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第21話 ◆・・・ 獅子旗杯 ③ ・・・◆


僕も試合をする屋内競技場は、二十五メートル四方の正方形をした舞台と、それを囲む階段状の観客席。

照明は全部天井からで、その天井の方に、シルビア様達が居る貴賓室もある。


帝都には、似た様な会場が十ヶ所以上。

獅子旗杯の予選以外にも、各種の競技大会などに使わているそうだ。


観客席はざっと見た感じ。

たぶん、二千人くらいは軽く居るんじゃないかな。


・・・・・客は金を払って見に来ている・・・・・


一人、千ドルだとして。

千ドル×二千人=二百万かぁ・・・・・


因みに、後で確かめたら。

収容できる観客席の数は二千四百席で、立ち見を含めると三千人を超えるそうだ。

更に、全席指定の他。

席によって二千ドルから五千ドルの料金もそう。

立ち見でも千五百ドルなんだよ。


付け足すと、飲食物の持ち込みが厳禁で。

会場内のレストランか、臨時の売店コーナー等を利用する決まりとか。


あぁ、でもね。

チケット代金+二千ドルで、売店で使える引換券が数枚付くらしい。

で、そっちの方が、普通に買うよりも三割くらい安いんだってさ。


おまけは、土産店のコーナーもある。


ぼろ儲けだなぁ。


-----


予選リーグ最終日の一試合目。


カシューさんに見送られた僕ですが。

頭に入ったのは、対戦相手の名前と戦績くらいで。

後はサッパリです。


あぁ、そうだ。

獅子旗杯に参加している人達の名前なんだけどさ。

僕もさっき、カシューさんから教えて貰うまでは、それで本名だと思っていたんだよ。


『俺もそうだが。此処へ出る奴らは。通り名か二つ名を名乗るのが、当たり前なんだぜ』


へぇ、そうだったんだ。


『まぁ、お前もな。決勝リーグの時には、二つ名で登録して貰えばいいさ。だいたい、一試合ごとにシャルフィ王国騎士団長エクストラ・テリオンなんてな。呼ぶ方が大変だっつうの』


ははは・・・・だよねぇ。


そんな訳で、僕はね。

決勝リーグでは、何か呼びやすい二つ名をね。

この一試合目の呼び出しの最中にも、それを考えていたんですよ。


グリズリーバスター

えぇ、そう呼ばれた見た目もクマさんな大男が、僕の対戦相手です。

自慢なのか。

グリズリーの毛皮で作ったベスト・・・・で良いのかな。

腰巻きもグリズリーの毛皮だったね。


武器は・・・・どう見てもチェーンソーですよ。

呼び出しの最中にエンジンの入ったチェーンソーはねぇ。


もう、ギュイーンって唸りを上げた音がね。

それで、観客は大盛り上がりですよ。


あんなのをまともに喰らったら・・・・普通、死ぬよねぇ。

ナニ、スプラッターでも見たいんですか。


等とも思っている間に。

審判の口から、開始が告げられた。


グリズリーバスター・・・・さん。

彼は開始早々、チェーンソーを下へ向けた姿勢で、真っ直ぐ突っ込んできました。


ですが、この試合も。

僕は柄の部分へ、相手を殺さない程度の電流を込めると、時属性で加速を得た突進が、昨日までと全く同じ結果を。

つまり、僕は十秒程度で。

この試合も勝ったのでした。


「お前なぁ。あれじゃ、観客達は金を払った楽しみが無いだろうが」


再び控室へ戻った僕を、呆れ顔で出迎えたカシューさんはね。

もう、声までが露骨に呆れていましたよ。


「だって、弱かったし」

「あのなぁ。そんな事を言ったら。ほら見ろ、あいつら全員が殺気立ったじゃねぇか」


そうだね。

僕が対戦相手を、弱いなんて言った途端。

控室の空気に、分かり易い殺気が充満したよ。


「別に。なんなら今この場で。全員を棺桶に突っ込んでも良いんですがね」


まぁね。

それこそ遡れば、初日からそうだったんだ。

周りはみんな、陰で僕を蔑んでいたのだし。


「死にたい奴から挑んできな」


言いながら。

僕は右手を軽く握って顔の位置まで上げると、露骨に分かるくらいの電流を纏わせた。


「僕ね。未だ全然本気じゃないんだよ。けど、君らが望むなら。内臓まで真っ黒にしてやっても良いんだぞ」


殺気立った空気は、これだけ言って見せたせいか。

途端に静かになると、控室からも出ていく奴らが多かった。


所詮、こいつらは口だけの奴等なんだろうな。


「おいおい。噂には聞いていたが。お前、本当に魔導器を使わずに魔導が使えるんだな」

「まぁね」

「しかも、今のは雷撃だろ。俺様も見たのは初めてだ」

「なんなら、生涯に一度っきりの体験もしてみますか」

「いや、止めておく。俺様が居なくなると、不幸になる女共がいるからな」


何て言うかさ。

帝国に来てからは、アリサのお爺さんといい、カシューさんといい。

女遊びが大好きな大人に出会うね。


「子供の僕が言うのもなんですが。女遊びは程々にした方が良いですよ」

「なぁに。お前さんも、もう少し大きくなったら。その時はさっさと童貞を卒業するんだな。まぁ、一度覚えたら病み付きになるさ」

「そうなんですか」

「それも男の性っていうもんさ。特に良い女を抱くのはな。あれは麻薬のようなもんだ」


こうして僕は、カシューさんの試合が始まる直前まで。

授業で習った程度の性交渉の良さと。

今までに抱いた女の数と、今でも付き合っている女の数もね。

その辺りを自慢するカシューさんに付き合っていましたよ。


-----


「それにしても、王者の風って」


カシューさんの登録名は、自分が団長を務める猟兵団の名前だった。

予選ではリーグが違うので、だから、対戦もありませんが。


「対戦成績、十七勝三引き分け・・・ね」

「お前なぁ。言って置くがな。予選リーグの通過だけなら。十五勝で確定ラインなんだよ」

「へぇ・・・・そうなんだ」

「はぁ~~・・・・・・こいつときたら。なんで、お前はそんな事も知らないんだよ。初参加でも普通は調べて来るだろ」

「と言うか、僕の場合。皇帝から出ろって」

「だったな。園遊会で大暴れして、それで皇帝から気に入られたんだろ。初日から噂になっていたぞ」


僕とカシューさんは今。

二試合目も勝った後で、こうして会場内にある参加選手向けの食堂・・・・だね。

レストランじゃないけど、どう見てもゴロツキにしか見えない人も多いし。


あぁ、でもね。

食事も飲み物もタダだから、気にはしないけどね。


「いいか、不勉強なお前さんのためにだ。予選リーグは、それで各リーグの上位三名が決勝リーグへ進めるんだ。此処は頭に入っているな」

「えぇ、それくらいは」

「でだ。敗者復活戦という規定が在るのは知っているか」

「なんですか、それ」

「ったく。いいか、予選リーグで十五勝しながら。それで三位に入れなかった者には、敗者復活戦があるんだよ。それで、簡単に言えば。敗者復活戦を勝ち上がった三名にも。決勝リーグへの参加が認められるんだ」

「へぇ・・・・そうなんだ」

「それから。こいつは決勝リーグでなんだけどな。実は去年の決勝リーグ参加者は、今年に限って予選リーグ自体を免除されているんだよ」

「要するに、地方予選と獅子旗杯の予選リーグも抜きにして。決勝リーグから参加できる制度があるんですね」


カシューさんの説明だと、去年の決勝リーグ参加者は、今年に限って決勝リーグからの参加が出来る。

でも、来年は予選リーグからしか出られないらしい。

それでも、地方予選を免除される辺りは、優遇されているんだろうな。


「あぁ、それとだ。お前と同じ様に特例のような奴が。それも何人かは参加するぞ」


獅子旗杯って。

と言うか帝国ってさ。

ホント、特例とか優遇とか。

やたらと多いよな。


結果、僕が進む決勝リーグですが。

百人くらいが参加するトーナメントになるらしい。


まぁ、それでも。

一巡して五十人くらい。

二巡すれば、その半分・・・・・


「カシューさん。決勝リーグは確か、時間無制限でしたよね」

「あぁ、だからな。決勝リーグの日程は、それで延びる事も当たり前だぞ。お前みたいな秒殺なんか。他に知らねぇよ」


昼食の後もね。

僕は、同じ様に暇な時間を。

それを、こうして僕に使うカシューさんの話し相手をしながら。


午後も四時を過ぎた頃。

そこで最後の二十一試合目を、それも、開始十秒で終わらせたのでした。


対戦相手は・・・・何処かの戦場で活躍したらしい、自称なんとかの英雄だったかな。

けど、よくは覚えていません。


-----


明日は、予選リーグの敗者復活戦があるとかで。

決勝リーグは明後日から。


その辺りも教えてくれたカシューさんは、「じゃあな。俺様は今から待っている女達の所へ行ってくる。明後日の抽選会で会おう」ってね。

何となくだけど。

アリサのお爺さんと同じ様な感じなんだろうな。


こうして、カシューさんと別れた僕ですが。


「あんた。なに道草食ってんのよ。終わったら、さっさと帰って来なさいよね」


パンプキン・プリンセス

僕は別に、迎えを頼んだ覚えも無いんだけどな。


「ほら、さっさと行くわよ。シルビア様達がね。今夜は、その・・・あんたの誕生日を祝うって。私も、ぷ、プレゼントを用意したんだから」

「あぁ・・・そっか。今日って僕の誕生日だったんだっけ」

「あんたねぇ。何処か抜けている変な奴だとは思っていたけど。自分の誕生日も忘れているだなんて。私の騎士なんだから。そういう所は直しなさいよ」


だからさ。

僕が一体いつ、君の騎士になったんだよ。


ただ、もう誰も残っていない控室の入り口で、いつまでもアリサの相手をしていたいとも思っていない。

そういう訳で。


「ほら、さっさと行くぞ。パンプキン」

「ちょ、その呼び方は止めなさいって」

「どうせ、今日もパンプキンだろ」

「私はね。お姫様になるために。それで、そうしているだけよ」

「はいはい。ほら、行くぞ」


アリサはさ。

なんか、頬を膨らませて怒っている顔がね。

笑った時の顔もだったけど。

こっちの顔も、結構可愛いかなって。


だからと言って、怒らせたい訳じゃ・・・ないけどね。


サンスーシ宮殿へ帰ったその晩。

僕は、シルビア様達から。

七歳の誕生日を祝って貰えました。


神父様とは、孤児院の時からそうだったけど。

今日の誕生会は、フェリシア様やカズマさん。

ハルムート宰相からも、お祝いの言葉を頂けました。


『はい。私の騎士として相応しいプレゼントよ。ありがたく思いなさいよね』


えぇ、こういう言葉でね。

パンプキンからは、金と銀を使った花模様のブローチを貰いました。

その時にですが、何の花を模したのかなって僕の疑問も。

贈ってくれたアリサは自信たっぷりな笑みで、『そんなの。パンジーに決まってるでしょ』だってさ。


まぁ、なんで自信満々なのかは、それは理解(わか)りませんが。


ですが、そのパンプキンからは、『私も、十七日が来れば七歳のレディになるわ。だから、ちゃんとプレゼントを用意しておきなさいよね』と、たぶん僕は帰国している筈です。


それに、相変わらず一方的な約束なので、まぁ、忘れたとしても問題ないでしょう。


こうして僕は、六歳から七歳の年へと移ったのでした。


-----


獅子旗杯は、予選リーグの敗者復活戦があるので、今日は完全休養日・・・等ではなく。


えぇ、僕は今ですが。

シルビア様とフェリシア様に、神父様とハルムート宰相。

それとカズマさんもね。


皇帝陛下の招きで、午前中から紅の皇城へと来ています。


案内されたのは謁見の間ではなく。

皇帝陛下が私的な時間を過ごす、庭園の様な大部屋でした。


部屋全体が庭園のような造りで、しかも、その庭園の天井はガラス・・・・じゃなくて、クリスタルだね。

あれだよ。

庭木なんかも整えられているし、小さいけど川と池もあるんだ。


「余も、今年の獅子旗杯はな。約束もある故、それで特に気にかけていたのだ。だが、未だ予選とはいえ。全試合を瞬く間に勝利せしめた報には。驚きと嬉しくも思っている所だ」


普通はね。

この面々なら、僕に座る席なんか最初から無いんだよ。


ところが、皇帝陛下は僕の分も含めた全員が座れる席を用意していた。

大きな円卓は、それで全員が席へ着いたところで。


恐らくは本題に入る前の。

予選リーグでの僕の成績は、皇帝陛下が楽しそうも思える口調だった。


ただ、この場合。

シルビア様の警護でしかない僕は、何か返事をした方が良いのだろうかと。

そもそも、何故、国賓として招かれた各国の代表以外で。

それで僕だけが招かれたのか。


やっぱり、園遊会の一件があるからだろうか。


「余はな。エクストラ・テリオン。其方の様な聡い息子がおったなら。会ってまだ一週間程度なのにだが。シルビア殿が実に羨ましく思えてならんのだ。余にも息子は多くいるが。情けないことにユフィーリアを下に置けるほどの。否、切磋琢磨できる程の息子はおらなんだ。それが、余には物悲しくてな」


ん?

なんかさ。

今の言い方だと。

僕が、シルビア様の息子の様に扱われてないかな。


シルビア様は、孤児だった僕を引き取って、幼年騎士にしてくれた。

だから、その意味では、養母の様な存在も違いないけど。

でも、それは、カールやエルトシャンだって同じなんだ。


だから、まぁ・・・・皇帝はきっと。

その辺りを纏めての、息子扱い・・・・なのかな。


「あぁ、そうだったな。これは余が悪かった。エクストラ・テリオン。余が無礼講を許す故、好きに申して構わぬ。それこそ、余はな。其方との語らいを楽しみにしていたのだ」


皇帝から無礼講と言われて。

僕はシルビア様へ視線を、間もなく頷かれたシルビア様の仕草で、今度は皇帝へと視線を戻した。


「獅子皇女と謳われるユフィーリア皇女殿下の勇名は。それと肩を並べるというのは、先ず容易ではないと、私は思います。ただ、獅子皇女の勇名は。それが一日にして成ったものではありません。研鑽し培ったものがあるからこそ。もし、これと並ぶのであれば。同じ以上の研鑽と努力が肝要かと思います」

「ほう。エクストラ・テリオン。其方は、我が娘ユフィーリアを高く評価しておるのだな」


いやね。

僕としては、社交辞令も必要だって思ったんですよ。

それに、皇帝の後ろには、ヒョウ柄皇女が立っているんだし。


あぁ、また睨まれたよ。

なんてことも思っていた僕へ。


「余は、園遊会において。そこで初めて、ユフィーリアの泣いた顔を見たのだ。あの様に悔しさで目を腫らしたユフィーリアなど。だが、伸び過ぎた鼻っ柱は。誰かにへし折って貰う必要もあったのだ。故に、エクストラ・テリオン。其方には父としても感謝している」


この父親・・・・ホント、最悪だよ。

ほら、後ろに立っている、あんたの娘が怖い顔になっていますよぉ~~~

気付いてますかぁ~~~


「皇女殿下は、最後まで手加減してくれました。恐らく、僕が子供で。他国の要人でもある気遣いかと」

「そうか、だがな。我が娘は獅子と謳われる故。たとえ下着姿を晒した所で。否、だからこそ一層の美しい獅子とも思えた。其方はどう思うかの」


ははは・・・・なんで、この人もぶっちゃけるかなぁ。

後ろの皇女様が、もう目付きがヤバいですよぉ~~~


こういう時は助けを求める。

だから僕は、シルビア様へ助けを求めようと。


「ユフィったら。でもね・・・・いい歳してヒョウ柄ビキニは。そこはどうかと思うわよ。もう少し年相応に選ぶことを勧めるわ」


シ、シルビア様・・・・・


「はぁ、でもね。ユフィってば、留学していた時もだけど。ホント、着痩せするから。スタイルが引き締まって若々しく見えるのよね。そこだけ羨ましいわよ」


え・・・っと。

僕の視線は、それで獅子皇女へ。

怒っているのは間違いないけど、羨ましいって言われたからなのか。

今は、なんとか堪えているの・・・・かな。


「皇帝陛下。ユフィは、まるで留学していた頃と。あの頃のまま、今に至った様に見えますわ。老いない美しさなど。ですから、とても羨ましく思えます」

「聖女と謳われしシルビア殿も。それでやはり。美には拘りがあるようだな」

「えぇ、それは勿論。私も女性ですから。ですが、私はそうですね。フェリシア様のような美しい女性となれる様に。これからも励みたいと思います」


シルビア様は、こうして上手く・・・・なのかな。

フェリシア様を褒めたり、神父様のこういう所を見習っているとか。


外交的な話題は、それはこの後からなんだろうけど。

場の空気は、それがいつの間にかね。

なんか、凄く和んでいるように思えたんだ。


2018.07.19 誤字と脱字の修正を行いました。

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