第29話 ◆・・・ 獅子旗杯 ⑪ ・・・◆
獅子旗杯はベスト8を懸けた戦いの一試合目が始まった。
だが、コロッセオの観客席は、始まった試合が、直後から今なお一度として落ち着かない。
両者一歩も譲らずの激突へ。
特に獅子旗杯を、何十年と見届けて来た者達は、近年はもう見ることが叶わなかった。
後から死闘だったと。
そう呼べるかもしれない戦いを映して、血が沸き立った。
胸の奥底から溢れ出す熱情は、それが無意識の内に握る掌に汗をかかせた。
中には食い込んだ爪によって。
皮膚を赤く滲ませた者までいる。
込み上げる感情のままに叫んだ声も。
叫び続けて、喉が悲鳴を上げてもなお、止めることが出来ないでいる。
何故なら。
今の彼らは、飛び散った赤がステージさえも彩った戦場へ。
滾った恐怖と興奮とが、今この瞬間も胸の奥底から熱く沸き立っているのだ。
ステージに立つ二人は、開始直後から激しく衝突した。
刃と刃が火花を散らす最中。
小さな騎士は耳と頬に、剣を握る手から。
もう一人も剣を握る手と、他に肩や腕に脚から。
両方ともが血を流す激突は、まるで、このまま一気に勝敗を決しようとしているのではと。
そうも思える二人の、半歩も譲ろうとしない姿勢へ。
だからこそ。
これこそが真に獅子旗杯だと抱く者達は、今も溢れ出す感情を、僅かにも飾ることなく叫ぶのである。
-----
はっきり言って。
近年は特に、伝統ある獅子旗杯ですら。
単に注目を集めるだけの、時に奇抜な見世物で終わっていた。
本来の在るべき姿からは、かけ離れてしまったと・・・・・・
こう口にするのは、獅子旗杯を何十年もの間、最後まで見届けて来た多くの者達だ。
確かに、十年も前には、獅子旗杯が幾人もの死者を出す危険な行事くらいも当然だった。
そうして、当時でさえ獅子旗杯を、最後まで見届けて来た者達の心情は、故に近年のスポーツの延長か。
或いは見世物でしかない行事へ。
――― こんなものを獅子旗杯とは呼べない ―――
それだけ許せない感情を、大多数である彼等だけは募らせていたのだ。
本当の獅子旗杯とは。
数多の命と引き換えにしてでも。
武の頂きを目指す所にこそ、伝説の様に語り継がれる感動があったのだ。
あの頃は、コロッセオで戦った者達の。
その結果としての死へ。
見届けた自分達の、たとえ誰であっても。
軽はずみな冗談や冷やかしの一つが、絶対に許されなかったのだ。
獅子旗杯の舞台となるコロッセオのステージには、誇りや信念といった強い意志が集う。
出場者の誰もが、我こそが最強だと決して譲らない。
そういった意地や誇りが繰り広げる激しい死闘は、見届けた側にも。
単に感動したなどでは、表現が軽過ぎるを言い切らせたのだ。
ただ、それこそが本当の獅子旗杯というもの。
剣や槍と言った武器も。
他に弓や、今では銃もそう。
後は素手による格闘もだろう。
近年は、どれもこれもが、スポーツのような色合いを濃くしている。
別に、スポーツ競技を否定はしないが。
獅子旗杯だけは、スポーツ等ではない。
コロッセオは、命を懸けてでも掴みたいモノが在る。
それがある唯一無二の戦場なのだ。
-----
「(・・・マイロード。傷の治療はしないのですか・・・)」
ティアリスは、自身の柄を握る掌を伝うと、今もステージへぽたりぽたりと赤黒い雫を落としている。
にも拘らず、治癒をしないでいる主へ。
これが意地によるものなら。
そんなものは愚かだと・・・・・・・
シトレ・ウォーレン
試合開始までの時間で、彼の者については、出来得る限り調べました。
そうして、ヘイムダル帝国では、アルハザード流とセルナーク流に並ぶもう一つ。
三大流派が一つ、騎士剣こそが王道を掲げる『エルブレア流』の使い手であることが判明したのです。
マイロードへは話していませんが。
闘士アルハザード
疾風の剣士セルナーク
聖騎士エルブレア
三人とも、あの時代を。
姉様や我らと同様。
譲れない誇りや信念を掲げて、最後まで駆け抜けた者達なのですよ。
もっとも、三大流派の祖であるかどうかは、それは分かりませんが。
何せ、三人とも一癖も二癖もある者達でしたから。
単純に考えるなら。
後の時代で、その名を掲げただけの流派ではと。
そう思う方が、寧ろ自然でしょう。
ですが。
此度も情報を提供してくださったカシュー殿ですら。
『斬鉄のウォーレンと言えば。その名だけで戦場から逃げ出す奴等が後を絶たない。まぁ、そういう意味でも恐ろしい奴だぜ』
両手で扱う大剣と比べれば小さくとも。
普通の片手剣と比べれば、軽く二回りは大きな剣。
ですが、彼の者にとっては、それが最も適した剣なのでしょう。
僅か数秒前までを思い返すティアリスは、打ち合ったからこそ分かる部分。
この相手は、此処までに戦った他の二つの流派。
その使い手達とは根本からが違う。
技量は言うまでもなく。
だが、それ以上に彼の者を成す軸と言えるところ。
・・・・・彼の者を形作った部分。ですが、マイロードとて。絶対に許されないモノを背負っているのです・・・・・
コルナとコルキナも。
それに姉様もそう。
マイロードへは未だ告げていないだけで。
ですが。
呪いとも呼べるその重責だけは、もう既に継承されたのですから。
-----
控室から一試合目を、此処までは無言のままじっと見つめながら。
自らも気付かぬ間に拳を握り締めていたカシューは、けれど、互いにやっと間合いを取った所で、どっと息を吐き出した。
開始を宣言された直後。
ステージでは、いきなり猛々しい雄叫びを上げた両者が、叫びながら突っ込み合う形で激しく衝突した。
激しさは交わった剣と剣が、擦れ合うと幾つもの火花を散らせた。
ただ、衝突は身体の小さいアスランだけが、派手に弾き飛ばされた。
アスランだけが大きく弾き飛ばされて。
そこへ間を置かず飛び込むと、姿勢を崩されたアスランへ繰り出されたウォーレンの斬撃。
ところが。
弾き飛ばされたにも拘らず。
上体を仰け反らせながらも、アスランの着地は崩れなかった。
更に襲い掛かるウォーレンが繰り出す、横薙ぎの斬撃へも。
踏ん張った下半身が、一歩踏み込んだのに合わせて。
そこから反った上体も、勢いよく戻したアスランの腕が。
握る剣を、懐へ飛び込んだウォーレンへ。
再び火花が散るほど、激しく叩き付けたのだ。
剣速はアスランが、遥かに勝った。
勝ったからこそ。
ウォーレンの斬撃を、受けるのではなく。
逆に攻め返した姿勢が、上から斬り伏せようと。
そうして、派手な火花まで撒き散らした。
ウォーレンは、あの瞬間の剣速で後れを取った分。
受ける形になった事が、肩の負傷に繋がった。
だが、ウォーレンも肩へ傷を負いながら。
そこから力任せに押し込んだ。
大人であるウォーレンが、七歳になったばかりの子供に対して。
数倍はある筈の体重差を使って押し込んだ踏み込み。
上から斬り付けたアスランは、雄叫びを上げるウォーレンの気迫だけでなく。
体重差で圧倒されたように押し込まれた。
・・・・・しかしだ。あいつも相当な負けず嫌いだったな・・・・・
そう。
最初は小生意気なガキだと。
それからクソ生意気なガキへと改めた。
・・・・・まぁ、男なら。あれくらいで良いんだがな・・・・・
結果的にだが。
あの攻防も、身体も大きく体重も多いウォーレンが押し切った。
小さな子供を相手に大人気ないも、卑怯臭いも言えそうではあるが。
あんな力任せで強引な押し込みは、相手がアスランだからこそだろう。
斬鉄の異名を持つシトレ・ウォーレンを、それだけ本気にさせた。
アスランは二度、弾き飛ばされた。
・・・・・もっとも。二度目はしっかり頭突きも叩き込んでいたがな・・・・・
あの場面は、押し込んだウォーレンが頭を出し過ぎた・・・とも見える。
反対に、素直に受け流していれば。
アスランは頬と耳に、深くは無いが浅くも無い切り傷を負ったりもしなかった・・・・筈だ。
ウォーレンの眉間へ頭突きを叩き込んだのは、アスランが負けず嫌いだからこそだろう。
・・・・・ただ、あの頭突きは。額を狙って眉間へ入ったのだろうがな。しかし、運が良かった・・・・・
頭突きが眉間に叩き込まれた瞬間。
強引に押し切ろうとしたウォーレンが、一瞬だが怯んだ。
奴は両目を閉じた。
そうして、斬撃にも影響が出た分。
アスランの負傷が頬と耳を斬られた程度で済んだのは、つまり、そこまでの一連があったからこそだ。
-----
開始直後から、アスランは二度の激突で、二度とも弾き飛ばされた。
時間にして、一分も経っていなかったと思う。
二度弾き飛ばされた流れは、ウォーレンがまた仕掛けると、後手に回ったようなアスランの奴も負けていなかった。
三度、四度、五度と・・・・・
激突は、アスランだけが弾き飛ばされたのはそうでも。
仕掛ける度、ウォーレンの方は腕や太股など。
まぁ、動きに支障は無さそうだったからな。
たいした事は無い浅い傷だろう。
それでも、必ず一ヶ所は傷を負わされた。
・・・・・そんで、あれは意地の張り合いなのか・・・・・
激突する度にだがな。
なんでか互いに激しく頭突きをするとだ。
もうすっかり、二人とも額から血が滲んでいるんだよ。
いつから、頭突き勝負の張り合いにもなったんだ。
まぁ、見ている方としてはだ。
漢を見せている者同士のガチンコ勝負は嫌いじゃない。
寧ろ、こういう勝負の方が。
だから、観客達まで異常なほど熱くなっているんだろう。
だが、アスランの戦い方。
この試合のアスランは、明らかにおかしかった。
「あいつ。今度はまた何があったんだ。ったくよぉ・・・・らしくない戦い方をしやがって。馬鹿か」
アスランが桁違いな実力を、それもまだまだ全力などでもない。
その上、獅子旗杯では、駆け引きも出来る所を見て来た。
相手に子供だと侮らせるくらいから。
それが通じないと分かれば、直ぐ挑発を含ませたりもする。
戦う相手が平静さを崩している。
そういう状況を作ると、最初から優位に立って戦っていた。
「対戦相手をろくに調べもしないのはアレだが。それでも駆け引きはして来ただろうが。それがなんだ、この試合は。ガキの小さい身体で、大男へ真っ向からだと。ハンッ・・・・面白くねぇ」
あいつはな。
大人を小馬鹿にしたりする程度の演技を。
それさえも駆け引きの一つに使っている様な。
だが。
ガキの小さな身体でだぞ。
例えば俺の様な大人とでは、力と力で正面から当たれば絶対的に不利も理解っている。
そう。
あいつは、自分の弱点を理解った上で。
それでも、有利に戦える方法を考えて来たんだろうよ。
「なのにだ。なんでこの試合だけ・・・・真っ向勝負なんざ、やれば絶対不利も理解っていた筈だ」
「あ、アスランは。わ、私の騎士なのよ。だから・・・・負けないんだから」
ベンチで今は俺の隣に座っている小娘。
アスランを気に入っているくらいも分かり易いアリサ・ルーレックは、ビビっているのがよく分かる。
強張ると引き攣った顔をしていたよ。
「嬢ちゃんは、あいつを気に入っているからなぁ。だがな・・・あいつは今。っつうかこの獅子旗杯で初めて。らしくない戦いをしているんだよ。自分から絶対的に不利な戦いへ挑むなんざ。そんなのは馬鹿のすることだ」
「でも!! アスランは・・・負けないんだから!!」
おぅおぅ。
可愛い顔に似合わない、そんな気合の入った声まで出して。
ホント、嬢ちゃんは怖がっている癖に。
必死になってよぉ・・・・だが、そういう強気な目。
俺は嫌いじゃないぜ。
それにだ。
そういう目が出来る女はなぁ・・・・将来は間違いなく、良い女になれるんだ。
「じゃあ、俺になんか突っかかってないで。あいつの応援でもしてやるんだな」
その睨んだ目付き。
子供扱いするなってか。
けど、嬢ちゃんは直ぐに、アスランの応援を始めたよ。
割と素直な所もあるんだな。
「だけど、あの子。私の時とはなんかさぁ・・・・逆な気もするのよね」
「イサドラ。お前さんは何か知っているのか」
「別にぃ・・・何も聞いてないし、何も話してくれてないわよ」
アスランの応援に声を張り上げる嬢ちゃんの隣。
イサドラは、ベンチに腰掛けた姿勢で片脚は膝に乗せると、今は両腕も組んで難しい顔をしている。
「でもさぁ。あの子って・・・・もっと計算高いというか。相手が大人だから身体的には不利でしょ。だから心理戦を仕掛けて優位に立つ。そういう小賢しいイメージだったんだけどね」
「フンッ、お前さんはリーチに関係なく遊ばれただろうが」
「そうね。でも、なんで最初から仕掛けなかったんだろ。あんなに強いなら・・・・ホント、ムカつくわ」
そう、俺もな。
そこは気になっていた。
アスランは何故だか。
予選じゃ、瞬殺で終わらせていたのにだ。
それが、決勝リーグではずっと。
あいつは開始からしばらくの間、一度も仕掛けなかった。
今なら、そうやって相手を観察していたようにも・・・・見える。
「アスランはね。私も聞いたからだけど。カズマっていう変な格好のお爺さんから、対戦相手を試合中だけで調べて。それで勝ち方を見つけるっていう、よく分からない宿題を出されているのよ」
アリサ嬢ちゃんの発した声へ。
その内容が、俺とイサドラの二人ともを、揃った様な唖然顔にしてしまった。
「だから、アスランはね。予習のような事を出来ないんだって。ずっと試合中に相手を調べて。それで何となく分かった後で片付けたって。最初に躱してばかりだったのは。そういう事だったらしいのよ」
「あんのガキ・・・」
サザーランド最強の武人から宿題だとぉ・・・・・・
思わずムッとしちまった俺だが。
「アスランはね。今朝もだけど、サンスーシ宮殿の庭園でね。そのカズマっていうお爺さんと稽古をしているのよ。二人して当たったら間違いなく怪我だってするのにね。どっちも刀っていう変わった剣でやっているんだから」
おいおい・・・・・
カズマって言やぁ、大陸でも間違いなく三指には入る奴だぞ。
俺の呆れは、それでつい天井を見上げちまったぜ。
だが、そうなるとだ。
嬢ちゃんの話が、全部その通りだったとすれば。
やっぱり変だろう。
あいつは、じゃあなんで・・・・この試合は最初から仕掛けたんだ。
-----
「(・・・強いなぁ。分かっていたけど。真っ向勝負じゃ、やっぱ分が悪いね・・・)」
ウォーレン大将は、僕に正々堂々と一騎打ちをしたかった。
そう言っていたからさ。
僕は開始直後。
真偽を確かめようと仕掛けたんだ。
「(・・・マイロード。先ずは傷の手当てを。戦場においては、いかに泥臭かろうとも。生き残った者こそが勝者です・・・)」
お互い、今は十分な間合いを取ったまま睨み合っている。
手当をと言われた僕は、ティルフィングの切っ先をコツンと軽く、ステージへ当てた。
で、負傷は直ぐに癒えたよ。
理想とする無詠唱へは、未だ至れていないけど。
普段やっている指パチや、今みたいな切っ先をコツンもね。
それで事象干渉を起こせるのも。
今の所で僕だけなんだよな。
けど、魔導器なんて重い物を使わなくてもね。
そう考えれば、これで使える僕は、修行した甲斐もあったね。
アーツが使える僕は、負傷を癒したけど。
どうやらウォーレン大将も、アーツは使えないようだ。
だけど、ウォーレン大将はさ。
僕に言った言葉。
そこに嘘は無かったよ。
「あの獅子皇女の下に居るからね。正々堂々なんて言葉も。最初は罠じゃないかと思っていました」
「そうか。だが、確かに我が主であるユフィーリア皇女殿下の為人であればな。警戒くらいはするであろうな」
「えぇ、おかげで・・・この有様ですよ」
僕は傷を癒しただけで。
血痕までは消していない。
どうせ、まだまだ汚れそうだし。
洗浄は一番最後でいいや。
それとまぁ、実際、この程度の傷なら支障も無いんだよ。
だいたい、今でもティアリス達との稽古じゃね。
特にユミナさんとの稽古は、ティアリスとしていた最初の頃の稽古と同じだし。
おかげでエレンにはね。
今でもお世話になっているよ。
因みに。
僕はユミナさんなら。
何度かに一度くらいでも。
バッサリをやり返せるようにはなったよ。
もっとも。
そういう時のユミナさんはね。
僕に自信をつけさせようと、だから、手加減したってくらいも口癖かな。
「エクストラ・テリオン殿。貴殿は確かに未だ幼い。だが、恐らくは大陸でも。既に屈指と評される実力者であろう。これは剣を交えたからこそ。言えることだがな」
「僕よりも。カズマさんの方が遥かに強いですよ」
「サザーランド最強の武人殿だな。私はな、もうずっと昔のことだが。貴殿の言うカズマ殿の所へ。幼い頃に通ったことがある。技は教えて貰えなかったが。剣の師として、カズマ殿からの教えは。今でも薫陶としている所だ」
はははは・・・・・・
なるほどね。
カズマさんから、教えを受けた人だったんだ。
通りで小細工無しだった訳だよ。
ティアリスの剣もそうだけど。
カズマさんの刀も。
たぶん。
実戦なら小細工や駆け引きもあるんだろうけど。
本質は、正々堂々を旨とした王道の剣なんだ。
「はぁ・・・・それ、先に聞いていたら。開始直後から挑んだりしなくて済んだのに。僕の方が軽いからね。どうしても弾き飛ばされるんだし」
「あと十年。そのくらい経てば、貴殿の肉体もより成熟するであろう。その頃の貴殿であれば・・・・私の方が弾き飛ばされるかもな」
「ウォーレン大将の剣は、とても重かったです。それに、僕の打ち込みに微動だにしませんでした。ホント、大人って狡いなぁ」
「見たところ、貴殿の背丈は百二十くらいであろうか。体重もまだ三十には及ばないであろう」
「まぁ、そうですね」
「背丈だけでも私より六十は低い。体重に至っては三分の一以下ではな。にも拘らず・・・・末恐ろしいな」
「今はウォーレン大将の方が。それで断然、恐ろしいですけどね」
「そうか。では、そろそろ。貴殿の本領を見せて貰えるのかな」
別にね。
僕は此処まで、手加減とかしていないよ。
ティルフィングを握って、全力で斬りかかって弾かれた。
「我が主、ユフィーリア皇女殿下は。貴殿と剣を交えた後で、こう言っておられた。貴殿の本領は、それこそ正にコールブランドであったと」
「・・・・自分に勝った相手を殊更に誇張する。獅子皇女らしい嫌味ですか」
「さてな。だが、貴殿が途中から両手に一振りずつ剣を握っていた。それは幾人からも聞いている。見届けたギュンター伯爵もだ。伯爵もまた、貴殿を物語に出て来るコールブランドと重なったとな」
ギュンター伯爵・・・・・・って。
誰だったっけ。
「(・・・マイロード。その人物はアルハザード流の者です。ラルフ殿の師に当たる御方ですよ・・・)」
「そう言えば。僕は会っていませんが。その様な御方が園遊会には来ていたそうですね」
「ギュンター伯爵もまた、真に強い御方である。何度か手合わせもしたが。だからこそ強いを言い切れる」
つまり、ウォーレン大将は、アルハザード流のギュンター伯爵という方とも。
何度か手合わせをした事がある。
それで、手合わせをしたからギュンター伯爵という方が強い人物だと。
「要するに。僕への評価は、獅子皇女だけでなく。そのギュンター伯爵という御方からの方を信じている様ですね」
「私はユフィーリア皇女殿下を、貴殿より理解っている。それと何度も手合わせをしたギュンター伯爵のこともな」
ウォーレン大将は、はっきりとは言わないでいるけど。
僕に手を抜くなとでも。
いいや、それとは少し違うかな。
この人は、本心でコールブランドを握った僕との勝負がしたいんだ。
「(・・・マイロード。彼の者の此処までを考えれば。恐らくは一人の武人として。堂々と決着を付けたいのでしょう・・・)」
「(・・・うん。僕にも、それくらいは分かった・・・)」
「(・・・であれば。此処はコールブランドを使うべきでしょう。それこそが・・・)」
「(・・・最低限の礼を尽くす。そう言いたいんだろ・・・)」
僕は握っていたティルフィングを鞘へ納めた。
そうして今度は、コールブランドを両手に握りしめた。
途端、僕が握るコールブランドは、柄の先端から金色のマナ粒子を一瞬でも強く噴き出すと、直後はガラスの様に透けても見える。
ティルフィングやカリバーンもそうだけど。
本当にいつ見ても美しいって思える刀身を顕わにした。