を上げられるのでは?
提案はユミナさん。
リザイア様は、何事も先ずは試してみろと、ニヤニヤしていた。
結果。
僕はレーヴァテインからむぎゅ~って、むぎゅむぎゅも・・・・多くされるようになった。
同じ理由で、ただ、合わせ技と関係なさそうなミーミルからは、添い寝・・・・だね。
付け足すと、エレンなんか。
あいつの性格なら、もう言わなくても分かるでしょ。
王都の巡回は一緒にいるし。
ユイリンに乗り慣れる稽古も、それ以降は一緒に乗りたがるし。
でだ。
そうなると、普段は控えてくれるティアリスがね。
では、私も・・・とか。
たかが王都の巡回に。
僕はティアリスを右隣りに、エレンは左隣で。
そこへレーヴァテインとミーミルもね。
毎日じゃないけど、ユミナさんとコルナにコルキナまでが付いて来る様になった。
この面子で巡回に出ると。
軽犯罪も含めて、二桁は確実な検挙が起きるんだ。
バーダントさんなんか。
それで仕事も増やされているしねぇ。
けど、王都の治安は、とっても良くなりました。
ついつい話が脱線しましたが。
そんなこんなが在ってね。
その甲斐あってか。
稽古の賜物は、ティアリスとの方だね。
やっと此処までは、出来る様になっただけさ。
付け足し。
この技は、だから、まだまだ未完成なんです。
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呼び出したユイリンに跨った僕は、途中で逃げようとした見た目だけが怖いドラゴンを追った。
出て来た時は、四つ首で真っ黒な巨体もだしさ。
だから、禍々しいとか何か強敵の様な感もあったんだ。
だけど、あの一撃だけで。
それも途中で僕を恐れると、此処から逃げようとした。
この辺りは、ティアリスの感想です。
なので、ティアリスは僕へ、勝てると断言したんだよ。
それでも。
此処から逃げた後で。
もしも、他所の街なんかが襲われれば。
感想を聞きながら僕が思ったことは、それはティアリスも思っていた。
僕とティアリスの一致。
今更だけど、あの真っ黒なドラゴンとは、此処で決着をつける。
なのに、あの真っ黒なドラゴンは、巨体に似合わない速さで。
しかも、全身を燃やされながらだぞ。
全然衰えない速さで、どんどん空高くへ上がって行くんだ。
僕は、更に加速している様にも思えた真っ黒なドラゴンを狙って。
幾つものライトニングを、それこそ、同時の連射で撃ったんだ。
ライトニングは、ただ、あの巨体だと。
どうしても掌にペン先を当てた様な、小さな点にしか見えない。
一応ね。
そこは出来る限り収束させて撃った方が、実際の威力が増すんだけどさ。
けど、動きを止める事も。
まして、鈍らせることも出来なかったんだ。
そうして、追い掛ける僕と、逃げる真っ黒なドラゴンの向こう側。
雲の上の空には突然、赤黒く輝くと不気味な感しかない縁のある模様。
僕には、それが二匹の絡み合う蛇の様にも映った模様へ。
逃げる真っ黒なドラゴンは、その模様の中心へ向かって、頭から吸い込まれたかの様に飛び込んだ。
直後、追い掛ける僕の目の前で。
そこに在った不気味に輝く赤黒い模様は、真っ黒なドラゴンごと、跡形もなく消え去った。