第30話 ◆・・・ 改めて、未熟者 ・・・◆
コールブランドを握った途端。
僕の映していた世界に、突然、ムッとした表情のコルナとコルキナが現れた。
「主様は、馬鹿ですか」
「えっ・・・・?」
「姉様。主様はどうやら。全く分かっていないようです」
「ん・・・コルキナ」
「主様。何故、この場に私と私の可愛い妹が居るのか。もう一つ。私と妹が怒っているのか。理解できていますか」
えっ・・・・だからさ。
なんで、いきなり・・・現れたの?
だって、此処・・・・コロッセオだよ。
付け足すと、僕は今も試合中・・・・・・!!
「まさか。もしかして・・・・此処、異世界の方なのか」
コルナとコルキナが突然、姿を現したから。
それで、いきなり怒っていたし。
そんな状況だから直ぐに気付けなかったけど。
僕が異世界なのかって、尋ねた所でね。
二人はようやく。
ムッとしながらも。
一先ず頷いてくれた。
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僕が異世界と呼ぶここは、時間概念が存在しない。
こんな事は今更だけど。
だって、今朝もね。
僕はティアリス作った異世界の方で。
ティアリスやレーヴァテイン。
それからユミナさんとも。
そうして僕の方には条件が付いたり、何でもありの稽古をして来たんだよ。
まぁ、どれだけやっても。
こちら側の時間は一秒として進まない。
僕が稽古や勉強に使う異世界という場所は、まぁ、こういう所だよ。
因みに、ユミナさんの作った我が儘し放題の世界なら。
そこは時間の概念も、好き放題だったりするんだけど・・・・・・
壊れた後から今も、新しくは作っていないらしい。
何でも、あっちは作るのが凄く大変らしいんだ。
ユミナさんからは、そのくらいを聞いているよ。
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試合中のコロッセオで。
コールブランドを握った僕は、直後からずっと異世界へと場を移している。
景色はコロッセオのまま。
対戦相手のウォーレンさんも。
司会役と審判とかも。
観客とかもね・・・・・全部、そのままで、異世界なんだよ。
で、そんな風景のまま異世界へ身を置いた僕と言えば。
「・・・・ですから。主様にはですね。もっとこう主として相応しい戦い方を要求しているのです」
「姉様。主様は今年に入ってから。それもここ最近は特に反発しやすくなりました。苦痛を伴う躾も必要かと」
「ですね。私と私の可愛い妹に最も相応しい主として。過ぎた我が儘には躾が必要でしょう」
はははは・・・・・・
今日は未だ怒ってるなぁ。
僕、もう一時間は正座で怒られているのですが。
で、僕を叱るコルナとコルキナをね。
さっきからティアリスが何度も庇ってくれるんだ。
僕の一番は何時でも味方で。
あぁ・・・・ホント、ティアリスが一番だね。
なんて思ってたら。
ユミナさんが悪戯を思いついた・・・・様な笑みを浮かべていたよ。
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ユミナさんが悪戯を思いついた。
たぶん。
此処は外していない。
「コルナもコルキナも。アスランは未だやっと七歳になったのですよ。反抗期くらい当然でしょう」
「「ユミナ様」」
「だいたい、人間と言えばですよ。この反抗期で、ありとあらゆることを経験して。その最中にはたくさん叱られてですね。そうして大人になっていくのです」
悪戯を思いついた顔を隠せていないユミナさんはね。
そのまま前屈みの姿勢になると、コルナとコルキナの間に顔を入れる様にしてヒソヒソ・・・・・・・
一体、何を吹き込んだのだろうか。
ひそひそ話は直ぐに終わったけど。
なんか三人して不気味な笑みがね。
「主様。ユミナ様から程々にと言われましたので。此度の説教は此処までとします」
何を企んだのかは別として。
一先ず、この正座からは解放されそうだ。
「ですが、主様が馬鹿としか言えない。それも私と可愛い妹の主として全く相応しくない醜態を晒した件については。やはり、お仕置きが必要です」
「で、何が言いたいの」
「そうですね。主様は自身が子供だという事は理解っている筈です」
「うん。それは理解っているつもりだけど」
「でしたら何故。何故あのような負けると理解っている真っ向勝負に熱を入れたのですか」
「だって・・・・正々堂々なんて言われたらさ」
「はぁ、本当にお馬鹿さんですね」
僕、姉のコルナから完全に子ども扱いされました。
まぁ、七歳だからね。
でも、僕は一応、ご主人様なんだぞ。
「主様は正々堂々の意味を真っ向勝と解釈した。そこがお馬鹿の始まりです。猛省してください」
「・・・・はい」
「何やら不満そうですね」
「・・・・別に」
「やっぱり不満だと顔に出ています」
だって、僕・・・・騎士だもん。
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僕へのお仕置きは、それは後からするってさ。
最後にそう言ったコルナと、頷いたコルキナの説教からは解放されました。
ですが。
今度はユミナさんから呆れ顔と口調で色々とね。
「私も騎士王などと謳われましたが。正々堂々を単に真っ向勝負だけだと解釈した記憶はありません。後ろ指を指されるような卑怯事さえしなければ。正面から挑もうが、背後から仕掛けようが。あとは自由です」
へぇ・・・・そうなんだ。
「じゃあ、ユミナさんがいつもやる裏拳とか髪を掴むのとか」
「相手の家族などを人質にするとか。或いは小さな子供を同じ様に人質としたりなどの様な。そういう卑怯事は絶対に許されません」
「線引きが極端な気がするのですが」
「貴方に譲渡した騎士王の御旗。あれに背くような行為の全てが許されない。あとは貴方の判断次第です。ですが、その判断こそ。実は最も重要だという事も忘れてはなりません」
「じゃあ、正面から挑んでも良いような気がするんですけど」
「相手が私なら。貴方の様な子供からの真っ向勝負。一度ならず何度もという事へ。それは馬鹿にされたとしか思えません」
ユミナさんはね。
確かに悪戯大好きな人だけどさ。
今だけは真っ直ぐな視線を突き刺してくれた。
だから。
僕にも、今のユミナさんの言葉が本心だったくらい。
「アスラン。貴方が正々堂々という部分へ。それで真っ向勝負を挑んだことには。解釈を誤っている、とまでは言いません」
真っ直ぐな視線を突き刺すユミナさんの声は、だけど、なにか優しかった。
「ですが。此度の対戦相手。あの者は幾多の戦場を駆け抜けている。それを抜きにした所で。そもそもの体格差が大き過ぎます。十年後くらいの貴方であれば。先ほどの様な真っ向勝負も良いでしょう」
何でだろうな。
ユミナさんの言っている事が、それは凄く理解っているのに。
どんなに優しく言われても。
やっぱり面白くない。
そう思ってしまう部分があるんだよ。
「ふふ。面白くないと感じてしまうのは。それが成長期に欠かせない反抗期だからですよ」
ユミナさんは僕へ。
反抗期は成長するための通過儀礼だから仕方ない。
誰しもが必ず通過するもので、僕が尊敬もする友達のエルトシャンだって。
この反抗期を必ず通過する。
「あのウォーレンという者ですが。正々堂々と勝負がしたい。その心意気へ対して。アスランがするべきは真っ向勝負ではありません。最初から不利と分かっている力勝負では、彼の者への失礼を積み重ねるだけでしょう」
僕は今、自分の中に在る面白くないへ。
そういう感情もあるのを分かりながら。
だけど、ユミナさんの話を、しっかり聞こうと意識している。
「今日までに培った経験は。体格で劣るアスランへ、何を学ばせましたか。勝つための駆け引きが、恥ずべき事だ等と。そんな事を教えた覚えはありませんよ」
一本取るために。
身のこなしも足の運びも。
技を繰り出すタイミングや、フェイントだってそう。
「正々堂々とは、貴方が培った全てを出し切る。そういう解釈で構わないのです」
そうしたかった訳じゃないけど。
僕は自然と、項垂れてしまったよ。
僕・・・・・やっぱり、まだまだ、だなぁ。
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両手に剣を握ったアスランを、そこから先を見届けたカシューの顔色は、誰が見ても分かるほど青ざめていた。
「おいおい・・・・・なんなんだ、あれは。今度は瞬殺かよ」
「あの子って・・・・ホント、何者なのよ」
昨日は試合もしたイサドラとて、カシューが青ざめるくらいは理解も出来る。
だいたい、自分の時はこんな強さを見せても居なかった。
「シャルフィの騎士ってのは、いつからこんな化け物を育てていたんだよ」
「あれでまだ七歳・・・・信じられないわね」
「あぁ、正に悪夢でも見ている気分だ」
「私なんか。あんなのを相手に試合をしたのよ・・・・・手加減されて良かったわ」
「だな。斬鉄のウォーレンが、此処までズタズタにされる姿なんざ」
「それにしても。たった一撃で・・・・こんなことってあり得るの」
両手に剣を握ったアスランが、そこから仕掛けたのは一度のみ。
カシューとイサドラには、そうとしか映らなかった。
だが。
現実には、全身を串刺しにされたのではと。
背中から仰向けに倒されたウォーレンに意識はなく。
上から見届けた者達には、倒れたウォーレンを囲んで広がる赤黒い液体へ。
既に死んでいるを抱く者の方が多かったのだ。
ただ、駆ける救護班が到着するより少し前。
コロッセオに集まった者達は、恐らくは助からないであろう。
否、既に死んでいる。
そう抱いたウォーレンを包み込んだ金色の輝きを映して。
その少し後の出来事へは、堪らず声を張り上げていた。
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「主様は馬鹿ですか。学習する気が無いのですか。なんで今度は手加減無しの容赦なしなのですか。お馬鹿さんも此処まで来るとですね。やはり、徹底的な躾が必要だと思わされてしまいます」
「姉様。主様は未だ子供なのです。お馬鹿さんは仕方ないことだと」
「はぁ、コルキナ。コルキナは優しいですね。ですが、その優しさへ甘えたのが馬鹿な主様ですよ」
僕は試合に勝ったよ。
さっきも色々と言われたしさ。
なのに。
勝ったら勝ったで、今度もお説教タイムだよ。
「僕、ユミナさんに言われた通りにやっただけなんだけど」
「主様は手加減を知らないのですか。このお馬鹿さん」
「いや、だってさ。そんな事をしたら正々堂々にはならないんじゃ」
「そういう短絡的な解釈しか出来ないのが。つまり、お馬鹿さんだと言っているのです」
「短絡的って」
「主様は、彼の者を殺したかったのですか」
「そんなつもりは無いよ」
「でしたら、手加減するのが筋でしょう。主様は先ず、ご自身がどれくらい強いのかが。此処を全く理解っていません」
う~ん・・・・
でも、そう言われるとね。
僕が今みたいな戦い方をして来たのって。
先ず、ティアリスでしょ。
で、レーヴァテインとユミナさん。
「そう言われると。僕ってハンスさんとは、さっきみたいな試合はしたことが無いんだよな」
「やっと理解しましたか。このお馬鹿さん」
「ねぇ、コルナ。お馬鹿さんは子ども扱いされている気がして・・・・嫌なんですけど」
「主様は、未だ子供です。子供を子供扱いして何が問題ですか」
今日のコルナは機嫌が悪い。
だいたい、今朝だって。
僕はティアリスからのお説教タイムを過ごしたのにさ。
『マイロードは戦い慣れしていない。その事を昨日は痛感したかと』
とまぁ、ね・・・・・
僕は正座で説教を聞いていましたよ。
でも、僕はね。
僕のためを一番に思ってくれる。
それを理解っているからさ。
ティアリスの説教は苦にしないんだ。
結局、僕は時間にして二時間くらいを、異世界の方で。
コルナのお説教タイムを正座で過ごしました。
だからさ。
こっちの世界に戻った時には疲れ切っていたんだ。
カシューさんとかイサドラとか。
アリサからも声を掛けられていたけど。
僕は空いているベンチに仰向けになるとね。
後はそのまま。
もう完全に眠ってしまったよ。