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第14話 ◆・・・ 教師エストとエレン先生?から学ぶ日々 ⑦ ・・・◆


アーツを自分なりに理解する過程は、前向きに取り組めるようになったアスランの深層にも、変革、或いは成長という波紋が、徐々に大きな広がりを見せ始めた。


『事象を前向きに捉えられる』


振り返れば、それも昔の事。

抱いた夢や憧れは、時にアスランを『諦め』で、納得させて来た。


今は先ず、思ったままを試してみる。

試して、その結果を、今度は考えてみる。

考えたら、また試してみる。


この繰り返しを、積み重ね続けたアスランに備わったもの。

それは、ある種の強さ。

そう呼べるものだった。


また、最近のアスランは、胸の内に抱く憧れへ。


・・・・・自分は一歩近づくことが出来た・・・・・


そんな感を得た気になっていた。


剣と魔法が使える騎士。

アスランの中では、憧れの『騎士王』が、一番に思い浮かぶ。


因みに、聖剣伝説物語の中では、剣と魔法を使える存在として、騎士王の他にも、幾人もの聖騎士が描かれている。


まぁ、それでも。

僕が、一番に憧れるのは、やっぱり『騎士王』なんだ。


『騎士王ユミナ・フラウ』

アスランも読んだ聖剣伝説物語に登場する主人公である。


作中におけるユミナ・フラウは、貧しい騎士の家に生まれた娘となっている。

けれど、ユミナは跡継ぎが欲しい父親が騎士にするため、ずっと男子として育てられた。


時代は戦乱の渦中。

やがて成長して騎士になったユミナは、戦乱の中で、対を成す美しい双剣。

『コールブランド』と呼ばれる聖剣を、女神より授けられた。

そして、ユミナは戦乱の時代を終わらせるべく、集った仲間達の先頭に立って時代を駆け抜けた。


聖剣伝説物語の概要。

簡単に述べると、暗黒と呼ばれる時代を終わらせるために戦い続けた、騎士王と聖騎士達の物語である。


聖剣伝説物語には、英雄と謳われる存在が、数多登場する。

この辺りも理由となってか、アスランも含めた子供なら、誰しも一度は憧れる。


憧れの多くは、やはり、主人公のユミナ・フラウだろう。

しかし、主人公以外の個性的な者達を一番に推す声も、少なくは無いのだ。


シャルフィでは、子供たちがよく聖剣伝説を模した遊びをしている。

アスランは孤児院の子供達が、近所の子供達とそうして遊ぶ光景を独り。

ずっと図書室の窓越しから見ている側だった。


もっとも、今は違う。

夢中になれる何かに身を置ける。

その事が精神に与える作用の大きさ。


幼いアスランは、この点を未だに理解っていない。

と言うよりも、先ずそうした知識を得ていないことで、故に知らないのだ。


アスランは今、素振りをしながらマナ粒子発光現象を起こす。

新たに、という言い方も出来るが、この場合は、課題がまた一つ増えたが近いだろう。


これも思い付きから始まった取り組みは、想い描くようには出来なかったが、全く出来なかったわけでもない。

まぁ、最初はこんなものだろう。


この頃のアスランは、既にそう割り切れる自分が居る。

同時に此処からの努力次第では、想い描く様に出来るはずだと信じて疑わない。


聖剣伝説物語を読めるようになった頃、剣と魔法を使う騎士王への憧れは、アスランにも、そうなりたい幻想を強く抱かせた。

それは今になって、現実に出来るかも知れないを、より実感的に抱ける様にさえ変化させた。


もし、剣と魔法の両方を、自在に出来るようになったら。

騎士王のような騎士にだって、大きく近づけるのではないか。

勿論、剣や魔法が出来るようになっても。

人として正しい行いをしないといけない。


『騎士』は守るために在る。

シルビア様は、そう言っていた。

神父様は『善き人で在れ』と、いつも教えてくれる。


それでも。

出来るようになったら、やっぱり格好良い(●●●●)んじゃないかなぁ。

あと、騎士の中には二つ名を持つ凄い人も居るって聞いたし。

僕もそうなったら『魔法騎士』とか・・・・・・


騎士王へ憧れる所は、アスランも他の子供達も、そう変わりがない。

けれど、アーツを学んだことが、他とは決定的に異なる未来を強く抱かせた。


今でこそ前向きな姿勢を備えるアスランは、しかし、根底には未だ心傷も在る。

当時のアスランが、これも無自覚のまま奥底へ押し込んだ心傷は、代償を欲した。


――― 代償行為 ―――

心理学的に言うのであれば、恐らくこうなのだろう。

何故なら、この事を自覚しない程、意識の深層は刷り込まれた。

そうして無意識の内に、考えたり思わない様にしなくなったに過ぎない。

それでも、アスランの願望は、他の子供達と仲良くしたいのだ。


此処は、歪とも矛盾とも言える所だろう。


だが、そんな当たり前の望みは、精霊の声を聞ける理由が、結果的は阻害してしまった。


他の子供達とは仲良く出来ない。

でも、本心は皆と同じように友達が欲しい。


叶わなかった望みは、そして、代償を欲したに過ぎない。

アスランの奥底に在る意識は、代償として、自身が常に誰かから認められたいを、自覚すら抱かない所で今もずっと育んでいたのだ。


孤立した当時。

その頃のアスランは、未だ自我らしい自我を備えていなかった。

なにせ、簡単な会話が出来る程度の言葉を話せるようになった幼子なのだ。

大人が抱くような自我を備えていたとは、到底言えないだろう。


事件によって孤立した後。

この時のアスランは、スレイン神父やシルビアの理解があって持ち直した、かに映りはした。

完全に塞込んでしまった状態と比較してではあるが、再び周りと言葉を交わせるようにはなった。


いつ頃からとは、はっきり言えない。

けれど、アスランは、自分を褒めてくれる人達の前では褒められ続けたい、と頑張るようになっていた。


褒められようとして、そのためになら、無自覚が己を殺すアスランを、けれど、シルビアとスレイン神父は、それが心傷から生まれた歪さを基にしているくらいを理解っていたのだ。


二人は、それも最初に見抜いたのはスレイン神父なのだが。

スレインから聞いて、シルビアがどれ程に胸を痛めたか等。


シルビアは、それで特に、褒めるを意識したのだ。

此処は、スレインも同じ。

二人は、善き行いをするアスランを、たとえ些細な事であっても、よく褒めるように努めた。


だからこそ、今日現在のアスランが在る、とも言えるのだ。


誕生日に木剣を与えたばかりの頃。

シルビアは、アスランが教えた素振りを頑張り過ぎて、それで掌が痛々しいまめだらけになった後。

アスランの掌へ薬を塗りながら、努力を褒めた。


『よく頑張りましたね』


シルビアはアスランの両手を、自分の両掌に包み込むようにして。

瞳に映ったアスランの笑みが、この瞬間の胸内を、苦しいくらいいっぱいに締め付けた。


アスランが文字の読み書きを習って間もなくの頃。

覚えた文字で、自分の名前が書ける。

絵本も読めるようになった。

教えた側のエストとシルビアは、勿論ちゃんと褒めている。


最近は何処か明るくも映ったアスランへ。

そう感じ取ったスレインは、『貴方の世界は、これから大きく広がるでしょう』と自然、嬉しい感情が溢れた。


頑張った事を認められる。

それは子供に限らず、嬉しいと抱ける要素だろう。

故に、アスランの心傷を癒すためには、これも絶対欠かせないを、そう抱く三人は心掛けるのである。


僕は4歳になってから、毎週必ずテストを受けている。

何故、テストを受けるのか。

僕は、シルビア様から、テストを受ける理由を聞いて、納得もしているんだ。


聞いて分かった事は、幼年騎士も通う学校が、普通の学校よりもずっと難しい事を勉強するらしいんだ。

毎週のテストは、今は未だ無理でも、その学校へ通えるようになるために必要だって。

シルビア様は、だから、テストで良い点数が取れれば。

良い点数をずっと取り続けられれば、約束通り引き取って、ちゃんと騎士に育てますも言ってたんだ。


それから、毎週のテストの後だね。

シルビア様は僕に手紙をくれるんだよ。

で、『勉強を頑張っているアスランが私の励みです』ってさ。

なんかね。

良い点数を取った事よりも、僕は、シルビア様のこの言葉の方が、ずっと嬉しいんだ。

だから、次も頑張って良い点数を、満点を目指そうって思える。


こうした心理状態が、勉強するアスランへ自然、常に真剣に取り組む姿勢を根付かせた。


聖剣伝説物語の主人公。

騎士王ユミナ・フラウは、誰からも認められた英雄である。

対してアスランは、そんな騎士王に憧れながら。

今も根底で『自分も同じくらい認められたい』願望を、無自覚に育てている。


この願望は、剣の稽古や勉強といった分野で、『褒められた』事を養分にして育つと、更にアスランの『次も褒めて貰いたい』欲求の源にすらなった。

まぁ、これも転じて4歳とは思えない実力を得るに至らせた、とそう言えるだろう。


傍近い所に居るエストとスレイン神父は勿論。

そこへシルビアと今はカーラも、アスランには天才の素質が在るとの認識は一致。

だが、同時にアスランの内に在る歪さ。

理解者の中では、今も最年長のスレイン神父だけが、此処は一番よく見抜いていた。


もっとも、アスランにそうした心傷が在っても。

それで好ましくない方向へ歪んだのであれば、問題として明るみになったかも知れない。

けれど、アスランは聖剣伝説物語を、自分で読めるようになって以降。

今でも読み返している。


単純に大好きな本だから、何度も読み返している。

というだけでなく。

読み返すことで得られる部分。


『読み解く力を養う』


これは4歳の誕生日の後から貰ったシルビアの手紙に記してあった。

繰り返して読むことも勉強になる。

同時に理解力が深まれば、同じ文章から新たな世界を感じ取れるようになれる。


この手紙以前に、アスランは聖剣伝説物語を、既に何度も読み返していた。

だが、この手紙を読んでからは、意識の置き方にも変化が生じた。


アスランも憧れる騎士王ユミナ・フラウ。

作品の中で、騎士になる以前のユミナは虐めを受けていた。

騎士の世界にも、序列や差別が在って、そして、ユミナの家柄は、騎士の家系でも一番下に置かれていたのだ。


それでも、物語の途中、ユミナは騎士王となった。

そんな主人公を、今のアスランは『騎士王は、それでも英雄と呼ばれるくらいに頑張った』のだと、受け止めている。


ユミナは虐めに屈しなかった。

身分や階級といった差別で、不平等に扱われても。

それを嘆いたりはしなかった。

やがて、戦火によって故国が滅んだ後は、自らの志一つ。

それを掲げて、自由な騎士団を起こした。


ユミナが率いる騎士団は、戦火の無い世界を目指した。

この世界の闇を討って、光を取り戻す。


何度も読んだからこそ、分かって来た。

アスランは、今の自分にも置き換えられる部分を、多く得られた。


今の自分の状況。

先ず、自分自身が望む方向へ向かって努力しなければ、何も始まらない。

物語の騎士王がそうだったように。

誰かの力で変えて貰うのではなく。

その機会を待つのでもなく。

自分の足で一歩。

この一歩を続けることが、望む未来へ近付ける。


騎士王ユミナ・フラウには、多くの友と呼べる仲間が集まった。

ただし、始めからそうだった訳ではない。

この部分も同じ。

神父様が言うように、『善き行い』をして来たからこそ集まったのだ。


実に単純な思考ではあるが。

アスランの内側には、『虐められても虐め返さない』という不文律が在る。

この不文律は、シルビアの教えがそうさせた部分で多くを占めながら。

スレイン神父とエストの二人。

つまりは、アスランをちゃんと見ている側、その主要人物たちの存在によって成り立っている。


アスランは、この三人から褒められる事が多い。

そして、褒められ続けたいから、嫌われないようにしている。

特にシルビアから嫌われることが、アスランの中では、エストの鉄拳ですら比べられない程、遥かに怖いのだ。

結果的に、『虐められても虐め返さない』は、それもアスランの礎を構成する要素となった。


そんなアスランの在り様。

無自覚な部分までを見抜いているスレイン神父は、だからこそ。

4歳になった以降の今でも、胸中は複雑で占められることが度々だったのである。


『自分も前を向いて頑張れば。いつか騎士王のようになれる日が来る』


不遇の中でも、アスランが前を向き続けられた要因。

内側に生まれた軸は、これも主要素が『騎士王』の存在だった。

だが、同時にそれは、教会総本部が採用した著書の『聖剣伝説物語』とも言えた。


教会総本部は著書の採用に当たり、その選定基準として、『より良き書は、良き人格を形成する』という不変の骨子を、創設以来ずっと今日まで明文化している。

これもアスランを、好ましくない方向へ歪ませなかった事へ。


まぁ、少なからず寄与した、とも言える?のかも知れない。


実際、心傷については、当人が自覚すらしていないのだ。

最近のアスランは、特に午後の自由時間で、アーツを使うことを一番楽しんでいる。


こうして充実した日々を過ごしているアスランは、全くと言っていいくらい、寂しさを抱いていなかった。


今日も午後の時間、アスランは素振りと同時にマナ粒子発光現象が出来るようになるための特訓を続けている。

最終的な目標は、剣を使いながら自在にアーツも使えるようになること。

この技もまた、憧れの騎士王が強く関わっていた。


特訓を始めて間もなくの頃。

アスランはこの技についても、エレンに尋ねていた。

自分の中では何となく出来る気がする。

けれど、実際の所では不安もある。


エレンへ自分が取り組んでいるものが、最終的に想像通りの形へ行けるのか。


『昔の人間はねぇ~。うん♪アスランの考えていることもしていたね♪だから出来るんじゃない♪』


エレンの口調は相変わらず。

今回もまた、馬鹿にされた感がある。

そこは面白くないが、まぁ、それも慣れた。


エレンがこういう存在も理解っている僕はね、そんな所に拘る気も無かったよ。

と言うかさ、今一番気になっている事さえ聞ければね。

それで良いんだよ。


そうしてアスランはエレンから、これも超文明時代には、既に存在していたことを知り得た。


ちゃんと前例が在ったんだって。

おかげで、前よりも確証を持てたよ。


この事実がアスランへ、『自分にだって出来るはずだ』と、特訓へ更に熱を入れさせた。


剣の扱い方。

アスランはシルビアから、素振り稽古と初歩の型稽古までは指導を受けている。

それ以外の、例えば実戦的な稽古などは、そもそも指導すら受けていない。


もっとも、この辺りは指導する側のシルビアが、当時のアスランには必要ないと判断した部分でもある。


アスランの特訓は故に、今はまだ型の動きの流れの中か、もっと簡単に素振りをしながら。

そこで同時に粒子発光現象を、それも自在に起こせるように繰り返しを重ねていた。


特訓の一方で、もう一つの課題。

課題は、エレンのようには出来ないでいるアーツ。

事実、アスランはファイア・アローを、今もエレンのようには使えないでいた。


マナ粒子発光現象が出来るようになるまではね。

僕も、なんて言うかさ、ガックリしたこともね。

まぁ、そんな感じで落ち込んだこともあったよ。


だから余計、マナ粒子発光現象が出来るようになって以降のアスランは、心境の変化が、姿勢の変化にも、顕著に現れたのだ。


僕?

そうだねぇ、たぶん、諦めなければさ、僕にも出来るって、そういう感じだね。


その日その日は上手く行かなくても良いと、そう思えるようになった。

そんな事よりも、今は思い付いたり閃いたことを試すことで、少しずつでも前に進んでいる。

大事なのは、自分が今日も前に進めたこと。

それから、今日の修行を楽しめたことだと。


誰しもが自覚を抱き難い根底での変化は、アスランもそう。

ただ、未だ幼いからこそ、成長の仕方へ大きく表れたのだ。


アーツに置ける修行の日々は、真実、本人も色々と気付いていない所がある。

付け足すと、そこには間違いなく、指導する側の問題があった。


そのため、修行するアスランは、目に見えて明らかな何かを得られなかった期間。

この時期は、それで気分の浮き沈みも度々だった。


今の姿勢は、『マナ粒子発光現象』という、明らかな事実を得たからこそ。

アスランは自覚出来る自信を一つ、この時に掴み取ったのである。


そこから現在へ至るまでに、新たに理解ったことは、マナ粒子発光現象が、此処で指先にマナを収束させなくても発生する。

けれど、指先にマナを収束させた状態でマナ粒子発光現象を起こすと、より密度の濃い事象干渉となって現れる。


発光現象は密度の濃い方が、見ていて綺麗だった。

そう素直に感じ取ったからこそ。


綺麗な方を見たい。


単純な理由ではあるが、アスランはそれで特に意識して、マナを収束させるようになった。

この段階でまた一つ。

アスランは知らない内に、アーツの基礎を固めていたのだ。


その日その時で、思い付いたり閃いたことを試し続けた日々。

ある時アスランは、魔法式を意識感覚だけで出来るのではないか。

漠然としたものだったが、思考は早速のように実践へ移った。


それまでの、魔法式を声にして唱える過程は、思い付きが意識の内側で、つまりは無詠唱。

要は感覚を再現できれば、問題なく出来るのでは?


漠然と抱いたことへ。

ただ、実際に出来れば、『無詠唱アーツ』が可能だと証明されるはず。

漠然は更に、剣を振るいながら意識感覚だけで、アーツも自在に使い熟せるなら。

それは本当の意味で、自身が想像した通りの『魔法騎士』が、現実になるかも知れない。


もうね、その時はさ、凄くワクワクしたんだ。


想い描く無詠唱アーツのメリット。

魔法式を声にして唱えない部分は、属性は別にして、発動するアーツの特定を困難に出来る。

それから、意識感覚だけでの再現だからこそ、発動までの時間を短縮も出来る筈。


もっとも、この点はどれも実証されていない、だから仮説。

しかし、この仮説が実証へ至れるなら、無詠唱にはもっと先、アーツの即時発動。

それすらも出来る可能性が拓かれるのではを、アスランはノートへ記していた。


――― 無詠唱アーツ ―――

固有名称は、アスランが付けた。

この事をエレンは、『アーツは自由で無限なんだしぃ~♪たぶん、出来るんじゃない♪』と、口調は相変わらず。

けれど、不可能とは一言も口にしなかった。


アスランの修行の日々は、それこそ月日は駆け抜けるようにして、既に暦も一年の最後の月へと入っていた。

先日には前回のテストの結果と、また課題の問題集の他。

これもいつも通り、シルビア様からの手紙が届けられた。


ただ、いつもはテスト結果の感想などを書いた手紙が一通でも、今回は手紙の中にもう一通。

自分宛の封筒を開けたアスランは、中に手紙とは別の便箋を映すと、先ずは取り出した。


便箋は、それも宛名は自分へだった。


きっとアスランだけに読んで欲しい。

スレイン神父からそう言われたアスランは、便箋だけを午後の自由時間に図書室で開いた。


便箋には、4歳の誕生日からもう四ヶ月以上も会っていないので、少しは背が伸びたのか。

あとはシルビア自身、今も外国へ仕事で度々出掛けているので、そのため会いに行く時間を作れないでいる・・・・・


最後まで読んだアスランは、便箋に記された『アスランはどんな騎士になりたいのでしょうか。そして、なりたいと思うアスランの理想に近づけていますか』と、この一文へ。

思考は、誕生日の少し前を思い出していた。


記憶はシルビア様から初めて、剣術の型を教えて貰った後。


『騎士は、守るために在るのです』


シルビア様は僕を真っ直ぐ見つめながら、そう言ったんだ。

その時だけど、声の感じもね、今なら真剣だったくらいも理解るよ。


シルビア様からは、何を守りたいのかは『誓い』として、騎士の一人一人が必ず持っているって聞いたんだ。

だから僕も、騎士を目指すなら、守りたい何かを『誓い』にしなければならないんだって。


僕はシルビア様から、その事を最初に尋ねられた時だけど、『シルビア様を守ります』って、今もその気落ちに変わりなんか無い。


でも、シルビア様はね、首を横に振ったんだ。

いつもの優しい表情だったけど、『私だけを守る。ですが、それだけでは、シャルフィの騎士に任命できません』って、はっきり言われたんだ。


あの時だけど、僕はなにか間違った事を言ったのかなって。

だから、騎士にはなれないのかなって、それで泣きそうになったんだ。


そうしたら、シルビア様はね。

僕の頭を優しく何度も撫でてくれたよ。


シルビア様はね。

僕に、そうじゃないって。


『アスランが守りたいものの中に、その中の一つに私は居るだけで良いのです。守りたいものは一つでなくとも良いのです。今すぐには理解らないかも知れませんが。大きくなる中で、それを見つけて下さいね。貴方にはきっと、それが出来るはずです』


アスランは便箋を、折り目通りに畳み直した。

それから間もなく、深呼吸をするような感覚で深く息を吸い込むと、やがて静かに吐き出した。


まるで、何かを強く決意した感の雰囲気を纏いながら。

唇は、自分へ言い聞かせるように。


「守りたい何かが決まった時のために。その時のためにも。僕は先ず、剣と魔法が自在に使えるようになろう」


それは自身にしか聞こえない程度の小さな声だった。

だが、顔に表れた感情は、瞳の奥で、紛れも無く強い意志を宿していた。


図書室を出た後、アスランはいつものように空き地へ向かった。

そこで手近な小枝を拾ったアスランは、此処に来る途中も考えてきたことを、先ずは地面に書き始めた。


今取り組んでいるアーツの修行。

目標は『魔法騎士』


魔法騎士=剣を使いながらアーツも自在に使える騎士。


剣術の方は、毎日欠かさず素振りと型の稽古を継続している。

アーツの修行は、『無詠唱アーツ』が出来る様になる事と、まだ出来ていない発動を出来る様になること。


地面に書き込んだ内容を真っ直ぐ映しながら。

自然、「先ずは此処からだな」と呟いたアスランは、この日も夕暮れまで修行に打ち込むのだった。


2018.5.13 誤字の修正などを行いました。

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