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第17話 ◆・・・ 騎士と獅子の戯れ ② ・・・◆

2018.08.20 抜け落ちていたアイナの見た目の特徴を加筆修正しました。


可愛い我が子から、飲み過ぎだと、カーラの名まで出されて。

そんな我が子が巡回に出かけた後。

今はまだ、シャルフィの女王を演じなくてはいけないも・・・思い出した私ですが。

ユフィとは反対側に座るフェリシア様からも。

先ずは可笑しそうに笑われました。


「久しぶりに会ったユフィーリア皇女とは、学生の頃から特に親しかったシルビアさんですものね。ですが、今はまだ公式行事の最中も。忘れてはいけませんよ」

「そうでした。ただユフィとは、本当に久しぶりだったもので。つい、勧められるままに頂き過ぎました」

「いいえ、現在の両国間の状況を考えれば。お二人の見せる印象が、そこへ活路を見出せる。この場には、その様に思った方も。少なくないはずです」


私は、隣にユフィが座ってからというもの。

さぁ飲め、と言わんばかりなユフィからね。


グラスに並々と注がれたワインは、こういう場で、しかも注いだのがユフィだからもそう。

軽く一口だけ飲んで、それでグラスを置くなんてことは、雰囲気的にも。

あとは、これが外交の一環という事も含めると。

簡単にはグラスを置けなかったのよ。


なのに、ユフィときたら。

そんな事くらいは理解り切った、不敵な微笑が。


『今宵は無礼講なのだ。注いでやるから、たらふく飲め』


ユフィはね。

ホント、こういう所が、カーラそっくりな、性悪女なのよ。


そのせいで、私は可愛い息子から。

カーラの名まで出されて、そうして、(たしな)められたのでした。


さっきのは、という次第でもあるんです。


だけど、そこからは私も、もう十分頂いたのだからと、グラスを置きました。

ユフィも、フェリシア様からの暗な窘めの後は、ワインボトルをテーブルへ戻したわ。


まぁ、ね。

そこからは、ボルドー宰相の企ての件もそう。

特に、シレジアを強引に帝国へ帰属させようとして。

そのために、冤罪を着せてまで取った人質のことは、ユフィの口から聞くまで。


ヘイムダル帝国内では、今も事件それ自体が、全くと言っていいくらい、知られていなかった。


この事は、私だけでなく。

フェリシア様とカズマ殿にも良い印象を与えなかったわ。

それこそ、明日か明後日には来られるスレイン先生やハルムート宰相も、この件を知れば、同じく良い印象は抱かないでしょう。


「シルビア。人質となった学生達だが。正規の刑務所には入っていない。そこは調べ尽くした。それから今も、私の方で探っているが。移動の痕跡が拾えなかった以上。帝都の何処かにいるのは間違いない。恐らく宰相の屋敷内ではあるのだろうが。そこは私の身分や肩書でもな。父である皇帝の許可が出なければ。強行突入も出来ぬのだ」


あんた、昔は帝都を強襲したくせに。

よく言うわよ。


「そう。でも、ユフィの話だと。帝国では報道機関も機能していなさそうね」

「そうだな。お前の国やローランディアの様な報道の自由が。此処では毛ほどにも認められていない。だが、それくらいも今更だろう」

「ま、そうよねぇ。だから期待しているわよ。次期皇帝様♪ 」

「フンっ。私がその座に至れば。先ずはシルビア。留学中、そこでお前にされた全てを。暴露してやろう」

「ちょ、ちょっと。それは待ちなさいよ」


私、これで口にワインが入っていたら。

それはもう盛大に噴いていたわよ。


「なんだ。私がお前に挑んで。それで一度も勝てなかった事実を。ここでは現実の戦場を知らぬ。そんなボンクラどもの書いた飾った情報がな。そのせいで、私は。常勝等とも持て(はや)されているのだ。いい加減鬱陶しいからな。そこで知らしめようと思っている」

「あはははは・・・・。苦労しているみたいね。けど、別に自分の恥を晒すことも無いんじゃ」


はぁ・・・・

まったく、ホント、心臓に良くないわよ。


「そうだな。だが、恥と言えば。お前の無節操で悪辣な指・・・の方が。大衆にはウケるのだろうな」

「!?」


結局ね。

今じゃ、条約機構の総会で会うくらいしか機会のない。

帝国に居る二人の親友の、その一人のユフィから。


私は、可愛い息子が、今日知り合った女の子の手を引いて戻って来るまで。

散々、弄ばれたのでした。


ユフィはね。

ホント、性悪な、いい性格しているわ。


-----


私は息子からの報告で、その時には自分の言葉で証言した、アリサさんの受けた辱めについて。

けれど、私個人には、これが帝国の内部事情もある。

だから、この件は、それをフェリシア様やカズマ殿でも。

迂闊には介入出来ないくらいを理解っているのよ。


まぁ、私達は、そういう立場もあるけれど。

でも、せめてね。

私達三人は、だからシュターデンさんを呼ぶと、私とフェリシア様の間に椅子を一つ。

そうしてアリサさんを、その椅子へ座らせました。


こうすることで、アリサさんに赦されざる悪戯をした馬鹿な連中には、十分な牽制にもなった筈。


なんだけどねぇ。

事件を知ったもう一人。

それこそ、こっちは次の皇帝様はね。


ホント、やることなすこと、で、今回も行動が速かったわ。


ユフィは、自ら皇帝の傍へ行くと、そこで何かしら話し込んで。

けど、直ぐに戻って来ると、間違いなく、良くない何かを企んでいる・・・・不敵な笑みがねぇ。


『シルビア。その娘の件だが。せっかくだからと許可を頂いた。今宵の余興にしてやろう』


やっぱり、悪巧みだったわねぇ。

最初、直感でしかなかったけど。

それは直ぐ、現実になったわ。


そうして、そこから始まった余興はね。


可愛い我が子は、ホント、今日も鮮やかに。

それでいて、見ているこっちがスカッとするくらい。

実に容赦なかったわ。


最初は、アスランが一人でね。

それで十八人と決闘することに、不安も顔に出ていたアリサさんも。


『凄い。あいつ、あんなに強かったのね』


母さんは、ちゃぁんと見ていました。

アリサさんの瞳は、それはもう貴方だけを、途中からずっと追いかけていたわ。


ホント、うちの子は鈍感なくせに。

でも、ちゃんとモテるのよねぇ。


もしかして、こういう所が父様と、あの人の遺伝なのかも・・・・ね。


アリサさんを虐めた馬鹿な子供達は、こうして私の可愛い息子が、きっちり仕置きしたのでした。


ところがよ。

それで、今度は何を思ったのか。

あのユフィがアスランを背後から突然、斬りつけるなんて。


園遊会の空気は、それでもう、余興どころじゃなくなったわ。


-----


「おい。ちょこまかと逃げるしか能がないのか」


獅子皇女様は、一向に(かす)りもしない事へ。

今の声からしても、苛立っているくらい。


ホント、この皇女様は分かり易かった。


「失礼ながら。皇女様のは、負け犬の遠吠えにしか。聞こえませんね」

「・・・んだと。おい、クソガキ」


はぁ・・・・ナニ、こんな馬鹿でも、引っ掛からないような挑発に。

まさか、乗っちゃったわけ。


ちょろい、も思った皇女様はねぇ。

此処からが怒涛でしたよ。


だぁっ!!とか。

せいやぁっ!!とか。

くらえっ!!とかもね。


そうそう、長いけど、『くたばれ、このクソガキ!!』ってのも、あったね。


ですが。


「吠えた割に。なんですか。僕を馬鹿にしているんですか。まさか、一太刀も。当てられないなんて。はぁ~~~~~~」


ええ、そうですよ。

ユミナさんのを、見様見真似で、それもね。

自分じゃ、駆動を使って真似ているだけで。

だから、本物とは似て非なるも・・・・分かっているんだよ。


要するに、僕はその程度で。

もう怒り心頭で、気合だけが空回りの。

ただ、こうなると、獅子皇女様でも、動きが一層短絡的にね。

やっぱり、そうなってしまうらしいねぇ。


上段>横薙ぎ>突き>斬り上げ・・・・・って、同じ動きだけを繰り返す。

貴女、有名な獅子皇女様ですよね。

馬鹿ですか。


だけど、この皇女様は、それで体力だけはね。

ホント、ハンスさんと良い勝負も思ったよ。


-----


私の名前は、アイナ。

父は、ギュンター・シベリウス・アルハザードで、私が生まれるよりも、前なのだが。

当時は二十歳ながらに恋人も無し。

まぁ、この辺りはな。

父上とは幼馴染だった、母上から聞いたのだ。


母上は、その頃の父上を、『剣術馬鹿』と、そう言って。

剣以外には、何の取柄も無い父上を、いつも笑っていたそうだ。


だが、父上は二十歳の時に、私も十五になったら挑戦しようを抱く獅子旗杯で。

激闘の末、名誉ある優勝を手にした。


優勝した父上は、皇帝陛下より、獅子心皇帝様の御旗と、伯爵位も頂くと。

領地も治める身分へと至ったのだ。


まぁ、簡単に言えば。

治める領地を与えられた貴族、その仲間入りをしたのだな。


伯爵となった父は、途端に見合いの話が、数え切れぬほど押し寄せた、も母上から聞いている。

それで、どうなったのか。


そこは、もう今更であろう。

父上は、幼馴染の母上へ求婚したのだ。

求婚された母上も、だから、こうして私が生まれたのだぞ。


それから、娘の私だが。

今年の誕生日が来れば、ようやく七歳になる。


両親が共に、同じ色の髪と瞳をしているから当然なのだが。

そういう訳で、私の髪と瞳は青い。

しいて言うならば、肌の白さ。

これは母上からの賜わりものと言えよう。


因みに、父上の様な剣の使い手を目指す私は、その父上から直々に手解きを受けている。

今年の誕生日が来れば、習い始めて、ちょうど一年になるな。


私の生まれは、父上が皇帝陛下より頂いた領地。

そこに在るハルシュダートという町で、中央の都会と比べれば、田舎も田舎であろう。

なにせ、周りは森と山々と、後は大きな湖しか、ないのでな。


だが、私は、生まれ育った故郷を、ハルシュダートが一番大好きなのだ。


ハルシュダートは、帝都から南東側にある。

広大な帝国領を記した地図で見れば、ハルシュダートもまた、帝都を中心とした中央側の土地なのだが。


とは言え、移動には帝都から。

そうだな。

帝都からだと、半日は掛かるまい、くらいであろうか。


田舎ゆえに、空港は無いが。

私が生まれた後で、ハルシュダートの町にも、鉄路が届いたのだ。

それで、都会の様な立派な駅とは、比べるも無いが。

山紫水明が良く似合う田舎町に相応しい、風情ある木造の駅もある。


だが、これと言った産業があるわけではないし。

先ず、緑豊かな大自然と山々に囲まれた中で、広大な湖の(ほとり)に在る、居心地の良い町くらいを知って貰えれば、と思う。


そうだな。

湖の畔に在る町だから。

時期によっては、朝霧や夕霧が町を完全に覆い尽くす。

まぁ、数日間ずっと霧に覆われる時もあるぞ。


そのせいか、此処へ訪れた者達の多くは、その光景を目の当たりにして。

幻想郷(● ● ●)等とも評しておる。

特に観光地でもないのにな。


敢て言うなら、そう、秘境のような所だろう。


そんなハルシュダートではあるが、この町で暮らす者達は、皆、心が温かい。

日々の糧は、自然豊かな山へ、山菜採りや狩猟。

他にも湖へ漁に出る者達も多い。

農耕に適した土地は余りないが、まぁ、交易で何とかなっておるよ。


すまぬ。

つい、故郷の話ばかりになってしまったな。


だが、私は生まれてこの方。

否、今日初めて。

帝都セントヘイムへ来た田舎娘なのだ。


そのせいか、どうしても舞い上がっておる。

帝都とは、都会とは、こういうものなのか・・・とな。


ましてや、皇帝陛下の別荘とも聞いている、このサンスーシ宮殿など。

この様な荘厳にして威容漂う宮殿へ、足を踏み入れた事も、それとて、今日が初めてなのだ。


実は、私は父上の功績があるからこそ。

此度はサンスーシ宮殿へ、来ることが出来たに過ぎぬ。

言わば、付録の様なものだな。


私の父上は、頂いた領地に屋敷を構えると、傍にアルハザード流の道場を開いたのだ。

そうして、今では多くの門下生を指導している立場にもある。

それこそ、領主としての仕事よりも熱が入っておるのだ。

此処は少し、問題であろうがな。


今年の獅子旗杯には、先ず各地方で行われた予選会。

父上の弟子達は、この予選会で、特に優れた成績を収めた数名が、故の獅子旗杯出場資格を得ると、明後日からの大会には、父上も、その雄姿を見ようとな。


他にも、父上の様な、過去の獅子旗杯での優勝者は、以降の獅子旗杯における審判など。

そうした仕事を務めるのが慣例らしい。


だが、今年は育てた弟子達が参加する。

そのせいか父上は、頗る楽しみだと言っておったよ。


私は、そんな父上に連れられて、優れた者達が高みを競う雄姿を。

ただ、見るだけでも糧になると、そうも言われたのだ。


長々と語ってしまったが。

要するに、私は、今年の獅子旗杯を、見学に来たのだ。


ところが。

皇帝陛下が催す今宵の園遊会で。


私は、見たところ歳近い異国の、一見すると女子にも映った男子が、かの獅子皇女と謳われるユフィーリア様を相手に。

その男子は、獅子に違わぬユフィーリア様の剣戟をことごとく。

まるで優雅に踊っているのではと、そうとしか見えない身のこなしへ。


「父上。私も修業を積めば。あの男子の様に至れるでしょうか」


私は、父上に尋ねながらも。

美しい剣舞で、猛々しい剣戟を、それはまるで、風に揺れる柳の様な軽やかさで躱す、その様へ。

こんなにも心を震わされたのは、これも、生まれて初めてだった。


まぁ、なんだ。

最後の方の、デザートのケーキが食べられなかった。

対戦している最中に、突然、叫んでだ。

そこからガックリと両膝を着いた、だが、見て分かるほどの気落ちからは、余程そのケーキが食べたかったに違いあるまい。


まぁ、気持ちは分らんでもないがな。


しかし、食い物の恨みは恐ろしい・・・とは、父上も母上も言っておったが。

そこから至った勝ち方には、恨みの深さも垣間見えたぞ。


それは正に、凄いも軽く突き抜けた恐ろしい技だった。

しかし、ほとほと呆れてしまったぞ。


歳近い異国の騎士殿よ。

貴殿が私に与えたこの感動は、貴殿が見せた最後の技によって、見事に砕け散ったのだからな。


-----


「おい、貴様の狙い等。とうに見えておるわ。だが、軍に籍を置いて幾多の戦場を駆け抜けた私はな。この程度では疲れなど抱かぬ。何なら、このまま幾日でも相手をしてやるぞ」


この皇女様、マジ面倒臭い。

僕は早くケーキが・・・・・・・


そもそも、背後からの不意打ちから始まっただけに。

勝っても負けても一悶着は間違いない、も考えた末の結論は、残る一択のみ。

要するに、引き分けに持ち込むことで、まぁ、此処を落とし処にする。


ただし、獅子皇女の様の性格だと。

これが一番、面倒臭い選択くらいもね。

僕は、それも最初から理解っていたよ。


獅子皇女は、事実、体力馬鹿だけあって、ホント、時間を費やされた。

それでもね。

計算外の体力馬鹿でも、無尽蔵じゃないんだよ。


その証拠に、皇女様の剣は、さっきからずっと、単調な攻めの繰り返し。

こうなって来て、初めて分かった事が一つ。


皇女様の強気な口調は、消耗する体力と反比例するらしい。


僕、一応ね、他国の騎士団長・・・・だよ。

なのに、クソとか、ボケとか、カスとか・・・・・・

あぁ、カスの表現はね。

チ○カスも罵られました。


と、まぁ・・・ね。

剣を一度も当てられない皇女様の苛立ちは、代わりに言葉で叩き付けられる。

ですが。

さっきも言ったように、体力は無尽蔵じゃないんだよ。


だからさ。

僕の動きに最初から此処まで、散々振り回された足腰は、本人の性格とは違って、素直だったよ。


特に、膝周りの筋肉は、疲労の限界が近いも見て取れた。


だから、あと少し。

なんてことも抱いた僕だったのですが。


剣戟を躱しながら、その時の僕の視線が、残り四分の一しかなかったケーキの皿を映して。

それは残っていた四分の一を全部、自分の取り皿に移したアリサが・・・・・・


「ぁぁあああ”あ”あ”~~~~~~!!」


その瞬間。

僕は肺が空っぽになるほど、大声で叫んでいたよ。


僕が食べたかったケーキは、よりにもよって、パンプキン・プリンセスに最後の一口まで。

と言うか、残り四分の一の全部を、持っていかれたんだ。


けど、僕が突然叫んだせいで。

それで、獅子皇女も驚いたんだろうね。

咄嗟に間合いを外したよ。


でも、そんな事に関係なく。

僕の中に在った、こう目的と言うか、やる気の原動力が、ぽっかりと無くなった途端。

身体は、両膝をガックリと地に着けていた。


「おい。いったい、今の叫び声はなんだ」

「僕のケーキ・・・・・」

「はぁ!?ケーキ・・・だと。貴様は何を言っているのだ」


皇女の方は、未だ理解(わか)らないといった感じで、声には怒りより理解し難いがね。

ただ、僕には、それももう、どうでも良くなった。


「僕のケーキ。食べ損なった・・・・」

「貴様。たかが、ケーキ程度で叫んだのか」


完全に戦意喪失もあったよ。

だから余計にね。

僕と皇女の一騎打ちは、それを見ていた周りまで、一体何事かと、急にざわつき始めたんだ。


「お前は、たかがケーキくらいを食えなかったと。それで戦意を失くしたのか」


皇女の声は震えていたよ。

でもね。


えぇ、そうですよ。

と言うか、僕はこんな事を。

始めから、したいとも思ってなかったんだ。


それよりも、大皿に乗って出て来た時から、凄く美味しそうだったし。

どんな味なんだろうって。

ケーキの方が、食べたかったんですよ。


「ハンっ。呆れてものが言えぬな。たかがケーキごときで。その程度で戦意を失くすなど。名高いシャルフィの騎士に在って。その団長ともあろう奴が。情けない限りだ。失望も突き抜けたぞ」


人の気持ちも・・・・だいたい、お前らは揃いも揃って。


もう、なんかね。

シルビア様の事もあるし、ここはヘイムダルだし。

皇帝陛下とか、獅子皇女とか。

そもそも、パンプキン・プリンセス。


お前と関わったせいで、俺は、ケーキ食べ損なったんだぞ!!

っつうか、俺が食べる筈だったケーキ。

なんで、元凶のお前が、全部・・・・食ってんだよ。


後になって少しは反省もしたんだけど。

でも、この時の僕はね。

獅子皇女にも、アリサにも。

ぶっ飛ばす!!・・・・っていう感情しかなかったんだよ。

 

「おい・・・・誰のせいで。誰のせいで・・・俺のケーキが。パンプキンに食われなきゃいけないんだ」

「はぁ?」

「はぁ?じゃ、ねぇよ。この糞ババぁ。全部、てめぇのせいだろうが」


たかがケーキ・・・・だと。

お前は、そうでも。

俺は、心底・・・食べたかったんだよ!!


なんかね。

ホント、もうね。

外交の事とか、礼儀とか作法とか。

付け足しで、相手が皇女だからとか。


そんなの。

食べられなかったケーキに比べたら。

ホント、どうでも良いんだよ。


「ったくさぁ。こっちが、てめぇの面子を潰さないように手加減してやれば。身の程知らずが、付け上がりやがって。お前の剣なんか。止まってしか見えてないんだよ」


この時の僕は、僕がこんな目に遭った原因。

パンプキン・プリンセスもそうだけど。

自他の力量を正しく計れもしない、体力馬鹿の皇女へ。


我慢してきたものを、一気に吐き出した後。

不思議と、さっきまでの空虚がね。

今じゃ、収まり切らない別の感情が、とにかく捌け口を欲していたんだ。


ガックリと着いた両膝も、今じゃガンガン溢れ出すこの感情が、すっと立たせていた。


「たかがケーキ・・・じゃ、ねぇんだよ。おい、糞ババぁ。もう、赦さねえからな。泣かせてやるから、覚悟しろ」


何度も糞ババぁ呼ばわりされた、それで、露骨に表情が歪んだ皇女の気持ちなんかも。

もう、どうでも良いよ。


あとは、そんな非礼を口にした自分の、この後とかもね。

更には、シャルフィの騎士団長が、皇帝陛下の催す園遊会の場で、ヘイムダルの皇女へ。

だから当然、それはシルビア様にも迷惑が・・・とかもね。


この瞬間の僕には、そんな所まで気を回す余裕。

いいや、考える気も無かったんだ。


今、はっきりしているのは・・・・目の前の糞ババぁを、ぶっ飛ばす。

それだけだよ。


怒り心頭の僕の気配へ、それで剣を構えた皇女だったけど。


「俺からすれば、お前なんか。最初(はな)っから眼中に無いんだよ」


だけど、僕は、この時の僕が、それで僕自身を包むような金色のマナ粒子。

後になってティアリスから、薄っすら程度も聞いたけど。


でも、あの時は、それにさえ気付かないまま。

僕は、その時の激しく噴き出た感情を、全部、獅子皇女へ叩き付けたんだ。


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