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第35話 ◆・・・ アゼル・ディスタードの役割 ・・・◆

今回も主人公は出て来ません。

ですが、ストーリー上は決して無関係でもない? 方々が出ています。


――― 神聖暦2085年7月 某日 深夜 ―――


マイセンに在るアゼルの屋敷は、人目を忍んで変装までした女性が一人。


ただ、訪れた女性は、俺とエレナが良く知る人物だった。


先に女性から内密を告げられた俺は、それから間もなく。

そうしなければならない事情を理解(わか)るエレナが外れると、二人で部屋の一つへ場を移した。


「久しぶりだな、アゼル。まぁ、息災なのは知っていたがな」

「ユフィーリア様も。お元気そうで何よりです」

「うむ。だが、聞いておるぞ。領主の仕事は相変わらずだとな。まったく・・・貴様の妻であるエレナが有能でなければ、どうなっていた事やら」

「誰のせいで。そうなっているんですか・・・・ったく。ですが、そんな事まで把握していたのですか」

「当然だろう。ハルバートンとウォーレンの二人など。貴様を今直ぐでも現役復帰させよとな。お前のおかげで・・・奴らの冗談も、少しは面白くなったな」

「はははは・・・・・何でしたら代わりましょうか。否、ホント、マジで代わって下さいよ」


此処は応接用の部屋ではあるが。

とある事情で家全体の防音対策を、普通じゃあり得ないレベルに俺自らが施した。


まぁ、あれだ。

結婚した後で、父と母が暮らす本屋敷の隣に別邸を建てたのだ。


別邸は俺とエレナの愛の巣。

だって、イチャコラしているときの音漏れはな。

そこは厳重に対策を講じるのが普通だろう。


因みに、防音対策に使った資材は、正規軍の一部でしか流通していない特注品だ。

入手ルートは、まぁ・・・機密だな。


しかし、おかげで、エレナは遠慮なく婀娜(あだ)やかな声を聴かせてくれる。

揃ってあっちの方は、今でも盛んだぞ。


でだ。

そんな防音対策がバッチリな部屋で、特産の木材を加工して作られた木目の美しいテーブルを挟んだ俺とユフィーリア様・・・だが。

人目を忍んで、しかも変装までして来た。

付け足しは夜陰の中で、麓からではなく、山頂に続く山道側から来たこともある。


当然だが、今回の訪問。

用向きは、意図的(● ● ●)に俺を退役させた件とも、関わりのある内容なのだろう。


もっとも、その件とて。

こっちに帰って来た後でだ。

突然、軍役を解かれた俺が、それでどんな顔をしているのかを見に来たというウォーレンから聞かされるまではな。


俺は、ユフィーリア様の玩具からは解放されていなかったのだと。

教えてくれたウォーレンの前で。

これ以上ないくらい項垂れたのだ。


という訳で。

手の込んだ訪問をしてくれたユフィーリア様を前にして。

俺もそれくらいは、会った瞬間に察したんだよ。


「お前向きの。否、この件は。お前だからこその仕事を持って来た」

「やっぱり、そう来ましたか」

「当たり前だ。そもそも、お前の退役は。私が何れ帝位を巡る争いに対して。先に備えたものだぞ。貴様直属の部下達もだ。時期をずらしながら。それでも大半は退役した後で。計画通り此処に集まっているだろうが」

「まぁ、そうですね。他にも色々とですが。一先ず秘匿戦力(● ● ● ●)としては申し分ない所ですよ」

「フンっ、此処がど田舎で助かったと言うべきだろうな」

「えぇ、それもその通りですね。もっとも、それに絡んで領主の仕事をサボっている私の評価は。皮肉満載、芳しくありませんがね。それで、ユフィーリア様直属の我ら特殊作戦群ですが。この時期なら・・・ルテニアですか」


先月にはルテニアに対する電撃戦が実行されたくらい。

この程度は、俺の耳にも届いている。


と言うか、諜報活動に人員もそれなりに割いている。

よって、公にはなっていない裏の部分も。

俺は、かなりの詳細を掴んでいた。


俺がルテニアの件かと。

ユフィーリア様は無言で、ただし、はっきりと分かる頷きを返してくれた。


となると、やはり・・・あの男のことか。


「ユフィーリア様。ヴァジーナ・・・間もなく元帥ですが。あの方の裏を探るのが仕事でしょうか」


恐らく外してはいないだろう要人の名を告げた俺へ。

ユフィーリア様の表情が、全く嬉しくない意味で、不敵な笑みを浮かべた。


「察しが良いな。奴はどうにも好かぬ。国内には届いておらぬが。先の大侵攻では、民間人の大量虐殺が行われたらしい。他にも気になることがあってな。否、寧ろ。こちらが本題なのだ」


なるほど。

その程度くらいは耳にしていたか。


「ヴァジーナ麾下の戦力が行った民間人の虐殺は事実です。補足するなら、婦女暴行に略奪と。まぁ、やりたい放題のオンパレードですよ。何でしたら、今も向こうで働いている部下達が集めた証拠を。ここで見せることも出来ますが。ただ、先に本題を伺った方が良さそうですね」

「本題と言うのはな。貴様に調べて欲しい件がある」

「わかりました。それで、我々は何を調べればよいのですか」

「ルテニアと戦争状態になった発端についてだ」

「国境近くで見つかった遺跡ですか。確か、ヴァジーナ上級大将の電撃戦の後で。それから調査が行われていると」

「あぁ、中身が盗まれた遺跡を。それは軍の馬鹿共がやっている」


俺の主は、軍に居た頃からもだが。

ハルバートンやウォーレン達と違ってな。

俺に対しては、こうやって意味深なワードをよく投げて来る。

で、そこから俺が何処まで察するのかを楽しんでいるのだ。


ホント、ちゃちゃっと言えっつうのな。

面倒臭い。


「ユフィーリア様。つまり、遺跡の内部に在った何かに関して。ですが、それは先にヴァジーナ上級大将が。恐らくは秘匿したまま手にした可能性が高い。その辺りの調査ですか」

「貴様に話すときは一々説明せずに済む。私は良い部下を持てて幸せだぞ」


この鬼・・・不敵な顔で楽しそうに言うな。


「フンっ、そう腹を立てるな。貴様が私に踏まれて悦ぶ性癖の持ち主だと・・・・なんなら、エレナにも教えてやろうか。ん? 」

「・・・・結構です。どうせ断れないし。やりますよ。やれば良いんですよね」


言って置くがな。

ユフィーリア様の鬼畜な為人くらい。

そんな事は理解(わか)っているんだよ。

で、その上で俺は仕えているのだし。

何れは鬼畜皇帝となる御方の命令へも従いますよ。


だが先に、俺は弱みを握られているから仕えている訳ではない。

たとえ俺達には鬼畜でも。

現在の帝国に変革を起こすためには、ユフィーリア様が皇帝になる他ないを理解っているのだ。


まぁ、エレナにも内緒の隠し口座へ、色々と便宜も入れてくれるしな。


「必要な装備や資金などは。それはハルバートンへ伝えろ」

「その辺りはいつも通りで。ですが、持ち去られたなら・・・・追跡も。ですよね」


探しモノは何ですかぁ♪

見つけ難いモノですかぁ♪


「少し気になってな。ただ、どうにも嫌な感がする」


この馬鹿。

言いやがった。

おかげで、良くないフラグが立っちまったじゃねぇか。


「ユフィーリア様の嫌な予感。昔から外れないんですよねぇ・・・・あぁ、貧乏くじだ」


この皇女殿下はな。

悪い事件だけは確実に手繰り寄せる。

そういう天性な嗅覚を持っているんだよ。


「おい。エレナと毎晩やれる身分で。貴様は既に過分な果報者だろうが。帳尻合わせに少しは不幸になってこい。という訳だから。しっかり働け」


俺は、少しは不幸になってこいと。

そんな言葉を、楽し気に吐けるユフィーリア様の命で。

翌日からは極秘任務に就いたのだ。


ただ、同時にな。

俺の妻であるエレナは、実質的な領主になってしまったよ。


-----


――― アゼルが任務に就いてから一年後 ―――


マイセンの郷は、経済的に少し右肩上がりしていた。

まぁ、出来る子爵婦人のおかげだろう。


郷の者達は、皆そう思っていた。


ちょくちょく出払っている俺なんか、『狩猟三昧のろくでなし』等とな。

もう、ホント、好き放題に言われているんだぜ。


その日の夜中、と言うか事前の連絡はしていた。

だから、俺とエレナの家には、また夜陰の中で変装もすると、山頂側の道を使ってやって来た。


ユフィーリア様を迎えたエレナは、軽く会話もすると、それから俺が待つ部屋へ案内してくれた。


「アゼル。早速だが報告を寄こせ」

「防音対策に抜かりは在りませんが。聞かれると不味いので。此方へ目を通してください」

「わかった」


俺が用意していた牛革のバインダーを、受け取ったユフィーリア様は、無言のまま直ぐに開いた。


「・・・・・確かに、これは迂闊に声には出来んな」

「えぇ、申し訳ありませんが。ユフィーリア様にも。部下である私が言うのは不敬も分かっていますが。ですが、口外無用をお願いします」


バインダーの内側には、今の時点で俺が纏めた報告書が収められている。

報告書には、ルテニアの遺跡を調査した部下達が掴んだ、公にすれば条約機構も黙っていられないレベルの機密情報が満載なのだ。


「・・・・盗まれたモノの行方については。そこは未だ分からないままか」


ユフィーリア様が気にしている点は、今の時点では手掛かりを掴めていなかった。

だが、俺は報告書にも故あって記載していない。


それこそ漏洩すれば、間違いなく帝国の社会を巻き込むだけでなく。

世界を揺るがす規模の、それくらいの爆弾と呼べる情報を掴んでいる。


「残念ながら。ですが、今度の件。あの808が関わっていました」

「!!」


俺が告げた爆弾規模の情報は、途端に頬を引き攣らせたユフィーリア様が、思わずバインダーを落とすくらい凍り付いた。


「ユフィーリア様も流石に驚かれましたね。私も、この件で奴らが関わっていると知って。用心に用心を重ねても越した事は無い。まぁ、そんな所です」


だからこそ。

踏み込んだ調査が出来ない状況にある。


ただ、俺の察して欲しい所は、硬直した後で直ぐ普段を装ったユフィーリア様が、大きく頷いてくれた。


「だが、808は・・・シルビアの両親を殺した疑惑で抹殺された部隊だぞ」

「そうですね。しかも、その件を知る極一握り。彼らは軍部の恥を晒したくない理由で」

「あぁ、そうだ。奴らは、だからこそ。裏で存在ごと抹殺されたのだ」

 

俺とユフィーリア様の共通認識では、808という部隊は全員を抹殺して、存在ごと葬られた筈・・・だった。


「極秘裏に抹殺された筈の808が。ただ、何故か生きている。理由は別にして、事実、奴らが今度の一件に関わっている。これは明らかになった事です」


そう。

だから、この件だけは直接、口頭で伝えなければを抱いたのだ。


俺がユフィーリア様へ出来るだけ早い訪問を、それも仲介役のハルバートン様に頼んだのは、この件があったからだ。


「そうなると。ヴァジーナの裏・・・・余計にきな臭いが確定したな」

「私見ですが。ヴァジーナ元帥と808には。何かしらの繋がりがあるのではと」

「調べてあるのか」

「ヴァジーナ元帥の身辺は洗いました。それで、808との確かな部分は未だですが。オスカル皇子と親しいボルドー宰相。後はルーレック社の専務。ラドクリフ氏とも付き合いがある所までは、突き止めています」


帝国宰相と、大企業の専務。

両者と繋がりの在るヴァジーナなら。


「アゼル。お前をこの任務に就けて良かったと。今はそれが救いだとも思える。しかしだ。隠すにしても、色々と好都合な連中が絡んでいるな」

「宰相もですが。ラドクリフ氏が出てきましたので。こちらでもルーレック社の施設を全て洗い始めています。まぁ、そのせいで人手が全然足りていませんがね」

「分かった。近く、また退役が出るだろう。先に退役している者達には、計画を前倒しての合流を命じておく。それで当面は何とかしろ」

「わかりました。あぁ、それと。申し訳ありませんが、報告書の方は目を通したら」

「分かっている。さっさと燃やしてしまえ」


機密文書の処理としては、灰にしてしまうのが一番である。

俺は、ユフィーリア様から返された文書を、部屋に在る火の無い暖炉に置くと、ライターで火を点けた。


――― コードネーム 808 ―――


特殊作戦群には、かつて、そう呼ばれる集団が存在していた。


ただ、当時のシャルフィ国王夫妻が暗殺された事件では、数年経った後。

事件に深く関与していた疑惑が浮上したため。

公には出来ない軍内部で、極秘裏に全員が抹殺されて片付けられた。


この件を知るのは、軍部の極一握り。

他は、808の存在さえ全く知らないのだ。


なのに、今になって生きていた等・・・・・・・


確かな証拠がない。

それが最もな理由ではある。

だが、特殊作戦群の詳細は、軍の最高機密に属する情報でもあるのだ。


更に言えば、俺は勿論、元帥のユフィーリア様とて。

特殊作戦群の全容を把握出来ていない。


言い訳でしかないのだが。

故に、808の件は、ユフィーリア様が親友達へずっと伏せている。


当然、今回の報告で、俺にも釘が刺された。



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