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第38話 ◆・・・ 魔手 ・・・◆

時系列は32話 回り始めた策謀 の翌朝からになります。


――― 正々堂々とは、貴方が培った全てを出し切る。そういう解釈で構わないのです ―――


「・・・マイロード。見事な一本でした。私の負けです」


昨日の姉の言葉は、マイロードの内側で。

また跳ね上がった様な変化を起こした。


私は、自分の喉へ突き立てられたコールブランドの切っ先を離す様に下した。

そのマイロードは、私から一本取ることをずっと目標にしていた。


なのに。

一本取ったマイロードは、息を一つ吐いた後。


「初めて一本取れたけど。俺のティアリスなら。続けて二本目は、取らせてくれなさそうだ」


剣を下ろしたマイロードは、仕切り直すために背を向け歩く。

歩きながら告げられた声には、しかし、初めて勝った喜びのような感情が微塵も感じられなかった。


「なぁ、ティアリス」

「はい、何でしょうか。マイロード」


互いに十分な間合いで、そこで立ち止まると振り返ったマイロードの声へ。

私の返事は、それでマイロードの視線が一瞬下がった後。

直ぐにまた私を、真っ直ぐ映していた。


「正々堂々の事をな。昨夜は寝る前になって。なんかこう、自分が納得できるって言えばいいんだろうな。でも、そこで今度は王道とか正道とか」

「考えが纏まらず、そのため寝つきが悪かった。それもありそうですね」

「あぁ、寝不足とまでは言わないけど。そうじゃなくて。モヤモヤしている」

「マイロード。御身はやっと七歳になったばかりです。納得できる答えを得るには。まだまだ経験不足でしょう」

「うん。だからさ。教えて貰った事を、今は色々試しながら・・・かな。そういう訳で。俺は先ず全力でティアリスに挑むよ」

「はい」

「ティアリスは、俺の1番で。それで憧れでもあるし、理想でもあるんだ。そこへ今の全力で挑み続けることで。また何か分かるような気がするんだ」

「では、どうぞ。マイロードの全力。私がお受け致しましょう」


一拍の間を置いて。

マイロードと私は、再び斬り結んだ。


-----


アリサは今朝も五時前に起きると、簡単に身だしなみを整えた後。

足は真っ直ぐ庭園の方へと向かっていた。


「今日も朝からやってるわね」


私の独り言は、それが少し前からカズマと真剣で稽古をしているアスランへ向けたもの。


二人は互いに、決まった所へ打ち込む稽古をね。

お互い決まった場所へ、順番に打ち込む感じなのだけど。

でも、それが私には、とても速過ぎる動きにしか見えなかったわ。


「アリサさんは見ているだけで。退屈しませんか」

「シルビア様。う~ん・・・速過ぎて稽古に見えない感じはしますけど。でも、本当に私と同い年なのかって。試合の時と稽古の時のアスランは・・・・格好いいから」


今朝は私が身支度をしている間。

シルビア様とフェリシア様も簡単に支度をすると、三人で此処へ来ている。


獅子旗杯の・・・三日目だったかしら。

その辺りからは、今日まで毎日ね。

私達は、こうしてアスランの稽古を見ているのよ。


でも、アスランを見ていると、なんか・・・・私もあんな風に剣を使えたらって。

ちょっとだけ思って、でも、それを口にしたら。


『じゃあ、アリサさんには。私が少しだけ手解きをしてあげましょうか』


この夏、私はサンスーシ宮殿で。

今朝も最初だけ、格好いいアスランを見た後。


そこからはシルビア様を先生にして、剣の稽古を始めました。

でも、実はもう一人。

私は、フェリシア様からも、弓の使い方を教えて貰っているのです。


稽古に使う木剣と弓は、二人の女王様からプレゼントして頂きました。

後は、稽古をするなら動きやすい服なども。


習い始めて未だ一週間くらいだけど。

二人の先生は、筋が良いって褒めてくれます。


だからきっと。

私は将来、剣と弓が似合うお姫様になれる筈です。


-----


獅子旗杯の準決勝は正午から。


通い慣れもあるコロッセオへ。

僕が、二時間も前に此処へ来たのには、理由がある。


と言っても、僕も隅に控える貴賓室では、シルビア様達が、皇帝との外交会談へ臨んでいる。

皇帝の傍には、獅子皇女が椅子に座らず立っていた。


「ユフィーリア。余が其方から受けた報告。それをシルビア殿達へも報せるがよい」     

「はい。それでは先ず。帝国が民間交流事業により、シレジアから招いた学生達の件に関して。彼の者達は昨晩遅くだが。私が自ら解放に携わった事を伝えておく。全員の無事を確認した後で。だが、数日は入院しての療養が必要となった。入院先などは追って報せるが。彼等の精神的なケアも必要ゆえ。面会は明後日を予定している。今直ぐにでも確認したい気持ちには理解できるが。保護された彼等の健康状態には察してやって欲しい」


僕が糞ババぁも叫んだ皇女様は、けど、今はこう丁寧な印象だった。

まぁ、こういう場だからだろうな。

そう思うことにした。


ユフィーリア皇女の説明を聞いた後。

此方は、シルビア様が最初に口を開いた。


「一先ず。全員が無事なのだろうことは。それは分かりました。ただ、解放という表現には。その部分は説明をして頂けるのでしょうか」

「ユフィーリア。この件は其方に預けたのだ。よって、其方が説明するのが良いだろう」

「分かりました。帝国に招かれた学生達のことは。これは捜査が終わっていない故。今時点では明確に答えられぬが。宰相であるボルドーが何かしらの目的のために。それで拘束したのではないかと。申し訳ないが、捜査が完了するまでは。はっきりとした表現は差し控えさせて貰う」

「分かりました。ですが。この件に関しては、何れ条約機構の総会でも。追及させて貰うことになるでしょう」

「では、遅くともそれまでには。此方も聖女殿達が納得頂ける様には努めよう」


こうして聞いているとね。

なんか、鍔迫り合い・・・かなぁ。

お茶を濁す・・・も合っているかもね。


ただ、シルビア様の追及には、明確な約束もしてくれない。


努めようって。

要するに、努力するって事でしょ。

努力は、約束じゃないんだよなぁ。


でも、僕はね。

きっと、シルビア様がこれまでにもして来た外交ってさ。

こんなはっきりしない、もどかしいだけのやり取りも。

それだって、沢山あったんじゃないかなって。


後ろからシルビア様を見ていると。

そんな風にも思えてしまったんだ。


外交って、ホント、面倒臭いだけだね。


-----


「ねぇ、アリサちゃん。愛しの騎士様が居ないからって。ちょっと膨れ過ぎよ」

「別に。イサドラさんには関係ありません」

「あらあら。でもね。アスランは今、お仕事中も。それは分かっているんでしょ」

「えぇ、私のアスランは。ちゃんとした本物の騎士なんだから。仕事があって当然じゃない」

「じゃあ、そうやって頬を膨らませないの。せっかくの可愛い顔がブサイクになってるわよ」


場所は選手控室。

アリサもイサドラも、直接の関係者ではないのだが。

二人が此処に居られるのは、それで出場者のアスランから話を通して貰った事にある。


「ねぇ、アリサちゃん。私、ちょっとコーヒーでも買いに行ってくるけど。一緒に行く? 」

「私はアスランが帰ってきたら。一緒にフライドポテトを食べる約束をしているし。だから待ってる」

「分かった。じゃあ、お姉さん。ちょっとだけ席を外すからね」

「えぇ、いってらっしゃい」


イサドラさんは、私には良い人に見える。

アスランの部下になって、それからはサンスーシ宮殿で生活もしているけど。

一緒にお風呂に入って、一人じゃ洗い難い髪も。

イサドラさんは、丁寧に洗ってくれるし・・・・まぁ、終わった後で。

今度は私が、イサドラさんの背中とか洗っているけどね。


なんか、お姉ちゃん・・・って。

こういう感じなのかもね。


私は、今日はね。

シルビア様やフェリシア様が、皇帝陛下と大事な話し合いをするからって。

それで、その場にはアスランも警護で参加するって。


だから、今はこうして仲間外れじゃないけど。


・・・・・やっぱり、住んでいる世界が違うのよね・・・・・


私は、帝国では平民と呼ばれる身分で。

でも、ルーレック社の、ママの娘だから。

周りからは『お嬢様』って呼ばれもする。


「でも、アスランなんか。本物の騎士って・・・やっぱり凄いのよ」


仲間外れにされた感じが、どうとかじゃない。

私は、同い年に本物の騎士が居た事にね。


アスランは、生まれながらのお嬢様な私とは違う。

そこは、シルビア様から教えて貰った。


アスランは、生まれて直ぐに孤児院へ預けられた子供だったのよ。

アメリアにも孤児は居るけど。

私の周りは、皆が孤児を馬鹿にしている。

空き缶や石を投げつける人も見ている。

蹴飛ばしたり踏み付けたり・・・そういうのも見ている。


みんな、孤児は屑ゴミだって。

アスランの事を聞くまで、それは私の中では、ずっとそういうものなんだって思ってたわ。


『アスランは、確かに孤児院で育ちました。ですが、聖剣伝説物語に出て来る騎士王に。あの子は強く、殊更強く憧れていたのです。自分も騎士になりたいと。そのための努力を誰よりも頑張ったからこそ。今のアスランがあるのですよ』


私は、サンスーシ宮殿では夜にだけど。

シルビア様とフェリシア様と同じ部屋で、それで、シルビア様と一緒のベッドだから。

いっぱい聞かせて貰ったのよ。


アスランは、聖剣伝説物語が読みたかった。

たったそれだけの理由で、三歳で文字の読み書きが出来る様になった。

四歳の時には難しい専門書とかいう本も、一人で読めるくらい頭が良かった。

後は、三歳から剣の稽古をして来た話も聞いている。


私がアメリアの初等科で習っている程度の事を。

四歳の時には、それも追い越すと、初等科を卒業出来る所まで勉強していたらしい。


・・・・・アスランは、意地悪な所もあるけど。でも、やっぱり格好いい・・・・・


-----


「あのぅ・・・ここは、コロッセオの何処なのでしょうか」


一人控室に居た私は、後ろから聞こえた女の子の声へ。

でも、アスランの事を考えていたから。

控室に誰かが入って来た事にも気付いていなかった分、思わずビクッと反応してしまった。


「あっ・・・・えぇっと・・・ね。此処は出場する人達の控室よ」


私よりも・・・たぶん、年下。

だけど、女の子の衣服は、見た感じ貴族の子供かしら。


腰掛けていたベンチから首だけを動かした私は、映った金髪の可愛い女の子へ。

その女の子は、とても不安そうな。

だから、私が返事をすると直ぐに近寄って来たわ。


「あっ・・・・その、私。あの、その」

「私はアリサ。勿論、出場する選手じゃないのだけど。でも、私の騎士は今日の準決勝に出るわ」

「ミルフィリーネです。その、私はお姉様から誘われて・・・でも、今はお姉様がお仕事をしていて。あっ・・・その間は、待っている様にって」

「ミルフィリーネは、何処で待っている筈だったの」

「その、最初はお姉様から。此処で待っている様にって、部屋に居たのです。でも・・・何か美味しそうな食べ物の匂いがして」

「分かった。ミルフィリーネは、お姉さんから待っている様にって言われた部屋に。最初は居たのだけど、美味しい食べ物の匂いが気になって出てしまった。あとは帰り道が分からなくなったのかしら」

「は、はい!! 美味しい匂いは、いっぱい並んでいた食べ物を売っているお店だと分かったのです。でも・・・あちこち見て回っている内に」

「迷子になったのよね」

「あぅ・・・」


迷子のミルフィリーネは、凄く心細かったんだと思う。

今にも泣きだしそうな顔をしていたわ。


「そうね。お姉さんが何処に居るのかは分かるかしら」

「あぅ・・・あっ、その。私はずっと上の方から降りて来ました」

「上って、此処の上にある部屋ってことよね」

「は、はい!! その・・・ずっと上の方・・・でした。お姉様は、私とは別の部屋に。その・・・お仕事で。で、でも。そのお部屋は外にも人が何人も立っていました」


ずっと上の方にある部屋で。

しかも、別の部屋の外には、人が何人も立っている・・・・・!!


「何となくだけど分かったわ。ミルフィリーネは、貴賓室から此処まで下りて来たのよね。私、貴賓室なら分かるし。一緒に行って見る? 」

「はい!!」


人が何人も立っている、ずっと上の方の部屋と言えば、そこしかない。

私は此処にずっと通って来たのだから。

路も分かっている。


でも、ミルフィリーネは、今度は安心したのか。

いっぱいの笑顔だったわ。


私は、そして、ミルフィリーネと手を繋ぐと。

なんか、可愛い妹が出来たお姉さんの気分になっていた。


「ミルフィリーネ。じゃあ、行くわよ」

「はい。あの・・・私のことは、ミリィと呼んで良いですよ。お姉様もお父様もですが。後はお母様も。私の事をミリィって呼んでます」

「分かったわ。じゃあ、ミリィ。一緒に貴賓室へ行きましょう」

「はい。アリサ・・・お姉様♪ 」


まだ会ったばかりのミリィから。

だから、どんな家柄とかもだし。

全然、知らない事だらけなのだけど。


私は、でも、独りぼっちで泣きそうだったミリィが、今はこうして笑ってくれる。

お姉様なんて初めて呼ばれもしたけど。

だから、迷子のミリィは、私がちゃんとお姉さんの所まで連れて行ってあげよう。

そう強く決意したのよ。


だけど。

私とミリィが控室を出ようとしたところで。


「よう、嬢ちゃん達の何方かが。依頼のあった子供だな」


突然、入り口を塞ぐようにして目の前に現れた、如何にも悪い男達です・・・みたいなね。

でも、手を握るミリィは震え上がると、私にしがみ付いた。


「・・・私、臭くて不潔な男なんて知り合いも居ないのだけど。さっさと退()いてくれないかしら」


私だって怖かった。

だけど、私はミリィを安心させたくて。

それで、お風呂に入っていないのか、本当に臭くてプンプンする男達へね。


「おぅおぅ・・・言ってくれるじゃねぇか。依頼のガキがどっちかなんてもういい。どうせ売るんだしな。おい、連れて行け」


私とミリィは、悪者にしか見えない臭い男達に囲まれて。

そのまま後ろから突然、濡れた布か何かを無理やり、口や鼻に押し付けられた。


鼻と口を塞がれた私は、必死に何とかしようとしたけど。

急に頭がぼぅっとしてきて。

それはとても、とても眠くなってしまった。


私とミリィは、そうして、何処の誰かは分からない。

分かっているのは、二人とも悪い奴等に攫われた事だけだった。


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