第42話 ◆・・・ 伝承を彷彿させる輝き ・・・◆
頻繁ではありませんが、活動報告も更新しています。
僕は、一番のティルフィングを握って。
分かり易い殺意を露骨に向けてくれた。
そんな、きっと、間違いなく、うん・・・・たぶん悪者で大丈夫・・・・な、はずの連中を全員。
否、一つ訂正だ。
何かこう帝国の法的に不味い事態になっても。
一人はカシューさんが殺したんだし。
・・・・・最悪、一人で全員を殺した犯罪者だけは。そこは免れられる・・・・・
はぁ~・・・・すぅ~~・・・・はぁ~~~・・・・・
とまぁ、うん・・・きっと正当防衛なんかも何とかなるだろう。
そうして、深呼吸を繰り返す間に。
僕にしか聞こえないティアリスの声は、貴賓室を襲った連中の方も。
そっちは、ユミナさんが出るまでも無く。
なんか、皇帝の護衛に凄く強い女性がいたとかもね。
で、その女性が通路に出ると、後は一気に片が付いたらしい。
更には、襲った連中だけど。
奴等は自分達の後ろからだ。
そっちからは、自動小銃を躊躇い無く撃って来る兵隊達に。
何人かは両手を挙げての降伏もしたらしいが。
問答無用で射殺されたってさ。
間違いなく、獅子皇女の部下だろうな。
此処だけ、確かめなくても分かったよ。
最後。
僕にとっては最も確認しないといけない部分。
シルビア様は傷一つなく無事だそうだ。
これは、ユミナさんが教えてくれた。
フェリシア様も、カズマさんも。
それから、神父様にハルムート宰相も無事を聞けた。
だけど、扉の外で襲撃者達と戦った警護の人達には、二十人以上の死者と、それ以外も生き残っただけで。
全員が無傷ではないらしい。
既に負傷者の手当てが始まっているくらいまでを聞いていた最中。
確実に殺したはずの奴等が、突然、フワッと宙に浮きあがった。
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一瞬、僕は奴等が生き返った? と反射的に身構えた。
だが、そうではなかった。
奴等は確かに死んでいる。
と言うか、バッサリ斬られた身体がね。
腸とか骨とか。
人間の腸が長いのは、授業でも習っていたけどさ。
それが、だらんと伸び切っている様な光景は、流石にウっと来た。
浮いている死体は、地面から二メートル・・・・くらいか。
僕の見上げた先で、それはふわふわと浮いた後。
一体一体がすぅ~って流れる様に、血を垂れ流しながら飛び始めた。
僕は、この時のティアリスの叫ぶ声が無かったら。
気付くのがもっと遅かったか。
或いは、最後まで気付けなかったかも知れない。
『マイロード。これは死体を贄として行う・・・・召喚の儀です』
死体が垂れ流した血は、ステージに何か大きな紋章を描いていた。
ユイリンからそう言われて、そして、はっきりと分かる周囲のマナが大きく揺らぐ感覚が。
僕の身体は、紋章が空へ向かって黒い不気味な光を放とうとした瞬間。
姿を消したままのティアリスに抱えられる様にして、その場から勢いよく飛び退いた。
間一髪。
あの紋章から高々と噴き出した真っ黒な煙・・・・に見える高密度のマナ粒子。
あれが有害なものだったら。
カシューさんやアリサ達とは反対側で。
何かが起きているステージからも離れた所で。
もくもくと立ち昇る黒くて濃いマナ粒子を見つめていた僕の視界は、ずっと高い空の方で赤く光った。
まるで本気のティアリスと対峙している。
その時に感じる様なプレッシャーが、無意識に警戒感を、グンッと引き上げた。
「ティアリス。空の上に何かいる」
「(・・・マイロード。どうか油断されない様に・・・)」
僕を抱えて飛び退くために。
それで剣から姿を変えたティアリスは、今はまた鞘に収まっていた。
僕はティルフィングを鞘から抜くと、今はもう噴き出し終えたのか。
黒いマナ粒子は、空の上で徐々に薄れつつある。
だけど。
何か居るのは分かっていた。
けど、黒いマナ粒子が薄れつつある中で、輪郭が見えて来ると、とにかく大きかった。
頭の先から尻尾の先まで・・・・全長百メートルくらいか、それ以上はある。
二枚の大きな翼が、膜の部分が風を孕んでいっぱいに広がった姿だけでも。
如何にも硬そうな黒い鱗で覆われた巨躯もだ。
巨体に相応しい二本の脚と、脚に比べれば細く見える腕も。
二本の腕は、濁った黄色にも映る、けど鋭そうな爪がね。
あとは、蛇の様に長い首が四本。
で、赤い瞳と噛まれたら確実に砕かれるかミンチだろうなぁも思った、縦に長い顔と尖った歯並び。
否、此処は牙並びかな。
「ハハ・・・四本首の空飛ぶドラゴンかよ。今更だけどさ。ミーミルが稽古で時々は出すドラゴン。大きさは良い勝負なんだけど。流石に、あれとじゃ比べられないよな」
「(・・・マイロード。そんな分かり切った事を。私に答えさせたいのでしょうか・・・)」
ウォーレンさんとの試合を除けば。
獅子旗杯は、まぁ、ラルフさんやイサドラの戦い方には、良い勉強もさせて貰ったよ。
でも、精々それくらいだった。
GYAOOOOOOOONN!!!
空飛ぶドラゴンは、その四つある口が、一斉に咆哮を巻き散らしたところで。
僕の思考は、さて、どうやって片付けようかと。
妙な感覚だけどさ。
あんな真っ黒で巨大なドラゴンを映してもね。
全然、怖いって感じがしなかった。
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報せはユイリンから届いた。
真っ黒な四つ首の空飛ぶドラゴンだけど。
ユイリンからは、広げた翼を羽ばたかせているのはそうでも。
それによって飛翔している訳ではない。
『主様。彼の異形は、その内に在るマナによって。どうやら、自らを空高くに浮かしている様ですわ』
なるほどね。
という事は、前に聞いたユイリンの、空を駆ける理屈とも似ているのか。
天馬のユイリンは、自らの脚と翼へ、体内のマナを集めることで空を駆ける様に飛べる。
まぁ、その辺りは特に意識しなくても出来るのだそうだ。
僕がエレンから習った空の属性を使った浮遊は、それと似たような事を、ユイリンは極自然に出来る。
まぁ、そういう解釈くらいもしているよ。
コロッセオの観客達は、流石にパニック・・・・でもないか。
悲鳴とか絶叫とか。
そういう声もいっぱいあるにはある。
逃げ始めている人達もいるけど。
たぶん、既に諦めている・・・・かな。
腰を抜かしている・・・・も、あるだろうね。
あぁ、余りの怖さに気を失っている人も・・・・居るかな。
で、ユイリンからの報せを受けた直後。
思案に入っていた僕の世界は、既にティアリスの作った異世界の方へと切り替わっていた。
時間は、ドラゴンが最初に咆哮を上げてから。
未だ、二十秒くらいだった。
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「マイロード。して、いかにして討伐しましょうか」
「最初はね。翼を潰して地面に落とす。練習はしているけど。でも、僕は未だ空を自在には飛べないし。付け足すと、ティアリスやレーヴァテイン。二人は空を飛べないだろ。だから、地上戦しかないかなぁって」
「なるほど」
「だけど、ユイリンからの報せ。あいつはどうやら翼で空を飛んでいるんじゃない。体内マナで自らを浮かしているらしい。で、翼を潰すことで支障はあるだろうけど。空を飛べなくなる致命傷には至らなさそうだ」
「つまり、当初の地上戦へ持ち込む方法は取れない・・・ですか」
「一先ず、戦いながらだな。もっと情報が欲しい。ただ、残念な事に。此処じゃ、地上戦をした場合に」
僕と言葉を交わすティアリスは、視線を流す様に周りへと向けた。
「そうですね。コロッセオに集まっている二十万程の者達へは。私も彼らの犠牲を無しに、討伐が出来るとは言えません」
「あの巨体で暴れられたらね。たとえ外でも千人くらい。あっという間に犠牲が出ると思うよ」
「・・・・そうなると、マイロードが空へ上がるしか。此方の選択肢は無さそうですね」
そう。
ティアリスがそう言ったように・・・・・・・
最初に考えたのは、僕とティアリス、それとレーヴァテインの三人で、ミーミルの支援を受けながらの地上戦なら。
だけど、そのプランでは戦場がコロッセオの内でも外でも。
少なくない数の犠牲が生まれる。
「ティアリス。見た目が真っ黒なのと、最初の真っ黒なマナもある。根拠としては不確定過ぎるもあるけど。もし、奴がヴァルバースの時と同じなら。相性はティアリスが一番良いのかな」
ティアリスが光を宿す剣神で、あの時は、闇に属するヴァルバースだから相性が良かった。
今回は、その見た目もあって、僕は先ず、その点を確認したんだ。
有利に戦える材料は、一つでも多く欲しい。
僕と正面から向き合うティアリスは、直ぐには答えなかった。
視線を一度、空高くに映るドラゴンへと向けた後。
そうして、また視線を僕へと戻した。
「あのドラゴンからは、確かに闇の波動を感じられます。ですから、私が最も相性が良いのは間違いないでしょう。しかし、マイロードがあれと近接して戦う。問題は、寧ろそこでしょう」
「あぁ、そうだねぇ・・・騎馬戦の稽古もしているけど。それを空でとなると。そこは初めてだからな」
「ぶっつけ本番でやるには。ですが、マイロード。貴方はもう決めているのではありませんか。ですから、そのために。私へ確認したかったのではないかと」
「はははは・・・・・やっぱり、ティアリスは僕の一番だね。じゃあ、付き合ってくれ」
「御意のままに」
「レーヴァテイン。ミーミル。二人にも手を貸してもらうよ」
この世界がティアリスの作り出した異世界であっても。
最初から入場?を許されている二人は勿論。
「王様♪ いよいよ、あたしの出番だね♪ 」
「我が君。どうぞ何なりと申し付けください」
姿を現したレーヴァテインは、頭の後ろで両手を重ねると腰を少しくねらせて、大きな胸を見せつける様に突き出しながらのウィンク。
反対にミーミルは、いつも畏まっての姿勢が忠臣を示している。
「レーヴァテイン、ミーミル。僕が空に上がっている間。もし、下でバハムートレオみたいな敵が現れたら。その時の最優先はシルビア様の安全だ。その上で、可能な限り犠牲を出さないように殲滅してくれ」
「良いよ。それが王様の命令なら。あたし思いっ切り頑張っちゃうから♪ 」
「終わったら。今度も肉をいっぱい頼んでおくよ」
「やった♪ ねぇねぇ、あたし。王様が食べていた串焼きのお肉。あれ、あたしも食べてみたいよ♪ 」
「分かった。同じ物が用意できるかも。全部片づけたら聞いてみるよ」
僕にだけ、スキンシップ大好きなレーヴァテインはさ。
今回もピョッンって跳ねる様にして僕へ抱き着いた。
ティアリスはムッとしたし。
ミーミルは、これは相変わらずな『はしたない。貴様に女の嗜みは無いのか』もね。
でも、僕がレーヴァテインには、これを許している。
二人と違って、自分がメインになって何かをしたりが無いからね。
剣の稽古だって、僕の指導役はティアリスで、レーヴァテインは補助というか。
まぁ、大きな胸でむぎゅ~って。
やり過ぎると僕の呼吸が苦しくなるけど。
何か一つは、レーヴァテインにも認めている事で。
僕としては此処に居る三人とも、後はコルナとコルキナもだ。
五人を平等に・・・・はね。
ホント、難しいんだぞ。
で、今もレーヴァテインの大きくて柔らかい。
そんな胸で、むぎゅむぎゅされている僕だけど。
「ミーミル。レーヴァテインのフォローは任せた。上手く行ったら。今度の昼寝。その時には添い寝を頼むよ」
「ハッ、我が君のご期待。不肖、このミーミルが。必ずや応えて見せましょう」
ミーミルはねぇ・・・最初は、頭をなでなでするだけで良かったんだ。
でも、レーヴァテインが僕を玩具に出来る。
それを条件付きで許したのは僕だけど。
結果、ミーミルからはもっと寵愛されたいとかね。
今じゃ、時々ね、
ミーミルの添い寝付きで、僕は昼寝をするんだよ。
けど、寝るときはやっぱり。
ティアリスの膝枕が至福なんだよね。
「マイロード。それでは、始めましょうか」
ティアリスがじっと見つめている。
僕も今回は此処までだと、レーヴァテインに離れて貰った。
「あぁ、そうだ。この間の稽古でも試したアレ。ティアリスにも負担掛るけど・・・・先制の一撃にやっても良いか」
「それは、先日も稽古中に試した。姉様からエクスカリバーの名称のみは変える様にと。あの技ですか」
「そう、それをね。だけど、あの技は。ティアリスにも負担が掛かるって」
「既に問題ありません。初めては確かに負担もありましたが。その後で改良しながら何度も繰り返すうちに。もう解決しています」
「うん。たださ、僕とティアリスの同調が鍵の技だからな。ユミナさんとリザイア様からも。盟約が完全になるまでは、安易に使わない方が良いって」
「心配要りません。私の方がマイロードへ合わせられますので。それに、あの技を使う事で。漆黒と呼べる彼のドラゴン。その力量を計ることも出来るでしょう」
僕とティアリスの間で、初手は決まった。
「王様♪ どうせなら、一撃必殺狙いで。ドパパァッ~~~ンってやっちゃいなよ♪ 」
「こ奴は事実、脳金馬鹿ですが。此度は私も、それが最上と判断します」
レーヴァテインは、左手の甲を脇へ当てながら。
反対に、右腕は僕の方へビシッと伸ばすとグッジョブ。
そんなレーヴァテインの隣に立つミーミルは、いつの間にか僕がシルビア様から頂いた旗を。
片腕で掲げる様に握っていた。
「じゃあ、三人とも。行こうか・・・・ドラゴン。倒すぞ」
「はい、マイロード」
「オッシャァ。まっかせなさい! 」
「我が君と私なら。たかがドラゴンの一匹程度。恐れるに足りません」
ティアリスの作った異世界は、この瞬間に解かれた。
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何か禍々しいしか抱けない黒いドラゴンは、コロッセオの上空へ、突如現れた。
同時に、その前に起きたステージ上の現象は、黒い煙が消える頃になって。
それまで在った筈の血汚れと死体が、今はもう跡形もなく消えていた。
場所は貴賓室。
外で起きていた襲撃者との争いは、各国の警護と帝国の警護隊へ多数の死傷者を生ませたが。
彼等の身命を賭した働きの結果。
室内にいた皇帝と各国の政府代表達には、危害一つ及ぶことなく終結したのである。
凄惨な事件が起きたばかり、にも拘らず。
貴賓室に居た者達は、直後のコロッセオで起きた一連へ。
揃った様な驚愕は、上空に現れた巨大なドラゴンを映してのこと。
四つの口から放たれる咆哮は、それで眼下に映った一般客達の恐慌ぶりが、酷い混乱も招いている様に映っていた。
そう。
確かにコロッセオの全体が、突然現れた巨大な異形を映して、その咆哮の凄まじさへ。
一概に恐怖したかにも映っていたのだ。
シルビアの視線は、そうした光景の先。
逸早く無事を確認したかった我が子を・・・・・・居た。
私の可愛いアスランは、ステージの、控室の方とは反対側に立っていた。
傍にはレーヴァテインと、私がアスランに託した旗を掲げるミーミルも立っている。
でも、こんなアスランは・・・初めて見たわ。
此処からだと我が子は、アスランは周囲から黄金に輝く風を、まるで自らへ集わせている・・・・かの様にして纏いながら。
真っすぐ姿勢を伸ばして、そこから高く振り被る様に構えた両腕の先。
アスランが纏う黄金の輝きは、両手が握る剣へも集まっているかの様に映っていた。
あの子は、アスランは一体・・・何をする気・・・・まさか!?
「シルビアさん。アスランは、まさか・・・あの異形と戦うつもりなのでしょうか」
私の隣から、同じ様に思い至ったフェリシア様の、でも、声は震えていた。
「分かりません。ですが、私のアスランは。騎士は守るために在る・・・それをずっと追い続けていました」
この部屋に居る私とフェリシア様だけじゃない。
皇帝も、カズマ殿も、スレイン先生にハルムート宰相もそう。
他にも、この室内に居る者達が。
皆、黄金に輝く風を集めるアスランだけを映している中で。
GYAOOOOOOOONNN!!!!
再びの咆哮は、それだけで立って居られなくなりそうな程の怖さがあった。
ところが。
直後。
『エクス・セイバァァァアアア!!!!!!』
アスランの振り被って構えた剣は、一歩、二歩と踏み込んだ脚の動きへ。
はっきりと聞こえた。
気迫の強ささえも伝わる、あの子のこんな雄叫びの様な声が、そのまま一気に振り下ろされた刃の先から。
空高くへ現れた漆黒のドラゴンへ、一直線に突き刺さった黄金に輝く光の奔流が、それこそまさか。
私はこの瞬間のアスランへ。
私も子供の頃には大好きで、よく父様に読んで貰った聖剣伝説物語に出て来る騎士王の代名詞。
代名詞は、光に満ちた安寧の世界を取り戻すため。
聖戦の最中には、世界を覆った闇さえも斬り裂いた。
だけど、シャルフィにはもう一つ。
伝承は、エクスカリバーの輝きとは、守るために在る者達を束ねる、唯一の王が世界へ示す何かだと。
だから、私は一瞬。
エクスカリバーを使う騎士王と、この瞬間のアスランとを重ねてしまったのよ。
ドラゴンの方は、光の刃にさえ思えた奔流が突き刺さった途端。
明らかに悲鳴のような、激痛を伴ったかのような絶叫が。
私達の鼓膜を破らんばかりに叩いたわ。