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第24話 ◆・・・ 獅子旗杯 ⑥ ・・・◆


試合は僕が勝った。

だけど、司会役と審判の二人ともが、揃って気を失うという始末。


そんな状況での勝利判定は、他の審判員がしたんだけど。

駆け付けた救護班が持ち込んだ呼吸器やらストレッチャーは、それで観客席まで一時、騒然とした。


僕が気絶させたラルフさんは軽傷でも。

ラルフさんが使った仕掛けに巻き込まれた司会と審判はね。

どっちも唐辛子を吸い込んでの呼吸困難。

そこへ、スタングレネードだろ。


救護班の人達なんか。

それで余裕のない切迫した表情だったんだ。


だけど、二人ともさぁ。

僕が言えた義理も無いけど。


油断大敵だぞ。


-----


控室へ戻ってきた僕を、カシューさんは開口一番。


「お前、油断しただろ」


このオッサン。

今のは、ちとムカついた。


なんかね。

これでティアリスからの説教なら。

僕も、謙虚に・・・・受け止められるんだけどさ。


「観客が金を払っている事と。それで楽しませろって。そう言ったのは、カシューさんですよ」

「ふんっ。素直じゃねぇの」

「と言うか、最初から勝つって。僕は言ってた筈ですが」

「あぁ、そうだったな。舞台を盛り上げた所で。そんで瞬殺で仕留める。憎たらしいガキだねぇ」

「皮肉たっぷりな誉め言葉ですね。まぁ、受け取っておきますよ」


僕はそのまま、控室の外へ。

後ろからは、カシューさんが「次の試合見ないのか」って、尋ねてきたけど。


「テイクアウトで、フライドポテトを買って来ます」


昨夜、アリサと喋ってから。

それから僕はもうずっと、フライドポテトが食べたかったんだ。


それこそ、第一試合じゃなかったら。

真っ先に買いに行っていたんだぞ。


「おう。じゃあ、俺の分も頼むわ。ギガボックスで三つ。ヨロシクな」


おい。

てめぇで買って来いよ。


振り返りながら反射的に、思ったままを言い掛けた僕ですが。


「ほれ。釣銭はくれてやる。駄賃だと思って受け取りな」


そう言って、カシューさんはね。

金貨を一枚、親指で僕の方へ弾いたんだ。


で、ナニ、その勝ち誇った顔は。

機先を制したくらいで。


ったく、一万バリス金貨かよ。

ギガボックスが、十個は買えるぞ。


はぁ・・・・・・仕方ない。

これは、報酬付きの依頼だと思う事にしよう。

そう、これは正当な取引なのだ。


断じて、丸め込まれた訳じゃない。


僕は、実を取っただけ。

だから、臨時報酬付きのフライドポテトは、腹と財布を満たしたのだ。


-----


決勝リーグは、二巡目も残り数試合。

因みに、カシューさんも勝ったよ。


この頃になると、出場選手の控室。

あれだね。

昨日の今頃と比べたら、ホント、スカスカだ。


ただ、既に半数以上は去ったんだし。

そう考えれば、当然か。


それから、選手向けの食堂。

今日は午後になっても、それでメニューが未だ残っている。

これならナイターになっても。

安心して夕飯を食えそうだ。


「ったく。秒殺様よぉ。お前さんは試合よりも。食い物にしか関心が無いのか」

「なに言ってんです。戦場に着くまでは補給が。開戦してからは指揮官の実力が、勝敗を分けるんですよ。こんなの基本じゃないですか」

「なるほどな。確かに、秒殺様の言うとおりだ。なぁ、シャルフィじゃ、ガキの騎士でも。それを実地で学ぶのか」

「子供も大人も関係ありません。ですが、騎士団では魔獣を相手にした一週間くらいの遠征なんかは。まぁ、それで計画を立てて。よくやりますよ」


実際、シャルフィの騎士団では、王都郊外にある開拓地区の治安維持活動。

そういう名称で、付近の魔獣討伐を行っている。

討伐は行き先によって、数日から一週間程度。

その際、編成された各隊には、成績の良い見習い騎士達が組み込まれる。


ここで将来の隊長候補には、計画立案から参加させると、派遣期間中には実戦指揮も執らせる。

招集された見習い騎士には、実戦を含めた現場経験を積ませる。


特に此処一年くらいは、魔獣の繁殖周期なのか。

開拓地区に近い所まで、頻繁な出没が確認されるせいで。

そのため、派遣隊の数を増やしての対応に追われている。


もっとも、繁殖期だから気が立っているのか。

把握している報告内容には、魔獣の凶暴化を伺わせるものが多かった。


まぁ、それもあるからね。

シルビア様はハンスさんへ、留守番をさせたんだ。


「そうか。まぁ、だからこそ。シャルフィの騎士団は大陸最強と言われるんだろうな」

「あぁ、それですけど。シャルフィじゃ、誰も自分達が最強だなんて言ってませんよ」

「だろうな。だがな、国家なのに軍隊を持たないシャルフィは。それだけ、騎士団が際立っているんだよ」

「シャルフィは・・・と言うか、シルビア様には。戦争する考えなんか無いんです」

「だから、軍隊なんぞ不要だってか。こんな情勢でも」

「こんな情勢・・・・だから、じゃないですか」


今の世界情勢が。

それでヘイムダルが、特に問題視されている理由も。


「シルビア様は、シャルフィが軍隊を持ってしまえば。それだけで戦争に巻き込まれるのではと。もっとも、国家人口が二百三十万程度では。維持できる軍事力も、たかが知れている。この辺りはカーラさんが言ってましたよ」

「それも理解(わか)るが。だからと言って、国防の充実は。やっぱ、必要なんじゃねぇか」

「先に、これはあくまでも。僕個人の仮定です。仮想敵国を、東西の強大国とした場合。シャルフィは立地上。東西の大山脈が直接の侵攻を実質、不可能と言えるほど困難にしています。現在の航空技術では、山脈の最も低い所にさえ三千メートル以上も届きません」

「だな。しかも軍艦ともなればだ。搭載した武装の分だけ重さが増す。ヘイムダルと合衆国の軍事技術じゃ。巡航艦の標準装備で高度千二百が精一杯。最も軽い小型駆逐艦で、更に武装を最低限にした艦でもな。千四百を超えられんだろう」

「山脈の最も低い所で五千を超えますからね。しかも、天候と気流が酷く荒れています」

「ますます飛べねぇ環境だな。ついでに踏破が無理なのは。それは俺らも良く知っている」

「えぇ、そんなシャルフィへの軍事侵攻を計画するのであれば。ルートは南北しかありません」

「南のローランディアは、シャルフィと昔からの友好国。んで、北のシレジアはだ。そっちもシャルフィへの帰属が決まっただろ」


そう。

シレジアの帰属は、ただし、見方を変えれば。

今度は帝国と合衆国にとってね。

侵攻ルートが得られたとも見えるんだ。


「なるほどな。シャルフィがシレジアとの帰属合意の直後に。それでアルデリアと結んだ新条約。シレジアに法皇国の大使館と、新たに大聖堂を置くあれは・・・・良い手だと思うぜ」

「間借り物件ですが。大使館の方は業務を開始しています。大聖堂の建設も。こちらも年内には着工予定です」

「迂闊に攻め込めば。アルデリアが介入できる。それとヘイムダルにも合衆国にもだ。どっちも教会の信者は、かなりいるだろ。門閥貴族にも信者がいるからな」

「大使館の方は、大陸鉄道の南北線計画ですね。あれを効率よく進めるためにも必要だったんですよ。それに、シレジア程の大都市なら。今まで無かった大聖堂を建てても不思議はないでしょう」


シレジア自治州は、東西の圧力と思惑のせいで。

教会よりも大きな建物を設置することが出来ないでいた。


シャルフィへの帰属が決まった今。

だからこその大聖堂には、表も裏も含めた思惑が・・・・それこそ満載なんだ。


「おい。お前は未だ女の味も知らないガキなんだ。だから、大人ぶって政治のことばっか考えなくても。ガキらしくしてりゃあ良いんだよ」


ったくよぉ。

こいつは、未だ七歳になったばかりの子供だぞ。

だいたい、どんな育ち方をして来たら。


・・・・・ガキのくせに。もう色々と背負い込みやがった顔が出来るんだっつうの・・・・・


俺には、目を見れば分かる。

こいつの桁違いな強さは、死線を何度も経験している。

否、それどころか。


本当に死にかけた事くらいも。

それさえ、一度や二度なんかじゃない筈だ。


だが、この時の俺は、こいつのやたらと背負い込んだような雰囲気がな。

どうにも気に入らなかった。


別に、怒っている訳じゃない。

そうだな。

こんな話題にしてしまったから。


俺は試合を見ている様で、だが、そうじゃない何処か遠くを見ているような。

そんな目をしたガキの頭を、今だけは力いっぱい撫でてやる事にした。


「もうすぐ次の抽選だ。取り敢えず。それが終わったら腹ごしらえと行こうぜ」

「・・・・そうですね」

「そうだぞ。あれだ。腹が減っては戦は出来ぬ、とも言うしな。しかし、俺様なら飯の他に。色気も欲しいところだぜ」


賢いこいつは、既に俺様が、こういう奴くらいも思っている筈だ。


「はいはい。どうせ今夜も。それで女の人達と遊ぶんですよね」

「当たりめぇよ。なんだ、羨ましいのか。だったら、おめぇにも一人くらい貸してやるぞ」


ふんっ。

思った通り、こいつは、こっち方面には免疫が無い。

まぁ、ガキだからな。

そんで、露骨に呆れ顔をしやがった。


これで大丈夫だろう。


「いいえ、結構です」

「どうせ、知識も経験も無いんだろう。今なら俺様の伝手で。良い女たちが実地で教えてくれるぞ」


なんで、話題がこうなったのだろう。

確か、売店のメニューを気にしていた僕に、それから騎士団のこととか、政治的なこととか。


このオッサンは、でもまぁ。

退屈はしないけどね。


ただ、あれだ。

この王者の風とかいう傭兵・・・いや、猟兵団の団長様はねぇ。


最近七歳になったばかりの男子へ。

少なくなったと言っても、未だそれなりに居る周りへ(はばか)ることなく。

僕の頭を、モップでゴシゴシするみたいにした後はもう。

そこからはずっと、アダルトな授業の講師様ですよ・・・はい。


お陰様で?

僕は女性の身体を、どうすれば悦ばせられるのか・・・的な分野をね。

何と言うか、リアリティーたっぷりに堂々と語るカシュー講師はさ。


僕には最初、食い物の事しか関心が無いのか・・・・なんて言ってたくせに。

このオッサン。


・・・・・あんたの頭の中は。八割以上がエッチな事で占められていそうですね・・・・・


結局、三巡目の抽選が始まる少し前まで。

僕は、特化も特化した大人の保健体育を、延々と勉強させて頂きました。


-----


この時期だからね。

午後の四時を過ぎても、太陽はずっと高い所に在る。


そんな中で始まった、三巡目の組み合わせ抽選。

くじ引きは、二巡目の試合順で、つまりは僕が一番目に引くんだけどさぁ。


箱の中に入っている封筒の一つを掴んだ僕は、腕を引き抜いた後。

手にした封筒は係の人へ。

封印された封筒は、受け取った係の人がハサミを使って開封する流れも。


三回目にもなると、それも見慣れた感じかな。

なんて思っていたら。


『エクトラァァアア・テリオン!! ナンバァァア・ワン!!』


マイク片手に、復活した司会者さんは、今回もアレな口調で叫んでいる。


「ははは・・・・ホント、三回連続で1番クジって。僕の時だけ・・・1番しか入ってないんじゃないの」


またかよ・・・って感じなボヤキもね。

同情してくれたのか、係の人まで、「それは絶対にありませんよ」って、苦笑い。


三十分くらいで終わった抽選は、そうして、僕とカシューさんはね。


まぁ、僕は勝つけど。

それで、仮にカシューさんも勝てたとして。

どんなに早くても、当たるのは次の四巡目以降。


ベスト16を懸けた試合開始は十七時半から。


僕は取り敢えず。

腹ごなしのために、売店へ直行したよ。


-----


三巡目の試合は、アスランが第一試合で、カシューは第三試合。


「お前なぁ。フライドポテトは午前中にも食っただろ。男なら肉を食え」

「僕は第一試合なのでね。勝った後で、しっかり食べますよ」


既に僕とカシューさんの専用席と化したベンチには、互いのテイクアウトがね。

僕はフライドポテトと、ハンバーガーを。

カシューさんの方は、ビーフステーキを串焼きにしたもの。

だけど、カシューさんのは、どう見てもバケツにしか見えない容器に満杯だった。


「あぁ、そうだ。勉強しないせいで苦戦を強いられた誰かさんよぉ」

「じゃあ、今回もよろしくお願いします」


僕はカシューさんから、一本は食えと。

貰ったステーキ串へ噛り付いた。


塩と胡椒で味付けされたステーキ串は、一本三百バリスと、値が張っただけはある。

厚みのある牛肉を、一口サイズにカットした串は、食欲をそそられる香ばしい匂いもそう。

噛めば肉汁が、口の中いっぱいにじゅわりと溢れる。

一口食べただけで、もう止まらなくなったよ。


一本なんて、ホント、あっという間だったね。


「まぁ、あれだ。こっから先は、戦い慣れした奴しか残ってねぇよ。それも血生臭い奴が増えて来る。ガキだからと言って。殺さずに勝とうなんて考えもな。それも無いと思え」

「瀕死体験なら星の数ほどしたので。別に今更ですけどね」

「お前って奴は。どうして、そう大口を叩けるんだか。肝が据わってんのか底無しの馬鹿なのか。ただ、小者なら。間違いなく、こんな所には居ねぇな」


ほれ、もう一本食っておけ。


「そんで、お前の次の対戦相手だがな。まぁ、俺らの業界じゃ、名の通った奴だよ」

「僕の対戦相手は、光剣のイサドラという方ですけど。傭兵なんですか」

「イサドラはな。若い割に腕の良い冒険者で。傭兵を兼業している女だ」


この世界には、職業としての傭兵は在るけれど。

冒険者という職業は、実は存在していない。

ただ、表現として、自分のことを冒険者とか、探検家と言う人達は、結構いるんだよ。


彼らは世界中を旅しながら。

未だに発見されていない遺跡とかを探したり。

あとは、発見されたものの。

危険な仕掛けのせいで、内部調査が捗っていない遺跡へ潜ったりもするんだ。


「あいつはな。確か二年くらい前にだが。何処かの遺跡で手に入れたアーティファクト。それが一言ですげぇ武器なんだ。まぁ、奴が業界で特に名を挙げたのは。あんな剣を手に入れたからなんだよ」


カシューさんの話だと、刀身部分の見た目が、発光した魔導管の様なものらしい。

今じゃ、魔導灯とか蛍光灯とも言うけれど。


「あの武器は、マジで凄いんだぜ。俺も実際に見たが。戦車の装甲ですら斬れるんだ。まるで金属を溶かしたような切り口だったな」

「金属を溶かすって。それって、めちゃくちゃ熱いじゃないですか。手に持てるんですか」

「あれな。イサドラから聞いたんだが。光る刀身からは熱を全く感じないそうだ。そんで、光る刀身が何かに接触するとな。その接触したところだけが火花を散らしたり感電の様な現象を起こすらしい」

「だから、光剣なんですね」

「まぁ、実際な。あれは光剣としか言えねぇよ。だが、イサドラ本人が。そもそも剣を使い熟すだけの実力者でもあるんだぜ」

「聞いていると。なんか手強そうですね」


冒険者をしている傭兵のイサドラという人は、遺跡から手に入れた光剣と関係なく。

聞いた限りで、傭兵になった時にはもう既に、しっかりした剣術を身に着けていたそうだ。


ん?

そう言えば。

抽選の時にだけど。

確か、ポニーテールにしていた金髪の若い女性が一人・・・・いた気がする。


「あの、もしかしてですけど。イサドラという人は、金髪ポニーテールだったり・・・します」

「てめぇ・・・・さっきの抽選。残った奴等を、ちゃんと見ていなかったな。ったくよぉ。三十人程度は全部、頭に叩き込めっつうの」


そのまま、拳骨を一発。

子供相手の拳骨にしては、かなり痛かったよ。


そんな僕の視界に映ったステージでは、試合開始までの時間を、今は男性の五人組だね。

今朝の三人組の女性たちと同じように、歌いながら踊っていたよ。


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